強迫性障害column

Update:2023.07.08

強迫性障害とは

強迫性障害(OCD)は、強制的な思考やイメージ(強迫観念)とそれに対する反復的な行動や儀式(強迫行為)が特徴であり、患者の日常生活や心理的な健康に重大な影響を与える精神疾患です。

強迫性障害

目次

強迫性障害について解説

強迫性障害(OCD)は、心の疾患の一種であり、反復的な強迫観念(思考)や強迫行為(行動)が特徴です。患者は無理に思える行動や思考が頭から離れず、それに対処するために反復行動や儀式を行います。一般的な強迫観念には、清潔恐怖、疑心暗鬼、数える行為、運の悪さなどがあります。 強迫性障害は生活や日常の機能に深刻な影響を与えることがあり、不安や苦痛を引き起こすため、日常生活における集中力や人間関係にも悪影響を及ぼします。 強迫性障害の原因はまだ完全に解明されていませんが、遺伝的な要因や神経生物学的な異常、環境要因やストレスが関与していると考えられています。 強迫性障害の治療には、薬物療法と心理療法の組み合わせが一般的に使用されます。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬が強迫観念と不安を緩和する効果があります。また、認知行動療法(CBT)は、強迫観念や儀式行動に対処するための技術を提供し、対応スキルを向上させることで効果を発揮します。 早期の診断と適切な治療により、強迫性障害の症状を管理し、日常生活への影響を軽減することが可能です。専門家のサポートを受けながら、治療計画を立て、回復を目指しましょう。

強迫性障害

自分の意に反して、つまらない考えが繰り返し浮かんできて、抑えようとしても抑えられない(強迫観念)、あるいはそのような考えを打ち消そうとして、無意味な行為を繰り返す(強迫行為)症状を強迫症状といいます。 強迫性障害は、このような強迫観念や強迫行為を主症状とする神経症の一型です。
自分でもそのような考えや行為は、つまらない、ばかげている、不合理だとわかっているのですが、やめようとすると不安が募ってくるので、やめられない状態です。 不安が基礎になっている病気なので、不安障害に分類されます。 障害有病率(一生のうち一度はかかる確率)は2.5%であり、女性のほうが男性よりも若干多く、初診時の平均年齢は31歳です。 約30%の頻度でうつ病を合併しており、その他恐怖症・社交不安障害・全般性不安障害・パニック障害などの不安障害を10%程度の頻度で合併しているので注意が必要です。

原因は何か

特別なきっかけなしに徐々に発症してくる場合が多く、原因もいわゆる心因(心理的・環境的原因)よりも、大脳基底核、辺縁系(帯状回)、前頭前野など、脳内の特定部位の障害や、前頭葉-皮質下回路の障害、セロトニンやドーパミンを神経伝達物質とする神経系の機能亢進が推定されています。 大脳基底核(淡蒼球・両側尾状核)の体積減少など脳の形態学的変化も認められます。
遺伝に関しては第一度親族に強迫性障害が見られる場合、障害発生率は10-20%となり、また一卵性双生児による一致率が60-90%と高いため、軽度の遺伝性を認めます。 小児期にA群β溶血連鎖球菌の上気道感染によるリウマチ熱発症後の後遺症として強迫性障害が生じることがあります。
また強迫性障害の人は、もともと几帳面、完璧主義、頑固、倹約家などの性格(強迫性格)の人に多くみられる傾向があります。

強迫性障害の治療方法

強迫性障害の有効な治療方法として以下のものが挙げられます。

強迫性障害曝露反応妨害法

暴露とは:
エクスポージャーといいます。強迫性障害の症状のために不安・苦痛をもたらすものに直面しても、不安・苦痛が自然に減ると言うことを学びます。

反応妨害とは:
儀式行為妨害とも呼ばれます。強迫行為をしたくなっても、あえて行わないことで、悪循環に戻らずに大丈夫であるということを学んでいきます。 たとえば、不潔恐怖の人が、汚いと思うものに実際に(ちょっとだけでも)触ってみて、苦痛や恐怖が徐々に減っていくのを体験するのが「曝露」です。 そして、その後、手を洗ったりしないようにすることが「反応妨害」です。 強迫観念と強迫行為とが組み合わさって悪循環となっている人が多いので、曝露反応妨害法として一緒に行われることが多いです。 不潔恐怖の人が、手を洗わないようにするために、不潔恐怖を感じる物に面と向かうこと自体を避けてしまうのは、回避といい、これは反応妨害ではありません。 こう書くと、これだけで怖く感じるという人や、「こんなこと私にはできない」と思ってしまう方も多いでしょう。 しかし、治療にあたっては、いきなり曝露を行うのではなく、そこに至るまでに、次のような段階をたどるのが標準的です。

① 初回の面接
治療者が医師なら初診、心理士ならインテークという初回の面接があります。そこで治療者は患者さんからの訴えを聞き、患者さんの抱えている状況について、いろいろと質問をして調べます。
② アセスメント
初回以降も何回か、さらに症状を調べます。この段階を、初期評価、アセスメントなどと呼びます。セルフモニタリングといって、自宅での症状の様子を用紙に記録してきてもらい、それを評価に利用することも多いです。
③ 心理教育
認知行動療法が適当と判断されたら、患者さんや家族に対して治療法と病気についての説明が行われます。これを心理教育といいます。たとえばエイズ恐怖の人であれば、エイズに対する正しい知識が必要なので、患者さんとのやり取りの中で、患者さんが危険を過大視しているところがあれば、正しい知識を共有できるように検討していきます。
④ 治療計画作成
治療者が患者さんと信頼関係(治療同盟)を築き、曝露反応妨害法の治療計画を協同で作成します。治療計画では、たとえば、どのような目標から曝露を始めるかを決めます。できそうなものから段階的に行うこともあれば、その人の生活に支障を来しているものに焦点を当てることもあり、ケースによってさまざまです。計画ができ、患者さんがそれに同意したら、曝露反応妨害法を行います。

 

実際には、この間に薬を併用することも多いです。また、認知への働きかけなど、他の技法が取り入れられることもあります。

曝露反応妨害法

曝露反応妨害法では、
<不安を感じる対象に直面して、強迫行為などをしなくても、苦痛や恐怖が自然と減ってくることを学ぶ>
のがポイントです。
苦痛や恐怖が自然と減っていくということには、次の2つの面があります。
1つは、1回の曝露で、不安の対象に直面しているうちに、時間とともに、そのような怖さが自然と減っていくことです。 治療計画に沿って行うので、何に直面するかは、その人の症状によって異なります。たとえば不潔恐怖の人で、地面にカバンを置けない人は、それにチャレンジして、カバンの地面についた面を拭いたりしないようにします。外のトイレが苦手な人は、今まで避けていたトイレに行ってみたりします。戸締りの確認がひどい人は、カギを閉めた後、点検をしないで過ごすという反応妨害を練習します。 また、加害恐怖のように、直接曝露ができないものでも、加害の場面を想像し、その最悪の場合をわざと考えて、強迫観念と向き合うという、「最悪のストーリー」という技法も用いられることがあります。
曝露では、強迫の症状を打ち消そうとすると、かえって苦痛や恐怖は増します。まず強迫の衝動を、しばらく共存するくらいの気持ちで受け入れます。そして、放置する感じです。そのような曝露を行い、SUDを測ります。たとえば、曝露を始めた瞬間はSUDが90だったけれど、20分後には、それに比べると70、という具合です。 このような治療法をしたからといって、すぐには不安・苦痛がゼロという状態にはなりません。ゆっくりと不安・苦痛が減ってくるのですが、SUDを使わないと、その減ってくる感覚をつかむことが難しいのです。以前、「行動療法に挑戦したが、うまくいかなかった」という方にくわしく話を聞いたら、その人の受けた治療では、このSUDを用いていなかったということがありました。 もう1つの面は、そのような曝露を何日も、何週間も行い、回数を重ねることによって、恐怖や緊張が弱まり、平気なことが習慣になっていくことです。
ただ、習慣になるには、外来で行っているだけでは回数が足りません。そこで、宿題(ホームワーク)として自宅で行い、次の外来で、結果を治療者に報告するという方法を取ることが多いです。

利用のためのポイント

曝露反応妨害法は、患者さんが心理教育によって頭で理解したことを、実際に体を動かして、その効果を体験していく感じです。車の運転を覚えるのに、学科の授業だけでは無理なように、実技が大事です。最初は誰しも勇気がいるものですが、すでに医学的に効果が確認されている治療法です

強迫性障害セルフモニタリング

セルフモニタリング(自己観察)とは、患者さんが、自分の症状などを観察して、紙に記録するものです。たとえば、専用の用紙を自宅に持ち帰って、その表に、症状のあった日時、症状の内容、苦痛の度合いなどを書きます。
この苦痛の度合いとして、主観的障害単位(SUD)がよく用いられます。最高に不安・苦痛な状態を100点、不安・苦痛がまったくない状態を0点として、それに比べたら今の状態は何点かを評価する方法です。
セルフモニタリングは、アセスメントの段階でも利用しますし、曝露反応妨害法を、自宅でホームワーク(宿題)として行う場合にも利用されます。
アセスメントの段階では、患者さんに症状に関する状況を書いてきてもらい、その結果を検討することで、治療者は認知行動療法をどのようにして始めていったらいいかなどを判断します。
セルフモニタリングの記録を元に、症状をSUDの大きさによって並べた不安階層表を作ることも多いです。これによって、曝露反応妨害法をどこから始めるかなどの治療計画を立てます。
たまに、アセスメントの段階で、患者さんが「紙に書いてきてって言われたけれど、症状のために書けない」と言い、治療がそこで止まってしまうことがあります。しかし、これは患者さんが自宅でどの症状にどのくらい時間がかかり、どのくらい苦痛かなどという状況を、治療者が知ることが、主な目的なのです。患者さんが子どもだったり、症状のために自分で書けない場合は、家族が記録してもよい場合があるので、書けない事情を治療者に話してみてください。

セルフモニタリングは、患者さんにとって、自分がとらわれていた状況を紙に書いてみることで、よりわかるようになるという効果もあります。これは、家計簿をつけてみることで、家計の状況がよくわかるのに似ています。
そして、ホームワークの段階では、次の診察日に、治療者と患者さんとでその記録した結果を見ることで、治療の進行具合を共有し、検討することができます。また、患者さんにとっては、記録を保存し、読み返すことで、症状の改善度合いがわかるので、治療への動機を持ち続ける上での励みになります。ですから、できれば自宅にコピーを保存しておくことをおすすめします。

 

EMDR (Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理)

EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理)は、最近マスコミなどでも取り上げられることの多くなったPTSD (Post Traumatic Stress Disorder:外傷後ストレス障害)に対して最も効果的 と言われて、大変注目されている治療方法です。 その他にも、パニック障害や強迫性障害、社交不安障害、全般性不安障害、うつ病、躁うつ病などへの応用も期待されています。

 → EMDRについてはこちら

強迫性障害 薬物治療

強迫性障害においては、大脳基底核(尾状核・淡蒼球・被殻)から大脳辺縁系(帯状回)、前頭前野に至る神経経路の亢進及び活動性の亢進が原因とされ、前頭前野の神経終末での脳内神経伝達物質セロトニンの作用が弱くなっていることが明らかになっています。 そこで、脳内のセロトニンの量を増加させる薬を服用することがまず優先されます。 強迫性障害の治療薬としては、抗うつ薬としても用いられているクロミプラミン(アナフラニール)があります。 クロミプラミンは、三環系抗うつ薬で、1991年にアメリカで強迫性障害にも有効であることが確認されています。 クロミプラミンは、強迫性障害には即効性があり、副作用としては、口の渇き、便秘などがあります。 また、他の強迫性障害の治療薬としては、SSRIがあります。SSRIには、フルボキサミン(ルボックス・デプロメール)パロキセチン(パキシル)があります。

SSRIは、脳内神経伝達物質のセロトニン系受容体のみに作用し、三環系抗うつ薬と比べて副作用が少ないことが特長です。 SSRIの主な副作用としては、吐き気や食欲不振など消化器系の症状が特徴です。 SSRIは効果を発揮するのに6~8週間程度かかります。うつ病で使用するときよりも多い量のSSRIを投与する必要があります。

その他、強迫性障害の治療薬として、抗不安薬が併用されることが多くあります。抗不安薬は、GABA受容体に作用し、文字通り不安を抑える作用を持つ薬で、即効性があります。 その他、タンドスピロン・クロナゼパムを用います。ドーパミン作動薬で強迫性障害類似の症状が出現することから、ドーパミン遮断薬である抗精神病薬(リスパダール・ジプレキサ・アリピプラゾール)を用いることもあります。
薬物療法に加え、暴露反応妨害法・EMDRなどを組み合わせて約2年間程度の治療を行います。 薬物治療の有効率は50%程度と低く、不安階層表行動療法・暴露反応妨害法・EMDRなどの心理療法が治療においては非常に重要です。

強迫性障害 漢方薬治療

  • 柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう):
    強迫観念や強迫行為と共に、神経質、対人恐怖、視線恐怖、人からどう思われているかという不安を伴う場合に用いられる。
    投与量は7.5mg/日
  • 柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう):
    強迫性障害からの2次性うつ病などに用いられる。
    投与量は7.5mg/日
  • 抑肝散(よくかんさん)・抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ):
    神経が高ぶりやすく、怒ってばかりでこだわりが強い人に用いる。強迫性障害に最も適した漢方薬。
    投与量は7.5mg/日
  • 甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう):
    強迫確認行為があるときの頓服として用いられる。
    投与量は7.5mg/日
  • 五苓散(ごれいさん):
    天候・湿度・飲水バランス・体内水分代謝に敏感になっている強迫性障害の患者が頭痛・頭重感・めまい・吐き気・むくみを訴える場合に用いる。
    投与量は7.5mg/日
  • 六君子湯(りっくんしとう):
    抗うつ薬を内服して吐き気の副作用が出ている場合に用いる。
    投与量は7.5mg/日