稀に生まれつき知性が高く、年齢相応ではない才能を見せる子どもがいます。数学が得意で声をかけても聞こえないほど没頭したり、芸術的な才能を発揮したりする子どもです。
このような子どものことを、「ギフテッド(Gifted)」と呼ばれます。ギフテッドは生まれつきの特性として2つの種類に分けられ、発達障害との併発が見られることが多いと言われています。
子どもがギフテッドであるかどうかを判断することが難しいですが、その子の個性を活かしてあげるためには周囲の接し方に工夫が必要となるでしょう。
ここでは、ギフテッドの特徴や診断、発達障害との違い、周囲の方々がどう接していくかなど詳しく解説します。
1. ギフテッドとは
ギフテッドとは、生まれつき知性が高く、特定の能力が突出している先天的な特性を持つ人のことを称した言葉です。子どもの頃に、周りの子どもと比較して年齢相応の能力ではないと気付き、保護者や周囲が困り感を抱くことで気づく場合が多いです。
勉強などを努力して能力を獲得した優秀な子どもではないこと、教育によってギフテッドに育てることはできないことが特徴的です。
ギフテッドは、神様からの贈り物として「Gifted」と表現することもあります。生まれつきであり、後天的に努力して獲得した能力とは異なることを知っておきましょう。
また、発達障害と診断されている子どもの中には、ギフテッドの特性がある子どもが含まれていることも少なくはありません。それぞれの特性を併せ持った子どもも多く、その子に対しての教育やサポートが難しいと言われています。
そこで、発達障害と併せてギフテッドに対する理解を深め、子どもたちに適した環境を整えてあげることが非常に重要だとされています。
2. ギフテッドの特徴
ギフテッドの子どもは、常に「並外れた集中力」「異常なほどの熱情」「感情・衝動的な障害」などの特徴と示しており、同年齢の子どもと比較して突出した才能を見せます。
その子どもの特性によっては、乳幼児期でその才能を発揮することもあれば就学時とくに小学生になってから能力を発揮することもあります。
生まれつきの特性であるため、大人になってからギフテッドと診断されるよりも、幼少期~学童期において違和感に気付き、診断されることが多いでしょう。
以下には、ギフテッドの子どもが持つ特徴を示しました。
- 言葉の習得が早い(おしゃべり、早口で話すことが多い)
- 考えを素早くまとめることが得意
- 年齢に相応しない語彙力の高さ、複雑な文章構造の理解
- 自分の考えに没頭する
- 練習することなく、基本的なスキルを習得できる
- 典型的なことに興味を示さず、独特なアイデアを持つ
- 好奇心旺盛で並外れて熱中する
- 並外れた記憶力や理解力を持っている
- 高い集中力を持ち、長時間同じことをし続ける
- 深くて激しい感情を示す
- 心と身体、知的能力の発達がアンバランスで年齢相応ではない
また、それぞれのライフステージにおける特徴や生活の困りごとなどがあります。以下には幼少期、学童期、成人期の3つのライフステージに分けて、いくつかの例を挙げて解説します。
①幼少期
幼少期においては、その子がギフテッドであるかどうか判断することが難しいですが、よく周りの大人を驚かせる状況が多いという特徴があります。
たとえば、「言語の習得が早い」「想像力に長けている」といった特性から、幼い頃から絵本を1人で読めたり細かな情報を記憶していたりといった様子に驚く場合があります。
想像力が優れており、ごっご遊びの内容に驚かされることもあるでしょう。
また、好奇心旺盛や集中力が高いことから、何時間も同じことを続けている様子を見て心配になる親御さんもいます。
感情のふり幅が深く大きい場合がありますが、幼少期の子どもはどのように表現したらいいのか分からず、癇癪や落ち着きのない行動として現すこともあるでしょう。
このような子どもの様子を見て、親御さんは「育児書などに書かれているような、成長・発達とは違う」と悩み始める時期だと言えます。
②学童期
ギフテッドの子どもや周りの方にとって、悩みや困りごとが強くなる時期がこの学童期です。小学校に入り、集団生活を送るようになると、同年齢の子どもとの関わりの中で違和感を覚える場面が多くなるでしょう。
同じ年齢の友達と話が合わなかったり、授業で習う内容が簡単すぎて面白くなかったりといった悩みが生まれます。
これは、ギフテッドの子どもが高い知能を持っていることや、ルーティン通りで周りに合わせた行動が苦手であるという特性があるからです。
テストの成績が良く高い点数が取れたとしても、集団生活において友達との関わりがうまくいかなかったり学校生活そのものに楽しさを感じなかったりすることで、通学が苦痛になるでしょう。
小学生の高学年や中学生になるにつれて、より一層個性が強くなるケースが多くあります。本人は周りの子どもとは違う自分に気付き不登校になる場合や、親御さんや学校の先生、友だちからの理解が足りず、支援クラスに通うことになる場合があるでしょう。
ギフテッドは高い知能を持つ特性はありますが、子どもの心身の発達に重要な学童期において適切な環境を整えてあげられないことは、本人の苦痛が強まります。
このように学童期は、子ども自身が友達との違いに気付いたり集団生活に苦痛を感じたりする時期だと言えます。この時期は、その子の個性を理解してあげることや本人の想いを抑え込まずに尊重してあげることが重要となるでしょう。
③成人期
学童期における周囲の方々の関わり方や得意分野の活かし方、自身の特性の受け止め方によって、成人期における生きづらさの程度が変わってくる場合があります。
ギフテッドの特性を持つ子どもが大人になっても、その特性が無くなるわけではありません。変わらず、集団生活や社会生活を送ることに困難を感じたり、自分に合った仕事でなければ働くことが苦痛に感じたりするでしょう。
成人期では、仕事をしたり家庭を持ったりするライフステージであり、他人との関わりは切っても切れないものになります。
自分の優れた能力を活かせる仕事を見つけることや、ギフテッドの特性に理解があるパートナーと出会えることが重要です。
成人期のギフテッドの場合は、自分に合った職場ではないことで、うつ状態や不安障害などの精神疾患を併発するケースも多くあります。
自らが安心して、最大限に能力を発揮できる居場所を見つけられることが大切な時期と言えるでしょう。
3. ギフテッドの種類は
ギフテッドの特性は個人差が大きく、定義することが難しいものです。ですが、ギフテッドは「英才型」「2E型」の2種類に分類することができます。
ここでは、それぞれの特徴を解説します。
①英才型
英才型のギフテッドは、特定の分野が突出して得意というものではなく、全般的に知能が高い状態のことを示しています。
記憶力や理解力、論理的思考力などの能力が高く、数学のみならず国語や社会、理科、英語、美術、体育における全ての科目で成績優秀であることが特徴的です。
周囲の方々から見ても「天性の才能」であると見られ、その才能を活かすために周囲が環境を整えやすいとも言えます。
英才型のギフテッドは、周囲からの協力が得られやすい環境で過ごせることが多く、より一層才能を発揮できるようになるでしょう。
②2E型
2E型のギフテッドは、ギフテッドの特性だけではなく発達障害の特性も併発している状態のことを示しています。
数学や芸術、スポーツなど、ある分野で突出した才能を現す一方で、国語の読解や英語理解など苦手な分野においては、非常に苦手な傾向を示すことが特徴的です。
2Eは、「twice-exceptional」のことを言い、「二重に特別な」「二重の特別支援を要する」といった意味を持つ言葉です。
つまり、ギフテッドと発達障害の両方に対する支援が必要な状態であるということです。他にも、「発達に凸凹がある」という表現も使われることがあります。
2E型のギフテッドは、ある特定の突出した能力を持っているにもかかわらず、発達障害の特性であるネガティブな印象や苦手な分野が強調されてしまいます。
そのため、ギフテッドとしての才能に気付かれることなく生活し、発達障害を持つ子どもとして支援を受けるケースが多いことでしょう。
親御さんや学校の先生が気付かないだけではなく、本人自身でも気付かないという場合もあります。
4. ギフテッドの定義・診断
ギフテッドは、世界共通の定義がありません。アメリカではギフテッドの研究や教育が盛んに行われていますが、日本ではなかなか理解が進んでいない現状があります。
①ギフテッドの定義
主に、ギフテッドと診断される目安としては、「IQが130以上であること」「特定の分野で能力が突出していること」が挙げられます。
平均的なIQは100であり、IQ70~130の範囲に約95%の人が当てはまります。ギフテッドはIQ130以上あり、人口の約2%が含まれると考えられています。
また、ギフテッドの原因には遺伝要因が大きいと言われていますが、はっきりとした原因は明確になっていません。
ギフテッドは、「知能」「創造性」「特定の学問」「芸術性」「運動能力」「リーダーシップ」の6つの領域において、突出した得意分野があることが特徴的です。そこで、ギフテッドを診断するためには多角的な方面から、その人自身を見ていく必要があるでしょう。
②ギフテッドの診断
ギフテッドの診断として用いられる検査には、主に知能検査があります。その中でも、特に「WISC-Ⅳ(ウェクスラー式知能検査)」と「QEEG検査」の2種類が用いられます。
WISC-Ⅳ(ウェクスラー式知能検査)は、総合的なIQと併せて「言語理解」「知覚推理」「ワーキングメモリー」「処理速度」の4つの項目を測定する検査です。
子どもの得意・不得意の分野を発見でき、同年齢の子どもと比較して突出した領域からギフテッドを診断する1つの目安となるでしょう。
QEEG検査は定量的脳波検査とも言われる検査で、脳波を測定することで、平均よりも活性化している脳の部位を可視化されることで診断できます。医師の問診と併用して、ギフテッドの程度を把握することが可能です。
これらの2つの検査は、発達障害の特性や得意・不得意の分野を把握するための1つの目安となる検査であり、ギフテッドの診断でも用いられます。
ただし、ギフテッドの特徴として算数・数学などの学習面において能力が突出している場合は、IQなどで図ることはできますが、人の知能はIQだけで図ることは難しいでしょう。
創造性や芸術性、運動能力などはIQだけでは診断できません。個人差も大きいため、その子自体を見て診断する必要があります。
5.ギフテッドと発達障害の違い
ギフテッドと発達障害は、定義や障害の特徴などが異なる概念です。これらには相違点はありますが、共通する点が多いことが特徴的です。
そのため、ギフテッドに関する理解が乏しい場合や発達障害の特性が強く現れている場合では、ギフテッドと診断されないことが多いでしょう。そして、ASDやADHDといった発達障害と誤診されてしまい、適切な環境を提供できずに本人・周りの方々が生活のしづらさを感じる状態となります。
ギフテッドだけの特性が見られる子、発達障害だけの特性がある子と2つに分類されるのではなく、それぞれの特性が併発しているケースも多いということです。
そこで、ギフテッドと発達障害は別の概念であっても共通点があり、その子がどちらの特性を持つのか診断することが大切になります。
以下には、ギフテッドと発達障害の共通点や相違点についてまとめました。
【ギフテッドと発達障害の共通点】
- 好きなことや興味があることに対して、高い集中力を発揮する
- 人が気にしないような細かい部分まで気になり、解決しないと気が済まない
- 論理的思考を持ち、深い部分まで考える
【ギフテッドと発達障害の相違点】
特徴
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相違点
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他人の感情を汲み取る
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ギフテッドは得意、発達障害は苦手
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リーダーシップ
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ギフテッドは得意、発達障害は苦手
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ルーティン
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ギフテッドは苦手、発達障害は得意
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運動
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ギフテッドは得意、発達障害は苦手
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こちらに挙げた共通点や相違点は1つの目安となる特徴であり、それぞれの特性は個人差が大きいと考えられます。
そのため、明確に診断を分けることが難しいケースが多いでしょう。
そこで、「ギフテッドだから~しなければならない」「発達障害だから~しなければならない」と決めつけず、その子の個性を尊重することが大切となります。
6. ギフテッドの子どもへの関わり方
「英才型」「2E型」どちらのギフテッドである場合でも、その才能を活かして過ごすためには周りの関わり方が非常に重要となります。
特に、その子の得意なことを優先的に伸ばし、苦手な分野を人並みにする関わりが大切です。発達障害を併発しているギフテッドの場合は、コミュニケーションなどの苦手なことにより生活に大きな支障を来すこともあります。
それらの苦手を日常生活において大きな障害にならないように、サポートしていくことが必要です。
では、ご家庭でどのような接し方が良いのか、いくつかのポイントに絞ってご紹介します。
①いろいろな物事に触れる機会を与える
ギフテッドの場合は、得意なことや不得意なことが分かれています。いろいろな物事に触れる機会を設け、どんな分野に興味・関心があり得意なのか見つけてあげることが大切です。
そのためには、いろいろな場所に行ったり芸術に触れさせたり、好奇心を刺激できる機会をたくさん作りましょう。
お住まいの地域によっては、ご自宅の周辺に好奇心を刺激できるような環境が少ない場合もあります。しかし、今はどのような情報でも手に入る時代です。インターネットや書籍などを通して、様々な経験と情報を与えられるよう工夫してあげましょう。
②興味のある分野において限界を作らない
ギフテッドの子どもにとって、興味があること追求したいことを妨げられることに苦痛を感じてしまいます。
学校生活においては子どもたちが足並み揃えて集団で行動することが基本であり、このような環境下ではギフテッドの子どもの特性は抑えられるケースが多いです。
そこで、学校生活以外の場においては、その子の興味関心をとことん追求できるような環境を整えることが大切です。
子どもによっては、大人が想像しないことにこだわりを持っていたり、熱中して長時間継続したりすることがあるでしょう。
そのような場合は、子どもの話を聞いたり限界点を作らないように見守ってあげたりすることで、その子の得意をより伸ばすことにもつながります。
③個々の特性に合った学習環境を整える
ギフテッドの子どもの中でも、発達障害を併発している場合は、子どもによって強く現れる特性が異なります。
特に、認知機能において偏りが見られることが多いでしょう。
ギフテッドの特性である得意な分野を伸ばすためには、発達障害における個々の特性も重視した環境を整えてあげることが大切です。
そのような環境下で子どもが日常生活を送ることで、苦手の程度を抑えることができたり、得意な分野をさらに伸ばしてあげたりできるでしょう。
④本人が安心できる居場所を作る
ギフテッドの子どもは、周りの友だちと話が合わないことから、対人関係に苦痛を感じてしまうことや否定されてしまうことがあります。
学校の先生からも理解されにくく、強制的に集団生活を送らされているケースもあるでしょう。
このような環境の中を過ごすことで、過度なストレスを抱えてしまい、本人にとって良い影響とならない場合が多いです。
そこで、親御さんは子どもの特性を理解してあげて、その興味や好奇心にとことん付き合ってあげると良いでしょう。
家庭は自分の安心できる場所だと心から感じてもらうことで、本人の苦痛が和らぎ、のびのびと得意なことを発揮できるようになるでしょう。
7. まとめ
ギフテッドの特性を持つ子どもは、その才能に気付き、個々に合った環境を提供してあげることで、途轍もない才能を発揮できることが魅力だと言えます。
しかし、発達障害を併発している場合はギフテッドの特性に気付かないケースも多いことでしょう。
どのような状況でも、子どもが得意な分野や興味があることに対して、周りの大人たちは理解を示して特性が活かされるように環境を整えてあげましょう。
ギフテッドの子どもが持つ才能を最大限に発揮できるよう、その子自身の姿をしっかりと見つめ、個々に合わせたサポートをしていくことが大切なのです。