アスペルガー症候群column

Update:2024.03.21

アスペルガー症候群とは

アスペルガー症候群(AS)は、オーストリアの小児科医ハンス・アスペルガーによって名付けられた自閉症スペクトラム障害(ASD)の一形態です。ASは、社会的相互作用やコミュニケーションに困難を抱え、狭い興味や反復的な行動を示す特徴を持ちます。

アスペルガー症候群

目次

アスペルガー症候群について解説

アスペルガー症候群(AS)は、オーストリアの小児科医ハンス・アスペルガーによって名付けられた自閉症スペクトラム障害(ASD)の一形態です。ASは、社会的相互作用やコミュニケーションに困難を抱え、狭い興味や反復的な行動を示す特徴を持ちます。

アスペルガー症候群疫学的頻度


全世界の発生頻度

アスペルガー症候群及びその他の自閉症スペクトラム障害(ASD)の発生率は国によって異なり、0.5%から0.8%の範囲にある。少なくとも250人に1人がアスペルガー症候群の特性を持っていると推定されている。この割合は、1万人の人口につき26人から48人のアスペルガー症候群患者が存在することを意味する​。
狭い意味でのアスペルガー症候群の発生頻度は約4000人に1人とされていますが、知的な遅れがない広い意味でのアスペルガー症候群は自閉症よりも多いとされています​。

全人口に占める割合

アスペルガー症候群を含む自閉症スペクトラム障害の発生率は、人口の1~2%と報告されています。日本の最新の研究では、この割合が3~5%程度とも示されています​。

性別による違い

アスペルガー症候群の発生は男性に多く、女性の約4倍とされています。また、女性の場合、社会的困難が目立たないため、症状が過少評価される可能性があります。

精神疾患との関連性

アスペルガー症候群の患者の中には、約70%以上が1つ、40%以上が2つ以上の精神疾患を持っているとされています。知的障害やADHD(注意欠陥・多動性障害)、発達性協調運動症や学習障害が併存することがあります​。

アスペルガー症候群の発症要因

1. 遺伝要因

アスペルガー症候群は先天的な障害であり、遺伝的要因が大きく関与していると考えられています。研究によると、二卵性双生児がASDを発症する確率は約10%に対し、一卵性双生児の場合は60〜90%と非常に高い確率で発症します。これは、遺伝的要因がASD発症に大きく寄与していることを示しています。

しかし、ASDの原因となる特定の遺伝子はまだ明確には特定されていません。ASDの人々の遺伝子分析により、特定の遺伝子の変異や同じ遺伝子の複数の存在、遺伝子の欠如などが見られることがありますが、これらの遺伝的変異が必ずしもASDを引き起こすわけではありません。たとえASDに関連する遺伝子の変異を持っていても、必ずしもASDになるわけではなく、発症には他の要因も関与していると考えられています​。

2. 外部環境要因

遺伝以外の要因として、外部環境がASDの発症に影響を与えることが指摘されています。環境汚染はその一例であり、水銀やニッケルなどの環境汚染物質がASDと関連しているとされています。特に水銀にさらされやすい環境ではASDの確率が増加するという研究もあります。ただし、どの時期に環境汚染にさらされると発症の原因となるかは明らかではありません​。

また、妊娠前から受精後1ヶ月程度の間にビタミンの摂取が極端に低かった母親は、そうでない母親に比べ、ASDの子どもを産む確率が高いとする研究があります​。

このことから、母親の栄養状態が胎児の発達に影響を与え、ASD発症のリスクを高める可能性が示唆されています。

3. 生活習慣要因

両親の年齢がASDのリスクに影響を与えることも明らかになっています。特に、父親の高齢化が子どものASD発症のリスクを高めるという研究が増えています。これは、年齢が上がるにつれて精子の遺伝的変異が増加する可能性があり、これがASDのリスクを高める要因となると考えられています。両親の年齢が高い場合、子どもに何らかの疾患を発症する確率が全体的に高くなるとされており、ASDに関しても同様の傾向が見られます​

アスペルガー症候群の発症要因には、遺伝的要因、外部環境要因、生活習慣要因が複雑に絡み合っていることが分かります。遺伝的要因はASDの発症において重要な役割を果たしていますが、特定の遺伝子が直接的な原因となるわけではなく、発症には他の要因も関わっています。一方で、外部環境要因として環境汚染や母親の栄養状態が影響を及ぼす可能性があります。また、両親の高齢化もASDのリスクを高める要因として考えられています。

アスペルガー症候群の症状

  • 社会参加の困難
  • コミュニケーション障害
  • 限定的な興味や行動

年齢によってこれらの特徴の表れ方に違いがあります​。

  • 乳児期
    視線を合わせない/あまり笑わない:母親や他者との視線の交換が少なく、笑顔の表出も少ない。
    特定の物への強い興味:例えば、同じおもちゃで長時間遊ぶ、特定の本のページをずっと見つめるなどが挙げられます​。
  • 幼児期
    一人遊びが多い:他の子どもたちとの交流に参加しない。
    独特のコミュニケーション:一方的な会話、相手の言葉をオウム返しにする、同じ言葉を繰り返すなど​。
  • 小学校時代
    協調性が低く、孤立する:他の子どもたちとの交流が難しく、孤立することが多い。
    得意・不得意が極端:特定の教科や活動において顕著な差が見られる。
    体育の苦手:手先の不器用さや細かい動作の苦手さが原因で運動が苦手となることがある​。
  • 中高生時代
    友達ができない/不登校の問題:社会的なスキルの欠如により、友人関係を築きにくい。
    苦手分野の学習困難:特定の教科や活動に対して極端な困難を示す​。
  • 成人期
    マルチタスクの困難:物事の優先順位をつけることが難しく、複数の仕事を同時に進めるのが苦手。
    コミュニケーション障害:職場などでの人間関係構築が困難​。

アスペルガー症候群を持つ人々は、感情の反応の強さが非アスペルガーの人々と同等か、場合によってはそれ以上であることがありますが、反応の対象は異なることが一般的です。彼らの苦手とする分野は、「他者の感情を理解すること」と「言葉やジェスチャーの背後に潜む意味(非言語的コミュニケーション)を把握すること」にあります。それにもかかわらず、手話のように視覚的情報から理解することは可能なため、身体的な動きの微細な意味を理解し、即座に判断する能力を持つことができます。

例えば、宿題を忘れたことを問いただす際に教師がアスペルガー症候群の子供に「犬が宿題を食べたの?」と尋ねた場合、その子は沈黙してしまうことがあります。この時、教師の表情や声のトーンから隠れた意図を理解できないため、自分が犬を飼っていないこと、普通犬が紙を食べないことを説明すべきかどうかを深く考え込むことになります。その結果、教師は子供が宿題を避けようとしているか、反抗的だと誤解する可能性があります。

アスペルガー症候群の子供たちは、言われたことを文字通りに受け取る傾向があります。これは、彼らが「言葉の表層的な意味」や「表現の仕方」を十分に理解していない、または抽象的な表現に満足できない性質が関係しています。そのため、彼らの行動や反応を正しく理解するには、長期間の関わりが必要です。

成長において、親や教師が過度に極端なアプローチを取ることも問題となります。例えば、「テストの点数はそれほど重要ではない」と過度に励ますことや、逆に「テストで良い点を取らなければ報酬がない」と厳しく言い聞かせることなどです。このような極端な教育は、子供が現実的な基準から離れた考え方を持つリスクを高めます。さらに、子供が非現実的な目標を立てた場合、親や教師がほとんど協力しない態度を取ることも、子供の非現実的な考え方を強化する原因となり得ます。

アスペルガー症候群の人々は、「大人の言葉には誇張が含まれている」という概念を理解しにくく、もし理解してもその程度を判断するのが難しいです。その結果、発言者の言葉を文字通りに受け取り、意図した以上の反応を示すことがあります。しかし、状況に応じた適切な反応を見極めることも彼らには必要です。職場でのコミュニケーションでは、「報告・連絡・相談」の際、彼らは情報を原語のまま伝えることを避け、自分の解釈を加えることがありますが、これが現実離れしていると見なされることもあります。

アスペルガー症候群の人々は、自我同一性の獲得が難しいとされ、過去からの自己の連続性を感じることが困難です。これにより、極端な思考や被害妄想、対人恐怖を抱えることがあり、時には精神状態が混乱し、統合失調症と誤解されることもあります。

非自閉症の人々(NT:neurotypical, 典型的な精神の人)は他者の仕草や雰囲気から多くの情報を読み取ることができますが、アスペルガー症候群の人々にはこの能力が欠けています。彼らは他人の微笑みを見ることはできますが、その微笑みが何を意味しているかを理解するのは難しいです。多くの場合、「行間を読む」ことは困難です。最悪の場合、彼らは対人コミュニケーションにおいて、表情を読み取ることができません。その結果、人が口に出して言葉で表現しない限り、相手の意図を理解することができません。しかし、ボディーランゲージを通じて相手に伝えることは可能です。

学校などでは、彼らの独特な振る舞いや言葉使いがいじめの原因となることがあります。このため、教育現場ではサポート体制の確立や、他の子供たちへの理解を深めるような取り組みが必要です。

「アスペルガー症候群」というカテゴリーに属していても、その障害の程度は人によって大きく異なります。一部の人々は軽度で、学校の友達とうまく話せることもありますが、中度から重度の障害を持つ人もいます。この障害は、一見すると「定型発達者」と見られがちですが、そのために必要なサポートが遅れることが問題です。

また、身近な例としては、「留守番を頼まれて、誰が来ても開けてはいけない」と言われた場合、文字通りに解釈して、たとえ親が帰宅しても開けないという問題が生じることがあります。

アスペルガー症候群のもつ強い集中力

アスペルガー症候群の特徴の一つは、特定の興味に対して非常に強い集中力を示すことです。たとえば、彼らは1950年代のプロレス、アフリカの独裁政権の国歌、マッチ棒を使った模型作りなど、社会的な流行や一般的な関心から独立した独特の興味を持つことがあります。これらの対象に対する彼らの関心は、一般的な子供たちが持つ興味とは異なり、非常に強いものです。アスペルガー症候群を持つ人々は、関心のある対象について大量の情報を記憶することがよくあります。

彼らは順序性や規則性を持つものに強く引かれる傾向があります。これらの関心が物理的または社会的に有益な仕事に結びつけられた場合、彼らは成功する可能性があります。例えば、幼い頃からコンピューターに深い関心を持った子供は、成人して優秀なプログラマーになるかもしれません。反対に、予測不可能な事柄や非論理的なものは彼らにとって避けるべき対象です。

アスペルガー症候群の人々の興味は長期にわたることもあれば、急に変化することもあります。しかし、通常は特定の1〜2つの対象に強い関心を持ち続けます。彼らは興味の追求の中で、高度な知性や頑固な集中力、細部に至るまでの詳細な記憶力を発揮します。ハンス・アスペルガーは、自分の若い患者を「小さな教授」と呼んでいました。これは彼らが自分の興味のある分野に関して、大学教授のような詳細な知識を持っていたためです。

しかし、一部の臨床家はアスペルガー症候群の人々がこれらの特徴を持つことに異議を唱えています。例えば、WingとGillbergは、彼らが持つ知識はしばしば表層的で、深い理解に欠けることがあると主張しています。このような見解は、Gillbergの診断基準を使用した場合でも、診断とは関係がありません。

また、アスペルガー症候群の子供や大人は、自分の興味のない分野に対する忍耐力が低いことが多いです。彼らはしばしば、自分の興味のある分野では非常に優れているにもかかわらず、日常の宿題には関心を示さず、「非常に優秀な劣等生」と見なされることがあります。また、彼らの興味は他人が想定するものとは異なることがあります。例えば、数学に興味があるが、特定の数学の問題には興味が持てない場合などです。一部の子供は手書きに困難を感じることがありますが、他方で競争を楽しんで学業成績を上げる子供もいます。

アスペルガー症候群の成人は、学校では優秀な成績を収めることが多いものの、職場での適応障害を経験することがあります。これは彼らのコミュニケーションの特異性、空気を読むことの困難さ、一方通行の会話、あいまいな指示の理解が難しいこと、急な変更への対応の苦手さ、細部への過度な集中、全体像の把握の困難さなどが原因です。

社会への適合性

アスペルガー症候群を持つ成人は、しばしば知能が平均以上で学業成績も優れているにもかかわらず、職場での適応上の問題を経験することがあります。これは主に彼らのコミュニケーションの特性に起因しており、空気を読むのが難しく、対話が単方向になる傾向があるためです。また、彼らは曖昧な指示を理解しにくく、物事をはっきりさせることを好み、一般的な社会常識に欠けることがあります。複数の仕事を同時に行うのが難しく、急な変更に対応するのが苦手で、細かい部分に注意を集中しすぎて全体の概観を把握するのが困難です。

感覚の過敏さ

アスペルガー症候群の人々は、他の感覚的、発達的、あるいは生理的な特異性を示すことがあります。例えば、幼少期には細かな運動能力の発達に遅れが見られることが多く、特有の歩き方や手足の動き(常同行動)を示すことがあります。これには、不規則な歩行や手を振る動作、指や手の衝動的な動きなどが含まれ、時にはチック症と共存することもあります。

また、アスペルガー症候群の人々はしばしば感覚的な過負荷を経験します。彼らは音や匂いに敏感であり、身体的な接触を嫌うことがあります。大きな音声や頭部や髪に触れられることを嫌がる人もいます。過敏な反応により不眠を訴えることもあります。特に子供の場合、教室の騒音などが耐え難いことがあり、学校生活においてこれが問題を複雑にすることもあります。また、言葉やその一部を反復するエコラリアという症状を示すこともあります。

宮尾益知はアスペルガー症候群における感覚面での特徴として、わずかな態度や言葉に深く傷つきやすく、それがトラウマになること、幻覚や妄想に近い固執、過去のトラウマからのフラッシュバックによる過剰反応、極端な真面目さによる脆弱性などを指摘しています。

インターネットへの依存

アスペルガー症候群を持つ人々はインターネット依存症になりやすいことがあります。2019年の日本での研究によると、インターネット依存度を測るYIAT (Young's Internet Addiction Test) で70点以上を依存症と定義した際、アスペルガー症候群の人々は一般人口と比較して約3.72倍、アスペルガー症候群とADHDの診断を受けた人々は約6.89倍の割合で依存症となることが判明しました。ADHDのみの人々ではその割合が約4.31倍でした。

アスペルガー症候群の診断基準

DSM-5における診断基準

  • DSM-5では以下の基準が設定されています​。
  • 社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応の持続的な欠陥:
  • 対人関係の欠落(例:異常な近づき方、会話の困難さ、情動や感情を共有できない)
  • 非言語コミュニケーション行動の欠陥(例:視線を合わせられない、身振りの使用や理解が困難)
  • 人間関係を発展させ、維持し、理解することの困難(例:社会的状況に合った行動に調整できない、友人作りや仲間への興味が欠如)
  • 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式(少なくとも2つが必要):
  • 常同的・反復的な身体の運動、物の使用、会話(例:おもちゃを一列に並べる、反響言語)
  • 同一性への固執や儀式的行動様式(例:小さな変化に対する苦痛、柔軟性に欠ける思考様式)
  • 強度または対象において異常なほど限定され執着する興味
  • 感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ
  • 症状は発達早期に存在していること
  • 社会的、職業的、または他の重要な領域における機能に臨床的に意味のある障害があること
  • 知的能力障害(知的発達症)または全般的発達遅延では説明できないこと

ICD-11における診断基準

ICD-11の診断基準もDSM-5の内容に準拠しており、以下の基準が設定されています​
社会的コミュニケーション、対人的相互反応の欠陥:年齢と知的発達レベルに対して期待される範囲を逸脱している。
反復的な様式:年齢、性別、社会文化的背景に比べて明らかに非典型的または過度に。

アスペルガー症候群の治療法

行動療法(Behavioral Therapy)

社会的スキルやコミュニケーションスキルの発達、反復行動や特定の興味の管理をサポートする​

感覚統合療法(Sensory Integration Therapy)

感覚入力(音や触感への敏感さなど)をより適切に処理し、感覚過負荷を減らすための特定の技術や活動に焦点を当てる​。

社会スキルトレーニング

社交的な状況での効果的な相互作用の方法を教える。会話の開始、アイコンタクトの維持、非言語的な手がかりの解釈、社会的規範や期待の理解などを含む​。

作業療法(Occupational Therapy)

日常機能に重要な実用的なスキル、例えば時間管理、組織化、自己ケアのスキルの発達を支援する​。

薬物療法(Pharmacotherapy)

アスペルガー症候群特有の薬は存在しないが、関連する状態(例:不安やうつ)を管理するために、軽度の抗精神病薬や向精神薬が使用されることがある。

特効薬は存在せず、治療は必須ではありませんが、生活における「生きずらさ」からくる精神的ストレスによる二次的な症状に対して、補助的に薬物が用いられることが多いです​。

二次的な症状に対する薬物: 対人関係の問題などから生じるイライラや不安、落ち込みなどの二次的な症状に対しては、薬物が効果を発揮する可能性があります。アスペルガー症候群の中核症状には効果がない点に注意が必要です​

投与における配慮: アスペルガー症候群の人は薬に対する反応が強いことが多いため、少量から始めることが望ましいとされています。未成年、特に幼児や小児には慎重な投与が求められます​

  • 使用される薬物の種類:
      抗うつ剤: セロトニンの濃度を上げ、落ち込みや不安の改善に用いられます​
      抗精神病薬: ドーパミンの作用を弱め、興奮や易怒性などの改善に用いられます​
      気分安定薬: 躁うつ病の治療に用いられるもので、興奮、多動、攻撃性などに効果があります​
      将来の展望: オキシトシンはアスペルガー症候群の中核症状に対する治療薬として期待されており、現在研究が進められています​

​教育的介入

学業成績の向上と社会的・コミュニケーションスキルの発達を支援する戦略。個別の教育計画(IEPs)の作成や特別な指導が含まれることがある。

  • 認知行動療法(CBT)
    アスペルガー症候群に対する認知行動療法(CBT)は、精神疾患の治療に広く使用される心理療法の一種です。この治療法は、自己否定的な感情や極端なこだわりなどが生じる心理的な問題に対処し、その歪んだ認識を徐々に改善することを目指します。特に成人のアスペルガー症候群患者において、抑うつ状態や不安障害などの症状に対して効果があり、こだわりや興味の限定にも効果があるとされています​。
    感情や衝動の調節、不安やうつ病への対処を支援する。「話し合い」を基盤とした療法で、個々の考えや認識を変え、特定の行動を認識し変更することに焦点を当てます。
    アスペルガー症候群におけるCBTの適用に関する研究は進展しており、治療法の効果や応用範囲に関する新しい知見が期待されます。
  • 応用行動分析(ABA)
    1960年代から使用されている包括的なプログラム。ポジティブな強化などの異なるアプローチを使用して、子どもや大人に特定の行動やスキルを教えたり変更したりする​。
    応用行動分析療法(ABA)は、アメリカやカナダの多くの州で標準的に行われており、発達障害の子どもたちに対して有効性が広く認められている療育方法です。この方法は問題行動を減らし、好ましい行動を増やすことを教えることが可能です。ABAは、自閉症児の知能や社会性を改善することが可能であり、多くの行動が後天的に学習されるという考えに基づいています。例えば、言葉を発しない子どもには積極的に言葉を教え、友達と遊べない子どもには遊び方を教えるといった方法が取られます​​​。
    ABAの改善効果は、世界中の大学や研究機関による長年の研究データに基づいて証明されており、非常に科学的で信頼性の高いものです。特に注目されているのが、UCLAのロバース博士らによって開発された「ABA早期集中療育(EIBI)」という方法です。この方法は、自閉症の症状の改善に画期的な効果を上げています。例えば、2-3歳の自閉症幼児19人に対して、ABAに基づく平均週40時間の1対1の療育を2年以上施した結果、子どもたちが小学校に入学する時点で行われた追跡調査で、19人中9人(47%)が知的に正常になり、付き添いなしで普通学級に入学したことがわかりました​。

行動分析学はB.F.スキナー博士によって1930年代に確立されたもので、ABAはその成果を様々な分野に応用するものです。基本原理は「強化」、「消去」、「弱化/罰」の3つで構成されています。強化は、何らかの行動の直後に「ごほうび」となるものがあると、その行動が増加する原理です。消去は、行動の後にごほうびが与えられなくなるとその行動が減少する原理です。弱化/罰は、注意や叱ることで行動を減らす手続きですが、基本的には使用されず、最終手段として考えられています。

怒りの管理

アンガーマネジメントとは: アンガーマネジメントは、怒りの感情を適切にコントロールし、健康的に付き合っていくための心理教育やトレーニング法です。1970年代アメリカで生まれ、当初は犯罪者の矯正プログラムとして利用されていましたが、現在では多様な分野で用いられています​。

  • アンガーマネジメントの目的: この方法は、怒りを感じなくすることではなく、怒りを早めに認識し、分析して、不利益を被ることなく適切に処理する方法を学ぶことを目指しています​。
  • 基本的な考え方: アンガーマネジメントには、自分の怒りのタイプを理解し、怒りの正体を整理して説明すること、そして怒りを感じても適切に処理する方法を理解することが含まれます​。
  • 具体的な対処法: 発達障害を持つ人々が怒りやイライラを感じた際には、一時的にその場を離れたり、深呼吸や瞑想を行うこと、体に感じる刺激を減らすこと、好きな音楽や香りでリセットすること、適度な運動や十分な休息を取ることなどが有効な対処法として挙げられます​。

アスペルガー症候群における効果の研究: アスペルガー症候群の子どもたちを対象にした研究では、認知行動療法を用いたアンガーマネジメントの介入が、怒りの発作の減少や親の管理自信の増加に効果があることが示されています。この介入は家庭や学校の設定においても効果があると報告されています​。

この情報を基に、アスペルガー症候群におけるアンガーマネジメントの方法に関する医学的な見解がまとめられます。ただし、治療の選択は個々の症状や状況に応じて専門家の指導のもとで行う必要があります。

アスペルガー症候群と合併症

アスペルガー症候群(AS)は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の一種であり、異常な社会的機能と繰り返し行動が特徴ですが、知能や言語機能の低下は伴いません​。
ASおよび高機能自閉症(HFA)では、いくつかの精神疾患が合併することが文書化されています​。

合併しやすい精神疾患

  • うつ病(Major Depressive Disorder, MDD): ASにおいて、うつ病は一般的な合併症です。
  • 注意欠陥・多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity Disorder, ADHD): ADHDとASの合併はよく報告されています。
  • 不安障害(Anxiety Disorder, ANX): AS患者における不安障害の発生は高いとされています。
  • 強迫性障害(Obsessive-Compulsive Disorder, OCD): OCDもASと合併することがあります。
  • 統合失調症(Schizophrenia, SCZ): 一部の研究では、AS患者において統合失調症のリスクが高いことが示されています。
  • 双極性障害(Bipolar Disorder): 双極性障害もASと関連している可能性があります。
  • 恐怖症(Phobias): 特定の恐怖症がAS患者に見られることがあります​

これらの合併症は、AS患者における精神的な健康の管理と治療において重要な要素です。AS患者は、これらの合併症を持つ可能性が高いため、適切な診断と治療が求められます。

アスペルガー症候群の特性を持つ人々に向いている職業


アスペルガー症候群の人々は、独特の能力や関心を持っています。これらの特性を生かした職業選択が重要です。

適した職業の特徴

自己動機付けが重要: 自己動機付け、細部への注意、知的な複雑さを重視する職業が適しています​。
視覚的思考者向け: 数学、音楽、事実に優れた非視覚的思考者に適した職業があります​。

アスペルガー症候群に適した職業例

  • コンピュータコーディング、データアナリスト、サイバーセキュリティ、IT関連: 技術に強い人に理想的な職業パスです​
  • コンピュータプログラミング: 論理的思考や細部への注意が求められる分野で、ASの人々に適しています​
  • 製図: 精密な作業と細かな注意が必要な職業です。
  • 写真撮影: 視覚的なスキルと創造性を生かせる職業です。
  • 機械設計: 技術的なスキルと問題解決能力を要する職業です。
    自動車整備士: 手先の器用さと機械への理解が求められます。
  • 会計: 数字に強い人に適した職業です。
  • タクシードライバー: 定型的な作業が好まれる場合に適しています。
  • 物理学者、数学者: 抽象的思考と論理的な分析が得意な人に向いています。
    動物訓練師: 特定の動物への深い関心を活かせる職業です​
  • 行政職: 繰り返し作業を高い精度でこなす

アスペルガー症候群の特性を持つ人々に向いていない職業

アスペルガー症候群の一般的な特性を検討し、それをもとに職業選択に影響を与える要因を分析します。

  • 社交的な挑戦: 社会的な相互作用や非言語的なコミュニケーションに困難を感じることがある。
  • 感覚過敏: 音、光、触覚などに対して敏感な反応を示すことがある。
  • 柔軟性の欠如: 予期せぬ変更や新しい状況に適応することが難しいことがある。
  • 直接的なコミュニケーションの好み: 暗黙の理解や間接的なコミュニケーションに困難を感じることがある。
  • これらの特性を考慮すると、次のような職業はアスペルガー症候群を持つ人々には向いていない可能性が高いと考えられます:
  • 営業・カスタマーサービス: 顧客との頻繁な対面や電話でのコミュニケーションが要求される。
  • 教育関連職: 教師やトレーナーなど、グループ管理や対人関係のスキルが重要。
  • 高速応答が必要な職業: 緊急対応サービスやレストランのウェイターなど、迅速な判断と行動が求められる。
  • 頻繁な旅行や不規則な勤務が必要な職業: ルーチンの変更や不確実な環境に適応が必要。

これらの職業は、アスペルガー症候群の人々が抱える社交的な挑戦や感覚過敏、ルーチンへの依存などの特性と相反する可能性があるため、適さないと考えられます。ただし、個人差は大きいため、これらの指摘は一般的な傾向に過ぎず、すべてのアスペルガー症候群を持つ人に当てはまるわけではありません。また、職場での適切な支援や調整があれば、これらの職業でも成功する可能性があります。

アスペルガー症候群の特性を持つ人々に対する周囲の接し方

明確かつ具体的な指示:

アスペルガー症候群の人々は、言語理解に長けていることが多いため、指示を明確にし、簡潔に伝えることが有効です​​​

非言語的コミュニケーションの理解の困難

彼らはしばしば非言語的コミュニケーションを読み取ることが困難です。そのため、短く具体的な文章を使い、一度に多くの質問をしないことが望ましいです​

複数の選択肢を使った質問形式

アスペルガー症候群の人々は、開かれた質問に答えることが特に困難なので、複数の選択肢から選ぶ形式の質問をすると効果的です​。

心の理論の困難

彼らは他人の考えや動機を理解するのが難しく、社会的手がかりを認識し、友人を作る方法を学ぶ必要があります​。

コミュニケーションの疲労

非言語的手がかりや社会的内容を含むコミュニケーションは、アスペルガー症候群の人々にとって精神的に疲れることがあるため、会話を短くすることが重要です​。

強みを生かす

アスペルガー症候群の人々は、平均以上の知能、強い記憶力、関心のあるタスクに対する集中力を持っていることが多く、彼らが興味を持つ方法で教えられれば、高い学習意欲を示すことがあります。これらの強みを活かしてコミュニケーション方法を教えることが、長期的に効果をもたらします。

応用戦略/忍耐力を持つ

アスペルガー症候群の人々は、会話の中で一時的な停止が発生することや、理解に時間がかかることがあります。忍耐力を持ち、理解を示すことが重要です​。