精神障害者保健福祉手帳を取得するメリット・デメリットとはcolumn

Update:2022.07.11

精神障害者保健福祉手帳を取得するメリット・デメリットとは

目次

精神障害者保健福祉手帳を取得するメリット・デメリットとは

自閉症スペクトラム障害や注意欠陥多動性障害などの発達障害の診断を受けた方は、日常生活や社会生活を送る上で様々な困りごとを生じる場合があります。

障害の程度にもよりますが、福祉サービスを利用することで困難さを軽減できる場合もあるでしょう。そこで、利用できるのが「精神障害者保健福祉手帳」です。

この精神障害者保健福祉手帳は、発達障害を含む精神障害者が申請できる福祉サービスです。

今回は、精神障害者保健福祉手帳の概要や支援内容、利用のメリット・デメリット、取得する方法などを詳しくご紹介します。交付を受けるかどうか悩まれている方は、ぜひ参考にしてください。

1.精神障害者保健福祉手帳とは

精神障害者保健福祉手帳は、発達障害などの精神疾患をかかえている人が交付を受けられる福祉サービスの一つです。精神的な障害があることを証明できる手帳であり、様々な福祉サービスを受けるために利用できます。

この手帳の交付が対象となるのは、精神疾患がある人の中でも日常生活において、長期にわたって困難や制限がある人になります。どのような精神疾患でも、初めて診断を受けてから6ヵ月以上経過していることを証明する診断書が必要です。

精神障害者保健福祉手帳の対象者は、次のとおりです。

  • 統合失調症
  • うつ病、躁うつ病などの気分障害
  • てんかん
  • 薬物やアルコールによる急性中毒、それらの依存症
  • 高次脳機能障害 発達障害(ADHD、ASD、学習障害など)
  • その他の精神疾患(急性または慢性のストレス関連障害)

手帳は、症状の程度に応じて3つの等級に分けられています。等級の判定には、次のような観点から判断されます。

  • 精神疾患の存在の有無
  • 精神疾患(機能障害)の状態
  • 能力障害(活動制限)の状態
  • 精神障害の程度の総合判定

また、等級は以下のとおりです。

1級

精神障害であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの(仕事をする上で困難があるほどの症状)

  • 医療機関への外出は、付き添いがないと一人ではできない
  • 食事の準備、片付けなどの生活が一人ではできない
  • 金銭管理が難しい

2級

精神障害であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの(単純な仕事であれば従事できる症状)

  • 付き添いなしで外出できるが、何か起きた時に一人で対処できない
  • 清潔保持を行うことが難しい
  • 日常生活において、適切な発言ができないことがある

3級

精神障害であって、日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの(一般就労が可能)

  • 日常的な家事はできるが、手順が変わると対応できないことがある
  • 周囲の人と行動を合わせられる
  • 常に引きこもっているわけではない

等級を決定する症状は、当然ながら個人差があります。そのため、3級の手帳が交付されたからといって、必ずしも一般就労ができる状態というわけでもありません。

その人に合わせた就労支援や福祉サービスが受けられるよう、調整していくことが大切になります。

また、知的障害があるが精神障害がない場合は、精神障害者保健福祉手帳の交付は受けられませんが、療育手帳の対象となります。発達障害と知的障害の両方がある場合は、精神障害者保健福祉手帳と療育手帳のどちらも取得できる特徴があります。

2.発達障害と精神障害者保健福祉手帳

精神障害者保健福祉手帳は、自閉症スペクトラム障害や注意欠陥多動性障害、学習障害などの発達障害を持つ方でも申請し、取得できる福祉サービスです。

2010年に障害者自立支援法で、発達障害についても精神障害の対象と改定されたことで、発達障害者が手帳を取得できるようになったという経過があります。

精神障害者保健福祉手帳を所得するためには、精神科に受診した後6ヵ月以上経過していることが条件となります。一定期間の通院により、発達障害を含めた精神疾患の症状が続いていることを明確にしています。

また、年齢制限はありませんが、支援内容を考慮して自立した生活が送れるようになる、18歳以上になってから申請される方が多くみられます。

ただし、手帳を取得できる基準や判定基準というのは、自治体によって異なります。そこで、どのような症状があるのか、日常生活や就労において、どのような支障を来しているのか確認していきます。

手帳の交付を受けた後は、2年ごとの更新が必要となります。その際は、必要な書類を揃えて提出します。2年ごとの更新ということで、精神症状が変わっていることもあるでしょう。その場合は、再判定を要する場合もあります。

更新時期を忘れずに手続きすることが大切です。

3.精神障害者保健福祉手帳で受けられる支援内容

精神障害者保健福祉手帳を持っていることで受けられるサービス内容は、次のとおりです。

 

支援内容

公共料金などの割引

  • NHK受信料の減免
  • 鉄道、バス、タクシーなどの運賃割引
  • 携帯電話料金の割引
  • 上下水道料金の割引
  • 心身障害者医療費助成
  • 公共施設の入場料などの割引

税金の控除・減免

  • 所得税や住民税の控除
  • 相続税の控除
  • 自動車税や自動車取得税の軽減(手帳1級が対象)

その他

  • 生活福祉資金の貸与
  • 手帳所持者を事業主が雇用した場合の障害者雇用率へのカウント
  • 障害者職場適応訓練の実施
  • 公営住宅の優先入居

これらは、手帳を持っていることで受けられるサービスですが、自立支援医療による医療費助成や、障害者総合支援法による障害福祉サービスは、手帳がなくても利用できます。

また、受けられる支援内容には、就労に関わるサービスもあります。以下の内容です。

  • 障害者求人へ応募できる
  • 公共職業安定所(ハローワーク)の障害者用窓口で相談できる
  • 障害者職業センターを利用できる
  • 障害者福祉サービスが受けられる

4.精神障害者保健福祉手帳を利用するメリット・デメリット

精神障害者保健福祉手帳を持っていることで、様々なサービスや福祉支援を受けることができます。詳しいサービス内容は、上記に記載しております。主に、経済的側面のメリットが多いと言えるでしょう。

手帳を持つことによるメリットは大きいですが、一方でデメリットを感じることもあるでしょう。

①精神障害者保健福祉手帳を利用するメリット

手帳を利用することで得られるメリットは、税金や公共料金、就労、民間サービスなどにおいて、様々な控除や利用料割引などが受けられることです。

このサービスによって、日常生活を送る上での困難さを軽減できることにつながるでしょう。

②精神障害者保健福祉手帳を利用するデメリット

基本的には、精神障害者保健福祉手帳を取得するデメリットはないと考えられます。

また、手帳の交付は、強制されるものではありません。会社で働く上で、手帳を持っているかどうかを報告する義務もなく、手帳の返還はいつでもできます。

手帳を利用するデメリットとしては、次のような点が挙げられます。

  • 生命保険への加入が難しい
  • 住宅ローンが組めない場合がある
  • 手帳を持っていることで、自分自身で「障害者」を意識して生活することになる
  • 2年ごとに更新する手間がある

発達障害の診断を受けている場合は、生命保険や住宅ローンを組む際に、自分の健康状態を告知する義務があります。そのため、健康状態として発達障害があると加入を認めてもらえない可能性が出てきます。

手帳の有無については、手帳を持っていることで自分自身でネガティブな感情、不安を抱くという方もいます。周りに告知する必要はないため、周りの人に自分が精神障害者だと知られずに生活できるということも知っておきましょう。

2年ごとに更新する手帳ですが、症状が軽くなった場合は更新手続きの審査で、「非該当」と判断されることもあります。

5.精神障害者保健福祉手帳を取得する方法

精神障害者保健福祉手帳の申請窓口は、お住まいの市町村にある障害者支援課を担当している窓口になります。申請の際に、必要なものは次のとおりです。

  • 申請書(マイナンバーの記載が必要)
  • 診断書または精神障害による障害年金を受給している場合は、その証明書の写し
  • 本人の写真
  • 印鑑

申請は、本人だけではなく家族や医療機関の関係者が代理で申請することも可能です。申請後は、各都道府県・政令指定都市の精神保健福祉センターで審査を受け、等級を決定した後に交付されることになります。

診断書は、精神科医が書いたものを有効とし、発達障害の場合では精神科以外の科で診療を受けている場合は、各専門医師による記載が必要となるでしょう。

申請してから交付されるまで約1~2ヵ月の時間を要する、ということも知っておきましょう。

手帳の有効期間は、交付日から2年経過した日の属する月末日までです。2年ごとに、必要な書類を揃えて更新手続きを行います。

6.まとめ

精神障害者保健福祉手帳は、発達障害者の方が受けられる福祉サービスの一つです。手帳を持っていることで受けられるサービスは多く、特に経済的側面のメリットが大きいでしょう。

手帳を持っているからといって、周りの人や職場に伝える義務はなく、さらにいつでも返還することも可能です。発達障害者の方にとって、自立した生活を送るために一時的に利用できる制度であり、デメリットは大きくないと言えるでしょう。

まずは、制度について不明なことがあったり手続きの方法が分からなかったりした場合は、かかりつけの医療機関に相談してみましょう。より詳しい手続き方法については、お住まいの自治体にある障害福祉課の窓口、地域の精神保健福祉センターに相談することがおすすめです。

もし、少しでも手帳の申請に迷われている方は、相談し検討してみてください。