うつ病 心理療法column

Update:2023.10.15

うつ病 心理療法とは

うつ病心理療法は認知行動療法(CBT)を基盤にしたアプローチで、ネガティブな思考や行動を変え、思考のバランスを整えストレスを減らしていく精神療法のことです。問題解決、思考の再構築、肯定的な行動の促進を通じて自己効力感を高める。症状軽減と再発予防に寄与する方法で、クライアントの主体的な参加とセラピストのガイダンスが重要です。

うつ病 心理療法

目次

ものの考え方・感じ方・捉え方(認知)の歪みを訂正していき、認知の変化により感情・思考・行動の変化をもたらす認知療法が行われます。 対人関係において、自分の主張をうまく表現して、人間関係を円滑にしていくアサーショントレーニングも行われます。 また、眼球の動きを利用した新しい治療であるEMDRも併用されます。その他、リラクセーショントレーニングも併用されます。

心理教育も兼ねた精神療法

一般の精神科外来や心療内科の外来では、10分前後の診察時間しかとれません。 ですから、次のような手順で診察が行われると思います。

  • 医師は患者さんから症状を聞く
  • 患者さん自身も、現在の自分の病状を確認したうえで、医師から日常生活のアドバイスを受ける
  • 医師は、患者さんが規則正しい服薬をしているかどうかを確認し、
    していなければその継続をすすめる
  • 患者さんの副作用などのチェックをしながら、次の処方を出す

これも簡易ではありますが、一連の精神療法です。それに加えて、次のことも大切になってきます。

  • 患者さんやご家族に、病気の実態をよく理解してもらう
  • 患者さんやご家族に、薬の効果や副作用の説明を行う
  • 患者さんやご家族に、病気との向き合い方や対処の心構えを確認してもらい、
    そのサポートを行ってもらう
  • 外来だけでなく、家族用ミーティングや、デイケアのプログラムを活用し、
    患者さん同士のグループミーティングを行う

このようして、患者さんやそのご家族の、病気や将来的なことに対する不安を少しでも軽減し、病気を乗り越えていく勇気をもってもらいます。
これが心理教育も兼ねた精神療法です。
ストレスが躁うつ病の引き金や、憂うつや不安の増悪因子になることから、ストレスを事前に予測したり、それを軽減する対処方法を工夫することも、心理教育で行われます。躁うつ病も患者会、家族会といった、同じ病気を患っている人たちのコミュニティが、徐々に立ち上がってきていますので、活用してみるのもいいかと思います。ただし、後で述べる認知行動療法のように、臨床心理士などの心理学の専門家が行う精神療法は、ここで述べた精神療法とは少し趣旨が異なります。

コラム法

自分の考えや判断がどの程度現実にそっているかを、紙に書き出しながらチェックしていく方法として、「コラム法」があります。
ノートでも便せんでもなんでもよいのですが、適当な紙に線を引いて欄(コラム)に分けて、それぞれの欄に「状況」「不快な感情」「自動思考」「代わりの考え」「心の変化」と見出しを立てておきます。

うつ病 人間関係療法 (対人関係療法)

自分をもっと認める
人間関係がぎくしゃくしてくると、人間はつい悪者探しをしたくなります。 まじめに考えようとする人の場合、その悪者は往々にして自分自身になります。 自分の欠点を探し出して、自分たたきを始めます。 自分で自分のあら捜しをしますから、欠点はいくらでも見つかりますし、辛さは増すばかりです。 しかし、人間はそんなに簡単に自分を変えることは出来ません。欠点はあるでしょうが、それ以上に現在の自分にもプラスの面がいろいろあるはずです。 自分で自分のことを受け入れていないのであれば、他の人はそれ以上に受け入れにくいはずです。 もっと自分のことを信じて、ありのままの自分を受け入れるところから始めることが大切です。
他の人のことをもっと認める
人間関係がうまくいかないとき、人間はつい他の人のせいにしたくなることもよくあります。 自分で自分のことを責めるのに疲れて、他に原因を探し出そうとするからです。 自分の世界に閉じこもって他の人の欠点ばかりに目をむけていると、意外に悪いところばかりが目についてくるものです。 しかし、他の人を責め立てたところで、問題が解決するわけではありません。 特にそのような場合には感情的になってしまっていて、その人の人間性に対する批判ばかりが頭に浮かぶようになっているからです。 自分が変われないのと同じように、他の人だって簡単に変わることはできません。 相手のマイナス面をありのままに受け入れ、さらにその人のプラス面にも目を向けるようにすることが大切です。
問題点は何かを具体的に考えてみる
人付き合いがうまくいかなくなって原因探しをするときに、人間性を批判しがちです。 『こんなことをした自分は駄目な人間だ』と自分を責めたり、『こんなことをするなんてひどいやつだ』と相手を責めたりするのです。 しかし、それでは事態の解決になりません。 なぜ人間関係がうまくいかないのかといった大きな問題ではなく、お互いの間にどのようなことが起きていて、どの部分でうまくいかなくなっているのかということを丁寧に考えてみることが大切です。 そうして具体的な問題を浮き彫りにすることができれば、それに対する解決法も見つかりやすくなります。
完璧な人間関係はない
人間関係がうまくいかなくなると、生じている問題にばかり目を向けて、自分を追い込んでいってしまうことがあります。 『これがいけない』、『あれがいけない』と、次々と問題が目に付いて、取り返しがつかないような気持ちになってしまうのです。 しかし、すべてがうまくいく完璧な人間関係などありません。お互い違う世界に生きている人間なのですから、うまくいくこともあれば、ぶつかることだってあります。 いくら恋人でも、家族でも、人はそれぞれ違う世界に生きています。 『何でもわかりあえるはずだ』、『なんでもわかってもらえるはずだ』と期待しすぎると、人間関係は辛くなるばかりです。
意見の食い違いを恐れすぎない
人間関係が窮屈だと感じているとき、人間は少しでも意見が食い違ってはいけないと考えて、自分の気持ちを押さえ込んでいることがよくあります。 しかも、そうしたことは親しい人の間で起こりやすくなります。 相手の人を大切だと思えば思うほど、同じ考えでいたいと思うからです。 少しの食い違いが、取り返しのつかない問題にまでなるのではないかと恐れることさえあります。 しかし、少しくらい意見が違っても、それですべてがだめになってしまうことは滅多にありません。 そうした食い違いがあっても、それを認め合うことで人間関係に幅が出てきます。 それくらいでだめになる関係であれば、どんなに配慮をしていても、いずれどこかで破綻してしまうでしょうし、それはそれで構わないのです。
言いづらいこともしっかりと伝える
相手の人と違う意見を口にするのはなかなか難しいものです。 『相手が不快な気持ちになるのではないか』、『腹を立ててしまうのではないか』と言った心配が、次々と頭に浮かんできます。 しかし、はっきりと口にしなければ伝わらないこともあります。黙っていたために、かえって後で関係がこじれてしまうことさえあります。 要は、それをどのように伝えるかなのです。かといって、無理して気のきいたことを言おうとする必要もありません。 相手の気持ちを傷つけすぎないように、表現の仕方さえ工夫すればいいのです。 どうしても自分から言いにくいことは、他の人に伝えてもらうというやり方もあります。自分の意見を伝えることを恐れすぎないことが大切です。
言葉に頼り過ぎない
自分の気持ちを相手の人に伝えるとき、言葉が大切な役割を果たすことはもちろんですが、言葉だけですべてが済むわけではありません。 言葉が持つ意味は人によって違いますし、お互いの関係によって意味が違ってくることもあります。 『それでいいよ』という同じ言葉でも、本当に同意していることもあれば、しぶしぶ同意していることも、腹立たしく感じていることもあります。 人付き合いでは、言葉にならない言葉を伝えたり、感じ取ったりする必要があります。 コミュニケーションは、言葉の内容はもちろん、態度や雰囲気、言葉の抑揚や調子など、私たちの存在すべてを使って行うものなのです。
思い込みから自由になる
人間は現実を現実のまま客観的に見ているわけではありません。現実判断には、かなり自分なりの思い込みが影響しています。 だからこそ、相手のことを即座に直感的に理解して、リズミカルな人間関係を作り上げることもできますが、いったんその歯車が狂いだすと、マイナス思考がどんどんわいてきて、関係がぎくしゃくしていくこともあります。 『私のことが嫌いなんだろうか』という疑問が、『私のことを嫌いに違いない』という思い込みに変わるのに、そんなに時間はかかりません。 人間関係が辛くなったときには、自分の思い込みに根拠があるかどうか、立ち止まって考えてみることも大切です。
思い切って自分流を捨てる
人間関係に限らず、私たちは、自分のしていることがうまくいかなくなればなるほど、自分流のやり方にこだわるようになります。 問題が起きると、人間はまず自分がやり慣れた方法で対処しようとします。それが一番良いと感じるからそうするのですが、それだけに、その方法がうまくいかないと自分が否定されたように感じて、ますますそのやり方にこだわるようになります。 『うまくいかないはずがない』と考えて、自分流にこだわってしまうのです。 それでは問題が解決できるはずがありません。思い切って自分流を捨てて、新しい視点から問題を眺めてみることも必要です。
困ってもよい
人間は、すべての人といつも仲良くできるわけではありません。 相性のあう人、あわない人、いろいろいます。仲のいい人とでも、ときには喧嘩をします、大事なことは、そうした問題が起きたときにどのように解決するかなのです。 問題を一つ一つ解決して、それをその後の人間関係に生かせばいいのです。 困らなければ問題は見えてきませんし、困る中に解決のヒントが隠されていることも少なくありません。 困ることを恐れず、自分を信じ、相手の人を信じて辛抱強く付き合ううちに、また新しい人間関係が出来上がってきます。


日本におけるカウンセリング療法の実情

日本の心理療法士の行う認知行動療法のカウンセリング治療はこれまで、ほとんどの場合保険適用外でした。 医師以外の専門家が行うカウンセリング治療は、心理療法士(臨床心理士や医療心理士、そのほかの心理専門家)の資格が国家資格でないため、保険診療の対象にならず保険適用外となり、1時間数千円くらいかかっていました。
日本の精神科や心療内科の医師が、どうしてもっとカウンセリングを積極的に行わないかといえば、長時間カウンセリングしても診療報酬が上がらない(失礼ないい方ですが、儲からない)ので、どうしても積極的に行えなかったからです。 つまり、1時間で5人の患者さんを薬物療法と簡易な精神療法のみで診察したら、5人分の診療報酬が得られるのに対し、カウンセリングに1時間かけて1人の患者さんを診察したら、1人分しか診療報酬が得られず、収益が5分の1となってしまいます。 これでは、普通のクリニックは経営していけません。 医師が患者さんと話したくても十分時間が取れないのが、日本の精神医療現場の実情なのです。
私見ですが、現在日本でこの認知行動療法を行える専門の心理カウンセラが、イギリスのように国家をあげて養成されていない以上、日本では現在活躍している精神保健福祉士(PSW)という国家資格者に研修を積ませて、デイケアなどの保険診療プログラムで認知行動療法をすればいいのではないでしょうか。(2010年度診療報酬の改定により、保険適用となりました) 後ほど詳しく述べていますが、うつ症状に対する認知行動療法の治療効果を評価して、保険診療の範囲内で認知行動療法のようなカウンセリングを、デイケアのグループミーティングで行う医療施設も徐々に出てきているようです。なかには不安障害の治療で有名な、軽作業や運動を取り入れた「森田療法」や、陶芸などを取り入れた「芸術療法」、エクササイズを取り入れた「運動療法」、あるいは「音楽療法」などをミックスしたグループミーティングなどを取り入れて、認知行動療法を含むプログラムを行う医療施設もあるようです。
患者さん同士がミーティングで、お互いに自分の病気に関して感じたことを話し合ったりしているうちに、本当の自分の気持ちを把握したり、体を動かすことによって自律神経を活性化し、意欲を引き立てるといった趣旨です。 また、「アニマルセラピー」も、憂うつや孤独感の出どころを認知した患者さんを受動的に勇気づける一助として、ときには有効であると思います。
ただ、認知行動療法はうつ病の治療としては非常に有効性が認められているのですが、躁うつ病の治療にそのまま同様に当てはめて考えることができるのか、まだはっきりしないところもあります。 少なくとも躁状態のときには導入自体が無理で、治療にはなりません。
もともと躁うつ病の患者さんは、病前性格として「内省が苦手」だと指摘されています。 躁うつ病の患者さんは、他人のことは気になるし、よく見えているのですが、自分の心の内を言語化して振り返るのが苦手で、場合によっては余計にイライラしてくることもあるのではないかと思います。

AD/HD(注意欠陥/多動性障害)、学習障害、アスペルガー障害を含む発達障害やパーソナリティ障害の患者さんも、認知行動療法の導入は困難な場合が多いようです。 いずれにせよ、個人差もあることなので、結論は急がず今後の成果に期待したいところです。

アサーション・トレーニング

アサーションとは行動療法から生まれ、自己主張が苦手な人を対象としたカウンセリング技法として発展したコミュニケーション・スキルの1つです。 アサーション・トレーニングとは、自分と相手の人権を尊重した上で、自分の意見や気持ちを適切な表現方法(アサーティブな自己表現)で表現出来るようにするトレーニングです。


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EMDR (Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理)

EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理)は、最近マスコミなどでも取り上げられることの多くなったPTSD (Post Traumatic Stress Disorder:外傷後ストレス障害)に対して最も効果的 と言われて、大変注目されている治療方法です。 その他にも、パニック障害や強迫性障害、社交不安障害、全般性不安障害、うつ病、躁うつ病などへの応用も期待されています。


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