自傷行為column

Update:2023.10.15

自傷行為とは

自傷行為は、意図的に自身の身体に傷をつける行動を指し。切る、焼く、叩くなど、感情のコントロールや内的な苦痛の緩和を試みることが多いです。うつ病、不安障害、過去のトラウマと関連し、思春期や若年層で多く見られます。健康への害や長期的な精神的悪化を引き起こす可能性があります。

自傷行為

目次

自傷行為とは

自傷行為とは、リストカットをはじめとする自分で自分のことを傷つける行為のことを言います。自傷行為は、自分の心の中にある不安や抑えきれない感情を処理するために、言葉で表出せずに処理しようとする方法として取られます。

自分の身体に痛みを与えることで、心の痛みに置き換えているのです。そして、自分の感情を救おうとしている行為なのでしょう。

また、自傷行為は10人に1人は経験しており、その6割が10回自傷行為を繰り返していると言われています。しかし、ほとんどの人が病院を受診しないとも言われており、中には何らかのトラブルを抱えていて支援が必要な人もいます。

自傷行為は、多くの自傷行為は、主に他人の視線の届かないところで開始される行動で、初めは自殺を目的としてはじまったとしても、次第に治療的効果のために行われるようになります。耐えがたい心の痛みや苦しみを、身体の痛みで治療するという手段です。しかし、身体の痛みに慣れてしまい、自傷行為はさらにエスカレートすることがあります。

その結果、自殺の意図がないのに致死的な自傷に発展することがあり、自傷していない時の漠然とした「消えたい」という願望にとらわれるようになります。そしてある時、いつもとは別の方法で自殺を試みようと試す場合があります。

このように、自傷行為は周りの人が気づかないケースがあり、気づいた時には自傷がエスカレートしていることもあります。自傷行為に対して、「本当に死ぬ気はないんだ」「注目を浴びたいだけなんだ」と軽視せずに、周りの人は対応に注意しながらサポートしていくことが大切なのです。

自傷行為には多くの種類がある

自傷行為と言えば、一番知られているのがリストカットです。しかし、リストカット以外にも身体を傷つける行為は他にも種類があります。

たとえば、次のような行為が挙げられます。

 

特徴

切る

手首、腕、足、胸など

殴る

頭を壁に打ち付ける、自分の顔を殴るなど

焼く

ドライヤーやライターで髪の毛や皮膚を焼く、火をつけたタバコを皮膚に押し付けるなど

骨を折る

壁に腕をぶつける、重い物で足を叩くなど

傷を開く

治りかけの傷のかさぶたを取るなど

ほじくる

皮膚をほじくったり、噛んだりする

その他にも、アルコールや薬物乱用、拒食や過食などの摂食障害、避妊しない性交渉や援助交際なども、自傷行為に併発している行動だと言えます。中でも睡眠薬などの薬物を過剰に服用する状態は、自傷行為を超えた自殺企図に近い行動になるでしょう。

このように自傷行為にはリストカット以外にも手段があり、人によってはリストカットをやめたとしても形を変えて自分を傷つけ続けるという状態はよくあります。そのため、リストカットだけに目を奪われがちな自傷行為ですが、問題の本質を見誤らないように、周りの人は注意深く行為をアセスメントすることが大切でしょう。

自傷行為を引き起こす原因とは

自傷行為は様々な要因から引き起こされますが、感情的な苦痛を抑えるためにとられる行為です。主に、次の2つの背景が原因と考えられています。

過去の経験によるもの

過去の経験として、幼少期に保護者や周りの人から受けたネグレクトや虐待、学童期のいじめなどが影響しています。親からの過剰なしつけや期待、虐待などにより、親の価値観に沿った生き方・行動が強まります。その結果、自分の存在を確かめたり、自分らしさを確認したりするための手段として、自傷行為を選ぶということです。

このような過去の経験は、人への信頼感がなくなったり周りに助けを求められなかったりするため、自傷行為に走ってしまいます。

最近の辛い出来事によるもの

最近の身の回りで起きた、辛い出来事に影響されることも多いです。親や恋人、親友が原因で、強いストレスがかかった時に自傷行為としてリストカットをするということに繋がります。

また、友人などの身近な存在がリストカットをしている姿を見たり、テレビに出ている芸能人やSNSで活躍している有名人が自傷行為を告白したりすると、自傷行為に対するハードルが低くなります。その結果、まずは1回自傷行為をやってみようと思い、はじめてしまう人がいると考えられています。

自分が生きているのか、死んでいるのか分からない状態に陥るほど不安になってしまうと、身体的な痛みや鮮やかな血液の赤い色は、このような感情からの回復には効果的なのです。そのためにリストカットをして、流れる血を見て「自分は生きている」と思いホッとするとされています。

この自傷行為は主に感情表現の一つとして行われますが、人によって目的は異なります。たとえば、以下のような目的があります。

  • コミュニケーションの方法として(自傷行為を他者に見せて、止めて欲しい、助けて欲しいと伝えている)
  • 生きている実感を得る方法として(痛みを感じた方が生きている実感がもてる)
  • 注意をひく方法として(自分を愛して欲しいという思いの現れ)
  • 緊張感の解放や浄化を得る方法として(緊張や怒りの感情を解放、自責感を解消する)
  • 人を遠ざける方法として(他者から干渉されたくないという思いの現れ)

このような方法として自傷行為を選び、身体的な痛みを得ることで、緊張感の解放や安らぎ、癒し、スカッとする感情が沸きおこります。そして、この感覚がクセになり何回も自傷を繰り返すことになるのです。

自傷行為の診断

自傷行為の診断として、まずは専門医による診察を行います。しかし、どんなに専門的な知識を持つ医師であっても、自傷行為を行う者との間に信頼関係がなければ、本当の問題を掘り起こすことは難しいでしょう。そのため、自傷を行った部位を観察することから始まります。

その後、自傷行為だけではなく自殺リスクを評価することも重要となり、その人と親しい人と面談を行い生活上のストレスや気分の変動などを詳しく聞いていきます。

しかしながら本人が、自傷行為自体に対して問題だと感じていなければ、その行為について自ら話そうとしない場合があります。そのような場合は、本人から自傷行為について話し出してもらうための対話を行います。

自傷行為によって出来た損傷の状態や、問診で本人が話した体験や感情などを踏まえて、次のように詳しい状況も把握します。

  • 自傷行為はどのような方法で行うのか
  • 頻度はどのくらいか
  • どのくらいの期間続けているのか
  • 自傷行為自体にどのような目的があるのか
  • 自傷行為をやめたい、治療したいと思っているのか
  • うつ病や解離性障害などの他の精神疾患がないか
  • 自殺企図はないか
  • 傷が乱雑で汚いのか、決意から切るまでの時間は
  • 複数部位に傷があるのか、複数の方法による傷か
  • 感覚がなくなる、記憶がなくなる、幻聴が聞こえるなどの症状はないか
  • 拒食・過食などの摂食障害がないか
  • アルコールや薬物乱用、過剰服用などがないか

これら全てをとらえた上で、自傷行為であると判断されます。

そもそも、自傷行為をしているほとんどの人は、誰かに自傷のことを話すことはありません。そのため、自傷行為のことを他者に話して傷の手当をしたり、医療機関に受診したりする行動ができている場合は、自傷行為を抑えるための第一歩であると言えます。

「自傷行為は問題なんだ」と意識をしてもらうことで、その後の治療により自傷行為を抑えることが期待できるでしょう。

自傷行為の治療法

自傷行為の治療法として、主に行われることは精神療法です。また、一時的に薬物治療を行ったり、他の精神疾患が存在している場合はその治療行ったりします。

精神療法

自傷行為をする人に対する精神療法として、主に2つの方法があります。

弁証法的行動療法

  • 1年間にわたり週1回の個人、またはグループでのセッションを行う
  • 専門家が24時間体制で電話対応にあたる
  • 自己破滅的な行動への衝動に抵抗するなど、ストレスに対処するよりも適切な方法を見つけるサポートをする

感情調節集団療法

  • 14週間にわたり集団療法を行う
  • 自分の感情に気づき理解し、受け入れることをサポートする
  • 否定的な感情を人生の一部分として、前向きに受け止められるようサポートする

このように、自傷行為をしている自分に着目し、感情の気づきや自傷の危険性などを本人が自分で受け入れるように、専門家がサポートしていく方法になります。

薬物治療

自傷行為は、うつ病や摂食障害、パニック障害、解離性障害、外傷後ストレス障害、境界性パーソナリティ障害など、様々な心の問題や精神疾患で見られることが多い行為です。

そのため、専門医の診断によって、自傷行為の他に精神疾患を併発しているといった場合は、そちらの疾患を治療するために薬物療法を用いられることがあります。

薬物療法で一番大事なことは、衝動的な行為と希死念慮をいかに抑えられるかということです。エスカレートしている自傷行為の場合は、抗精神病薬などの薬を使い衝動的な感情を鎮めます。しかし、薬物療法は一時的な治療として選ばれるため、他に精神療法がない場合はまずは精神療法を優先させていきます。

「傷つける」以外に気持ちを処理する方法

自傷行為をやめたいと思っても、衝動的な気持ちを抑えられなかったり、傷つけること以外に気持ちをどう処理すればいいのか分からなかったりするでしょう。また、誰かに自傷行為について相談することは難しいかもしれません。

そのような時、自分の身体を「傷つける」こと以外に、気持ちを和らげる方法を知っておくことは大切です。自分を傷つけたくなった時、死にたいほど辛いと思った時に、その思いをいグッとこらえて代替法を実践することで、自傷行為を回避できる可能性があります。

以下に、「傷つける」以外に気持ちを処理する方法をまとめました。

刺激的な代替法

①輪ゴムをパッチン ②紙や薄い雑誌を破る ③氷をぎゅっと手で握りしめる ④腕を赤く塗りつぶす ⑤布団をかぶって大声で叫ぶ ⑥一人カラオケ ⑦筋トレ・ランニング ⑧クッションを殴る

鎮静的な代替法

①呼吸法(深呼吸) ②マインドフルネス瞑想 ③日記に気持ちを書き出す 

補助的な代替法

①文章を書く ②音楽鑑賞 ③楽器を演奏する ④料理をする ⑤絵を描く ⑥髪の毛を染めて気分を変える ⑦甘いものを食べたり飲んだりする

その他

信頼できる人と話す

刺激的な代替法は、「傷つけたい」と高ぶる衝動を、思いきり発散できるような方法が挙げられています。とくにリストカットをする方は、痛み刺激を求めたり赤い血を見ると落ち着いたりするケースがあり、「輪ゴムで身体をパッチンしてみる」「氷を握りしめる」「腕を赤く塗りつぶす」という方法に効果が期待できるかもしれません。

鎮静的な代替法は、「傷つけたい」という感情を抑えるためにマインドコントロールを身につける方法です。刺激的なものと比べて即効性には欠けますが、この方法を身に付けられれば長期的に考えると、効果は減衰せず自傷行為を鎮めることにも繋がります。

補助的な代替法は、とにかく気を逸らす方法です。身体を動かしたり他のことを考えずに好きなことだけをやってみたり、「傷つけたい」気持ちをうまく逸らせる代替法を見つけることが大切です。

その他に、信頼できる人と話すことで気持ちを抑える方法があります。この「信頼できる人」というのは養育者や家族とは限りません。信頼できる人とは、自傷の話をした時に叱ったり、「そんなこと、今すぐやめなさい」と拒絶したりしない人のことです。具体的なアドバイスをしなくても、ただ話を聞いてくれる、正直な気持ちを肯定的に評価してくれる人と一緒に時間を過ごします。

今の自分の感情に気づき、その感情を処理するための代替法を考えることが、自分でできることの一つになります。

周りの方ができること・接し方のポイント

自傷行為を見つけた周りの方は、その光景をみて驚き、すぐに行為をやめさせようとする場合が多いでしょう。しかし、自傷行為をしてしまうのは前述したように、「感情を表現するための一つの手段」なのです。自傷行為をしない人が、感情を表現するために「言葉」を使うことと同じように、自分の身体を傷つけて表現します。

その場合、周りの人が注意すべきことがあります。次のとおりです。

  • すぐに治そうとしない
  • 自傷行為をやめさせようとしない
  • 大げさに反応しない
  • 説教や批難をしない
  • 無視や拒否をしない

周りの人は、その行為だけを見るのではなく、「どうして自傷行為をするに至ったのか」「どんな気持ちなのか」など、本人の感情面に寄り添うことが大切なのです。

具体的にどのような対応がよいのか、接し方のポイントを含めてご紹介します。

どのように対応するとよいのか

自傷行為をしてしまう人に対して、接し方を間違えると逆効果になる可能性があります。そうならないために、接し方のポイントについて知っておきましょう。

 

接し方のポイント

温かさと冷静さを保った態度

過度に同情したり批難したりしない。頭から否定しない、助けたいと強く思っていることを押し付けない。

傷つけた身体の手厚いケア

自分の身体を傷つけてもかまわない、という考えが修正される。

内面の訴えを傾聴

批判や先入観を交えず、本人の気持ちや問題の深刻さを受け止めようとする。困難やつらい状況に耐えてきたことを労う。

自傷行為への理解

自傷行為が生じるきっかけ、その背景、その時の想いや感情を知ろうとする。自傷行為をするという問題への直面化を図る。

自傷行為の代替法を探索

適切なストレス対処の方法を身につけさせるために、一緒に代替法を探索する。

連携体制を確立させる

自傷行為がすぐに治るわけではなく、個人でのサポートには限界がある。チームでサポートする体制を作るために、専門機関に相談する。

周りの人は、どうしても「自傷行為をやめさせたい」「変わって欲しい」と強く思うあまり、相手がなかなか変わらないことに苛立ちが出てきたり、自己肯定感が下がったりします。

そのような時は、上記の対応を意識してみましょう。

周りの方にできる8つのこと

接し方のポイントが分かった上に、周りの方ができることをご紹介します。

  • なぜ自傷行為をしているのか聞く(心配しているメッセージを添える)
  • 背景にあるストレス要因を発見する(自傷行為だけをやめさせるのは難しい)
  • 自傷行為に変わる対処法を一緒に考える
  • 感情に気付かせる言葉がけをする
  • 何かして欲しいことがないか聞く(自分ができることをしてあげる)
  • 専門家や他の周りの人など援助の輪を広げる
  • 自殺をほのめかすならば、真剣に対応する
  • 自傷行為による危険を伝える

うまく自分の悩みを言えない人や自傷行為を隠している人もいるでしょう。自傷行為の先にある自殺のリスクを考え、周りの人ができることをポイントを参考に対応してみてください。