統合失調症 治療に要する期間と回復率column

Update:2023.10.15

統合失調症 治療に要する期間と回復率とは

統合失調症の治療にかかる期間は症状の重症度や個人の特性により異なりますが、通常は数年から長期間にわたります。回復率は治療法や早期の介入、個人の適応力に影響を受け、約25-30%が完全に回復し、50%以上がある程度の症状軽減を見せることがあります。しかし、一部の患者は症状が残ることもある。

統合失調症 治療に要する期間と回復率

目次

電気けいれん療法

 電気けいれん療法は、かつては「電気ショック療法」と呼ばれ、薬物療法が登場する前は、躁うつ病や統合失調症の有効な治療法として、世界中に広まりました。しかし、「電気を通す」「ショックを与える」といった恐いイメージがあって、敬遠されがちでしたが、現在では麻酔医の管理のもとに行われる安全な治療法として実施されています。なぜ、頭部に通電すると効くのか、その理由は解明されていませんが、これまでの治療歴から効果が認められています。抗精神病薬が開発されてからは、以前のようには行われませんが、薬物療法だけでは対処がむずかしい場合に選択されています。

この電気けいれん療法は、医療機関によっては「修正型電気けいれん療法」「無けいれん電気刺激療法」「無けいれん電撃療法」などと呼ばれています。全身麻酔をかけて、眠っている間に行うので、患者さんが苦痛を感じることはありません。また、筋弛緩剤を用いるので、治療中に全身のけいれんが起こらず、骨折や脱臼などの合併症も予防できます。治療器も技術的に進歩し、定電流短パルス矩形波治療器が使われるようになり、より安全に治療することが可能となりました。

《電気けいれん療法が適していると判断される場合》

  • ・自殺行為をたびたび繰り返す患者さんを、緊急に治療しなければならない場合。
  • ・薬の副作用などが強く現れ、薬が使えない患者さんで、電気けいれん療法の方が効果が高いと考えられる場合。
  • ・精神症状のため、身体の疲弊が激しい場合。
  • ・薬物療法ではなかなか治らない場合。
  • ・高齢や妊娠中などのため、薬物療法よりも高い安全性が必要な場合。
  • ・以前に効果が認められた場合。

《電気けいれん療法の治療手順》

  • ①医師は、事前に患者さんや家族に、この治療法のメリット、デメリットを説明し、理解と同意を得ます。
  • ②患者さんに対しては、各種血液検査や心電図、胸部エックス線撮影、頭部CT撮影などの検査を行い、治療をするのに問題ないことを確認します。
  • ③電気けいれん療法を行う前には絶食し、点滴をします。
  • ④手術室、またはそれに準ずる部屋でおこなうため、予期しない変化が起きた時は、すぐに対応ができます。
  • ⑤患者さんの血圧、体温、心電図、脳波など、全身の状態を管理チェックしながら行います。
  • ⑥呼吸管理は、酸素マスクをつけて行います。
  • ⑦はじめに、10分程度の持続効果のある麻酔を行い、けいれんを防ぐため筋弛緩薬を静脈注射します。
  • ⑧精神科医が、患者さんの額の部分に、約100ボルトの電気を約5秒間通電します。
  • ⑨けいれんは起こりませんが、けいれんが起きたときと同じ変化が脳に起こっていることを、脳波計で確認します。
  • ⑩通電後、約1時間は患者さんの意識がもうろうとした状態になります。その間、医師や看護師が経過を観察しています。患者さんの目が覚めて、意識がはっきりしてきたら、電気けいれん療法は終了です。 

 このような治療を、週2~3回行い、それを3~4週間続けるのが通常のパターンです。この電気けいれん療法は、医療機器や技術の進歩もあって安全な方法であり、患者さんによっては薬よりも効果があります。ただ、緊急を要する患者さんは一般に症状が重く、治療について検討することも困難で、インフォームド・コンセントが難しい場合があります。こうした問題をクリアして、電気けいれん療法を受けたいと希望する場合は、主治医に相談してみてください。

薬物療法と併用する治療法

 統合失調症の治療は、抗精神病薬をベースにした薬物療法を維持しながら、平行して薬以外の治療法が必要となります。患者さんは、発病したことで精神的に傷がつき、自信や自尊心を失っていることが多いです。また、学校や職場、家庭で生活するための機能や認知機能が低下しているため、人とのつき合い方や情報の受け取り方が適切にできないなど、問題を多く抱えています。このような精神的・社会的な困難は、薬だけではなかなか改善できないため、薬以外のさまざまな治療法を併用する必要があります。薬と併用して行う治療法は、大きく分けて「精神療法」と「心理社会的療法」の2つです。精神的な面からのサポートと、社会生活への適応面からのサポートは、患者さんの症状や状態に合わせて行われます。普通、実施時期は急性期の後半ころから治療のプログラムをつくり、回復期から安定期にかけて、治療法を組み合わせて行われます。薬物療法と併用することによって、再発率が低下することがわかっています。薬以外の治療法には、次のようなものがあります。


【精神療法】

 精神療法とは、医師(精神科医)がいろいろな方法で、患者さんに働きかけを行う治療法のことをいいます。その方法には、精神分析療法、催眠療法、自律訓練法、森田療法などさまざまありますが、統合失調症の場合は「支持療法」と呼ばれる方法で行います。支持療法は、患者さんを精神的にバックアップする一種のカウンセリングです。患者さんが、日々の生活の中で感じている不安や、悩み、孤独感、心配ごとなどについて一緒に考え、解決の糸口を探していく作業のことです。

この療法は、あくまでも会話(言葉)を介して行われ、医師と患者さんとのコミュニケーションによって成立する治療ですので、お互いに相性も大切になります。支持療法の目的は、解決策を見つけることではなく、患者さんの不安解消や精神の安定をはかることにあります。したがって、患者さんが医師とやりとりする中で、不安が解消されたり、心が落ち着いてきたりしたら、支持療法の効果が現れてきたものと考えてよいでしょう。

医師は面談や診察で患者さんと会うときは、常に支持療法の観点から、さまざまな話しをしていきます。例えば、患者さんの中には「自分は統合失調症ではない。だから薬も必要ない」と考え、薬を飲みたがらない人がいます。こういう場合、いかに患者さんに「自分が病気である」ことを理解してもらうか、つまり「病識」をもっていただくか、というお話をしていきます。例えば、夜眠れなかったり、疲れたり、周囲となじめず孤独感を感じているような患者さんの場合、どうしたらそれを治せるか、という角度から話を進めたりしていきます。あるいはまた、幻聴が聞こえたり、被害妄想に陥っていたりする患者さんには、そのことの善し悪しよりも、いま自分がどんな環境にあるのか、家族との関係はどうなのか、といったような患者さん自身の状態を理解してもらうように話をすることもあります。

患者さんの病気には、家族など身近にいる人の精神状態が大きく影響します。統合失調症に対する社会の誤解や偏見が根強くあって、家族は不安や問題をかかえていることが多いものです。家族に対しても医師のバックアップが必要ですので、患者さんへの接し方、患者さんを抱えているために起こるトラブルやストレスがあれば、どんなことでも話の中で医師に伝えることが大切です。悩みや問題はさまざまで、病気によるトラブル、薬の副作用、家庭環境、本人の性格、人間関係などの要因が複雑にからまり合っています。したがって、医師は面談している短い時間の中で、患者さんの表情やしぐさ、何気ない世間話などから、背景にあるいろいろな要因を探り、医師の目で分析し、整理しながら話していきます。支持療法は、医師と患者さんのコミュニケーションの積み重ねによって、より適切なカウンセリングが出来るのです。

このほかの精神療法として「ピアカウンセリング」というのがあります。“ピア”とは“仲間”という意味で、患者さん同士が話し合う療法です。患者さんにしか分からない悩みや体験を共有したり、克服した人の体験談を効いたりすることで、回復への希望をもってもらうことが目的です。

【作業療法とレクリエーション療法】

 作業療法は、リハビリテーションとしては長い実績があり、長期入院の患者さんや退院後のデイケアなどでも、中心的なプログラムです。作業療法の目的は、障害を改善し、患者さんのQOL(生活の質)を高めるところにあります。統合失調症においては、精神状態の安定や対人関係の改善をはかりながら、基本的な日常生活や社会生活への援助を行います。具体的な技能を訓練する生活技能訓練(SST)と比べると、作業療法にはレクリエーションや趣味的な楽しみの要素もあって、体を動かすことが中心になります。具体的には、次のようなことを行います。

  • ・レクリエーション(絵画、陶芸、木工、室内ゲーム、料理、散歩など)
  • ・室内での作業(造化作り、袋詰め、折り箱作りなど簡単な作業)
  • ・屋外での作業(園芸、農作業など)
  • ・その他(パン作り、印刷、クリーニングなど。これらの設備をもち、実際に作業を行っている施設)

 この作業療法は、社会復帰に役立つ職業技能を身につける訓練ではなくて、あくまでも患者さんが「より良い生活を送る」方法を、療法を通して身につけることが狙いです。中には「ゲームをしたり、絵を描いたりすることが、どうして治療になるのか?」と思われる方もいますが、統合失調症という病気は、遊んだり楽しんだりする喜怒哀楽の感情が乏しくなる病気ですので、もう一度ゲームや絵画などを通して、楽しんだり、熱中したり、充実感や達成感を味わうことができたら、それが治療効果となって、健康な心を取り戻すことにもなります。したがって、自分が興味を持てそうなことから始めるのが良いのです。実際の作業療法は、患者さんの症状や回復状態に合わせて、次のようないろいろな目標設定ができます。

  • ・毎日決められた時間に参加することで、病気のために不規則になっている生活のリズムを改善する。
  • ・他の患者さんと交流することによって、苦手としている対人関係を経験したり、協調性を学ぶ。
  • ・一つの作業を続けることによって、持久力や集中力を学び、まとまりにくい思考や行動を調整する。
  • ・作業に熱中することで、幻聴に気をとられる時間を少なくする。

 以上のような目標を掲げても、実際はなかなか思うように事が運ばないこともあります。最初は、勧められて何となく始めてみたところ、そのうちに居心地がよくなり、作業がおもしろくなって、やがて不安感や憂うつ感がやわらぎ、幻聴が聞こえてきても気にならなくなる、というところまでくれば効果が実感できるようになります。「つまらない作業ばかりやって、何の役に立つのだろうか」と思いながら、ただ無理して仕事をこなすだけなら意味がありません。強制的な作業は、ストレスとなって逆効果になります。作業療法は、ストレスに耐える訓練ではなく、不安や悩みを自分でうまく受け止めて、自分なりに解決する方法を体得するところに目的があるのです。

【生活技能訓練】

 生活技能訓練は、SST(Social Skills Training)と略語で呼ばれます。患者さんが社会で自立した生活が送れるように、日常生活のさまざまな場面を想定して再学習し、学んだ事を実際の生活の場で応用できるようにトレーニングします。SSTは、次のようなスキル(技能)になっています。

  • ①日常生活技能…食生活や身だしなみ、金銭管理などを行うために必要な技能を身につけます。
  • ②疾病自己管理技能…服薬を正しく自己管理し、副作用や注意すべき精神症状を把握する技能を身につけます。
  • ③社会生活技能…日常生活に必要な道具を使う技能、対人情緒的な技能を身につけます。

 具体的には、食事の作り方や後片付けをする、お風呂に入って体を清潔にする、衣服をきれいに保つ、洗濯をする、お金の管理をする、薬をきちんと飲む、自分の症状を医師や相手に伝える、人とのつき合い方、挨拶の仕方、余暇の過ごし方、地域生活への再参加の仕方、愛情や結婚生活、友情の維持を目的とした対人関係の作り方などを習得します。

トレーニングの方法は、まずビデオなどで必要な知識や対処の仕方を学び、ロールプレイングを通して適切な行動を学びます。次に、実践の場面に移し、実際にその場で練習をするといった方法で進められます。毎日の生活で必要な身の回りのことをトレーニングして、苦手な状況に慣れ、患者さんが社会で自立した生活ができるようにしていきます。


【心理教育的家族療法】

 この療法は、患者さんの家族に対して、医師や医療スタッフが、統合失調症の正しい知識や疾患特有の問題行動などについて、対処の仕方や教育をおこなうものです。患者さんが入院後、比較的早い段階から始めたり、回復期から始めたりして、数回に分けて行われるのが一般的です。家族が、統合失調症に対して理解を深め、患者さんとの接し方を学ぶことによって、病気に対する不安がやわらぎ、患者さんとの関係もよくなるケースが多く見られます。それによって、患者さんの再発予防や社会復帰にも効果がります。さらに、同じ患者さんを抱える家族が、お互いに支え合う場として、患者さんの家族が複数参加する「家族グループ」もあります。家族教室、家族会、家族ミーティングなど、いろいろな名称がつけられています。


【認知行動療法】

→認知行動療法の詳細についてはこちら

 この治療法は、ある出来ごとに対する患者さんの解釈の仕方に介入し、さまざまな手法によって、受け止め方や行動を変えていくことによって、回復につなげていく療法です。治療の対象は、患者さんが苦手としているさまざまなことです。たとえば、対人関係、服薬の自己管理、好きでない状況を避けること、精神症状への対処の仕方、認知機能の改善などです。ただし、テーマによっては、生活技能訓練(SST)や、包括型地域生活支援プログラム(ACT)によって治療を行っていきます。

また、精神症状の対処については、症状別のアプローチが開発されています。例えば、幻覚や妄想は、頭の中から聞こえてくる声が真実だと思って「恐い」「監視されている」と受け止め、その場から逃げ出したり、奇異なことを話したりしますが、しかし別の解釈に切り替えて受け止めることができれば、その後の行動も改善されていくはずです。認知行動療法は、患者さん側に立って、症状を客観的に受け止められるように働きかけて、症状の改善をめざします。

【認知矯正法・認知適応法】

 認知矯正法とは、認知機能そのものに働きかけて、低下した機能の改善をめざすトレーニングです。実際に、ドリルやコンピューターソフト、ゲームなどを使って学習します。簡単な課題から少しずつ難易度をあげていき、課題が正しくできたときには褒めるなどして、教育心理学で重視される内発的動機づけを高める工夫をしながら、認知機能の改善をめざします。内発的動機づけというのは、その課題を行うこと自体が楽しいといった、内面から生じる動機づけです。具体的には、患者さんがやり甲斐があると思うゲームで遊び、そのゲームの難易度は患者さん自身で調節できます。そして、グループミーティングを行って、ゲームに取り組むことが、日常生活の行動の改善とどうつながるのか、などについて話し合いをします。

次に、認知適応法については、患者さんが生活する環境に修正を加えて、認知機能の障害を補うものです。たとえば、記憶に障害があって、歯磨きや洗面を忘れてしまう患者さんでは、洗面所に歯磨きや洗面の手順をわかりやすく描いた図やメモを貼っておきます。生活の環境をこのように変えることで、認知機能への負担を軽減し、患者さんは日常生活が送りやすくなり、症状の軽減や社会機能の改善効果が期待できます。

【デイケア】

 これは、通院中や退院した患者さんを対象にしたリハビリテーションで、「生活のリズムを取り戻したい」「自宅以外にも過ごす場所が欲しい」「人付き合いに自信を付けたい」「仕事に通う体力をつけたい」などの目的で通います。デイケアの大切な要素は、人とのふれあいです。グループの中で、自分の意見を伝えたり、話し合ったり、また仲間と一緒に楽しんだり悩んだりする経験の中で、患者さんは対人関係を自然に学んでいきます。毎日でなくても、通ううちに少しずつ規則的な生活が身についていきます。また、人と会い、体を動かしたり、作業したり、グループ活動していくうちに、気持がだんだん外の世界に向いていき、次のステップに移りやすくなります。

  • ・プログラム……プログラムには、病院生活技能訓練(SST)、ゲーム、スポーツ、レクリエーション、話し合い、料理、手芸、園芸、陶芸、創作、季節の行事などがあります。すべてのプログラムをする必要はありません。自分が楽しくできることから始めます。病院でのデイケアは、医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理士などがチームを組んで行っています。
  • ・場所……病院、診療所(精神科クリニック)、精神保健福祉センター、保健所などで行われています。自宅からどのようにして通うのか、徒歩、自転車、バス、電車など、施設によって異なりますが、交通機関を使うのも一つのリハビリテーションになります。
  • ・利用時間……病院で行われているデイケアは、だいたい1日6時間、週3~6日程度です。保健所のデイケアと比べると、回数が多くなっています。施設によっては、夕方から夜にかけて行うナイトケア、朝から夜まで行うデイナイトケアもあります。
  • ・規模……大規模デイケアでは1日50~70人、小規模デイケアでは1日30人以内です。規模によって、医療費の点数が違います。
  • ・費用……保健所では無料ですが、その他の施設では医療費の個人負担があります。
  • ・利用期限……施設によってさまざまですが、特に期限を設けないところも増えています。デイケアを必要とする期間は、人によって異なりますが、半年か1年ごとに継続するかどうか決めていきます。
  • ・窓口……主治医と相談して、適当な施設を探してもらうか、または地元の保健所や生活保護担当窓口、精神障害者家族会、精神保健福祉センターなどで地域の施設を紹介してもらいます。

【包括型地域生活支援プログラム(ACT)】

 このプログラムは、通いながらの従来型の医療サービスでは、地域での安定した社会生活が難しいという患者さんを対象に、満足度と質の高い生活ができるように支援しようという取り組みのことです。支援するスタッフは、精神科医や看護師のほか、保健福祉のスタッフ(保健師、作業療法士、精神保健福祉士、ソーシャルワーカー、ケースワーカー、臨床心理士、職業カウンセラーなど)からなるチームが、1人の患者さんに対して、集中的・包括的にケアマネージメントを行います。内用は、医療相談、日常生活の相談、家事や家族の支援、公共機関の利用、就労支援など多岐にわたっています。スタッフは、地域で生活する患者さんを積極的に訪問し、ニーズに合わせた柔軟なサービスの提供に努めます。24時間、365日対応し、夜間・休日でも連絡があれば訪問する態勢になっています。1人の患者さんを、多方面からサポートすることで、地域で生活が続けられるようになり、また再発を防ぐことにもつながります。


入院制度と患者さんへの対応

入院したがらない患者さんへの対応

 統合失調症は、発病または再発して、どうしても入院しなければならないほど悪化することがあります。幻聴や被害妄想が現れ、興奮が激しくなるような強い陽性症状が現れた場合には、自宅治療は無理で入院する必要があります。しかし、患者さん本人が入院したがらない場合がよくあります。入院を拒否している場合は、だいたい重症になっていることが多く、説得することが難しくなります。強くすすめると、患者さんは自分を陥れようとしていると考え、疑心暗鬼になって一層いきりたってしまうことがあります。 

そんな時は、まず「専門家(医師)の意見を聞いてみよう」という説得の仕方があります。入院させたいあまり、家族や周囲の人はともすると批判的な言い方をしてしまうことがあります。たとえば、「周りから見ていると、あなたはおかしいよ、入院して治療したほうがいい」という言い方をすると、患者さんは自分を否定されたように感じて、ますますかたくなになってしまいます。「具合が悪そうに見えるが、治療が必要かどうかは、私は専門家でないからわからない。とても心配なので、一度医師に診てもらって、医師がなんでもないと言ったら、あなたも安心だし、私も安心なの」という言い方ならば、問題ないでしょう。つまり、入院が必要かどうかを判断するのは、専門家であるということを、患者さんに分かってもらうことです。

説得するもう一つの方法は、「健康状態を調べてもらおう」という言い方です。統合失調症が悪化してくると、睡眠障害が最もよく現れる症状の一つです。不眠は、自律神経系にも影響するため、実際に体調がよくないことが多いです。この体調不良をきっかけにして、健康状態を調べてもらおうと勧めてみます。精神科医だと警戒心がありますが、内科や外科の医師だったら、それほどに抵抗なく応じることが多いようです。まず本人が困っている症状で受診して、後は診断した医師によって入院の必要性を判断してもらうというものです。

このほか大事な点は、家族の入院に対する意見を統一しておくことが、非常に重要です。また、本人が入院したがらない時、家族だけが病院へ行って相談する方法もあります。医師としても、最初に家族から本人の状態を聞いておくと、よりよい形で入院ができるように一緒に考えてくれます。  

任意入院

 入院は、患者さんの人権の上からも、また治療をスムーズに効果的に進めるうえからも、本人の同意を得て入院する「任意入院」が望ましといえます。任意入院は、原則的には一般の自由入院と同じで、本人が退院したいと思えば、いつでも退院できますが、ただし例外があります。つまり、本人が退院を希望しても、72時間に限り、退院を制限したり、閉鎖病棟で治療を続けたりしなければならない場合があります。72時間という時間は、精神保健指定医が入院の継続が必要かどうかを診断したり、今後の治療について家族と連絡を取り合うために要する時間です。ここで、医師がさらに継続して治療をする必要があると判断した場合、家族の同意を得て「医療保護入院」に切り替えることもあります。行動制限の措置はできるだけ使わないようにして、患者さんの意思を慎重するように考えています。

強制入院

 本人の了解が得られないまま行うのが強制入院で、この中には「医療保護入院」「措置入院」「応急入院」「仮入院」の4つがあります。

医療保護入院
家族や医師が説得しても、本人の同意が得られない場合は医療保護入院という形をとります。ただし、障害者の人権を守るという観点から、これを適用する場合は注意が必要です。その時点で、入院しなければ本人の治療が出来ない場合、そして本人や家族を保護しないと、深刻な事態が予想される場合のみ入院の対象になります。そこで医療保護入院させるためには、精神保健指定医が診察し、本人の代わりに保護者が入院に同意する必要があります。

措置入院
入院をさせないと、自分を傷つけたり(自傷)、他人に危害を与える(他害)おそれのある精神障害者を入院させる制度です。本人や保護者の意思に反しても、都道府県知事の権限で行えます。入院期間は、障害者に自傷他害のおそれが消えるまでの期間です。

応急入院
精神保健指定医が、ただちに入院の必要があると判断した場合です。入院させないと、医療保護がとれない障害者を、本人や保護者の同意が得られなくても、72時間に限って入院させる制度です。入院は、応急入院指定の病院に限られます。

仮入院
精神保健指定医が診察した結果、精神障害の疑いがあるものの、診断確定には相当の日時が必要と考えられる患者さんに適応されることがあります。本人の同意がなくても、保護者や後見人などの同意があれば、1週間を超えない期間で入院させることができる制度です。

入院治療と家族の対応

急性期の治療と家族の対応

 入院しなければならないほど、病状が悪化しているとき、患者さんの脳は激しく疲労し、消耗しています。この急性期の疲労し消耗した脳を休ませ、傷ついた神経細胞を修復することが第一です。その役割を担っているのが、抗精神病薬です。薬は神経細胞の情報伝達を行う部分に作用し、情報の伝わる量をコントロールします。服用だけで効果が現れない場合は、注射薬を使う場合もあります。いずれにしても、患者さんはしっかり休息して、睡眠を十分にとることが重要となります。そのためには、薬物の助けを借りてでも、睡眠は十分に確保しなければなりません。そして、余分な情報が入ってこないようにするためには、静かな環境が必要になり、入院生活はこのような安息と静養のための環境が確保されている場といえます。 

急性期の患者さんは、性格が変わってしまったように思えるほど、言動が奇異になります。こちらから話しかけるとそれを避けたり、「私の悪口を言っている!」といって攻撃されたりすることがあります。家族としては、こういう患者さんを見ていて、つらい思いの連続です。介護の疲労が重なって、自宅ではもうこれ以上めんどうを見ることが出来ない状態になります。入院という治療システムは、患者さんのためだけではなく、家族のためにもあるのです。

そうは言っても、やはり一番辛い思いをしているのは患者さん本人です。入院直後は「自分は家族から見捨てられた」という心の傷を負いながら、病院という新しい環境に合わせていかなければならない負担を感じているのです。こうした患者さんの思いを、家族の人は理解してあげなければなりません。患者さんを苦しめている幻覚や妄想の症状は、神経細胞の激しい疲労と消耗によるもので、薬物療法によって神経ネットワークが補強されれば、いままで元気だった状態に必ずなれると確信することです。しかし、回復するまでは神経細胞の疲れが癒えていないので、面会の際の会話は、ゆっくりおだやかに話しましょう。伝えたいことがいっぱいあっても一つにし、込み入った内容の話は避けましょう。

消耗期の治療と家族の対応

 病気のピークが過ぎて、消耗期に入るころになると、激しい症状は治まり、よく眠れるようになって食欲も少しずつ出てきます。家族にとっても一安心できる時期ですが、失われてしまった精神的なエネルギーや体力は、まだ減退したままです。この消耗期は、脳や体の活動性はまだ鈍い時期です。急性期に発散されたエネルギーはそれほど大きく、急性期に薬の量が多かった人ほど、また急性期が長く続いた人ほど、消耗期は長くなります。無気力で元気がないように見えますが、しかし患者さんの中では少しずつエネルギーが蓄えられていく時期でもあります。はたから見ていると、ゴロゴロ横になって、食べては寝るという繰り返しのように見えますが、しかしこの時期はこれでいいのです。焦らずに時間をかけていくことが大切です。はやる気持は禁物です。活動を増やし、具体的な結果を求めようとして動いてしまうと、かえって状態が悪くなることがあるので、十分に注意します。回復については、慎重に待つようにしましょう。

治療面ですが、急性期に使っていた薬の量はだんだん減らす方向で調整していきます。ただし、減らし過ぎて症状を悪化させないように気を配ります。引き続き、休息と安息のための静かな環境を確保します。家族の対応としては、「待つこと」と「見守る」ことです。怠けていると言って叱ったり責めたりすると、回復とは逆の方向へ追い込んでいくことになります。どっしり構えて、長期的に見守っていきましょう。

回復期の治療と家族の対応

 回復期になると、消耗期(安息期)で蓄えたエネルギーをだんだん使えるようになります。自分の世界に閉じこもっていた人も、周囲に目を向けれるようになり、活動範囲が広がってきます。ただ、あれもこれもすべて出来るわけではなくて、まだまだ患者さんの興味をもてる範囲になります。周囲は、少しでも「出来るようになった」ことを評価し、「まだこんなことが出来ないの」と思わないことです。薬の治療は続けますが、量はだいぶ少なくなります。デイケアなどに通って、リハビリテーションを無理のない範囲で始めていきます。家族も、本人の退院に向けて、再発しないように心を配り、強い刺激を与えないような静かな家庭環境をつくっていくことが大切です。決して就労など焦らないことです。今の状態を維持しながら、回復を待ちましょう。

退院後の注意点

 ここでは、退院後の注意点について考えてみます。長い療養生活を終えて、無事に退院することができても、病気が完全に治ったわけではありません。統合失調症の症状には波があり、再発をまったくゼロにすることは、かなり難しいことです。多少のぶり返しは、どうしても起こってしまいます。なぜ再発するのかについては、はっきりとした理由はわかっていません。統合失調症の場合、再発をなくすことよりも、「再発の回数を減らす」「起こっても軽く済ませる」ことを考えた方が重荷にならないと思います。したがって、あまり悲観的にならずに、再発を怖がらず、多少あるとわかったうえで退院後を過ごすことです。あらかじめ、そのような心の準備をしておけば、少しぐらい何かあっても、大きなストレスにはなりません。患者さんも家族も、この病気への認識を共通にしておくことが、再発のリスクを最小限にすることができるのです。退院後の注意点を次にまとめました。

①刺激の少ない環境を保つ
患者さんにとって、ストレス刺激が一番よくありません。退院後は、おだやかな気持で過ごせる環境をつくることです。かといって、全く刺激のないのもよくありませんが、過度な刺激や変化だけは避け、軽い無理のない範囲での生活スタイルを工夫してください。
②毎日、決まった生活
生活上の変化が、ストレスの大きな要因になります。これを避けるには、毎日の生活スタイルを決めておいた方が良いのです。それには、日々のスケジュールを決めておいて、出来る限りそれに合わせて暮らすようにします。つまり、次に何をするのか分かっている生活にするのです。何時に食事をし、掃除や片付けは何時にし、散歩や趣味の時間は何時にするのか、その手順どおりに暮らすのが良いでしょう。
③家族同士が刺激しない
家族に病気の人がいると、不安や悩みを抱えるのは当然ですが、同じように患者さん自身も不安や悩みをもっています。そこで、家族や周囲の人は、感情をあらわにしないで、一拍おくくらいのゆとりをもって、患者さんに接することが大事です。再発に関する調査でも、「家族の対応が感情的で表現が激しいと、患者さんはそのストレスに耐えられず、再発する場合が多い」という報告もあります。

④薬をきちんと飲む
再発するケースをみると、ほとんどの患者さんが薬を飲むのを怠っています。薬への抵抗感が強いこともありますが、自己判断で薬を止めてしまうのが一番危険です。どんなに調子がよくても、修復作業は続いていて、まだ終わっていないのです。途中で止めてしまえば、当然ながら再発は覚悟しなければなりません。

治療に要する期間と回復率

改善、回復が可能な病気

 長年、統合失調症は「精神分裂病」と呼ばれ、発病したら一生入院生活を送らなくてはならず、いずれ人格が荒廃してしまう不治の病と言われてきました。このような社会の偏見が根強くあり、病気に対する誤ったイメージが刷り込まれてきたことも事実です。このことが、医療の現場においては、発病した本人や家族に病名も告げられず、病気への理解が進まない中で、治療も思うに任せない状況が続いていました。しかし、転機となったのは、2002年でした。病名がこれまでの「精神分裂病」から、「統合失調症」に改められたことによって、これまでの暗い否定的なイメージが変わり、統合失調症も普通の病気の一つであることが徐々に理解されてきたのです。

一方においては、よい薬の開発がどんどん進み、病状に応じて薬の選択も可能となり、症状の改善が可能となりました。さらに、薬物療法と非薬物療法の組み合わせによる治療法も普及したことによって、病状の回復と社会参加も可能となったのです。そして、回復後も薬物療法とリハビリテーションを続けていくことで、ストレスが軽減でき、再発の予防もできるようになりました。こうして、統合失調症という病気は、もはや不治の病ではなく、医療でもって十分にコントロールできる病気の一つなのです。糖尿病や高血圧症などと同様に、きちんと治療をしていけば、普通に社会生活を続けていくことができる疾患の一つです。他の疾患と同様に、病気の前兆に早く気づいて、気軽に医療機関を受診していけば、早期発見・早期治療が可能となり、改善、回復、社会復帰への道が大きく開かれています。


予後について

 統合失調症は、患者さん一人ひとりによって、症状の程度や薬に対する反応などが異なるため、必ずしもすべての患者さんに標準的な治療があてはまるわけではありません。したがって、病気の回復状況もそれぞれ異なっています。チオンピ博士が、1976年に行った30年にわたる長期予後調査によると、「回復」と「軽度」の障害の状態と判断された人は、合わせて49%にのぼっています。また別の調査によると、初回入院のあと5年間安定した生活を続けられた人の場合、68%がこの予後良好群に入るとの結果もあります。さらに、適切な薬物療法とリハビリテーションが行われた場合は、回復の度合いはさらに良好です。

また、ハーディング博士が1987年に実施した30年間の長期予後調査によれば、適切な薬物療法とリハビリテーションの組み合わせで、40%の人が過去1年間に就労経験をもち、68%の人においてほとんどの症状が消失し、73%の人が充実した生活を送っていると報告しています。

このほかの研究では、まず短期的な予後において、抗精神病薬の服薬が適切になされているかどうかが、予後に大きな影響を及ぼすとしています。統合失調症を初めて発症して寛解したあとに、予防的に抗精神病薬を服薬しないと、1年以内に70~80%の高率で再発するといわれています。一方、長期的な予後に関しては、3分の1の患者さんに顕著な改善がみられ、もう3分の1の患者さんはある程度改善するが再発もすることがあり、残りの3分の1の患者さんは重篤な障害を残すと言われています。

なお、早期の治療が行われることが多くなってきた今日において、症状が現れてから薬物治療を開始するまでの期間(精神病未治療期間)が短いと、予後が良いことが指摘されています。このことから、長期経過の面でも早期発見・早期治療がより大切なことがわかります。病型別に予後をみてみると、緊張型や妄想型では、幻覚・妄想などの陽性症状の方が抗精神病薬に反応しやすく、予後も一般的に良くなっています。これに比べて、破瓜型や単純型などの陰性症状では、治療の効果が得られにくいためか、予後も悪くなっています。早期の治療が進められる中で、最近は重症例が少なくなっている印象があります。男女別でみると、男性の方において予後不良が多く見受けられます。