発症しやすい年代
統合失調症は、現在ではおよそ100人に1人がかかる頻度の高い病気です。発症する年代は、主に10歳代後半の思春期から青年期の30歳代にかけて多い病気で、ピークは10歳代後半から20歳代にかけて最も多く発症しています。中学生以下や40歳以降の発病は稀です。発症の頻度にそれほど男女差はありませんが、発症年齢では女性の方が男性よりもやや遅めです。発症のきっかけは、進学や就職、独立や結婚など、人生の進路が大きく変化するときに多くみられます。
社交不安障害を一言でいえば、社会での交際の場や人前や観衆の前で何らかの行為をするとき、強い不安や緊張、恐怖を感じたり、またその状況を避けたりすることによって、日常生活に支障をきたす病気のことです。社交不安障害の人は、人前で常に恥ずかしい思いをしたり、困惑したり、悪い評価をされるのではないかと心配をしたり、他人にじろじろ見られているのではないかという不安に陥っています。病気ではない人においても、人前で何か行為をしようとすると、神経質になったり、内気になったり臆病になったりすることはよくあります。ある研究によると、人口の約40%の人は慢性的に「恥ずかしい」という不安の気持ちを常に持っているといいます。社交不安障害と診断される人は、この「不安」症状が普通の人と比べて顕著で持続的であるという点が特徴的です。それゆえに、強い苦痛を伴い、職業や学業、人間関係をはじめとする日常生活の機能全般に支障をきたすことになります。社交不安障害の人が、しばしば不安や恐怖を感じる場面というのは以下のような状況においてです。
統合失調症とはどんな病気?
統合失調症は、「幻覚」や「妄想」という症状が特徴的な精神病です。この幻覚や妄想は、統合失調症の基本的な症状として初期にはよく現れますが、しかしそれだけではなく、この病気の本質的特徴は他にあります。特に顕著なのは、日常生活や社会生活における障害です。他人と交流しながら家庭生活や社会生活を営むという機能が障害されます。と同時に、「自分の感覚・思考・行動が病気のために歪んでいる」という病識の障害も併せもっているため、物事を反省的に考えることが難しくなります。これらの障害によって、日常生活そのものが不安定で生きづらくなるのが、この病気の特徴です。
たとえば対人関係でいうと、数人と話し合っているとき、話の内容が何をさしているのか、その場の流れがどうなっているのか、自分はどう振る舞えばよいのか、といったことがわからなくなってきます。そのため、きちんとした対応ができなくなり、的外れな言動をしたりします。また日常生活面では、服の着替えや料理などをする場合、一連の作業を順序立てて行ったりすることが苦手になり、手順や順番を忘れたり、思い出せなくなったりします。このように、日常生活が常識的で、当たり前のことができなくなった苦しみこそ、統合失調症の苦しみそのものなのです。
次に症状面の特徴としては、「陽性症状」と「陰性症状」の二つがあります。陽性症状とは、幻覚や妄想、興奮状態のことです。これは、誰の目からみてもわかる症状で、狂気をイメージさせ、いかにも精神を病んでいることを思わせます。一般に統合失調症というと、この症状をさしていう場合が一般的です。一方の陰性症状は、自発性が乏しく、感情の表現が鈍く、人付き合いが苦手になります。精神の柔軟性が失われますので、一日中部屋でぼんやり座り込んで無為に過ごし、自分だけの世界に閉じこもる日々が続きます。統合失調症では、病気の初期は陽性症状が現れ、長期化することによって陰性症状になって行く傾向が一般的に多いです。もちろん例外もあります。
以上のことから、統合失調症の病態を一言でいうと、はっきりとした直接の原因がないのに、考えや気持がまとめられなくなり、その状態が長く続き、そのため言動がぎくしゃくして困難や苦痛を感じるようになって、回復に治療や援助が必要になる病気です。
原因は?
統合失調症を引き起こす根本的な原因については、今のところはっきりわかっていません。これまでにおおむね認められているのは、母親の胎内にいるとき、ウイルスに感染したり、分娩時外傷などによって、脳に何らかの障害を受けたりしたときに起こることがあります。あるいは、両親から脆弱な体質を受け継いで、そこに心理的、社会的、身体的なストレスなどが加わって、相互に作用して起こるのではないかと考えられています。つまり、原因は一つではなく、いくつもの原因がくみ合わさって発症するものと思われます。
これまでの研究で、統合失調症のリスク因子として挙げられているものに、「遺伝」「脳内の神経伝達物質の乱れ」「心理的、社会的なストレス」などがあります。遺伝についてですが、一般的に統合失調症の発病率は0.7~1.0%とされていますが、父母のいずれかが統合失調症の場合はその約10倍、両親とも統合失調症の場合はさらに高く、約40倍の発病率となっていることから、遺伝が統合失調症と関わっていることは確かなようです。とは言っても、血友病や筋ジストロフィーなどのように、明らかに遺伝形式がわかっているというのではありません。何らかの遺伝的因子が関与していても、発病するには他の因子も関わっているものと考えられます。
脳内の神経伝達物質の乱れについては、ドーパミンという神経伝達物質が、統合失調症を引き起こす原因物質になるのではないかという「ドーパミン仮説」があります。これは、統合失調症の治療に使われる抗精神病薬のクロルプロマジンによって、幻覚、妄想、興奮などの症状を改善できるようになり、その後の研究で、この薬がドーパミン受容体を阻害して、ドーパミンの情報伝達を遮断し、統合失調症の症状を緩和させていることがわかったのです。このことから、ドーパミンが統合失調症を起こす発現物質ではないかと考えられるようになったのです。しかし、この考えは統合失調症のすべてを説明することができず、まだ仮説の域を出ていません。もうひとつの因子である心理的、社会的なストレスについては、これらが重なると発病するケースがあります。ただし、ストレスは病気の再発には影響しますが、統合失調症を引き起こす直接の原因にはならないようです。
治療と回復への方途
統合失調症は、多くの精神疾患と同じように、慢性の経過をたどりやすく、その間に幻覚や幻想が強くなる急性期が出現します。しかし、新しい薬の開発や心理社会的ケアの進歩によって、初発患者さんのほぼ半数は、完全かつ長期的な回復が期待できるようになりました。統合失調症は、高血圧や生活習慣病と同じように、早期発見と早期治療が重要になり、治療も薬物療法をしながら、患者さんとその家族の協力によって、再発防止のための治療の継続がなによりも大切といえます。
病名変更の背景
統合失調症という病気は、以前は「精神分裂病」または「分裂病」と呼ばれていた病気のことで、2002年8月に「統合失調症」という病名に変更されました。この病気は、英語でSchizophrenia(スキゾフレニア)といい、「物事の考えをつなげる働きが障害されている」という意味の言葉であって、「精神が分裂している」という強い内容を含んだ言葉ではなく、したがって「精神分裂病」という名称はほとんど誤訳にちかいものでした。日本では、戦前の1937年から精神分裂病という病名を使い続けてきましたが、この病名はあまりにも患者さんの人格を否定する病名ではないかということで、1993年に全国精神障害者家族連合会が日本精神神経学会に変更を要望してきました。それがきっかけとなって、日本精神神経学会は「精神分裂病」を改めて「統合失調症」という病名に変更されたのです。
精神が分裂するというイメージは、一人の人間にいくつかの人格が存在する多重人格や、心が支離滅裂になる錯乱状態を想像する人もいます。多重人格は、ヒステリーの一種で、意識に亀裂が生まれる解離型が多重人格になるといわれ、統合失調症とはまったく別の病気です。錯乱状態においても、統合失調症がそこまでになることはまれです。このように精神分裂病は、誤解を与えやすい病名であったのです。一方、この病気に対する治療法の遅れも一因していました。有効な治療薬が発見されたのは1950年代のことで、それまでは統合失調症(当時の精神分裂病)に対する治療法といえるものがほとんどなく、重症化した患者さんは病院に収容されるしか方法がなく、人格荒廃になる患者さんも少なくなかったのです。このように統合失調症は、以前から悲観的な病気のひとつとして、暗いイメージを引きずっていたのです。
そのことは医療の現場においても難しい対応を迫られていました。医師は、患者さんに病名を告げる際も、「精神分裂病」という病名をそのまま告知することをためらったと言われます。患者さんや家族が絶望的になりはしないかと気づかったのです。今こそ、インフォームド・コンセント(説明と同意)は、有効な治療を進めるうえで重要な要素となっていますが、当時では病名を告げられない状況で、治療においても患者さんや家族の協力が得られないことにもなり、病気回復に向けて不十分な対応になっていたことも事実です。
統合失調症という病名に変更したことによって、ようやく特別な先入観や偏見もなくなりつつあります。そして何よりも、現在では副作用の少ない新しい抗精神病薬が開発され、症状がコントロール出来るようになりました。また、心理的、社会的なケアも進んで、過半数の患者さんが回復可能となり、再び家庭や職場や学校に復帰できるようになったのです。統合失調症は、克服可能な病気の一つなのです。
そもそも精神病(心の病)とは?
統合失調症は、心の病の一つです。「心」というと、一般に「ハート」と言いますが、ハートそのものは「心臓」のことです。どうしてハートが心なのかはさておいて、心は今日の医学では「脳」の作用と考えられています。つまり、脳の細胞が働いた結果とされています。とはいえ、心の病気はすべて脳に還元できるかといえば、必ずしもそうではないようです。さらにわからないのが、心の正常と異常の違いです。誰でも少しはずれたところがあって、どこからが病気で、どこからが正常なのか判断の難しいところです。これは現代の精神医学でも明確な答えが出ていません。人格障害や精神遅滞(知能の未発達)、異常体験反応(神経症)などは、正常な心とつながっていて、正常の偏りではあっても、精神病とは言えないのです。
では、精神病とは何かを、原因から分けると三つあります。一つは「器質性のもの」です。脳や体の障害が原因で起こる精神病で、たとえば脳の腫瘍、脳血管障害、事故による頭のケガ、甲状腺などの内分泌異常、脳炎やエイズなどの原因によって、重い精神病の症状が出る場合があります。このほか、覚醒剤や麻薬などの使用で精神症状が出ることもあり、なかでも覚醒剤による症状は、統合失調症と非常によく似ているのが特徴です。二つ目は「心因性」です。つまり、心理的な原因で精神病状態になるもので、その原因となる主なものは、大きな事故や災害にあった時、最愛の家族や友人を失った時、虐待やいじめを受けた時、また生死を分けるような体験をした時などで、それは人によってさまざまです。心因性の精神症状の特徴は、原因によって症状も異なり、原因が解決したり克服したりすると、症状もなくなります。中には、統合失調症とよく似た心因反応や短期反応性精神病があるので、注意する必要があります。三つ目は「内因性」です。内因性とは、原因がわからない場合の精神病のことで、体の内側から何らかの原因で起こってくる病気と考えられています。はっきりしたことはわかっていません。内因性の精神病の代表的なものが、統合失調症と躁うつ病です。
精神病は、主に知覚や思考の面で障害が出るのが特徴的です。まず、知覚障害の面では、五感(見る、聞く、触れる、味わう、嗅ぐ)の知覚のほか、実際にはない「幻覚」が現れることがあります。例えば、存在しない人の声が聞こえたりする「幻聴」や、ないものが見えたりする「幻視」です。次に、思考障害の面では、話が支離滅裂になったり、考えている途中で、誰かが別の考えを吹き込んできたように感じる「思考体験の障害」が起こったりします。また、論理的に間違っていることを正しいと思い込んでしまう「妄想」が起きるのも大きな特徴です。