[統合失調症]疾患の原因column

Update:2023.10.15

[統合失調症]疾患の原因とは

統合失調症の原因は複雑で、遺伝的要因、神経化学の不均衡、脳の構造と機能の異常、環境ストレスなどが関与しています。脳内の神経伝達物質の異常や神経回路の異常が症状に関連しており、遺伝的な傾向も一因とされています。環境のストレスや早期の脳の発達異常も影響を及ぼすと考えられています。

[統合失調症]疾患の原因

目次

統合失調症の病因については、現在まだ明確に確定されていません。進学・就職・独立・結婚など、生活上の大きな転機が契機となり、さらに体質・環境・心理的要因のほか、性格・遺伝・脳細胞の損傷などが相互に関係し合って発症しているものと考えられますが、その発症メカニズムは依然として不明です。しかし、こうしたさまざまな要因が複合的に考えられる中で、脳を中心とする神経ネットワークが障害される病気である可能性が、最近の脳の構造や機能の研究によって次第に明らかになってきました。脳の異常をはじめとする主な発病原因について以下に概説します。

脳の異常

 統合失調症の原因を調べていくと、患者さんの脳にいくつかの特異的な異常があることが明らかになってきました。その一つは「神経伝達物質の異常」であり、もう一つは「脳の構造や機能の異常」です。

神経伝達物質の異常

 通常、脳を構成している神経細胞間においては、神経伝達物質という化学物質を介して、さまざまな情報が伝達されています。この情報伝達の役目を果たしている神経伝達物質にはいろいろな種類がありますが、その中の一つである「ドーパミン」が統合失調症の発症に深く関与しているのではないかと考えられています。ドーパミンが過剰に分泌・生産されることによって、情報伝達に混乱をきたし、幻覚や妄想の症状が出現しやすくなることが知られています。そのため実際の治療に際しては、ドーパミンの働きを抑制する薬物(抗精神病薬)を投与すると、急性期の症状が改善することがわかっています。研究によると、気分をコントロールする前頭葉においては、ドーパミンが極端に多かったり少なかったりすることがわかっており、陽性症状が出ているときは過剰に出ているときで、陰性症状のときはドーパミンが少ないときとも言われます。そのため、興奮が抑えられなくなったり、何もやる気が起きなくなったりするという症状が現れるのです。神経伝達物質では、このドーパミンのほか、セロトニンやグルタミン酸なども関係しているのではないかと考えられています。

脳の構造や機能の異常

 人間の脳は、大きく分けて三層構造で出来ています。第一層は、脳の中心部分にあって、生命をコントロールしている「脳幹」、第二層は脳幹を包むようにしてあり、感情や情動の中枢である「大脳辺縁系」、そして第三層は大脳辺縁系の周りを取り囲むようにしてある「大脳皮質」で、知的・精神的活動の中心となっている部分です。統合失調症は、この脳幹の視床、大脳辺縁系の基底核や扁桃体、大脳皮質にある前頭葉や側頭葉など、これらの機能や構造の欠陥によるものと考えられています。

(1)前頭葉の異変
 前頭葉は、物事を理解し、考え、創造するための精神活動の中枢です。また、問題を解決するために考えたり、決断したり、調整したり、善悪の判断をしたりする抑制の中枢でもあります。つまり、前頭葉は人間がより良い生活を営むために働く脳ですが、統合失調症の患者さんの中には、この前頭葉に異変が現れることがあります。CTやMRIの装置で、重症の患者さんの脳を検査すると、脳の一部の体積が健康な人よりも小さいことがわかっています。神経細胞が欠けている状態です。
また、PET(陽電子放射断層撮影)で脳の血流をみると、統合失調症の患者さんの場合、前頭葉への血流が明らかに低下していて、前頭葉が正常に働かない状態になっています。このように、神経細胞の欠如や血流の低下が、人と話をしても、相手の気持や言っていることの意味がつかめなったり、思ったことや言いたいこと、また行動したいことが、上手く表現できなくなったりすることになります。

(2)側頭葉の体積の減少
 側頭葉には、知覚(聴覚、視覚、嗅覚、触覚など)の他、現実の認識、記憶力の機能があります。MRIで検査をすると、側頭葉の一部が欠けたりして体積が減っていることがあります。こうなると、知覚に障害が起こり、実際にはない声が聞こえたりする幻聴が起こります。

(3)大脳基底核の活動の低下
 大脳基底核には、知覚を調整して精神の集中をはかる機能があります。CTスキャンで見ると、基底核の活動が低下しているのがわかり、この障害によって、意識を集中できなくなり、エネルギーを消耗して疲れやすくなります。

(4)大脳辺縁系の体積の減少
 大脳辺縁系の扁桃体などがある部分では、感情や知覚を理解し分析する働きをしています。MRIの画像で、患者さんの扁桃体を見ると、欠如して体積が減っていることがあります。この大脳辺縁系の機能不全によって、前頭葉とうまく連携がとれなくなり、それによって相手の反応がつかめず、自分の行動がうまくコントロールできなくなります。

(5)電気生理や神経回路の異常
 音や視覚情報の伝達は、電気刺激によるものですが、統合失調症においては、脳に電気的な変化が起きることがあります。また、神経回路の変化もよく見られます。この電気的な変化や神経の変化は、統合失調症によって生まれるものと考えられます。

脳の損傷

 発達中の脳に損傷が起こった場合にも、罹患率が上昇します。例えば、①妊娠中期(13~24週)のインフルエンザ(ウイルス)感染、②分娩中の低酸素状態、③出生時の低体重、④母体と胎児の血液型不適合などが、出産前後や分娩中に発生した場合でも発症することがあります。

遺伝

 世界保健機関(WHO)によると、統合失調症の一般的な発症割合は、地域によって多少の差はあるものの、平均すると約1%の発症リスクとなっています。ところが、統合失調症の親や兄弟姉妹がいる場合における発症の確率は、約10%と言われます。また一卵性双生児の1人が統合失調症だと、もう1人の発症リスクは約50%と言われています。このように、患者さんと遺伝的に近い人ほど、発症の確率は高くなるものと考えられます。また、性格も発症と関与しており、統合失調症を患っている親と性格が似ている場合にも、子どもの発症率は高くなります。両親共に発症している場合は、子どもは40%の確率で統合失調症になるという統計もあります。

さらに、一卵性双生児の研究においては、遺伝的には同じ素因をもっているにも関わらず、二人とも統合失調症を発病する確率は30~50%程度と言われます。本来ならば、同じ遺伝という素因をもっているならば100%の確率で発病してもよいものが、約半分程度の発症にとどまっていることは、統合失調症が遺伝病ではないことの証明でもあります。遺伝的要因のうえに環境的要因などが深く関与して発症しているものと考えられます。

さまざまな研究結果を総合すると、統合失調症の原因には素因と環境の両方が関係していて、遺伝的素因の影響が約三分の二、環境の影響が約三分の一とされています。子どもは親から遺伝と環境の両方の影響を受けますが、それでも統合失調症の母親から生まれた子どものうち、同じ統合失調症を発症する確率は、わずか10%程度と言われます。

ストレス

 統合失調症にかかる人は、もともとストレスに弱い傾向にあると言われています。つまり統合失調症にかかりやすい素因が内因としてあるのです。それは、体の抗病的閾値が低下している状態で、そこに心因であるストレスが加わったときに、統合失調症が発症しやすくなるのです。したがって、統合失調症とストレスの関係は、ストレスが小さくてもかかりやすい素因があって、脆弱性が大きければ発病しますし、また脆弱性が普通であっても、ストレスが大きければ発病するものと考えられます。すなわち、「ストレスの大きさ」と「ストレスを受け止める体の力」の関係で、これは統合失調症に限らず、他の病気についても言えることです。

ストレスには、精神的な緊張・不安・恐怖・興奮・飢餓・感染・過労・睡眠不足・運動不足などがあります。友人や上司との人間関係、身体の悩みや将来への不安、引っ越しや転勤などの環境の変化もストレスとなります。このように、ごく普通の日常生活のなかでの出来ごとのほか、また寒暖・騒音・化学物質などもストレス要因となります。子どものころは、環境的にも比較的守られているために発病することは少ないですが、自我が芽生え、自分で考えて行動する思春期以降になると、社会に出た時にさまざまなストレス環境におかれるため、青年期の発病率が高くなります。

自覚症状として、対人関係が億劫になった、一度にたくさんのことができない、集中力や持続力がなくなってきた、生活のリズムが乱れてきたような時、「自分はストレスに弱いから」「いつものことだから」と安易に考えて放置しておくと、知らぬ間に急性期に移行し、さらに重い症状が出てくることがあります。また、自分自身では気付きにくい病気なので、症状を感じたら「自分はストレスに弱いから」と決めつけず、早めに精神科・心療内科を受診することです。

環境

 生活環境も、統合失調症を引き起こすひとつの原因になっています。進学、就職、転職、結婚や、新しい学校や職場、見知らぬ土地、家族からの独立など、生活環境が大きく変わった時は要注意です。順応性の高い人はさほど問題ないですが、急な環境の変化に適応できない人にとっては、それがストレスとなってたまり、周囲の環境になじめなかったり、自分の気持をうまく伝えられなかったりします。また、同じ学校や職場であっても、担任やクラスが変わったり、部署や上司が変わったりしただけでも、生活のリズムに変化が生じ、それが統合失調症の引き金となることがあります。このほか、人間関係のトラブル、恋愛、失恋、受験などによる孤立感、絶望感なども原因の一つになります。

その他

 統合失調症の初期患者さんにおいて、脳の容積が一部低下していたり、死後脳において脳の構造異常がみられたりする例がありました。このことから、脳の発達段階で何らかの障害が関与しているのではないかと考えられます。これまでに、統合失調症の一部は、胎児期の脳神経系の発達障害が原因であるという研究報告があり、動物実験で明らかにされています。ただし、脳の構造的異常が意味するところは、今のところ不明です。脳にもともと異常があって発現したのか、慢性的で長期にわたる罹患と治療の結果、症状や服薬等の影響によって脳を変成させたのかは、現在は鑑別不能です。

発病の危険因子

  1. 生まれた季節が冬の場合は危険です。冬季はインフルエンザの季節で、母親が感染したり、日射量の減少でビタミンDが不足したりして、胎児の中枢神経系の発達に悪い影響があるのではないかと考えられています。
  2. 育った環境が、都会育ちの場合にリスクが高いです。田舎より都会の方がストレスの多い環境にある分だけ、発症しやすくなります。
  3. 母親が妊娠中にウイルスに感染すると、統合失調症の発症リスクが高まります。特に風疹ウイルスは、胎内で胎児に悪い影響を与えることで知られています。風疹にかかると、発病リスクは通常の約5倍ぐらいです。
  4. 妊娠中に身近な人が亡くなったりすると、大きなストレスとなって、胎児の成長に悪い影響を与え、統合失調症にかかる危険性が高まります。妊娠そのものもストレスになるうえ、近親者の死が重なって、いっそう心に強いショックを与えるからです。
  5. 出生時の父親の年齢によってはリスクが高くなり、年齢が高くなればなるほど危険性が高まります。50代では20代の約3倍といわれています。精子に異常がある確率が高まるからです。
  6. コーヒー、タバコ、アルコール、マリファナなど、習慣性のあるものの中で最もリスクが高いのがマリファナです。使用を始めた年齢が早ければ早いほど、発症率は高まります。これは、脳が発達段階でダメージを受けるためです。15歳以前にマリファナを始めると、発症リスクは4.5倍になるという海外報告があります。