パニック障害column

Update:2023.10.15

パニック障害とは

パニック障害は、突然の強い不安や恐怖感とともに、心拍増加、呼吸困難などの身体症状を伴うパニック発作が特徴です。遺伝的、生化学的、心理的な要因が関与し、予測不能で場所や状況に拘束されない特徴があります。診断には症状の評価が行われ、認知行動療法や抗不安薬が治療に用いられます。

パニック障害

目次

パニック障害について解説

パニック障害は、突然の強い不安や恐怖感とともに、心拍増加、呼吸困難などの身体症状を伴うパニック発作が特徴です。遺伝的、生化学的、心理的な要因が関与し、予測不能で場所や状況に拘束されない特徴があります。診断には症状の評価が行われ、認知行動療法や抗不安薬が治療に用いられます。

パニック障害とは

パニック障害診断基準

パニック障害は、ある日突然理由もなくめまいや心悸亢進(動悸)、呼吸困難の症状と共に激しい不安・恐怖が発作的に起こる病気です。そして、現実が現実でないように感じたり、気が狂ってとんでもないことになるのではないか、死んでしまうのではないかといった強い不安感や恐怖感を感じる病気です。このような身体症状をさまざまに出現させるパニック発作を繰り返すのが特徴です。

通常、発作は10分以内でピークに達し、数十分から1時間くらいで自然と治まります。したがって、救急車で病院に運ばれ通常の診断を受けても、特に異常はなく、医師から「どこも悪くないですよ」「気にしすぎでは?」などと言われるだけで、適切な処置もしてもらえずに帰されてしまうケースがあります。仮に診断されても、自律神経失調症か心臓神経症、または過換気症候群、気管支ぜんそく、メニエール症候群、狭心症など身体的な症状が前面にでるので、心臓や消化器、呼吸器の病気などと間違えられて適切な治療がされていないことが多いのです。

なぜ間違われるかというと、パニック発作の症状が循環器系や消化器系、呼吸器系のほかに、自律神経系などの身体症状を伴うのが一因です。プライマリケアや救急医療の現場でも、精神科や心療内科を専門とするドクターでない限り、この病気に対する医療者側の理解が十分でないことも上げられます。 一方、患者さんにおいても、症状そのものが身体的であるために、最初に内科を受診するのが一般的なケースです。後ほど原因や病態生理のところでも述べますが、パニック障害が起こる原因は脳の機能異常(生物学的原因)によるものであって、身体疾患が原因で発症する病気でないということをまず理解する必要があります。

また、パニック障害の特異な点として、病気の経過と共に、性質が違ういくつかの症状を進展させます。発症の初期は、突然起こるパニック発作が症状の中心ですが、発作を繰り返すうちに「また同じような発作が起きたらどうしよう」という"予期不安"が強くなってきます。これと平行して、初期に外出先で発作を経験したりすると、発作が起きそうになった時に逃げられないような場所に行くことを避けようとする恐怖を感じます。このような外出恐怖や乗物恐怖などのような"広場恐怖"も強くなってきます。

こうした"予期不安"や"広場恐怖"が日常的に不安や緊張を高め、それがまたパニック発作を起こしやすくしている要因で悪循環にもなっています。 パニック障害が慢性化してくると、約半数はうつ病を合併してきます。うつ病でも「パニック性不安うつ病」や「双極性障害Ⅱ型」になることも多く、さらに「自律神経失調症」の症状が続くこともあります。つまり、弱い発作が常に起きている状態の中で、強い発作が繰り返して起こるため、生活のさまざまな面においてQOL(クォリティー・オブ・ライフ:生活の質的レベル)の低下はうつ病よりも著しいとも言われています。

パニック障害自体は、そう珍しい病気ではなく、また命に関わる病気ではありません。発病早期の段階で専門医の診療を受ければ、治りやすい病気ですので、少しでもおかしいなと思ったり疑問があったら精神科や心療内科などで相談することです。

症状

パニック障害の一般的な症状には次のようなものがあります。

  1. 心悸亢進といって心臓がドキドキする、体の全体がドキンドキンという、心臓をギュッと掴まれたような感じ、喉から心臓が飛び出しそうな感じ。
  2. 呼吸困難では、息苦しい、呼吸が早くなる、空気が薄く感じる、息の吸い方吐き方がわからない、狭いところに閉じ込められた感じ、喉がえずくなど。
  3. めまいでは、ふらつく感じ、頭が軽くなる、頭の血管がプツンとした感じ、頭を後ろに引っ張られるような感じ、頭から血が抜けていくような感じ。
  4. 腹部の不快感では、お腹がグニャグニャして変な感じ、胃がギュッと引っ張り上げられる感じ。
  5. 非現実感(離人感)では、自分が自分でない感じ、自分をもう一人の自分が見ている感じ、頭に霞がかかっている感じ、ベールをかぶっている感じ、雲の上を歩いている感じ。
  6. その他、汗をかく、身体や手足の震え、吐き気、胸の痛み、常軌を逸する感覚、気が狂う感じ、死ぬのではないかという恐れ、しびれ感、うずき感、寒気、ほてりなど。

 

ここに挙げた症状で一貫していることは、常に激しい「不安感」や「恐怖感」があることです。その不安というのは「いても立ってもいられない」「大声で叫びたくなる」「走り出したくなる」「どうしようも出来ない」といったような不安で、心の底からわき起こってくる感じです。

パニック発作の症状の起こり方には三つのケースがあります。1つは、突然に起こるケース(場所や状況に関係なく、不意に起こる発作)。2つ目は、ある場所や状況に限って起こるケース(恐怖感や緊張感を感じるような場所や状況におかれたときに起こる発作)。3つ目は上記の二つの中間にあって、ある状況のもとで起こりやすいケース(発作は必ず起こるわけではなく、他の症状と合併して起こる可能性もある)。

パニック発作の起こりやすい場所や状況とは、次のような場合です。乗り物の中(電車・バス・飛行機・渋滞中の車など)、狭い空間(エレベーター・トンネルの中など)、人込みの中(デパート・スーパー・雑踏の中)、公の場(病院や銀行の待ち時間、歯科医院、美容室や式典の会場など)、一人の時(風呂に入っている時や夜間の散歩、知らない町中など、誰にも助けを求められない状況のとき)は、緊張をしたり不安を感じやすいために、発作が起こりやすくなります。また、夜間や就寝中にも突然発作が起きて、目を覚ますこともあります。

パニック障害の原因

パニック障害の症状が起きる原因は、脳の構造や機能の生物学的異常にあるとされています。パニック障害は、病態生理学的には末梢と中枢神経系の両方の調節障害が関わっているといわれます。研究では、パニック障害患者さんの自律神経系において、交感神経系の緊張が亢進していることや、繰り返される刺激に対して順応が遅いことや、中程度の刺激に対して過剰に反応することなどが報告されています。この障害と深く関わっているのが、脳内にある神経伝達物質と言われています。 私たちの脳は140億個の神経細胞(ニューロン)から出来ており、この神経細胞同士がネットワークを作って、お互いに情報を交換していますが、その情報交換の仲立ちをしているのが、神経伝達物質です。この物質がバランスを崩したり、うまく働かなかったりすると脳にさまざまな障害が起こります。

パニック障害に関与している神経伝達物質といえば、ノルアドレナリン、セロトニン、γ-アミノ酪酸(GABA=ギャバ)の3つのモノアミンです。この中で、セロトニンは、ノルアドレナリンによって引き起こされる不安感が行き過ぎないように抑えて活動を調整する役目をもっていますが、そのセロトニンが不足したり、または過剰分泌になっても不安の要因になっているとも言われます。 一方、γ-アミノ酪酸も神経細胞の興奮を抑え、不安を軽くする働きがあります。ところが、ストレスによってDBI(ジアゼパム結合阻害物質)という脳内物質が増えると、γ-アミノ酪酸の働きを邪魔します。そのため、γ-アミノ酪酸は神経細胞の興奮を抑えることができなくなり、不安が起こる結果となります。つまり、DBIのためにγ-アミノ酪酸がうまく働かないことが、パニック発作を引き起こす一因となっているのです。

生物学的には、脳幹の青斑核にはノルアドレナリン系神経細胞が、正中縫線核にはセロトニン系神経細胞があります。そして、大脳辺縁系(扁桃体)は予期不安の発生に関与している可能性があり、また前頭葉は恐怖症的回避の発現に関与しています。 私たちは危険に直面すると、脳幹にある青斑核から神経伝達物質であるノルアドレナリンが分泌され、その刺激を大脳辺縁系に伝え、初めて恐怖や不安を感じて危険から身を守ろうとします。

つまり青斑核は、不安や恐怖などの感情をつかさどる部位であり、大脳辺縁系は喜怒哀楽や本能をつかさどる部位であり、前頭葉は創造・思考・意志・感情など人間らしさをつかさどり、行動をコントロールする働きをしています。

ところが、何らかの原因で青斑核が正常に働かずに誤作動を起こすと、危険でもないのに危険を感じて、青斑核から大量のノルアドレナリンを分泌します。ノルアドレナリンは直ちに大脳辺縁系に情報を伝え、自律神経の中枢である視床下部に指令を出して、動悸やめまいなどの自律神経症状を引き起こします。これが、パニック発作を生じさせるメカニズムです。

さらに発作を起こしたことで、大脳辺縁系は予期不安を感じ、その興奮を今度は前頭葉に伝えます。発作を感知した前頭葉は、広場恐怖を発症させることにつながっていきます。このように、パニック障害は、心因性の病気ではなくて、脳の機能障害によって起こる病気であることが理解できます。

パニック障害は、この脳内不安神経機構の異常のほかに、発症にはストレスが大いに関係しているという報告もあります。パニック障害の患者さんの多くが、発作を起こす数カ月前に、必ずといっていいほど苦痛となるストレスを体験しています。つまり、特に心理的な反応がパニック障害を引き起こす可能性を高めているのです。

では、ストレスとパニック障害はどのような関係なのか詳しく見てみましょう。私たちはストレスを感じると、脳ではノルアドレナリンが分泌されます。ストレスには物理的なストレスと心理的なストレスの2つがあって、物理的なストレスは、脳全体からアドレナリンが分泌されて広範囲に脳を刺激し、時間が経てば消えますが、心理的なストレスの場合は視床下部や青斑核、扁桃体の部分を集中的に刺激するため、ストレスがある限り不安や情動の変化が続くことになります。 ストレスが脳を興奮させることで、神経伝達物質のバランスを乱す引き金になっているということです。その意味では、ストレスはパニック障害の直接の原因というよりも、発作をおこす"誘因"であり、 "きっかけ"や"引き金"になっていると考えられます。

では、どのような事がストレスになるかというと、就職・退職・栄転・昇進・失業・単身赴任・結婚・離婚・不倫・別居・妊娠・出産・病気・事故・子供の受験・入学・進学・子供の結婚・引っ越し・家の新築・旅行・配偶者の死・近親者の死・失恋・ペットの死など、辛いことも嬉しいことも全てストレスになります。しかし、ストレスは人によって程度が違います。同じストレスであっても、強く感じる人もいれば、それほど感じない人もいます。

ストレスが体の病気の原因になっていることはよく知られていますが、主な病気を挙げると、気管支ぜんそく・片頭痛・筋緊張性頭痛・頸肩腕症候群・円形脱毛症・緑内障・甲状腺機能亢進症・神経性嘔吐・神経性狭心症・摂食障害・過呼吸症候群・本態性高血圧症・関節リウマチ・腰痛症・書痙・更年期障害・自律神経失調症・胃潰瘍・十二指腸潰瘍・潰瘍性大腸炎・過敏性腸症候群・痙性斜頸・メニエール病・インポテンツなど、多岐にわたっています。

そして、このストレスがパニック発作のきっかけになっているという意味では、ストレスに弱い人や、常にストレスにさらされている人は、パニック障害になりやすいので、出来る限りストレスを避けることが重要です。また、同じストレスを受けながら、パニック障害を起こす人と起こさない人の差もあります。

働き盛りの人にとって、最もストレスを受けやすい所といえば職場であり、仕事の内容です。ストレスがパニック発作の引き金になっているとすれば、職場や仕事でのストレスを軽減させる努力が必要です。特に最近、職場のストレスが原因で「職場不適応症」(出勤を拒否する)の人が増えています。職場で一番多いストレスといえば人間関係です。上司や同僚との人間関係がうまく築けず、孤立無援になっているのが原因です。 職場のストレスには次のようなものがあります。「人間関係」「仕事の量と質」「会社の将来に不安」「役割の混乱」「技術や能力が活かせない」「勤務形態」「裁量権がない」「悪い環境」「技術革新」「仕事と私生活の葛藤」などが挙げられます。このようなストレスで悩む一方、不安やむなしさから逃れるために、何かに頼ってしまう依存症の落とし穴にはまってしまう人も少なくありません。

一見、仕事人間と思われていた人が、実は"仕事依存症"だったケースがよくあります。仕事が生き甲斐といい、仕事熱心で、いつも仕事のことしか頭になく、疲れていても休まずに会社に行きます。それは、自分の仕事の達成感ではなくて、他人から認めてもらい評価してもらうことで安心を得ているのです。しかし、体や心はストレスで悲鳴を上げています。そんな無理な状態が長続きするわけがなく、やがて破綻します。その先にあるのは、パニック障害、うつ病、心身症、などの精神疾患、または生活習慣病などの病気、家庭の崩壊です。心の健康を守るためにも、ストレスの解決が緊急の課題です。

この他、パニック障害の原因として遺伝的素因も考えられると言われます。高血圧や糖尿病のような遺伝的な体質が、パニック障害を起こしやすくしていると言われます。さらに、肉親などにパニック障害の人がいる場合は、発症率が一般の人に比べて8倍も高いという報告がアメリカで行われました。環境要因を指摘する学者もいます。例えば親と死別または離別した人、また親から虐待を受けた人においてもパニック障害はそうでない人よりも多くなります。

では、性格とパニック障害の発症率の関係はどうかというと、こちらはほとんど関連性がありません。しばしば、自分は「気が弱いから」、「神経質で依存的だから」という理由でパニック障害になったという患者さんもいますが、それは誤解で、性格とパニック障害の関連性はないのです。

パニック発作を誘発しやすい物質にはどんなものがあるかというと、タバコ、コーヒー(カフェイン)、ドライアイス(二酸化炭素)、ソーダ(二酸化炭素)などがあり、刺激に敏感な体質の人の場合も発作が起こりやすいです。また過労、寝不足、深酒、生理の前、季節の変化なども発作を誘発する要因です。

以上、パニック障害の原因と考えられる項目をいくつか挙げましたが、現在のところ原因究明には至っていません。いろいろな要素が重なって発症する可能性が高いとみられます。現在のところ、原因はあくまでも脳内不安神経機構の異常という身体因性(生物学的)によるもので、心因性によるものではないと言う考えが主流です。

疫学的統計頻度

パニック障害にかかる割合は、現在日本では100人中に2~4人と言われており、日本全国には200~400万人の患者さんがこの疾患で苦しんでいます。性差でみると、国内では男性と女性の患者さんはほぼ同じくらいの割合か、やや女性の方が多く発症しています。

一方欧米諸国では、男性1人に対して女性は2人以上の割合で発症すると言われています。アメリカの臨床精神医学者・カプラン博士の報告では、女性の障害は男性の2倍から3倍と言われています。この性差の開きは男性のパニック障害が過小診断されている結果によるのではないかと記しています。

好発年齢は働き盛りの若い人に多く、男性では25歳から30歳くらいがピークになり、女性では35歳前後の発病が最も多くみられます。

パニック障害の診断

では、パニック障害の診断はどのようにして行われるでしょうか。診断基準としては、現在次の13項目の症状が対象になります。このうち4つ以上の症状が同時に起こり、10分以内でピークに達して、そのあと30分くらいで症状は治まって行く状態をパニック発作といいます。症状が3つ以下の場合はパニック発作とは言わずに症状限定性発作と言って、パニック発作とは区別しています。

【パニック発作の基準】

  1. 動悸、心悸亢進、または心拍数の増加
  2. 発汗
  3. 身震いまたは震え
  4. 息切れ感または息苦しさ
  5. 窒息感
  6. 胸痛または腹部不快感
  7. 嘔気または腹部の不快感
  8. めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
  9. 現実感消失(現実でない感じ)、または離人症状(自分自身から離れている)
  10. コントロールを失うことに対する、または気が狂うことに対する恐怖
  11. 死ぬことに対する恐怖
  12. 異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
  13. 冷感または熱感

(『DSM-Ⅳ 精神疾患の診断・統計マニュアル』から)

以前のDSM-Ⅲ-Rの基準では、パニック発作の診断基準がパニック障害の診断基準に含まれていましたが、DSM-Ⅳではパニック発作の診断基準を独立させています。理由は、パニック発作はパニック障害ではない他の精神障害、例えば特定の恐怖症、社会恐怖、心的外傷後ストレス障害においても、同じような症状を呈するからです。

またDSM-Ⅳでは、広場恐怖を伴わないパニック障害と広場恐怖を伴うパニック障害の2種類の診断基準を挙げていますが、いずれも上記に挙げた13項目のパニック発作のうち4つ以上の症状が突然に発症し、10分以内にそのピークに達するものでなければならないと決めています。

さらに、パニック障害の診断基準を決めるうえで重要な問題は、診断に適合するのに必要なパニック発作の閾値数(症状の程度)および発作の頻度です。閾値数が低すぎると、発作が起きただけでパニック障害ではない人までパニック障害と診断されてしまうし、逆に高すぎると、本来パニック障害と診断されるべき人がパニック障害の診断基準を満たさないことになります。ちなみに、研究用診断基準(RDC)では、6週間に6回のパニック発作が認められることを必要としており、国際疾病分類第10版(ICD-10)では、3週間に3回のパニック発作があれば中程度の病気、4週間に4回の発作があれば重篤な病気としています。そしてDSM-Ⅲでは4週間に4回のパニック発作が起きるか、または1回以上のパニック発作があって、また発作が起こるのではないかという持続的な恐怖(予期不安)が最低1カ月以上続くとしています。

しかし、DSM-Ⅳではパニック発作数と時間枠の必要最小限度は設けていませんが、最低1回のパニック発作があり、それから最低1カ月間以上にわたって、また発作が起こるのではないかと憂慮する場合、あるいは行動上に重大な変化があることが必要とされています。いずれにしても、いつ起こるかもしれない発作に対して常に不安を抱き、生活にも支障を来す状態をパニック障害といいます。

疾患の詳細

パニック障害は、長い経過をたどる病気です。最初は突然のパニック発作から始まって、発作を何度も繰り返し、やがて発作の回数が減ってきます。その後は「発作が起きたらどうしよう?」という予期不安や広場恐怖に変わり、それを避けようとする回避行動も起こります。

こうした過程を経て慢性化し、やがて引きこもりやうつ状態へと移行し、不安障害なども併発するようになります。パニック発作の起きる時期を急性期とすれば、その後の予期不安や広場恐怖、またうつ状態を慢性期ということになります。

パニック障害の確定診断は、一定の時間において激しい不安や恐怖感と一緒に4つ以上の発作がほぼ同時に出現し、10分以内にピークに達して、その後30分以内に症状が消えた場合に限ります。中には、症状が半日以上も続く人もいれば、発病時の発作症状数が6つの人や9つの発作症状を持つ人もいます。一方、症状数が1~3つだけの小発作の人もいます。小発作は、病気の程度が軽い人、不十分な治療を受けている人、激しい時期が過ぎた経過の長い人にみられます。

また、初期のパニック発作の頻度は、人によって違いますが、週に3?7回の人が最も多く、中には毎日1回以上頻繁に発作を起こす人もいます。1週間に4回以上起こり、それが4週間以上続くと重症となります。少ない人では、1カ月に1?3回程度の発作ですみます。初期の発作がしばらく続いた後は、発作の起こる間隔が次第に長くなってきて、発作の強さも軽くなってきます。しかし、その後は慢性期へと移行します。

慢性期に入ると、「また発作が起きたらどうしよう」という不安が一層強くなり、不安が不安を呼んで「発作で死んでしまうかもしれない」「気が狂ってしまうかもしれない」と思い込むようになります。これを"予期不安"といってパニック障害の典型的な症状です。

【不安の内容】

  1. 発作症状がまた起こるのではないか?
  2. 発作により病気になるのではないか?
  3. 死んでしまうのではないか?
  4. 気を失ってしまうのではないか?
  5. 気が変になってしまうのではないか?
  6. 事故を起こすのではないか?
  7. 発作を起こしても助けてくれる人がいないのではないか?
  8. 発作を起こした場所からすぐに逃げ出せないのではないか?
  9. 人前で自分は取り乱してしまうのではないか?
  10. 人前で倒れたり、吐いたり、失禁したりするのではないか?
  11. 他人に迷惑をかけるのではないか?

このような不安の対象が広がっていくと、今度は発作が起こりそうな場所や状況に不安を感じるようになります。これを"広場恐怖"といいます。"広場恐怖"は、もしパニック発作が起きたら、逃げるのが難しい状況、助けが得られないかもしれない状況に対して抱く恐怖感のことです。したがって、人前で恥ずかしい思いをするような場所、すぐに逃げられない場所、すぐに助けを求められない場所にいることに強い恐怖を感じるのです。

【広場恐怖を感じる主な場所】

  • 閉じ込められた場所、またそこから逃げるのが困難な場所(狭い部屋、エレベーター、トンネル、地下鉄、電車、飛行機、バス、美容院、理容院、歯科医院、映画館、長い行列など)
  • 混雑した場所(劇場、スーパーマーケット、ショッピングモール、スポーツイベントなど)
  • 運転(高速道路や橋の上の運転、渋滞中や長距離の運転、誰かが運転しているときでも車内に座っているのが困難な場合)
  • 外出(家から離れていても安全だと思える距離がある場合、それを超えるのが困難な場合もある。まれに家から一歩も外に出られないケースもある)
  • 一人でいるとき

このような場所にいると、発作が起きたら困るという恐怖感がありますので、おのずと"広場恐怖"の対象となる場所や状況を避けようとする回避行動をとるようになり、日常生活に支障を来してきます。この"広場恐怖"は、パニック障害の患者さんの7~8割の人に見られます。

発作に対して、不安や恐怖を感じると、外出や行動を起こす気がなくなり、日常生活も出来なくなります。自然と家に引きこもることが多くなって、精神的なエネルギーを消耗し、「何もやりたくない」状態へと陥ります。この状態をうつ状態といいます。

うつ状態はうつ病とは違い、妄想的になったり自殺するようなことはありませんが、何となくだるい、好きなことをしても楽しくない、おっくう、気分が憂うつ、さらに食欲や性欲も低下し、仕事や勉強に集中できなくなって不定愁訴を訴えるようになります。中には、うつ病を併発する人もいます。

いずれにしても、慢性化したパニック障害は、治療が長くかかるので、できるだけ早期に発見し、適切な治療を受けることが大切です。
次に、パニック障害と関連する病気としては、同じ不安障害である「強迫性障害」「全般性不安障害」「ストレス障害」「恐怖症」などを併発することもあります。また、間違えられやすい病気としては「過呼吸症候群」があります。過呼吸症候群も、突然に呼吸が激しくなって、めまいや耳鳴り、不安に陥って一見パニック発作に似た症状が現れますが、これはまったく別な病気です。

ただし、パニック障害を起こしたとき、過呼吸症候群を併発している患者さんも少なくありません。過呼吸による息苦しさや不安が、パニック発作をエスカレートさせる要因にもなります。

この他、よく似た病気に「低血糖」「狭心症」「不整脈」「僧帽弁逸脱症」「褐色細胞腫」「更年期障害」「甲状腺機能亢進症」「側頭葉てんかん」「メニエール病」など、心臓の病気や甲状腺、内分泌ホルモンの病気です。これらは、いずれも循環器の異常やホルモンの異常によって、パニック発作と同じような激しい動悸や息切れ、めまいなどの症状を伴います。動悸や息苦しさがあったからといって、ただちにパニック発作を疑うのは危険です。血液検査や心電図検査などの基本的な検査をすれば、それがパニック発作かそうでないかはすぐに判別できます。パニック発作は、体に異常がないことが、診断基準のひとつになっているからです。

また、働き盛りはパニック障害が起こりやすい年代であると同時に、心の病にかかりやすい年代でもあります。「統合失調症」「気分障害」「摂食障害」「依存症」「過敏性腸症候群」などは心の病を代表する病気で、原因は日常的に抱えている悩みやストレスによることが多いです。

心の病の原因は複雑で、外因(身体的要因)、内因(生物学的要因)、心因(心理社会的要因)の3つの原因によって起こると言われています。外因は、薬物や脳の病気などによって起こる脳の機能障害により、内因は遺伝的な素因や個人の素質などによるものです。心因は、その人の考え方や行動が原因していると考えられます。

パニック障害は、また依存症との関係もあります。「アルコール依存症」「薬物依存症」「カフェイン依存症」「ニコチン依存症」などがそれです。アルコール依存症は、お酒で不安を紛らわせようとしてお酒をのみ、次第に量が増えていって依存症になるケースです。アルコールで一時的には不安が軽くはなっても、醒めるとリバウンドが起こり、かえって不安が強くなります。アルコール依存症になると、むしろ心が不安定になり、言動も荒くなって判断力が低下しますので、酒の力に頼らないことです。

薬物依存症は、覚醒剤、麻薬、マリファナ、コカイン、咳止めシロップ、シンナー、タバコなどに依存することで不安から逃れようというものです。薬物による脳や神経への作用は、やがて心身に深刻な影響を及ぼすことはいうまでもありません。薬の種類によっては、パニック発作にも似た症状を起こしますが、薬物の刺激による発作は、パニック障害とは区別されます。

コーヒーや紅茶、また緑茶も多く摂り続けると、カフェイン依存症になります。コーヒーなどに含まれるカフェインは神経を興奮させる作用がり、1日250ミリグラム以上摂取すると依存症になって、パニック発作が起こりやすくなります。また急にやめると、離脱症状を起こし、頭痛や疲労感、吐き気や不安感を訴える原因にもなります。

タバコに含まれるニコチンも、神経を興奮させる作用と鎮静させる両面の効果があって、特に興奮作用はパニック発作を招く原因になります。健康にもよくないので、禁煙をすすめます。

パニック障害の治療方法

治療は、まず内科などと同じように問診から始めます。問診には特に時間をかけて、心身の具体的な症状、苦痛の頻度や程度、本人や家族の病歴、仕事や日常生活などについて詳しくお聞きします。次に、身体的な病気がないか、薬物の中毒による発作ではないか、身体的な検査を行って確かめます。また必要に応じて、脳や神経系の検査や心理テストや性格診断テストなどを行った末に、今後の治療方針を決めます。治療は大きく分けて「薬物療法」と「精神療法」の2つがあります。

パニック障害 心理療法

パニック障害の治療は、主に薬物療法が中心ですが、さらに効果を高めるために精神療法を併用しながら治療が行われます。精神療法として広く用いられているのが、認知行動療法と自律訓練法です。

《認知行動療法》

→認知行動療法の詳細についてはこちら

認知行動療法とは認知療法と行動療法のことで、認知(考え方、受け止め方、思い込み、認識、学習など)のゆがみや偏りを修正しながら、行動することによって認識を改めていく方法です。パニック発作自体は、薬物療法でかなり早い段階で改善することはできますが、予期不安や広場恐怖は完全に消えるまでに少し時間がかかります。それは誤った認知、つまり誤った考え方や認識や学習が、予期不安や広場恐怖を起こしている原因になっているからです。

例えば、エレベーターの中で最初のパニック発作が起きたとします。すると、「エレベーターの中」と「パニック発作」という2つの無関係な事柄を一つに関連づけて学習してしまいます。その結果、「エレベーターに乗ると、また発作が起きるのではないか」という予期不安が生じて、次はエレベーターに乗るのを避けようとする広場恐怖へと発展していくのです。

では、実際に認知行動療法を行う手順を追ってみましょう。まず最初は、心理教育です。なぜ、パニック発作や予期不安、広場恐怖が起こるのか、そのしくみについて学ぶことから入り、同時に認知行動療法の意義や進め方についても学び、理解が得られるように指導します。

次に、自分自身の毎日の状況を観察し、ノートに記録していきます。どんな場合に発作が起こるのか、自分が避けている事は何か、またパニック発作の頻度や症状についても、できるだけ正確に客観的に自分を見て記録していきます。また、刺激に対して、過敏に反応しないように、呼吸法や自律訓練法などの訓練を受け、自分を冷静にコントロールできるようにします。

次に、必要以上に不安や恐怖を感じる身体感覚や認識に対して、その解釈に誤りがないかを治療者と一緒に検討し、認知を再構築していきます。それが出来た段階で、最後に実際に恐れている場所や場面、状況に自分をさらしていくことによって、誤った認知を修正していきます。

さて行動療法ですが、自分が恐怖と思っている場所や状況に実際に身を暴露します。もちろん、いきなり恐れている場所に身を暴露すると、非常に大きな苦痛を伴い、逆効果になりかねませんので、医師と相談しながら慎重に進めていきます。

手順としては、まず治療計画を立てます。自分が不安に感じている場所や状況を、不安の程度が強い順にすべてを書き出します。その中で、最も不安が少ない場所や状況からトライし、何日か何回か行動して不安がなくなってきたら次のステップへトライします。そして、最後に最も不安を感じている場所や状況に身を置くことによって、これまでの思い込みや誤った認識を自覚し、恐怖を克服していきます。大事なことは、それぞれの場所や状況に自分をさらしたとき、ここに来ても何も起こらなかったということをしっかり確認することです。

具体的な一例を挙げましょう。電車に乗るのが不安だと思っている人が、一人で電車に乗れるようになりたいという目標をたて行動する場合です。目標に向かい、いくつかの段階に分けて挑戦していきます。

 

  •  第1ステップ…駅の改札口まで行ってみる。(その場所に慣れたら次へ)
  •  第2ステップ…プラットホームに立ってみる。(その場所に慣れたら次へ)
  •  第3ステップ…誰かに付き添ってもらって1駅だけ電車に乗ってみる。(それに慣れたら次へ)
  •  第4ステップ…1人で1駅だけ乗ってみる。(それに慣れたら次へ)
  •  第5ステップ…各駅停車で2駅以上乗ってみる。(それに慣れたら次へ)
  •  第6ステップ…急行電車で1駅乗ってみる。(それに慣れたら次へ)
  •  第7ステップ…急行電車で2駅以上乗ってみる。(それに慣れたら次へ)

 

こうして、無理をせず段階を踏んで、1つひとつクリアしていきます。「ここに来ても何も起こらなかった」「大丈夫だった」ことを意識し、自覚し、認知することで、これまでの予期不安がなくなり広場恐怖も解消していくのです。

認知行動療法は、患者さんが意義を理解して取り組んでいけば、非常に高い治癒率で改善していき、再発も低く、治療期間も比較的短くてすむ治療法です。もとの生活に戻していくために、勇気をもって治療に踏み出すことが大切なことです。

 

《自律訓練法》

自律訓練法は、リラックス法の一つです。6つの背景公式に従って順番に暗示をかけて、自分でリラックス状態を作る方法です。パニック障害では、薬物療法や認知行動療法と併用することによって、予期不安や広場恐怖の解消に大きな効果をあげています。

6つの背景公式とは、①第1公式(重感公式)「両手両足が重たい」、②第2公式(温感公式)「両手両足が温かい」、③第3公式(心臓調整公式)「心臓が規則正しく打っている」、④第4公式(呼吸調整公式)「楽に呼吸している」、⑤第5公式(腹部温感公式)「おなかが温かい」、⑥第6公式(額部冷感公式)「額が気持ちよく涼しい」です。

自律訓練法は、1回5分程度で、1日2~3回行います。訓練法の実際は、まず衣服やベルトをゆるめ、腕時計やアクセサリーなど、身に付いているものをはずしてリラックスし、仰向けに寝るか、または椅子にゆったり座って行います。目を軽く閉じ、足も軽く開き、腹式呼吸をゆっくりしながら「心がとても落ち着いている」と暗示をかけて、第1公式に入っていきます。

第1公式では、利き腕が右手だとすれば右手から始めます。「右手が重たい」「左手が重たい」「右足が重たい」「左足が重たい」「両手両足が重たい」と順番に暗示をかけていき、マスターできたら今度は第2公式に移って、同様に「右手が温かい」「左手が温かい」…とゆっくり心の中で繰り返しながら暗示をかけていきます。こうして第6公式まで行いますが、自律訓練法では特に第1の重感公式と第2の温感公式が重要ですので、この2つだけマスターしても十分効果が得られます。

自律訓練法は、最初は専門家の指導を受けてやることをお勧めします。初めは集中するのが難しく、すぐに重さや温かさは感じられないでしょう。自己暗示をかけたとき、意識的に感じようとしないで、リラックスした状態で自然に重たく感じるのを待ってください。繰り返して練習していけば自然とコツがわかり、慣れてくるとどんな場所でも訓練できるようになります。注意点としては、食事した直後や、空腹時は避けましょう。また、訓練が終わったら必ず消去動作を行ってください。消去動作は、気分がリラックスしてボーッとした状態から心身を目覚めさせる動作のことで、これをしないで立ち上がったりすると、ふらついたり転んだりして危険です。動作の方法は、目を閉じたまま両手を5~6回握ったり開いたりを繰り返し、次に両ひじを2~3回曲げたり伸ばしたりし、最後に両手を組み、手のひらが上に向くようにして頭上に上げ、大きく背伸びをしてからゆっくり目を開けます。

自律訓練法がもたらす効果としては、精神の安定・抗ストレス効果・集中力のアップ・疲労回復・血行促進・イライラの解消などがあげられます。

パニック障害 薬物治療

治療の中心になるのは薬物療法で、最も確実な効果が期待できる療法です。しかし、中には薬に対して抵抗感をもつ人が少なくありません。「脳に悪い影響を与えるのではないか」「一生飲み続けるのではないか」「くせになってやめられないのではないか」「副作用が強いのではないか」といった心配をされる患者さんがいますが、決して怖いものではありません。薬に対して不安があれば、遠慮せずに医師に相談されることです。

パニック障害の薬は、かなり高い確率でパニック発作を抑え、予期不安の症状を改善し、軽症であれば完治してしまうこともあります。個人差はありますが、3~4週間ぐらいの服用で効果が出てきてほとんどの人が普通の生活ができるようになります。症状が改善しても再発予防のため約1年間は薬の内服を続けます。

では、薬物療法とはどのようなものかというと、抗うつ薬・抗不安薬と呼ばれる薬を使って脳や神経に働きかけ、パニック症状の改善をはかる治療法です。私たちは危険を感じると、脳幹にある青斑核からノルアドレナリンが分泌され、その刺激を大脳辺縁系に伝え、初めて不安や恐怖を感じ、身を守ろうとします。

ところが、危険でもないのに青斑核が誤作動を起こし、非常ボタンを押して警報を鳴らしてしまうため、突然激しい動悸や息切れ、めまいの症状を訴えることになります。抗うつ薬・抗不安薬は、この誤作動が起こらないように防いでくれ、発作が起きても、薬が神経の興奮を抑えて非常事態を鎮めてくれます。神経は発作を繰り返すと興奮しやすくなり、少しの刺激でもすぐに反応します。ですから、薬をしばらく服用し続けることによって、少しの刺激ぐらいでは興奮しないように、再発を防いでくれるのです。

 

【薬物療法の進め方】

  • 急性期の1~3カ月間は、薬の投与量を症状が顕著に治まる限度まで増量して服用する。
  • 継続期の3~6カ月間は、効果が最大になり、副作用が最小になるように薬の投与量を調整し、特に広場恐怖に対して効果を高める。
  • 維持療法期の6~12カ月間は、薬の量を減量していって、改善した状態を維持し、正常な生活に戻れるようにする。
  • 薬物中止期の10~18カ月間は、時間をかけて減量していき、投薬をしなくとも症状が起こらない状態維持できるようにする。

 

【主な治療薬の効果と特徴】

◇SSRI(分類名)
パニック障害の薬で、世界的に第一選択となっているのがSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)で、抗うつ薬の一種です。SSRIは、セロトニンだけに選択的に作用してアセチルコリンには影響しないため、副作用が少なく安全性が高いのが特徴です。パニック発作を強力に抑える効果があり、予期不安や抗うつ効果も高く、また広場恐怖や強迫性障害、過食症にも有効です。日本では、現在フルボキサミン(ルボックス・デプロメール)とパロキセチン(パキシル)、塩酸セルトラリン(ジェイゾロフト)が認可されています。

SSRIの詳細についてはこちら

 

◇三環系抗うつ薬(分類名)
パニック障害の薬として最初に開発された薬で、SSRIが開発されるまでは、パニック障害の治療に最も多く使われていた薬です。三環系抗うつ薬は、パニック発作を抑える効果がきわめて高く、予期不安や広場恐怖、強迫性障害にも有効ですが、副作用が強いのがデメリットです。脳神経の機能を活発にするセロトニンとノルアドレナリンの働きを高める一方で、アセチルコリンの働きを低下させてしまうため、口の渇き、便秘、眠気、倦怠感、めまい、動悸、かすみ目、排尿障害、起立性低血圧、認知障害、性機能障害、頻脈、多汗などの副作用があります。用量を必ず守り、低用量からはじめて徐々に増やしていきます。効果が出るのは、最低でも2~4週間くらいかかります。 現在、治療として認可されている薬には、イミプラミン(トフラニール)、クロミプラミン(アナフラニール)、アミトリプチリン(トリプタノール)、アモキサピン(アモキサン)などがあります。

三環系抗うつ薬の詳細についてはこちら

 

◇ベンゾジアゼピン系薬物(分類名)
ベンゾジアゼピン系薬物は、脳の興奮を抑えるGABAの働きを高める作用があり、不安や恐怖を緩和する抗不安薬です。いわゆる、俗にいう精神安定剤です。主にパニック障害の急性期に使われ、パニック発作や予期不安を抑える効果があります。 またこの薬物は、SSRIや三環系抗うつ薬の効果が出るのに2~4週間かかりますが、その間にパニック発作が出たときのみ服用する頓服的な使い方をします。また、認知行動療法を行う際に予期不安を抑える目的で一時的に使うこともあります。ベンゾジアゼピン系薬物は、効果の発現が早くて安全性も高いが、耐性や依存性も生じやすいので、医師の指示に従うことが大切です。主な製剤には、アルプラゾラム(コンスタン、ソラナックス)やロラゼパム(ワイパックス)、エチゾラム(デパス)などがあります。
◇SNRI(分類名)
SNRIはSSRIに続いて認可された抗うつ薬で、選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬です。SSRIがセロトニンだけに作用するのに対し、SNRIはセロトニンとノルアドレナリンの両方に作用するため、抗うつ効果が高く、また副作用も少なく依存性もないので、より大きな効果が期待できます。現在、ミルナシプラン(トレドミン)・デュロキセチン(サインバルタ)が認可されています。

SNRIの詳細についてはこちら

 

◇β遮断薬(分類名)
この薬は、激しい動悸があるパニック発作には効果があります。もともと、高血圧や不整脈の治療に使われている薬で、交感神経の働きを末梢で遮断するために、不安に伴う動悸や頻脈を緩和します。ただし、パニック発作そのものを改善する効果はありません。製剤名では、プロプラノロール(インデラル)やカルテオロール(ミケラン)などがあります。

パニック障害 漢方薬治療

柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
神経質でビクビクして不安が強く、よく動悸を起こす場合や、対人恐怖や視線恐怖があり人からどう思われているかが過度に不安になるタイプに用いられる。投与量は7.5mg/日
柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
適応は柴胡加竜骨牡蠣湯と似るが、もう少し体力が弱い人や、気力が低下している人に用いる。冷えが強い人、胃が弱い人、うつ兆候がある人、寝汗をかく人などの恐怖・不安・不眠が対象となる。投与量は7.5mg/日
甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)
柴胡系と違い、パニックや過換気症候群を起こす患者さんや、泣いてばかりで、時に衝動的な行動を起こす患者さん、フラッシュバックに伴う悲哀的感情のある患者さんに用いる。体力が弱くても使用でき、頓服としても利用される。投与量は7.5mg/日
桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
動悸・不安・緊張・不眠などの場合に用いるが、特にフラッシュバックや悪夢の繰り返しなどがある場合に有効。投与量は7.5mg/日
加味逍遙散(かみしょうようさん)
月経周期に関連しておこる不安障害、更年期障害に伴う神経症状、月経症状に伴う不安・イライラ・強迫観念・動悸・胸部症状に用いられる。投与量は7.5mg/日
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
鬱々として不安を伴い、食事がのどを通らない場合に用いられる。投与量は7.5mg/日
加味帰脾湯(かみきひとう)
不安だけでなく、体力・気力が低下している場合に用いる。投与量は7.5mg/日

※参考文献

  • 『カプラン臨床精神医学的スト』(メディカル・サイエンス・インターナショナル刊)
  • 『DSM-Ⅳ-TR精神疾患の分類と診断の手引』(医学書院刊)
  • 『パニック障害の治し方がわかる本』(山田和男著/主婦と生活社刊)
  • 『パニック障害 心の不安はとり除ける』(渡辺登監修/講談社刊)
  • 『パニック障害ハンドブック』(医学書院刊)