吃音とは?~症状の特性や原因・治療などについて~
吃音とは、幼少期から小児期にかけて発症する、「どもり」「なめらかに話せない」という症状のことです。ほとんどが幼少期に発症するため、小児期発症流暢障害と呼ばれることもあります。
子どもに多くみられる症状ではありますが、大人でも吃音の症状で悩む方は多くいらっしゃるでしょう。吃音により、日常生活や仕事において苦痛を感じている方もいます。
ここでは、吃音の原因や症状の特徴、診断、治療法などを詳しく解説します。
1.吃音とは
吃音とは、「どもる」「なめらかに話すことができない状態」のことで吃音症、小児期発症流暢障害とも呼ばれます。100人のうち約5~8人の発症率であり、ほとんどが幼児期に発症するものです。およそ95%の人が4歳までに症状が現れます。自然に治る場合もありますが、大人になっても吃音の症状が続いている場合もあります。
吃音には個人差はありますが、発現しやすい場面があります。たとえば、苦手な行の言葉を発しなくてはいけない時や周りの目を気にし過ぎる、不安な状況、どもらないように吃音を意識し過ぎたときなどです。
吃音がある人は、「さ行」や「い段」が苦手など特定な音や言葉が苦手である人がいます。また、吃音を周りの人から笑われたりからかわれたりした経験があると、周りの目を気にしてしまい言葉を発することが怖くなります。緊張や不安、意識をし過ぎることで、吃音が現れやすくなるのです。
2.吃音の原因
吃音が起きる原因のほとんどは、その子の性質であり生まれもった体質であると言われています。保護者の育て方が原因ではありません。
吃音がある子どもは、他の子どもと比較して言語発達が良い傾向があります。知っている言葉の数が多く、次の文章を考えながら話しており、頭の中に出てくる言葉や文章に対して口がついてこれないことが原因となります。
吃音のある子の半数以上は、小学生になるまでに治るのですが、10代後半や社会人になってから発症する方も稀にいます。吃音が長く続く可能性があるのは、「男児」「家族に吃音のある人がいる」「発症から3年経っても吃音が続いている」といった場合です。
吃音には、発達性吃音と言い「体質的要因」「発達的要因」「環境要因」が互いに影響し合って発症するものと、獲得性吃音と言い「神経学的疾患」「脳損傷」「心的なストレス」によって発症するものがあります。
このように、様々な要因が子ども自身の発達に影響されて、吃音が現れると言われています。
3.吃音の疫学
吃音が発症しやすいと言われている人や、特徴については次のとおりです。
- 子ども100人のうち、約5~8人が発症する(約8%の発症率)
- 有病率は、全人口において約0.8%前後
- 吃音の子どものうち、約95%が2~5歳までに発症する
- 小学生になるまでに治ることが多い
- 10歳以上を過ぎても症状が続くのは、男児に多い
- 女児1人に対して男児は、約3~7人に1人の割合
- 吃音の9割が発達性吃音 吃音は、「発達性吃音」と「獲得性吃音」に分類される
- 発達性吃音の約7~8割は自然に治る
- 18歳以上の場合、およそ100人に1人は吃音の症状がある
吃音は、「発達性吃音」と「獲得性吃音」に分類され、発達性吃音は発達段階途中に何らかの要因で発症するものですが、獲得性吃音は青年期以降に病気やストレスにより発症するといった特徴があります。
そのため、発症時期によって対処法が異なるケースも考えられます。
4.吃音の症状・特徴
吃音には、「連発」「伸発」「難発」といった3つの症状があります。
- 連発「音の繰り返し」
- 伸発「引き伸ばし」
- 難発「言葉に詰まる」
それぞれの特徴について、以下に詳しく解説します。
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症状の特徴
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連発(繰り返し)
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音や語の一部を繰り返す状態になります。特に最初の音を繰り返します。
例えば、「こんにちは」という言葉⇒「こ、こ、こんにちは」
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伸発(引き伸ばし)
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語の一部が伸びてしまう状態になります。言葉の最初の音から、次の音にうつるまでのタイミングが遅くなります。
例えば、「あした」という言葉⇒「あーーあーした」
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難発(ブロック)
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言葉を発するときに詰まってしまう状態になります。のどに力がはいり、最初の音だけ大きくなります。
例えば、「おはよう」という言葉⇒「(……)っおはよう」
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この3つの症状は、単発で起きる場合もあれば併発する場合もあります。その他にも、吃音には次のような二次的症状も起こることがあります。
- 随伴運動(手足をばたつかせる、身体の前屈、話している時に顔をしかめる、足を叩く、舌を出すなど、必要以上に体の一部に力が入ったり動かしたりする)
- 工夫・回避(どもりやすい言葉、苦手な行を話さないように、他の言葉への置き換えや話すことへの回避を見せる)
症状の現れ方には波があり、特定の要因がなく吃音が出やすい時期、出ない時期が繰り返されます。また、話している状況や内容、話す相手によっても変化することもあります。
特に、次のような場面で吃音の症状が発現しやすいと言われています。
- 苦手な行の言葉を発さなければならないとき(例えば、「さ行でどもりやすい」といった、特定の苦手な言葉があるとき)
- 吃音を周りから笑われたり、からかわれたりした経験があると、どうしても緊張・不安感が募り、症状が出やすくなる
- どもらないように意識し過ぎてしまうことで、症状が抑えられるどころか逆に症状が強まってしまう
また、2つに分類されている吃音ですが、「発達性吃音」と「獲得性吃音」では、症状の特徴や進展の程度が異なります。ただし、吃音の症状があるほとんどの人は、幼児期に発症する発達性吃音とされています。発達性吃音の特徴は、以下のとおりです。
- 発達性吃音の多くは、「お、お、おはよう」「あ、あ、あした」というような最初の言葉を繰り返すことから始まる
- 症状には波があり、流暢に言葉が話せる場合もあれば、どもりが強い場合もある 7~8割が自然に症状が治まる
- 残りの2~3割は、症状が固定化されてしまい、流暢に話せる時期が減ってくる
- 症状が進行すると、話す度に最初の言葉が出なくなる場面が多くなる
大人の吃音の場合は、社会においてのコミュニケーションの妨げになることで、職場や恋愛の場面で大きな支障を来すことになります。
どもりを指摘されることで、話すという行為自体に対して恐怖や不安感を抱き、吃音が出てしまう自分を嫌になってしまうことがあります。
一方で、吃音が出てしまうと感じたときに何らかの工夫により、うまく話せたといった成功体験が重なることがあります。そうすることで、最初の言葉をどう出したらうまく話せるかを意識しながら、力を抜いて言葉を発せるようになるでしょう。
また、年齢によって症状の特徴が変わるということも知っておきましょう。以下に詳しく解説します。
年齢
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特徴
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幼児期(2~4歳頃)
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- 音の繰り返し(連発)、引き伸ばし(伸発)の発症が多い
- 多くの子どもが吃音のように、発語がうまくいかないといった成長過程を経験するが、全てを吃音症とは診断できない
- この時期に吃音が発症しても、半分以上が小学校に入る前に症状が消失する
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学童期(6~12歳頃)
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- 言葉に詰まる難発の症状が多い
- 自ら発語を工夫する年齢であり、言葉を言い換えるといった方法を取ることがある
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思春期(12~18歳頃)
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- うまく話せるように工夫することで、吃音症であるにもかかわらず、スムーズに話しているように見える場合が多い
- 症状が出ることを恐れ、人前で話す場面や状況を避けるようになる
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成人期(18歳~)
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- ほんの1%の人が、18歳以上になっても症状が残る
- 吃音の症状が出る状況や場面を避ける行動をとる
- ただし、社会人として働いている場合は、回避できない状況や場面もある
- 自ら仕事上で工夫することが多い
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5.吃音の診断
吃音は、アメリカ精神医学会DSM-5で「小児期発症流暢障害」として診断基準が示されています。
- 会話の正常な流暢性と時間的構成における困難、その人の年齢や言語技能に不相応で、長期間にわたって続き、以下の1つ(またはそれ以上)のことがしばしば明らかに起こることにより特徴づけられる
- その障害は、話すことの不安、または、効果的なコミュニケーション、社会参加、学業的または職業的遂行能力の制限のどれかひとつまたは複数の組み合わせを引き起こす
- 症状の始まりは発達期早期である
- その障害は言語運動、感覚器の欠損、神経損傷に関連する非流暢性または、医学的疾患によるものではない
吃音は、子どもの場合平均発症年齢2~4歳で20人に1人、大人の場合は100人に1人の割合で発症するため、決して珍しい障害ではありません。
子どもの場合は吃音の症状が見えやすいことが多いですが、大人になると自分自身で発語の工夫をし、習慣化されているケースがあります。
6.吃音の治療・対処法
吃音には、確立した治療法はまだありません。しかし、症状を和らげる方法はあるというのが現実です。
そこで、吃音の治療としてはその子どもの年齢や症状、成長発達、家族の状態に合わせた支援を行うことが大切になります。具体的には、次のような方法があります。
- 環境を調整する
- 楽な発話を誘導する
- 直接的な発話訓練をする
- 小児版流暢性形成訓練
吃音が始まった時期から短い方が、治療の効果が高いと言われています。言語発達や発話運動機能が成熟しやすく、環境面の調整による効果も高いでしょう。
子どもの吃音により保護者の不安が強くなった場合は、保護者への支援も行います。周囲からのいじめ、からかいによる心理的な苦痛が最低限で済むことでしょう。
吃音のある大人の場合では、リハビリテーション科のある病院や耳鼻咽喉科で、言語聴覚士による言葉の訓練を行うことが効果的だと言えます。
また、吃音が原因で人とコミュニケーションを取ることから避けたり、嫌な思いや悩みが大きくなったりした場合は、社会不安障害などの精神疾患を合併する恐れもあります。専門医に相談した上で、必要であれば薬物療法の対象となる場合もあるでしょう。
吃音症がある人が、仕事をしていくためには工夫が必要になります。
環境を調整する
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- 吃音の症状が強く、仕事に支障を来すほどである場合、業務の進め方やコミュニケーション方法の工夫、別の仕事に変更するといった調整が必要となる。
- 環境を調整して欲しい旨を上司に伝える場合、どのような困りごとがあるのか、どのような配慮があるとスムーズに仕事ができるのか、具体的に伝えることが大切。
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伝えることを意識する
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- 吃音の症状があると、どうしても「うまく話すこと」に意識を向けることがある。しかし、話すことよりも「相手に伝えること」を意識する方法を試してみると良い。
- 会話の中で、言葉のみで伝えるのではなく、図や写真、ジェスチャーなどを取り入れて、相手に伝わる方法を工夫してみる。
- 仕事における重要な話の場合は、あらかじめ文章にまとめておき、相手に渡すと良い。
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支援を活用する
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- 発達性吃音は、発達障害者支援法の対象疾患となっているため、医師の診断によっては障害者手帳の取得が可能となる。
- 障害者手帳があれば、就職時に障害者枠で採用を受けられるため、会社側から合理的配慮が受けやすいというメリットがある。
- よって、仕事を長く続けやすくなる。
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7.吃音がある人への関わり方
吃音があるお子さんに対しては、「ゆっくり話そう」などのアドバイスをしたり、子どもが言う前に先に言ってしまう、もう一度言い直させたりすることは避けましょう。子どもの話したい、伝えたいという気持ちを抑え込んでしまいますし、吃音の症状がさらに悪化してしまうことがあります。
子どもの話を最後までじっくりと聞いてあげることが大切で、たとえ友達に指摘されたりからかわれたりしていると分かった場合は、早急にその状況を止めさせる必要があります。
また、吃音は発達障害者支援法の対象になるため、「ことばの教室」などのクラスに通うことができます。また、先生への理解を徹底させて、みんなの前で発表するときには事前に練習したり、複数人で行ってもらったりすると良いでしょう。吃音があるということを、クラスメイトにも理解してもらい支援することが大切です。
具体的な対応方法は、次のとおりです。
- 吃音自体には注目せず、話している内容をしっかり聞く
- ゆったりと余裕をもって聞く
- どうしても言葉が出ない場合は、話そうと思ったことを推測して言葉を返す
- 得意なことに目を向け、自己肯定感を上げる
- 周囲の子どもへの対応を丁寧に、分かりやすく
- 吃音を指摘したりからかったりした場合は、止めるように対応する
- 子どもが話しやすい、聞き手になる
- 伝えたいことが分かるまで、相手を急かさずにゆっくりと待ってみる
- 話し方ではなく、伝えたい内容に注目してみる
気になる場合は、ことばの専門家である言語聴覚士に相談をしてみることをおすすめします。
大人の吃音の場合は、本人が吃音であることを隠すためにコミュニケーションを積極的にとらない人が多いです。社会生活に大きく影響を与えるため、周りの人の理解とともに自分自身でも、「話すこと」ではなく「伝えること」を意識したり、発言の練習をしたりと訓練することも大切でしょう。
また、可能ならば本人と一緒に吃音についてお話をしてみることも良いでしょう。どのような状況で症状が出るのか、どんな方法でコミュニケーションをとれば楽なのかなどを話し合い、本人も周りの方が心理的負担少なく関われるように工夫することが大切です。
8.まとめ
吃音は、ほとんどが幼少期に発現し、成長するにつれて症状が消失することが多い疾患です。
しかし、人前で話をするようになる幼稚園年長さんや小学生低学年の場合は、どもりによって友達作りができなかったり、友だちにからかわれたりといった辛い状況になるケースも多々あります。そして、学力には問題ないにもかかわらず、不登校になったり勉強に集中できずに学力が低下したりといった学校生活に影響を来すこともあるでしょう。
大人の吃音では、本人が工夫して生活しているケースが多くみられます。それでも、特定の状況が苦手だったり周りに理解されなかったりといった場面から、苦痛を感じていることもあるでしょう。
そこで、吃音の症状がある本人がご自分で環境を調整したり、周りにサポートを依頼したりといった工夫を行うことが大切です。さらには、公的支援を活用することや周りの人が吃音症を理解し、どのような意識で吃音症の人とコミュニケーションをとればいいのかを知ることが大切になるでしょう。
吃音の症状は人それぞれです。症状が弱い・強いに関係なく、本人がその人らしく生活していける環境を整え、楽にコミュニケーションが図れる方法を考えていきましょう。