薬物乱用性頭痛column

Update:2023.10.15

薬物乱用性頭痛とは

過度な痛み止めの薬や片頭痛薬などを頻繁に摂取することで引き起こされる種類の頭痛です。薬は本来は頭痛の緩和に効果がありますが、長期間にわたって過剰に使用すると逆に頭痛の増悪を引き起こすことがあります。痛み止めの使用を減少させることや、医師の指導を受け適切な治療を行うことで改善が見込めます。

薬物乱用性頭痛

目次

1.薬物乱用性頭痛とは

薬物乱用性頭痛は、もともと片頭痛や緊張型頭痛を持つ人が、処方薬や市販の頭痛治療薬を過剰に使用することで起こる頭痛のことを言います。頭痛薬を多用・連用している状態が続くことで、ちょっとした刺激でも強い痛みとして感じるようになり、結果的に耐えられない頭痛が起こる回数は増加し、症状を悪化させてしまいます。

そして、その頭痛が出る、または痛みが現れる前に頭痛薬を服用する回数が増えてしまい、より薬の効き目が落ちていきます。こように1ヵ月のうちに何度も頭痛薬を服用する状態が続く場合は、薬物乱用性頭痛の可能性があると考えられます。

また、この薬物乱用性頭痛を持つ人は、「また激しい痛みが来るのではないか」と不安になってしまい、強い痛みが現れる前に鎮痛剤を服用することが多いとされています。

このような悪いサイクルに陥ってしまいますが、根本的な原因を解決できないかぎりは、頭痛薬を飲み続けることになり兼ねません。そして1つの薬剤では効果が全くでなくなり、多剤併用になる恐れもあるでしょう。

2.薬物乱用性頭痛が起きる原因は

薬物乱用性頭痛を引き起こす原因となる薬剤は、医師から処方される頭痛薬ではなく市販の鎮痛剤で起こります。特に、アセトアミノフェンや非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)などの鎮痛薬、トリプタン、オピオイド、複合鎮痛薬(鎮痛薬とカフェインの合剤)、エルゴタミン製剤などの薬の常用で起きる頭痛です。

明確な頭痛の誘発機序は分かっておりませんが、鎮痛剤を多用・連用することで次のような状態になるためと考えられています。

痛みを感受する神経の反応が変化し、弱い痛みであっても強い痛みが引き起こされたと誤認する 片頭痛を抑制する働きがあるセロトニンの慢性的に足りない状態が続くことで、鎮痛剤を服用しても効き目がない

このような状態から、薬物乱用性頭痛を引き起こすと言われています。

ただし、鎮痛剤を多用・連用している人が誰でも薬物乱用性頭痛を引き起こすわけではありません。群発頭痛を引き起こす人や他の疾患で鎮痛剤を服用している人には、この薬物乱用性頭痛を引き起こさない人も多くいます。つまり、薬物乱用性頭痛が起きる原因として、「片頭痛や緊張型頭痛の体質を持つ人が、原因となる薬剤を多用・連用することで引き起こされる頭痛」が最も発症が多いとされています。

また、慢性的に続く薬物乱用性頭痛の痛みに対する不安から、鎮痛剤を予防的な方法として早めに飲んだり、痛みが出る前に飲んだりすることで、薬の効果が弱まることもあります。すると、さらに頭痛が酷くなってしまい、再び鎮痛剤を服用するという悪いサイクルに陥ってしまいます。

3.薬物乱用性頭痛の症状

薬物乱用性頭痛は、これまでに片頭痛や緊張型頭痛をもつ人が、痛みの出るたびに市販の頭痛薬を服用し続けてきたが、次第に薬の効果が感じられなくなり、さらに服用する量や頻度が増えてきているという状態が典型的です。常に頭痛薬を常備しており、朝起きたときから薬を飲むという生活になっているでしょう。

具体的な症状の例は、次のとおりです。

  • 頭痛が月に15日以上ある
  • 頭痛薬を月に10回以上飲んでいる
  • 頭痛薬の効き目を感じなくなってきた
  • 起床時にも頭痛があり、朝から薬を飲む
  • 薬を飲んでも痛みが治まらない
  • 頭痛の程度や痛む場所が前とは違ってきた
  • もともと片頭痛持ちで、市販薬に頼っていた
  • ひどい頭痛を経験したことがあり、それから予防的に頭痛薬を飲んでいる

このような症状が現れている場合は、ただの片頭痛や緊張型頭痛ではなく、薬物乱用性頭痛と言えるでしょう。

特に、常に服用している頭痛薬の成分にも注意が必要です。市販薬の中には、カフェイン(無水カフェイン)が含まれている薬が多く、カフェインの過剰摂取によって薬物乱用性頭痛になるとも言われています。

4.薬物乱用性頭痛と精神疾患の関係性

薬物乱用性頭痛が起きやすい原因として、片頭痛から移行した薬物乱用性頭痛は気分障害や不安障害、物質依存を随伴しやすいと指摘されています。

しかしながら薬物乱用性頭痛では、頭痛薬の依存が始まる前から精神疾患を随伴していることが多く、薬物乱用性頭痛が発現される前の元の頭痛(主に片頭痛)の時からケアが重要になります。

もともとうつ病や不安障害、物質依存などの精神疾患を持っている人は、薬物乱用性頭痛を伴う可能性が高いとされており、元の頭痛の治療に対して薬物乱用性頭痛になることを考慮した上での治療を行うことが大切です。

5.薬物乱用性頭痛の診断

薬物乱用性頭痛を診断するためには、国際頭痛学会の診断基準を参考にします。

A

頭痛は1ヶ月に15日以上存在する

B

以下のように急性期・対症的治療薬を3ヶ月超えて定期的に乱用している

3ヶ月を超えて、エルゴタミン、トリプタン、オピオイド等の薬物を1ヶ月に10日以上乱用している単一成分の鎮痛薬、あるいは、単一では乱用に該当しないエルゴタミン、トリプタン、鎮痛薬、オピオイドのいずれかの組み合わせで合計月に15日以上の頻度で3ヶ月を超えて使用している

C

頭痛は薬物乱用により発現したか、著明に悪化している

この診断基準をもとに、詳しい問診を行います。頭痛の症状や薬を服用した後の痛みの状態などを聞き、「頭痛の頻度と鎮痛剤の使用状況」を自分自身で日記をつけて把握していきます。そして、次のような項目に当てはまるかどうかチェックします。

以前から時々頭痛がある 片頭痛や緊張型頭痛と診断を受けたことがある 今まで効いていた頭痛薬が効かなくなってきた気がする 服用している薬は、自分で判断して購入した市販薬である 予防的に頭痛薬を服用してしまうことがある

また、頭痛薬を飲まないで耐えられる日がどのくらい続くかどうかも確認します。さらには、鎮痛剤を服用するタイミングについてもパターンを把握します。たとえば、痛みが増してきそうだと感じたときに予防的に服用するのか、強い痛みに耐えられなくなってから服用するのかということです。

このような頭痛の状態、鎮痛剤の服用状況などを把握する他に、脳自体に何らかの病気が隠されていないかどうかを画像診断で確認していきます。

6.薬物乱用性頭痛の治療

薬物乱用性頭痛の治療方法として、一番大事なことは原因となる薬剤の服用を中止することです。中止する方法として、「徐々に服用する量を減らしていく方法」と「すぐに服用を中止する方法」があります。

ここで注意が必要なのは、薬物乱用性頭痛の場合は薬剤の使用をすぐに中止してしまうと、離脱症状として激しい頭痛が起こるため、薬物乱用性頭痛の原因にならない薬物に変更したり、予防薬を処方したりという方法をとります。

そのように原因の薬物を中止したとしても、最初は身体の反応として激しい痛みや頭痛の出現回数などは辛い状態が続くでしょう。しかし、徐々に頭痛が起こる回数や痛みの強さなどは治まっていきます。

薬物乱用性頭痛が治まり、再発しないとなった場合、次にもともとの頭痛の原因となる片頭痛や緊張型頭痛の治療を行うことになります。

また、服用する頭痛薬を調整するだけではなく、片頭痛や緊張型頭痛を抑えるための日頃の生活も改善していくことが指導されます。片頭痛や緊張型頭痛では、それぞれ症状を抑える方法が異なるため、どちらの頭痛が根本にあるのか分かった場合は、適切な対処法をとっていきます。

さらには、薬物乱用性頭痛に随伴して気分障害や不安障害、物質依存といった精神疾患が見られている場合は、そちらの治療も同時に行うことが必要となります。

このように、薬物乱用性頭痛は再発率も高いため、頭痛外来などの専門的な医療機関で適切な治療を受けることが重要です。同時に精神疾患が認められる場合は、精神科や心療内科による治療も併用していくことになります