摂食障害 診断基準・治療方法

摂食障害 診断基準・治療方法

この記事のもくじ

 摂食障害の診断はそれほど難しくありません。低体重なのに、活動的で治療に抵抗を示す場合は神経性無食欲症が疑われ、正常体重で大食や嘔吐を示す場合は神経性大食症が疑われます。このように診断基準にしたがって診断することは比較的容易ですが、治療を進めるにあたっては慎重を要します。まず患者さんとの人間関係を良好に築いて、患者さんの身体や精神状態、行動異常などを的確に把握することが重要ですが、それはそう簡単ではありません。患者さん自身やその親御さんから病歴の聴取、また診断基準をいかに適用するかが肝要となってきます。

 

病歴の聴取

 診断の手順としては、まず病歴の聴取からです。聴取は、患者さんからの聴取と親からの聴取が必要になります。

 

①患者さんからの聴取 
 患者さんからの聴取で心掛けなければならないことは、自ら希望して受診したのか、それとも親や配偶者から言われて受診したのかによって聴取の仕方も異なってきます。自分から進んで受診したのであれば、治療に対する動機づけはかなり出来ていると考えられます。しかし、親から強制されて受診した場合は、患者さんと単独面接します。そして、親から受診するように言われた経緯について聴取しますが、その際、親の側に立った聞き方ではなくて、患者さん側に寄り添って共感的に接し、患者さんの感情や怒りを和らげるような対話が必要になります。患者さんの意志を尊重した治療が肝要であることを十分に説明し、協力を得られるようにします。また、このことを親にも伝えて納得してもらいます。
神経性大食症の患者さんが単独で受診した場合は、受診したことを親は知っているか、また大食や嘔吐をしていることを親に打ち明けているかなどを聞いていきます。自分の行動を親に内密にしておくと、そのことがストレスを増強させたり、自尊心の低下にもなって大食を誘発する要因にもなります。親に伝えていなかったら、打ち明けたほうが良いことを話し、その時期は自分で決めるように説明します。
次に、発症時期とその契機について聞きます。発症の契機については、例えばストレスなどで食思不振に陥る、体重を減らすためにダイエットを始める、母親からの注目を引くため、愛情を注いでもらいために食べなくなったりする、などのよって体重が減少した場合です。そして時期は、ダイエットなら低体重を生じたダイエットの開始時期、大食が生じた場合は最初に生じた大食の発症時期です。さらに、大食を生じた時の生活上の出来事の有無や内容についても聞きます。次に体重についても聞きます。摂食障害を発症する前の健康時の時の体重、体重減少が生じたときの一定期間の減少速度、現在の身長になってからの最低体重と最高体重およびその時期、そして願望体重などについても聞きます。そうすることによって、現在かなり低体重なのに、それ以上の体重減少を望む場合は痩せ願望が強いことが判断できます。
次に、摂食行動や嗜癖行動についても聞きます。摂食量が減った原因が、食思不振なのか、無食欲なのか、ダイエットなのかを聞きます。大食については最近の1~2週間、また過去の最悪時の大食回数、大食が月経周期と関係しているかどうかも聞きます。排出行動については、嘔吐や下剤乱用の有無、あればいつ頃から、下剤の量と頻度、過剰な運動の有無、そして病院で利尿剤の投与を受けているかについても聞いておきます。嗜癖については、喫煙の有無、1日の量、動機などについて聞きます。中には喫煙すると食欲が低下して痩せると考えている人もいます。飲酒についても、頻度と量、アルコール依存や乱用の有無についても情報を得ます。
その他、月経では初潮年齢や希発月経、無月経などの発症時期や持続期間、また月経異常と摂食障害発症時期との関係についても聞きます。神経性大食症の患者さんの中には、1カ月に2回の過剰月経の人もいます。月経の治療歴や現在受けている治療も聞いておきます。問題行動について、自分から話さない場合が多いので、問題行動調査票などを使って記入してもらいます。これにより自傷行為、自殺、万引き、家庭内暴力などについて情報を得ることができます。この他、家庭・学校・職場などでの対人関係、親の干渉程度、父親像、母親像などについても聞きます。また今まで治療を受けたかの有無、その効果や印象についても聞いておきます。
②親からの聴取
 まず、摂食行動や体重について聞きます。子どもの摂食量が低下した時期、家族と一緒の食事を避けるようになった時期、目立って痩せだした時期、食後すぐにトイレに行くようになった時期などについて尋ねます。家庭や学校や社会生活関係では、夫婦関係、養育方針、教育方針や教育歴、病気になってからの両親の子どもへの接し方、通学や通勤の様子、成績が下がりだした時期、不登校・欠勤などの有無についても尋ねます。問題行動についても、自傷行為、自殺企図、家庭内暴力、万引きなどについても聴取します。さらに今までに受けてきた治療についても聞きます。入院歴とその期間、治療前後の体重変化と摂食行動、また外来通院の状態、転院した場合の理由などについて親御さんから情報を得ておく必要があります。

診察の注意点

 診察の際、会話を交わしながら視診でチェックするポイントがいくつかあります。それは、顔や四肢の痩せ具合、脱毛やうぶ毛の密生の程度、頬部の腫脹の有無、眼瞼や下肢の浮腫の有無、手背の吐きダコや手首切傷の有無、虫歯の状態、皮膚線条の有無などを、さりげなく観察することです。次に、一般内科的所見についても調べる必要がありますが、中でも特に配慮するのが体重測定です。抵抗なく体重計に乗る患者さんは別として、抵抗する患者さんの場合が問題です。骨と皮だけのきわめて低体重であるにもかかわらず、体重測定を頑に拒否する患者さんもいます。その場合、強制的に測定をしないように留意することです。無理すると、次回から受診しなくなることがあります。患者さんに数字が見られない形での測定が可能かどうか、聞いてみる必要があります。

 また、神経学的所見については適宜行うとして、精神科的所見については、診察時の精神状態、診察への協力の程度、治療への動機づけの程度などを把握します。摂食行動異常や問題行動の評価については、自分で記入できる「摂食態度検査(EAT)」、「摂食障害調査票(EDI)」、「摂食障害症状評価票(SRSED)」、「大食症状調査票(BITE)」、「問題行動調査票」などを用います。

診断基準の使用の仕方

 ここからは摂食障害の診断基準について説明します。診断基準で、最近もっともよく用いられているのが、アメリカ精神医学会の「DSM-Ⅳ」(精神疾患の分類と診断の手引き)と、WHO(世界保健機構)の「ICD-10」です。このほか、日本の厚生労働省研究班が作成した神経性無食欲症の診断基準や、DSM-Ⅲ-R、Feighnerの診断基準などが知られています。一般的に、研究目的ではDSM-Ⅳが、疫学調査ではICD-10が用いられています。

 

神経性無食欲症の診断基準

 DSM-ⅣとICD-10の診断基準、および厚生労働省研究班の診断基準については、〈表1〉に示した通りです。以下、重要な項目について説明を加えておきます。

 

  • ① 体重の基準:DSM-ⅣとICD-10の基準では、標準体重より15%以上の体重減少となっていますが、ICD-10では標準体重は国や人種により異なるため、BMIで17.5以下も採用しています。日本人は民族的にスリムなので、20%の体重減少が採用されています。
  • ② 食行動:食思不振、不食、絶食、節食、また太りやすい食物を避けるなどの食行動異常で体重減少をもたらしますが、経過中には食物の貯蔵や盗み食いで多食になることもあります。体重増加を防ぐために自己誘発性嘔吐や下剤、利尿剤などの乱用を伴ったり、また過活動で余分なエネルギーを消費する行動も現れます。
  • ③ 歪んだ身体像:ひどく痩せているのに、痩せを認めず太っていると言ったり、お腹・お尻・大腿部・頬など体の一部が出ていたり太っていると信じ、病識がありません。
  • ④ 痩せ願望:体重が正常範囲であっても、痩せ願望が強く、肥満恐怖がみられます。肥満していないのに肥満を恐れてダイエットに精を出したりします。
  • ⑤ 無月経:無月経は3カ月以上持続することが必要で、女性ホルモン投与によって月経が生じても、無月経と見なされます。
  • ⑥ 発症年齢:ほとんど25歳以下であるが、近年は14歳以下の低年齢化と、30歳以上の高年齢化が見られます。
  • ⑦ 自己評価:体重が増えれば失敗したと思い、逆に減れば成功したと思い、自信を得ます。

〈表1〉

◇DSM-Ⅳによる神経性無食欲症の診断基準

  • A. 年齢と身長に対する正常体重の最低限、またはそれ以上を維持することの拒否(例:期待される体重の85%以下の体重が続くような体重減少;または成長期間中に期待される体重増加がなく、期待される体重の85%以下になる)
  • B. 体重が不足している場合でも、体重が増えること、または肥満することに対する強い恐怖
  • C. 自分の体重または体型の感じ方の障害、自己評価に対する体重や体型の過剰な影響、または現在の低体重の重大さの否認
  • D. 初潮後の女性の場合は、無月経、すなわち月経周期が連続して少なくとも3回欠如する(エストロゲンなどのホルモン投与後にのみ月経が起きている場合、その女性は無月経とみなされる)

▼病型を特定せよ

 制限型:現在の神経性無食欲症のエピソード期間中、その人は規則的にむちゃ食いや排出行動(つまり、自己誘発性嘔吐、または下痢、利尿剤、または浣腸の誤った使用)を行ったことがない

むちゃ食い/排出:現在の神経性無食欲症のエピソード期間中、その人は規則的にむちゃ食いや排出行動(すなわち、自己誘発性嘔吐、または下痢、利尿剤、または浣腸の誤った使用)を行ったことがある

◇ICD-10による神経性無食欲症の診断基準

  • A. 体重減少は(小児では通常のように体重が増加せず)、標準体重あるいは年齢と身長から期待される体重より少なくとも15%下回っていること
  • B. 「太るような食物」を自らが避けることによって起こる体重減少
  • C. 肥満に対する病的な恐怖を伴った太りすぎというボディイメージの歪みがある。このために体重の許容限度を低く設定して自らに課す
  • D. 視床下部-下垂体-性腺系を含む広範な内分泌障害が顕在化する。それは、女性で無月経によって、男性では性的な関心と性的能力の喪失によって確認される(明らかに例外的なものとして、避妊薬に代表されるホルモンの補充療法を受けていると、神経性無食欲症の女性でも持続的な性器出血をみることがある)
  • E. 神経性大食症(F50.2)の基準A、Bを満たさないこと

コメント

 次の特徴は診断の補助となるが、必要条件ではない。つまり、自己誘発による嘔吐、自発的な下剤使用、過度の運動、食欲抑制剤および/または利尿剤の使用

発症が前思春期であれば、思春期徴候の発現が遅延したり、停止に至ることもある(成長の停止。女子では、乳房が発達せず、原発性無月経がある。男子では、小児のままの性器にとどまる)。回復すると、通常思春期は普通に完了するが、初潮は遅れる


◇厚生労働省研究班による神経性無食欲症の診断基準

  • 1. 標準体重の-20%以上のやせ(3カ月以上)
  • 2. 食行動の異常(不食、多食、隠れ食い、など)
  • 3. 体重や体型についてのゆがんだ認識(体重増加に対する極端な恐怖など)
  • 4. 発症年齢:30歳以下(ほとんどが25歳以下、まれに30歳以上の初発)
  • 5. (女性ならば)無月経(その他の身体症状としては、うぶ毛密生、徐脈、便秘、低血圧、低体温、浮腫などを伴うことがある。時に男性例がある)
  • 6. やせの原因と考えられる器質性疾患がない

 

神経性大食症の診断基準

 DSM-ⅣとICD-10による神経性大食症の診断基準は〈表2〉に示した通りです。神経性大食症の厚生労働省研究班の診断基準はありません。以下、重要な項目について説明を加えておきます。

 

  • ① 大食:DSM-Ⅳによると、一度食べ出すと途中で止められず、ある一定の期間内で通常食べる量より、明らかに多い食物を摂取するのを神経性大食症と定義しています。つまり、神経性大食症の病像の本質は、むちゃ食いをくり返すことで、食べることを制御できないという患者さんの感覚を伴う過剰な食事摂取のエピソードのことです。途中で食べることを制御できるかどうかが決め手となります。途中で止められれば神経性大食症としません。また、食べる量が多くても途中で止めることができれば、これも神経性大食症にはなりません。診断基準では一定の時間内とありますが、中には1日中だらだらと食べる患者さんもいますが、この場合も途中で止められるかどうかが決め手となります。またDSM-Ⅳでは、むちゃ食いが最低週2回以上で3カ月間続くことが基準になっており、この条件を満たさない場合は、特定不能の摂食障害と診断されます。このことから、ICD-10で神経性大食症と診断されても、DSM-Ⅳでは診断されない場合も生じます。
  • ② 排出行動:体重増加を防ぐために、自己誘発性嘔吐や下剤、利尿剤などを乱用して排出行動をしたり、大食後の絶食や過剰な運動などを行います。
  • ③ 自己評価:痩せ願望は、神経性無食欲症ほど強くないが、肥満恐怖は強いため神経性無食欲症と同じように自己評価は体重によって過度に影響を受けます。
  • ④ 神経性無食欲症との関係:神経性大食症と診断する際、診断の時点で神経性無食欲症の診断基準を満たしていないことが必要です。ただ、過去に神経性無食欲症と診断できる時期がある場合も少なくありません。 

〈表2〉

◇DSM-Ⅳによる神経性大食症の診断基準

  • A. むちゃ食いのエピソードの繰り返し。むちゃ食いのエピソードは以下の2つによって特徴づけられる
  • (1)他とはっきり区別される時間帯に(例:1日の何時でも2時間以内)、ほとんどの人が同じような時間に同じような環境で食べる量より明らかに多い食物を食べること
  • (2)そのエピソードの期間では、食べることを制御できないという感覚(例:食べるのをやめることができない、または、何を、またはどれほど多く食べているかを制御できないという感じ)
  • B. 体重の増加を防ぐために不適切な代償行動を繰り返す、例えば、自己誘発性嘔吐、下剤・利尿剤・浣腸・またはその他の薬剤の誤った使用による排出行動、絶食・または過剰な運動
  • C. むちゃ食いおよび不適切な代償行動はともに、平均して、少なくとも3カ月間にわたって週2回起こっている
  • D. 自己評価は、体型および体重の影響を過剰に受けている
  • E. 障害は、神経性無食欲症のエピソード期間中にのみ起こるものではない

▼病型を特定せよ

  • 排出型 現在の神経性大食症のエピソードの期間中、その人は定期的に自己誘発性嘔吐をする、または下剤、利尿剤、または浣腸の誤った使用をする
  • 非排出型 現在の神経性大食症のエピソードの期間中、その人は、絶食または過剰な運動などの他の不適切な代償行為を行ったことがあるが、定期的に自己誘発性嘔吐、または下剤、利尿剤、または浣腸の誤った使用はしたことがない

◇ICD-10による神経性大食症の診断基準

  • A. 短時間の間に大量の食物を消費する過食のエピソードを繰り返すこと(週2回以上の過食が3カ月間以上)
  • B. 食べることへの頑固なこだわり、および食べることへの強い欲求または強迫感(渇望)
  • C. 患者は、次に示すうちの1項目以上のことで、食物摂取の増加による体重増加に対抗しようと試みる(代償行動)
  • (1) 自己誘発性の嘔吐
  • (2) 自発的な下剤使用
  • (3) 交代性にみられる絶食の時期
  • (4) 食欲抑制剤や甲状腺ホルモン剤または利尿剤のような薬物の使用。糖尿病患者が過食[大食]症になると、インスリン治療を故意に怠ることがある
  • D. 肥満に対する病的な恐怖を伴う。太りすぎというボディ・イメージの歪み

 

診断基準にあてはまらない摂食障害

 DSM-Ⅳにおいては、神経性無食欲症や神経性大食症の診断基準の一部を満たさない場合は、「特定不能の摂食障害」と診断されます。特例不能の摂食障害の診断基準を〈表3〉に示しました。

 

〈表3〉

 特定不能の摂食障害のカテゴリーは、どの特定の摂食障害の基準も満たさない摂食の障害のためのものである。例をあげると、

 

  • 1. 女性の場合、定期的に月経があること以外は、神経性無食欲症の基準をすべて満たしている
  • 2. 著しい体重減少にもかかわらず現在の体重が正常範囲内にあること以外は、神経性無食欲症の基準をすべて満たしている
  • 3. むちゃ食いと不適切な代償行為(無理な排泄行動など)の頻度が週2回未満である、またはその持続期間が3カ月未満であるということ以外は、神経性大食症の基準をすべて満たしている
  • 4. 正常体重の人が、少量の食事をとった後に不適切な代償行動を定期的に用いる(例:クッキーを2枚食べた後の自己誘発性嘔吐)
  • 5. 大量の食事を噛んで吐き出すということを繰り返すが、飲み込むことはしない(チューイング)
  • 6. むちゃ食い障害:むちゃ食いのエピソードを繰り返すが、神経性大食症に特徴的な不適切な代償行動の定期的な使用はない

 

鑑別診断

 痩せをきたす身体疾患や精神疾患が鑑別診断の対象になります。身体疾患の鑑別となる主なものは、脳腫瘍、糖尿病、シモンズ病、肝炎、膵炎、結核のほか、副腎皮質機能低下症、甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患も鑑別の対象になります。この一般的臨床検査を行うにあたっては、その症状や徴候、緊急度に応じて適宜に行われるもので、その結果、異常所見が発見されてもそれが一次的なものか、痩せによる二次的なものか判断が必要です。  次に痩せをきたす精神疾患では、躁うつ病、統合失調症、心因反応などが鑑別対象になります。神経性無食欲症ほど痩せる疾患は、統合失調症の拒食状態ぐらいですので、鑑別は容易です。

 

そのほかの、自己記入式摂食障害診断テストは、自己記入式精神障害診断テストの項目にまとめてありますので、そちらを参考にしてください。

 

摂食態度検査(Eating Attitudes Test ; EAT)

 この摂食態度検査(EAT)は、患者さんの観察から経験的に導きだされた摂食行動や態度に関する40項目の質問からなる検査票で、神経性無食欲症の患者さんの臨床症状を簡便に評価するのによく用いられます。自己評価は、各項目ごとに「いつも」「非常にしばしば」「しばしば」「ときどき」「たまに」「まったくない」の6段階で評価します。記入者は最もあてはまる項目に○をして、各項目の点数の合計を計算して診断基準をご覧ください。




摂食障害調査票(Eating Disorder Inventory ; EDI)

 この調査票(EDI)〈表5〉は、神経性無食欲症や神経性大食症患者さんにみられる摂食行動や心理的特徴を、包括的かつ多面的に評価することを目的に開発されたものです。EATが神経性無食欲症患者さんの症状や行動特徴のみを評価しているのに対し、この摂食障害調査票は、①痩せ願望、②体型不満、③過食、④無力感、⑤完全主義、⑥対人不信、⑦内部洞察、⑧成熟恐怖の8つの下位尺度64項目からなっています。項目ごとに「いつも」「ほとんどいつも」「しばしば」「ときに」「めったにない」「一度もない」の6段階で自己評価します。また、8つの下位尺度のうち、①痩せ願望、②体型不満、③過食の3尺度は摂食行動や体型に対する態度に関するもので、その他の④無力感、⑤完全主義、⑥対人不信、⑦内部洞察、⑧成熟恐怖の5尺度は、患者さんに見られる心理的な特徴についてのものです。




大食症状調査票(Bulimic Investigatory Test Edinburgh : BITE)

 この調査票(BITE)〈表6〉は、一般の人において大食症のスクリーニングのためと、神経性大食症の患者さんの症状とその重症度を評価するために作成されたものです。症状を評価する項目は30項目からなっていて、評価が20点以上であれば、大食症の可能性が高いことになります。次に、重症度を評価する項目は3項目あって、大食の程度は5段階で、排出行動の程度は7段階で答えるようになっています。重症度評価では5点以上が臨床的に重症であるとされています。

 

治療方法

 摂食障害の治療は、一般的には非常に難しく、唯一特効的な治療はないということです。それだけに、治療に対しては専門的な知識や技量を必要としますし、寛解や治療にいたるまでに長期間を必要とします。摂食障害の患者さんはさまざまな身体的、精神的な問題を有していて、内科的、精神医学的、心身医学的治療を含めた総合的なアプローチを必要とします。特に、神経性無食欲症の患者さんの場合、そのほとんどの方は病識に乏しく、治療に非協力的なために導入しにくいのが現状です。仮に治療を開始したとしても、途中でドロップアウトしてしまう患者さんもいます。さらに治療を困難にしていることは、患者さん本人の治療だけでは不十分で、家族療法が不可欠であるということです。母親のみならず、家族全体を対象にしたシステムズアプローチなども必要となります。近年、患者さん本人や家族全体を対象にした集団精神療法も行われるようになり、その有効性も確認されています。

 

 また摂食障害の治療においては、精神療法、行動療法、認知行動療法、身体療法など、さまざまな病因論にもとづく各種治療法が試みられ、それぞれ一定の効果を収めています。ひとつひとつの治療法には、患者さんの病態に応じて、医師の専門とする療法、治療に要する時間や経済性などが考慮され、適宜選択され、組み合わされて行われています。したがって、ある治療法が少数の患者さんには有効であっても、他の患者さんにはそれほど効果のない場合もあり、その逆もあります。この摂食障害の治療の難しさは、この病気の多面性を物語っています。このように、摂食障害の治療においては、心身両面からの総合的なアプローチを試みながら、家族療法を視野にいれて、長期に渡って継続する治療が求められます。どうしても、医師個人の力だけではおのずと限界がありますので、複数の医師による治療の分担や、臨床心理士、ケースワーカーなどのコメディカルスタッフの協力を得たチーム医療がきわめて重要となってきます。

 

 さて、各種治療法を導入する以前の問題として重要なのは、治療への動機づけをした後、それを維持し強化するプロセスです。患者さん、または患者さんの家族が受診してからの流れを示しますと、

 

 ①初診→②治療への導入→③重症度の判定→④外来治療

 

が治療の基本です。もちろん、重症度判定の段階で、身体的に重症であれば、必要に応じて短期間小児科や内科で入院治療も必要になりますし、精神的に重症であれば精神科への入院もあります。その後再び外来治療に戻して治療を継続していきます。いずれにしても、治療にあたっては病気について正しく知ってもらうための教育を十分に行う必要があります。そして、治療への動機づけを強化し維持しながら治療をすすめ、少しずつ改善していく過程において患者さんの心の成長を温かく見守っていくことが肝要です。

 

治療への導入がポイント

 摂食障害の患者さんは、この病気についての知識が非常に乏しいということが問題になります。つまり自分が抱いている強い痩せ願望自体が、実は病気の症状であるという認識がないのです。したがって、この病気の治療導入への最重要ポイントは、痩せたいという症状は病気によるものであるという“病気の外在化”です。このことをしっかり伝え、教育すると同時に、体重増加への動機づけをすることが、病気改善への第一歩ということになります。

 

 病識が患者さんにないと、自ら進んで受診しようとはしません。親や家族が叱責したり、無理に説得してしぶしぶ受診させても、医師の診断に対して非協力的になったり、無言の抵抗を示したりします。本人にすれば、自分の肥満への恐怖心を無視して無理矢理に受診させ、体重を増加させて現実に苦しむのは自分だけではないか、という警戒心を持っています。しかし、一方においては自分の痩せたくなる気持ちがどうして起こるのか、異常な食行動への不安や気分の不安定さに対しても強い不安感を持っているのも事実です。家族、学校、職場、そして医療機関を含めて自分の気持ちを理解してくれないという、まさに四面楚歌の気持ちになっています。こうした状況下では、まず医師は最初に患者さんとの間の信頼関係を確立することから始めねばなりません。

 

 信頼関係をつくるポイントとは、まず受診したことを評価してあげ、悩んでいることに共感します。「痩せたい気持ちになるよね」と言って、医師は患者さんの心理に寄り添い、受け入れることが大切です。病気になったことを決して責めないことです。説得して改善しようとしないことです。神経性無食欲症を科学的に説明して、異常な心理や行動は、患者さん本人に責任があるのではなくて、病気がさせている特徴的な症状であることを話します。そして、痩せが改善していけば治る病気であることを情報提供していきます。例えば、あえて異常値の結果がでる検査を行い、その結果を丁寧に説明し、その異常を改善する方法も教えます。このように、患者さんのニーズに応じた医学的な情報を提供しながら、常に医療者は患者さんの味方であり、安心できる相談の場であることを伝えます。いずれにしても、医療者は患者さんに対して丁寧に対応し、自分が大切に扱われていることを気づかせ、自尊心を育てる工夫が大事です。

 

 これは、神経性大食症においても同じです。過食のエピソードに悩み、そこから抜け出せない自分に無力さを感じています。自己嫌悪や無気力に陥って、「自分は意志が弱くて治らない」と諦めて受診しないケースが多いのです。また受診できても、医師の対応がまずければ治療への導入が図れず、治療を始めても途中で脱落してしまいます。したがって、摂食障害の患者さんの治療には、初診時にいかに治療への動機づけをして、患者さんを治療に導入するかがポイントです。以下、初診時における患者さんおよび家族への対応について述べます。

 

親・家族が相談にきた場合

 これまで、患者さんは病気を理由に、長期にわたって親や家族に対してかなりの無理を強いてきました。親も患者さんである子どもへの対応についてはかなり苦労し、手を焼き、切羽詰まって医療機関に駆け込んでくる場合が多くなります。悲痛な面持ちで相談に来られた親御さんの苦悩に対しては、十分に耳を傾けることが大切です。そしてここでは、両親の抱えている悩みをいかに軽減するかが医師の対応へのポイントになります。たいていの親は、自分たちの“しつけ”や“育て方”の失敗にすべての原因があると考えて、自責の念に駆られています。子どもを上手く育てられなかった事への罪の意識や後ろめたさを、できる限り取り除いてあげることです。この摂食障害という病気は、ただ単に子育てや教育の失敗だけで発症するものではなく、体質や性格、環境などさまざまな要因が複雑に絡み合って生じていることを伝えます。決して親だけの責任ではないことを説明し、親の罪の意識や後ろめたさを軽くしてあげることによって、親が子どもを客観的に見つめることができ、冷静に対応できるように治療者としては説明すべきだと思います。

 

本人をいかに受診させるか

 客観的に見て、身体的に緊急を要する場合は別にして、決して患者さん本人の受診を焦らないことです。無理矢理に受診させても、長続きしないことを親に十分説明し、本人自ら進んで受診するまで焦らず待つことが大切です。その間は、親や家族だけに来院していただき、患者さんの状態や経過を報告していただくように依頼します。こうすることによって、患者さんに関する情報を得ることができ、焦らずに時間をかけて対応ができますし、同時に親の不安や悩みの蓄積を防ぐこともできます。親との面談の際は、患者さん(子ども)の“痩せ”のことや “小食”や “大食”などの摂食行動については、あまりしつこく聞いたり指示したりせず、家庭や学校生活、友人関係、また将来はどうしたいのか、じっくり語り合うなかで患者さんの気持ちを理解するように努めます。

 

 ただ、患者さんの経過を観察するなかで、例えば「うぶ毛が濃くなった」「髪の毛がよく抜ける」「肌荒れがある」「便秘している」「両頬部の腫脹がある」などのような身体症状が現れた場合は、それとなく指摘してあげて、受診をすすめるきっかけにするのも方法です。それから無月経については、本人が気にしている場合は自分から受診することがあり、治療の導入もしやすくなりますが、中にはまったく気にしない人もいますし、むしろ無月経を望んでいる患者さんもいるので注意を要します。また、低体重になってさらに身体症状が進行し、生命の危険を感じるような場合は、子どもの意志に反してでも断固として親は行動を起こし、受診させることが重要となります。

初診時における患者さんへの接し方

◆基本的な心得

 患者さんとの間の信頼関係を形成するうえで、初診時での接し方はきわめて重要になります。不安を抱えて来院した患者さんの気持ちを理解し、温かい心で迎え入れ、寛容の態度で接していることが伝わるようにします。そうすることで、患者さんには医療者は自分の味方であるという安心感と信頼感が生まれるのです。患者さんが1人で来院した場合は良いのですが、親と同伴の場合は面接の際に親が同席してもよいかを尋ねます。同席してもよい場合は、患者さん中心に面接をすすめ、時には親からも意見を聞きます。同席を拒否した場合は親に退席をしてもらい、後で面接することにします。その際は医師と親が共謀しているような印象を与えないことが重要です。

 

 まず本人との面接では、よく患者さんの話しに耳を傾け、素直に言い分を聞いてあげることが大切で、最初から症状について詳しく聞き出すような深追いはしないことです。本人と親との話しが食い違っていても、問い正したり指摘したりしないことです。また、嘔吐や下剤の乱用については最初から言及しないことです。患者さんはある種の後ろめたさをもっていて、最初から話さないケースがしばしばあります。治療における信頼関係が深まれば、自ら語りはじめることがあります。中にはひねくれた態度をとったり、投げやりに答えたり、無口になってしゃべらない患者さんであっても、決して焦らず根気よく接していって、治療を急がないことです。症状は患者さん達に共通している面も多くありますが、患者さん一人ひとり異なった側面もあることを知っておく必要があります。もうひとつ、患者さんの特徴的な言動には二面性があるということです。自己卑下しながら高い理想をもっている、反抗するがそれは従順な気持ちの裏返し、ひねくれの態度の裏には強い依存心が、投げやりの裏には救いを求める気持ちがあることを、十分に心しておく必要があります。その心を敏感にキャッチしないと、患者さんとの信頼関係は成立しません。

 

◆神経性無食欲症の患者さんへの接し方

 初診の患者さんの治療に対する動機づけの程度を分類すると、

  • ①自分の今の状態を病気と認識していない段階、
  • ②問題意識は芽生えているが、食行動を変えようとしていない段階、
  • ③自分の今の状態を変えねばならないと考えている段階、
  • ④治療を受けてきたが、うまくいかず転医してきた段階、

 の4つに分けられます。

①『自分の今の状態を病気と認識していない段階』
 親に強制的に受診させられた場合、患者さん本人は、自分の食行動や痩せに関して問題があるとは考えていません。つまり、病識がまったくない状態です。したがって、病気ではないから治そうとも思わないし、今の食行動を変えようとも思わないのです。そこで、病識がない患者さんに対して動機づけをするには、治療を急がずに、まず今の状態が病的状態であることを理解させることから始めなければなりません。神経性無食欲症の患者さんの場合は、この病気の身体症状や精神症状について解りやすく話してあげることです。特に身体的には単に痩せている状態ではなく、重大な事態に陥っていて死に至る場合もあることを丁寧に説明する必要があります。それと同時に、治療目標についても、正常な食事パターンの回復と日常生活に支障をきたさないように体力の回復が必要であることを説明します。決して肥満させることではないことを明確に伝えます。さらに、家庭や学校や職場で起こした不適応な心理的問題の解決も治療目標とします。そして実際の治療においては、一方的に食べることを強要するのではなく、正しい食習慣のあり方や、体重のコントロールの正しい方法を学ぶことも説明していきます。こうした初診時の地道な対応によって、患者さんは今の自分が病気の状態であることを知り、治療を受け入れようという気持ちになるのです。  しかし、それでもなお治療に対する動機づけができない場合は、現在の状態(痩せ、大食、嘔吐など)を続けることによって「得ること」と「失うこと」を、紙に箇条書きにして1週間後に出してもらいます。その結果について、患者さんと一緒にゆっくり考える時間をとります。そこで「得ること」が多ければ今の状態を続け、治療を受ける必要はないことを伝えます。また「失うこと」が多い場合でも、治療を受けるか受けないかは患者さん自身が決めて下さいと説明します。大事な点は、本人の意志を無視した形での一方的な治療は行わないことを約束し、確認しながら根気よく進めていくことです。  しかしそれでも、明らかに失うものが多い(健康を損なう)のに治療を受けようとしない場合でも、本人の治療を「受ける」「受けない」の意志を確認して、あくまでも強制的に治療をしないことを伝えます。その際に本人と家族には、内科的な緊急事態になった時は、救急病院を受診し、危険な状態を脱する治療を受けるように指示しておきます。こうした経過の中で、治療に対する動機づけができ、患者さんが自ら通院治療を希望すれば、食生活日誌などをつけることを課題とし、治療を進めていきます。それでもなお、治療の動機づけができない場合は、患者さんは治りたくない状態と理解し、慢性の治療抵抗性の神経性無食欲症患者に対する治療法を適用していきます。
②『問題意識は芽生えているが、食行動を変えようとしていない段階』
 これは、強制的ではなく患者さん自身も半ば同意して受診しているケースです。自分の食行動異常に対して問題意識は芽生えていますし、何とかしたいと考えてはいますが、しかし前向きに今の食行動異常を変えようとするわけでもない両価的な状態で、自分を変えようという決意に至っていません。この場合でも治療は急がずに、患者さんの病気に対する理解を深めさせて、治療を受けて治そうという動機づけを進めます。方法は①の「病気と認識していない段階」の内容と同じです。治療を継続する決意ができれば、次回の診察の予約をし、治療の手順に沿って治療を行います。 
③『自分の今の状態を変えねばならないと考えている段階』
 親が付き添って来る場合と、患者さん1人で来院し受診する場合があります。この段階というのは、今の状態(不食、大食や嘔吐)を変えようと思っています。しかし、今の状態を止めたら自分がどうなるか確信が持てない、食べだしたら大食して肥満するのではないか、大食を止めたらストレスを晴らす方法が他にない、など自分を変えようとするのを難しくしている要因があって、一歩前に踏み出せないのです。この場合も、神経性無食欲症という病気はどういうものか、資料を見せながら解りやすく説明し、体重やカロリーのことだけで人生が左右されてよいのかと問いかけながら、今の状態を変える意志を強くして、病気に立ち向かうよう決意してもらいます。
④『治療を受けてきたが、うまくいかず転医してきた段階』
 この段階では、治療に対する動機づけはできているが、病気に対する理解、治療目標、医師に対する期待などについて患者さんと医師とのズレがある場合です。したがって、病気に対する共通の理解、治療目標や治療方針などについて納得し同意してもらう必要があります。

 

◆神経性大食症の患者さんへの接し方

 本人が自ら来院する場合と、親が伴って来る場合があります。治したいという動機づけは出来ているので、その意志を持続して治療が受けられるようにサポートする必要があります。大食症という病気についてさらに解りやすく説明し、大食の嗜癖的側面についても話して、この病気は長期間かかっても必ず治ることを伝えます。そのためには、絶えず患者さんを励まして、病気を治したい、改善したいという意志を持続させるように努めます。途中、患者さんは何回か挫折しそうになるかもしれませんが、大事なことはそこから立ち直ることへの努力や、そのうちに必ず報われる、自己変革ができる、ということを繰り返して説明します。新しい自分を目指し、希望と夢をもつように励ますことが治療者としての大事な役割であると思います。

 

初診時における重症度の評価と入院・外来治療の決定

 初診時においてまずしなければならないことは、「ただちに入院治療が必要なのか」または「外来治療で可能なのか」を判断することです。そのためには身体状態、摂食行動、精神症状について評価し、それが急性期であれ慢性期であれ、身体的または精神科的に生命の危機状態であるかどうかが、評価の第一要件になります。

 

 生命的に危険な状態で、入院治療が必要な場合の適応は、次のような場合です。①生命的に危険な状態(脈拍、呼吸、体温、血圧、意識レベルなどのバイタルサインの異常)、②体重減少が著しく、標準体重から-30%以上の痩せで、浮腫などが生じ、歩行も困難、③急性膵炎、急性肝炎、急性腎不全などの重篤な身体合併症などが疑われる場合は、救急病院や内科系の病院に入院する必要があります。また、精神科的な救急入院の適応としては、自殺企図、自傷行為、問題行動、重篤な精神合併症、薬物、アルコール依存などを合併する場合で、いずれも精神病院へ入院する必要があります。ただし、本人が入院に応じなかった場合は、医療保護入院という強制的手続きをとることもあります。

 

 次に、緊急を要さない場合の入院治療もあります。適応は、身体状態の改善や身体合併症の治療、摂食行動の正常化、社会からの引きこもり、家族との関係の調整、精神症状の改善などがあります。いずれも内科系病院か精神病院に入院し治療をします。そして、目標が達成されれば、速やかに外来治療に切り替えます。入院治療は悪循環を断ち切るためのひとつの契機になりますが、しかし本来の環境の中で治療することを考えると、外来通院による治療が原則となります。

外来通院による治療

◆神経性無食欲症の患者さんの場合

 神経性無食欲症の患者さんにおいては、治療に対する動機づけが形成されたとはいえ、状況によっては絶えず心が揺らぐことを念頭において治療に当たる必要があります。少し体重が増えだすと肥満恐怖が生じ、治療への動機が弱くなったり、巧妙にカムフラージュしたりします。したがって、常に病気を治そうという動機づけの強化、維持に配慮しなければなりません。そのために治療者は、この病気の資料を提示しながら、患者さんに病気の内容を伝え、自身を変えて、生活を変えるように決意させることです。そして、この病気を否認していた状態から病気を認めて治療を受ける動機づけを高めることです。さらに、治そうと努力している間に生じる心理的抵抗や、治った状態や予防についても十分説明します。

 

 次に体重測定ですが、週1回行うことを約束します。どうしても体重が気になって、1日に何回も測定したり、逆に体重増加が恐怖となって測定を拒否する患者さんもいます。体重測定の態度で、過剰な関心や肥満恐怖がある程度判断できます。治療目標体重の決定は、基本的には患者さんの納得のうえで決めますが、神経性無食欲症患者さんの場合、標準体重の-10%位が目安になります。これは、月経が正常化する最低の体重とされているからです。

 

 次に食事指導です。食行動の自己観察記録として食生活日誌を毎日記入してもらい、1週間ごとに吟味していきます。正常な食事パターンの回復を目指して、1日3回(朝、昼、晩)の食事を決まった時刻に摂取する習慣をつけてもらいます。1回の量が少量しか食べられない場合は1日4~6回に増やして食べ、家族と同じ内容の食事を、家族と一緒に食べず、別に食事します。家族は一切患者さんに対して指示はせず、医師の指示に従って食べるかどうかは患者さんにまかせます。食べる量も、まず1週間の量を100%とした場合、次の週はその20%を増やし、その次ぎの週は前の週を100%としてまた20%を増やして摂取します。こうして、体重が1週間に0.5~1kg増加することを目標とします。

 

◆神経性大食症の患者さんの場合

 神経性大食症とはどういう病気なのか理解を深めてもらうために、資料を渡してよく読んでもらい、課題を一緒に吟味します。特に大食と排出行動をいかにコントロールするかについては、認知行動療法に基づいて治療していきます。大食は、過激なダイエットの反動や心理的ストレスが原因で発症することが多いため、規則正しい食生活の励行、適正体重の安定と維持、ストレスの回避および対処法を学習することが重要となります。同時に、自己誘発性嘔吐を減らすよう指導します。食べては吐く行為をなくすことで、心身への負担を軽減し、経済的な負担も減らすことになります。食生活日誌を1週間ごとに検討し、1回でも大食が減っていれば賞賛してあげ、変化のない場合はその原因を患者さんと吟味します。

 

 排出行動は、大食による体重増加を防ぐための行為です。自己誘発性嘔吐や下剤、利尿剤の乱用等が、いかに身体に害を及ぼすかを学習します。嘔吐はさまざまな合併症を生じさせる原因となりますので、食後1時間は嘔吐ができる場所(トイレや洗面所)に近づかないことを約束させます。嘔吐は一時的な苦痛の解消にはなりますが、永続したときに身体に与える害が大きい事、嘔吐している限り大食は止まらないこと、嘔吐すると浮腫を来たしやすい体質になるなど、嘔吐による害を知ってもらい、嘔吐したい気持ちを他のことで散らすなど指導します。また下剤や利尿剤の乱用も身体に与える害は大きいので、中止するように指導します。

 

入院による治療

 入院治療は、その適応基準を満たし、かつ治療への動機づけが十分になされていて、患者が入院治療に意欲を見せた場合に行われます。ただし、入院治療だけで完全によくなるという考え方は正しくありません。入院治療は、悪循環を断ち切るひとつの契機にはなりますが、真の回復はやはり退院してからの本人の病気を治そうという取り組みにかかっています。医者任せや病院任せの考えでいると、退院してからの悪化率が高くなるといわれています。

 

 神経性無食欲症の患者さんの場合の入院は、行動療法を行って治療します。一方、神経性大食症の患者さんの場合は、外来で認知行動療法の治療をしても、大食と嘔吐がどうしても止まらない場合に入院し、正しい食生活を学習し、大食と嘔吐を止めたいと強く希望した場合に限って入院します。その場合、入院中は大食と嘔吐をしないことを約束してもらい、もし約束を破った場合は退院してもらうようにします。なぜなら、スタッフに見つからないように大食するようなことがあれば、かえって大食を支え容認することになり、治療行為に反するからです。入院期間は、普通1~2カ月間で、あくまでも大食と嘔吐の悪循環を中断することができ、正常な摂食行動に戻った段階で退院して、外来治療を続けることになります。このほか、精神症状や問題行動が起きた時も、短期間入院して治療を受けることがあります。

 

各種治療法

 摂食障害の治療は精神療法が主体です。それは、思春期や青年期に起こる不安、また家族や社会の人間関係の葛藤から起こる不安など、これらの不安をコントロールしきれない精神病理が背景にあって摂食障害が発症していることから、精神療法がもっとも有力な治療として用いられています。精神療法には、近年とくにその効果が注目されている認知行動療法をはじめ、対人関係療法、集団療法、家族療法、精神分析療法、カウンセリングなどが挙げられます。また状況に応じては、薬物などを使った身体療法なども導入されることがあります。いろいろな治療方法がありますが、摂食障害に万能な治療法があるのではなく、複数の治療法を組み合わせながら、患者さんの病状や経過をみて最適な治療法を選択して行われます。もちろん、生命に危険性がある場合、入院治療が先になります。また、低栄養状態で体力が特に低下している場合は、先に体力の復活や維持を優先してから、その後に精神治療を行います。ここで、主な治療法について説明していきます。

認知行動療法

→認知行動療法の詳細についてはこちら

 摂食障害の患者さんは、自己を低く評価するために、体型や体重については過剰な関心や歪んだ信念や価値観(認知の歪み)をもっています。これが痩せ願望や肥満恐怖になり、その結果極端なダイエットや自己誘発性嘔吐、下剤や利尿剤の乱用にいたっているという仮説に基づいています。そして、大食は極端な食事制限の反動として生じていると考えています。したがって、摂食行動異常を改善するには、体型や体重に関する過剰な関心や歪んだ信念や価値観を修正することによって可能であると考えます。この治療法は、患者さんとの対話形式で進め、過去を問わずに、現在およびこれからの患者さんの認知の変化や行動の変化に焦点があてられることになります。

 

 治療の目標は、当然、摂食行動の正常化と体型や体重に関する歪んだ信念や価値観(認知の歪み)を改めることにあります。この目標を達成させるために、通常、次の3段階で治療が行われます。第1段階は、大食や嘔吐などの摂食行動異常を正常化させることを目標に、1週間に1回の頻度で、4週間にわたって行われます。第2段階は、体型や体重に関する歪んだ信念や価値観(認知の歪み)を改めることを目標にして、2週間に1回の頻度で、8週間行われます。第3段階は、これらを持続し強化することを目標に、3週間に1回を6週間にわたって行います。この治療を成功させるためには、患者さんと治療者が共通の目的に向かって心を一つにする必要があります。医師は、患者さんが自分を変えようとしている努力の過程を見守りながら、常に情報を提供し提案し支持し、患者さんがくじけそうになったら激励して、勇気づけていくことが大切です。そのためには、患者さんと医師の間の良好な信頼関係が必須となります。

 

◆手順その1(第1段階)

 第1段階の治療目標は、良好な治療関係をつくり、大食や自己誘発性嘔吐、下剤の乱用などの摂食行動異常を改善するのが中心で、1週間に1回の頻度で4週間に渡って行うことになっています。ただし、これは原則であって、各患者さんの状態や実施者の状況に合わせて柔軟に対応する必要があります。第1段階の治療目標を具体的に挙げると、次のような項目になります。 

  • 1. 患者さんと治療者の間に良好な関係をつくる。
  • 2. 大食・嘔吐・下剤乱用を中止する。
  • 3. 規則正しい食生活を実施する。
  • 4. 大食や嘔吐、下剤乱用による身体合併症について教える。
  • 5. 体重調節のための嘔吐や下剤乱用は根本的な解決ではないことを教える。
  • 6. 1週間に1回の体重測定を励行する。
  • 7. 大食や嘔吐の意味を吟味する。
  • 8. 家族や友達の協力を得る。 

 さて、1回目の面接では、病歴を聞き、症状や徴候を明らかにし、EAT、EDI、SRSEDなどを使って評価し、さらに病気についても説明して、認知行動療法についても患者さんが理解できるように説明します。治療の結果、大食が長い期間なくなり、ストレスがある状況下で大食が生じる可能性があっても、翌日から正常な食生活ができれば、「治った状態」であることを理解してもらいます。治療形式は、患者さんと対話をしながら、具体的な問題をとりあげ、達成可能な課題を面接終了時に提案します。例えば、週に1回大食をしない日をつくろうと決めて、患者さんがその課題を達成したら、褒めてあげて激励します。認知行動療法は、患者さんが主体的に治療に参加し、努力した分は必ず成果が得られ、それによって病気も必ずよくなることを保証してあげることが重要です。

 

 また、食生活日誌を渡して、これに毎日自分の食行動を記録してもらいます。記録することで、大食に陥りやすい状況が把握でき、これが克服への第一歩となります。体重測定も週1回行うことを約束します。気になって1日に何回も測ったり、逆に測定を拒否したりする患者さんがいます。体重測定時の態度で体重に対する過剰な関心や肥満恐怖の程度が推定できます。そして、2回目の面接では、食生活日誌を見ながら一緒に検討し、なぜ昼食を摂らなかったのか、大食が生じた時の状況などについて詳しく話してもらいます。この食生活日誌は、食事の直後に書かれたものであるか確認し、直後のものであれば褒めてあげます。

 

 次に、3~5回目の面接では、摂食をコントロールできるための行動戦略を提案します。まず、前回の面接時に出された課題がどこまで達成できたかを、日誌を見ながら検討します。それが1週間に1回でも達成できれば賞賛してあげます。この積み重ねが、患者さんの自信と自尊心を高めることになります。そして、次の達成可能な課題を検討して挑戦してもらいます。面接終了時には次の情報を伝えておきます。

 

  • 1. 目標体重は、標準体重の85%以上とし、極端なダイエットをしなくても維持できる範囲にします。しかし、実際には、規則正しい食生活と大食がある程度コントロールできるまで、維持する体重範囲は決めないでおくのが良いでしょう。ダイエット、飢餓や低体重が大食の引き金になることを伝えておきます。
  • 2. 大食や排出行動による身体合併症についてはよく説明し、理解してもらうようにします。
  • 3. 排出行動をしても、体重調整にはならないことを伝えます。嘔吐、下剤または利尿剤の使用は、体水分を一時的に失うだけで脂肪を減らすことはできず、食べた物がすべて排出するわけではないことを説明します。

 

《日常の食生活での注意》

  • 1. 1日3回の食事をきちんと摂る。(穀物やパンなど、炭水化物を必ず少量含めること)
  • 2. お腹がすいた状態で買い物に行かない。
  • 3. 大食しそうな食物を、日頃から家に置かない、また買わない。
  • 4. 食事は1人で食べないようにする。(1人で部屋に閉じこもって食べないようにする)
  • 5. 1回の食事に必要な量だけ料理する。
  • 6. 料理を小さな皿に盛り、決して大盛りにしない。
  • 7. 食事の前(10分前)に野菜ジュース1~2杯をゆっくり飲み、すぐに満腹感が得られるようにする。
  • 8. 食事のとき、ゆっくりとよく噛み(20回以上)、30分以上ゆっくり時間をかけて食事を摂る。
  • 9. 食事の後、嘔吐をしないようにする。下剤を使わないようにする。
  • 10. 体重を毎日量らないようにする。
  • 11. 大食を防ぐため、週末と夜の計画をたてる。

 

《大食しそうになったときの対策》

  • 1. 何か酸っぱい物を口に入れる。
  • 2. フルーツを、ゆっくり時間をかけて食べる。
  • 3. 製氷皿にオレンジジュースなどを凍らせておき、それをゆっくりなめる。
  • 4. 歯をゆっくり磨く。
  • 5. 角氷をなめる。
  • 6. 10分間タイマーをセットし、それが切れたとき、まだ大食したいかどうか自分に聞いてみる。
  • 7. シュガーレスのチューイングガムを噛む。
  • 8. 20分以上の運動や散歩(有酸素運動)をする。
  • 9. 指の爪を磨く。
  • 10. 新聞や雑誌を読む。
  • 11. 好きなテレビやビデオを見る。
  • 12. 友達に10分間だけ電話をする。
  • 13. 音楽を聞く。
  • 14. 温かいシャワーを浴びるか、風呂に入る。
  • 15. 手紙や日記を書く。

 このほか食生活で注意することは、水分摂取を減らしたり(嘔吐するために大量の水を飲む)、食後すぐにトイレや洗面所に行かないようにします。また手元にある下剤や利尿剤を捨てさせることも大事です。

 

 次の6~8回目の面接でも食生活日誌をチェックし、患者さんの毎日の摂食行動における課題や達成具合を検討します。出来ていないことがあれば、新しい戦略をたて、できるだけ時間単位で改めるようにします。達成したら褒めてあげ、自分で自分を褒めるようにすると、自信につながります。大食の回数が減ってきたら、大食のプラス面とマイナス面を明らかにしてあげます。大食がうまく防げたときは、日誌に記録するようにします。また、患者さんとその家族が同時に面接を受けることも必要です。これは、患者さんの秘密を明らかにすることで、罪の意識の減少にもなり、治療内容をオープンにするうえでも大事なことです。家族の協力の意味は、患者さんが改善に向かって努力するための環境づくりにあります。あまり家族を巻き込まないようにし、あくまでも患者自身が変わる事が大切です。

 

◆手順その2(第2段階)

第2段階の治療は、2週間に1回で16週間にわたって実施されますが、これも原則であって、各患者さんの状態や実施者の状況に合わせて変更する必要があります。治療目標は認知の修正が中心になり、次の6項目になります。

  • 1. 規則正しい食生活の維持。
  • 2. 摂食制限の減少。
  • 3. 大食を生じさせるような状況の把握と、そのような状況の減少と対処。
  • 4. 摂食行動異常を維持させている思考、信念、価値観の同定と改善。
  • 5. 身体像の歪み、身体像の蔑視の改善。
  • 6. 治療終結への準備。

 9回目の面接では、第2段階の治療に入るかどうかを見極めます。通院回数を減らすと、摂食行動が少し悪化する患者さんもいます。この場合は第1段階の治療を継続し、治療目標が達成できてから第2段階に入ります。そして10~14回目の面接では、規則正しい食生活が維持できているか、摂食制限の回数が減っているかを検討します。摂食制限をするとその反動で大食が生じ、さらに摂食制限をするといった悪循環になることを、繰り返し説明します。摂食制限の方法には、1日の食事の回数を減らすやり方と、太ると考えられる食物を選択的に食べない方法のほか、カロリーが不明の場合や組成が明らかでないと食べない、家でしか食べない、といった摂食行動を中止して、さまざまな状況下でいろいろな食事を自由に食べることが治療上の大きな目標になります。

 

 次に問題解決訓練を行います。これは、大食したくなるような状況や契機を明らかにし、これに対処する技能を高めるためのものです。訓練内容は次のような項目です。

 

  • 1. 大食に導いた出来事を、具体的にあげなさい。(例えば、母親と口論になった、など)
  • 2. 問題の解決法をできるだけ多くあげなさい。(例えば、なぜ口論になったのか? 母親が悪いのか? 自分の考えを主張できたのか? 話題を変えられなかったのか、など)
  • 3. それぞれの問題について、その実行可能性、現実性という点で検討しなさい。
  • 4. いくつかの解決法のなかから最上の方法を選びなさい。
  • 5. これを実行する際に必要な手順を検討し、心の中で訓練しなさい。
  • 6. それを実行しなさい。
  • 7. 実行した全経過を10点で評価しなさい。

 これを繰り返し練習する事で技能が高められ、困難な問題に直面したときに問題が解決できるようになります。もうひとつ大事なことは、認知を再構成することです。体型や体重に関する歪んだ信念や価値観(肥満恐怖、痩せ願望、痩せている事は美しいことなど)、また摂食障害を持続させている思考・信念・信条(完全主義的傾向、2分割思考など)を明らかにして、歪んだ自動思考を吟味し、これを変えていきます。例えば、太っているというのは、体重が重いことなのか、自分から見て太っているのか、他人が見て太っていることなのか、明らかにしていきます。また、自分の身体の一部や全体に対して過大評価する身体像の障害も変えるようにしますが、直接変えるのは難しいので、信頼している人の評価をたえず信じさせるようにして変えていきます。

 

 15~16回目の面接では、前回の時の面接内容の継続ですが、治療が終わりに近づいていることも伝えます。これについて患者さんが感じていることを話し合い、喜ぶ患者さん、不安に思う患者さんもいますが、これは独り立ちするためのプロセスであることを説きます。

 

◆手順その3(第3段階)

 第3段階の治療は、2週間に1回、6週間にわたって実施され、治療目標は今までの治療によって得られた改善の維持と、将来再発する可能性に対処するための準備をします。17~19回目の面接では、改善の維持が中心です。これまで学んだ技能を患者さんに繰り返し実施してもらいます。規則正しい食習慣を続け、大食や嘔吐をしない状態を維持させ、問題解決法や認知再構成法を自ら実行してもらいます。空腹感や満腹感を回復し、食行動をコントロールして、決してダイエットをしない状態になれば終わりになります。

 

 将来、ストレス下で大食が再発しても、今まで学んできた技能を十分に使って、翌日から正常な食生活に戻れば、再発ではないと説明します。再発とは、連続して大食して嘔吐する生活の事です。なぜ大食が生じ、いかに防げたかを考えさせることが、将来の再発防止につながります。

支持的精神療法

 摂食障害に対して行われている支持的精神療法は、治療初期においては、患者さんの食生活や体重に対する考え方、大食のきっかけや大食時の気分、日常生活や親との関係などを話題にしながら、病気について教育していくのが中心となります。摂食障害は自然に治癒するということはないので、治そうとしない限り、心身の症状や合併症は一生涯続くことになることを、患者さんに説明しておく必要があります。患者さんが、この病気についての正しい知識と理解を得て、治そうという動機が強化されれば、その段階で体重(体力)と心の問題を切り離していきます。体力については、日常生活に支障をきたさない程度の体力を得ることに目標をおいて、食事指導をしていきます。この経過中に、患者さんの心の中では「治そうという健康な自分」と「このままでいいという不健康な自分」とが葛藤するようになります。ここで治療者は、患者さんの健康な部分を支持し、不健康な部分には共感しながら、健康な部分が優位になるように支援していきます。

 

 良好な治療関係が生まれると、これまで患者さんの心の中にうっ積していた感情や欲求が吐露されるようになります。その言葉にひとつひとつ耳を傾け、患者さんの苦しみに対して、思いやりと共感を示します。しかし心の問題の解決には時間がかかるため、まず先に体重を増やして体力をつけて、次に心の問題に取り組んでいこうと、繰り返して説明します。そして、体重が増加して食行動が正常化してきたら、この病気の発症の契機となった心の問題に入っていきます。日常生活での悩みや苦しみや葛藤、人間関係などからくるストレス、将来に対する不安などについて話してもらい、人に語ることによって、問題を明確化していきます。そして、その心の問題を回避しようとして向けられたのが、摂食行動異常という不適切な解決策であることを理解してもらいます。つまり、心の問題を体重の問題にすり替えないようにすることを納得してもらうのです。

 

 患者さんの多くは、小さい頃から親の願望や希望を受け止めて、それを叶えようという形で生きてきています。「良い子」「手のかからない子ども」として育ってきており、表向きはしっかりしているように見えても、自立性に欠け、いつも自己不全に苛まれ、少しのことで無能感に陥り、自尊心が傷つきやすくなっています。従って、思春期や青年期の発達過程で、自我同一性を確立して自立しようとしたとき、不安や恐怖に直面して挫折してしまうことになります。そこから立ち上がろうとしても容易に立ち上がれないため、治療者は、患者さん自身が仮の目標を設定して、試行錯誤を繰り返しながら、今まで見失ってきた自分を取り戻そうとしている行為に対し、励まし、助言し、共感し、患者さんの心の成長を見守っていくことが治療の肝要となります。

 

対人関係療法

 この治療法は、もともとうつ病の外来患者さんの短期精神療法として開発された療法で、最近ではうつ病以外の障害や、摂食障害患者さんにおいても有効性が実証され、認知行動療法と並んで用いられています。この精神療法は、自分と親、配偶者、恋人など大切な他者との対人関係に焦点をあて、このあり方を変えていこうとするものです。治療は3期に分けて行われ、第1期は1週1回を2週間継続し、摂食障害を発症してからの対人関係の分析にあてられます。第2期は、2週1回を4週間継続し、現在問題となっている対人関係の歪みに直面し、これを快適な対人関係に変えていきます。第3期は、2週に1回を12~16週間で良好な対人関係を持続させて、将来起こりうる対人関係上の問題への対処法となっています。

 

 この精神療法の特徴は、認知行動療法で扱う摂食行動異常や、体重や体型に関する歪んだ認知については、一切ふれません。治療終了6年後まで追った研究報告によると、治療終了時点では、大食症状がなくなった患者さんはそれほど多くはありませんでしたが、そのあとの日常生活の中で効果が顕著に現れました。

 

家族精神療法

 摂食障害を、患者さんだけではなくて家族全体の問題として考え、各人がどのように影響を与えているかを明らかにしながら、患者さんをサポートしていく治療法です。そのために、家族の個人の面談を行ったり、家族全員の面談も行います。治療者は中立の立場で、それぞれの言い分を聞き、問題点を整理しながら、これから先どうすればよいのか、というビジョンを示しながら、積極的に家族に介入します。家族精神療法にはいろいろなやり方がありますが、まず家族が摂食障害とはどんな病気なのかを理解し、それに対する具体的なサポートの仕方を学びます。また、家族のあり方を振り返る貴重な機会となり、患者さんに対する対処の仕方が変わってくることで、患者さんの状態は非常に安定します。また、親も一人で悩んでいるのではなくて、家族全体で治療に参加できるために安心感が得られます。

 

 この療法は、もともと心身症における家族の交流パターンが最初にあって、その交流パターンが神経性無食欲症の患者さんの家族にもみられることから、家族全体に対して治療的介入を行い、家族の交流システムを健全化することが神経性無食欲症の治療につながるものと考え、導入されたものです。では、機能不全的な家族の交流パターンとはどういうものか、少し説明を加えます。

 

◆絡み合い

家族同士の交流が極端に緊密で、過剰なまでの一体感、何でも分かち合うという感覚は、家族間のプライバシーの欠如を意味します。家族員が互いに考えや感情に容易に立ち入ってしまうため、個人としての立場が弱くなり、自立性がなくなります。親子間の一体感は、親が子どもの領域に干渉し、子どもが親のことに口出しするといった状態になります。したがって親は、親と子どもの境界線を明確にして、お互いの自主性を尊重して行動するように促します。

 

◆過保護

 家族が、養育と保護に強い関心を示しているため、過保護の親は子どもの自立性や能力の芽を摘み取り、家庭外の興味や活動の発展を妨げる結果となります。失敗や挫折から、自らの力で立ち上がることが、自立性を育てるうえで重要であることを繰り返して説明します。親は、子どもが試行錯誤しながら成長していく姿を、温かく見守っていく姿勢が必要です。

 

◆硬直性

 硬直性とは、現状維持に固執して変化に対応できない状況をいいます。子どもが思春期になって自己主張をしようとしたとき、今までのパターンに固執して、自立性を抑圧するものです。子どもは親から離れて生活したいと希望しても、親はそれを黙殺して、その話題に触れることさえ許さないのです。この場合、親は子どもの希望や意見を聞いてあげて、なぜそうしたいのか、なぜそれを許さないのか、について十分に話し合い、新しい生活や生き方に対して前向きに取り組むことが重要となります。

 

◆葛藤回避

 自立性がなくなると、やがて家族の葛藤もなくなり、意見の対立も避け、家族に問題が生じることを否定するようになります。調和と合意を大切にするあまり、お互いに違う意見を出し合って、十分に話し合うことが非常に少なくなり、問題は解決しないまま残ってしまうことになります。例えば、夫婦間が上手くいっていないのに、そのことを話し合わず、上手くいっているように親は振る舞うのです。そして夫婦間の葛藤が、病気の子どもをめぐる親同士の争いの問題にかたちを変えたりすることがあります。これは、夫婦間の問題と、子どもの問題を混同しないように、お互いに話し合うことが大切です。

 

◆両親による子どもの巻き込み

 夫婦間の問題に、子どもが一方の親の味方をさせられたり、父親と母親の仲裁の役割をしたり、また家族の内部を安定させたりするために、この状態が長く続くと子供の正常発達に支障を来します。このような構造をもっていると、夫婦はお互いの問題を隠してしまって、家族の問題は子どもにあるとすり替えている場合が多いです。これは親同士の問題と、子どもの問題を切り離して、はっきりと区別して、問題のすり替えを起こさないようにすることが必要です。

 

集団精神療法

 摂食障害の患者さんや家族に対して、集団精神療法が試みられ、その有効性が認められています。この治療法は、支持的精神療法、行動療法や認知行動療法を補助するものです。方法は、同じ悩みをもつ患者さん同士(10人以内)が集まって、一人ひとりが皆の前で自分の体験や話したいことを語り、その後自由に討論するといった形式で行われます。もちろん、話したくなければパスしてもよく、スタッフはあまり介入しないようにします。ただしルールとして、他の患者さんが話している時はよく傾聴すること、他の患者さんの話を批判したりしない、他の患者さんの秘密を守ること、を厳守します。

 

 この治療法は、その家族や患者さんが、自分だけがこのような病気で苦しんでいると思っている孤独感、絶望感、無力感、自己嫌悪感を軽減することができます。他の患者さんの考え、思い、行動を見聞きすることで、自己洞察を深めると同時に、自分の行動を変える契機となるのです。この集団精神療法は、共感できる仲間の獲得であり、対人関係面の改善にも効果をもたらします。集団精神療法の目的をまとめると、次の4点になります。

 

  • 1. 同じ摂食障害の悩みを持つ患者さん同士で、精神的サポートやアドバイスを与え合い、相互に受容することで、抑うつ感、孤独感、無力感、絶望感、自己嫌悪感などを軽減する。
  • 2. 患者さんが、家族(主には母親)に向けている両価的感情(愛憎=同一人物に対して、全く正反対の気持ちを同時に抱くこと)を軽減して、両親からの精神的自立を図る。
  • 3. 摂食障害の発症要因となる性格傾向や、痩せ願望、成熟の拒否、身体像の歪み、認知の歪みなどの心理的メカニズムを患者さん自身が洞察する。
  • 4. このような自己洞察のもとで、食行動、対人関係やライフスタイルの偏りを正していく。 

 

薬物療法

 薬物療法の主な目的には、次の3点があります。

  • 1. 神経性無食欲症に対して、摂食量を増加させ、体重を正常範囲に回復させること。神経性大食症に対しては、大食をなくすこと。
  • 2. 不眠、不安、抑うつ気分、胃重感、消化・吸収機能の低下などの随伴症状に対する対症療法。
  • 3. 治療関係を促進し、精神療法や行動療法への導入を容易にする。

 

 現在、神経性無食欲症に対して、摂食量を増加させ体重を正常範囲に回復させる薬はありません。しかし、うつ気分で食思不振に陥っている場合、抗うつ薬が使用されたりすることはあります。一方、神経性大食症においては、抗うつ薬が大食と嘔吐の頻度を、短期間ではありますが減少させます。最近では、セロトニンの選択的な再取り込み阻害作用を有するSSRI系のフルオキセチン(国内未発売)が、抑うつ症状の有無にかかわらず、大食と嘔吐の減少をもたらし、摂食行動異常を改善することがわかりました。副作用が少ないことから、欧米で用いられています。日本では、SSRI系であるフルボキサミンが、うつ病と強迫性障害で認可されていますが、摂食障害の治療には認可されていません。しかし、米国では大食症で嘔吐や下剤の乱用が認められない患者さんに有効であるという報告があります。

 

 いずれにしても、抗うつ薬は大食や嘔吐を減少させ、大食・嘔吐・抑うつ状態という悪循環を一時的に中断させることによって、他の治療法を容易にしたり効果を高める補助をすることで、大食症からの回復に有効な手段となり得ます。したがって、抗うつ薬だけで治る場合はきわめて限定的です。そこで、薬物療法と精神療法の併用が推奨され、認知行動療法と薬物療法を併用した方が、それぞれ単独の治療法よりも有効であることが認められています。また、大食と排出行動や摂食障害に関連する行動異常に対しては、認知行動療法の方が薬物療法よりもより有効であることが分かっています。あくまでも薬物療法は、補助療法としての位置づけです。

 

 その他、各種薬物が用いられる場合は、精神および身体の随伴症状である不眠、不安、抑うつ気分、強迫症状、胃重感、消化・吸収機能の低下などに対症療法として投与されます。

 

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