摂食障害 主な一般的症状

摂食障害 主な一般的症状

この記事のもくじ

摂食障害の症状には、大別して「身体症状」「精神症状」「行動異常」の3つがあります。食行動の異常によって、それぞれどのような症状が起こるのか、その特徴について詳しく見ていきます。

身体症状

体重減少

 まず、神経性無食欲症では体重減少がみられるのが特徴です。摂食障害と判断される体重の値は、厚生労働省の診断基準では3カ月以上持続して標準体重の20%以上、またDSM-Ⅳの基準では15%以上の体重減少を認めた場合と定められています。標準体重の算出は身長によって定義されます。一般的な算出方法は〔身長(m)×身長(m)×22=標準体重〕が用いられています。例えば、身長が155cmであれば、身長をメートル単位に直して計算します。1.55m×1.55m×22=52.86が標準体重となりますので、厚生労働省のマイナス20%の基準に従えば42.29kg以下が、一方DSM-Ⅳの15%の基準に添えば44.93kg以下の体重になったとき摂食障害と判断されます。ただし、15歳以下の成長期にある子どもの場合は、正常であっても痩せている人が多いので、年齢に応じた成長曲線によって標準体重が求められます。

 標準体重の算出方法としてもうひとつ有力なのは、16歳以上の場合、身長が160cm以上であれば〔(身長-100)×0.9=標準体重〕、身長が160~150cmであれば〔50+(身長-150)×0.4=標準体重〕、身長が150以下であれば〔身長-100=標準体重〕の算出方法も用いられています。しかし、この標準体重は、現代の若い女性には適用しがたく、検討されるべき課題とされています。この標準体重は国によって異なるため、ICD-10では国際比較できるようにBMI(体格指数)値の計算式〔体重(kg)÷〈身長(m)×身長(m)〉〕で算出した数値が、17.5以下(平均値は22)も低体重とされています。

 標準体重が求められた理由は、それくらいの体重がもっとも死亡率が低いことが確認されているからです。しかし、若い女性の患者さんに標準体重の話をしてもなかなか理解が得られないのが現状です。実際に10代の女性の平均体重をみても標準体重より少ないのが現状です。標準体重より15%痩せるだけで生理が止まったり、いろいろな身体症状や精神症状が出てくることがあります。さらに30%もマイナスになると、日常生活が困難になります。厚生労働省の研究班が出した基準では、夏季に標準体重のマイナス40%以下で、冬季にマイナス30%以下で、早期入院治療の必要性があるという指針を出しています。いずれにしても、著しい体重減少や急激な体重減少は、生命の危険性を伴うことを知っておく必要があります。

 また、神経性無食欲症の患者さんの場合、体重が大きく減っても、なかなか受診しなかったり、入院を拒否したりするケースがほとんどです。体重減少が病気であるという自覚がないからで、こんな場合は家族や周囲の人がフォローして、入院をすすめることも必要です。低栄養状態になると、甲状腺ホルモンが低下し、体内の代謝が低下します。少ない燃料でどうにか体を動かしている状態といえます。この状態が改善してくると、食事量が増えるために、最初は勢いよく体重が増えることはありますが、そのままどんどん増え続けて肥満になるということはありません。食事がきちんと摂れるにつれて、代謝も良くなり、消費するカロリーも増えていき、体重は次第に安定してきます。 

 一方、神経性大食症の患者さんの場合は、神経性無食欲症の患者さんと比べて少し様相が異なります。大食症とはいっても、体重は肥満者のように過体重になったり、無食欲症患者さんのように極端に痩せることは少なく、標準体重の範囲内にあることが多いです。このため、体型から見ただけではその人が大食症患者さんであることが周囲からは気づかれない場合がほとんどです。

 神経性大食症の患者さんが大食するのは、些細な人間関係で悩んだり、ちょっとしたストレスが誘因となって、いわゆる気晴らし食いという独特な摂食行動をとるのが特徴です。にもかかわらず肥満に対しては病的な恐れを持っています。したがって、肥満にならないように自己誘発性嘔吐(指を喉に突っ込んで吐く行為)をしたり、下剤や利尿剤を乱用したり、また大食と絶食をある程度の間隔をおいてくり返すことで肥満を防ごうとします。このため、体重の変動が激しく、標準体重の上下限の範囲か、それを少し超える程度で揺れ動きます。普通、神経性大食症の患者さんは体型に対してはこだわりを強くもっているため、痩せている患者さんが多いです。それは、神経性無食欲症の患者さんのような身体像の障害ではなくて、社会通念上の痩身賛美を強迫的に志向するためと考えられます。


無月経

 神経性無食欲症では、体重減少に伴って、必ず生理が止まります。生殖機能は、母体が健全であってはじめて成り立つことですから、低体重や低栄養の状態で生理が止まるのは極めて理にかなったことです。大部分の患者さんは体重が減少した後に無月経が生じますが、一部の患者さんにおいては痩せる以前か、または同時期に月経が止まることがあります。また患者さんの中には、かなりの低体重であるにもかかわらず、無月経を認めないケースもあります。DSM-Ⅳでは、月経周期が連続して3回欠如することを基準としています。ただし、すでに婦人科に通ってホルモン療法を受けている場合、ホルモン投与を中止しても月経がこないということであれば、無月経と判断します。

 一般に、神経性無食欲症の場合、体重が回復すれば無月経は改善します。通常、月経が止まったときの体重ぐらいまで回復して、その状態がしばらく維持できれば、生理が再び起こるようになります。標準体重の90%程度まで体重が回復すれば、約90%の確率で月経が再度起こるというデータもあります。規則正しい生理が起こるには、最低でも体脂肪率が17%は必要です。また、体重が戻っていても嘔吐している限りは生理が戻りにくいことがあります。いずれにしても、月経が本来の周期に戻れば、その後の妊娠や出産は問題ないものと思われます。

 一方、神経性大食症の患者さんにおいても、体重が正常範囲にもかかわらず、無月経や月経不順などの月経異常がしばしば見られます。また、患者さんの中には、まれに1カ月に2回ほどの過剰月経を示す場合もあります。

むくみ(浮腫)

 むくみも摂食障害ではよく見られる特徴的な症状です。むくみは体の組織に水が溜まった状態ですが、神経性無食欲症で見られるむくみの原因は低アルブミン(たんぱく)血症、つまり栄養失調によるものです。体重が著しく減少すると、腎臓の機能が低下してむくみの原因となります。むくみは、食事の摂取量が急激に増えた場合にも見られますが、これは一過性のものです。通常のむくみは利尿剤を使って水分を排泄すれば治りますが、神経性無食欲症によるむくみは低アルブミン血症が原因なので、利尿剤を使って見かけだけむくみを取ろうとすると、それが習慣になり、低カリウム血症になる恐れがあります。したがって、神経性無食欲症の場合は、原則的に利尿剤は服用しない方がよいでしょう。 

腹部膨満

 腹部膨満もよくある症状です。これは、消化管の機能が低下していて、胃にある食べ物が十二指腸に行くまでにかなり時間がかかるためです。当然便秘にもなりやすくなります。また食後に激しい痛みを訴えることがありますが、これは内臓のまわりの脂肪までが落ちてしまった結果として、食後に膨張した胃や十二指腸が周辺の血管を圧迫するために痛みが生じます。摂食障害の人は、食べたものは全部出してスッキリさせたいという心理的な欲求が強いために、お腹が張ると下剤を使用することが多くなります。しかし、下剤を使ったからといって、食べたものが全部排泄されるという訳ではありません。実際には、多量の下剤を飲んでも、摂取したカロリーの12%分しか排泄されず、残りの88%は吸収されてしまいます。 

皮膚の症状

 皮膚は乾燥し、かさかさになります。顔面や手のひら、足の裏が黄色っぽくなることもありますが、これはカロチンの代謝が悪くなるために起こります。また髪の毛が抜けることもありますが、これは食事量が減った時期から何カ月か経ってから目立ってくる症状です。その一方、神経性無食欲症では、顔面や背中にうぶ毛が見られるようになります。これらは摂食障害を診断するうえで重要なポイントになります。


血液検査による異常

《低カリウム血症・低血糖》
 神経性無食欲症は、一種の慢性的な自殺行為と言われるくらい生命の危険につながることがよくあります。それは、低カリウム血症と低血糖の状態を招くからです。自分の意志によって嘔吐したり、下剤を乱用したり、利尿剤を使ったりして、食べたものを出してしまう行為をパージングといいますが、このパージングをすると、体にとって重要な電解質であるカリウムが水分と一緒に排出されてしまい、低カリウム血症になります。カリウムは筋肉を動かすのに必要ですが、不足すると手足のしびれやけいれんを起こすことがあります。また、カリウムは心臓を動かすために必要ですが、不足することで疲労感や動悸や不整脈が生じ、重い場合は心不全を引き起こして突然死の原因にもなります。たかが下剤と思っても、乱用すると1日4~6リットル相当の水分が失われますので、使い過ぎると大変に危険です。また食事量が少ないと、低血糖発作による意識消失が起こりたいへん危険ですので、極端な拒食行為は避けるべきです。
《白血球の減少》
 神経性無食欲症では、しばしば白血球が減少します。白血球は免疫に関係していますが、神経性無食欲症では白血球が減少していてもウイルス感染に対しては意外に免疫力があります。ただし程度によりますが、やせが高度となれば当然感染に対する抵抗力も低下します。一方、赤血球の減少(貧血)はあまり目立ちません。とはいっても貧血は存在するものの、脱水も同時にあるために血液が濃縮されて、みかけ上は正常範囲にとどまっているものと考えられます。従って、飲水量や食事量がもとに戻ってくると血液検査による数値のうえで貧血が現れてくることがあります。また貧血は女性の場合、鉄欠乏性貧血の場合が多いのですが、神経性無食欲症の場合は栄養失調による骨髄の低形成が原因で、ビタミンB12や葉酸が不足しています。 
《肝機能障害》
 肝機能検査では、正常範囲のこともありますが、栄養障害が高度になってきたり、神経性無食欲症の状態から急激に食物を摂取したときに肝機能障害が起こります。通常GOT(AST)やGPT(ALT)の正常値は30~40程度ですが、この血中の酵素の値が三桁になってきた場合は、定期的な検査を行って経過をみる必要があります。中には、四桁になって重篤な状態になることもあります。また血清アミラーゼ値が上昇することもありますが、アミラーゼには膵臓から出るものと唾液線から出るものの2種類がありますので、どちらのアミラーゼが上昇しているのか詳しく検査する必要があります。嘔吐をすると、唾液腺が刺激されて唾液腺からのアミラーゼが上昇します。
《コレステロール》
 体重減少の初期にはコレステロールが高くなることがあります。HDL、LDLともに増加しますが、この場合コレステロール値を下げる薬を服用する必要はありません。また低栄養が重症化すると、低コレステロール血症になります。
《血糖値》
 血糖値が低くなっている時は注意が必要です。血糖値が下がり過ぎると、低血糖性昏睡となり生命の危険があります。これは、体重減少が著しい場合や、嘔吐の習慣が激しい場合に起こることがあります。  
《その他の内科的検査》
 体重減少にともなって甲状腺ホルモンが低下します。神経性無食欲症では、甲状腺ホルモンが低下することで代謝が低下し、少ないエネルギーでどうにか生きていくことができるように調節されている状態といえます。低体温や徐脈は、この甲状腺ホルモンの低下による作用で、甲状腺機能低下症とは区別する必要があります。摂食障害で甲状腺ホルモンが低い場合は、甲状腺ホルモンの補充をする必要はなく、むしろ逆効果になります。  また、レントゲン検査を行うと心臓が小さくなっている所見がみられます。心電図検査では、徐脈、低電位などがみられます。血液中のカリウムが低い場合には、不整脈を起こすことがありますので定期的な検査が必要になります。また、頭部をCTスキャンやMRIで撮影すると、脳の萎縮がみられることもあります。極端な場合、老人の脳に見られる様な萎縮が認められます。これは体重が減少したときに見られる症状で、体重が回復すると正常化してきます。脳が萎縮すると、思考力や集中力が低下したり、感情の変化、こだわりの強さなどの精神症状と関係しているものと考えられます。脳に限らず、臓器は使わないと萎縮しますから、長期間生理がないと卵巣も萎縮してきます。  摂食障害の患者さんでは、しばしば骨粗しょう症が問題になります。骨折率が高いという報告もあります。これは、閉経後の女性と同じように、女性ホルモンの減少によるものですが、思春期における骨は発育過程にあり、その時期に女性ホルモンが低くなることが影響しているものと考えられます。体重が少ない段階でのホルモン補充療法は、骨密度の回復にはならないという報告もあり、将来的な健康のためにも体重の回復はどうしても必要なことになります。

低身長

 女性の骨端線が閉じるのは21歳とも言われています。理論上はその年齢までは身長が伸びることになりますが、成長期のダイエットの行き過ぎによって、低身長のままになる恐れがあります。


虫歯

 摂食障害の患者さんは、その期間が長ければ長いほど虫歯の数が増え、25歳以上では90%の人に虫歯が見られるという報告もあります。また、20歳以下ですでに歯周にポケットが形成される歯周病がみられます。健康な人の口の中には存在しないカンジダという真菌(性感染症などの原因となるカビの仲間)が、摂食障害の患者さんの約25%から発見されています。嘔吐を続けていると、歯のエナメル質が、胃から逆流した胃酸で溶けてしまうからです。エナメル質はいったん溶けてしまうと元にはもどりません。栄養障害や大食、また吐くことが体への悪影響となっているのです。


吐きダコ

神経性大食症の患者さんの多くは、指などを喉の奥に入れて食べた物を吐いています。これを咽頭反射と言いますが、習慣的に喉の奥に手を突っ込んで吐いていると、手の甲に歯が当たって吐きダコができることがあります。ただし、嘔吐をくり返していると次第に慣れてきて、手指を使わなくても容易に吐けるようになり、米国の調査によると吐きダコの頻度は27.5%とそれほど高くないことが分かりました。咽頭反射を起こすのに、指ではなくフォークなどの器具を使って吐くことも出来ますが、これは非常に危険なことで、フォークを使って吐いているうちにフォークが胃の中まで落ちてしまい、開腹手術を受けた例もあります。


唾液腺の腫れ

 嘔吐をくり返していると、唾液腺(耳下腺や顎下腺など)が酷使されるために腫れてくることがあります。嘔吐を止めると自然に小さくなる事が多いのですが、中には唾液の排出量が一旦減るために、さらに大きくなって疼痛や発熱を伴う炎症を合併することがあります。唾液が大量に出るため血中のアミラーゼの値が高くなりますが、それ自体は問題ありません。 


その他の身体症状

 身体所見で頻度の高いものは、背部の〈産毛(うぶげ)密生〉です。背中などに産毛が密生するのは、摂食障害に特徴的な症状のひとつです。これは痩せて皮下脂肪が少なくなり、低体温に対する身体の防御メカニズムのひとつです。次に多いのが、〈慢性便秘症〉です。これは食事量の減少、催便性食品の減少、脱水、不規則な食事、腸内細菌叢の変化、内臓下垂、腸管筋力の低下、消化管運動能の低下などが原因しています。逆に食事量を増加させると、便秘が悪化することがあります。胃のもたれや便秘のために食事量が増やせないこともあります。下剤を使って下痢を起こすと、便秘はさらに悪化しますので、下痢にならない程度の下剤を使います。


 また〈カロチン症〉になることもあります。これは、代謝遅延によって皮下にカロチン色素が沈着するためで、カロチンの多い野菜を大量に摂取していることも原因となっています。〈低血圧・徐脈・低体温〉症状もみられます。これらはいずれも生体の省エネルギー調節による症状です。体重減少が著しく血圧を低下させ、循環血漿量の減少や、心機能の低下も関与しています。低体温は皮下脂肪が減るためで寒がりになり、36°C以下の低体温者が65%にみられたという報告もあります。脈拍が遅くなる徐脈も起こります。


 また夏でも暑がらず、〈汗をかかない〉ことがありますが、これは痩せに伴う自律神経失調症状です。夏期の熱中症には注意が必要です。栄養状態がよくなると改善しますが、再栄養時にはむしろ多汗になることがあります。また重症の〈冷え性〉になることもあり、夏でもカイロを必要とします。低温火傷も合併し、末梢循環不全を伴って、露出した手や下肢の皮膚が紫藍色に変色し、凍瘡(しもやけ)を合併することもあります。ビタミンE製剤や漢方薬も用いられますが、患部を温めることがもっとも有効です。


 この他、〈低血糖〉〈意識障害〉〈循環器症状〉〈筋力低下〉〈末梢神経麻痺〉〈骨折〉〈筋肉痛〉〈関節痛〉〈脱毛〉〈思考・記憶力の低下〉〈意識がぼんやりする〉〈認知障害〉〈不眠〉〈痔核〉〈失禁・夜尿〉などの症状がみられます。 


精神症状

 摂食障害における主な精神症状としては、痩せ願望、肥満恐怖、身体像の障害、病識の欠如、活動性の亢進などがあり、しばしば抑うつ気分や不安、強迫症状、失感情症などを伴います。アメリカで第二次世界大戦中に飢餓実験が行われ、健康人の食事量を減らしたところ、不眠、不安、過活動、抑うつ、気分の変わりやすさ、食事へのこだわりなどの症状を示したと言われます。これは、神経性無食欲症で体重減少の著しい時期にみられる症状とよく似ていることから、こうした症状は低体重や低栄養状態により起こるものと考えられます。


痩せ願望と肥満恐怖

 神経性無食欲症の患者さんにおいては、この痩せ願望が非常に強く、体重が標準体重以下であっても、さらに低体重を望み、治療目標体重を標準体重以下に設定することを希望しています。一方、神経性大食症の患者さんの場合は、痩せ願望はそれほど強くありませんが、強い肥満恐怖を示します。したがって標準範囲内の低めの体重を希望しており、体重増加や太ることに対しての強い不安や恐怖を持っています。 


ボディ・イメージ(身体像)の障害

 ボディ・イメージは、患者さんが自分の身体をどう見ているか、どう感じているかということです。神経性無食欲症の人は、他の人から見れば痩せていたり普通に見えても、自分では太っていると思っています。また、身体の一部である大腿部が太っている、お腹が出ている、頬がふくれていると感じたりして悩みます。ところが神経性大食症の人の場合では、神経性無食欲症から体重だけが正常に回復して過食と嘔吐が続いていると、神経性無食欲症の人と同じようなボディ・イメージの障害が認められることが多くなります。ただ、神経性無食欲症の経験のない人にとっては、ボディ・イメージの障害がないこともよくあります。


病識の欠如

神経性無食欲症の患者さんは、病気の初期から痩せを希望して努力しているので、痩せると達成感を得て、痩せている状態を病気だとは思っていません。しかし、さまざまな身体合併症が起こり体力の低下を意識するようになると、初めて身体的な病気ではないかと感じるようになります。それでもなお、神経性無食欲症に関しては、この極端な痩せが病気であるという病識は形成されていないことがほとんどです。 一方、神経性大食症の患者さんにおいては、自ら症状に苦しみ、病感をもっているとはいえ、自分が恥ずかしい、だらしない、自分がもっとしっかりしていれば止められるなどと考え、真の病識が形成されていません。しかし、病気について説明すると、病識は容易に形成されます。


抑うつ症状

 神経性無食欲症や神経性大食症の患者さんにおいては、低栄養や体重減少によって、また大食や嘔吐によって抑うつ気分や不安、強迫、性格の変化、自己嫌悪、無気力などの精神症状を引き起こすことがよくあります。そして神経性大食症の患者さんにおいては、抑うつ気分が生じると、これを解消しようとして大食になり、その後ふたたび抑うつ気分を生じるといったように、悪循環に陥ることがあります。


不安症状

 神経性無食欲症や神経性大食症の場合、体重増加や肥満に対して常に不安や恐怖が精神病理の中核にあるため、不安症状をよく生じます。神経性無食欲症の患者さんの場合は、食事の時間になると緊張や不安が高まります。神経性大食症の患者さんにおいても、大食後に体重増加に対する不安が高まります。この不安や緊張を緩和するために嘔吐をしたり下剤が使われるのです。


強迫症状

 神経性無食欲症や神経性大食症の患者さんは、食物やカロリーなどに意識が強くとらえられ、摂食制限を徹底して痩せを追求し、さらに痩せるために徹底的に運動に励むなどの強迫症状が高い確率で生じます。とくに神経性無食欲症の患者さんでは、痩せれば痩せるほど強迫症状が強くなることがわかっています。


失感情症

 失感情症とは、知性と情動の交流が遮断されて、自分の喜怒哀楽の情動に対しての気づきや表現が失われた状態です。神経性無食欲症や神経性大食症にかかる人は、この喜怒哀楽の感情や葛藤、悩みを言葉に出して言うことができません。これらの患者さんは、小さい頃から親の期待に応えようと、自分を抑えて自己主張せず“良い子”で育ち、八方美人的に振る舞いながら成長します。一見、何の問題もないように見えますが、内面的には葛藤に満ちています。しかしそれを言葉に表せないのです。これは、症状というより性格的な一面を反映しているとも考えられます。病気が重くなれば、失感情症の程度がより強くなり、会話をしても声が小さくなってきます。


行動異常

 行動面に現れる典型的な異常は、摂食行動異常、排出行動異常、活動性異常、問題行動異常などがあります。神経性無食欲症と神経性大食症を比較してみると、多くのところで共通していますが、違うところもあります。まとめると次のようになります。


《神経性無食欲症》
・摂食行動異常…食思不振、拒食、摂食制限、隠れ食い、盗み食い、過食など。
・排泄行動異常…嘔吐、下剤の乱用、利尿剤の乱用など。
・活動性異常…過活動。
・問題行動異常…自傷行為、自殺企図、万引き、薬物乱用など。
《神経性大食症》
・摂食行動異常…過食、だらだら食い、絶食、摂食制限、隠れ食い、盗み食いなど。
・排泄行動異常…嘔吐、下剤の乱用、利尿剤の乱用など。
・活動性異常…活動低下。
・問題行動異常…自傷行為、自殺企図、万引き、薬物乱用など。

摂食行動異常

《不食や摂食制限》
 神経性無食欲症の患者さんは、食思不振、拒食、摂食制限、隠れ食い、盗み食い、過食や嘔吐など、食べることに関して異常な行動を示します。食思不振は、主に家庭や学校や職場などにおける対人関係の悩みやストレスなどによって生じます。大部分の患者さんで食欲が低下しますが、中にはストレスを経験すると、より食欲が旺盛になる場合もあります。  拒食は、母親に対する反抗やまた家族の関心や注目を集めたり、優しさや愛情を一身に受けるために行う異常行動です。摂取制限(ダイエット)は、美容上や健康上、または運動選手が競技能力の向上を目指して行われ、摂食の制限の対象は、カロリーが高いと思い込んでいるご飯や脂肪分が多い肉類を避けて、野菜やコンニャクなどカロリーが低い食物を好んで食べます。摂取制限を始めると、食事の時にぐずぐずしてすぐに食卓に着こうとしなかったり、反抗的になったり、緊張したりします。また、食事の量が多いと文句を言ったり、食べるときに食物を小さく刻みだしたり、Aの食品を食べなくてよいのならBの食品を食べる、といった駆け引きをするような行動が見られます。  患者さんの多くは、摂取制限、食思不振、拒食などによって食べる量が持続的に少なくなってくると、空腹感を感じなくなり、完全に食欲がなくなります。そして少しでも食べると、腹部に不快感や膨満感、腹痛、悪心、吐き気などを訴えるようになり、さらに摂食量が減ります。こうなると、食欲が起こらないので摂取制限は楽にできるようになると同時に、体重も急速に低下して痩せていきます。しかし、食欲がなくても一度食べだすと今度はそのリバウンドによって、制御できないほどの大食状態になり、不快感や肥満を防ぐために嘔吐するようになります。
《大食》
 神経性大食症の主な症状は大食(binge eating)です。Bingeとは、「飲み騒ぎ」「酒盛り」という意味で、大騒ぎして大量の食物をむちゃ食いすることをいいます。日本では、一般に「過食」「多食」「むちゃ食い」「気晴らし食い」などと訳されています。大食そのものは、一般の青年期女性の間ではよく見られますが、摂食障害の基準を満たすのはそのうちの一部です。DSM-Ⅳの診断基準では、①一定の時間内(例えば2時間以内)に他の大部分の人が食べる量より明らかに大量の食物を摂取する、②食べている間、摂食を自制できない感じを伴う場合(例えば、食べるのを途中で止められない感じや、何をどれだけ食べるかをコントロールできない感じ)と定義されています。  大食する時間帯で一番多いのは、下校または退社して、帰宅後の夕食時から床につくまでの間に行われます。この他、朝食後または昼食後に行われることもあり、また休日や欠勤日に1日中断続的にだらだらと大食する患者さんもいます。まれに、夜中に覚醒してから大食する人もいます。では、大食の持続時間と頻度についてはどうかというと、自記式の調査では、持続時間は平均1.2時間(15分~8時間)、頻度は1週間で平均12回と報告されています。大食する場所は、家族に見つからないように自分で食物を大量に買い込んできて、自室に閉じこもって食べる場合がほとんどです。誰もいない台所で、冷蔵庫の食物をかたっぱしから食べたり、中には家族の前で平気に食べたり、またわざと当てつけに大食するケースもあります。食べ方も、むさぼり食いをしたり、食べ物を口の中に流し込むような食べ方をします。
一方、大食時の摂取成分の内容と量については、神経性無食欲症の患者さんが炭水化物や脂肪の多い食物を減らして総カロリーを少なくしているのに対し、神経性大食症の患者さんは、摂取量が多いだけではなく、炭水化物を50%、脂肪を40%、蛋白質を10%と、健常者と変わらない摂取内容となっています。ただ、総摂取カロリーが多い患者さんの場合は、大食時には炭水化物や脂肪含量の多い甘みのあるデザートやスナック菓子を多量に食べているのに対し、総摂取カロリーが少ない人においては、相対的に脂肪よりも炭水化物を含む食品を多く食べていることが分かっています。神経性大食症の患者さんが食べる1回の総摂取カロリーは、平均して1,400~4,800kcalと報告されています。  この他、神経性大食症の患者さんに見られる行為として、大食と嘔吐の代理行動(噛んで吐き出す:チューイング)があります。これは食物を噛んではそのエキスだけを吸い、嚥下しないで残渣を吐き出す行動で、噛んだ残りかすはナイロン袋などに吐き出して捨てる行為です。食物の量はそれほど多くない場合もあれば、冷蔵庫を空っぽにするほどの場合もあります。また、幼児や子どもの場合には反芻(はんすう)行動がまれに見られます。  食行動の異常について、厚生労働省の診断基準では「食べないばかりでなく、経過中には大食になることが多い。大食には、しばしば自己誘発性嘔吐や下剤・利尿剤乱用を伴う。その他、食物の貯蔵、盗食などがみられる。また、過度に活動する傾向を伴うことが多い」としています。

排出行動異常

 神経性大食症の人や大食を伴う神経性無食欲症の人は、大食による体重増加を防ぐために、「自己誘発性嘔吐」や「下剤乱用」によって食べたものを体外に排出する行動がみられます。また稀に「利尿剤乱用」で水分を排出して体重増加を防ぐ行動もみられます。これらを浄化行動といいます。

 まず、自己誘発性嘔吐です。これは大食したあと気分が悪くなって嘔吐したのがきっかけで習慣化したり、初めから大食による体重増加を防ぐために行うこともあります。多くの人は、大食を始めた時期かその後に嘔吐するようになりますが、中には大食をする前から体重調節の手段として嘔吐する人もいます。自己誘発性嘔吐は、最初は人差し指や中指、歯ブラシやスプーンの柄、割り箸などを喉の奥に入れ、嚥下反射を誘発させて嘔吐します。慣れてくると、指や歯ブラシなどを使わなくても、嘔吐できる人もいます。また長期間にわたり指を使って嘔吐していると、指の背部のつけ根部に“吐きダコ”ができます。吐きやすくするために、大量の水やお茶、清涼飲料水を飲んだり、吐きやすい食物を多く食べたりします。中には嘔吐することが目的となって、嘔吐するために大食する患者さんが認められ、嘔吐である種の解放感を感じます。

 次に下剤乱用です。神経性無食欲症の場合、頑固な便秘のために下剤を使っている人もいますが、食べたものを早く体内から出さないと体重が増えると考えて下剤を使用し、次第に量が増えて乱用している患者さんもいます。神経性大食症の人の場合は、大食したあと体重が増加しないように、早く食べた物を体内から取り除くために下剤を使用しています。下剤の使用量は、1日数錠から最高200錠以上も服用するケースや、漢方薬の下剤でも常用量をはるかに超えた使用量になる場合があります。また、毎日浣腸液を使用する人もいます。

 下剤を使用すると、数時間後に急激な水溶性の下痢が起こり、水分を多く排出しますが、このとき体重減少や痩せた感じを経験し、余分なカロリーを取り除いたと思って安心します。しかし、実際には体内の水分が減少するだけで、脂肪の量が減るわけではありません。下剤を止めると、顔や下肢にむくみが起きたりします。便秘のために下剤を止められなくなり、耐性ができてさらに下剤の量が増え悪循環に陥ります。

 次に利尿剤乱用です。現在、利尿剤を薬局で入手するのは不可能であるために、使っている人は少ないのですが、中には医師から処方された利尿剤を密かに乱用している人や、インターネットを通じて個人輸入により利尿剤を入手して乱用している人もいます。大食後に服用し、排尿することで下剤乱用と同じ効果を実感します。これも使用を止めると、むくんだり体重が増加したりして耐性ができ、さらに利尿剤の使用量が増えていくという悪循環を招くことになります。

活動性異常

 神経性無食欲症の患者さんの場合は、活動性が高まり、30kg以下の低体重にも関わらず、じっとしていられず絶えず何かをしており、また過度の運動をして体重増加を防いでいる患者さんもいます。一方、神経性大食症の患者さんは逆に活動性が低下していて、むしろ無気力で、抑うつ状態にあります。


問題行動異常

 摂食障害における問題行動には、次のようなものがあります。「自傷行為」「自殺企図」「万引き」「退行」「不登校」「アルコール・薬物依存症」「虚言」「性的逸脱行為」「家庭内暴力」などです。

①自傷行為
自傷行為で最も多いのが、手首を鋭利な刃物で切りつけるリストカット(または上腕を切るアームカット)症候群です。本人はその前後のことはよく覚えていない場合があります。中には前腕や大腿部に無数の切り傷をつける人もいます。鋭利なもので切りつけた時に、イライラや緊張感が一時的に消失した感じに酔い、繰り返す人もいます。
②自殺企図
 薬物によるものが最も多く、抗うつ剤を投与されている場合は注意を要します。抑うつ状態の患者さんの場合、最近悩みはじめた事柄であっても、自分はずっと以前から悩み続けており、その悩みは生涯続くと錯覚し、絶望的な気分になります。患者さんは迷路から抜け出せない状態です。うつ状態は特に大食と密接にかかわっているため、抑うつ状態になっている患者さんは、なるべく快適に過ごせるように措置を講じる必要があります。
③万引き
 万引きは、患者さんの約3分の1に見られます。万引きして捕まり、親の右往左往する姿を見るのが快感だと思っています。摂食障害は、ある意味で親に対する反抗の現われと考えられますので、万引きという問題行動は容易に納得できます。従って、スーパーなどで万引きする時はわざと見つかるように行い、捕まったら悪びれることなく罪を認めます。食べ物を買ってもどうせ吐くのだからもったいないと考えたり、大食で親に経済的負担をかけたくない、などという理由で万引きする患者さんもいます。また、万引きした食品を自分の部屋に山のように溜め込み、それを見た家族が困惑する場合もあります。
④退行
 つまり“幼児がえり”のことで、子どもっぽくなることです。話し方や洋服などが幼くなり、母親にべったり甘えたり、幼児のようにだだをこねたりします。これは、幼児に戻ることによって両親や周りの人たちの愛を得ようとする反応です。ストレスが大きくなって我慢できなくなったので、保護して欲しいという気持ちの現れです。家族の人たちは、最初は驚いて心配しますが、そのうちにじれったくなって頭ごなしに叱ったりします。すると、患者さんはさらに退行して、もっと注目を得ようとするようになり、悪循環に陥ります。患者さんに退行が見られたら、周りの人たちは出来るだけ受容的に接して、安心させることが大事です。
⑤不登校
 不登校の第一の原因は“いい子”でいることに疲れたということです。周りからの期待を一身に背負って学校に行くことに耐えられなくなったという気持ちが、不登校という行動に現れたのです。自分が何をやっているか分からなくなった時、学校での人間関係が重荷になってしまうのです。サラリーマンの出社拒否もこの不登校と同じです。そして第二の原因は栄養障害で、あまり痩せると学校や会社に行けなくなるのです。
⑥アルコール・薬物依存症
 アルコールや薬物に依存するようになる人が、アルコールや薬物の代わりに身近で手に入りやすい食べ物に依存し、大食を繰り返しているのが神経性大食症の状態であると言えます。また、患者さん自身ではなく、その家族にアルコール依存症が多く見られることも指摘されています。
⑦虚言
 ウソをつくようになります。これは周りに迷惑をかけないようにしようとする時に見られます。ひとつのウソをつくと、そのつじつまを合わせるために次から次へとウソをつかなければならなくなります。このような時、患者さんはかなり追い詰められて悩んでいます。ウソをつかなくてもいいような人間関係をつくることが大事です。たとえウソをついていることが分かっても、あまり責めないようにすることが肝要です。
⑧性的逸脱行為
 摂食障害の女性には、女性であることを拒否するという傾向がある一方で、男性とみだらな関係(例えば複数の男性との肉体関係や援助交際など)に走ったりすることがあります。この行為は、自分の体を代償にして男性(誰でもいい)の注目を得ようという心の現れです。
⑨家庭内暴力
 衝動が自分に向けられたときは自殺企図となりますが、家族など外に向けられときは家庭内暴力となります。男性はストレスに対する処理を家庭内暴力で、女性は摂食障害で行うとされてきましたが、女性の患者さんでは摂食障害と供に家庭内暴力が同時に現れている例は少なくありません。

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