うつ病の予防

うつ病の予防

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うつ病の予防

自分で気をつけるべきこと
残念ながら今のところ、「こうすれば絶対にうつ病が防げる」といった特別な予防法はありません。 しかしこれまで述べてきたように、うつは性格と環境の相互作用によって発症することが多いという経験的な事実から考えて、うつ病になりにくい対策を立てることは可能です。
ストレスを意識しているものの、まだ日常生活や仕事には支障が出ていない段階で、次のような自己対策(セルフケア)が有効です。

自分自身を知るということ
「自分を知る」ということは、意外に難しいものです。
そこでエゴグラムという簡単にできる性格分析法がありますので、自分でチェックしてみると役に立つと思います。 エゴグラムは、交流分析という理論に基づいていて、性格と行動のパターンを知ることができます。 そして自分の特徴を知りバランスのとれた状態に変えていくことも可能です。
問題を整理して、解決のための選択肢を考えてみましょう
物事を感情や先入観で判断せず、多角的に捉え冷静に対処方法を考えましょう。 自分の手に余る問題については、1人で解決しようとせず、誰かに相談しましょう。
他人の目を意識しすぎない
他人の評価ばかりを気にせず、自分の行動をとりましょう。 相手も自分も傷つくことなく、円滑なコミュニケーションがとれるよう努めましょう。
ストレスの捉え方
ストレスは、人によってそれぞれ感じ方はさまざまです。 自分の仕事から達成感や満足感が得られているのなら、ストレスをストレスとして感じないこともあります。 やりがいを得られる工夫ができないか、じっくり考えてみるのもひとつの方法です。
ストレス解消法(スポーツ、趣味、レジャーなど)の活用
好きな音楽を聴く、本を読む、映画を観る、散歩や買物に行く、美術館や博物館に出かける、教養を高めるために講習会やサークルに参加する、ボランティア活動に従事するなど、余暇の過ごし方を工夫することで、ストレス発散ができます。 地域に知り合いができ、同世代はもちろん、異なる世代の人や自分とはまったく違う人生経験をしてきた人とも知り合うチャンスが生まれ、新鮮な感動をもつことができます。 また家族との良好なコミュニケーションも気分転換に有効です。
仕事一筋で生きてきた人は定年後、心のなかにポッカリと大きな穴が開いてしまったと感じ、うつ状態に陥る人が少なくありません。 人生を仕事一色にせず、別の世界にも目を向けて、さまざまな人的ネットワークを構築しておくことが望ましいでしょう。 それがいざというときに大きな助けになることもあるでしょう。
生活習慣病を予防し、健康的な生活を送る
脳卒中・がん・糖尿病などの生活習慣病は、うつ病と密接な関係があります。 アルコールやタバコを控え、適度な運動を続け、バランスのとれた食事を摂り、良質な睡眠をとることで生活習慣病を予防し、心身共に健康的な生活が送れるようにしましょう。
生活上、大きな変化があったときは、とくに要注意です。過労を避け、十分な睡眠と休養を心がけましょう。 心身に不調があらわれたら、ためらわずに専門医に早めに相談してください。

病気の予防

心の病に限らず、病気にかからないこと自体が、もっとも優先されるべき事柄です。 日頃の食生活を見直したり、禁煙や適度な運動を心がけることは、生活習慣病の予防につながりますし、予防注射を受けてインフルエンザなどの感染症にかかりにくくすること、職場の事故防止のために安全な職場環境を整備することなど、未然に病気やけがを防ぐことを一次予防といいます。 不幸にして病気にかかってしまった場合は、なるべく早めに病気を発見し、治療を開始し、重症化させないことが重要です。 がん検診や人間ドックを受けることを、二次予防(早期発見・早期治療)といいます。
そして、専門的治療を含めた保健指導やリハビリテーションなどによって、機能回復を図り、生活の質を高め、社会復帰に向けて準備を整え、再発を防止するというステップを三次予防とよびます。 これらを心の病にあてはめ、仕事や職場におきかえて考えると、次のようになります。

一次予防
・労働時間の管理一残業が長時間におよんでいないか
・労働環境の再検討一仕事が円滑に行われているかどうか
・セルフケア-研修会などを通じてストレスとの上手な付き合い方を学ぶ
二次予防
・勤怠状況一遅刻(とくに月曜日)、早退、突発的な欠勤、有休休暇の取得増加など
・業務遂行能力一仕事の効率が落ちたり、ミスや事故が目立つようになる
・心身面の不調一急に怒りっぽくなる、口をきかなくなる、表情が暗い、人を避けるようになる、二日酔い、頭痛・腹痛などの執拗な訴えなど、ふだんと様子が違う

このようなことがあれば上司(管理監督者)は産業医にアドバイスを求めるのかよいでしょう。 現在は、職場における相談窓口の整備や研修会の開催、産業医による面接指導など、職場におけるメンタルヘルス対策は二次予防である早期発見・早期治療が中心であるといえます。体制づくりはできていても、実際の現場がぎすぎすしていてはコミュニケーションを図ることはできません。そのためには日頃から風通しのよい職場の環境づくりが必要です。
注)上記二つはラインによるケアといわれるもので、上司が部下の心の健康管理対策をするということです。
上司は部下と毎日顔を合わせているわけですから、部下のちょっとした変化にも気づくチャンスが多いといえます。 このラインによるケアを含めた、労働者自らが気づくセルフケア、産業保健スタッフ(職場の心理相談員、カウンセラー、人事労務管理担当者、産業医など)によるケアのほかに、EAP(従業員支援プログラム)、精神科医による研修会など事業場外資源によるケアがあり、これらのメンタルヘルスケアが効果的に継続されることが推奨されています。これは労働安全衛生法に基づいて、厚生労働省が「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月31日)として定めたものです。

二次予防
職場復帰後の再発の多くは、うつ病治療期間中に十分な復職準備が整っていなかったことに起因します。
すなわち、うつの症状自体は休養と薬物療法を中心にして改善したものの、もとの職場に戻って業務をこなせるほどには回復していなかった、つまり時期尚早であったということです。そのためには職場復帰への体系的プログラムとして、リワークプログラムがもっとも適しているといえるでしょう。リワークプログラムおよび復職後のフォローアップ・プログラム、産業医との連携による再発(再休職)予防などがこれに該当します。

再発を防ぐ方法

症状を改善するために必要なこと

躁うつ病は、正確な診断のもと、気分安定剤を基本にした薬物療法によって、症状が良くなる患者さんが多いと思います。 薬物療法に加えて、月に1~2度通院していただき、規則正しく服薬を継続する必要性や、気のもち方を医師にアドバイスされ、自分で病気をうまくコントロールしていく患者さんも多いようです。 このような患者さんは、ちょっとした調子の変化にも主治医に相談し、大きな再発を防ぐことができているようです。
この場合、患者さんは自分自身をコントロールして、病気になりやすい(波が大きくなりやすい)気質と、うまく付き合っているといえます。
その一方で、なかなか気分がうまく安定しない患者さんもいます。

  • 極性診断変更が行われていないため、適切でない治療薬を処方されている
  • 病気を受け入れたくないという理由で、服薬をきちんと行わない
  • 規則正しい服薬を継続せず、一時的に調子が良くなると、勝手に治療を中断してしまい、再発をくりかえす
  • もともと気分安定剤の効きが悪く、抗精神病薬などを併用しても、なかなか安定しない

それでも根気強く治療を続ければ、時間はかかるかもしれませんが、なんとか気分は安定していくと思います。 しかし現実は、なかなかそういう方向に向かってくれない患者さんも大勢いるのです。

症状が増悪し、仕事や家族を失うことも

このように、自分の病気に気がついていない、あるいは向き合おうとしない患者さん、難治性の患者さん、あるいは再発をくりかえす患者さんは、再発や増悪をくりかえしていくうちに、症状はますます泥沼化し、周囲から孤立してしまいます。 職場の仲間や友人が離れていってしまい、仕事を失ってしまうという悲劇的な結末が待っていることも多々あるようです。 このような状態に陥った患者さんは、自暴自棄になり、病気の衝動性や思考の歪みなども加わって、取り返しのつかないこと(犯罪や自殺など)を起こしかねません。
その際、患者さん本人はもちろんもがき苦しみますが、なんとか当人を助けようとする周囲の人たち(とくに家族)が振り回されてしまい、患者さんのために苦しい思いをし、どんどん消耗していき、やがてみんな離れていき、家庭崩壊してしまうこともあるでしょう。 これはまさに、周囲を巻き込む悲劇です。
こういった悲劇が起きないようにするためにも、患者さんおよびご家族や周囲の方々に、躁うつ病の正しい理解と、病気への向き合い方を知っていただきたいと、私は切に願っているのです。

医師だけが患者さんの病気を治すのではありません

治療共同体として、積極的にコミュニケーションをとることが大事
このような複雑な社会状況下で、よくわからない心の病気にかかると、患者さん自身はもちろん、ご家族もひどく不安になるものです。 医師も短い診療時間内で、いかに患者さんやご家族が、病気と向き合いやすくなる情報を提供するかが大事になります。
すなわち、医師の直感だけに頼らず、個々の患者さんの治療過程において、現時点で最良の臨床試験の研究データなどを提供し、インフォームドコンセントを得て、患者さんご自身が納得する治療を行うことが重要です。 これが、最近注目されているEBM、すなわち「科学的根拠にもとづく医療」です。 たとえば、現時点の臨床試験で「抗うつ薬のパロキセチンの処方で、10mgから20mgに増量すると、抗うつ効果は数%程度上がるが、そのかわり下痢や吐き気といった副作用が約50%も増える」という情報があり、これを踏まえ、
患者さんに「では、こういったデータ予測のもとで、今の症状のあなたならどちらを選びますか?副作用が強くなっても薬の増量を望みますか?それとも今の症状なら薬を増やさなくても大丈夫ですか?」と説明し、
患者さんの判断を聞きながら治療を進めるのが、EBMにおける対等な医療関係です。
医師だけが患者さんを治すのではなく、患者さんが個々の回復力で病気を克服していくのを手伝うという感覚です。 医療従事者も学会などへ積極的に参加して、現状での最新情報を人手し、それを患者さんに説明し、患者さんの望む医療を提供しなければなりません。 そのうえで、患者さんやご家族とのコミュニケーションが大事になってきます。
一般の外来診療でも、病気や薬の説明、治療方針など、患者さんが積極的に医師に相談できる関係があって初めて「治療という共同作業」が成り立つのです。 治療が患者さんとの共同作業であるというのは、認知行動療法だけではなく、一般の外来診療も同じなのです。
患者さんに、薬の量や種類を聞かれるだけで面倒くさそうにする医師や、治療についてたずねると機嫌が悪くなるような医師は、好ましくありません。 とくに精神科では、コミュニケーションがとりにくい医師は、やはり治療という患者さんとの共同作業には向いていないといわざるを得ません。

生きにくい社会のなかで、自分と折り合いをつけるために

結局は等身大の自分と向き合い、仲良くやるしかない
世のなか自体が生きにくいことと、患者さん自体が抱えている生きにくさのなかで、私は、今よりはもう少し病気と上手に折り合いをつけていくようにお手伝いするのが、精神科の医療だと考えます。 つまり、なんとか病気と付き合い、コントロールできる人が、不運にも病気にはなったものの、不幸にはならずにすむのです。 いわゆる外科的な、患部を切除して治るというものではなく、患者さんが自分の病気とうまく付き合うための落としどころを見つけることが、精神科治療において、病気や症状が良くなるということなのではないでしょうか。
「人生は所詮うまくいかないことが常なので、うまくいかないからといっていちいち気にしてはいけない。人の一生は、重い荷物を背負って遠い道を行くようなものだから、焦ってはいけない。怒りは敵である」という徳川家康のような覚悟が必要です。
こうして自分をコントロールできる人が幸せになり、家族や周囲の人も救われるのです。
そうはいっても躁うつ病、パーソナリティ障害、発達障害、自己愛型人格構造の青少年といった患者さんたちは、病気の成り立ち上、簡単には自分と向き合うようになれないでしょう(この点が、彼らが一般外来や認知行動療法に抵抗を示す原因のひとつでもあるのですが……)。

病気になった不運をうらんでも仕方がない

それでも私は医師として、科学的な検査データ解析や無機質な情報開示よりも、患者さんやご家族の話をよく聞いて、病気に対するおそれや将来に対する不安を取り除き、病気と向き合う勇気を与えることが、精神医療の本道ではないかと考えています。とくに躁うつ病の患者さんのご家族は、「なぜ、こんなにふりまわされなければならないのか」と嘆き、不安がり、疲れ果てている場合が多いのです。
その方たちに向けて、躁うつ病という病気の成り立ちと、現在の症状を関連付けて説明すると、患者さんや病気への理解が深まり、患者さんへの接し方が少しわかるようになり、治療という共同作業が進むのです。 そして患者さんも、自分自身の病気の成り立ちを理解し、主治医のみならず周囲の理解を少しでも得られれば、孤独感や不安・恐怖が減り、病気と向かい合う余裕ができてくると思います。 そうすると、不運にも病気にはなってしまったが、その不運を恨むのではなく、自分なりに自分と向かい合ってやっていくしかないと思うようになります。

うつから学べること

統計上、現在の日本人の15人に1人が、生涯のうち少なくとも1回はうつ病を経験していることになります。 人間は生きている以上、すべてのストレスから逃れることはできません。 とくに現在のような流動的な社会では、毎日が不安定で人間関係の摩擦も避けられません。 誰もがこの病気にかかる可能性をもっています。うつ病は単なる。こころの風邪ではありません。
うつ病は非常に強い苦痛を伴い、ときに慢性化したり、再発することも多く、日常生活に深刻なダメージを与えることもあります。 しかし、うつを経験した多くの人が、きちんとした治療を受け、暗いトンネルから抜け出したとき、他人の心の痛みや苦しみがよくわかるようになり、自分に手をさしのべてくれた人々への感謝の気持ちが深まるようになります。 そして同じような病気で悩んでいる人に手助けしたい気持ちが生まれ、それを実践している人もいます。
病気になったことを嘆くだけではなく、自分自身や家族、友人、仕事、社会、人生などを見つめ直すチャンスと捉え、今の自分の悩みを受け止めましょう。 挫折しても失敗しても軌道修正をしながら、これからの人生を前向きに模索し、別の視点から世界を見ることができるようになれば、他人の心の痛みがわかる優しさを身につけることができます。 そうすれば、うつは単なる病気ではなく、人間としての精神的な成長の一里塚となり、あなたの貴重な心の財産になるかもしれません。