うつ病 薬物治療column

Update:2023.10.15

うつ病 薬物治療とは

うつ病薬物治療は、抗うつ薬を用いて症状を軽減するアプローチ。セロトニンやノルエピネフリンの神経伝達物質を調整し、気分を安定させます。症状改善には数週間の期間を要します。医師が患者の状態に応じて適切な薬剤を選び、投与量を調整し、副作用や薬物相互作用に留意のうえ経過を定期的に評価します。

うつ病 薬物治療

目次

うつ病では、脳内神経伝達物質であるモノアミン(セロトニン・ノルアドレナリン)が減少しているため、神経接合部分のシナプスでセロトニンの再取り込みを阻害してセロトニン濃度を上昇させるSSRI(ルボックス・デプロメール・パキシル・ジェイゾロフト)や睡眠作用も併せ持つ二環系抗うつ薬(レスリン・デジレル)四環系抗うつ薬(テシプール・ルジオミール・テトラミド)を第一選択として使用します。
セロトニンは食欲や性欲、衝動性や緊張などに関連した神経伝達物質です。 また、セロトニンと同時にノルアドレナリンの再取り込みも同時に阻害するSNRI(トレドミン)も第一選択として使用されます。 ノルアドレナリンは意欲や気力、判断力、集中力、ものごとへの興味などに関連した神経伝達物質です。

薬効

その他にNaSSA(レメロン・リフレックス)などの新薬も第一選択として使用されます。また、ノルアドレナリンを増やし、低用量でドーパミンを増やすスルピリドは意欲の亢進と食欲の亢進作用があり、副作用も少ないため、これも第一選択として使用されることが多い薬剤です。 これらの薬剤で十分な抗うつ効果が得られない場合や再発を起こした場合は、第二選択として三環系抗うつ薬(トリプタノール・アモキサン・トフラニール・イミドール・アナフラニール・プロチアデン・スルモンチール・ノリトレン・アンプリット)が使用されます。 これらは副作用がある程度強いですが、薬理作用は強力です。 副作用の少ない漢方薬も使用されますが、効果は一般的に弱いです。
GABAニュ-ロンの作用を特異的に増強して、神経を鎮静させるクロナゼパム(ランドセン・リボトリール)もよく使用されます。 不安や焦燥が強く出ている場合は、これに抗不安薬(デパス・リーゼ・コレミナール・ソラナックス・コンスタン・レキソタン・セラニン・ワイパックス・セレナール・セパゾン・メンドン・コントロール・バランス・セルシン・ホリゾン・エリスパン・メレックス・レスミット・セダプラン・レスタス・メイラックス)を追加します。 5-HT1Aアゴニスト(セロトニン1Aアゴニストのことで、セロトニンと同じような作用を及ぼす)を持つアリピプラゾール(エビリファイ)ペロスピロン(ルーラン)などの抗精神病薬も、不安や抑うつに対して使用されることがあります。

また、ほとんどのケースで睡眠障害が出ますので、睡眠導入剤(ハルシオン・レンドルミン・リスミー・ロラメット・エバミール・ユーロジン・エスタゾラム・ネルボン・ベンザリン・エリミン・サイレース・ロヒプノール・ドラール・ソメリン・ベノジール・ダルメート・アモバン・マイスリー・ベゲタミン)も追加します。 一般的に抗うつ薬は内服を始めてから2~4週間で薬理作用が出始めるのに対して、副作用は内服直後から出現するので、服薬当初は副作用ばかり出て効果のない薬という印象が強く、内服を途中で中断してしまう方が非常に多いので要注意です。

うつ病 薬物治療

うつ病の患者さんの脳内では、セロトニンやノルアドレナリンという神経伝達物質の放出量が減少しているといわれています。 そのため、セロトニンやノルアドレナリンを増やす目的でSSRI、SNRI、NaSSAといわれる抗うつ薬が、第一選択薬として用いられることが一般的になってきています。 これらの薬は、従来の抗うつ薬に比較すると副作用が少ないという利点があります。
とはいうものの、服用初期には、吐き気や嘔吐、食欲不振、のどの乾き、眠気、だるさといった副作用が出ることがありますので、副作用がつらい場合は医師や薬剤師に相談しましょう。 またほかの薬を飲んでいる場合や、妊娠の可能性がある場合も、医師や薬剤師に知らせておきましょう。
薬は決められた量を、決められた時間に飲むようにし、自己判断で服薬を中断してしまうことのないよう注意しましょう。
薬を急に止めてしまうと、次のような症状があらわれやすくなります。

  • くらっとめまいがする
  • フワフワした感じがする
  • 頭が痛くなる
  • 胃がムカムカする
  • 手足がビリビリする
  • イライラする

また、アルコールと薬を併用すると、思わぬ副作用が出ることがありますので、アルコールは飲まないようにしましょう。

うつ病や不安障害の薬物治療の注意点

うつ病では、SSRIのセロトニン取り込み阻害による作用で、セロトニンが過剰に増加し、不安焦燥が増悪するアクチベーションーシンドローム、性機能障害、下痢や嘔吐といった消化器症状などの副作用が起きることがあります。 この場合でも、オーグメンテーション療法として非定型抗精神病薬を併用すると、SSRIの副作用を抑えて抗うつ作用を増強する可能性があるといわれています。
さらに、NaSSAのミルタザピン(リフレックスなど)はアドレナリン受容体を遮断し、セロトニンの放出を促進しながら、ヒスタミン受容体とセロトニン受容体をブロックするため、不安・焦燥感や消化器症状および性機能障害といった、SSRIでよく見られる副作用が出ることなく抗うつ作用を増強します。 躁うつ病に対する影響や、炭酸リチウムとの併用による増強効果については、まだデータがないのでわかりませんが、今後、SSRIやSNRIが合わなかった患者さんが、NaSSAによって改善し、自殺が減ることを期待しています。一方、うつ病の「不安・焦燥」症状には、抗精神病薬のレボメプロマジンが有効で、かつ抗不安薬のような依存性がないとの理由で推奨されています。 最近では不安障害のパニック障害、強迫性障害、社会不安障害などにもSSRIが有効で、第一選択薬となるという報告が出ていますが、うつ病の不安症状に対して、SSRIや抗不安薬を併用する場合は、これも薬物依存にならないよう単剤かつ必要最小量で、期限限定か頓用で処方すべきだと考えます。
抗不安薬は対症療法として使う薬なので、症状が良くなれば減量して、やがては中止すべきです。 このことは抗不安薬のみならず、とくにベンゾジアゼピン系の睡眠薬についてもいえることです。
うつ病の症状として起こる不眠に対しては、うつ症状の改善に伴って不眠の症状が軽快してくるようであれば、睡眠薬を減量するのが理想です。
まずは休みの前の日に睡眠薬を抜くなどして飲まない日を作る、あるいは2種類処方されていた睡眠薬を1種類にする、といった工夫をして減量を始めるといいと思います。

うつ病 漢方薬治療

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
気力・体力が共に衰え、食欲が低下し、寝汗が多く、体に力が入らない人で、うつに伴う種々の症状、起立性調節障害、虚弱体質に使用される。 抗うつ薬のように容易に躁状態に転換することがない。投与量は7.5mg/日。
香蘇散(こうそさん)
気分が落ち込んだときに用いるが、一時的な落ち込みというより、もともと内向的で人見知りするようなタイプの人に適している。 胃薬として使用されることもあり、抗うつ薬の副作用(吐き気・食欲不振)を緩和するので併用される。投与量は7.5mg/日。
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
体力的に弱く、鬱々として不安を伴う場合で、仮面うつ病などにも用いられる。 のどに異物が詰まった感じの場合は効果が大きい。抗うつ薬の副作用(吐き気・食欲不振)を緩和するので併用される。 香蘇散より作用は強い。投与量は7.5mg/日。
加味帰脾湯(かみきひとう)
補中益気湯に似ているが、精神作用のある生薬が加わっているため、不安、気力低下、体力低下、不眠が強い人に用いられる。投与量は7.5mg/日。