うつ病の増加理由column

Update:2023.10.15

うつ病の増加理由とは

うつ病の増加には複数の制約が影響しています。 ライフスタイルの変化、社会的圧力、孤独感とソーシャルメディア、環境ストレス、遺伝的関与。これらの課題が組み合わさることで、うつ病の発症リスクが高まる可能性があります。早期の予防や適切な治療、精神的な健康のケアが重要です。

うつ病の増加理由

目次

「生きていることがつらい」のは、「生きにくさ」が増しているから

躁うつ病がいかに多様な症状をあらわし、想像以上に世のなかに蔓延している可能性が高いかということを述べました。
症例でも紹介したように、躁うつ病は決して特殊な病気ではありません。「ちょっと困ったな……」と感じているあなたの身近な人が、実は「かくれ躁うつ病」かもしれません。 しかしそれは患者さんの責任だけではなく、私たちの生活が「生きにくい社会」になっているからだともいえます。
私自身、最近とくに毎日生きていて「きついな」と感じます。はじめは、40歳を過ぎた頃からくる、男性の更年期障害で、抑うつ気分や倦怠感が増してきたのかなとも考えました。 しかし今から考えると、20代頃までの自分自身が元気すぎたのではないかと思うようになりました。

軽い躁状態であるはずの若者にもうつ症状があらわれている

一般的に人間は、若いときや子どもの頃は、なにをやっても楽しく、「箸がころんでもおかしい」という軽い躁状態であるような気がします。 たいしたことでもないのに大げさに喜んだり、はしゃいだりします。
たとえば電車のなかで、小学生から高校生くらいまでの年代の若者のそばに乗り合わせると、彼らがとりとめのないことで笑ったり騒いだりして、「ちょっとうるさいな……」と思うことがありませんか?私は彼らを見ていると、ちょっと躁状態だなと思いつつ、自分も若い頃はそうだったんだろうなと思ってしまいます。 ところが最近、本来ならやや躁状態でいるはずの若い人たちでさえ、うつ状態を訴える人たちが増えてきています。
ひと昔前(私がまだ学生だった20年以上前)は、精神神経科の外来の患者さんの多くは、おもに統合失調症(当時は精神分裂病と呼ばれていました)でした。 それ以外では、不安障害などで不眠や強迫症状がある患者さん、うつ病などの感情に障害がある患者さんや、アルコール依存症、てんかんなどの患者さんが、まばらな割合でいたような感じでした。
ところが今は、まったく違います。
統合失調症の患者さんは1~2割程度で、おもに躁うつ病(双極性障害)を含む気分(感情)障害、不安障害などの患者さんの割合が非常に高くなりました。 リストカット、拒食、過食、食べ吐きなどの摂食障害や、電車に乗れない、視線が気になるなどの不安障害を伴う抑うつ気分を訴える若年層の患者さんの増加が目立ちます。(とくに都会ほどその傾向が強いようです) 精神科や心療内科クリニックが増え続けているにもかかわらず、こういった患者さんが外来にあふれています。 そして、このような症状は治りにくく、遷延化しやすいように思います。
この背景にあるのは、現代社会が中高年のみならず、若者にとっても生きにくく、適応しにくい社会になってきているということではないでしょうか。

なぜうつ病や躁うつ病がこんなに増え続けているのか

私は、うつ病や躁うつ病になりやすい環境、あるいは現代社会ならではの原因があるように感じています。

脳がさらされる大量の情報シャワー
職場、家庭、学校など、社会全体が急激にIT化し、1人あたりが処理しなければならない情報量が膨大になっています。 人間の脳は約数万年前に機能や形態が完成してから進化していないにもかかわらず、現代社会では情報のインプット量が激増しています。 逆にアウトプット(体の動き)は、生活が便利になった分、激減しています。
人間の脳が完成した石器時代、人間は大自然に囲まれた環境で生活していました。 脳はそのなかで進化を止めたわけですから、私たちの脳の状態はその環境に適応するものだと考えられます。 すなわち人の脳が安息できるのは、その完成時の環境であると考えられます。
それゆえ、脳が完成した当時のままの自然(たとえば、森林の静けさ、川のせせらぎ、鳥の鳴き声など)が、今でも脳にとって心地よい状態なのではないでしょうか。 また、脳が完成した当時は、狩猟などの体を動かす労働がアウトプットとして、適度な脳のガス抜きをしていたと考えられます。 ところが現在は、人間の生活から大自然はどんどん姿を消していっています。 いわゆる電脳社会です。
人々はマンションなどのコンクリートの壁のなかで生活し、テレビやパソコンの画面を長時間眺め、携帯電話でメールやゲームをし、四六時中音楽を聴き、ジャンクフードを頻繁に食しています。 つまりわれわれの脳は、コンクリートの檻のなかに閉じ込められ、環境ホルモンの侵襲を受けながら、完成当時の自然環境から大きく変貌した状況に曝されているのです。 これが現代人の脳・神経、そして精神によい影響を与えるはずがありません。
職場のIT化と成果主義
現代社会では、仕事で処理すべき情報量が激増したうえに、いきすぎた成果主義によって、結果がなによりも重視されます。 また、決まった時間内に、ある程度以上の成果を求められる。 時間管理社会ともいえます。
また「人間関係が希薄になった」といわれる一方で、結果を出すための企画力や、各部署とのコミュニケーション能力や交渉力、さらには愛想笑いもする協調性が求められます。 これではまるで、万能で多角的能力者でないと、現代の企業では生き残れないような雰囲気です。
このような状況下で真っ先に社会からはじき出されるのは、周りの空気が読めず浮いてしまうアスペルガー障害や、落ち着きがなく、ミスの多いAD/HD(注意欠陥/多動性障害)の人たちです。 こういった人たちは、余裕のない周囲を苛立たせ、うっとおしがられたり、いじめられたりして、不安を抱え、悩み苦しんでうつ状態になっていくと考えられます。 またこのような状況下で、もともとうつ病になりやすい性格の人は、強い責任感からがんばりすぎて疲労が蓄積し、うつになりやすく、躁うつ病を発症しやすい人は、元来、型にはめられるのが苦手なので、つねに職場のルールどおり時間内に成果を出さねばならないという状況がひどくプレッシャーとなり、爆発(発病)しやすいのだろうと思います。
希望を見出せない雇用形態
フリーターや契約社員・派遣社員といった、企業にとっての調整弁ともいえる非正規労働者のリストラが、近年急速に広がりました。
また新卒採用の激減による異常なまでの就職難、中高年の転職の可能性が限りなくO%に近いという現実、どれもが労働意欲をそぐものばかりです。 正社員でも、30~40代の管理職昇進・昇給の希望もなく、過剰労働やパワーハラスメントなどによる絶望的な職場環境、さらにはリストラや早期退職勧告。
もう日本の職場環境は、一部の専門職を除き、労働者の希望やモチベーションを失わせ、精神を圧迫し、疲弊させる以外のなにものでもなくなってきているようです。

躁うつ病はうつ病よりも若年発症することが多い

うつ病は脳・神経系の疲労によって起こるという指摘があります。 脳・神経に疲れやダメージが蓄積し、やがてうつ状態になるのです。 そういうふうに考えると、更年期の頃にうつ状態になる人が多いのも納得できます。 若い頃に無理をしてがんばって、社会を支えてきて、その疲労が蓄積したまま中高年になり、気分がだんだん落ち込んで、空しさを感じるようになるのです。
臨床研究では「躁うつ病(双極Ⅰ型)の発症のピークは20代くらいなのに対し、単極性のうつ病の場合はもっと遅い40代以降である」という報告があります。 躁うつ病がうつ病より発症年齢が早いのは間違いありません。こうしたことをもとに、現代社会を背景に若年層に増えているうつ状態は、かなりの割合で躁うつ病のうつ状態であることが疑われます。
新型うつ病や非定形うつ病と呼ばれる新しいタイプのうつ病には、やがて躁のエピソードがあらわれる「かくれ躁うつ病」のケースが多々あるのではないかと思われます。

躁うつ病とうつ病、生きにくい社会での発病の違い

うつ病と躁うつ病の病前性格の違いというものがあります。 病前気質とは病気になりやすい性格のことです。そのような性格だと、どうして病気になりやすいのか、どうして社会に適応しにくいのか、私なりに考えてみました。
発達障害の人が現代社会からはじき出されやすいのと同様に、躁うつ病の病前性格である気分屋の人も、型にはめられやすい社会には適応しにくいようです。
ちょっと唐突かもしれませんが「現代社会ではピカソは生まれない」ということです