コミュニケーション障害column

Update:2023.10.15

コミュニケーション障害とは

コミュニケーション障害は、言語や対人スキルに問題があり、適切なコミュニケーションが難しい状態を指します。自閉症スペクトラム障害(ASD)、言語障害、発語障害などが該当します。社会的な相互作用や意思疎通に影響を及ぼし、学業や職場での適応が困難となることがあります。

コミュニケーション障害

目次

1.コミュニケーション障害とは

「コミュニケーション障害」とは、コミュニケーションが苦手であるということを示した用語として使われる場合と、医学的な診断基準がある疾患として分類されている場合の2つがあります。しかし、これらは同じ「コミュニケーション障害」と言われるものではありますが、異なる意味として捉えられています。

インターネット上でよく言われる「コミュ障」とは

コミュニケーション障害として、若い世代やインターネットを利用する者たちの中で、SNS(ソーシャルネットワーク)では「コミュ障」と略されて呼ばれています。この場合のコミュニケーション障害は、次のような特徴があります。

  • 重度の人見知りで人とまともに話せない
  • 緊張して異性と話せない
  • 目を見て話せない
  • 言葉がどもってしまう
  • 空気を読むことが苦手
  • 一方的に話し、場に沿わない発言をする
  • 少しでもネガティブなことを言われると怒り出す
  • 会話が続かない、会話のキャッチボールができない
  • 人との距離感をうまくはかれない
  • 自信を持って話すことができない

このような特徴から、「人見知り」や「怒りっぽい」などと同じ線上で「コミュ障」という言葉は使われることが多いです。

そのような「コミュ障」と言われる人の中には、人見知りなだけ、ちょっと自分に自信がないだけ、あがり症なだけといった日常生活において、特に問題ないレベルの人は多くいることでしょう。

しかし、この「コミュ障」の傾向がある人の中には、コミュニケーションが苦手なために対人関係が築けない、社会生活に支障を来しているといった人もいます。その背景には、発達障害や不安障害などの医学的な診断ができる精神疾患が隠れている場合も少なくありません。

さらには、コミュニケーションが苦手ということから自己肯定感が低下し、精神疾患を発症させてしまうというケースもあります。不登校や引きこもり、職場でうまく働けず休職・退職といった問題に発展する場合も十分考えられます。

医学的に診断される「コミュニケーション障害」とは

一方で、医学的に診断されている「コミュニケーション障害」があります。アメリカ精神医学会による診断基準のDSM-5では、このコミュニケーション障害を、言葉を扱うことに対して障害が発生する複数の疾患をまとめた「コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群」に分類されています。

このコミュニケーション障害には、主に次のような症状がみられます。

  • 言葉を相手に伝わるように発声することが困難
  • 流暢にスラスラと話すことが困難
  • 他の人と円滑な会話をすることが難しい
  • 相手の話をうまく汲み取り、言葉を返すことが難しい
  • 正しい言葉の使い方が困難

人はそもそも言葉や表情、言動から、相手の感情を読み取り、それに応えることでコミュニケーションを図っています。そのため、コミュニケーションに何かしらの障害が生じることで、対人関係に問題が起きるとされています。

しかし、コミュニケーション障害と一括りにしても、発症する症状には個人差があります。また、背景にある原因・要因によっても変わります。

とは言え、コミュニケーション障害は主に幼児期~小児期、青年期といった比較的若い年代で発症することが一般的で、成人になってからいきなり発症するというものではないでしょう。

つまり、インターネット上で言われている「コミュ障」と、医学的に診断される「コミュニケーション障害」は異なる意味を持つものなのです。

2.コミュニケーション障害の種類・特徴とは

医学的な診断基準がある「コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群」には、主に5つの疾患に分類されています。ここでは、それぞれの疾患について詳しくまとめています。

言語症/言語障害

言語症とは、言葉の使用や書くために習得することに困難がある状態を特徴としています。使える語彙や構文の種類が少なく限られていたり、正しい文章を作る力が乏しいために文章をつなげることが難しかったりといった症状があります。また、相手に自分の思ったことを正しく伝えることも難しい状態になります。

症状の始まりは幼児期だと言われていますが、言語症を発症しているのか、言葉習得の発達が正常範囲内で遅れているのかといった判別をする必要があります。

聴力やその他の感覚器、運動機能の問題、脳などの部位に原因となる疾患がないことが条件で診断されます。

このような言語能力全般の乏しさから、その人の成長に応じて、社会参加、学業成績、職業的能力などに制限がかかる恐れがあります。

語音症/語音障害

語音症とは、身体的や神経学的な障害がないのにもかかわらず、言葉をうまく明瞭に発声することが難しい状態のことです。語音症の人が会話をすると、周りの人が完全に理解することができずに正確な意思疎通が行われないことがあります。

また、会話による意思疎通が制限されるために、社会参加や学業成績、職業的能力の中で1つ以上の困難が発生しているとされています。

人は言葉を発するとき、言葉の意味や発声、呼吸の仕方、脳からの指令、顎や舌の動き、口の開き方などによって、言葉が発せられるものです。しかし、語音症はこれらがバランス良く発達していないことにより引き起こされる障害なのです。

症状の始まりは幼少期だと言われており、脳性まひや口唇口蓋裂、難聴、頭部外傷などの身体疾患や症状がないことが条件で診断されます。

語音症は、治療により会話の困難が改善することが多い傾向にある障害です。しかし、語音症と言語症が併発しているケースもあり、必ずしも治療の効果が期待できるとは限らないでしょう。

小児期発症流暢症/小児期発症流暢障害/吃音(きつおん)

小児期発症流暢症とは、吃音とも呼ばれる「どもり」が認められることが多い障害です。音声や音節が頻繁に繰り返されたり、延長されたり、途切れたりするためにスムーズな会話が難しい状態になります。会話の途中でいきなり離せなくなったり、言いにくい言葉を避けるために遠回りの言い方を用いたりすることもあります。

また、この障害は面接やプレゼンテーションなどの人前に立つとき、学校では授業中に指摘されて一人で発表するときなど、ストレスや不安が強くなる場面において発症しやすい傾向にあります。一方で、ストレスや不安を感じないリラックスできる環境であれば症状が現れないことが多いとされています。

症状の始まりは幼少期であり、小児期発症流暢症を抱えている子どもの約90%が6歳までに発症していると言われています。子どもながらに急に話すことが苦手になったり、周りの人から指摘されたりすることで、人前で話す機会を避けてコミュニケーションを図ろうとします。

この小児期発症流暢症は、ほとんどの子どもたちが回復できるという研究結果があり、決して症状の治療や改善が難しい疾患ではないのです。

社会的(語用論的)コミュニケーション症/社会的(語用論的)コミュニケーション障害

社会的(語用論的)コミュニケーション症は、社会生活においてのコミュニケーションに困難さを感じている状態です。特に、言葉だけではなく表情や姿勢、声色などの「非言語的コミュニケーション」に応じた言葉の使い分けが難しいために、社会生活で支障が出ているものです。

主に、次のような症状が認められます。

  • 周りの人との挨拶、情報の共有など社会生活を送る上で必要なコミュニケーションをとることが難しい
  • 状況や相手に合わせたコミュニケーションをとることが難しい
  • 会話の社会的な共通ルールに従うことが難しい
  • ユーモアや例え話、慣用句の理解、曖昧な言葉などの理解が難しい

このような社会的コミュニケーションに障害がある人には、過去に言語の発達に遅れがあったり言語症を持っていたりする場合があります。また、症状の始まりは幼少期だと言われていますが、能力の限界を超えた社会的なコミュニケーションが要求される年齢になるまで、本人も周りの人も障害に気付かないといったケースも多々あります。

特定不能のコミュニケーション症/特定不能のコミュニケーション障害

特定不能のコミュニケーション症とは、上に挙げたコミュニケーション症の症状があるが、どの疾患の診断基準にも当てはまらない場合に該当します。

3.コミュニケーションに困難が起きる別の疾患

コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群とは異なりますが、症状の一つとしてコミュニケーションに困難が生じる疾患が多々あります。主には発達障害が挙げられ、その他にも様々な疾患によりコミュニケーションの問題が浮き彫りになります。

発達障害

発達障害には、自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)の3つの疾患があります。それらの疾患は、コミュニケーションに困難を生じる症状がそれぞれ認められます。

 

コミュニケーションの困難さ

自閉スペクトラム症(ASD)

相手の気持ちや意図を想像することが難しい自分の感情や考えを表現することが苦手他人との意思疎通がスムーズに行われにくい

注意欠陥多動性障害(ADHD)

細かいことが気になり集中できない衝動性があり落ち着いていられない特性により他人とのコミュニケーションを難しくしている

学習障害(LD)

読む、書く、聞く、話す、推論するといった能力のうち、特定のものの習得や使用が難しい特性によりスムーズなコミュニケーションを妨げることとなる

その他の疾患

このような発達障害によるコミュニケーションの問題の他にも、別の精神疾患や他の疾患においてもコミュニケーションの問題が認められる場合も多くあります。

  • 選択性緘黙(場面緘黙症)
  • 社交不安症
  • 知的障害
  • てんかん
  • 脳性まひによる構音障害
  • 口唇口蓋裂
  • トゥレット症
  • 医薬品の副作用による吃音

発達障害によるコミュニケーションの問題でもその他によるものであっても、その人の成長過程において、社会生活や学業成績、職業的能力などに影響を与えることになります。

ただし、これらの疾患の場合は、治療により改善できるものが多くあるため、コミュニケーションの困難さを軽減できることも少なくありません。

4.コミュニケーション障害が起きる原因とは

コミュニケーション障害の原因は、はっきりと明確になってはいません。しかし、5つの分類の中でも言語症や小児期発症流暢症では遺伝的要因が指摘されています。また、社会的(語用論的)コミュニケーション症では、家族の中にASD等の発達障害やコミュニケーション障害を持つ人がいる場合に多く認められるとされています。

つまり、「コミュニケーション障害」と一括りにしても、その人がコミュニケーション障害の症状を発症した原因というのは人によって異なり、様々であると言えます。

5.コミュニケーション障害の治療方法とは

コミュニケーション障害の5つの分類において、全てを治療する方法というものはありません。ただし、コミュニケーション障害の中でも、言語症や語音症に対しては言語聴覚士などによる言語指導を行うことで、症状の改善が認められるでしょう。

小児期発症流暢症では、その人にとって吃音の症状が出やすい環境を特定し、ストレスや不安がかからないような環境調整や、リラックス法などを通して症状のコントロール方法を学ぶといった治療方法が選択されています。

6.コミュニケーション障害をもつ本人ができる工夫

コミュニケーション障害の5つの分類は、ほとんどが幼少期に発症すると言われています。しかし、社会的にそのコミュニケーション能力が必要とされる環境になった時に障害であることに気付くといったケースもあるでしょう。

そのような社会的にコミュニケーションが必要となる場とは、学校や職場といった社会の場です。常に他人とのコミュニケーションで成り立つ場面でもあり、その分悩みに直面する機会が多くなるでしょう。

まずは、医学的な診断基準で分類されるコミュニケーション障害の場合は、専門機関に相談することで解決のきっかけが得られる場合があります。その他にも、コミュニケーション障害をもつ本人ができる社会生活における工夫があります。詳しく紹介していきましょう。

①マナーを機械的に覚える

会話を自分から始めることが苦手な場合は、マナーを意識しすぎると余計に緊張してしまうという方が多いです。マナーとは、あいさつや相槌などのことです。

マナーに対して苦手意識や、考え過ぎることでタイミングが分からなくなるといった状況が起きるのであれば、機械的に体に覚えさせることで会話に集中できることもあります。

できるだけコミュニケーションというものの、ハードルを下げるように意識してみると良いでしょう。

②聞き役に徹する

自分から発信したり話題を考えたりすることが苦手な場合は、聞き役に徹してみましょう。聞き上手であることも、コミュニケーションにとって重要なことです。

無理して自分から話そうとしなくてもいいとリラックスさせて、聞き役にまわり相槌をうったり共感したりと意識すると良いでしょう。

③話し方や姿勢、声のトーンなどを気を付ける

コミュニケーションとは、言葉だけはなく話方や姿勢、声のトーンによっても相手に印象を与えることができます。話す内容が思いつかない、自分から発信するのが苦手な場合は、話し方や姿勢などに気を付けるだけで、会話のしやすさにも変化が出るとされています。

自分のコミュニケーショに自信がもてないと、つい伏せ目になったり視線を逸らしたり、猫背で縮こまった姿勢になるといった傾向があります。

そこで、良い姿勢を保ち明るい振る舞いで、声のトーンをあげて会話をしようと意識することで、相手に好印象を与えます。その結果、相手とのコミュニケーションがうまくいくことになるでしょう。

④無理をしない

コミュニケーションがうまくいかないことで、焦り躍起になってしまうと、どうしても気を遣い過ぎてしまいます。その結果、余計に疲れてしまい、面倒なコミュニケーションをとることが嫌になるといった状況になる場合もあります。

無理に完璧なコミュニケーションをとろうとせず、自然な自分の姿で相手とコミュニケーションをとるということが大切になります。

7.コミュニケーション障害のある人への接し方

では逆に、コミュニケーション障害のある人が同じ学校や職場にいた場合、どのように接したらよいのか具体的な例を挙げて説明していきます。

①コミュニケーション障害について理解する

まず、周りの人はコミュニケーション障害というものの特性や症状、その障害をもつ人の困りごとなどを理解することが大切です。ただの引っ込み思案や人見知りなのか、怒りっぽい性格なだけなのか、それともコミュニケーション障害の症状によるものなのかによって、その後の対応も異なるでしょう。

②障害の特性に合わせた対応を行う

コミュニケーション障害には5つに分類した、それぞれの症状があります。コミュニケーション障害だからといって一括りにせず、その人の障害の特性に合わせた対応を行うことが大切です。

まずは、相手に「苦手だと思うこと」を聞いてみると良いでしょう。その人の特性を理解した上で、その特性をカバーする方向を考えていくと良いでしょう。

③面と向かって否定をしない

コミュニケーション障害の人は、過去も現在においてもコミュニケーションによって傷ついた経験があります。そのため、相手の言動で困った時は、面と向かって注意するのではなく、その理由を分かりやすく伝えることが大切です。

④具体的かつ明瞭に伝える

コミュニケーション障害がある人の中には、相手の気持ちを察したり冗談や例え話を理解できなかったりする人がいます。その場合は、しっかり理解してもらえるように曖昧な言葉を避けて、具体的かつ明瞭に伝えると良いでしょう。

 

このようにコミュニケーション障害に対しては、ご自分の生活上での工夫と周りからのサポートにより、学校生活や社会生活をトラブルなく送られるようになるでしょう。ただし、自分たちだけで何とかしようと思わず、お互いにコミュニケーションで困ってしまった場合は、専門機関を受診することをおすすめします。