ベルソムラ(成分名:スポレキサント)とデエビゴ(成分名:レンボレキサント)についてcolumn

Update:2023.06.30

ベルソムラ(成分名:スポレキサント)とデエビゴ(成分名:レンボレキサント)について

目次

人間にとって必要不可欠な「睡眠」について

 人間が生活する上で欠かせないのが「睡眠」です。睡眠は、脳や身体の疲れを回復させ、記憶の整理にも重要な働きをしていると言われています。睡眠時間の低下がうつ病や生活習慣病といった様々な病気の発症につながる事が最近の研究で明らかになっています。

人間の中には体内時計があり、日々その体内時計に沿って睡眠と覚醒を繰り返し生活しています。その体内時計は、脳内にある多数の神経系と密接に関係しており、眠りに入るときに脳にブレーキをかける抑制系神経と、覚醒するときに脳にアクセルを踏む覚醒系神経の連携により体内時計が作り出されます。しかし、日々のストレスや、パソコンやスマートフォンの長期使用などによって体内時計が崩れ睡眠の質が低下します。このことから多くの現代人が眠りに悩みを抱えることとなり、結果的にさまざまな精神的、身体的な病気の発症につながる要因となっています。

新しいジャンルの睡眠薬:オレキシン受容体拮抗薬とは

 体内時計の形成に密接に関係している抑制系神経と覚醒系神経とは主に以下のような神経系のことを言います。

  • 抑制系神経(眠気を誘う神経):GABA神経系
  • 覚醒系神経(脳を覚醒させる神経):オレキシン神経系

眠りに入る前は抑制系神経であるGABA神経系が脳に働きかけ、脳の働きを弱め眠気を誘います。そして覚醒前はオレキシン神経系が活性化することで覚醒に向かいます。

うつなどの心が原因で不調をきたしている患者さんの場合、この神経のバランスが崩れ中々眠れないなどの症状が出ます。このオレキシン自体は1998年に筑波大学の柳沢氏らによって世界で初めて発見された物質で、まだ発見後歴史が浅い物質です。

不眠に悩まされている患者さんに対する治療法としては、抑制系神経であるGABA神経系に働きかけるお薬を投与するか、覚醒系神経であるオレキシン神経系を抑えるお薬を投与するアプローチがあります。

GABA神経系に働きかけるお薬としては、ベンゾジアゼピン系のお薬があります。ベンゾジアゼピン系のお薬を投与することで脳の働きが弱まり(脳へのブレーキを強める)、眠気を誘います。一方で、オレキシン受容体拮抗薬というオレキシン神経系を抑制するお薬を投与することで、覚醒させようとする働きを抑え(アクセルを抑える)、結果的に眠気を誘うことになります。

ベンゾジアゼピン系のお薬はとても歴史が長く半世紀にわたり使用され続けていますが、副作用に注意が必要なお薬です。特に長期的に使用を継続すると依存が形成されお薬がやめられなくなったりと不眠とは違う悩みに発展することも多いです。しかし、オレキシン受容体についてはベンゾジアゼピン系と比較すると依存症のリスクは極めて低いとされますが、オレキシン受容体拮抗薬を投与するとREM睡眠が増加し夢を多く見るようになる傾向があります。精神的に不調がある患者さんの場合、この夢が悪夢であることも多く、悪夢を見る頻度が高い場合は他の睡眠薬を選択することも可能です。

ベルソムラとデエビゴの違い

ベルソムラ(成分名:スポレキサント)は世界で初めて販売されたオレキシン受容体拮抗薬で日本では2014年に販売が開始されました。そしてデエビゴ(成分名:レンボレキサント)は2020年に販売されたベルソムラよりも新しいお薬です。

効能効果の違いについて

  • ベルソムラ:不眠症
  • デエビゴ:不眠症

ベルソムラ、デエビゴどちらも不眠症に対して効能効果が認められており違いはありません。

また、不眠症といっても入眠障害(寝つきが悪い)や中途覚醒(途中で目覚めてしまう)など症状はさまざまですが、両お薬ともに入眠障害、中途覚醒どちらにも効果が認められています。

服用方法の違いについて

両お薬で販売されている規格は以下の通りです。

  • ベルソムラ:10mg / 15mg / 20mg
  • デエビゴ:2.5mg / 5mg / 10mg

ベルソムラについては、20㎎(高齢者の場合は15mg)を就寝直前に服用します。なお、ベルソムラと相互作用が懸念されるお薬※を併用する場合には、就寝直前に10mgを服用します。

デエビゴについては、5mgを就寝直前に服用します。症状に応じて10mgまで増量することができます。また、こちらも相互作用が懸念されるお薬※を併用する場合は、2.5mgの服用とします。

※:ベルソムラとデエビゴによって併用できるお薬、もしくは併用が禁止されているお薬が異なります。そのため、現在服用中のお薬については医師、薬剤師に相談するようにしてください。

副作用の違いについて

開発期間中に認められた主な副作用は以下となります。

  • ベルソムラ:
    •  傾眠:4.7%
    •  頭痛:3.9%
    •  疲労:2.4%
    •  悪夢:1~5%未満
  • デエビゴ:
    •  傾眠:10.7%
    •  頭痛:4.2%
    •  倦怠感:3.1%
    •    悪夢:1~3%未満

ベルソムラ、デエビゴは全く同じ作用メカニズムで不眠症に対して効果を発揮するため発現する副作用も同様の症状となります。最も多い副作用は傾眠で、起床後もお薬が分解されず体内に残ってしまうことで日中に眠気を感じてしまうことが多いです。デエビゴの方がお薬を分解するのに時間がかかります。そのために傾眠の副作用発現頻度がベルソムラよりも高くなっています。

 また、両お薬に特徴的な副作用としては、既に記載した通りオレキシン受容体拮抗薬はREM睡眠を増加させることにより夢を多く見る傾向があります。そのため患者さんによっては悪夢を見る頻度が高くなってしまうことがあります。発現頻度としてはベルソムラの方が高い傾向にあるようです。

注意点の違いについて

  • ベルソムラ:
    ベルソムラの効果・副作用が強く発現する可能性があるため、イトリコナゾールやクラリスロマイシンなど併用が禁止されているお薬が複数ありますので、現在服用中のお薬がある場合、医師や薬剤師に相談してください。
  • デエビゴ:
    併用が禁止されているお薬は基本的にありませんが、相互作用のため併用する場合はデエビゴの減量が必要となるお薬はあります(イトリコナゾールやクラリスロマイシンなど)。

ベルソムラ、デエビゴともに日中にも眠気が生じてしまう可能性があるため、自動車などの危険を伴う機械の運転はしてはいけません。また、お薬の服用期間中に飲酒をすると効果・副作用が強く出てしまうため飲酒も避けて下さい。

高齢者の患者さんは肝臓の働きが弱まっていることが多く、お薬の分解に時間がかかります。そのため少量から服用するなどが必要です。妊娠中や授乳中の患者さんにおいては、ラットでの実験で胎児への影響が確認されているため必ず事前に服用の必要性を医師に確認するようにしてください。