バルプロ酸(商品名:デパケン・デパケンR)とは
バルプロ酸は、「デパケン」あるいは「デパケンR」という商品名で販売されているお薬で、躁(そう)状態、てんかん、片頭痛に対して使用されます。躁状態、てんかん、片頭痛、これら3つの症状はそれぞれ全く異なりますが、原因は脳の一部もしくは全体が異常興奮を起こす事によります。
躁状態は気分が高揚し、注意があらゆるところに向けられ、誰にでも話しかけたり危険を顧みない行動をとります。躁状態は、躁病や双極性障害(躁うつ病)においてみられる代表的な症状です。
てんかんは脳の興奮部位によって症状が異なりますが、身体が痙攣(けいれん)し、意識障害を起こすこともあります。
片頭痛は主に脳の片側がズキズキと痛み、嘔吐、光や音に対して過敏となる症状が発現します。
バルプロ酸は1882年にアメリカで合成され、当初医薬品を目的に作られたわけではありませんでした。その後半世紀以上たった1963年にバルプロ酸がけいれんを抑制することが分かり、抗てんかん薬としての研究が進められ1967年にフランスで初めて医薬品として販売されました。さらに、てんかんに対する治療効果だけでなく、向精神作用、特に躁病に対する有効性が多く報告され、1995年に双極性障害(躁うつ病)の躁状態治療薬としても承認を取得しました。その後、片頭痛に対する有効性も報告され1996年に片頭痛の発症抑制薬として承認を取得しました。現在でもアメリカをはじめ、欧州などで片頭痛発症抑制の第一選択薬として広く用いられています。
日本においては、1967年に協和キリン株式会社が開発に着手し、各種てんかん(特に全般てんかん)に高い有効性が認められ、デパケン錠、デパケンシロップの販売が開始されました。バルプロ酸は、他の同種類のお薬と比べ体内ですぐに代謝されるため作用時間が短いという欠点があったため、それを補うため徐放性製剤(体内で徐々に有効成分が溶け出すお薬)としてデパケンRが開発されました。その後、海外での報告などにならい、日本においても躁状態、片頭痛に対しても使用されるようになりました。
バルプロ酸の作用について
現時点でバルプロ酸がてんかんや躁状態、片頭痛に対してどのように作用しているかは正確にはわかっていません。脳内には数多くの神経が張り巡らされており、脳の活動にアクセルをかける神経、ブレーキをかける神経など様々な神経があります。バルプロ酸を服用することで、脳内でGABAやドパミンといった成分が増えることが分かっており、これらは脳にブレーキをかける神経に働きかけます。そのため、バルプロ酸が直接脳の働きを抑制させるのではなくGABAなどの神経伝達物質を介して脳の興奮を抑えていると考えられています。
バルプロ酸の服用方法について
バルプロ酸の服用方法については以下の通りです。
躁状態・てんかん治療の場合:通常、1日量として400~1,200mgを1日2~3回(徐放錠の場合は1~2回)に分けて服用します。
片頭痛発作の発症抑制の場合:通常、1日量として400~800mgを1日2~3回(徐放錠の場合は1~2回)に分けて服用します。なお、年齢・症状に応じ適宜増減しますが、1日量として1,000mgを超えて服用はできません。
服用し忘れた場合は、気がついた時に1回分を服用します。ただし、次の服用時間が近い場合は服用せずに飛ばして、次に服用する時間から服用します。絶対に2回分を一度に服用はできません。
バルプロ酸の注意点について
過去に行った調査で認められた主な副作用は以下の通りです。
- 悪心(嘔吐前の胃のむかつき)、嘔吐:2.94%
- 傾眠:2.08%
- 食欲不振:1.34%
- 失調(手足の運動がうまくできない)、ふらつき:1.18%
また、急に使用を中止したり、急激な減薬をした場合に、てんかん発作を繰り返し、なかなか回復しない状態(てんかん重責状態)があらわれることがあります。そのため、バルプロ酸の使用を中止するあるいは減量する場合は、時間をかけて、少しずつ量を減らしていきます。
重篤な肝障害があらわれることがあるので、使用開始から6ヶ月間は定期的に肝機能検査が行われます。その後も、必要に応じて、定期的に肝機能検査が行なわれます。
高アンモニア血症を伴う意識障害があらわれることがあるので、定期的にアンモニア値の測定などの検査も行われます。腎機能検査や血液検査が行われることもあります。
服用できない/注意が必要な患者さん
以下の患者さんはバルプロ酸を服用することができません。
- 重い肝障害を有する患者さん
- 妊婦又は妊娠する可能性のある患者さん
バルプロ酸の服用により催奇形性(胎児の奇形)が報告されているため、妊娠中の方や妊娠を考えられている方には基本的に投与することができません。また、バルプロ酸を服用している間は眠気、めまいなどがあらわれることがあるため、自動車の運転など危険を伴う機械を操作する際には注意する必要があります。もし、これらの症状を自覚した場合には、すみやかに機械の操作を中断してください。また、カルバペネム系と言われる抗生物質を併用するとバルプロ酸の体内の濃度が減少し、症状が誘発される可能性があります。カルバペネム系の抗生物質は基本的に注射剤で病院で医師・看護師から投与されますが、オラペネムという小児用の内服薬があるためバルプロ酸服用中のお子さんをお持ちの方は注意してください。その他にもバルプロ酸と併用すると副作用が発現しやすくなるお薬がいくつかあるため、現在服用中のお薬がある場合は、医師や薬剤師に相談するようにしましょう。