リチウム(商品名:リーマス)とは
炭酸リチウムは躁(そう)病・躁状態治療薬で、精神神経用剤というグループに属し、「リーマス」という商品名で販売されています。躁状態とは、極端に気分が高揚し、開放的になり行動力が高まる状態のことを言います。
炭酸リチウムは、1949年、オーストラリアのジョン・ケード(J.F.J.Cade)によって抗操作用が発見されて以来、各国で臨床研究が行われ、現在では様々な国で躁病・躁状態の治療薬として使用されています。
日本では、1968年には炭酸リチウムが躁うつ病(双極性障害)をはじめ、情動疾患を伴う精神病に対して治療効果があるとわかっており、従来まで使われてきた治療薬にはない抗操作用だったため、製品化の要望が非常に強くありました。大正製薬株式会社はその医療ニーズを重視し、炭酸リチウムの製品化の開発に着手し、1980年に「リーマス」として販売に至りました。
炭酸リチウムは適切な管理下で使用する限り、非常に優れた治療効果が得られつつ、安全なお薬であることがわかっています。効果が得られるまでには1~2週間程かかりますが、有効率は高く、70~80%の患者で抗躁効果が得られると報告されています。非常に優秀なお薬のため、炭酸リチウムはWHOが定めている現代的な医療水準を維持するために必須と考えられる医薬品類である、必須医薬品モデルリストにも収載されています。
リチウムの作用について
躁状態がひどくなると、気分が異常に高揚し、落ち着きが無くなり、夜も眠らずに、支離滅裂な言動を発したり、危険を顧みなくなるような状態になります。
炭酸リチウムは気分安定薬といわれ、詳しい作用機序はまだ完全に解明はされていませんが、複合的に中枢神経に作用し感情の高まりや行動を抑え気分を安定化する作用を現すといわれています。躁病以外の精神症状にも効果があり、抗うつ薬と併用することにより効果を高める作用があり、うつ病や重いうつ症状を伴う月経前不快気分障害(PMDD)などにも使用される場合があります。
リチウムの服用方法について
炭酸リチウムの服用方法については以下の通りです。
通常、成人は炭酸リチウムとして1日に400〜600mgを2〜3回に分けて服用し始め、3日ないし1週間ごとに最大で1日1,200mgまで徐々に増量します。その後、1日200〜800mgを1〜3回に分けて服用しますが、年齢・症状などによって適宜増減します。
服用し忘れた場合は、気がついた時に1回分を服用します。ただし、次の服用時間が近い場合は服用せずに飛ばして、次に服用する時間から服用します。絶対に2回分を一度に服用はできません。
リチウムの注意点について
承認時の臨床試験及び製造販売後の使用成績調査において、総症例4,993例中777例(15.6%)1,202件に副作用が認められました。その主なものは以下の通りです。
- 精神神経系
- 眠気:76%
- めまい:76%
- 言語障害:46%
- 意識障害:32%
- 神経・筋
- 泌尿器
- 消化器
- 口渇(口の渇き):4%
- 嘔気・嘔吐:80%
- 下痢:18%
- 食欲不振:98%
- 胃部不快感:62%
- その他
- - 脱力・倦怠感:02%
- - 肝機能異常:9%
- - 白血球増多:88%
また、頻度は稀ですが、注意するべき重篤な副作用にリチウム中毒があります。手や足のふるえ、運動の障害、手足の運動がうまくできない、発熱、汗をかく、ぼんやりする、意識の混乱などはリチウム中毒の初期症状である可能性があります。これらの症状があらわれたら、直ちに医師または薬剤師に告げる必要があります。
服用できない/注意が必要な患者さん
以下の患者さんは炭酸リチウムを服用することができません。
- てんかんなど脳波に以上のある方
- 心臓、腎臓に重篤な障害のある方
- 衰弱または脱水状態にある方
- 発熱、発汗または下痢を伴う病気に罹っている方
- 塩分摂取を制限されている方
- 妊婦または妊娠している可能性のある方
以下の患者さんは慎重に使う必要があります。使い始める前に医師または薬剤師に告げる必要があります。
- 脳に器質的な障害のある方
- 過去に心臓・腎臓に障害があった方
- 食事および水分摂取量不足の方
- 高齢の方
- 肝臓に障害のある方
- 甲状腺機能に異常のある方
- リチウムに異常な感受性を示す方
炭酸リチウムを服用している間は眠気、めまいなどが現れることがあるため、自動車の運転など危険を伴う機械を操作する際には注意する必要があります。もし、これらの症状を自覚した場合には、すみやかに機械の操作を中断してください。
また、炭酸リチウムが十分な効果を発揮し、リチウム中毒を防ぐために、定期的に血液中の薬の濃度を測定し、服用する量を調整する必要があります。服用初期又は用量を増量したときには維持量が決まるまでは1週間に1回をめどに、維持量で服用中には2~3ヵ月に1回をめどに、血清リチウム濃度の測定をします。なお、食事及び水分摂取量不足、夏場など脱水を起こしやすい状態、ロキソニンなどの非ステロイド性消炎鎮痛剤などの併用は血清リチウム濃度を上昇させる要因となるため、注意が必要です。