カルバマゼピン(商品名:テグレトール)とは
カルバマゼピンは「テグレトール」という商品名で販売されているお薬で、双極性障害(躁(そう)うつ病)における躁状態やてんかん、三叉神経痛などに対して使用されます。これらの症状はそれぞれ全く異なりますが、原因は脳の一部もしくは全体が異常に興奮することによります。脳内の興奮部位によって、てんかん症状(けいれんや意識障害)、極端な気分高揚など(躁状態)、顔面の痛み(三叉神経痛)が生じます。
カルバマゼピンは1957年に現在のノバルティス社によって合成され、その後、1963年にスイス、イギリス両国において抗てんかん薬として販売された歴史の古いお薬です。日本では1966年に抗てんかん薬として販売され、現在でも第一選択薬として広く使用されています。
躁状態改善効果については1970年代に日本で初めて報告され、その後の臨床試験の結果、抗躁作用、統合失調症の興奮状態に対する治療効果が確認されました。特に、躁病、双極性障害(躁うつ病)の躁状態に対しては代表的な治療薬であるリチウム製剤と同程度の有効性があり、効果発現はリチウム製剤より早いという特徴があります。
カルバマゼピンの作用について
脳内には数多くの神経が張り巡らされており、脳の働きにアクセルをかける神経やブレーキをかける神経などがあります。躁状態やてんかん、三叉神経痛といった病気は脳に異常なアクセルがかかり様々な症状が発現します。躁状態は気分が高揚し、しゃべり続けたり危険を顧みない行動をとるといった症状が発現します。これらは、躁状態とうつ状態が交互に現れる双極性障害(躁うつ病)や、躁病の代表的な症状です。また、てんかん症状としてはけいれんなどの運動機能障害や突然気を失うなどの意識障害が生じます。三叉神経痛では、顔や口の中の感覚をつかさどる三叉神経が異常興奮することで発作的に顔面に鋭い痛みが数秒~数十秒生じます。
カルバマゼピンはアクセルをかける神経に直接作用し、アクセルを踏めなくする働きがあります。その結果、異常興奮が抑制され、躁状態やてんかんなどの症状が改善します。
カルバマゼピンの服用方法について
カルバマゼピンの服用方法については以下の通りです。
〇躁状態・興奮状態:
通常、成人は1回100〜200mgを1日2回、または1回200〜400mgを1日1回から始め、症状により通常1日600mgまで徐々に増量します。最高は1日1,200mgまでです。
〇てんかん:
通常、成人は1回カルバマゼピンとして100〜200mgを1日2回、または1回200〜400mgを1日1回から始め、症状により通常1日600mgまで徐々に増量します。最高は1日1,200mgまでです。通常、小児は年齢・症状により1日100〜600mgを何回かに分けて服用します。
〇三叉神経痛:
通常、成人は1日200〜400mgから始め、1日600mgまで何回かに分けて服用します。最高は1日800mgまでです。小児は年齢・症状により適宜減量します。
カルバマゼピンの注意点について
過去に行った調査で認められた主な副作用は以下の通りです。
- 眠気:13.8%
- めまい:9.1%
- ふらつき:8.5%
- けん怠(だるさ)/易疲労感(すぐに疲れる):3.5%
- 運動失調(手足の運動がうまくできない):3.5%
- 脱力感:3.1%
- 発疹:2.9%
- 頭痛/頭重:2.7%
- 口渇:2.1%
また、てんかん患者さんにおいて急に使用を中止したり、急激な減薬をした場合に、てんかん発作を繰り返し、なかなか回復しない状態(てんかん重責状態)が現れることがあります。そのため、カルバマゼピンの使用を中止するあるいは減量する場合は、時間をかけて、少しずつ量を減らしていきます。
服用できない/注意が必要な患者さん
以下の患者さんはカルバマゼピンを服用することができません。
- 過去にカルバマゼピンまたは三環系抗うつ薬を服用してアレルギー症状を起こしたことがある患者さん
- 重い血液障害を有する患者さん
- 重い心筋梗塞を有する患者さん
- 以下のお薬を服用中の患者さん
- ボリコナゾール(ブイフェンド)
- タダラフィル(アドシルカ)
- リルピビリン(エジュラント)
- マシテンタン(オブスミット)
- チカグレロル(ブリリンタ)
- グラゾプレビル(グラジナ)
- エルバスビル(エレルサ)
- ダクラタスビル/アスナプレビル/ベクラブビル(ジメンシー配合錠)
- アスナプレビル(スンベブラ)
- ドルテグラビル/リルピビリン(ジャルカ配合錠)
- ソホスブビル/ベルパタスビル(エブクルーサ配合錠)
- ビクテグラビル/エムトリシタビン/テノホビル アラフェナミド(ビクタルビ配合錠)
- ポルフィリン症の患者さん
上記の併用してはいけないお薬以外にも躁状態治療によく使用されるお薬であるリチウムやバルプロ酸、その他併用に注意が必要なお薬が複数あるため、現在使用中のお薬がある場合は医師・薬剤師に相談してください。また、妊娠中にカルバマゼピンを使用した場合、胎児に奇形などの影響が生じる事が報告されています。そのため妊娠中や妊娠を考えられている患者さんには基本的に使用できません。その他、カルバマゼピンを服用している間は眠気、めまいなどがあらわれることがあるため、自動車の運転など危険を伴う機械を操作する際には注意する必要があります。もし、これらの症状を自覚した場合には、すみやかに機械の操作を中断してください。