症状・障害別の介入方法column

Update:2021.01.27

症状・障害別の介入方法

目次

 認知行動療法の適応においては、それぞれの問題のメカニズムに合わせて介入法を工夫しています。それは、問題が発生し、維持されているメカニズムは、症状や障害の種類によってその構造が異なっているからです。認知行動療法では、このような問題のメカニズムに適合した介入を工夫することで、これまでの心理療法では対応できなかった重篤な不安障害や精神レベルの障害に対しても、有効に介入することができるようになりました。

認知行動療法が介入するターゲットは、主にうつ病や不安障害で、その他の精神疾患にも有効です。治療の基本的な流れは同じですが、病気ごとの認知にあわせて技法を変えることによって、効果が高くなるようにアプローチを変えています。介入技法で分けると、大きく3つに分けられます。1つは「うつ病」、2つ目は「不安障害」、3つ目は「その他」です。うつ病は、認知面は否定的になりがちなので、その修正が中心となります。行動面は、消極的な傾向があるため、「行動活性化」という手法を用います。不安障害は、認知面では身体感覚や自意識などへの誤解に焦点をしぼって対応します。行動面は、エクスポージャーという手法で、不安に慣れる練習をします。その他の精神疾患である「不眠症」「依存症」「統合失調症」などにおいては、個々の状況にあわせて技法を選びます。「パーソナリティ障害」は時間をかけて治療していきます。

認知のゆがみを修正する方法を「介入方法」といいますが、介入方法としての技法はさまざまな種類があります。病気ごとの最適な技法が、研究者によって開発されており、いまなおより効果を高めるための研究が進められています。実際の治療では、これまでに実証された標準的な型が使われ、「この病気にはこの技法」という具合に治療が行われています。治療者はこの型をもとに、患者さんに技法を提案し、患者さんは自分に出来そうなところからチャレンジしていきます。

技法の提案にあたっては、治療者は患者さんと対話を通じて、患者さんの心のすみずみまで把握し、そのうえで患者さんにぴったりの技法が選択されます。したがって、認知の修正に用いる技法の種類や内容の細部は、患者さん一人ひとりの病気や症状にあわせてアレンジされます。そのために、治療に入る前に病名は診断されますが、対応においては病名にとらわれず、抱えている問題全体をみるようにします。そのうえで介入方法を考えていきます。対応においても、合併した病気が複数ある場合は、技法も複数の組み合わせになる場合もあります。実践して効果のある組み合わせを検証していきます。さらにまた、定義されている病気以外に、患者さん固有の問題があれば、それに対応して細部においてアレンジしていきます。

『うつ病』の認知行動療法

うつ病独特の認知を知る

 うつ病の認知行動療法は、アメリカの心理学者アーロン・ベックの認知療法をもとに発展してきました。ベックの研究では、うつ病患者さんの認知の特徴として、三つの否定的な認知の徴候をあげています。一つは「自己に対する否定的観念」、二つ目に「人生や社会に対する否定的解釈」、三つ目に「将来に対する空虚で絶望的な考え」で、いずれも独特の不合理な信念で、何らかの喪失をめぐって生じてくる悲観的な考え方です。うつ病特有の抑うつ気分や落ち込みなどの情緒は、これら三つの否定的な認知の結果生じるものであるとベックは定義したのです。

抑うつ症状が生じる仕組みについて、ベックは図(『認知モデル』)のように考えました。過去の体験がスキーマとなり、やがてそれが自動思考を生み、抑うつの感情や行動となって現れるというものです。自動思考(automatic thought)とは、状況に対してほとんど意識せずに生じる反射的な思考のことです。「自分は心が弱いからこんな病気にかかるのだ」「これは怠け者がかかる病気だ」「こんな自分はいないほうがましだ」といったような自動思考は、場面によって、さまざまな形をとって現れます。言葉の場合もあれば、イメージや記憶の再生として現れる場面もあり、またネガティブな場面ばかりではなく、時にはポジティブな場面で生じるものもあります。

この反射的に生じる自動思考(イメージまたは記憶)は、患者さん自身の自己概念の影響によるところが大きいです。つまり「自分をどう見て、どう捉えるか」によって自己概念が形成され、多種多様なバリエーションを示します。特に記憶と密接な関係をもち、自己概念を形成するようなエピソードは何度も想起され、また自己を語るエピソードとして他者にも語られやすい。これはまた、将来に対する視点や世界に対する視点も、同様に自分をどう捉えるかによって異なりますが、その場合の自己概念も自然に発生したものではなく、患者さんが今までに経験してきた出来事から学び取って身についたものと考えられます。その自己概念が、患者さんにとって信念のレベルであればスキーマであり、状況に応じて想起されるレベルであれば自動思考ということになります。

認知モデル

ベックの考えたうつ病における認知のゆがみの傾向を分類すると、次のような内容の項目になります。

  • ①恣意的推論:証拠が少ないにもかかわらず、あることを信じ込み、独断的に思いつきで物事を推測し判断します。
  • ②二分割思考:常に白黒はっきりさせておかないと、気がすまない考えです。
  • ③選択的抽出:自分が関心のある事柄にのみ目を向けて、抽象的に結論付けます。
  • ④拡大視・縮小視:自分の関心のあることは大きくとらえ、反対に自分の考えや予測に合わない部分は、ことさらに小さく見ます。
  • ⑤過度な一般化:ごくわずかな事実を取り上げて、決めつけます。
  • ⑥情緒的理由づけ:その時点の自分の感情状態から現実を判断します。
  • ⑦自己関連づけ:悪い出来事は、すべて自分のせいにします。


抑うつ気分は、そのほとんどが否定的・悲観的な認知から生じています。ベックの挙げた「自分への否定」「社会や人生への否定」「将来への否定」の三つの否定によって、何も信じられなくなり、気分がふさいで、行動することができなくなるのです。また、完璧主義のために必要以上に頑張って、そして少しでも失敗すると「自分はダメ人間だ」と悲観的になるのです。感情面では、失敗したことに喪失感を抱き、抑うつ気分に支配され、やる気が出なくなったり対人関係がこわくなったりします。また、行動面では活動範囲がせばまり、趣味もおろそかになり、完璧を求めるあまり何事も楽しめず、何もしなくなります。うつに特徴的な認知のゆがみをまとめると、別表のようになります。

表・【うつに特徴的な認知のゆがみ】

1.結論の飛躍 (恣意的推論)理由もなく、悲観的に未来を信じ込んだり、人が悪く思っていると思い込んだりして結論を出す。
2.全か無か思考 (完全主義)物事を、白か黒かのどちらかに極端に分ける考え方。完全に出来なければ満足できず、少しのミスで全否定する。
3.過度の一般化 一つでも良くないことが起きると「何をやっても同じだ」と結論づけたり、また今後も同じことが起きると思ってしまう。
4.心の色眼鏡 (選択的注目)良い面は視野に入らず、悪い面だけを見てしまう。
5.拡大解釈と過小評価 自分の欠点や失敗、関心のあることは拡大してとらえるが、自分の長所や成功などはことさら小さくとらえる。
6.感情的な決めつけ 自分の感情を根拠にして、物事を判断する。
7.自分自身への関連づけ (個人化)良くない出来事があったとき、その理由が様々であるにもかかわらず、全部自分のせいにする。
8.すべき思考 「~しなければならない」と、必要以上に自分にプレッシャーをかける。
9.レッテル貼り ミスしたりうまくできなかったとき、それについて冷静に理由を考えず、「自分はダメな人間だ」などとすぐにレッテルを貼る。
10.マイナス思考 何でもないことや、いい事であっても、悪くすり替えてすべてマイナスに考える。

否定的な自動思考に対処する

 うつ病における認知行動療法の目的は、抑うつ気分を軽減し、コントロールできるようになることです。その手法の第一は、うつ病の要因となっている否定的な認知に対して、反論や問答を行い、認知のゆがみに気づくことです。「本当にダメなのか?」と問い直すことで、他の考え方に目を向けさせます。心に根付いた信念は、疑いをもたないとなかなか変わりません。考え方の幅を「ダメ」から「ダメでもないかもしれない」へと広げることです。自動思考をつくりあげている三つの否定的な考え方に対して、「その根拠は何か」「本当に良くない結果になるのか」「他の考えはないのか」と反論することから始めます。考え方を広げることによって、認知のゆがみに気づくことになります。

この自動思考の反論と合わせて重要なのは、行動活性化です。行動活性化とは、心から楽しみたいことを少しずつ行動にして現すことです。例えば「毎朝犬と散歩する」という習慣や、また毎日日記をつけることによって、徐々に物事が楽しめるようになります。義務感をもたずに取り組むことが大切です。この行動活性化は、治療初期から試行的に導入できる技法で、スケジュール表を用いて行うこともできます。

うつ病患者さんの認知システムは、基本的には閉鎖システムになっているため、外部から新たな視点を与えないと、なかなか違った視点で物事を捉えることは困難です。外部からみてそれが不合理であっても、患者さん自身から見ればもっともらしく感じることが多いのです。この不合理な認知を合理的なものに変えていこうとするのが、認知行動療法という技法です。認知行動療法を受けると、思考や行動のパターンが少しずつ変わってきます。その変化に伴って、心と体が少しずつ元気を取り戻してきます。

対象期や適用できる病態

 うつ病に対する認知行動療法の対象期は幅広く、急性期、寛解期、維持療法中、入院中、外来患者さんなどのいずれの場合でも可能です。また、方法論においても、個人療法、集団療法と幅があり、最近ではコンピューターを使った方法も開発されています。認知行動療法の適用の幅の広さは、認知を中心に病態レベルを把握し、患者さんの認知レベルに合わせて対応が可能である点です。患者さんの状況を把握し、いま患者さんの認知がどのような状態にあるかによって、認知行動療法を適応するかは異なってきます。

認知行動療法が適用できる病態とは、治療者がうつ病患者さんに対して、認知の三徴候について疑問を投げかけたとき、その偏りを患者さんが認識し、もしくは病気のせいでそういう認知をしやすくなっているという認識がもてるような病態のときをいいます。患者さんによっては、認知行動療法を非常に侵襲的に捉えたり、逆に病態を悪化させたりすることがあるので、注意深い選択が必要になってきます。なお、認知行動療法の実施においては、薬物療法や呼吸法、リラクゼーション、自律訓練法などと組合わせて行う場合が多いです。 


うつ病の集団認知行動療法

集団認知行動療法の特徴

構造化され、時間制限的な枠組みをもつ集団療法です。

 ひとつのクール(一般的に12回くらいのセッションで構成されている)の開始から終了まで、また各セッションの開始から終了までが構造化されていて、それぞれ目標や内容、進め方、時間配分などを段階的に設定した時間制限的な枠組みをもつ集団療法です。

集団の作用を活用しながら、認知・行動に関する知識や方法を獲得し、それがまた集団に効果的に働くという相乗効果が期待出来ます。

 個人認知行動療法と同じように、患者さんは認知・行動に関する知識や方法を学びますが、集団の場合はその作用を活用しながら知識や方法を獲得していきます。さらに、集団に対して治療的に働くという相乗効果が期待できます。集団療法の治療的因子としては、①希望をもてること、②普遍性、③情報の伝達、④愛他主義、⑤社会適応技術の発達、⑥模倣行動、⑦カタルシス、⑧初期家族関係の修正的繰り返し、⑨実存因子、⑩グループの凝集性、⑪対人学習などが挙げられますが、なかでも大切な点は、患者さん同士が互いに共通する経験を分かち合い、安心感を得る体験ができることです。


目標は、患者さんそれぞれがセルフコントロール力を高め、自身の社会生活上の問題の改善や課題解決をはかることです。

 集団認知行動療法の最終的な目標は、患者さんそれぞれが、自分自身をコントロールできる力を高め、社会生活における問題や課題を改善し解決していくことにあります。

うつ病患者さんへの効果

集団認知行動療法は、個人を対象にした認知行動療法と同程度、もしくはそれ以上の効果があり、また単独でも、薬物療法との併用でも症状改善に有効です。

 うつ病患者さんへの集団認知行動療法の効果に関する研究は、これまで主に欧米を中心に行われてきました。個人療法の方が、集団療法よりもわずかに優れているという指摘もありましたが、最近の比較対照試験の結果から、集団認知行動療法の方は、個人療法と同程度か、それ以上の効果があると言われています。また、集団認知行動療法を単独でおこなっても、薬物療法と併用しても、症状改善には有効であることが指摘されています。さらに集団認知行動療法は、短期間で多くの患者さんを治療できる点から、経済面でも効率がよいと考えられます。日本は欧米と比べると、集団認知行動療法の実践や研究を行っている施設が少ないのが現状ですが、これまで効果に関する報告はいくつかあります。

他者の認知の評価が、自分自身の認知の評価や修正に役立ちます。また、認知の修正作業が、他の患者さんの認知を共有することで、より容易になります。

 うつ病患者さんへの集団認知行動療法の効果に関する研究は、これまで主に欧米を中心に行われてきました。個人療法の方が、集団療法よりもわずかに優れているという指摘もありましたが、最近の比較対照試験の結果から、集団認知行動療法の方は、個人療法と同程度か、それ以上の効果があると言われています。また、集団認知行動療法を単独でおこなっても、薬物療法と併用しても、症状改善には有効であることが指摘されています。さらに集団認知行動療法は、短期間で多くの患者さんを治療できる点から、経済面でも効率がよいと考えられます。日本は欧米と比べると、集団認知行動療法の実践や研究を行っている施設が少ないのが現状ですが、これまで効果に関する報告はいくつかあります。

参加者の共同関係を築く

参加者の主体性やペースを尊重しながら、それぞれの患者さん自身が抱えている問題の改善や課題解決にむけて、共に取り組む共同関係を築くことが大切です。

 集団認知行動療法では、集団の作用が参加者の認知や行動に関する知識や方法に大きく影響するため、いかにグループ全体が治療的な方向に向かえるかが鍵になります。したがって、患者さんと治療者(スタッフ)の1対1の関係性はもちろん、参加者同士、スタッフ同士の関係性が重要になってきます。関係性で大切なことは、患者さん一人ひとりの主体性やペースを尊重しながら、個々の患者さんが抱える問題の改善や課題の解決に向けて、実証的な視点から一緒に取り組む関係、すなわち共同関係を築くことが重要となります。

そこで、スタッフの役割としては、初めは参加者同士がお互いに知らないことが多いため、参加者の紹介や簡単なレクリエーションなどを通して、相互の不安や緊張感をほぐすことが大切です。また、参加者それぞれに、自分が抱えている問題や症状、現在の不安や緊張などの気分を語ってもらい、それを全体で共有するようにします。参加する患者さんの多くは、集団認知行動療法に参加するまでは、「自分の病気を、周囲に理解してもらえない」「誰にも相談できない」といった孤独感をもっています。最初のセッションで、自分と同じような問題を抱えている他の患者さんと出会うことで、安心感をもてるようになります。そこを表現できるように促すことも大切です。さらに、患者さん同士の会話の橋渡しをして活発に話し合える雰囲気づくりをし、その中で病気や治療などに関する情報交換をしやすくすることも大切です。このことは、特に集団認知行動療法の初期のころに必要なことで、その後のセッションに影響を与えます。

また、スタッフはセッションの進行に伴い、参加者の経験をできるだけ引き出して、それを参加者同士が、他者の経験を参考にするように伝えることも重要です。最初は、「自分の経験なんて、たいしたことはない」「こんなことを話しても役には立たない」と、参加者の多くは思っていますが、自分が話した経験を他者が参考にして行動に移すことで、経験を話した患者さんにとっては「自分の経験が役に立った」と感じ、大きな自信につながることがあります。また、参考にした患者さん側からすれば、同じ病気の人から聞いた経験は、専門家が同じ内容を話す場合よりも、説得力があって受け入れやすく、実際の変化にもつながります。このようなつながりが、共同関係を強めていくのです。

さらにまた、参加者が話すときは、話す時間が均等になるように心掛けることが大切です。ある人は、自分の経験ばかりを何十分も話す人もいれば、ある人は、一言二言しか話さない人もいます。こういう状態がいつも続くと、参加者の間に不公平感が生じ、関係性が崩れることがあります。話す時間や回数などは、できるだけ平等になるように気を配ることも必要です。特に、話が長過ぎたり、話す内容がセッションの目的からそれるような場合は、「ちょっとお話をまとめますね」と言って、途中で声をかけ、話の内容をまとめたり、セッション内容を整理し直すことも必要です。

またグループ内に溶け込めない患者さんがいる場合は、個別に面接して、どのような思いや気持ちで参加しているのか聴くことも大切です。もし、他の参加者との関係で、困っているようなことがある場合は、適切に対処することも必要です。構造化されたセッションであるため、基本的に話す内容はある程度決まっていますが、経験をなかなか話せない患者さんに対しては、積極的に働きかけたり、逆に活発に話し合えている場合は、適宜話をまとめて、聞き役になることも必要です。

《協同関係を築くためのポイント》


○ 集団療法参加への不安や緊張をほぐします。
○ 抱えている問題や課題、考えや気持ちを共有します。
○ 参加者同士の会話を活発にします。
○ 参加者がお互いに情報交換をしやすくします。
○ 参加者それぞれの経験を引き出します。
○ 他者の経験を参考にするよう伝えます。
○ 参加者それぞれが均等に話せるようにします。
○ 集団に溶け込んでいない参加者には、個別に対話をします。
○ 参加者の状況に応じて、スタッフの話す内容や量を調整します。


自問を促すコミュニケーション


□ セッションに入る時、各参加者との間で目標を共有し、終了後は達成状況を確認します。
□ ソクラテス式質問を活用し、各参加者の自問を促します。
□ 参加者間で、認知や行動に関する発言を活発にし、気づきを深められるようにします。
□ 参加者の良い点、できたことに対し肯定的なフィードバックをします。


 まず、セッションに入る前に、スタッフは各参加者の集団療法への参加の動機や期待を確認します。「どうして参加したいと思ったのか」「参加して、どうなりたいのか」などについて十分に話を聞き、目標を共有することが重要です。同時に、スタッフ側からも、集団認知行動療法の目的や実際の進め方などについて説明し、相互に理解し合っておくことです。そうすることが、参加の継続にもなり、認知や行動の変化にもつながります。そして、次の治療につなげるためにも、セッションごとに達成状況を確認し、終了後に面接を行うと良いでしょう。

認知行動療法では、面接や会話の手法として、ソクラテス式質問を活用します。一般的には、オープン・クエスチョン(開かれた質問)といって、自由に回答できる質問方式を行います。「今日の調子はいかがですか?」「昨日は何をしていましたか?」などの質問がこれに当たります。これに対し、ソクラテス式質問というのは、古代ギリシャの哲学者・ソクラテスが、人々と対話する際に用いた質問方法で、内容を特定したクエスチョンを行うことで、ある程度限定された回答が得られるというものです。

このソクラテス式質問を活用すると、参加者の自問を促し、自ら答えを導きだせる質問の仕方ですので、これを適宜用いることによって、参加者自身が新しい認知や行動の仕方を見つけ出せるようになります。ソクラテス式質問の一例としては次のようなものがあります。

  • ◇「最近、落ち込んでしまったとき、どんなことがあったのですか?」
  • ◇「そのとき、どんな気分だったのですか?」
  • ◇「○○という気分のとき、どんな考えが頭に浮かびましたか?」
  • ◇「もし、友人が同じようなことで悩んでいたら、どうアドバイスしますか?」
  • ◇「元気だったころ、同じ状況でどんな見方をしましたか?」
  • ◇「今まで、同じような問題のときどう対処してきましたか?」

認知の変化を促す方法


□ 認知を検討し、バランスのとれた考え方を導き出す方法(認知再構成法)
□ 心理教育
□ 新しい考え方、別の考え方の確信度を高める方法(行動実験表の活用)


 集団認知行動療法の中で用いる認知の変化を促す方法として、認知再構成法があります。これは、認知を検討してバランスのとれた考え方を導きだす方法で、個人療法でも集団療法でもよく用いられます。認知再構成法には、ステップ1から3までの手順があり、それに沿ってワークシートを活用しながら進めていきます。ここで大事な点は、考え方の幅を広げて気分を改善することです。考え方の幅を広げるには、参加者同士がいろいろな考えを出し合った方が効果的です。

【認知再構成法の手順】


ステップ1 : 状況とそのときの気分、自動思考の特定
ステップ2 : 自動思考の検討
ステップ3 : バランスのとれた考え方の案出と、気分の変化


【認知再構成法で用いるワークシート(自動思考記録表)】

① 状況 ② 気分(%) ③ 自動思考 ④ 根拠 ⑤ 反証 ⑥ 適応思考 ⑦ 気分(%)
             
             

 次に大切なことは、認知行動療法の考え方や方法について、またうつ病やその治療などについて、参加者がより理解を深めるための心理教育です。方法としては、構造化されたセッションの内容に沿って、テキスト(他にワークシート、市販の自助本、DVD、コンピュータプログラムなど)を使いながら、認知や行動に関する知識や方法を説明したり、また症状のチェックリストを使いながら自分の状態を把握したりする中で行います。

この時の注意点としては、参加者の状況や理解力に応じた説明に心掛けると同時に、参加者の経験をできるだけ引き出し、経験と認知行動療法の考え方とを結びつけながら説明します。また説明の際は、客観的なデータや根拠をきちんと提示すると、いっそう理解が深まります。さらにワークシートを活用して、自分で書いて確かめるという作業も効果的です。

【心理教育のポイント】


◇ 参加者の理解力や状況に応じた説明をします。
◇ 参加者の経験と結びつけながら説明します。
◇ データなど、根拠を提示しながら説明します。
◇ 実際に自分で書き込むなどの作業を行います。


 認知再構成法によって導きだした、新しい考え方や別の考え方の確信度を高めるために、行動実験表を使って実生活の中で確認するという方法があります。しかし、いざ実験しようとすると、それを妨げるような出来事が生じ、実験できなくなることがあります。従って、実験を始める前に、実験している様子をイメージし、予測される問題が生じる可能性がある場合は、事前に問題が起こったときの対処法を考えておくと、実験が成功しやすくなります。実験の結果、出来たこと、出来なかったことの両方を記入し、吟味するようにします。そして、今回の実験から学んだことを整理し、次の行動につなげます。

【行動実験表】


① 試してみる考え
② 実際に実験すること
③ 予測される問題
④ 問題が起こったときの対処
⑤ 実験結果
⑥ 結果から得られる考えの確信度
⑦ この実験から学んだこと


 集団認知行動療法のプログラムによっては、スキーマの修正までを目指したものもあります。その場合、下向き矢印法を用いることが多くみられます。自動思考の検討を繰り返していくと、その人の自動思考に共通したテーマが見えてきますので、下向き矢印法を用いてスキーマをみつけていきます。共通のテーマ、例えば「能力がない」というテーマがみえてきたら、その自動思考に対して「それは自分にとってどういうことか」「それは他人にとってどういうことか」などの質問を繰り返していく中で明らかにしていきます。

行動の変化を促す方法

□ 問題解決策リストを使って問題を整理し、解決策を導き出す。
□ アクションプランを作成して、実際に行動に移すプランを立てる。
□ 活動記録表を作成して、モニタリングする。
□ コミュニケーションチェック表を作成して、コミュニケーションの状態をチェックする。
□ ロールプレイングを活用して、アサーションを学ぶ。


 問題の解決においては、認知の変化と同時に行動の変化も重要です。集団認知行動療法の参加者の多くは、自分の問題をなんとか解決したいと思いながら、なかなか行動を起こすことができないでいます。行動を阻んでいる背景には、「こんな大変なこと、自分にはとても無理だ」という自動思考があります。そういときの自動思考を跳ね返す方法として、別の考え方を自分に向かって言ってみることで、行動を促すきっかけとなります。

【行動を阻む自動思考を跳ね返す考え】


◇ 気楽にやろう。
◇ まずは方法を知ろう。
◇ ゆっくり、ひとつずつ取り組もう。
◇ 結果にとらわれず、チャレンジの機会ととらえよう。
◇ すぐに解決しなくても焦らない。何が問題なのかはっきりするだけでもよい。

① 問題解決策リスト
問題を整理し、解決策を導きだす方法として、「問題解決策リスト」の作成があります。これは、今自分は何に困っているのか、問題が見えないときに用いると効果的です。このリストの作成においては、ブレインストーミング(枠を定めず、皆で自由に討論し合う中から、独創的なアイディアを導き出す集団思考開発法)が有効です。

【問題解決策リストの活用の仕方】


◇ 不安や抑うつ感に流されて、「今自分が何に困っているのか」という具体的な問題が見えてこない。
◇ 「何もしていない」という感覚が、焦燥感や抑うつ感を強めている。

問題解決策リスト
問題の整理、解決策の案出


② アクションプラン  現実的で具体的な行動計画
行動したいことがあっても、最初の一歩が踏み出せないときとか、いろいろと考えているがうまく行動を起こせないときに、アクションプランの作成を行います。プランのポイントは、プランを立てた後、実際に行動している場面をイメージします。しかし、行動を起こせなくなる心配事が生じたら、それに対処する方策を事前に考えておくと、行動に移せる可能性が高くなります。

【問題解決策リストの活用の仕方】


◇ 「実行した、しなくては…」と思う課題は決まっているが、最初の一歩が踏み出せない。
◇ いろいろ試行錯誤してはいるが、うまく実行できない。
◇ いろいろ試行錯誤してはいるが、うまく実行できない。

アクションプラン
現実的で具体的な行動計画


③ 活動記録表
日々の生活リズムや活動状況を、活動記録表に記入することによって、達成感や快感など、気分と活動の関連を把握でき、行動活性につなげることができます。この活動記録表は、セッションの中で説明し、参加者はそれぞれホームワークとして行うことができます。初めに、モニターする項目を決めておき、1時間ごとに実際に行った活動と、その気分の程度を点数化(0~100)して書き込みます。この際、無理にすべての欄に書き込む必要はなく、出来そうな期間帯から書き込めば良いでしょう。また、活動内容もおおざっぱに、一つか二つ選んで書けば良いでしょう。

【活動記録表の作成例】

時間 ○月○日(月) ○月○日(火) ……… ○月○日(日)
午前6~7時 睡眠 起床(10) ……… 起床(10)
午前7~8時 起床(10) 洗面・朝食(20) ……… 朝食(20)
午後9~10時 入浴(50) 入浴(50) ……… テレビ・入浴
午後10~11時 就寝(20) 就寝(20) ……… 睡眠
※活動内容と、その時の気分(達成感)の程度を点数(0~100)で書き込む。


④ コミュニケーションチェック表
多くの参加者は、人とのコミュニケーションにおいて問題や課題を抱えていることがほとんどです。行動の一側面として、コミュニケーションが適切にとれるようになることが重要です。そのためには、コミュニケーションの状態をチェック表などを活用して調べ、その後にアサーションの方法を学べるようにすると効果的です。アサーションの方法を学ぶには、セッションの中でロールプレイングを行うとよいでしょう。