認知行動療法のセラピー形式column

Update:2021.01.27

認知行動療法のセラピー形式

目次

 認知行動療法は、患者さんの症状の程度やまた希望に応じて、さまざまな形式で実施されています。治療者と患者さんが1対1で行う「個人認知行動療法」から、患者さんが1人で本を読んで行う「セルフ・ヘルプ式」まで、幅広い形式が用意されていますので、自分に当てはまる方法を選択できます。形式は、大きく5つに分かれ、患者さんの状態に合わせて、セラピーの強度が調整できます。弱いセラピーから強い順に並べると、①「セルフ・ヘルプ認知行動療法」、②「アシストつきセルフ・ヘルプ認知行動療法」、③「認知行動療法アプローチ」、④「集団認知行動療法」、⑤「個人認知行動療法」です。

セルフ・ヘルプ式

セルフ・ヘルプ式(自分で自分を助ける)は最も簡易な形式で、患者さん本人が一人で行うセラピーです。うつや不安の症状が軽く、まだ本格的な治療を必要としない患者さん向けの方式で、記入式の本を用いたり、パソコンのホームページを利用したりして、認知行動療法の一部を自習形式で体験できます。あくまでも、入門的な取り組みになるため、より詳しく実践したい時は、医療機関に相談してみる必要があります。

本を用いる場合は、認知行動療法の解説書を読み、記入式のワークブックを使って、認知や行動を書き入れていく方法が取り組みやすいです。また、解説にしたがって、自分の気持や考え、また行動を紙に書いて整理するだけでも、新たな視点を発見できる場合があります。パソコンを使う場合は、認知行動療法のホームページを利用します。ただ日本の場合は、パソコンの活用はまだ始まったばかりで、現在は情報提供が中心です。ほかに、コンピュータプログラムを用いた治療も一部で行われています。イギリスでは、認知行動療法関連のプログラムが100種ほど開発されていて、その一部がすでに医療現場で実用化されています。医療保険が適用となったソフトもあります。

アシスト形式

アシスト形式は、一人で行うセルフ・ヘルプ式と、本格的な治療の中間に位置します。うつや不安の症状が軽い場合は、セルフ・ヘルプ式に取り組みますが、その際、医師やセラピストなどから適宜に助言を受け、手伝ってもらうのがアシスト形式です。専門的な認知行動療法のダイジェスト版のような治療をうけられるメリットがあります。基本的には、患者さんが一人で本やパソコンなどを活用して取り組みますが、一人ではうまくいかないような時に、助言や説明を受けることができます。より的確に作業ができることと、一人ではあきらめそうな時に、助言者のサポートが支えとなります。また理解が深まって、治療意欲が高まるなどの効果もあります。このアシスト形式は、本格的な治療とは異なるため、認知行動療法本来の治療効果そのものを望むことはできませんが、その分、専門的なセラピストでなくても、患者さんをサポートすることはできます。患者さんにとっても、医療機関にとっても、取り組みやすい長所があるのです。

CBTアプローチ

CBT(認知行動療法)アプローチは、本やパソコンだけでは治療の概要がつかめない場合に、医師やセラピストなど専門家からもっと詳しく話を聞く形式のことです。医師やセラピストが、一般向けにセミナーや講演会などを行って講義することがありますので、その機会を利用して話を聞くことができます。また、医療機関を受診し、病気や治療法について説明してもらうと、心理的になっとくできることがあります。このように、CBTアプローチは、本来の双方向性の共同作業である認知行動療法をダイジェストにして、それを一方向で伝える形式で、精神療法というより教育に近いものです。したがって、認知行動療法の治療効果そのものを完全に望めるものではありません。

集団認知行動療法

本格的な認知行動療法には、集団向けと個人向けの2種類があります。1対1で取り組む個人認知行動療法に対して、集団認知行動療法は数人(3~10人程度)の患者さんが、医師やセラピスト(ほかスタッフ2~3名)のもとに集って、実践するものです。定期的に集まってセッションを行い、数カ月間かけて状態の改善をめざします。集団認知行動療法では、状態の近い患者さん同士が集うのが基本です。同じ境遇で頑張っている仲間が集うために、集団行動に強い抵抗がない人には、よい選択肢になります。集団認知行動療法というのは、グループで一緒に取りくむ治療ですので、いくつかの決め事があります。

① お互いに認め合う
患者さんたちは、お互いに発言したことに対して否定しないようにします。むしろ、相手の発言に対して、拍手をしたり賞賛の言葉をかけたりするようにします。

② 目標を立てる
グループでの目標を立てたり、個人としての目標も立てたりします。治療者と相談して、適度な目標を設定します。

③ 他の人の様子をみる
同じグループの患者さんの考え方や症状などをみて、共感したり、客観的な視点に気づいたりします。

④ 人前で発表する
一人ひとりが、治療に取り組んだ結果を、メンバーの前で報告します。全員が均等に発言するようにします。

⑤ ルールをつくる
グループへの途中参加はできません。患者さんの個人情報は保護するなどのルールを作り、治療の枠組みについては全員で守るようにします。

 この集団認知行動療法の場合、患者さんにとっても治療者にとっても、いくつかのメリットがあります。

  • ① 悩みや問題に対して、一緒に取り組む仲間がいるため、患者さんにとっては精神的な支えとなります。
  • ② グループへの一体感や帰属意識などがめばえ、治療意欲が高まります。仲間に刺激されて、ほかの患者さんが症状を克服する過程を見ているうちに、自分にもできると思えてくるようになります。客観的な視点が養われるなど、さまざまな効果が期待できます。
  • ③ 熟練した治療者一人が、数人の患者さんを担当できるため、費用の面で出費を抑えることができます。

個人認知行動療法

 個人認知行動療法は、認知行動療法本来の形式で、治療効果がもっとも高い治療法です。原則として、一人の治療者が一人の患者さんの治療を最後まで担当します。つまり患者さん個人が、熟練したセラピストによって、正式な認知行動療法が受けられるのです。治療者は、患者さんとの対話を通し、認知や感情、行動について丁寧に引き出し、悪循環をみつけて、患者さんと一緒に問題解決の糸口を探っていきます。セッションは、1週間に1回程度行われ、全部で12回ぐらい行い、患者さんによっても異なりますが、3カ月から半年ほどかけて取り組みます。治療者と患者さんは、対話を中心にリラックスした中で語り合いますが、場合によっては診察室の外で行うこともあります。

認知行動療法に関する多くの実証結果は、この個人認知行動療法によってだされたもので、その効果は高く評価されています。ほかの形式よりも、手間や時間、費用の面でも多少多くかかりますが、その分効果も高いのです。日本では、まだ専門家が少なく、普及してはいませんが、認知行動療法の医療保険の適用が実現したため、今後は各地に広がるものと見られます。個人認知行動療法のメリットとしては、次のような点があげられます。

  • ① 治療が、認知行動療法の本来の形にのって行われるため、効果が非常に高いことがわかっています。
  • ② 定められた治療内容があるため、計画的に進めることができます。したがって、治療経過が安定します。
  • ③ 治療には、専門家が携わります。知識が豊富なので、さまざまな質問に答えてくれます。