ADHDとASDの合併column

Update:2023.10.15

ADHDとASDの合併とは

ADHD(注意欠陥多動性障害)とASD(自閉症スペクトラム障害)併発した場合、個人の症状は多様であり、それぞれの症状が相互に影響し合うことがある。両方の障害の症状を示すことを「共病性」とも呼ぶ。ADHDとASDそれぞれの特徴的な症状である注意力不足などがみられる。この症状については診断が難しく、精神医師などによる詳細な評価が必要となる。

ADHDとASDの合併

目次

ADHDとASDとは

ADHD(注意欠陥多動性障害)

ADHDは、注意欠陥多動性障害といわれる発達障害です。注意関心が散漫だったり、身体の多動が見られたりという症状です。

具体的には、「不注意型」と「多動・衝動型」の2つに分けられます。

 

特徴

不注意型

  • 物をなくしやすい
  • ミスが多くなる
  • 気が散りやすい
  • 一点集中し、切り替えが難しい
  • 段取りよくできない、メールの文章が長い

多動・衝動型

  • 思いつくとすぐに行動する
  • 順番を待てない
  • 人の発言に割り込む
  • 一方的にしゃべる

このような行動がみられることで、職場や学校、家庭などにおいて、様々な支障をきたしている状態になります。しかし大人になると、ほとんどの方は多動性がおさまり注意欠陥の部分だけが残ることが多いでしょう。

その結果、注意力が散漫することで仕事のミスが多くなったり、約束や時間を守れなくなったりと社会生活に大きな支障をきたしてしまいます。

ASD(自閉スペクトラム症)

ASDは、自閉スペクトラム症といわれる発達障害です。およそ100人に1~2人の割合で発症します。また、家庭内で複数のASDの方がいる遺伝性もあります。

人の気持ちを理解することが苦手だったり、冗談や例え話が理解できなかったりといったコミュニケーション障害が認められます。他には、興味が限定的になり特定の物事に強いこだわりが持っていることが特徴的です。

この他に、聴覚や視覚、触覚などの感覚が過敏になっている場合もあります。ASDの症状について、さらにまとめると次のとおりです。

 

特徴

社会性の難しさ

  • 相手の気持ちをすぐに読めない
  • 新しい環境が苦手
  • 自分視点だけの思い込みが多い
  • 空気が読めない

表現・表出の難しさ

  • すぐに言葉が出てこない
  • 書き言葉、喋り言葉などの表現力が乏しい
  • 言葉の定義が狭く、周囲とのやりとりがずれやすい
  • コミュニケーションが苦手

こだわりの強さ

  • 好き嫌いが極端
  • 自分のルールを曲げられない
  • ルーティン通りにならないと不安になる

その後、思春期や青年期になってから他の人との違いに気づき、対人関係がうまくいかないことで、うつ病や不安障害など他の精神疾患を合併する可能性もあります。

ADHDとASDの判別は難しい

ADHDやASDを含めた発達障害は、単独での発症だけではなく様々な合併症状があることが多いです。ADHDとASDに関しても、両方の診断を持っているという方も少なくありません。また、それぞれの症状が重なるところもあります。

実際に両方の障害に似た症状があり、どちらかのみの診断は難しい場合もあります。

そもそも発達障害は、特性や困りごとは一人ひとり違うためADHDとASDの障害が合併していることや、障害の症状や原因によって適切な対応が異なります。そのため、簡単にそれぞれの疾患だと判断せずに、慎重に判別することになります。

また、2013年にアメリカの精神医学会では診断基準が変更となり、DSM-5においてASDはADHDとの併存診断を認めるように変化しました。

大切なことは、ASDであるかADHDであるかということをハッキリと区別させることではありません。診断とは関係なく、病態生理に応じて治療をすすめていくことが、本人や周りの方の困りごとの改善ができる方法と言えます。そして、一人ひとりの症状や状況に合った対処法が実行されることが重要です。

ADHD・ASDどちらであっても、その人のニーズや障害の特性を理解し、それに応じた対処を行うことが大切だと言えるでしょう。

ADHDとASDは合併することがある

ADHDとASDは、別の疾患として区別することは難しく、症状も似ている部分が多いです。そのため、ADHDだとしてもASDの傾向も強く、合併しているケースが多く認められます。また、その逆の場合もあります。

また、知的障害を伴わないASDの約30%にADHDが併存しており、ASD傾向が強いほど併存率が高まるという研究結果も出ていると言われています。

つまり、その人の症状を見たときに、強い傾向がある方だけに着目してしまい、ADHDとASDをそれぞれ単独の疾患として判断することは適切な診断とはいえないでしょう。ADHDだと診断できるならばASDの可能性を疑い、その逆もASDだと診断できるようならばADHDの可能性を疑った方が良いということです。

さらには、遺伝子上の研究においても、ADHDとASDにはそれぞれ共通した異常が認められると言われており、脳の画像研究においては脳のネットワークに関しての異常が類似していると知られています。臨床的にも、ASDと診断された人の約30~50%がADHDの症状をもち、逆もまた同じ程度であると考えられており、二つの疾患は切り離して考えることはできないのです。

ADHDとASDの合併によって起こること

ADHDとASDが合併することで、本人の社会適応度は急激に低下してしまうと考えられます。

たとえば、ADHDのみを有している人はADHDの症状に悩み、ASDのみを有している人はASDの症状に悩むということは当然でしょう。そこで、ADHDとASDが共存することで、本来は1+1=2といった症状の出方であるはずが、3以上になってしまうと言われています。

つまり、ADHDとASDの症状がそれぞれ単独で出ている人よりも、合併した人の方が社会生活に適応することが難しく、より辛い思いをして生活していることになります。

具体的には、ASDの特性として「相手の気持ちがわかりにくい、汲み取れない」という人が、ADHDの特性である「衝動的に行動する」ことが合併された場合、本人を囲む周りの状況が悪化してしまうでしょう。また、こだわりが強く一点集中の人が思い込みが激しすぎると、社会生活において職場でのコミュニケーションが困難になったり仕事のミスを受け入れられなかったりといった状況になり得るでしょう。

このように、単独だけでも症状が強いと社会生活に支障をきたすのにもかかわらず、合併することによってさらに状況を悪化させてしまうほどの症状になるということです。

ADHDとASDを併せ持った人が、社会生活において働くことや周りの人との対人関係をトラブルなく対応できるかどうかは、適切な治療と周りのサポートが重要になるでしょう。

ADHDとASDが合併している方への支援

ADHDとASDが合併している方への支援として、病態生理の観点異常に大切なことは、ストレスなく過ごせるように「適切な環境」を提供することでしょう。

ADHDやASDは異なる疾患だとしても似ている症状が多く、大人の場合はなかなか判別もつきにくいものです。そのため、診断よりも今本人が困っていることに焦点を当てることが大切です。はっきりとした診断がつかずとも、困っていることを解決できるように、発達障害の特性を理解し、どう付き合っていくことがお互いのためなのか一緒に考えていきましょう。

また、効果的に治療や支援を行うためには、本人のことを発達障害である現状も含めて理解し、受け入れてくれるという「存在」がいることが重要です。そして周りの支えてくれる人達が、しっかり連携をはかることが必要でしょう。周りの理解やサポート体制が整うことで、これまでの症状が落ち着き、何事もなかったように普通に社会生活を送ることも可能になります。

つまりは、ADHDやASDであっても合併してても、本人がストレスを感じないような適切な環境を提供することが、これらの症状で悩む方にとって最も重要だと言えるでしょう。