ADHDの診断・原因column

Update:2023.10.15

ADHDの診断・原因とは

ADHDの診断は、注意力不足、過活動性、衝動性の症状を評価し、継続性と機能への影響を考慮しDSM-5基準で判断します。遺伝的、神経伝達物質の不均衡、脳の発達異常が主な原因とされています。ADHDの原因は遺伝的制約や脳の発達異常、脳化学物質の不均衡などが関与しています。

ADHDの診断・原因

目次

診察や検査などで、子どもが「こわい思い」をすることはない?

小さな子どもを大きな病院に連れていくのはなんとなくかわいそう……。
しかし、診察や検査で子どもがこわい思いをすることはありません。

病院で行われるADHDの診察は、基本的に普段の行動を医師が聞き取っていくことが中心になります。 子どもがこわい思いをするような検査はしません。 ADHDは、基本的に「DSM-Ⅳ」という基準によって診断されます。 病院では、まず、ADHDの症状がどの程度かを、アンケート形式のチェックリストに記入します。 診断には家庭での様子だけでなく、集団生活での様子も欠かせないため、チェックリストは担任の先生などにも記入してもらう必要があります。 さらに医師が診察を行い、必要であれば心理テストや知能検査を行います。

親が「かわいそうに」という不安定な気持ちでいると、その気持ちが子どもにも伝わり、不安感を増すことにつながりかねません。 診断を受けることによって、対処方法もはっきりします。 原因がはっきりしないまま親子で苦しみ続けるより、きちんと診断を受けることが、最終的には子どものためになると考えましよう。


ADHDかどうかの「線引き」はどこでする?

小さな子どもは基本的に衝動的で集中力に欠け、落ち着きのないものです。
ADHDかどうかは、日常生活での困難がどれほどかによって判断します。

子どもはもともと衝動的で、集中力が持続せず落ち着きがありません。 その状態がADHDなのかどうかを判断するには、「ADHDの診断基準」を参考にします。 まずは診断基準に見られるような、多動性・衝動性・不注意による行動がどれくらいあるかをチェックしてみましよう。 さらにその行動のため、子どもが日常生活を送るうえで困難が生じているかどうかをよく観察します。 そのような困難が、家庭・学校・習い事など、2ヵ所以上の場で見られる場合は、ADHDの可能性が考えられます。

例えば、習字のお稽古のときにはそわそわ落ち着さがなくても、学校では授業に集中できているような場合はADHDではありません。 その子が単に、習字のお稽古が嫌いなだけだといえるのです。 また、たとえADHDに見られる症状があっても、日常生活を送るうえで大きな困難がなければ、必ずしも医療機関にかかる必要はありません。


症状の「軽度・重度」の基準、そのあらわれ方を知りたい

子どもによってADHDの症状が重い子とそうでない子がいます。
しかし、症状の軽度・重度の基準は本人にとってあまり意味のないものです。

ADHDの診断基準を見ながら、当てはまる項目にチェックをしていくと、症状の「軽度・重度」を見分けることは可能です。 医学的には、当てはまる項目の数が6個よりは9個のほうが症状は重いといえますし、症状の発生が1日1回か週1回かによっても軽度・重度を測ることができるでしょう。 しかし、チェック項目の多さで症状を測ることは、子どもにとって意味のあることではありません。

大切なのは、本人がどれだけ日常生活で困難を感じているかを知ることです。 症状が軽度であっても、周囲がADHDのことをよく知らないために、叱責されることが多いような場合は、その子のストレスは大きくなります。 反対に、症状が重度であったとしても、周囲がADHDに理解がある場合は、本人はさほどストレスを感じないで過ごすことができます。 「軽度だから大丈夫」と安心せず、本人がどれだけ困っているかをよく観察してあげてください。


病院にかかることで、子どもの「劣等感」が強くなるのでは?

子どもが劣等感を持つのではないか、というのは大人の価値観です。
本来、ADHDは劣等感を持たなければならないものではありません。

まずADHDが「劣等感を持たなければならないようなものだ」という、大人の考え方を改めなければなりません。 そもそも、子ども自身は、自分の行動は無意識に行っていることなので、劣等感は持っていないはずです。 しかし、周囲からADHDによる行動を否定されたり責められ続けたりしているうちに、自分自身が悪いような気がしてきて劣等感が「植え付けられて」いくのです。

「風邪かもしれない」と思って病院にかかることに、劣等感を持つ人はいません。 それと同様に「ADHDかもしれない」と思って病院にかかることに、劣等感を持つ必要はありません。 周囲がどのように反応するかによって、子どもが劣等感を感じてしまうこともあれば、そうでないこともあるのです。 ADHDの子は、集団生活の場で誤解を受けやすいのは確かです。 せめて親だけはADHDを正しく知り、子どものよき理解者となりたいものです。

ADHDと他の疾患

「自閉症」とADHDはどう違うの?

他者とコミュニケーションがうまくとれない「自閉症」も発達障害のひとつです。
ADHDとは違い、特定のものに強く執着するなどの特徴があります。

「自閉症」と「ADHD」は、どちらも発達障害ですが、症状の背景はまったく違います。 自閉症の大きな特徴は、

  • 対人関係がうまく築けない、
  • 言葉の遅れがある、
  • 特定のものや行為に対して強く執着する、
という3点です。

「多動」は自閉症の子どもにも見られることがありますが、行動の原因はまったく異なります。 例えば「授業中に立って歩いた」場合、ADHDの子は、窓の外などに興味のひかれるものを見つけたことがきっかけだったことがわかります。 しかし自閉症の子は、何が誘引となったのか、周囲からは理由がはっきりわかりません。

またADHDの場合、多動・衝動的な行動によって、自分だけでなく周囲も困らせてしまったことを十分に理解しています。 一方、自閉症の子は、相手の気持ちを理解する能力が十分に備わっていないためにその場の雰囲気が読めず、ルールに従うことができません。

「アスペルガー症候群」とADHDはどう違うの?

「アスペルガー症候群」

知的障害はありませんが、コミュニケーション能力に欠けるのが特徴です。 「アスペルガー症候群」は、自閉症と同じく「対人関係がうまく築けない」「ひとつのことにひどく執着し、こだわりを持つ」といった特徴を持っています。 自閉症との違いは、言葉や知能の発達に遅れがないことです。知能に遅れのない自閉症(高機能自閉症)とよく似ています。

しかし、アスペルガー症候群の子は、「相手の気持ちを汲む」「言葉の裏を読む」といった能力が不十分なため、他者とのコミュニケーションがなかなかとれません。 また、自分がこだわっている対象に変化が生じると、とたんにパニック状態になるなどの症状も見られます。 行動の原因を周囲が理解することは難しく、人間関係がうまくいかなくなりがちです。

その意味では表面的にADHDと共通しますが、ADHDの子は相手の気持ちを思いやることはできます。 ただ、衝動的な行動が原因で、結果的に対人関係がうまくいかなくなるだけなのです。

「アレルギー疾患」の子はADHDになりやすい?

アレルギー疾患を持つ子は、落ち着きのない子が多いといいます。
ADHDの多動と似ている部分もありますが、両者はまったく関係ありません。

近年、気管支喘息やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーといったアレルギー疾患を持つ子どもの数は年々増加しています。 そういった子どもに落ち着さがないのは、静かにしていなければならない場でも、咳やくしゃみが出たり、皮膚や目・鼻のかゆみによって、常に体を動かしてしまうからだと考えられています。 この落ち着きのなさは、ADHDの多動とはまったく違うものです。

アレルギー疾患は、一定の食物やハウスダストなどアレルギーの原因物質に触れることによって引き起こされます。 生まれつきの行動特性を持つADHDとは、根本的に違う疾患なのです。 したがって先にアレルギー疾患があり、それが原因であとからADHDを発症するということはありません。 アメリカではADHDの民間療法が多数存在します。 そのひとつに、アレルギー食を排除するというものがありますが、何ら医学的な根拠はありません。


ADHDの子は「精神病」になりやすい?

ADHDの子は、自分が周囲に理解されない経験を重ねるうちに精神的ストレスを抱え込み、それが原因で抑うつ状態になることがあります。 心の風邪ともよばれる「うつ病」は、ADHDの子に多いといわれています。 「ADHDがそのまま精神疾患に移行する」というより「ほかの精神疾患を合併する」といったほうがよいでしょう。

ADHD特有の行動が原因で起こるさまざまな状況の中で、子どもは周囲から責められたり叱られたり、あるいは、いじめられたりすることがあります。 小さい頃からそのような環境で育っていると、子どもは疎外感や孤独感に苦しみながら成長することになり、年齢が上がるごとに精神的ストレスを強めていきます。

そのストレスが自分の内面に向かうと、抑うつ状態を招き、うつ病を合併します。 逆に内側にため込んだエネルギーが社会へ向かうと、「行為障害」(非行)という形であらわれます。 周囲の大人は子どもの苦しみに目を向け、二次的な精神疾患が起こらないよう適切に対処したいものです。