うつ病とTMS

うつ病とTMS

うつ病の治療としてのTMS

多くの人が罹患しているうつ病。内科の身体的な疾患と異なり客観的な数字がでて、素人目にもズバリと診断できるというものではないため誤解されやすい疾患でもあります。

「うつ病は甘え」「心がよわいだけ」と理解されず苦しんでいる人も多く存在します。

しかしうつ病は歴とした病気です。心臓に負担のかかる生活をしていたら心不全になるように、脳に負担をかけた状態で長く生きていると脳の機能が落ちてしまいます。それによってさまざまな不調が出現しうつ病もその一つなのです。

つまりうつ病は単に気の持ちようというわけではなく、脳の機能が実際に低下していて脳内で分泌されている物質や神経の働きは変化しているのです。

このことからうつ病は明確に治療すべき疾患であり、治療の手立てもあるということがわかります。今回はうつ病について解説します。記事の後半では特に最新の治療であるTMSについて焦点をあてて解説をしていきます。

そもそもうつ病とは

うつ病とは精神的なエネルギーが極端に低下して、ひどく憂鬱な気持ちが続いたり、何をしても楽しいと感じられなくなった状態です。

うつ病などの気分障害の原因については研究が盛んに行われているのですが、まだまだその病態は完全に解明されるには至っていません。

有病率は3-8%と非常に多くの人がかかる疾患です。

病態が完全に解明されているものではないために病気として認知されにくいという問題があります。ただ明確な診断機銃が定められており、それに該当すれば診断をすることができます。

 

診断基準として、アメリカ精神医学会の診断分類操作的診断分類「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版DSM-5」という基準があります。

こちらは非常に厳格な診断基準です。うつ病と診断するには以下の5つの項目を確認します。

  1. 抑うつ気分がある
  2. 興味や喜びの著しい喪失がある
  3. 食欲の減退または増加
  4. 睡眠障害
  5. 精神運動の障害(強い焦燥感・精神運動の静止)
  6. 疲れやすさ・気力の減退
  7. 強い在籍間
  8. 思考力や集中力の低下
  9. 死への思い

これら9項目のうち①若しくは②に該当し、かつ五項目以上がほぼ毎日ほぼ1日中存在することが診断に必要です。

さらにこの基準に該当した上で医師が治療が必要かを検討します。

「抑うつ気分」は病気でない人であっても日常的に経験します。しかし、この厳密な基準に合致するような人は単に気分という問題ではなく、気合や根性といった精神論で改善するというものではありません。脳の機能が明確に低下した状態であるといえるため専門家による治療を受ける疾患なのです。

うつ病の治療

うつ病の治療についてみていきましょう。

1.休養

早期に診断ができた軽度のうつ病ではまず長期的な休養を取ることが治療となります。

長期の休養をとり、必要であれば入院するなども検討します。

うつ病になりやすいタイプとして「責任感が強く自責思考である」という点になります。

「疲れていれば休んだらいい」という思考になれずに、「休んでしまったら迷惑をかける」「休んでしまうと自分の存在価値がない」という思考になりやすいのです。まずは休むということに気づくことが治療なのです。

ただし比較的重いうつ病になると休養だけでは治療を仕切ることができないことがあります。また、休養をして改善しても元の環境に戻ることで再びうつ病がひどくなることがあります。

2.薬物治療

休養だけでは改善しない場合には抗うつ薬を使用します。

うつ病は脳内で働く神経伝達物質と呼ばれる物質の代謝がうまくいかなくなることが関係していると言われます。神経伝達物質が減少して脳の活動が低下することがうつ病の原因とするモノアミン仮説という仮説に基づいて、抗うつ薬は神経伝達物質に対して作用するように設計されています。

ただしうつ病の全ての症状をモノアミン仮説では全て説明し切ることはできません。

うつ病の薬をとりあえず飲めば安心というわけではなく。うつ病の診療の経験を十分に積んだ医師と相談して薬剤を選択することが重要です。

また薬物治療には副作用もあります。精神症状(不安・混乱・イライラ・興奮)

錐体外路症状(手足が意識していないのに勝手に動く、震える、体が硬くなる)

自律神経症状(発汗、発熱、下痢など)といった症状が現れる可能性があります。

これらの副作用が出た際にはすぐに医師と相談して処方について調整を行いましょう。

抗うつ薬は患者さんの症状に合わせて細やかに調節を行う必要のある薬剤です。

一度出したら出しっぱなしにするのではなく細やかにフォローしてくれるクリニックで処方を受けることをお勧めします。

 

3、電気けいれん療法

電気けいれん療法は頭部に電器を流すことで人為的に痙攣発作を誘発する治療です。

うつ病の他に双極性障害・統合失調症などの精神疾患医に対しておこなわれます。

頭部に通電することで脳にある神経細胞を全体的に一度興奮させます。

これによって脳の細胞から神経伝達物質を放出します。これにより低下した脳の働きを改善するというのがこの治療のメカニズムです。

 体に電気を流すので鎮静薬という意識レベルを下げる薬を使用して眠った状態にして行う必要があります。また流した電気は頭以外にも流れてしまうので、心臓など重要な臓器にも影響を与える可能性があります、そのため不整脈を防ぐための事前投与が必要です。

 このような性質のため現在電気けいれん療法は重いうつ病があり、薬物療法を十分に行なっても効果がない患者さんや、症状が強く働いたり日常生活ができなくなってしまった患者さん、抗うつ薬では副作用が出てしまい他の治療が効果がないばあいなどある程度症状が重く厳しい状態になった人に適応が限られます。

 

4、TMS(磁気刺激療法)

うつ病に対する新しい治療です。アメリカで発症したうつ病治療でアメリカ食品医薬品局(FDA)という日本の厚生労働省にあたる組織によって2008年に承認された治療です。日本では一部の機器が厚生労働省から認可を受けたのが2017年、一部の大学病院で保険が適応されたのは2019年のことです。

日本で始まってからまだ数年しか経っていない非常に新しい治療です。

治療はコイルを頭に当てて行います。コイルに電流を流すと磁場が発生します。

この磁場の変化で微弱な電流が発生します。この電流で脳の働きを活性化することでうつ病を治療しようというのがTMSです。

脳に電流を作用させるという点では電気けいれん療法と似ているのですが、

電気けいれん療法は頭蓋骨の外から中に電気を流すので強い電流を流す必要があり全身に電気が流れます。

TMSでは、頭蓋骨を通り抜ける際に減弱しない磁気を用いてピンポイントに脳に刺激を与えることができるので副作用が少ないのが特徴です。

 

最新のうつ病治療であるTMSについて詳しく解説

ここからはうつ病における最新の治療であるTMSについて詳しく解説をしていきます。

さまざまな治療が古くから行われているうつ病ですが、新規の治療であるTMSは何が優れている治療なのかについてみていきましょう。

 

TMSの利点として以下のようなものがあります。

  • 薬物治療が効かないようなうつ病に対して効果が見られること
  • 治療後の再発が少ないこと
  • 今までの治療法と比較して副作用が少ないこと

 

薬物治療が効かない患者さんに対する有効性について、さまざまな研究が行われています。

2014年に行われた臨床研究があります。これは抗うつ薬による薬物治療が効果を示さなかったうつ病患者を対象にした試験で、42の医療機関で2157名の患者にTMS

の治療をおこない、52週間以上追跡した結果を解析したものです。

効果出たかどうかの指標(主要評価項目)はClinical Global Impressions-Severity of Illnessスケールといううつ病の尺度を用いました。このスケールは点数が高いほど重度のうつ病と言えるのですが、総得点の平均点は優位に低下し、追跡期間中その傾向は維持されていました。

この臨床研究でTMSは薬物治療が効かないような軟知性のうつ病に対してTMSが有効であり、かつ長期間その傾向を維持することができるということが示されました。

 

副作用が少ないこともTMSの非常に優れた点です。

 

TMSを行うと記憶力が下がったり脳にダメージがあったり、強い頭痛を引き起こす。そんなイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかしそれらは全て誤解なのです。

 

TMSの副作用としてよくあるものとしては治療中に頭皮や頭の痛みがあります。

また顔の痙攣や不快感を経験する方もいらっしゃいます。

これはTMSの刺激で電流が流れる際に電流を流している頭部の菌収集によるものであると考えられます。ただし強い痛みが出ることは稀で、強い痛みを訴える人はほとんどいません。痛みがある場合でも治療を繰り返していると慣れますので、痛みに長期間苦しむ人はかなり少なくなっています。

 

その他頻度の少ない副作用としては聴力の低下、耳鳴りや眩暈といった耳鼻科系の症状の出現があります。これは磁気刺激の際に大きな音発生するため、それが耳に影響を与えているものと考えられます。耳栓をすることで副作用がある程度は軽減することが可能になると言われています。

痙攣発作を起こすという報告がありますが、治療全体を通して痙攣発作が発生する確率は0.1%未満と言われています。

 

これらは薬物治療や電気けいれん療法と比較して圧倒的に少ない数字でありTMSによる治療の安全性を指名しています。

 

副作用とは異なる話ですが、患者さんによってはTMSを受けることができない場合があります。それは金属が繁い部位である頭の近くに埋め込まれている人です。具体的には胸の高い位置に植え込むペースメーカー、耳に入っている人工内耳などです。これらの機器はTMSの影響を受けるとうまく働かなくなる可能性があります。

 

TMSの保険適用

TMSはまだ新しい治療なので日本ではうつ病のみに保険が通っています。しかしながらその適応条件はまだまだ厳しく、希望した人がみんな保険でTMSを受けられているという状況ではありません。

TMSの保険適応の条件は以下のようになっています。

  • 成人でありうつ業と診断されている
  • 抗うつ薬による治療を十分に受けている
  • 軽症や重症のうつ病ではない(精神病症状や希死念慮を伴う重症例は除外)
  • 入院で行うため入院できる必要がある(2ヶ月程度)
  • 決められた機器決められたスケジュールで行う

 

TMSは日本ではかなり新しい治療であり優れた効果がありながらまだまだ完全にその全貌を解析しきれていない状態です。

今後治療成績について研究が多くされていくに従いTMSを行なわれる頻度が増え、適応条件が緩和され、適応疾患が広がっていくことが予想されます。

 

保険が通らなくてもTMSは受けられる?

保険が通らなければTMSはできないんじゃないか、そのように考える人も多いかと思われます。

保険が通らない治療は自由診療で受けることができます。

自由診療では高額になることを心配されるかと思いますが、自由診療であれば外来で短期間集中的に治療を行うので、入院することで発生する入院費がありません。また長期間の入院によって収入が失われるということもありません。

TMSを実施する医療機関が増えてきてある程度リーズナブルな料金で受けることができるようにもなってきています。

まずは近くのTMSでのうつ病治療をおこなっているクリニックに相談をしてどの程度の費用で治療を行うことができるのか、どの程度外来に通うことになるのか、といった条件についてしっかりと話を聞くことが重要です。

 

うつ病を早めに治すことでその先の人生が大きく変わります。親身になって話を聞いてくれる医師のカウンセリングを受けて治療を行うかどうかをじっくりと話し合って治療方針を決めていきましょう。

 

まとめ

今回はうつ病の治療、特に最新の治療であるTMSに焦点を当てて解説をしていきました。

うつ病治療は日々進歩しており、その先端をいく治療がTMSという治療です。その優れた効果が明らかになるにつれて知名度が上昇している治療です。いままで治療をしてきたが十分な効果が得られずお悩みの患者さんや今までの治療では辛い副作用があり治療を完遂できなかった患者さんにとっては新たな希望となる治療です。TMSに治療を受けたい、話を聞いてみたいという方は是非ご気軽にご相談ください

参考文献

  1. HEP Vol. 45, No. 2, 2018
  2. 日本うつ病学会治療ガイドライン II.うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害 2016 日本生物学的精神医学会誌 29 巻 4 号 Jpn J Rehabil Med Vol. 56 No. 1 2019Clin Psychiatry. 2014 Dec;75(12):1394-401.