統合失調症 抗精神病薬の副作用
統合失調症 抗精神病薬の副作用 とは
統合失調症の抗精神病薬は、運動症状、体重増加、脂質代謝異常、高血糖、抗コリン作用、心電図QT延長などの副作用があります。また、選択的セロトニン再取り込み阻害薬との併用によるセロトニン症候群、選択的ドーパミンD2受容体拮抗薬の場合は、錐体外路症状も起こることがあります。抗精神病薬の副作用
副作用は、抗精神病薬に限らず、薬であれば程度の差はあっても必ず起こるものです。薬のマイナス面を恐れて、服用をしなければ、病状はさらに悪化してしまう結果になります。抗精神病薬でも、薬のプラス面とマイナス面を正しく理解することが症状改善への第一歩です。統合失調症の患者さんが、薬を飲むのをためらったり、止めてしまったりする背景には、副作用の問題があります。しかし、それを恐れて薬を飲まなければ、症状は必ずぶり返すことになります。再発を繰り返せば、病気はさらに悪化の一途をたどることになるのです。一方、薬を飲んでいる人は、仮に再発しても、きちんと飲んでいなかった人に比べれば、かなり軽い症状で済むのです。副作用は、決して恐ろしいものではなく、病気が回復していくための必要な情報だと考えたらよいのです。
医師は、患者さんの反応(副作用など)をみて、いま処方している薬が合っているかどうかを判断する材料にしています。それによっては、薬の種類を変えたり、量を調節したり、副作用を抑える補助薬を使ったりして、病気が良い方向に向かうように配慮しています。副作用は、治療法を決めるときの大切な情報ですので、どんなことでも医師に伝え、相談することが大切です。自分だけの考えや判断で、服用を止めたり、種類や量を変えたりすることだけは、避けたいものです。
抗精神病薬を飲んだ患者さんからのアンケートによると、つらかったと感じた副作用には次のようなものがありました。
- 体がだるく動きが鈍くなり、元気がなくなる(過鎮静)。
- 眠くなる(過鎮静)。
- 便秘になる(自律神経症状)。
- 体重が増える。
- 口が渇く(自律神経症状)。
- 目がかすむ。
- 手(指先)がふるえる(パーキンソン症状=錐体外路症状)。
- 仮面のような表情になる(パーキンソン症状=錐体外路症状)。
- 立ちくらみのようになって、ふらふらする(起立性低血圧=自律神経症状)。
- 体の一部、特に顔や首などの筋肉が硬直したり、突っ張ったりする(急性ジストニア=錐体外路症状)。
- 舌や唇がふるえる、足を踏みならす、時には体全体がけいれんする(遅発性ジスキネジア)。
以上のように、副作用にはいろいろなものがありますが、これらすべての副作用が一人の患者さんに現れる、というものではありません。副作用の出方や程度は、人によって異なり、薬によってもさまざまです。抗精神病薬の副作用の多くは、薬を飲み始めたころに一番強く現れ、時間がたつにつれて、徐々に薄れていくものです。一方、薬の効果はこれとは反対で、すぐには現れず、だいたい数カ月後にならないと効果が出てきません。まれに、飲んですぐに劇的な効果が出る人もいます。症状が少しずつ改善していくことによって、薬の効果を実感することができますが、それ以前に副作用を怖がって薬を止めてしまう患者さんが多いのです。服用前に、医師から十分に副作用について説明を受けて、効果がでるまでは気長に飲み続けることが大切です。抗精神病薬による副作用を分類すると、次のようになります。
錐体外路症状
錐体外路とは、大脳皮質から始まる神経経路で、筋肉の伸び縮みを調節して体がスムーズに動くようにコントロールする運動系の中枢のことです。ここが障害されると、体が思うように動かせなくなったり、逆に、意思に反して勝手に動いたりする症状です。目に見えてその異変がわかるため、何か重い病気になったのではないかと心配になり、そのことが治療薬への忌避感につながることがあります。あらかじめ、錐体外路症状とはどんな副作用なのか、知っていれば、本人も家族も慌てずに受け止めることが出来ます。抗精神病薬によって起こる錐体外路症状には、次のようなものがあります。
- パーキンソン症状
- 抗精神病薬は、おもにドーパミンを受け取る受容体を遮断して、ドーパミンが働けないようにしますが、ドーパミンが働けない状態というのは、パーキンソン病の発症メカニズムとよく似ているところから、この副作用をパーキンソン症状といいます。ドーパミンは、体を動かす潤滑オイルのようなもので、これが働かなくなると「筋肉のこわばり」が生じます。手(指先)がふるえ、筋肉が硬くなって硬直し、よだれが出たり、顔つきが無表情になったりします。薬の量が多めのときに起こる副作用といわれています。
- アカシジア
- アカシジアは「静座不能」といわれ、じっとしていられず、下肢を動かしたり、せかせか歩き回ったりします。横になって寝ているときも、足がむずむずし、テレビを見ていても一カ所にじっと座っていられなかったり、貧乏ゆすりがひどくなったりする症状です。アカシジアは、幻覚や妄想をやわらげる薬を服用したときに起こりやすい副作用で、原因は薬だけではなく、患者さんの気持があせっていたり、不安感が強いときに起きやすいとされています。
- 急性ジストニア
- 筋肉でも、特に首筋の筋肉の片側(左か右、または後ろ)が収縮して傾いてしまい、反対側には戻しづらくなる状態です。また、目の筋肉が収縮すると、眼球が上の方に向いてしまい、下が見づらくなります。舌の筋肉が収縮すると、舌がこわばって話しづらくなります。非常に奇妙な筋肉の動きをみせるため、てんかん発作と間違えられることもあります。本人や家族はショックを受ける人もいて、薬を嫌がることにもなります。しかし、これは一時的に現れるもので、薬で治療することが可能ですし、予防する薬もあります。障害は残らないので必要以上に心配しなくてよいでしょう。
定型抗精神病薬の服用によって、このような錐体外路症状が現れた場合は、副作用の少ない非定型抗精神病薬に切り替えることもあります。また、非定型抗精神病薬を使っているにもかかわらず錐体外路症状が出る場合は、別の非定型抗精神病薬に変更することもあります。改善されない場合は、抗パーキンソン病薬によって改善できます。副作用が現れたときは、早めに医師と連絡をとることです。
遅発性ジスキネジア
遅発性ジスキネジアとは、体の一部が勝手にくねくねと動いてしまう症状です。おもに舌や口の不随意運動(自分で動かそうと思わないのに、意思に逆らって勝手に動いてしまう現象)で、もぐもぐと噛むしぐさをしたり、吸い込んだり、舌であごの皮膚を押し出したり、舌を鳴らしたりします。舌や口以外に、腕や足、体全体がけいれんしたように動くこともあります。原因は、抗精神病薬を大量に飲んだり、長期間服用した人に現れやすい副作用です。対処法は、定型抗精神病薬を服用していた場合は、非定型抗精神病薬に変更したりします。また抗精神病薬を少なくして、抗不安薬と併用するという方法もあります。
血中プロラクチン値の上昇
抗精神病薬を服用していると、プロラクチンというホルモンが上昇し、さまざまな副作用を引き起こすことが知られています。女性では、月経異常、乳汁の分泌、長期的には骨粗しょう症になることもあり、男性では射精障害、勃起障害、性欲の低下、女性化乳房などがあります。
- 月経異常
- 女性の患者さんで、抗精神病薬を飲んでいると月経が止まることがあります。薬の量が増えると比較的多く見られる副作用です。女性にとって、月経異常は薬への不安感につながります。最近はホルモン系の副作用が少ない薬も出ていますので、医師に伝えて、薬の量を減らすなり、別の薬に変更するなりして対処法を考えてみてください。なお、月経が止まっても、子宮や卵巣が萎縮して女性の機能が著しく低下するわけではないので、あまり心配しない方がよいでしょう。
- 乳汁分泌
- 乳汁分泌は、プロラクチンというホルモンが増えるために起こる副作用です。プロラクチンは、下垂体から分泌されているホルモンで、乳汁の分泌や卵巣の黄体を刺激する働きがあります。乳汁の分泌はそれほど心配することはありませんが、気になったり、生活のうえで不便を感じたりするようでしたら、医師と相談のうえ、ホルモン系の副作用の少ない薬に変えるのも一つの方法です。
- 性欲の減退
- 男女とも性的な機能不全が起こることがありますが、これも抗精神病薬の副作用です。男性ならば、インポテンツや射精遅延になることがあり、それによって性生活に支障が出るようでしたら、医師に伝えて、薬を変えるなどの対症法を相談してみてください。
体重の増加
体重増加は、抗精神病薬を飲んでいる人にとって、現れやすい副作用の一つです。中でも、非定型抗精神病薬のオランザピンやフマル酸クエチアピンなどは、他の薬と比べて体重増加をもたらす可能性が高い薬とされています。なぜ、薬を飲むと体重が増えるのか、はっきりとしたことは分かっていませんが、食欲増進と関係しているのではないかと考えらます。また、活動が低下したことによって、運動不足や食べ過ぎが肥満の原因になっていることも考えられます。肥満は糖尿病などの生活習慣病を招き、心臓にも負担がかかります。特に血糖値が高くなると糖尿病性昏睡やケトアシドーシス(だるい、脱力感、吐き気などの糖尿病の症状)がみられることもありますので、定期的に血糖値をチェックする必要があります。著しく体重が増えた場合は、薬を変更したり、合併症を防ぐための生活指導を行ったりします。
抑うつ
定型抗精神病薬の服用で、抑うつ症状が現れた場合は、非定型抗精神病薬に切り替えるか、抗うつ薬のSSRIを併用します。非定型抗精神病薬で抑うつ症状がみられた場合は、他の非定型抗精神病薬に変更するか、または抗うつ薬を併用します。
自律神経の乱れ
抗精神病薬は、自律神経にも作用するので、自律神経が調節しているさまざまな臓器にも影響が出ます。たとえば、口の渇き、便秘、立ちくらみなどです。口の渇きは、唾液が出にくくなって起こりますが、これは定型抗精神病薬のハロペリドールやフルフェナジンのような、強い薬によって起こりがちです。どうしても困る場合は、薬の種類を変えるのも方法です。口の渇きは、薬を長期間飲んでいるうちに、だいたいは消えていきます。
次に便秘は、抗精神病薬によって、腸の働きが鈍くなり、便が腸の中に留まりやすくなります。特に鎮静作用のある薬で起こりがちです。対症法は、薬を変えたり、野菜や食物繊維を多く摂るようにしたり、生活のリズムを整えたりして工夫します。また、鎮静作用のある薬は、血圧を下げる働きもあるため、起立性低血圧になって、立ちくらみが起きやすくなります。自律神経の副作用は、薬に慣れると消えていくものが多いですが、気になる場合は昇圧薬を使うこともあります。
眠気やだるさ
幻覚や妄想をやわらげる薬で、鎮静作用の強いクロルプロマジンやレボメプロマジン、チオリダジンなどを使うと、どうしても眠くなったり、体がだるくなったり、ボーッとしたりします。こういった薬は、過敏になり過ぎた神経の緊張状態を鎮めるように働くからです。急性期の患者さんにとって、眠気やだるさは薬が効いている現れで、この時期はよく眠ることが回復にもつながります。症状が落ち着いてきても、眠気があり、集中力が落ちたり、根気がなくなったりしたら、薬の量を少なくしたり、鎮静作用の弱い薬にかえることも考えられます。
補助的に使われる薬
統合失調症は、抗精神病薬だけで治療できる病気ではありません。抗精神病薬が治療の中心にはなりますが、足りない部分もあります。それを補うのが補助治療薬と言われる薬です。補助というのは、抗精神病薬の効果を引き出したり、副作用を治療したり、足りない部分を補ったり、また予防のために処方したりする大切な薬です。たくさんの薬を飲むことに不安を感じる人もいると思いますが、薬にはそれぞれ役割があり、薬と薬が補う「相補作用」があるということも知っておく必要があります。おもな補助治療薬には、次のようなものがあります。
- 【睡眠薬】
- 不眠も、統合失調症の症状のひとつです。病気の回復のためには、まず十分な睡眠をとり、生活のリズムを整えることが必要となります。その意味で、睡眠薬は抗精神病薬と並んで大切な薬です。使用する睡眠薬には、ニトラゼパム(ベンザリン)、フルニトラゼパム(サイレース、ロヒプノール)、ブロチゾラム(レンドルミン)などがあります。この他、抗精神病薬のクロルプロマジンを含んだ複数の薬を混ぜ合わせたベゲタミンも、睡眠薬としてよく使われます。睡眠薬は中毒・依存になりやすいと心配する人もいますが、短期間の使用であればさほど大きな問題とはなりません。
- 【抗不安薬】
- 抗不安薬は、不安を取り除く薬のことで、統合失調症以外にもうつ病や不安障害などにもよく使われる薬です。統合失調症による不安緊張に対しては、抗精神病薬だけで治療したほうが望ましいという考え方もありますが、抗不安薬にも長所があります。それは、ドーパミンには作用しなので、パーキンソン症状のような副作用がないことと、遅発性ジスキネジア(舌や口が意思にさからって勝手に動いてしまう現象)を起こす危険性がないことです。したがって、抗精神病薬を少なくして、副作用を減らす意味でも、抗不安薬を併用することは有効な治療方法です。抗不安薬には、ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)、エチゾラム(デパス)、ロラゼパム(ワイパックス)、アルプラゾラム(コンスタン、ソラナックス)などがあります。また、ヒドロキシジンは抗精神病薬の副作用であるアカシジア(じっとしていられなくなる)の改善に使われることもあります。
- 【抗てんかん薬】
- 抗てんかん薬は、本来はけいれんを抑える薬です。統合失調症ではけいれんを起こすことはありませんが、抗てんかん薬の中には興奮や不機嫌を抑える作用がありますので、イライラや攻撃性を抑えるために、時々処方されることがあります。抗てんかん薬には、カルバマゼピン(テグレトール)、バルプロ酸(デパケン)などがあります。
- 【抗パーキンソン薬】
- ドーパミンを遮断する抗精神病薬では、多かれ少なかれパーキンソン症状の副作用は避けられません。抗精神病薬の量や種類を調整することで対処したいところですが、それが難しい場合には、抗パーキンソン薬を併用することがあります。用いられる薬には、ビペリデン(アキネトン)やトリヘキシフェニジル(アーテン)、プロメタジンなどがあります。プロメタジンは、立ちくらみ(起立性低血圧)の改善にも使われることがあります。
- 【抗うつ薬】
- 意欲低下に対し、まれに抗うつ薬が使われることがあります。三環系と呼ばれるアミトリプチリン(トリプタノール)、イミプラミン(トフラニール)、クロミプラミン(アナフラニール)、SSRIのフルボキサミン(ルボックス)、SNRIのミルナシプラン(トレドミン)などの抗うつ薬が試みられます。