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複雑性PTSD

複雑性PTSD

この記事のもくじ

PTSDの項に記載の通り、PTSDは誰にでも大きな苦悩を引き起こすような、ストレス性の出来事あるいは状況(短期間もしくは長時間持続するもの)に対する反応として生じます。(ICD-10参照)

複雑性PTSDは2020年発行の新診断基準であるICD-11に初めて収載された診断概念です。PTSDの症状に加えて、『自己組織化の障害(disturbances in self-organization: DSO)』として3つの症状がみられる場合に診断されます。児童期の逆境体験(Adverse Childhood Experiences; ACEs)が発症に影響を及ぼすとされており、身体的・性的虐待、DV、政治的難民など、長期反復性トラウマが発症の原因とされています(Ford, 2017)。それらはある種の逃れられない状況において、自身を対人関係や集団における敗者、もしくは疎外された者として感じる体験とも解釈され、例えば、ネット「いじめ」や差別、ハラスメントとの関連を指摘する意見もあり、また、ACEsが様々な精神疾患と関連することから、複雑性PTSDの診断は慎重になされます。

PTSD

  1. 再体験症状(トラウマ体験がフラッシュバック;悪夢でみる)
  2. 回避症状(出来事に関する思考や感情の回避;出来事の想起刺激となる事物や状況の回避;行けていた場所に行けなくなる)
  3. 脅威の感覚・持続的な過覚醒状態(過度の警戒心、過剰な驚愕反応)

CPTSD

    1. 再体験症状(トラウマ体験がフラッシュバック;悪夢でみる)
    2. 回避症状(出来事に関する思考や感情の回避;出来事の想起刺激となる事物や状況の回避;行けていた場所に行けなくなる)
    3. 脅威の感覚・持続的な過覚醒状態(過度の警戒心、過剰な驚愕反応)
         +「自己組織化の障害(disturbances in self-organization: DSO)」
  1. 感情制御困難(感情反応の亢進(気持ちが傷つきやすいなど)、暴力的爆発、自己破壊的行動(やけ酒、無駄遣い、自傷行為など)、ストレス下での遷延性解離状態(別人格がでる、記憶をなくす、気が付いたら遠くに来てしまったなど)、感情麻痺、喜びの欠如)
  2. 否定的自己概念(自分を必要以上に卑下する、敗北感、無価値観などの持続的な思い込みで、外傷的出来事に関連する深く広がった恥や自責の感情を持つ)
  3. 対人関係障害(他者に親密感をもつことの困難、対人関係や社会参加の回避や関心の乏しさ)     

Karatziasら(2020)によると、児童期の逆行体験(ACEs)はPTSD症状の重症度に関連が強い一方で、児童期の好意的な体験(Benevolent Childhood Experiences; BCEs)(「安全だと感じている養育者が1名以上いた」「親友が1名以上いた」「サポートやアドバイスをしてくれる大人がいた」)は上記④-⑥のDSO症状を和らげる傾向がみられたようです。専門的治療だけでなく、自身を支えてくれる存在を思い出すことが症状改善に役立つ可能性が示唆されています(大江, 2021)。

<複雑性PTSDの治療>

専門的な心理療法がおこなわれる前に、各患者の心理特性を踏まえた上で、SIT(ストレス免疫訓練; Stress Inoculation training)が用いられる。生理学的緊張の軽減、否定的な認知の切り替えのために、呼吸法や筋弛緩法、トラウマについてナラティブ(トラウマとなった出来事の物語の解釈について客観的な視点を与える技法)が用いられる。呼吸法・筋弛緩法については、PTSDだけでなく不安症治療などに幅広く用いられており、国立精神試験医療研究センター金吉晴先生監修の映像を参照してみてください。

◎心理療法の進め方

PTSDの治療としては、持続エクスポージャー療法(PE)や認知処理療法(CPT)に効果があるとされていますが、CPTSDには対しては感情の調整や対人関係の問題を整えてから、トラウマ体験について扱うと言った順序で行うのがよいとされており、下記の回復段階がHermanにより、提唱されています。

  • 「安全」段階
    安全な環境を確保した上で、トラウマ心理教育や感情制御のためのストレスマネジメント
  • 「早期と服喪追悼」段階
    トラウマ記憶の処理
  • 「再結合」段階
    他者との信頼関係の再構築、意味形成、自己権利擁護、エンパワメント

<STAIR/NST>

Coitreにより提唱されている治療として、STAIR/NST(Skills training in Affective and Interpersonal Regulation followed be Narrative Story Therapy)があります。(後述のNETとも関連します。)主には、感情調節のために、身体・思考・行動という3つのチャネルを使って様々な対処法を学び取得します。続いて、対人場面に焦点を当て、アサーションや対人関係の距離感への対応について取り組み、新しい対人関係パターンを身に着けます。トラウマに関連した感情調節や対人関係に困難を抱える人には適応となり、幅広く用いることができます。

<ナラティブ・エクスポージャー・セラピー(NET)>~人生史をたどる心理療法~

NETは持続エクスポージャー法(PE)の原理を中核にしつつ、人生史の全体を語ると言う枠身が考案され、PTSD治療のために推奨された技法のひとつです。

人生を表す紐の上に、「花(良い体験)」と「石(辛い体験)」を並べ、石の数から大まかなセッション数を把握することから始める。人生史をたどることで俯瞰的な視点をもち、自らの体験についてカウンセラーと共に振り返ります。感覚、感情認知、身体反応意識を向けると同時に、過去の体験と現在の体験に意識を向け、過去と現在を行き来します。今ここにいる自分が過去の自分の体験を思い出しているという体験様式をもたらします。その過程においてメンタライジングといって、自己と他者の心理状態について、原因と他の関連も含めて感じつつ、感情も思考も含めてストーリーにまとめ上げる技法が用いられることもあります。

Schauerら(2015)によるNETの治療メカニズム

  1. 自伝的記憶の積極的再構成
  2. 恐怖ネットワークの全面的活性化による、情動ネットワークの修正
  3. 生理的、感覚的、認知的、情動的反応と、時間、場所、人生の文脈との意味ある結びつけと統合
  4. トラウマ的な出来事の再処理による、行動とパターンの認知的再評価
  5. 肯定的人生体験の再訪による基底的想定の修正
  6. 人権の位置づけによる承認欲求の満足と個人の尊厳の再獲得