EMDR(眼球運動による脱感作・再処理法)

2024-06-12
監修:本 将昂

EMDR(眼球運動による脱感作・再処理法) とは

 EMDR(眼球運動による脱感作・再処理法) -  日本精神医学研究センター

EMDR (眼球運動による脱感作・再処理法)

EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理)は、最近マスコミなどでも取り上げられることの多くなったPTSD (Post Traumatic Stress Disorder:外傷後ストレス障害)に対して最も効果的 と言われて、大変注目されている治療方法です。
その他にも、パニック障害や強迫性障害、社交不安障害、全般性不安障害、うつ病、躁うつ病などへの応用も期待されています。 1989年にアメリカでFrancine Shapiroという臨床心理学者が発表して以来、アメリカを中心に注目を集め、今日までに全世界で40000人以上の心の専門家(精神科医、臨床心理士など)がこの方法のトレーニングを受けています。 日本でもおよそ500名の専門家がトレーニングを終えました。PTSDとは、最近では阪神大震災の後に話題になったのでご存じの方も多いと思います。
強い情緒的衝撃を伴うようなできごと(天災、交通事故、暴行、虐待など)の後に、そのできごとについて考えたくもないのにそのことを考えていたり、悪夢にうなされて睡眠が妨げられたり、集中力が落ちたり、恐怖感・不安感などに悩まされたりするようになって、生活の色々な面に支障がでるようになる状態のことです。 外傷的なできごとがあると、そこでの傷となる経験は、その経験が生じたときの映像、音や臭い、思ったこと、身体感覚などの形で脳の神経ネットワークに貯蔵されると考えられています。 通常は我々の脳がその記憶に働きかけ、知人や家人と話したり、考えたり、夢を見たり、日記に書いたりといった作業の中で、時間の経過とともにできごとに肯定的な意味づけをしたり、できごとをより小さく、自分の世界をより重要視したりすることで乗り越えることができるようになります。
しかし、このような作業をしても、いつまでも悲しみや恐怖が弱くならない、前向きに考えられない、過去のできごとがその人の中では一向に過去にならないときには治療が必要となるのです。 PTSD以外の精神疾患の中にも、こうした過去の記憶がいつまでも引っかかっていることが症状につながっていることは多く見受けられます。 EMDRは、外傷的なできごとを考えてもらいながら、治療者が患者さんの眼の前で指を一定の速度で動かし、それを眼で追いかけてもらうといった比較的単純な手続きを中心とした治療技法です。眼球運動は脳を直接的に刺激し、脳が本来もっている情報処理のプロセスを活性化できるのです。
ですから、5年、10年かけて、心のどこかに落ち着いていくプロセスを非常に短時間に進めることができます。そして、その過程は患者さんの脳の本来の力を引き出すので、マインドコントロールのように洗脳される、治療者に操られるというような心配は全くありません。また、止めたいとき にはいつの時点でも止めることができます。また、これまでの治療方法では、起こったできごとのすべてをこと細かく語ることが必要とされることが多かったのに比べて、大変ストレスの少ない技法と認められています。