非定型・新型うつ病

非定型・新型うつ病

この記事のもくじ

従来型の典型的なうつ病というのは気分が沈んで何事に対しても興味関心がなくなり、そんな自分を責めてばかりいるといったイメージです。 ちょっと難しい用語ですが、この従来型のうつ病をメランコリー親和型うつ病といったりします。
メランコリーとは「憂うつ」という意味ですが、秩序を愛し、几帳面で仕事熱心、対人関係では律儀で誠実、他者への配慮が厚く、責任感が強いといった特徴を兼ね備えた性格の人が、うつ病を発症しやすいと考えられていました。
ところが、最近にわかに増えてきたニュータイプのうつ病は、これまでのうつ病のイメージにはあてはまらない、うつ病あるいはうつ状態です。
新しいタイプのうつ病の特徴として、20~30代を中心に「職場ではつらいと感じるけれど、帰宅後や会社や学校へ行かなくていい休日は、自分の好きな趣味などに没頭でき、活動的になる」、「やりがいのある仕事に巡り合えなくて、自分を不運だと思っている」、「うまくいかないことがあると、身近な人間や会社のせいにする」、「うつで休職することに対し、あまり抵抗感がない」、「ちょっとした他人の言動に過敏に反応し、落ち込んだりイライラしやすい」といった患者さんが増えています。
そこで便宜上、典型的な症状が見られる従来型のうつと区別して新型うつなどと呼ばれるようになりました。

最近急増している非定型うつ病・新型うつ病とは?

怠けているだけ・甘えているだけと受け止められるうつ病
最近急増している(うつ病外来の30%が非定型・新型うつ病)、従来とは症状がかなり異なり、気分反応性(自分が楽しいことや、興味のあること、親しい友人と会うことや、映画やパチンコに行ったりするときは非常に気分がよくなる現象)があるため、周囲からは単に怠けているだけ、甘えているだけにしか見えない全く新しいタイプのうつ病です。 周囲の人間が一番対応に苦慮するのもこのタイプのうつ病の特徴ですが、MAOI(モノアミン酸化酵素阻害剤)が症状を劇的に緩和することから、セロトニンやノルアドレナリン系の異常があることは間違いなく、単に『甘えているだけ』、『怠けているだけ』ではなく、本人はかなり苦しんでいることがほとんどです。
若い女性に多く、過眠・過食
20~30代の若い女性に多く、体が鉛のように重く、日常生活、学業的状況、職業的状況に著しい支障を来たします。1日10時間以上眠ることが多く、日中はかなりの眠気が出ます。 食欲は増加することが多く、短期間の間で体重が急に増加します。
激しい感情の変化
ささいなことでイライラしたり、クヨクヨしたり、1日のうちで気分が激しく変動します。 例えば、職場の同僚とおしゃべりしたり、食事をしたりしている時は普通に楽しく過ごせているのですが、上司から「最近、仕事が遅いぞ」と云われたり、子供の担任の先生から「友達とトラブルがありました」という連絡を受けたりしたとき、自分が責められているという感覚を持ってしまい、ささいな一言で激しく落ち込みます。 また、自分一人で落ち込むだけでなく、子供や夫にあたって、怒鳴り散らしたり物を投げつけたりするケースもあります。
他人の目を気にする性格
他人からどう見られるかを気にし、他人の顔色をうかがう性格傾向がみられます。 つねに相手の言うことを尊重し、従うため、小さいときから「いい子」と言われていた人が多いのも特徴です。 根底には、他者の評価が気になってしかたがない、といった不安があり、子どものころから人見知りがあったり、人前であがりやすいなど対人恐怖的な傾向もみられます。
他人を責めることが多い
従来のうつ病は何かあると自分を責めることが多いのですが、非定型・新型では自分がうまくいかないのは周りが悪いという他責傾向があり、また自分がうつ病であるということを強く主張する傾向にあります。 しかし、本人はかなり苦しんでいることが多く、自殺を繰り返す症例もかなりの頻度で見られます。
育った環境も関係しています
児童期や思春期に親を亡くすといった、早期の喪失・離別を体験していたり、子どものころに虐待された、あるいは養育者から充分に愛情を注がれなかった体験を持っている場合も多いようです。 また、たとえば教室で別の子どもがしかられているのを見て怖かったとか、電車の中で人がけんかしているのを見て恐怖や不安を覚えたなど、周囲の人の体験に怖い思いをした人にも多くみられます。
昼夜逆転など生体リズムの乱れが起こりやすくなります
私たちの体には、およそ25時間で一巡する生体リズムがあります。 このリズムが正常に刻まれていると、朝明るくなると目覚め、暗くなると眠くなるのが普通です。 ところが非定型うつ病の場合、生体リズムに乱れが生じ、昼間遅くまで眠っていて、そのぶん夜目覚めている昼夜逆転が生じやすくなります。 このタイプのうつでは「鉛様まひ」といって、手足に重りがついたように体が重く、ぐったりとした身体感覚を持つことが多くなりますが、これも生体リズムの乱れで、昼間覚醒できないために起こると考えられます。
生活リズムを整え、目的を持って生活することが大切です
生活のリズムを乱れたままにしておくと、憂うつ、イライラなどの気分や、体の重さといった症状がますます悪化してしまいます。 規則正しい生活を心がけることが重要です。 また定型うつ病では休養をとることが肝心ですが、非定型うつ病では、昼間は目的を持って活動することが、リズムの乱れを改善するために大切です。
非定型うつ病対処方法
可能な場合はなるべく仕事に行く。 仕事に行ける場合には、多少つらくても時間どおり会社に出かけたり、仕事に取り組むことも必要です。やらなければいけないことがあり、それに取り組むことが、精神の覚醒を促すため、体内リズムを正常にしてくれるのです。 好きなことだけやっていると、睡眠・覚醒のリズムが暴走し、逆効果になります。
毎日目標を持って生きる
朝起きたら、「今日はこれをしよう」「何かをやり遂げよう」と、その日の目標を持って、毎日を生きることが大切です。 「この本を読もう」など簡単なことでかまいません。 「何かをしないといけない」と自分自身で自覚を持つことが、昼間の覚醒を促し、生活リズムを整えるのに役立ちます。
規則正しい生活をする
朝はきちんと起き、三度の食事を食べ、夜は12時前には寝る。 そうした規則正しい生活を心がけましょう。私たちの体内リズムは、朝起きて光を浴びることで調整されます。 目に光が入ると、脳の松果体から出るメラトニンという睡眠物質の分泌が抑制され、睡眠がリセットされます。これによって、一日24時間でサイクルする体のリズムが整うのです。
掃除や片づけなど、整理整頓を心がける
体を動かす方法としては、掃除や片づけなどもおすすめです。 適度な運動になるだけでなく、「今日は机の片づけをする」ということが、その日の目標になってリズム調整に役立ちます。きれいになると達成感もあります。 さらに体を動かす姿を周囲の人に見られると安心し、感謝されることで人間関係の改善にもなり気分がよくなります。
外に出てウォーキングなどで汗を流す
1日1回は外に出て、光を浴び、散歩をするなど体を動かすようにします。 ウォーキングなどの軽い有酸素運動をすると、それによって脳では気分を安定させる脳内物質の分泌が増え、気持ちが楽になります。
うつ病のタイプによって接し方が違います
普通のうつ病(定型うつ病)では、とにかくゆっくりと体を休め、休養をとることが必要。 周囲の人が「がんばれ」と言葉をかけたり、励ますと、本人が自分自身を追い込んでしまうため、よくありません。 逆に非定型うつ病の場合は、少し励ますことがかえって本人のためになります。決まった時間に起きて会社に行く。その日の課題をやり遂げさせる。かける言葉はやさしくても、心は厳しく持ちながら、本人の気力を奮い立たせるように接することが大切です。 また、普通のうつ病が多くの場合、絶望感によって自殺を企てる(とくに重症期を過ぎて行動を起こす元気が出はじめたときに)危険があるのに対し、非定型うつ病では、周囲の人に助けを求めるサインとして、衝動的に自殺を企てるおそれがあります。 不安や焦燥感が強いときは、しっかり見守ることが大切です。

新型うつ病に対する対応

新型うつ病の患者さんたちは、周囲の人の言葉に敏感に反応します。 そして被害的に受け取りやすく「(自分は悪くなく)周囲が悪い」と攻撃的になります。
うつの急性期においては、従来型うつと同様に本人の話に耳を傾け理解に努め、無理をしないよう保護的に関わるのはいいと思います。 しかしその対応をいつまでも続けていると、新型うつ病の患者さんは安住してしまい、先へ踏み出せなくなってしまうことがあります。
これは現実逃避傾向が強いからです。
急性期を過ぎたら、自立を促すために本人と適度な心理的距離をとりながら、本人ができることは本人にしてもらい、達成できればそれに対して評価する(ほめる、育てる)という対処方法が、比較的効果があるように思います。 小さな成功体験の積み重ねが自信へと繋がります。
逆に、一方的で命令調な物言いや、マイナス面を指摘するようなやり方は、強い拒否反応を生むばかりか、事態をますます悪化させるので要注意です。 遅刻や欠勤、その他問題行動がくりかえされるようであれば、就業規則などに照らして、客観的に会社側の対応内容を伝えることです。 言行不一致にならないよう、組織としての一貫した対応が必要です。

タイプ別新型うつ病の解説
新型うつ病は、社会文化的うつ病

非定型うつ病治療

薬物治療と認知行動療法やアサーショントレーニング、EMDRなどの心理療法を組み合わせることで、高い治療効果を得ることができます

非定型うつ病心理療法
ものの考え方・感じ方・捉え方(認知)の歪みを訂正していき、認知の変化により感情・思考・行動の変化をもたらす認知行動療法が行われます。対人関係において、自分の主張をうまく表現して、人間関係を円滑にしていくアサーショントレーニング人間関係療法も行われます。 また、眼球の動きを利用した新しい治療であるEMDRも併用されます。その他、リラクセーショントレーニングも併用されます。

非定型うつ病薬物治療
通常の抗うつ薬が効きにくく、気分安定薬(リーマス・デパケン・テグレトール)による強化療法の併用や、NaSSA(レメロン・リフレックス)セロトニン1aアゴニスト(タンドスピロン-セティール)などの新薬の併用、またクロナゼパム(リボトリール・ランドセン)二環系抗うつ薬(レスリン・デジレル)を使用しますが、薬剤に対する反応が悪く治療には長期間を要することが多いのが現状です。 アメリカではMAOI(モノアミン酸化酵素阻害剤)を投与して劇的な効果を出していますが、残念ながらこの治療薬は日本では承認されておらず使用できません。

新しい気質のうつ病

最近、外来に来るうつ病の患者さんは少し様変わりしていて、不機嫌で攻撃的に見える人や、受付で無理難題をいって怒鳴ったりする人がいます。 もちろんこのなかには、かくれ躁うつ病の患者さんが多くいるでしょうし、パーソナリティ障害、AD/HD、アスペルガー障害のうつ状態で受診される方もいるでしょう。 しかしそれ以外で、「ディスチミア親和型」という、特異な気質が指摘されています。
本来、うつ病の患者さんの病前性格である「几帳面」、「他者配慮的」といった気質を持たないうつ状態の患者さんが、若者を中心に多く見られるようになりました。
このようなうつを「ディスチミア親和型のうつ」と呼んでいます。 新型うつ病、非定型うつ病など、新しいタイプのうつ病として、近年注目されています。
このタイプの気質の特徴は「やる気のない倦怠」、「万能感(自分は偉い)」、「回避(めんどくさがる)」、「笑ううつ(笑いながら自殺していく)」とも呼ばれています。 抗うつ薬が効かず、治療が長引き、社会復帰困難であるといわれています(これは九州大学の樽味仲先生が指摘した概念です)。
ただこのタイプのうつについては、後述する自己愛型人格構造を呈する人が、うつ病や躁うつ病になり何度も再発をくりかえしていくうちに、このようなタイプのうつが形成されたのではないか、という指摘もあります。

うつ病の詳しい解説

上記のようなうつ病を、新型うつ病と言います。 典型的うつ病とは違い、新型うつ病は、おもに5つのタイプに分けられています。

・逃避型うつ病
・現代型うつ病
・未熟型うつ病
・ディスチミア親和型うつ病
・非定型うつ病

20~30代の比較的若年層で多く発症しているのが特徴です。 抑うつ気分や意欲の低下などは、従来の典型的うつ病よりも軽症の場合が多いようです。 新型うつ病の病前性格として、典型的うつ病のような真面目、几帳面、責任感、熱心さなどは認められません。
逆に、過保護に育てられ、依存的で、わがままで、自己中心的な言動を示し、自己愛的で世間知らずで、仕事に熱心ではないタイプが多いように思います。 周囲に対する配慮が足りず、自分で責任を感じることが少なく、すぐに他人に責任転嫁し、逃避的傾向が認められます。
また、仕事の最中はうつ状態で、突然泣き出したり、些細なことで怒ったり、周囲から見ても明らかに支障をきたしていますが、仕事がないときは、自分の趣味に没頭したり、気の合う友人と楽しく遊ぶ様子がみられます。 「社内うつ」、「プチうつ」とも呼ばれたりしますが、明らかにこれまでのうつ病とは違うタイプの「新型うつ病」が登場してきました。
新型うつ病は、提唱者によって「○○うつ病」とさまざまに命名されており、うつ病の診断基準にあてはまっても、必ずしも固有の病気として明確に位置づけられていません。 新型うつ病を、うつ病とは認めないという立場をとる専門家もいて、混乱状態にあるといえます。 今後、「うつ病」の診断についてはきちんとした検討がなされるべきでしょう。

新型うつ病タイプ別解析

現時点で、新型うつ病と呼ばれているものについて、その概略を説明します。

逃避型抑うつ
職場における配置転換などをきっかけに、不適応が生じるとうつ状態に陥り、職場での対人関係を避けて出社拒否となります。 休職することで、比較的短期間で症状は軽快しますが、復職の時期が近づいてくると、再び出社恐怖の状態になります。
しかし、仕事以外の趣味や自分の興味があることに対しては、活発に取り組めるという、いわゆる現実逃避傾向が強く、これが新型うつ病の側面を表しています。 逃避型抑うつは、比較的古い概念ですが、近年の新しいうつ病が脚光を浴びることにより、再び注目されています。
職場結合性うつ病
20~30代の若い世代を中心に、職場における「ミスを許さない緻密性」や「完全主義的傾向」に押しつぶされ、精神や生活にゆとりがなくなり、身体的にも疲労が蓄積し、不眠や頭痛などの症状があらわれはじめ、不安や焦燥感、パニック発作からうつ病に発展することもあります。
本人はそれなりに仕事をこなしているわけですが、正当に評価されないことに対して、不満や反発心を抱いていることもあります。 自殺念慮が強い場合などは、入院治療を考慮する必要があります。
現代型うつ病
特徴として、次の点があげられます。
①比較的若年者(30歳頃から)にみられることが多いが、中年期にもみられる
②患者さん自らが、進んで早期に受診することが多い
③仕事上、困難に直面せざるを得ない状況になると、当惑や恐怖感を覚える
④自己中心的に見えることが多い
⑤組織への一体化や、同僚への連帯感を避ける傾向か強い
⑥仕事以外の趣味的活動や、私的な勉強などは、熱心に続けていることがある

このタイプの人々は、自分のペースを乱されることに対する抵抗感が強く、会社組織の一員としてよりも、プライベートな時間を大切に守っていきたいという考えが強いです。 変化に弱いという点では、従来型のうつと共通する部分があります。
未熟型うつ病
子ども時代から両親の保護のもと、物質的に何不自由なく育てられた若者が、社会に出て自立を迫られたとき、社会(企業)の規範に適応することができず、挫折感からうつ状態に陥るケースです。 内省に乏しく依存的・自己中心的で、周囲に対して攻撃性をもつという特徴があります。
不安感や焦燥感に加え、さまざまな身体面での不調、パニック発作、自殺衝動を起こすこともあります。
入院などの庇護された環境におかれると、軽い躁状態を示したりすることがありますが、元来人付き合いは悪くなく、循環気質(社交的、協調性、善良など)という面から双極性障害(躁うつ病)の一種と考えられます。
ディスチミア親和型うつ病
この名称は、いわゆる従来型うつである「メランコリー型うつ病」に対して命名されました。 メランコリー型が中高年に多いのにくらべ、ディスチミア型は1970年代以降に生まれた比較的若い人たちに多いといわれています。
彼らは、社会生活におけるさまざまな人間関係、仕事のノルマや社会(企業)の規範に重圧を感じ、自ら医療機関を受診し、休職のため診断書を求めるというパターンがよくみられます。
現実(仕事)回避傾向があり、会社や上司への非難を□にし、無気力、ときに衝動的な自傷行為におよぶこともあります。 逃避型抑うつや未熟型うつ病と重なる部分が多くみられます。休養と服薬だけでは回復が困難なことが多いのですが、環境の好転により急激に改善することもあります。
非定型うつ病
うつ病といえば、「寝つきが悪い」、「朝早く目が覚めてしまう」、「寝た気がしない」など不眠にまつわる症状が圧倒的に多いのに対して、この非定型うつ病は、放っておけば何時間でも寝てしまうという、過剰な睡眠に陥る傾向があります。
同様に、典型的な従来のうつ病では、食欲がなくなり体重が減少することがしばしば起こりますが、非定型うつ病の場合は、むちゃ食いをするなどの衝動的な過食傾向があります。
また、一般的なうつ病では、朝が一番調子が悪く、時間が経つにつれ徐々に良くなるのに比べ、非定型うつ病では夕方から夜にかけて、発作的に不安や抑うつ、イライラがひどくなり、調子が悪くなるという特徴があります。 体は鉛のように重く感じます。
対人関係では、他人からの攻撃や非難に対して過敏に反応し、うつ状態がひどくなったり、過去の嫌な出来事が突然よみがえり(フラッシュバック)、イライラが募って感情がコントロールできなくなり(怒りの発作)、健全な付き合いができなくなることもあります。 逆に、自分にとって良いことがあると、それに反応して気分も変わりやすいという傾向があります。
若い女性に多いというのも特徴です。 買い物に依存したり、アルコールやインターネットなどに逃避することもあります。
そして、この非定型うつ病の多くの患者さんは、パニック障害を併存しています。 電車や人混みなど逃げ場のない場面で、激しい動悸や呼吸困難、発汗、手足の震え、死の恐怖などのパニック発作が起こります。 またその恐怖心のために外出を避け、日常生活に支障をきたすこともあります。
治療は、薬物治療のほかに規則正しい生活をし、認知行動療法などを組み合わせて行います。 非定型うつ病は、国際診断基準であるDSM-Ⅳ-TRにも取り上げられています。

ディスチミア親和型うつ病症状例

職場を転々とし、自ら診断書を求める新型うつ病(30歳女性・会社員)

Lさんは一人娘で過保護に育てられ、短大卒業後、4回転職し、今はある企業で秘書をしている。
彼女は、本当はスチュワーデスになりたかったのだが、今の業務は事務的な仕事ばかりで「自分が本当にやりたい仕事とは違う……」と悩んでいた。
あるとき上司から厳しく注意され「私はいじめられている……」と思い込み、次第に仕事へのやる気をなくしていった。 気分的な落ち込み、体のだるさ、動悸、不安感、頭重感、肩こりを訴え、「会社の人たちは、私のこの苦しい、つらい気持ちをちっともわかってくれない……」といいふらし、仕事を休むことが多くなった。
そんなとき、Lさんは「うつ病診断サイト」をインターネットで見つけた。 そこに書かれでいたうつ病の説明が、自分の症状にぴったりあてはまると思い、自らメンタルクリニックを受診し、「私はうつ病です。3ヵ月休養の診断書を書いてください」となかば強引に医師に診断書を書いてもらい、会社に提出して休職した。
Lさんは、毎日抗うつ薬を飲んで家で休んでいても、憂うつ、不安感、頭重感を訴える。しかし、気の合う友人から食事の誘いなどのメールがくると逢いに出かけるし、趣味のテニスにも出かける。 また友人から誘われて、気分転換にちょうどいいと思い、5日間ハワイ旅行にも出かけた。
Lさんは感情の起伏が激しく、ちょっと気に入らないと、家族に当たり散らしたり、甘いものを発作的に大量に食べたりする。 依存的でわがままな性格は、新型うつ病の特徴といえるだろう。
その後Lさんは、復職の時期が近づいてくると、再び憂うつな気分が強くなり、不安感、頭重感、動悸などの抑うつ状態を強く訴えはじめ、再びうつ病の診断書を書いてもらい休職したが、結局、会社には居づらくなって退職してしまった。

新型うつ病は、『社会文化的うつ病』

典型的うつ病と新型うつ病は、似て非なる別々の病気だと考えます。
誤解を恐れず大胆にいうと、典型的うつ病を「生物学的うつ病」、そして新型うつ病を「社会文化的うつ病」と命名したいと思います。

貧乏は最高の教育だったかもしれない

ではなぜ、新型うつ病がこのように増えてきたのでしょうか?
その原因について少し考えてみたいと思います。
わが国の社会は高度経済成長を経て、物質的に豊かになり、社会・文化的に成熟しました。 一方で、終戦直後の時代は、みんな食べるだけで精一杯でした。その頃と現在を比べると、経済、空間、時間、すべてにおいて、たいへん豊かになりました。 かつては、食べるものを大勢の家族が分け合い、住む家も狭いところに大勢の家族がいっしょに暮らし、自分の部屋をもつということは、ほぼできませんでした。 それが普通の家庭だったのです。
ですから現在のように、子どもがいつまでも親のもとで働かずに生活したり、自分だけの部屋をもち、その結果ひきこもったりするという状況は、あり得ない話だったのです。 しかし、そのように日本中が貧しい時代だったにもかかわらず、自殺したりノイローゼになったりする人は、あまりいなかったように思います。
現在、子どもから思春期・青年期、壮年期、老年期と、ありとあらゆる人の心が病んでしまっています。 臨床現場から患者さんを診ていて、豊かさというものが、こうした心の病気を次々に生んでいるような気がしてなりません。 豊かになるために、家族が、社会が一丸となって働いた結果豊かになった現代日本社会では、豊かになったがゆえに、心の病気が増えたといえるでしょう。
なんとも皮肉な結果です。現実問題として、このような新型うつ病や、リストカット、摂食障害といったさまざまな依存症は、社会病理が噴出していることを象徴しています。
新型うつ病や依存症は、心の病気であると捉える一方で、社会文化的な病気だと考えています。

新型うつ病にかかりやすい若者が育った環境

地域社会における共同体意識の低下、家族や同世代の子どもだちとのふれあいの減少、変貌する教育現場、インターネットや携帯電話、オンラインゲームの浸透による生のコミュニケーションの希薄化などが、若い人の社会適応能力を低下させたと唱える専門家もいます。
少子化や核家族化の影響で、物質面において豊かで恵まれた環境に育ち、大きな葛藤を持つこともなく過保護に育てられ、性格形成や精神的発達過程において自己中心的で未熟なまま社会に放り出された若者は、社会のルールに適応できないという面もあります(これらを「打たれ弱い人のうつ」と呼ぶ専門家もいます)。
30代を中心に、心の病を抱える人が多いことは先ほど述べましたが、この世代の人にとって、入社当時はバブル景気だったのが、その後のバブル崩壊と共に大きな不況の波が押し寄せ、先行き不安で不透明な状況がずっと続いています。 職場での交流が減り、気軽に相談できる雰囲気がないことも指摘されています。
そのため、悩みがあっても上司に相談することもできず、精神的にギリギリになるまで自分のなかに溜め込んでしまい、あるとき風船が割れるように、それまで蓄積していた疲労が一気に爆発するということが起きているのかもしれません。 古き良き時代の家族的な連帯はなくなり、自分が所属する組織の明日の姿も確実ではないにもかかわらず、つねに効率性や厳密性を求められ、緊張にさらされつづけています。このような状況下で、将来を描けないまま孤立化する彼らにとって、「働く意味」や「生きる意味」を問い直す作業が、今必要とされているのかもしれません。
このように、発病に至るバックグラウンドがこれまでの社会状況とは大きく異なるため、新型うつ病の症状や対応が、従来型うつと異なるのは、当然のことなのかもしれません。

現代の若者の特徴

現代の若者は、豊かな社会のなかで過保護に育てられ、まことに未成熟な人たちが多いように思います。 現実社会での体験が乏しく、現実感覚が希薄で、自分自身の問題を、自ら悩んで解決する力が不足しています。 自分自身の問題であることすらわからず、都合の悪いことは他人のせいにします。
いうなれば、世間知らずということです。
親は子どもに100%以上の愛情を注ぐものです。 それが当然と思って育った子どもは、愛情も幸せもお金も、自分がなにもしなくても、天から降ってくるものだと思っています。 いつでも自分は親や周囲の人々から愛されていて、大事にされるのが当り前だと思っている、そんな自己愛的な若者が多くみられます。
このような受身の人間関係しか知らない若者が、実際に社会に出てみると、さあ、大変です。 これまで当たり前だと思っていたことが、周囲にはまったく通用せず、どうしていいかまったくわからないのです。
実際の社会では、上下左右の複雑な人間関係が前提としてあり、自ら働きかけて交渉し、物事を運ばなければなりませんが、それができないのです。 自ら動くことができないので、なにかしら指示が出なければ動けません。
また、自分のことしか考えられない傾向、自分中心に地球が回っていると思っている傾向が非常に強いと思います(これを「私事化」といいます)。 周囲でなにが起ころうと、「自分には関係ない」と思い、自己中心的に考え行動します。 社会一般常識とか公的感覚が欠如しているのでしょう。
そして、人間が生きるうえでもっとも大切にするべきはずの「生きがい」を持っている若者が、非常に少なくなったと思います。 臨床の現場でも「将来どうするの?」と尋ねると「さあ……?考えたことがありません……」、「将来の目標は?」と聞いても「いやあ……?わかりません……」という返答がほとんどなので、驚くばかりです。
日本の国そのものが不透明で、みなが右往左往していて、独自の世界観を持たない状況なので、むべなるかなという感じもしますが、自分のしたいこと、「自分はこうなりたい」というビジョンをまったく持っていないのです。
そして当然のことながら、彼らの人間関係はうまくいきません。 いつも自分か大事にされることしか知らないのですから、愛情は与えられるのが当たり前、幸せになれないのは親が悪い、社会が悪いと他人のせいにばかりします。 幸せになる努力もしなければ、幸せになるために果たす自分の義務や責任については、なにも考えていません。
つまり、現代の若者は精神的にひ弱で無気力になっています。 そして、とても依存的です。
いつも人を頼り、自ら行動しようとしないわりに、他人に注意されたりすると激しく反発するといった「依存と攻撃」の言動をとります。

労働環境の変化

人間は太陽とともに生活しています。 昔の人は、陽が昇ると起きて働き、陽が沈むと帰って寝るという、大自然のリズムのなかで生活していました。 そして、人間の体内には体内(生物)時計があって、覚醒・睡眠リズム(サーカディアンリズム)を維持しています。 このリズムが長期間乱れると体調不良となり、気分的にも精神的にも不安定となり、うつ状態をひき起こすことにもなります。
かつて人々は、自給自足の農村社会のなかで働いていましたが、産業革命の進展とともに、農村から都市に集まり、工場や会社組織のなかで労働者として働くようになりました。 労働時間も次第に長くなり、人々はせかせかと駆り立てられ、目まぐるしい速さで働いています。 仕事時間の延長とともに睡眠時間は少なくなりました。帰宅時間も遅くなり、睡眠時間をきりつめて働くことを余儀なくされるようになりました。 仕事は正確に、規則正しく、几帳面に、秩序正しく、厳密に行われるようになり、失敗は絶対に許されなくなりました。
現代社会では、職場自体がコンピューター管理されるようになり、生産性の向上と競争力の激化とともに、長時間労働を強制されるようになりました。 また、消費者、利用者、お客さんへの細やかなサービスも要求されるようになり、ますます過重労働へと追い立てられるようになりました。 世界はグローバル化し、昼夜関係なく仕事をするようになり、24時間、一日中働くような労働体制をとることになりました。
現代人は現代社会の労働体制に生きる力を搾取され、すっかり疲弊してしまっています。 その結果、人々は「新型うつ病」のなかへ逃避するようになったのかもしれません。

新型うつ病は、『社会文化的うつ病』

心の病気に対する世間の認識の変化

1998年以降、日本では自殺者数が急増し、毎年3万人以上の自殺者がでています。 この自殺者には、うつ病の患者さんやうつ状態の人が多く含まれているといわれています。(そのなかには、「かくれ躁うつ病」を患っている人も含まれていると思います)
その背景として、上記のような労働環境の変化によって、長時間労働や過重労働が過度のプレッシャーとなり、うつ状態から自殺に至る人がいてもおかしくはないでしょう。 「過労死」、「過労自殺」の用語がマスメディアに取り上げられる機会が増え、社会的関心が高まり、企業は働く人々の労働環境やメンタルヘルスに責任を負うようになりました。
その結果、自殺予防対策として、うつ病の早期発見・早期対応が職場に求められるようになり、産業医を含む医療従事者からの啓発活動も行われ、うつ病に対する偏見・誤解が少なくなり、同情の念が醸成されてきました。 そして、比較的容易にうつ病の診断書を提出し、休職できる雰囲気が作られてきたのです。
今や、うつ病は世間一般に認識され、うつ病の診断書は「水戸黄門様の印籠」のような力を発揮し、大手をふって休職できるようになりました。
ところが、それが高じて容易に診断書が提出されることが多くなり、人事担当者や産業医から訝しがる声が多くなってきているのも事実です。 このような徴候が、新型うつ病に対して懐疑的な疑念を醸成させています。

新型うつ病と依存症

新型うつ病が、現代社会の歪みによって作り出された現代病であることは、すでに述べました。 新型うつ病の患者さんは、これまでの典型的うつ病患者さんに比べ、気分の波が大きく、症状も比較的軽いのですが、病前性格がまったく異なります。
また、新型うつ病を発症する患者さんの性格特徴や症状は、「かくれ躁うつ病」に共通していると思います。 社会情勢の変動、家族共同体の崩壊、核家族化・少子化から親の養育態度も変化し、若年層がひ弱になり、うつ状態に陥る。
このように複雑で巨大なうねりのなかで、現代人の精神は疲弊・動揺し、うつ病の疾病構造にも変化を与えたのです。 つまり、社会文化的変動が創製したうつ病、それがすなわち「社会文化的うつ病」だと筆者は考えます。

社会文化的うつ病が、現代社会の文化的変動によって作り出されてきたことは先に述べましたが、社会文化的うつ病と並行して、時代の精神病理として登場したのが、さまざまな依存症です。 依存症は、あるひとつの対象(物質、行為、人間関係など)にのめりこんでしまって、そこから抜け出せない病態です。 しかも、セルフコントロールができないので、日常生活が乱れ、仕事で失敗したり、人間関係でトラブルを起こしたりします。
昭和40~50年代の高度経済成長期に多くの人々が酒を飲み、「アルコール依存症」として社会問題となりました。 ほぼ同時期に、若い女性たちの間に「摂食障害(拒食・過食・嘔吐)」、「リストカット(手首自傷症候群)」、「買い物依存症候群」が流行しました。
また、平成10年に「第3次覚醒剤乱用期」が警視庁から宣告され、「薬物(覚醒剤)依存症」が精神科医療の現場におしかけてきました。 続いて、平成15年頃から「ギャンブル依存症」の相談が目立ってきました。
最近では「性依存症(性犯罪・痴漢・盗撮・露出等)」の相談が増えてきています。
そのほかにもさまざまな依存症があります。依存症とは、昔流行った歌の文句のように、わかっちゃいるけどやめられない病気なのです。

「社会文化的うつ病」と「依存症」は同根の病気

社会文化的うつ病(新型うつ病、もしくは隠れ躁うつ病)と依存症は、一見すると異なった病気のようにみえますが、実は「同根の病気」です。
社会文化的うつ病も依存症も、昭和40年代からの高度経済成長期から平成のバブル崩壊時にかけて、ほぼ同時代に同じ社会文化的基盤の上に、「現代病」として登場してきた同工異曲(見かけは異なっているようだが中身は同じ)の病気です。 社会文化的うつ病はうつ病という病状を、依存症はさまざまな依存の病状を表していますが、根っこは同じで、両者の性格特徴は酷似しています。 両者とも過保護に育てられ、依存的で、わがままで、一方的な自己主張をして、自己愛的で、依存と攻撃的な言動を示し、他罰的な言動をとります。
これらの病気の患者さんは、自分の言動が周囲の人や現実の社会のなかで、どのように受け止められ、認識されているのかまったくわかっていません(「現実検討識がない」ということです)。周囲の人々を巻き込んで、会社の秩序や家族の生活を混乱させているということに、気がつかないのです。(気がついたとしても、自分のせいではないと思っています)
たとえば、社会文化的うつ病の患者さんの体調が悪くなり、仕事が滞り、うつ病という診断書を出して、一方的に会社を休んだとします。 上司や同僚はその人の仕事を代わってやらなければならなくなり、負担が増え、迷惑をかけられることになります。 患者さんは復職しても以前と同じような質と量の仕事はできないうえ、たびたび休んだりしますので、周囲の人もその人をあてにしなくなります。 家族も本人がなかなか復職しないので、経済的にも困りますし、本人にどう接していいかわからず、困り果ててしまいます。
しかし社会文化的うつ病の患者さんは、自分が周囲の人たちに迷惑をかけているとは思っていません。
また依存症の患者さんは、さまざまなアディクション、たとえば飲酒やギャンブルにのめりこんで借金が増え、家庭内を混乱に陥れます。 本人は目の前のことにのめりこんでしまい、ブレーキの利かない状態になっているので、家族もどう対応したらいいかわからず、止めさせようとしても、かえって争い事となり、家庭内は血なまぐさい修羅場と化します。

セルフコントロールができない病気

両者の病気の患者さんは、セルフコントロールができません。 自分の思っていることにのめりこんで、自分のしたいことをしているだけなので、同じことを何度もくりかえします。
人前では「同じような過ちは、もうくりかえしません」といいますが、それとは裏腹に、心のなかではその思いを深くしまいこんでしまっているのです。(これを「面従腹背」といいます)
アルコール依存症の患者さんの場合、「もう絶対に飲酒はしません」といった舌の根が乾かぬうちに飲んでしまうことがよくあります。
本人は、自分が嘘をついたとは決して思っていません。
社会文化的うつ病の場合も、本人は反省の色を示さず、むしろ「自分がつらくて苦しいのは、親や会社の同僚、社会が悪いのだ」と、他罰的な言動をとります。
同じような人間関係の摩擦やトラブル、仕事上のミスをくりかえし、休職をくりかえします。 これらの病気は、セルフコントロールのできない点や他罰的な傾向が、性格特徴と同様に酷似しています。

悩みを「悩み」として向かい合わず、「病気」と捉える現代人

これらの病気で、もっとも特筆すべきだと思うのは、豊かな社会の若い世代が、自分の将来の目標や生きがいを喪失してしまっているということです。 自分はなにを求め、どのように行動していいのかわからないということです。
そのため、中長期的な視野を欠き、目先のことにのめりこんでしまい、うつ症状を訴えたり、さまざまな依存症にのめりこんでいきます。 また、人間は日常生活のなかで、気分(感情)の浮き沈みがあり、体調の良いときもあれば悪いときも当然あるものです。
ところが、健康神話にとりつかれている現代人は、悩みや迷いからくる体調不良を、すぐに病気などの症状だと思い込んで、医療機関を受診します。(昔、医療保険のなかった時代には、めったに医者にかかることはできませんでした) 現代人は悩みを「悩み」として向き合うことができず、自分の問題を我慢して自分なりに対処することができなくなっているのです。
とくに社会文化的うつ病は、自分が現在置かれている人間関係や生き方、人生問題の悩みを「うつ病」として、医療次元の問題にして受診します。 依存症の患者さんも、さまざまな問題を医療に持ち込んできます。 本来は自分自身の柔軟性を欠いた性格的な問題や、社会に不適応である生きざまに基因したトラブルであるにもかかわらず、病気として医療の次元に持ち込んでいるのが、現代病である両者の本質なのです。

現代青少年の自己愛型人格構造-「自分探し」か「引きこもり」-

自己愛型人格構造の病理は、現代の青少年に非常に多く見られるものです。 競争社会のなかで育ち、親からの過度な期待をうけ、個性をアピールするためにひたすらがんばってきた結果、自分の理想・思い描いていた自分と違う、現在の本当の自分を受け入れることができず、逃避的になりやすいタイプが、現代の青少年層に増加してきたという指摘もあります。
彼らの特徴・症状は、「等身大の自分と向き合えない」、「(自己愛といいながら)等身大の自分を愛せない」、したがって「他人も愛せない」ということがあげられます。 順風満帆なときは問題ないのですが、もともと何不自由なく育ってきているので、失敗や挫折経験が乏しく、なにか困難な問題が起こると、急に自分探しの旅に出たり、引きこもってしまう傾向が強いようです。 また、これらの症状には抗うつ薬が効かないケースが多々あります。
このような過程を見ていると、最近のいわゆる「草食系男子」にこういった自己愛型人格構造の人が多いような気がするのは私だけでしょうか?