男性更年期障害(LOH)
男性更年期障害(LOH) とは
男性更年期障害は、中年以降の男性に見られるホルモンの減少による症状です。性欲低下、疲労感、抑うつ、イライラ、筋力低下などがあり、女性の更年期と異なり変動が緩やかなのが特徴です。診断は難しく、血液検査でホルモンレベルを確認します。治療法として、ホルモン補充療法やライフスタイルの改善指導が用いられます。1.男性更年期障害とは
更年期障害は女性だけではなく、男性にも加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)という更年期障害を引き起こすことがあります。これは、男性ホルモンであるテストステロンの分泌量が加齢とともに減少することで起きると考えられています。
テストステロンは一般的に中年以降にゆるやかに減少しますが、その開始時期やスピードには個人差があります。女性の更年期障害は、閉経前後10年間に発症するので自分でも気づきやすい一方、男性の場合は60歳や70歳になってから不調を訴える方もいるといった特徴があります。
女性の更年期障害の場合は閉経後5年ほどで症状が落ち着き、回復しますが、男性の更年期障害には終わりがなく、そのまま放置していても回復しません。また、症状が現れていても自覚していない男性が多く、さまざまな心身の不調を「年のせいだ」と済ませてしまいがちです。そのまま治療をせずに生活していると、重症化してしまうケースもある病気です。
2.どのような症状か
男性ホルモンであるテストステロンが低下すると、心身ともに不調を来します。また、女性の更年期障害と比べても男性の更年期障害は認知度がそこまで高くありません。症状が現れていても自覚していない、この障害を知らないという男性が多い現状があります。
男性更年期障害の症状には、身体症状と精神症状、性機能障害の3つに分けられます。詳しい症状は次のとおりです。
身体症状 |
筋力低下、全身の倦怠感、多汗、骨粗しょう症、頻尿、筋肉痛、頭痛、めまい、耳鳴り、肥満、体毛の変化、ほてり、のぼせ、動悸、内臓脂肪の増加など |
精神症状 |
イライラ、短期、興味の喪失、無気力、不眠、記憶力や集中力の低下、疲れやすい、頭のもやもや感など |
性機能障害 |
性欲の減退、勃起障害(ED)など |
とくに精神症状は、うつ病と間違いやすいと言われており適切な症状の鑑別が必要となります。気分の落ち込みや不眠などのうつ症状は、男性更年期障害の治療による効果を期待できます。
また、男性の更年期障害の症状は、いつ終わりがないために長期間これらの症状に悩まされている方も珍しくありません。
3.男性更年期障害になりやすい人
男性の更年期障害は加齢などによるテストステロンの減少が原因であり、40歳代以降の男性であれば誰にでも発症する可能性がある障害です。
とくに、更年期障害になりやすい男性は次のような方と言われています。
- 加齢
- 重度のストレス、疲労
- 睡眠不足
- 神経質、まじめな男性
- 責任感が強い男性
- 几帳面な男性
- 競争心が強い男性
- テストステロン減少のスピードが速い
これらの原因の中で、テストステロンが減少する代表的なものは過度なストレスです。40歳以降になると、仕事や家庭状況の変化や親の介護など、さまざまな背景がきっかけで過度なストレスを受けることが多くなるでしょう。過度なストレスは、テストステロンの減少スピードを速め、さらなる症状の悪化につながると考えられます。
4.男性更年期障害の診断・治療
①男性更年期障害の診断
男性更年期障害の診断には、主に問診と血液検査を行います。
問診には、男性更年期障害質問票(AMS)といった質問紙を使うことが一般的です。全17項目の質問があり、身体や心の症状、性機能の不調の有無や程度を「症状なし」「軽い」「中等度」「重い」「非常に重い」と0~5点の点数をつけます。17項目で50点以上の場合は、男性ホルモンが低下している可能性が高い状態であり、治療が必要だと診断されます。
血液検査では、血中の男性ホルモンのテストステロン量を調べます。主に遊離型テストステロン値という数値をチェックし、8.5pg/ml未満の場合に男性更年期障害の可能性があると診断されます。この数値と症状をあわせて、個々に対応していくことになります。
また、前立腺肥大症や前立腺がんなどの他の病気と区別するために、超音波検査や腫瘍マーカー(前立腺がん)検査も行います。テストステロン減少のスピードがゆるやかな場合は、更年期障害の症状も少しずつ現れます。この場合、本来は男性更年期障害の症状であるにもかかわらず、他の病気と間違えるケースがあるため的確な診断が重要です。
②男性更年期障害の治療
男性更年期障害の治療方法には、生活療法や漢方薬、男性ホルモン補充療法の3つがあります。生活療法は、主に運動を日常生活に取り入れていきます。筋肉量を増やすことで、成長ホルモンや男性ホルモンの分泌を促され、症状が軽減できます。他にもストレスや睡眠、食事などの習慣の改善も効果的でしょう。
治療に使う漢方薬は、補中益気湯、八味地黄丸、芍薬甘草湯、葛根湯などです。すぐに症状が改善するわけではなく、ゆっくりと男性ホルモンの産生が増加されます。
症状が重い場合は、男性ホルモン補充療法を選択します。ホルモン補充療法には、男性ホルモン(テストステロン)の注射や性腺刺激ホルモン(hCG)の注射、男性ホルモンの塗り薬の3種類から選ぶことになるでしょう。治療は短い期間で終わる場合もあれば、数十年にわたり治療を続ける場合もあり、治療の効果も個人差があります。
他には、症状にあわせた治療を行います。骨粗しょう症が進行しているなら骨粗しょう症治療薬、性機能が衰えているならED治療薬、うつ症状が重いのであれば抗うつ薬などを使い、それぞれの症状を治療していきます。
5.男性更年期障害とうつ病
男性更年期障害とうつ病は、密接に関係しています。男性更年期障害には、「何となく不調」「イライラする」「眠れない」「やる気が出ない」などの精神症状が起きやすく、うつ病と間違えて診断されるケースがあります。精神症状があると、まずは心療内科を受診し、うつ病と診断されることが多いでしょう。
男性更年期障害によるうつ症状は、「死にたくなる(希死念慮)」が起きるほどの重さはありません。もし、このような気持ちが起きればうつ病によるうつ症状の可能性があるため、専門的な治療を行う必要があります。
うつ症状によっては、男性ホルモン補充療法により改善される場合もあります。男性更年期障害は、泌尿器科や内科、精神科のさまざまな視点から治療を行うことが可能です。抑うつ状態が長く続いている場合は、テストステロンの分泌量の低下を防ぐ生活をしながら、うつ病の治療を続けていきます。
6.男性ホルモンと生活習慣の関係
男性ホルモンのテストステロンは、生活習慣と深い関わりがあります。症状の改善や男性更年期障害の予防、男性ホルモンの減少による生活習慣病を予防するため、生活習慣を見直しましょう。
男性が加齢によりテストステロンが減少すると、糖尿病や肥満、骨粗しょう症、動脈硬化、脳梗塞などの病気にかかりやすくなります。ふだんから意識して生活することで、テストステロンの分泌量を増やすことにつながります。
テストステロンの分泌量を増やすためにできる生活習慣の改善として、次のような生活を意識してみましょう。
- バランスの良い食生活
- ニンニク、玉ねぎに含まれるアミノ酸が摂れる食事
- 運動習慣がない場合でも簡単な筋トレ
- 睡眠の質を上げて熟睡する
- 寝る前にPCやスマホを見ない(ブルーライトを浴びない)
- 起床後は日光を浴びる
- アルコールを摂りすぎない
- できるだけ趣味や友人との付き合いから社会とつながる
テストステロンの分泌量の低下は、もともとの分泌量や環境などによって変化します。たとえば定年退職後に、社会との関わりを持たない孤独な環境におかれると、テストステロンの分泌量は低下すると考えられるでしょう。
男性更年期障害の症状が起きた際は、泌尿器科を受診し診断を受けましょう。そして、生活習慣の改善とともに適切な治療を行うことが大切になります。