プログラムの実施方法2

プログラムの実施方法2

この記事のもくじ

エクスポージャー(曝露療法)

不安な場面に自分を慣らす

 社交不安障害への認知行動療法で、必ずといっていいほど用いられるのがこのエクスポージャー技法です。一言でいうと、あえて苦手な状況に自分の身を曝して、不安や恐怖に対して慣らしていく方法で、曝露療法ともいいます。不安や恐怖をできるだけ避けたいと思うのは普通ですが、社交不安障害においては逃げてしまうと、ますます不安や恐怖は増大していきます。たとえ恐怖を感じても、命に危険が及ぶような状況でないかぎり、その場にとどまり続ければ、脳は「これは、それほど脅威ではない。大丈夫だ」と判断して、不安や恐怖感を徐々に和らげていくものです。どんなに強い不安でも、時間の経過とともに不安は自然におさまっていきます。しかし、回避行動をしていると、その場では不安はすぐに治まるものの、不安が完全になくなったわけではないので、また起こるのではないかという不安が常に持続していることになります。

ところが、逃げずに向き合っていれば、「苦手だ」「不安だ」「恐い」「うまくいくわけがない」と思っていた感情が、「不安はあるものの、耐えられないことはない」「意外と大丈夫だ」という感覚を、身をもって体感することができるのです。このエクスポージャーを繰り返し実行することによって、刺激に対する慣れが生じ、予期不安も軽減して、回避行動をとらなくてもすむようになるのです。安易に回避していると、かえって恐怖感が増して、自信をつける機会を逃すことになります。

エクスポージャーの進め方

 恐怖に慣れるといっても、いきなり一番自分が苦手としている状況に直面するというわけではありません。不安や恐怖の程度は、人によっても異なり、状況によっても違います。まず自分はどんな場面において恐怖を感じているのか、その不安度を軽い方から重い順にリストアップして並べてみます。この「エクスポージャー階層表」は、治療者と患者さんが話し合って作るとよいでしょう。

【エクスポージャー階層表】(一例)

項目 不安度
駅のプラットホームに立つ。 10
近くの個人病院に行く。 20
デパートのエレベーターに乗る。 25
賑やかな繁華街を1人で歩く。 35
ショッピングモールで、知らない人に道を尋ねる。 40
友達とファミリーレストランでランチをする。 50
数人の同僚と大きなレストランで食事をする。 65
親友と映画を見に行く。 70
人が大勢のっている電車に乗る。 85
高速道路を運転する。 100

 次に、自分はどんな点を克服したいのか、具体的に考えてみる必要があります。漠然とした目標では、どのように行動してよいのかわかりませんので、まずは具体的な目標を定めます。

《具体的な目標の一例》

  • ○ 友達の結婚披露宴に参加して、周りの人と会話しながら食事をしたい。
  • ○ レストランのテーブルで、食事をしたい。
  • ○ 10人以上の会議で、発言出来るようになりたい。
  • ○ 電車に乗って、座席に座ってみたい。
  • ○ 合コンに参加して、初対面の人と5分くらい会話をしてみたい。
  • ○ その他…。

 具体的な目標が設定されたら、その目標を数段階に分けて、比較的抵抗なく臨める状況からエクスポージャーを始め、徐々に難しい課題へと進めていって、最終的に目標が達成できるようにします。恐怖に慣れていくには、「苦手だけれど、頑張ればできるかもしれない」というレベルから始めることが大事で、いきなり恐怖の強い課題に取り組んで、治療に失敗することもあるので、治療者と相談しながら課題を一つずつ克服していきます。また、一つの課題を克服するために、数回かけて行うことも必要で、繰り返して実践することによって、恐怖や不安の強さや時間は、次第に小さくなってきます。実践に当たっては、状況に応じて課題の変更や立て直しも行います。エクスポージャーの効果を高めるためのポイントを挙げておきます。

  • 1. 課題となる状況の設定は、自分でよく吟味して行う。
  • 2. 不安をなくすことを目標にしない。
  • 3. 1回で慣れることを期待しない。
  • 4. 短い間隔で何回もくり返す。
  • 5. クリアできたら、自分で自分に褒めてあげる。

ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)

先入観を捨てる

 ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)は、「社会生活技能訓練」といって、一般に、心の病気をもった人が、社会復帰する際に受ける訓練のひとつで、精神科のデイケアなどで行われています。社交不安障害の人の中には、人とのコミュニケーションが苦手で、対人関係を避けがちな人が多いです。人づき合いを円滑にするソーシャル・スキル(社交術)を身につけることは、対人場面での不安や緊張を和らげるうえで有効な方法といえます。

一般に社交下手な人は、人と人とのかかわりに対して、もともといいイメージをもっていない場合が多いです。「みんなに会っても、どうせ自分だけが浮いてしまうだろう」「会っても、会話のきっかけがつかめないのではないか」「人と会うことが煩わしい」「自分は人に溶け込めない」などといった否定的な考えをもっています。他人と良い人間関係をつくるには、こうした先入観をまずすてることから始めます。そして、肯定的なイメージを重ねるトレーニングがなによりも重要となってきます。「人と会話をすると、楽しいだろうな」「自分の知らない話をたくさん聞けて、世界が広がりそうだ」「話し友達がいることは、いいものだ」など、人付き合いを楽しむ自分をイメージすることです。

コミュニケーションの取り方

まず、コミュニケーション力をつけるには、「聞き上手になること」、「自分の考えを伝えられるようになること」が2つの重要なポイントです。話すことに自信がもてない人は、まず聞き上手になることから始めます。聞くということは、相手の話に集中することですので、自分への集中(不安や体の変化など)が和らぐことにもなります。「聞き上手になる」には、①相手の話をよく聞く、②ただうなずくだけでも、相手は話しやすくなる、③「そうですね」という相づちを入れると、さらに相手は話しやすくなる、ことを知ることです。

次に、人の話を聞くことができるようになったら、今度は自分の言いたいことを、相手にうまく伝えられるようになることです。「自分の考えを伝えられるようになる」には、①「こんなことを言ったら笑われる」といった思考パターンをやめる、②相手の反応について、あれこれ考え過ぎない、③話すときは、穏やかに話す、④伝えたいことは、できるだけ具体的に簡潔に話す、などに心を配ります。このほか、声の調子や大きさ、相手との距離の取り方、会話の間やタイミングをつかむ、表情をつくる、挨拶をする、などの訓練も必要になります。

社交術は笑顔と姿勢で決まる

 社交術は、第一印象で相手に友好的な印象を与えられるかどうかで、その後の展開が決まってしまいます。好印象を与えるポイントは「笑顔」と「姿勢」です。ところが、人とのコミュニケーションが下手な人には、共通した問題点があります。「相手を見ない」「こわばった表情をしている」「背中を丸めてうつむいている」「まばたきばかりしている」「体を相手に向けていない」「全身を傾けている」「腕を組み、足を組んでいる」などの姿勢や表情です。この体全体が発しているメッセージは相手を拒否しているメッセージで、「溶け込みたくない」「声をかけないでほしい」と言っているのと同じです。これでは、相手も近づきたいとは思わないでしょう。

人と良いコミュニケーションをとろうと考えるならば、まず自分自身から相手に対し、「あなたを受け入れます」というメッセージを、体全体で発することです。最も効果的なメッセージは、「笑顔の表情をする」ことと、「リラックスした姿勢」をとることです。対面したときの第一印象は、ほんの数秒感で決まります。相手の顔を見るなり、自分からニッコリ微笑むのです。自分の心を開いた友好的な態度が、相手もまた心を開いて応じてくれるのです。

友好的な表情や姿勢というのは、「相手の方に顔を向け、できれば顔を見るようにする」「顔はリラックスした表情をつくり、口角を少し上げて笑みをつくる」「背筋を伸ばして、体を相手のほうに向ける」ことが、相手を受け入れる姿勢になり、コミュニケーションはここから始まるのです。

特に笑顔をつくれるかがポイントです。そのためには、鏡の前で笑顔の練習をするのも方法です。豊かな表情は、顔の筋肉を柔軟に動かすことから生まれます。鏡の前で、目や眉、頬や口を大きく動かして、いろいろな表情を作ってみましょう。笑顔をつくる練習は、前歯で軽くストロー(割り箸でもよい)をくわえ、口角を引き上げるようにして、そのままの状態からストローを外せば、やさしい笑顔ができあがります。口角を引き上げるには、頬の筋肉まで動かすようすれば出来ます。また、リラックスした姿勢を作るには、ゆっくりした呼吸をして、肩の力を抜きます。腕組みをしたり足を組んだりしないことです。近づいてくる相手に対して、体と顔をまっすぐ向けて、微笑みます。これで「あなたを歓迎します」というメッセージを送ることができます。

次に、会話もコミュニケーションをはかる上で大事な要素になります。ただし、社交術の観点からすれば、会話の内容よりも、スムーズな言葉のやりとりの方が重要です。何か面白いことを言わなければならないとか、話題を何にするのかということは、さして重要なことではありません。会話は、相手があってこそ成立するものです。自分一人だけで喋り続けようとせず、まず相手の話に耳を傾け、うなずくだけで会話は成立します。また、会話の最中の視線は、ときどき目を合わせるくらいが丁度良いでしょう。まったく目を合わせないのも、じっと目を見続けるのも、相手に居心地の悪さを与えてしまうことになります。良い聞き手こそが、気持ちよい会話を続けるテクニックなのです。

リラクゼーション(呼吸法・筋弛緩法)

 心と体の緊張を和らげるテクニックとして、リラクゼーション法があります。代表的なリラクゼーション法には「呼吸法」と「筋弛緩法」があり、これを実践することによって、①「体をリラックス状態にさせ、心が感じている不安を緩和させることができる」、②「不安になっても、あわてないで対処できるようになる」、③「長期間続けることによって、不安を減らす効果が期待できる」などのメリットがあります。社交不安障害の人が、強い不安を感じると、体は本人の意思に反して過剰に反応し、筋肉が緊張して、呼吸が浅く、速くなります。こうした体の変化は、交感神経の働きが活発になるためで、この神経の興奮を抑制するのが、リラクゼーション法なのです。

ここに示すテクニックは、いずれも身体面に起こる反応を意識的にコントロールすることで、緊張感を和らげる方法です。不安を感じたときだけでなく、普段からゆったりした呼吸を心がけ、筋肉の緊張を解きほぐす訓練を重ねることは、過剰な反応の抑制に有効と思われます。

呼吸法

 緊張すると、知らず知らずのうちに、呼吸が浅く、速くなります。そして、過呼吸の状態におちいると、めまいや息苦しさ、筋肉の硬直などの症状が起こります。浅く速くなった呼吸を、深くゆっくりした呼吸に変えると、動悸などの身体症状が改善され、体の緊張がほぐれてきます。呼吸には、胸式呼吸と腹式呼吸の二つがありますが、深くゆっくりした呼吸をするには、腹式呼吸が最適です。


《腹式呼吸のやり方》

  • ① 自然に背筋を伸ばした姿勢で椅子に座り、肩の力を抜きます。
  • ② 下腹のヘソのあたりをへこませ、お腹の中の空気を全部だし切るようなつもりで、ゆっくりと息を吐きます。このとき、心の中で5~7ぐらい数を数えるようにします。
  • ③ 吸うときは、お腹をふくらませながら、吐くときと同じように、心の中で5~7ぐらい数を数えるようにします。

筋弛緩法

 不安なときは、全身のいろいろな筋肉に力が入っています。それに気づき、筋肉をゆるめてあげることで、心の緊張が和らいでいきます。筋弛緩法を繰り返して行うと、自分の体がリラックスした状態を、自分で感じることができるようになります。

《筋弛緩法の基本的なやり方》

  1. 一度、筋肉に力を入れて、その後、瞬間的に力を抜き、筋肉がゆるんだ感覚を味わう。
  2. 力を入れるときは息を吸い、抜くときは息を吐きます。息は止めないようにする。
  3. 気持ちがいいと感じる程度に、数回ずつ行う。
【肩の筋肉を解きほぐす】
 両肩を耳につけるようにして、ギュッと引き上げ、緊張させます。その後、一気に肩の力を抜き、ストンと肩を落とします。

【足先の筋肉を解きほぐす】
 仰向けになるか、床に座るかして膝を伸ばし、かかとを突き出して、足先は手前にギュッと曲げます。その後、パッと力を抜き、足先をだらりとさせて自然にまかせます。

【腕・指の筋肉を解きほぐす】
 握りこぶしをつくって、握りこぶしが上にくるように垂直に立てて肘を曲げ、腕で脇腹をギュッと締めるようにして力をいれます。その後、腕と指の力を一気に抜き、ダランと下方に落とします。

【指の筋肉を解きほぐす】
 息を吸いながら、両手の手のひらを上に向け、力いっぱい5本の指に力を入れながら手のひらを広げます。その後、息を吐きながらフワッと指の力を抜きます。手のひらから腕までの力が抜けます。

【あごの筋肉を解きほぐす】
 上あごはそのままの位置にして、下あごだけを下方におろし、軽く数回ほど上下運動させます。その後、下あごだけを軽く数回、左右にずらすように動かします。