治療の流れと手法

治療の流れと手法

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治療の流れと手法

 認知行動療法の進め方には、基本的な形式はあるものの、実際は治療者が患者さんに合わせて工夫しますので、細部においては患者さん一人ひとりが違った治療と考えてよいでしょう。認知行動療法の最終目標は、患者さん自身が、自分の考え方や感情、また行動をコントロールできるようになることです。そのために、患者さんはその目標をめざして治療に取り組み、治療者は患者さんを全面的にサポートする役目があります。どちらも主役であり、共同作業による治療法と言えます。 

一般に認知行動療法の場合、1回30~50分程度の時間で、対話を中心にしたやり取りが行われます。1回の治療を1セッションとよびますが、週に1回ほどのペースで定期的に実施して、全部で12回くらいのセッションで終了するのが一般的です。進行は治療者にまかせ、患者さんは自分の気持を繰り返して話していきます。それを繰り返すことによって、認知・感情・行動をとらえて悪循環を発見し、対策を考えていきます。

認知行動療法の1回の流れ

 認知行動療法(個人認知行動療法)の1回の流れを簡単に紹介しておきます。全体を「導入部」「本題」「まとめ」の3つに分け、1回50分の場合の時間配分とその内容をみてみます。

◇導入部(約10分間)
 ここでは、前回(先週)のセッションで行ったことを振り返って確認し、続いて今回のテーマを決めます。また、宿題が出ていた場合は、その確認も行います。

◇本題(約30分間)
 本題では、患者さんが話したいテーマや、治療者が取り組みたいテーマが中心になります。これを治療のボディといいますが、ここで話し合うことで、患者さんの感じていることや考えが、言葉やイメージとなって出てきます。そして引き出されたことについて、患者さんと治療者で確認し、認知・感情・行動の区別を行います。認知・感情・行動に悪循環があるようだとわかれば、それについて話し合います。その悪循環から抜け出すためにできることは何かをよく話し合い、具体的な対策を一緒に考えます。

◇まとめ(約10分間)
 今回の治療を振り返って、意見や感想をざっくばらんに伝え合います。そして、より良い治療を探っていくように話をまとめます。最後に、次回までの宿題や日時を確信して終わります。

認知行動療法の3カ月の流れ

 認知行動療法(個人認知行動療法)の約3カ月間の流れを概略的にみておきます。週1回程度の治療を、約3カ月間かけて積み重ね、12回のセッションで終わらせるのが標準ですが、長くても16回程度で終わらせます。病気が軽症で、治療が順調に進めば、6回ぐらいで治療が終了することもあります。また病気ごとによって、治療の期間や内容はあらかじめ定められていますが、状況に応じて、途中で治療の進め方や内容、また期間の長さを調整することがあります。

病気ごとの例でいうと、「うつ病」治療の場合は12回程度のセッション回数で、前半で認知を変え、後半で行動活性化に取り組みます。「パニック障害」治療の場合は10回程度のセッション期間を設定します。前半2回くらいで認知をとらえ、3回目からエクスポージャーという対策に取り組みます。一方、「パーソナリティ障害」治療の場合は、20回くらいのセッションを行います。まず治療関係をつくり、認知や感情をとらえるのに時間がかかるため、セッション回数が増えることになります。なお、治療期間はあくまでも目安で、生活の中でテクニックをじっくりと実践するため、セッションの頻度は1週に1回という回数にこだわらず、2週に1回にするなど、流れを見直す場合もあります。

以下に示す内容は、3カ月間の治療の一例です。治療者と患者さんとの面接は、治療がスタートする前から行われていて、その中で、患者さんの困っていることがわかり、認知行動療法が必要だと判断されたとき、以下のような流れで治療がスタートします。

◇最初の1カ月目の治療〈認知・感情・行動の関係に目を向けさせる〉
 まず、治療の流れを簡単に説明します。治療者から、「何でもいいから、話してみてくださいね」と言われるので、緊張していた患者さんでも、気持がリラックスできて、いま困っていることを話してみようという気になります。患者さんの話に対して、治療者は「そのとき、どんな気持でしたか?」「そのとき、どんな考えが浮かびましたか?」と質問したりします。こうしたやりとりの中で、治療者は患者さんの認知や感情、行動をつかむようにします。さらに、治療者が「どう考えると、その反対の気持ちになるでしょう」などと言葉をかけたりすることによって、患者さんは認知・感情・行動の関係に目が向くようになります。

◇2カ月目の治療〈フォーミュレーションし、悪循環への対策および実践〉
 患者さんと治療者が話しを重ねるうちに、認知・感情・行動のパターンが次第に見えてきます。パターンが見えてきたことを、治療者が患者さんに伝えることで、治療経過が実感できます。患者さんの状態にもよりますが、フォーミュレーションまでに時間がかかることがあります。それは、患者さんに合わせた治療の進め方をするためです。さて、認知・感情・行動の悪循環が発見されれば、次に良い循環に戻す方法を患者さんと治療者が一緒に考えます。対策が決まれば、それが身に付くまで繰り返して実践します。そのうちに、症状が軽くなり、自信がついてきます。

◇3カ月目の治療〈患者さん一人で作業し、自信がつけばセッション終了〉
 患者さんと治療者の二人で行ってきた作業が、今度は患者さん一人でできるようになり、自信がつけばセッションは終結します。あとは、再発予防のために必ず継続するようにします。

治療の手順と手法・1…まず、何がつらいか話してみる

 うつや不安障害の患者さんにとって、何が一番つらいかと言えば、周りの人に病気を理解してもらえないというつらさです。患者さんには、まずそのつらさや、またどうしたいかという要望などを話してもらう事から始めます。つまり治療者は、最初は患者さんの話をよく「傾聴」することから始めます。特に、初めは徹底的に聞き役に徹します。次に「つらかったでしょう」「今まで、一人で大変でしたね」と、患者さんの気持ちに寄り添って「共感」してあげます。そして、最後に患者さんのつらい気持ちを「受容」することです。決して、治療者は一方的に指示するようなことはしません。人は受容されれば、変わる事ができます。受容され、自分のすべてが問題なのではないと感じれば、問題の部分を少し変えてみようという意欲がでてきます。

認知行動療法の治療は、この傾聴・共感・受容からスタートします。患者さんは、治療者に話を聞いてもらい、共感してもらい、受容してもらっているうちに、「もうダメだと思っていた自分にも、良いところがたくさんあるんだ」と思えるようになり、病気を治すことができそうな気になってきます。話を聞いているうちに、患者さんの緊張感はとけていき、より詳しく話せるようになってきます。患者さんは、受け止めてくれる相手がいるとわかれば、安心し治療しようという心の準備ができるのです。

一般に、人間関係の基本はお互いの信頼関係によって成り立ちます。認知行動療法においても、患者さんと治療者がお互いに信頼し、尊重し合うことが基本になります。治療者は、患者さんを受け止め、認めることを常に意識していますので、治療中に患者さんを一方的に指示したりするようなことはありません。どこまでも、双方の信頼と尊重のうえに治療は進められていきます。

こうして、最初の面接では、治療者は患者さんについての情報をできるだけ多く集め、整理して、病気の状態の見立てを行います。これをアセスメントといいます。最初の面接で行われたアセスメントをもとに、治療者はおおまかな治療プランを立てます。

治療の手順と手法・2…話したいテーマ(アジェンダ)を決める

 アジェンダ(agenda)とは、会議の議題を意味する英語ですが、認知行動療法では、治療で取り扱うテーマ(話題)のことをアジェンダといいます。患者さんにとって、話しやすい雰囲気がでてきたら、その日に話し合うテーマを決めます。テーマを設定するのは、治療の対象や目的をしぼりこむためです。テーマが決まれば、患者さんにとっても何を話したらよいのかという迷いがなくなります。取り組む問題がはっきりすれば、それを解決しようという意欲も出てきます。患者さんと治療者がいっしょになって、毎回テーマを決め、それについて話し合い、その都度、解決策を見出していくという共同作業が行われれば、治療はスムーズに進行していきます。本格的な治療はここからスタートになります。

テーマ(アジェンダ)の一例としては、次のようなものがあります。

  • ・人前にでると、緊張してつらくなる。
  • ・夜になると、いろいろ考えてしまい、なかなか眠れない。
  • ・家族と口論が多くなって、うまくいかない。
  • ・前回のセッションの宿題にうまく取り組めなかった…など。

 このほか、いろいろなテーマがありますが、患者さんが話したい事があれば、それをテーマにすることができます。希望があれば、遠慮なく伝えることが大切です。あくまでも、テーマの決定は相談しながら行いますので、治療者が一方的に進めることはありません。面接時において、治療者は患者さんに「思いついたこと、何でもいいから言ってごらん」と発言を促しますが、患者さん本人も「いま一番つらい症状。しかしどうにもできない。話したいことはたくさんあるが、それをどう話せばよいかわからない」という場合もあります。会話のやりとりをするうちに、患者さんの思いが少しずつ見えてきます。「そう、それが一番気になるんですね。では、その話を今日はお話ししましょうか」と提案し、その日のテーマとすることもあります。

また、テーマがたくさん出てきて、優先順位をつける場合もあります。一番気にしているテーマにしぼると、二番目以降の問題が気にならなくなることもあります。テーマが決まり、そのテーマがセッションの最後には、ある程度解決の糸口が見えてきます。

治療の手順と手法・3…患者さんと治療者の共同作業

 認知行動療法は、患者さんと治療者の共同作業によって成り立ちます。どちらも治療の主役です。患者さんのことは、患者さん自身が一番よく知っていますし、治療のことは治療者が一番よく知っています。その両者が力を合わせることで、目標が達成されるのです。目標は、病気の回復です。その回復という共通の目標に向かって、一緒に努力するチームメイトですから、共に協力し合う仲間です。二人三脚で病態を把握し、現状を分析し、問題の解決を図っていきます。認知行動療法は、一心同体で協力しながら成功体験を積んでいく治療法のことです。

したがって、いかに患者さんと治療者が協力態勢を築けるかが、治療成功へのカギとなります。そのためには、患者さんは積極的に治療に取り組み、治療者がそれをしっかりと支えることが重要で、どちらにも片寄らない関係づくりがポイントになります。「前回は、感情をとらえることができましたね。素晴らしい気づきだと思います」という治療者の声かけが、患者さんの治療意欲を高めることになります。また自己表現を上手に促していくことにより、患者さんは積極的に自分を表現して、治療者に理解してもらおうと努めます。

セッションを重ねていく過程で、患者さんは治療者の言葉を参考にしながら、自分の認知・感情・行動をとらえることができるようになっていきます。治療者は、患者さんの話や作業がよい方向に進むように、回復への道をガイドしていく立場にあります。そして、各セッションの最初と最後には、治療の目標や成果について、お互いに言葉を交わして確認するようにします。「今日のセッションに無理なところはありませんでしたか?」と声をかけるなどして、相手の意見や感想を丁寧に受け止め、お互いにフィードバックし合うことが大切です。こうして、各セッションのまとめでは、情報共有の機会をつくり、協力態勢を築きながら次回のセッションに活かしていくようにします。

治療の手順と手法・4…ソクラテス問答で思い込みに気づく

 認知行動療法においては、対話は極めて重要な要素となります。その対話の際、治療者がよく用いる手法に「ソクラテスの問答」があります。この対話方法によって、患者さんは自分の意外な思い込みに気づくことがあります。哲学の祖と言われたソクラテスは、真理を追究するために、市民を相手に問答を繰り広げました。その手法は、相手の気づきを促すような質問を重ねることでした。聞かれた相手は「あっ、そういえば!」と気づくことで、真理を説いていったと言われます。ソクラテスの問答というのは、話し相手を自発的な気づきへと導く対話の手法なのです。この手法を、患者さんをして何らかの発見へと導くためのガイデッド・ディスカバリー(導かれた気づき)と呼んでいます。

たとえば、患者さんが当たり前だと感じていて、深く考えたことがないような状況で、「その時、何が悲しかったのですか?」と、改めて問いかけてみます。すると、聞かれた患者さんは、悲しかったことの原因を改めて考え直すことになります。つまり、悲しかったという感情を引き起こしている原因について、自分で考え、探るなかで、感情と原因の関係にハッと気づくことがあります。しかも、答えやすい質問をされると、患者さんも何か自分でも考えられそうな気になり、対話を重ねていく中で、自分の認知・感情・行動の特徴に、自ら気づくことができるようになります。ソクラテス問答とは、聞かれた側が自分で気づくことができる対話手法なのです。

ソクラテス問答の効果をまとめると、次のような点です。

①問題に気づく
質問されたのをきっかけに、自分の生活を具体的にふり返り、ガイデッド・ディスカバリーによって問題に気づくことができる。

②誤解が溶ける
当たり前だと思っていた悩みに、意外な思い込みがあったことに気づき、「あっ、そうか!」と感じて、気持ちがふっきれる。

③話せる自信がつく
治療者が、ソクラテスの問答を繰り返すことで、患者さんには「自分でも話せる」「自分でも答えられる」という自信がつく。

④具体的に考えられる
治療者は、患者さんが考えやすくなるようなきっかけをまじえながら、対話をかさねる。(完全なオープン・クエスチョンではない)

治療の手順と手法・5…認知と感情を分けてとらえる

 患者さんにとって、自分の心を正確に知ることが重要となります。そのためには、出来事・認知・感情・行動を分けてとらえなければなりません。これらを分けることが認知行動療法の大切な作業のひとつです。認知・感情・行動の中で、行動は表に出ていることが多く、比較的とらえやすいのですが、難しいのは認知と感情を分けてとらえることで、これがなかなか容易ではありません。出来事があって、問題が起きているとき、そのときの考えと気持ちががっちりくっついていて、認知と感情の区別がしにくいのです。

区別するには、まず患者さんの自己表現が必要です。自分で気になっている問題や症状を、言葉にします。話したいことを話し、質問されたら答えます。そのやりとりによって、感情表現をしていきます。この感情を表す言葉をたくさん用意する必要があり、特に感情の中の不快の部分について考えを掘り下げていきます。不快な感情でも、不安、心配、緊張、悲しい、さびしい、傷ついた、イライラ、混乱、恥ずかしい、罪悪感など、たくさんある感情の中で、自分の気持ちがどれに当てはまるのか考えていきます。不快な感情を抱くとき、頭にどのような考えが浮かぶか、丁寧に考えていきます。その作業を進めるうちに、感情と認知を区別することができるようになります。区別していくと、つらい感情と密接に関係している認知を引き出すことができます。それは、感情と一体化していた認知に気づくことになります。認知と感情を区別すると、感情と強く結びついている「ホットな認知」が見えてきます。たとえば、火元に対する「強い不安」という感情と、「火事を防がなくちゃ」というホットな認知が強く結びついて、ほかの考え方ができなくなってしまいます。この強い感情を伴うホットな認知が見えてくると、それが問題解決の糸口となり、治療のカギとなります。

一方、行動は表に出やすく区別しやすいため、行動からとらえるのも一つの方法です。問題が起きたときの行動で、たとえば「外出できない」「それは火元を何度も確認するから」という具合に、細部を掘り下げていきます。「火元が気になって、家に飛んで帰ってしまった」という場合に、治療者は「そんなとき、どんな感情になりましたか?」と、うまく質問を重ねていきます。

治療の手順と手法・6…フォーミュレーションして答えを推理する

 認知行動療法には、病気ごとに検証された理論的な式があり、これをフォーミュレーション(定式化)と呼んでいます。治療者が患者さんの認知・感情・行動に関する情報を多く集め、その内容を病気ごとの治療理論に照らし合わせ、問題をより正確に分析し、推理して答えを出していきます。これは、数学でいうところの公式のようなもので、公式がわかると問題がすらすら解けるように、認知行動療法でも自分の考え方の定式がわかれば、悩みの背景がわかり、問題が解消できるようになっています。そして、ひとつの悩みが解消できれば、ほかの悩みにもその定式が応用でき、治療がスムーズに行えます。 

実際の進め方は、まず患者さんとの対話などを通じて、問題になっている事例についての情報をできるだけ多く集めます。集めた情報を整理して、病気ごとの式と照らし合わせ、「この事例は、この認知とこの行動が関連しているのではないか」などと推理します。そして、対話や対策によって、推理したものを検証します。式が正しければ、その式でほかの問題を解決することもできます。フォーミュレーションが完成すると、患者さんは自分の考えの式(型、モデル)を具体的に理解できるようになります。つまり、フォーミュレーションができたことで、問題の全体像を理解することができ、その答えとして具体的な対策を考えることができるようになります。

アメリカの心理学者であるアルバート・エリスが、認知をABCの流れで整理する「ABC理論」を提唱しました。この理論は、出来事の認知の仕方によって、結果が変わることを示しています。理論にそって考えると、認知を理論的に理解することができるのです。「ABC理論」のA(Activating Event)とは「きっかけになる出来事」、B(Belief)とは「信念、認知や考え方」、C(Consequence)とは「結果、感情や行動」のことです。

治療の手順と手法・7…悪循環を発見してそのパターンを変える

 自分の認知・感情・行動をとらえることができれば、その三つが影響し合って悪循環のパターンが生じていることに気づきます。認知行動療法の治療は、この悪循環のパターンを変えることにあります。では、この悪循環のパターンを生み出している原因はどこにあるのでしょうか。フォーミュレーションした三つの要素のうち、認知の部分を掘り下げていくと、問題のもととなっている「中核信念」があることに気づきます。

たとえば、「人間が嫌いだ」「世間話ができない」「なるべく人を避けて生きよう」「話が下手だから嫌われる」「どうせ、誰にも好かれないんだ」「自分は口下手だ」という患者さんの認知の部分を詳しく見ていく段階で、治療者が「子どもの頃も、同じような場面では同じパターンでしたか?」と聞いたとします。すると、「あの、ぼくは子どもの頃、口下手だと言われ続けたことがあります」と話します。こうして、生育歴を確認したり、過去にさかのぼって情報を集めたりしていくと、そこに問題となっている悪循環のパターンが見えてくるのです。

この悪循環のパターンは、セッションを繰り返していくと、さまざまな問題に共通している中核信念であることがわかります。次のようなケースがそれに当てはまります。

◇出来事・A《偶然、人に出会った》
【認知】口下手だ(中核信念)→【感情】話すのがつらい
→【行動】会話をしない

◇出来事・B《女性との共同作業》
【認知】口下手だ(中核信念)→【感情】嫌われそうで恐い
→【行動】一人で作業する

◇出来事・C《昇進のチャンス》
【認知】口下手だ(中核信念)→【感情】失敗しそうで不安
→【行動】昇進を辞退する 

 

このケースでわかるように、「口下手だ」という中核信念こそが、悪循環のパターンをつくりだしている元凶なのです。ですから、このパターンに陥っている患者さんに、治療者は「口下手でも嫌われない、と考えるとどう変わりますか?」と聞きます。患者さんは「口下手でも嫌われるとは限らないのだ」と考えを修正します。この考えを練習していけば、徐々に雑談ができるようになることを理解するようになります。

「悪循環を発見する」

認知の歪みが、不適切な感情や行動を生み出し、歪みがさらに強化され、悪循環のパターンを作り出していることに気づきます。

「対策を考え、実践する」

パターンが把握できれば、対策も自ずと見えてきます。患者さんは治療者の援助を受け、対策を考え、実践の段階に進みます。対策は、思いつくままに行うのではなく、その後も対話や分析を続けて、根拠ある対策を打ち出します。そのためにも、患者さんは治療者と丁寧に話し合う必要があります。そして、対策を実践することにより、認知の歪みを修正し、行動も同時に変えていき、悪循環を好循環に変えていくのです。

治療の手順と手法・8…何かひとつ、治療技法を試す

 悪循環のパターンをとらえることが出来れば、治療の道も半ばです。認知行動療法は、実践的な治療法ですので、あとは問題のある認知や行動を、特別な治療技法を用いて、少しずつ変えていく段階です。治療者と患者さんは、悪循環から良い循環にもどす方法について何ができるか、よく話し合います。そして、治療者が患者さんの問題に合わせて、具体的な治療技法をいくつか提案しますので、その中からテクニックを選び、それをもとにして治療に取り組むようにします。認知や行動を変える治療テクニックには、たくさんあります。初めは一つか二つを試してみて、自分に合わなければ他のテクニックを試します。自分に合った方法でそれを継続して身につけ、いずれは自分一人で認知のゆがみに対処していけるようになることが目標です。

《治療技法》

◇アサーション・トレーニング
 自己表現訓練のことで、自信をもって自分の意見や主張、また感情を表現できるようにする訓練方法です。攻撃的でもない、非主張的でもない、適度な自己表現を練習します。

◇イメージ法
 日頃と違う行動のイメージを具体的に思い描くことによって、新たな視点に気づく方法です。

◇ロールプレイ
 今後とりたい行動を、その役になりきって練習します。治療者や家族にも意見を聞きます。

◇良い点・悪い点の比較
 認知や行動の良い点や悪い点を列挙して比較します。価値観の見直しになります。

◇不安階層表
 行動にともなう不安を0~100の数字で表現します。不安数値の低い行動から挑戦して、生活を立て直します。

◇日記を書く
 チャレンジしたテクニックがどのようにできたか、日記に書きます。自分を励ます記録になります。

◇認知の修正
 完璧主義や、白か黒かの二分思考など、片寄った考え方を変えます。それらに当てはまっていないか確認して、考え方の幅を広げます。

◇呼吸法
 ホットな認知に支配されそうなとき、息を吐いて、頭から体へと注意を切り替えます。

◇コラム法
シートのコラム(枠)内に、認知や感情、行動を書き留めます。枠をつくることで、区別しやすくなります。

治療の手順と手法・9…コラムに考えや気持ちを書いて認知を再構成

 治療の具体的なテクニックとして、一般的に知られているのが「コラム法」(認知再構成法ともいう)です。コラムとは、シートに書かれた枠のことで、2コラム法、3コラム法、5コラム法、7コラム法などさまざまな種類があって、自分が取り組めそうなものを、治療者と一緒に選んで実践します。方法は、自分が気になっている出来事について、そのときの認知や感情をできる範囲で簡単な言葉にして、コラムに書き出します。最初に書いた自分のいつもの考えと違う考えを、試しに書いてみます。最初は、2コラムか3コラムなどから始め、だんだん増やしていくようにします。

2つのコラムであれば、たとえば、その時は「飛行機は恐い」と考えますが、別の考えでは「飛行機での死亡事故率は自動車の死亡事故率よりもはるかに少ない」と考えてみるのです。また、上司に仕事上のミスについてひどく注意されたという出来事があった場合、感情では憂うつになります。その時「上司は自分を嫌っている」と考えますが、しかし別の考えとして「上司は自分を大事に思っていて、一生懸命指導してくれた」と考えます。このように、日頃の思考パターンをまず書き、次にほかの考え方を思いつくかぎり書きます。この2コラム法では、考えと感情を分けたり、日頃の考えと別の考えを探ったりするときなどに使いますが、記入するのが苦手な人には、取り組みやすい形式といえます。

次に、7つのコラム法を使い、上司に仕事上のミスで注意された出来事について自分の認知を詳しく見てみましょう。

コラム・1…【出来事】
 ○月○日、上司に仕事上のミスについて厳しく注意された。

コラム・2…【認知・考え】
 上司は自分を嫌っている。

コラム・3…【感情】
 不安(90点)

コラム・4…【考えの根拠】
 注意した声が荒々しく大声だった。

コラム・5…【考えの反証】
 注意のあとで、自分にわかるように詳しく説明してくれた。

コラム・6…【合理的思考】
 上司は自分を大事に思っていて、一生懸命指導してくれた。

コラム・7…【心の変化】
 不安な気持ちが減った。(90点から50点に)

 この7つのコラム法では、自分の認知を詳しくとらえ、その根拠をコラム・4で書き、反対の立場からコラム・5の反証を書き、コラム・6で合理的思考を考えることで、認知を再構成することができます。さらに、コラム・3やコラム・7では、点数化することによって、自分の心の変化をわかりやすくしているのが7コラム法です。このほかの認知再構成法としては、認知・感情・行動が図解されたシートに記入する形式のものや、不安や責任感などを円グラフで表す方法などもあります。思いついた事をどの枠に書けばよいのか、迷ったり悩んだりしたときは、治療者に相談して進めます。また、治療者が患者さんの状況を聞き取りながら、一緒にシートに記入して進めることもできます。


治療の手順と手法・10…宿題(ホームワーク)に取り組む

 セッションを通じて理解したことを、毎日の生活の中でいかすことは、治療のうえで非常に重要なことです。それを可能にするのが、宿題(ホームワーク)です。宿題に取り組むことで、治療の方向性があっているか、対策が本当に効果をあげているか、明らかになってきます。セッションとセッションの間は、家庭で宿題に取り組み、反復練習し、経験を積むことで自信につながり、また励みになります。出来る、出来ないにかかわらず、とにかく毎日チャレンジし、継続することが患者さんにとっては大切なことです。

宿題は、治療の最後に治療者と患者さんで話し合い、その日のテーマにそった内容で決めます。宿題といっても、決して難しい課題ではありません。セッションの中でわかってきた対策の実践です。治療者は、宿題の内容とその根拠や重要性、また期待される効果などを、患者さんに説明します。患者さんは宿題の意義を理解したうえで取り組みます。治療者は「どの課題であれば、取り組めそうですか?」「この作業をすると、不安に慣れることが実感できます」「難しかったら、次のセッションのとき教えてください。ほかの方法を考えましょう」などといった言葉を患者さんに伝えます。

患者さんは、出された宿題を家庭生活や社会生活のなかで取り組みます。患者さんの希望が反映された内容なので、基本的に難しい内容ではありません。考え方を変えてみる、日記を書いてみる、不安を点数化して毎日シートに記録してみるなどの作業です。場合によっては、セッションで使ったシートを治療者から渡されることもありますが、少し頑張ればできる内容です。こうして取り組んだ宿題は、次回のセッションの導入部で、患者さんから宿題の感想について話します。治療者はそれを聞き、宿題の有効性を判断します。

出された宿題が出来ない場合もあります。しかし、出来ないからといって悪いことではありません。治療者に悪い、などと落ち込む必要はありませんし、結果がどうあれ治療者はあたたかく迎えてくれます。出来なかった理由については、ハードルが高かった場合もありますので、治療者と患者さんがよく話し合って、見直す必要もあります。「宿題が出来なかったことが気になりますか?」「これから2人で考えてみましょう」「原因がわかれば、また一歩前進ですから…」と、治療者から声をかけて、それをその日のセッションのテーマにしてもよいのです。宿題ができたときは、治療者と患者さんで喜び合うようにします。

治療の手順と手法・11…セッション終了後も続けて、再発防止を

 認知行動療法のセッションを始めて、約3カ月間(数カ月間)の治療を終える頃には、患者さんの思考や行動パターンはかなり変化しています。そして、うつ病や不安障害の症状も緩和してきます。またその時だけの改善ではなく、先々の人生をも改善します。あとはセッション終結後に、同じ症状がぶり返してくる再発を防ぐことが大切です。しかし、認知行動療法を理解した患者さんならば、症状が再発しても自分で対処できます。セッションを通じて認知をとらえる基本スキルが身についていますから、再発を防ぐことができます。

症状が起きそうになったら、治療者に相談したり、関連資料を活用したり、またセッションの時に治療者の声を録音させてもらった場合は、その録音を聞き直すことによって、再発を防止します。さらに、日記や本を読んで確認したり、宿題の記入式シートなどを見たりして、治療で学んだスキルを応用しながら柔軟に対応していきます。新しい問題が起きても、自分でその状況をとらえ、改善策を考えられるようになります。

 

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