閉所恐怖症column

Update:2024.06.25

閉所恐怖症とは

閉所恐怖症とは、狭い空間や密閉された場所に対して強い恐怖感を抱く不安障害の一種です。エレベーターや地下室、トンネルなどの場所で強い不安や動悸、呼吸困難などの症状が現れます。社会生活に支障をきたす場合もあるため、適切な治療や対処法を専門医と相談することが重要です。

閉所恐怖症

目次

閉所恐怖症について解説

閉所恐怖症とは、狭い空間や密閉された場所に対して強い恐怖感を抱く不安障害の一種です。エレベーターや地下室、トンネルなどの場所で強い不安や動悸、呼吸困難などの症状が現れます。社会生活に支障をきたす場合もあるため、適切な治療や対処法を専門医と相談することが重要です。

閉所恐怖症とは

閉所恐怖症(Claustrophobia)は、狭い空間や閉ざされた場所に対する極度の恐怖や不安を特徴とする不安障害の一種です。エレベーター、トンネル、飛行機の機内、MRIスキャナーなどの狭い空間にいると、パニック発作を引き起こすことがあります。閉所恐怖症は、日常生活に大きな支障をきたす可能性があり、適切な治療が必要とされる精神疾患です。

閉所恐怖症の有病率は、一般人口の約2〜5%(平均2.2%)と推定されています。人種間でばらつきがあるものの、世界的に見ても同程度の有病率が報告されています。男女比は、ほぼ同等かやや女性に多いとされています。発症年齢は、10代から30代が多いですが、どの年代でも発症する可能性があります。

閉所恐怖症は、単独で発症することもありますが、他の不安障害や気分障害との併存が多いことが知られています。特に、パニック障害との関連性が強く、閉所恐怖症患者の約50%がパニック障害を合併しているとの報告もあります。

閉所恐怖症の症状は、個人差が大きく、軽度のものから重度のものまで幅広く存在します。軽度の場合は、狭い空間を避ける程度ですが、重度の場合は、日常生活に大きな支障をきたし、社会参加が困難になることもあります。

閉所恐怖症は、古くから知られている疾患ですが、その病態生理については、まだ十分に解明されていない部分が多いのが現状です。近年、脳機能画像研究の進歩により、閉所恐怖症の神経基盤の解明が進みつつあります。扁桃体や島皮質などの脳領域の関与が示唆されており、今後のさらなる研究の進展が期待されています。

医療従事者は、閉所恐怖症の特徴や症状を十分に理解し、患者に寄り添った対応を心がける必要があります。また、適切な治療法の選択と実施、患者教育や社会への啓発活動など、多面的なアプローチが求められます。閉所恐怖症に対する理解を深め、患者のQOL向上に努めることが重要です。

閉所恐怖症の原因

閉所恐怖症の正確な原因は明らかになっていませんが、以下のような要因が関与していると考えられています。

遺伝的要因:

閉所恐怖症は、家族内で発症する傾向があり、遺伝的な素因が関与している可能性があります。双生児研究では、一卵性双生児での一致率が二卵性双生児よりも高いことが報告されており、遺伝の関与を示唆する結果となっています。また、セロトニントランスポーター遺伝子(5-HTTLPR)の多型性と閉所恐怖症との関連性を示す研究もあります。

心理的要因:

幼少期の狭い空間での嫌な体験や、閉じ込められた経験などが、閉所恐怖症の発症に関与している可能性があります。トラウマ体験が、閉所恐怖症の発症リスクを高めることが知られています。また、親の過保護な養育態度や、不安症傾向が強い家族環境なども、閉所恐怖症の発症に影響を与える可能性が指摘されています。

生物学的要因:

脳内の神経伝達物質の不均衡や、扁桃体の過活動が、閉所恐怖症の発症に関与している可能性が指摘されています。特に、セロトニン神経系の機能異常が注目されており、セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が閉所恐怖症の治療に有効であることもこの仮説を支持しています。また、扁桃体は、恐怖条件付けや不安反応に重要な役割を果たしており、閉所恐怖症患者では扁桃体の過活動が報告されています。

これらの要因が複合的に作用し、閉所恐怖症を引き起こすと考えられています。ただし、個人差が大きく、全ての患者に当てはまるわけではありません。また、これらの要因の関与の度合いも、患者によって異なります。

閉所恐怖症の原因については、まだ不明な点が多く、今後のさらなる研究が必要とされています。遺伝的要因、心理的要因、生物学的要因の相互作用を明らかにし、病態生理の解明を進めることが重要です。また、これらの知見を基に、より効果的な予防法や治療法の開発につなげていくことが求められています。

医療従事者は、閉所恐怖症の原因についての最新の知見を把握し、患者の個別性を考慮しながら、適切な心理教育や治療を提供することが重要です。また、患者の家族に対しても、閉所恐怖症の原因についての説明を行い、理解と協力を得ることが大切です。

閉所恐怖症の症状

閉所恐怖症の症状は、狭い空間や閉ざされた場所に直面した際に現れます。以下のような症状が代表的です。

極度の恐怖や不安:

狭い空間にいると、強い恐怖や不安を感じます。その程度は、個人によって異なりますが、多くの患者は、狭い空間に入ることを想像しただけで、強い不安を感じます。恐怖や不安の程度が強い場合は、狭い空間を避けるために、日常生活に大きな支障をきたすこともあります。

パニック発作:

狭い空間に入ると、動悸、呼吸困難、発汗、震え、めまいなどのパニック症状を呈することがあります。パニック発作は、突然発症し、数分から数十分続くことがあります。発作中は、強い恐怖や死の恐怖を感じ、逃げ出したいという強い衝動に駆られます。パニック発作を繰り返し経験すると、発作への恐怖から、さらに狭い空間を避けるようになることがあります。

回避行動:

狭い空間を避ける行動をとるようになります。エレベーターを使わずに階段を使う、電車やバスを避けて自家用車を利用する、飛行機に乗らないなどの行動が見られます。回避行動が広がると、日常生活に大きな制限が生じ、QOLが低下します。また、回避行動が長期化すると、症状がさらに悪化することがあります。

予期不安:

狭い空間に入ることを想像しただけで、不安や恐怖を感じます。予期不安が強い場合は、狭い空間に関連する状況を避けるようになります。例えば、狭い空間での会議や食事会を避ける、旅行を控えるなどの行動が見られます。予期不安は、閉所恐怖症の重症度を反映する指標の一つとされています。

これらの症状は、個人によって程度や現れ方が異なります。軽度の場合は、不安や恐怖は感じるものの、日常生活には大きな支障がない場合もあります。一方、重度の場合は、狭い空間に入ることができず、社会生活が困難になることもあります。

閉所恐怖症の症状は、他の不安障害や身体疾患との鑑別が必要です。特に、パニック障害との鑑別が重要です。パニック障害でも、閉所恐怖症と同様のパニック発作が見られますが、閉所恐怖症では、狭い空間に対する恐怖が前面に立ちます。また、心臓疾患や呼吸器疾患など、身体疾患によるパニック症状との鑑別も必要です。

医療従事者は、閉所恐怖症の症状を的確に把握し、適切な診断を行うことが重要です。また、患者の症状の程度や日常生活への影響を評価し、個別性を考慮した治療計画を立てることが求められます。症状が重度の場合は、専門的な治療が必要となるため、早期の介入が重要です。

閉所恐怖症の診断

閉所恐怖症の診断は、主に臨床症状に基づいて行われます。以下のような手順で診断が行われます。

問診:

症状の種類、頻度、程度、発症のきっかけなどを詳しく聴取します。閉所恐怖症の症状は、他の不安障害や身体疾患と類似していることがあるため、鑑別診断が重要です。問診では、狭い空間に対する恐怖や不安の程度、回避行動の有無、日常生活への影響などを確認します。また、家族歴や既往歴、生活環境なども聴取します。

身体検査:

身体的な疾患が症状の原因となっていないかを確認するために、身体検査を行います。血圧測定、心電図、血液検査などを実施し、心臓疾患や呼吸器疾患、甲状腺機能異常などを除外します。また、神経学的な異常がないかも確認します。

心理検査:

質問紙法や構造化面接法を用いて、閉所恐怖症の重症度や他の精神疾患の合併を評価します。代表的な質問紙としては、Claustrophobia Questionnaire(CLQ)やBody Sensations Questionnaire(BSQ)などがあります。これらの質問紙では、閉所恐怖症に特徴的な症状や恐怖の程度を評価します。また、構造化面接法としては、Structured Clinical Interview for DSM-5(SCID-5)などが用いられます。

診断基準としては、米国精神医学会のDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition)が広く用いられています。DSM-5では、閉所恐怖症は「特定の恐怖症」のカテゴリーに分類されています。診断基準は以下の通りです。

  1. 狭い空間や閉ざされた場所に対する著明な恐怖または不安がある。
  2. 狭い空間や閉ざされた場所に曝露されると、ほぼ常に恐怖または不安の反応が引き起こされる。
  3. 狭い空間や閉ざされた場所に対する恐怖または不安は、実際の危険に比べて過剰である。
  4. 狭い空間や閉ざされた場所は積極的に回避されるか、強い恐怖または不安を伴って耐えられる。
  5. 恐怖、不安、または回避行動が、臨床的に意味のある苦痛または社会的、職業的、またはその他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  6. 恐怖、不安、または回避行動が、持続的である(典型的には6ヵ月以上)。
  7. 恐怖、不安、または回避行動は、他の精神疾患(例:パニック障害、社交不安障害、強迫症など)ではうまく説明できない。

閉所恐怖症の診断には、患者の主観的な訴えと客観的な評価の両方が重要です。また、他の精神疾患や身体疾患との鑑別が必要であり、注意深い評価が求められます。

医療従事者は、閉所恐怖症の診断基準を十分に理解し、適切な診断を行うことが重要です。また、患者の個別性を考慮し、丁寧な問診と評価を行うことが求められます。適切な診断は、効果的な治療につながるため、診断の精度を高めることが重要です。

閉所恐怖症の治療

閉所恐怖症の治療には、主に認知行動療法と薬物療法が用いられます。近年では、バーチャルリアリティ療法の有効性も報告されています。治療法の選択は、患者の重症度や治療へのアクセスなどを考慮して決定されます。

認知行動療法

認知行動療法は、閉所恐怖症に対する第一選択の治療法です。認知行動療法は、患者の閉所恐怖症に対する認知の歪みを修正し、適応的な行動を学習することを目的とします。以下のような手法が用いられます。

  1. エクスポージャー法: 徐々に恐怖の対象に接近し、恐怖に慣れていく方法です。安全な環境で、段階的に狭い空間に入る練習を行います。エクスポージャー法では、患者は恐怖に直面することで、恐怖が持続しないことを学習します。また、恐怖に伴う身体症状が危険ではないことを理解し、恐怖への耐性を高めていきます。エクスポージャー法は、閉所恐怖症の中核的な治療法であり、多くの研究でその有効性が示されています。
  2. 認知再構成法: 狭い空間に対する非合理的な思考を修正し、より適応的な思考に変えていく方法です。閉所恐怖症患者は、狭い空間に対して「窒息する」「圧迫される」などの非現実的な恐怖を抱いていることが多いです。認知再構成法では、これらの非合理的な思考を同定し、evidence(証拠)に基づいて現実的な思考に修正していきます。また、狭い空間に対する恐怖は過度に一般化されていることが多いため、恐怖の対象を明確にし、現実的な危険性を評価することも重要です。

認知行動療法は、週1回程度の頻度で、10〜20回程度実施されることが多いです。治療の進捗に応じて、エクスポージャー法の難易度を徐々に上げていきます。治療の効果は、症状の改善だけでなく、日常生活の質の向上や回避行動の減少などでも評価されます。

認知行動療法は、閉所恐怖症の症状を改善し、日常生活の質を向上させるのに効果的であることが示されています。メタ分析では、認知行動療法を受けた患者の約80%が症状の改善を示したと報告されています。また、長期的な効果も期待できる治療法です。

薬物療法

閉所恐怖症に対する薬物療法としては、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が主に用いられます。SSRIは、脳内のセロトニンの活動を調整することで、不安や恐怖を軽減する効果があります。代表的なSSRIには、パロキセチン、フルボキサミン、セルトラリンなどがあります。

SSRIは、一般的に1日1回の内服で開始され、2〜4週間で効果が現れ始めます。十分な効果を得るためには、少なくとも6ヵ月以上の継続が必要とされています。副作用としては、嘔気、下痢、性機能障害などが報告されていますが、多くは一過性で耐性が生じます。

SSRIの効果は、プラセボと比較して有意に高いことが示されています。メタ分析では、SSRIを受けた患者の約60%が症状の改善を示したと報告されています。ただし、認知行動療法との比較では、SSRIの効果はやや劣ると考えられています。

薬物療法は、認知行動療法との併用で用いられることが多く、症状の改善に有効であることが示されています。特に、重度の閉所恐怖症患者や、認知行動療法単独では効果不十分な患者では、薬物療法の併用が推奨されます。

バーチャルリアリティ療法

バーチャルリアリティ(VR)療法は、コンピューター上で仮想の狭い空間を作り出し、その中で恐怖に直面する療法です。VR療法では、現実の狭い空間に入ることなく、安全な環境で恐怖に慣れることができるため、患者の負担が少ないという利点があります。

VR療法では、ヘッドマウントディスプレイを装着し、仮想空間内を自由に移動できます。仮想空間内には、エレベーターや狭いトンネルなどの閉所恐怖症患者が恐怖を感じる場所が再現されています。治療では、仮想空間内で恐怖に直面し、恐怖への耐性を高めていきます。

VR療法は、従来の認知行動療法と同等の効果があることが示されており、今後の発展が期待されています。メタ分析では、VR療法を受けた患者の約70%が症状の改善を示したと報告されています。また、VR療法は、治療へのアクセスを向上させる可能性があります。

ただし、VR療法は、機器の導入コストが高く、治療者の訓練が必要であるという課題もあります。また、サイバー酔いなどの副作用の可能性もあるため、適切な管理が必要です。

医療従事者は、患者の重症度や治療へのアクセスを考慮し、適切な治療法を選択することが重要です。また、治療の進捗を定期的に評価し、必要に応じて治療法を調整することが求められます。治療には患者の積極的な参加が不可欠であり、治療者との良好な関係の構築が重要です。

閉所恐怖症と他の不安障害との関連性

閉所恐怖症は、他の不安障害と併存することがあります。閉所恐怖症と関連の深い不安障害としては、以下のようなものが挙げられます。

パニック障害:

閉所恐怖症患者の多くが、パニック発作を経験します。パニック発作は、突然の強い不安や恐怖に襲われ、動悸、呼吸困難、発汗などの身体症状を伴います。閉所恐怖症とパニック障害の併存率は高く、約50%の閉所恐怖症患者がパニック障害を合併しているとの報告もあります。閉所恐怖症とパニック障害の関連性については、両者に共通する生物学的基盤の存在が示唆されています。

広場恐怖症:

広場恐怖症は、広場や人混みなどの開放的な場所で突然の不安や恐怖に襲われる不安障害です。広場恐怖症患者は、開放的な場所だけでなく、狭い空間でも不安や恐怖を感じることがあります。閉所恐怖症と広場恐怖症の併存率は約20%と報告されています。両者の関連性については、不安や恐怖に対する脆弱性の共通性が指摘されています。

社交不安障害:

社交不安障害は、他者からの評価や注目に対する過度の不安や恐怖を特徴とする不安障害です。社交不安障害患者は、人前で注目されることを恐れるため、狭い空間でも不安を感じることがあります。閉所恐怖症と社交不安障害の併存率は約15%と報告されています。両者の関連性については、不安や恐怖に対する認知の歪みの共通性が指摘されています。

これらの不安障害が併存する場合は、それぞれの障害に対する適切な治療が必要となります。併存する不安障害を見落とすと、治療の効果が限定的になる可能性があります。

また、閉所恐怖症と他の不安障害との関連性を理解することは、閉所恐怖症の病態生理の解明にも役立ちます。不安障害に共通する生物学的基盤や心理的要因を明らかにすることで、より効果的な治療法の開発につながる可能性があります。

医療従事者は、閉所恐怖症患者の評価の際に、他の不安障害の併存の可能性を考慮することが重要です。また、併存する不安障害に対しても適切な治療を提供することが求められます。閉所恐怖症と他の不安障害との関連性を理解し、包括的な治療アプローチを取ることが重要です。

閉所恐怖症の予防

閉所恐怖症の予防には、以下のような方法が考えられます。

ストレス管理:

日常生活でのストレスを適切に管理することが重要です。ストレスは、不安や恐怖を増強する要因となります。ストレス管理には、リラクゼーション法や運動、十分な睡眠、バランスの取れた食事などが有効です。また、ストレスの原因となる問題への積極的な対処も重要です。問題解決スキルを身につけ、適切な対処法を実践することが求められます。

早期発見と早期治療: 閉所恐怖症の症状が現れたら、早めに専門家に相談することが大切です。早期発見と早期治療が、症状の悪化を防ぐのに役立ちます。特に、症状が日常生活に支障を来し始めた段階で、速やかに治療を開始することが重要です。早期治療により、症状の重症化を防ぎ、回復までの期間を短縮できる可能性があります。

心理教育:

閉所恐怖症について正しい知識を持つことが、不安や恐怖を軽減するのに役立ちます。閉所恐怖症は、適切な治療により改善が可能な不安障害であることを理解することが重要です。また、閉所恐怖症の症状やメカニズムについての知識を得ることで、自分の症状を客観的に捉えられるようになります。心理教育は、専門家から直接受けることが望ましいですが、信頼できる書籍やウェブサイトからも情報を得ることができます。

漸進的な曝露:

日常生活の中で、徐々に狭い空間に慣れていくことも予防に役立ちます。急激な曝露は避け、少しずつ難易度を上げていくことが重要です。例えば、エレベーターに乗る際には、最初は1階分だけ乗り、徐々に階数を増やしていくなどの方法が考えられます。ただし、無理のない範囲で行うことが大切です。過度の曝露は、かえって恐怖を強化する可能性があります。

社会的支援:

家族や友人、同僚など、周囲の人々の理解と支援を得ることが重要です。閉所恐怖症について打ち明け、必要な配慮を求めることが大切です。また、同じ悩みを抱える人々との交流も、不安や孤独感を和らげるのに役立ちます。患者会や自助グループに参加することで、情報交換や相互支援が得られます。

閉所恐怖症は完全に予防することは難しいですが、これらの方法を実践することで、症状の重症化を防ぐことができます。また、これらの方法は、閉所恐怖症の治療と並行して行うことで、より効果的です。

閉所恐怖症患者の日常生活への影響

閉所恐怖症は、患者の日常生活に大きな影響を与えます。閉所恐怖症の影響は、個人により異なりますが、以下のような影響が見られることがあります。

行動の制限:

閉所恐怖症患者は、恐怖の対象となる狭い空間を避けるため、日常生活における行動が制限されます。例えば、エレベーターや地下鉄、飛行機などの利用を避けるため、移動手段が限定されます。また、狭い空間での会議や食事会を避けるため、社会的な活動に参加しにくくなります。行動の制限は、仕事や学業、趣味などにも影響を及ぼし、生活の質の低下につながることがあります。

対人関係の問題:

閉所恐怖症患者は、狭い空間での活動を避けるため、対人関係に影響が生じることがあります。例えば、友人との外出や旅行を控えるようになったり、家族との団らんの機会が減ったりすることがあります。また、閉所恐怖症について周囲の理解が得られない場合、人間関係にストレスが生じることもあります。対人関係の問題は、孤独感や疎外感を招き、メンタルヘルスの悪化につながる可能性があります。

職業上の問題:

閉所恐怖症は、職業生活にも影響を与えることがあります。狭い空間での作業が必要な職場では、業務遂行が困難になる可能性があります。例えば、工場の製造ラインや倉庫での作業、エレベーターを使う必要のある高層ビルでの勤務などが挙げられます。また、出張や会議への参加が制限されるため、キャリア形成に影響が生じることもあります。職業上の問題は、経済的な困難や自尊心の低下につながる可能性があります。

身体的健康への影響:

閉所恐怖症は、身体的な健康にも影響を与える可能性があります。狭い空間での不安や恐怖は、交感神経系の活動を亢進させ、心拍数や血圧の上昇、呼吸困難などの身体症状を引き起こします。これらの症状が頻繁に起こると、身体的な疲労や不調を招くことがあります。また、閉所恐怖症による行動の制限は、運動不足や偏った食生活につながり、生活習慣病のリスクを高める可能性もあります。

経済的な影響:

閉所恐怖症は、経済的な側面にも影響を及ぼすことがあります。例えば、通勤に電車を使えないために、タクシーを利用せざるを得なくなり、交通費が嵩むことがあります。また、閉所恐怖症によって仕事のパフォーマンスが低下したり、休職を余儀なくされたりすることで、収入が減少する可能性もあります。経済的な影響は、生活の質の低下や将来への不安につながることがあります。

これらの影響を最小限に抑えるためには、適切な治療を受けることが重要です。また、周囲の理解と支援も不可欠です。家族や友人、同僚などに閉所恐怖症について説明し、必要な配慮を求めることが大切です。また、職場では、上司や人事担当者に相談し、業務内容の調整などを図ることも有効です。

閉所恐怖症に対する社会的支援の重要性

閉所恐怖症患者が適切な治療を受け、社会生活を営むためには、社会的な支援が重要です。社会的支援には、以下のようなものが含まれます。

啓発活動:

閉所恐怖症に対する正しい理解を促進するための啓発活動が必要です。閉所恐怖症は、単なる性格の問題ではなく、治療を要する精神疾患であることを社会に伝えることが重要です。また、閉所恐怖症患者に対する偏見や差別をなくし、支援的な社会環境を作ることが大切です。啓発活動には、メディアでの情報発信、講演会やセミナーの開催、パンフレットの配布などが含まれます。

アクセシビリティの向上:

閉所恐怖症患者が社会生活を送るためには、物理的な環境の整備が必要です。例えば、エレベーターや公共交通機関などの設備において、閉所恐怖症患者に配慮したアクセシビリティの向上が求められます。具体的には、エレベーターのガラス張りや開放感のある設計、非常時の対応の明示、駅員による適切な対応などが挙げられます。アクセシビリティの向上は、閉所恐怖症患者の行動範囲を広げ、社会参加を促進するのに役立ちます。

専門的な支援体制の整備:

閉所恐怖症の診断や治療を行える専門家の育成と、支援体制の整備が必要です。閉所恐怖症の専門的な知識を持つ医師や心理士、カウンセラーなどの人材を確保し、アクセスしやすい支援体制を構築することが重要です。また、医療機関や相談機関の連携を強化し、切れ目のない支援を提供することも求められます。専門的な支援体制の整備は、閉所恐怖症患者の早期発見と早期治療につながり、重症化を防ぐのに役立ちます。

患者団体の活動支援:

閉所恐怖症患者の自助グループや患者団体の活動を支援することが重要です。患者団体は、当事者同士の交流や情報共有の場として機能し、孤独感や疎外感を和らげるのに役立ちます。また、患者団体は、社会への啓発活動や権利擁護活動にも取り組むことができます。患者団体の活動を支援するには、活動拠点の提供、資金援助、専門家の派遣などが考えられます。患者団体の活動支援は、閉所恐怖症患者のエンパワーメントと社会参加の促進につながります。

法的整備:

閉所恐怖症患者の権利を保護し、社会参加を促進するための法的整備も重要です。例えば、障害者差別解消法や障害者雇用促進法などの法律において、閉所恐怖症を含む精神障害への合理的配慮を定めることが考えられます。また、閉所恐怖症患者の就労支援や生活支援に関する制度の拡充も求められます。法的整備は、閉所恐怖症患者の社会的な権利を保障し、差別や偏見のない社会の実現につながります。

社会全体で閉所恐怖症患者を支えていくことが、患者の回復と社会参加を促進するために不可欠です。医療従事者は、閉所恐怖症患者に適切な治療を提供するとともに、社会への啓発活動にも力を注ぐ必要があります。また、他の専門職や関係機関との連携を強化し、包括的な支援体制の構築に努めることが重要です。

閉所恐怖症は、適切な治療と支援によって、症状の改善が期待できる不安障害です。患者自身が積極的に治療に取り組むとともに、周囲の理解と支援を得ることが大切です。医療従事者と社会が協力して、閉所恐怖症患者を支えていくことが求められています。

まとめ

閉所恐怖症は患者の生活に広範囲にわたる影響を与え、日常活動の制限、対人関係や職業生活における問題、身体的健康への悪影響、経済的な困難を引き起こすことがあります。これらの影響を最小化するためには、適切な治療の実施とともに、患者の周囲の理解と支援が極めて重要です。さらに、社会的な支援の充実が必要であり、啓発活動やアクセシビリティの改善、専門的な支援体制の整備、患者団体への支援、適切な法的整備が求められます。これにより、患者の社会参加と回復が促進されることで、閉所恐怖症の患者がより良い生活を送ることが可能になります。医療従事者と社会が協力し、閉所恐怖症への取り組みを進めることが、この不安障害を持つ患者にとっての生活の質の向上に繋がります。