適応障害

2024-06-07
監修:本 将昂

適応障害 とは

適応障害は、外部のストレス要因によって引き起こされる心身の不調を指します。仕事、学業、人間関係などの環境変化に適応できず、うつ症状や不安、身体の不調が出現し感情の調整や日常生活が困難になることがあります。心理療法やストレス管理、ライフスタイル改善が治療に使用されます。
 適応障害 -  日本精神医学研究センター

適応障害について解説

適応障害は、外部のストレス要因によって引き起こされる心身の不調を指します。仕事、学業、人間関係などの環境変化に適応できず、うつ症状や不安、身体の不調が出現し感情の調整や日常生活が困難になることがあります。心理療法やストレス管理、ライフスタイル改善が治療に使用されます。

1.適応障害とは

適応障害とは、個人的な不幸や社会的なストレスが原因による短期的な不適応反応のことであり、ストレス性障害とも言われています。人は、様々なストレスを受けて、一時的に落ち込んだり眠れなくなったりと身体的、精神的に症状が出ることはありますが、たいていの場合は短期間でおさまります。

しかし、あまりにもストレスが強くなり、そのストレス反応が原因で、学校や仕事に行けなくなったり気持ちの落ち込みがあったりと、社会生活に大きな影響を与えてしまいます。このようなストレスへの過剰反応を適応障害と言います。

同じストレス要因であっても、受ける人によってのストレス反応は異なります。つまり、適応障害とはある生活の変化や出来事が、その個人にとって重大な出来事であり、ふつうの日常生活が送れなくなるほどの症状が出るということになります。

ストレスの原因は、本人でも分かりはっきりしているので、その原因から離れることで症状は速やかに軽減することが特徴的でしょう。しかし、そのストレスが長期間重くのしかかる状態では、症状の悪化や慢性化してしまう病気なのです。

2.適応障害になる原因

適応障害になる原因のほとんどは、ストレスによるものです。しかし、同じ出来事であっても人によって受けるストレスの程度は異なります。自分では、そこまで大きなストレスにならない出来事でも、他の人にとっては重度のストレス源となり、生活に支障を来す場合もあります。

ストレスと言っても、誰かから何か嫌なことをされた、つらいことがあったことだけが原因とは限りません。たとえば、天気でも低気圧や気温の変化によるものでストレスがかかることはあります。また、騒音や異臭などの生活環境によるものなども原因となる可能性は高いでしょう。

実は適応障害を発症させる可能性がある、これらのストレスは日常生活でよく起こる状況です。具体的に、どのようなことが原因となるのか、具体例を挙げています。

  • 自分が病気になった、入院が必要だという状況
  • 大切な人が病気になった
  • 睡眠不足によるもの
  • 同僚や上司など職場の人間関係で悩んでいる
  • パワハラやセクハラを受けている
  • 仕事で忙しい、労働時間が長い
  • 学校でいじめにあっている
  • 学校で嫌な先生がいる
  • クラス替えや進学による学校生活の変化
  • 就職や転職によるもの
  • 結婚や妊娠、出産によるもの
  • ワンオペ育児 恋人、夫婦関係がうまくいかない
  • 義親との関係
  • マイホームに引っ越しなどの嬉しい出来事

このように、日常生活で適応障害になり得る状況は数多く挙げられます。必ずしも悪い出来事やつらい出来事が、きっかけとなるわけではなく、嬉しい出来事であっても発症の原因となるほど大きなストレスがかかる場合もあります。

社会生活や家庭生活、日常でありふれている状況など、様々な場面において強いストレスがかかる恐れがあるということでしょう。適応障害は、ストレスを乗り越えることができない状況や、ストレスの内容が自分の気持ちとミスマッチしている状況で発症することが多いのです。

適応障害を発症した場合は、原因を特定することが可能であり、そのストレス内容が本人にとってどのような意味を持つのかという視点で考えていくことが大切になります。

 

3.適応障害の症状や特徴

適応障害を発病することで起きる症状の特徴として、中心となる症状が異なる場合があります。「不安症状が中心」「うつ症状を中心」「問題行動を中心」「身体症状を中心」とした、4つのパターンで分けられます。もちろん、区別できず様々な症状が出る場合もあります。

具体的に、どのような症状や特徴があるのか以下に挙げています。

パターン

症状の特徴

不安症状を中心

不安、恐怖感、焦燥感、動悸、吐き気、緊張、神経過敏、怒りなど

うつ症状を中心

気分の落ち込み、涙もろさ、意欲の低下、憂うつ、喪失感、絶望感など

問題行動を中心

ケンカしやすい、無謀な運転をする、勤務怠慢(無断欠勤、遅刻など)、暴食、過剰飲酒、ギャンブル、離婚など

身体症状を中心

頭痛、めまい、動悸、倦怠感、腰背部痛、感冒様症状、腹痛、下痢、起床困難など

適応障害の患者さんは、不安症状やうつ症状を中心とした精神症状が主に見られる場合、「突然大きな声をあげる」「いきなり泣き出す」「いきなり怒り出す」というような、気分のむらが現れることが多いです。

問題行動を起こすような、攻撃的な面も現れることもありますが、適応障害の患者さんは自分が起こした行動に対して、罪悪感を持たない場合が多いです。

学校に登校することや職場に出勤することが、発症のストレスとなっている場合は、不登校や勤務怠慢になり勉強や仕事の効率が悪くなり、成績の低下や仕事のミスが多発するといった特徴もあります。しかし、休日になると自分の趣味や興味のあることに楽しむ姿が見られたり、上記に挙げた症状が軽くなったりする患者さんは多くみられます。

しかし、このような状況ではさらに社会生活を送る上で、患者さん本人に不利益をもたらすことにもなります。ストレスが無いときは比較的、気持ちも安定し活動的になっている姿がみられた場合は、周囲から「怠けている」と誤解されてしまうからです。本人は悪気があって、怠けているわけではありませんが、なかなか理解されない場合があり、本人の立場がより悪くなってしまう状況も考えられます。

また、苦痛から逃れたいと思う気持ちから、ストレスとなる状況を意識的に回避する行動を取る場合が多いでしょう。たとえば、退職する、不登校になるということです。その結果、さらに社会的に生活することが困難となり、症状の慢性化につながる恐れがあるのです。

4.適応障害とうつ病の違い

生活している中で、ある出来事による重大なストレスにより発病する適応障害の症状の中には、うつ状態になっている患者さんは多くいるでしょう。しかし、うつ状態になっている適応障害の患者さんが、うつ病の患者さんと同様の病態なのかと言うと、実は同じではありません。

うつ病と適応障害では、発症のきっかけや症状、効果的な治療方法などが異なります。そのため、本当は適応障害であるのにもかかわらず、うつ病だと誤診してしまい、抗うつ薬が全く効かないというケースもあるのです。

ここでは、適応障害とうつ病の違いについて、簡単に表にまとめてみました。

 

適応障害

うつ病

発症のきっかけ

発症のきっかけ(引き金)が必ずある。

発症のきっかけ(引き金)がないことが多い。

ストレスとの関わり

ストレスによってすぐに発症するが、ストレスから離れることで症状が良くなる。

ストレスが積み重なり、慢性的にストレスに晒されている状態が続くことで発症する。ストレスから離れても、すぐには良くならない。

うつ状態の程度

うつ状態であっても、楽しいことがあれば楽しむことはできる。

うつ状態になると、自分の好きなことや楽しいことでも、全く楽しむ気持ちになれない。

病前性格

とくに目立ったものはない。

完璧主義、几帳面、こだわりが強いなどの気質の人が多い。

薬物治療

薬での治療は、あまり効果を発揮しない。

抗うつ薬などの薬は、効果を良く発揮する。

 

うつ病では、無気力や不安感、非哀感などが1日の中で、症状の強さが変動したり、今まで興味があったものや好きなことに対して全く興味がなくなることが特徴的です。それに対し、適応障害によるうつ症状は、興味をなくすほどの気持ちの変化はみられません。ストレスから離れれば、症状が速やかに軽減していき、元の生活に戻れることが特徴です。

また、職場などで適応障害をストレス関連性の障害ではなく、うつ病と同様にとらえてしまった場合、「病気なのに、休日は元気があるのはおかしい、仮病ではないか」と誤解され、問題が起こる可能性があります。適応障害の症状の一つである「うつ状態」とうつ病を混同して考えてしまうのは、仕方ないのかもしれません。しかし、適応障害は本人にとって重度なストレスが原因で起こる急性の病気であり、うつ病とは異なります。これらの違いを、職場の同僚や上司が理解されない場合、本人はさらに職場にいることがつらくなり、回避したくなることでしょう。

このように、適応障害とうつ病では、うつ状態のように似た症状が出ますが、その症状の程度や治療方針が異なることを知っておきましょう。うつ病は、抗うつ薬を長期的に服用する治療が必要ですが、適応障害では「原因となるストレス源から離れる」ことが最も大切だと言えます。

5.適応障害の診断

アメリカ精神医学会のDSM-IV-TRによると、適応障害の一般人口における有病率は、約2~8%と推測されています。つまり、100人に2~8人の割合で発症しているということです。男女比は、2:1と女性に多いと言われています。また、DSM-5によると、精神科で治療を受けている人のうち、主に適応障害と診断されている人は約5~20%いると言われており、一般的にもよくみられている疾患でしょう。

DSM-5による適応障害の診断基準は、次のとおりです。

  • はっきりと確認できるストレス因子に反応して、そのストレス因子の始まりから3ヵ月以内に情緒面または行動面の症状が出現
  • これらの症状や行動は臨床的に意味のあるもので、それは以下のうち1つまたは両方の証拠がある
    (1)そのストレス因子に暴露されたときに予想されるものをはるかに超えた苦痛、
    (2)社会的または職業的(学業上の)機能の著しい障害
  • ストレス関連性障害は他の精神疾患の基準を満たしていないこと、すでに精神疾患を患っている場合には、それが悪化した状態ではない
  • 症状は、死別反応を示すものではない
  • そのストレス因子(またはその結果)がひとたび終結すると、症状がその後さらに6ヵ月以上持続することはない

診察では、症状の出現に対してストレスの原因となる出来事があったかどうか、いつから症状が出ているのか、苦痛の程度はどの程度なのかなど、具体的に注意深く聴取することが大切になります。

適応障害の診断には、このような基準で患者さんの状態を聞き出すことになりますが、他の精神疾患から除外して診断することがほとんどです。うつ病やPTSD、統合失調症のような、他の精神疾患に分類されない場合に、適応障害と診断を受けることが多いのです。

すなわち適応障害とは、日常的ストレスと因果関係がはっきりしており、精神疾患や定型的なストレス関連障害の素因がなく、比較的軽度な症状にとどまるものと考え、診断をしていきます。

6.適応障害の治療法

適応障害の治療方法には、基本的には薬物治療は行うことはありません。情動面や行動面で生活に大きな支障を来し、眠れない・イライラが強い・過剰な不安感・恐怖感が起きている場合は、補助的な役割として薬物治療を選択されることはあります。

適応障害の治療を行うにあたり、まずは「ストレスの原因」を突き止めていきます。ストレスの原因が分かり、環境調整をすることが最も重要な治療法だとされています。

患者さん一人では、ストレスの要因を解決することは難しい場合があり、必要時は家族や職場の上司、医師でサポート体制を整えることも多くあります。

たとえば、少しの期間自宅で療養するだけで症状の改善が認められる方もいるため、まずは「環境調整」を行うことを重要と考えていきます。

しかし、環境を変えられない、調整できない状況もあります。夫婦の関係や義親との関係など、ストレスとなる要因から離れることは難しいでしょう。このような場合は、認知行動療法や問題解決療法といったカウンセリングを受けることになります。

 

どのような治療方法か

認知行動療法

出来事への考え方を修正したり、行動の仕方を変えたりして気分のコントールを図る。認知の歪みを正すことにより行動を変容する。

問題解決療法

現在抱えている問題と症状自体に焦点を当てて、協同的に解決方法を見出していく

これらのカウンセリングを受けることで、環境が変えられない場合であっても、自分がその環境に合わせて行動や意識を変えていき、環境に適応していく力を高められるようになります。

このように、適応障害を発病させるほどのストレス要因に対して回避行動を取り続けるのではなく、ストレス耐性を向上していき、そのストレスとどのように向き合うのかを、自分自身で考えて身につけることが大切になります。

たとえ今回のカウンセリングを経て、適応障害の症状が改善したとしても、再び同じストレスに直面する場合もあります。適応障害を再発する状況を防ぐために、さらにストレスへの適応を促しストレス耐性を向上させることが必要だと考えられます。

7.適応障害の予後・悪化させないために

適応障害は、ストレスに起因しているため、そのストレスが解決されたり自分のセルフコントロール力が向上したりすることで、症状が軽快し治癒する患者さんが多いです。そのため、適応障害は比較的予後が良好な病気だと言えるでしょう。

しかし、長期にわたり強いストレスがかかった状況であれば、適応障害からうつ病に移行してしまう場合もあります。適応障害が慢性化したり、一度適応障害と診断された患者さんでも、その後の経過で症状がうつ病だと判断されたりといった状況もあります。つまり、適応障害はうつ病の予備群であると考えられており、「少し休めば大丈夫」だと安易に自分で判断してはいけない場合もあります。

つまり適応障害の症状を悪化させたり、うつ病に移行したりする状況を防ぐことが大切になります。心の問題は、なかなか周りの人から理解されないことが多いのですが、身体の健康と同じように早めに対応することで、予防や症状の悪化を防ぐことにつながります。

  • 気持ちが沈む
  • イライラする気持ちが強い
  • 眠れない日々が続く
  • 食欲がない
  • 疲れやすくなった

などの症状が出た場合は、早めに心療内科やメンタルクリニックを受診することが、発病の予防に大切です。

また、適応障害になり休職している場合では、うつ病と比較しても症状の改善は速やかです。しかし、症状が良くなったからといって、すぐに復帰してしまうと再燃する可能性もあります。

そこで、再燃予防のためのリハビリが重要となるでしょう。休職中に、「復職した後に起きるストレス」について予想し、どのように対処すれば再燃を防げるのかといったストレス対処法を身につけることが大切です。

適応障害は、初期の段階ですぐに専門医の診察を受けて治療を始めれば、薬物治療の必要性はなくなり、環境調整やカウンセリングを受けるだけで症状の改善を期待できる病気なのです。そして、ストレス対処法を身につけ、自分がストレス環境に身を置いても対処できるような技術を習得することで、慢性化やうつ病などへの移行、再燃を予防することにつながるのでしょう。