境界性パーソナリティー障害
境界性パーソナリティー障害 とは
境界性パーソナリティ障害は、感情の不安定さ、自己アイデンティティの混乱、対人関係が困難に感じることが特徴です。急激な感情変動、自傷行為、恐怖感、孤独感が現れます。遺伝的・環境的な要因が関与し、多くの人が成人期初めに発症します。心理療法が主な治療法で、感情調整や対人関係スキルの向上を目指します。1.境界性パーソナリティー障害とは?
人間の感情は喜怒哀楽に富んでおり、人によっては前向きで明るい、怒りっぽい、神経質、心配性といった様々な性格があります。境界性パーソナリティー障害の患者さんは、それらの一部分が極端に偏ってしまい、気持ちや行動、自己像、対人関係が不安定になりやすくなります。そして、社会生活を送る上で本人に重大な苦痛をもたらすだけではなく、他人も苦しませているケースが多いです。
また、相手の気持ちを過敏に察することができ、拒絶されたり見捨てられたりするかもしれないと常に不安な状態で過ごしています。一人でいることに耐えられず、自殺をほのめかすといった自己破壊的行為をとる場合があります。相手が自分から離れていくと感じると、不安や怒りの感情が強くなり、自分ではうまくコントロールできず、そのような行為をとってしまいます。
このように境界性パーソナリティー障害の患者さんは、感情や対人関係が不安定、衝動をうまく抑えられない場合が多いです。そして、周囲とうまくコミュニケーションを図れず、職場や家庭などの社会生活を送ることが困難になってしまう障害です。
2.境界性パーソナリティー障害の症状・特徴
境界性パーソナリティー障害は、感情や行動、自己像、対人関係が不安定になりやすい障害と言われています。とくに共通している症状として、現実または妄想で、見捨てられるのではないかという「見捨てられ不安」を抱いているということです。他には、次のような障害の症状や特徴があります。
- 見捨てられることを避けるため、必死で努力する
- 一人でいることに耐えられないため、なりふり構わず行動する
- 不安定で激しい人間関係 相手を理想化したかと思えば、自分のニーズを満たしてくれないと極端に低評価するといった両極端な見方
- 自己像または自己感覚が頻繁に変化。
- 異常な買い物の仕方、万引き、過食、向こう見ずな危険運転、安全ではない性行為、薬物使用など衝動的な行動
- 自殺企図、自殺の脅し、リストカットなどの自傷行為を繰り返す
- 気分が急激に変化する。通常は数時間しか続かず、数日以上続くことはまれ
- 慢性的に、自分が空っぽな感じ、自分に何か欠けているといった虚無感を抱く
- 不適切かつ強い怒りを抱き、怒りをうまくコントロールできない
- 一時的な妄想性思考がある 強いストレスで、一時的に記憶がなくなる
- 非現実的または自分と切り離されているような感覚
アメリカ精神医学学会のDSM-5に基づいて診断され、上記のような症状・特徴がみられた場合は、境界性パーソナリティー障害と診断されることになります。また、この障害の有病率は、アメリカの調査によると一般人口の約2%、特に若い女性に多いといった特徴もあります。
また境界性パーソナリティー障害は、他の精神疾患を併発しているケースがしばしば見られます。次のような病気です。
- うつ病
- 不安症
- 心的外傷後ストレス障害
- 摂食障害
- 薬物依存症
併発している場合は、これらの症状も一緒に治療することになるでしょう。正しい診断と適切な治療を受けるために、心療内科やメンタルクリニックを受診しましょう。
3.境界性パーソナリティー障害の原因とは
境界性パーソナリティー障害の原因として、主に遺伝子と環境が障害の発症に関わっていると言われています。
遺伝子が原因となる場合は、家族内で境界性パーソナリティー障害患者がいるケースが多いです。とくに両親がこの病気に罹っていると、一般の人と比べて境界性パーソナリティー障害を発症する可能性が、約5倍高まります。生活上のストレスをうまくコントロールできないといった遺伝的な傾向に合わせて、他の精神疾患の発症するリスクも高まる場合があります。
また、環境が原因となる場合は、とくに幼少期に受けた過剰なストレスが発症に関わっている可能性が高いです。境界性パーソナリティー障害患者の多くは、子どもの頃に養育者から虐待を受けたり、養育者が離別または死別したりしている場合が多いです。幼少期に養育者との愛着関係を築けなかったことが、境界性パーソナリティー障害を誘発させると考えられています
4.境界性パーソナリティー障害の治療法
境界性パーソナリティー障害の治療法には、「精神療法(心理療法)」と「薬物療法」の2つあります。とくに心理療法をメインとして治療を進めていきます。境界性パーソナリティー障害に対する特定の心理療法により、自殺に関連した行動を減らしたり、抑うつ症状を軽くしたり、安全に日常生活を送れるよう支援します。
境界性パーソナリティー障害に対する特定の心理療法には、次のようなものがあります。
心理療法 |
方法・効果など |
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弁証法的行動療法 |
週1回の個人およびグループセッション。ストレスに対処する、より適切な方法を患者が見つけるのをサポート。とくに、自殺行動の減少、怒りのコントロールに効果的。 |
システムズトレーニング(STEPPS) |
週1回のグループセッションを20週間行う。自分の感情をコントロールし、否定的な予想の正当化を疑い、自分自身を適切に対処。 |
メンタライゼーション |
人が自分や他者の心の状態について考え、理解する能力をメンタライゼーションと言う。自分と周りの人の感情や思考などを理解し、それらが自分と他人の行為にどう影響を与えるか、距離を置くかトレーニングする。 |
転移焦点化精神療法 |
患者と精神療法家の交流に重点を置く。質問を行い、患者の非現実的な自己像や歪められた思考に対して、どう対処するかサポート。患者が自分と他者について、安定した現実的な感覚が育める。 |
スキーマ療法 |
生涯身についた思考、感情、行動、対処法に関する、不適応なパターンを明らかにし、健全なものに置き換える。少なくとも週1~2回、3年間のセッションが必要。 |
一般的な精神医学的管理 |
一般医向けにデザインされた療法。患者の自立心を高めるために、人間関係の構築する能力を優先的に治療。 |
このような、心理療法に加えて、必要な場合は薬物療法を取り入れます。薬物療法は、境界性パーソナリティー障害に対する治療と、併発しているその他の精神疾患に対する治療を行うことになります。
治療 |
効果 |
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気分安定薬 |
抑うつ、不安、気分の変動、衝動性の緩和 |
非定型(第二世代)抗精神病薬 |
不安、怒り、一過性のストレスに関連した認知の歪みを軽減 |
抗うつ薬(SSRI) |
抑うつや不安の緩和 ※境界性パーソナリティー障害に対する有効性は僅か |
境界性パーソナリティー障害の患者さんは、これらの治療により症状が軽減される、または消失することはあります。しかし、見捨てられ不安が軽減し、衝動的な気分や行動などの症状が抑えられたとしても、安定した社会生活を必ず送れるようになるとは限りません。
また、治療期間も個人差があり、短期間で社会生活が送れる方もいれば、長期にわたり少しずつ治療の効果が出る方もいます。境界性パーソナリティー障害での治療は、薬物療法で症状を抑えつつ、仕事や家庭での生活を苦しい思いをせずに安心して送られるよう、心理療法や周りの方がサポートすることが大切になります。
5.境界性パーソナリティー障害を持つ人への関わり
境界性パーソナリティー障害を持つ人は、人から見捨てられるのではないかと常に不安と恐怖を抱えて生活しています。衝動的、暴力的になったかと思えば、過剰に好意を抱いてきたり、離れないようにと自分と他者との境界が分からず踏み込んできたりといった極端な行動をとるでしょう。
周りの人を振り回してしまい、疲れ果ててしまいます。しかし、これらは境界性パーソナリティー障害の特性であり、自己表現の一つとも言えます。
この病気を持つ人との関わりで大切なことは、まずはありのままを受け入れることです。周りの人も一緒に感情的になることはせず、冷静に対処しましょう。
心療内科やメンタルクリニックで定期的に治療を受け、本人だけではなく周りの人が振り回されることで疲れ果ててしまわないよう、適度な距離感で接すると良いでしょう。