クエチアピン(セロクエル®、ビプレッソ®)について

2024-12-08
監修:本 将昂

クエチアピン(セロクエル®、ビプレッソ®)について とは

 クエチアピン(セロクエル®、ビプレッソ®)について -  日本精神医学研究センター

クエチアピン(商品名:セロクエル、ビプレッソ)とは

 クエチアピンはアメリカの製薬会社アストラゼネカで合成、開発された非定型抗精神病薬(MARTA)といわれるタイプのお薬です。

クエチアピンは、統合失調症や双極性障害(躁うつ病)に対して使用されるお薬で、統合失調症に対してはしては「セロクエル」、双極性障害に対しては「ビプレッソ」という商品名で承認・販売されています。どちらも有効成分は同じクエチアピンですが、用量とお薬のタイプが異なります。セロクエルは錠剤もしくは細粒タイプですが、ビプレッソは徐放錠タイプになります。徐放錠は服用後体内で徐々に有効成分が溶け出すため作用が持続しやすく、また急激に血中濃度が上がらないため副作用が生じにくいという特徴があります。また、現在では多くのジェネリック医薬品も販売されており、その場合は名称に「クエチアピン」とつきます。

クエチアピンは、脳内の多くの受容体(ドパミン、セロトニン)に作用し、強い不安感や緊張感、意欲の低下などの症状を改善し、統合失調症や双極性障害におけるうつ症状を治療します。

双極性障害は、ハイテンションで活動的な躁状態と、憂うつで無気力なうつ状態を繰り返します。クエチアピンは、日本で販売された当初は統合失調症の適応のみで、双極性障害に対する適応はありませんでした。しかし、国外においては双極性障害のうつ状態に対して一般的に使用されており、双極性障害の治療ガイドライン内でも使用が推奨されていました。そのため、2010年に厚生労働省はアストラゼネカに対して、クエチアピンを双極性障害の治療薬として開発を進めるよう要請し、2017年に双極性障害のうつ症状治療の適応を取得しました。ただし、現在でも双極性障害の躁症状に対しては適応を取得していません。しかし、米国や英国などの諸外国では躁症状および躁うつの混合性症状にも適応を取得しており、広く用いられています。

クエチアピンの作用について

クエチアピンは脳内の神経伝達物質(ドパミン、セロトニンなど)のバランスを整えることにより、双極性障害のうつ症状を改善する作用があります。

日本うつ病学会により作成された双極性障害治療ガイドラインでは、双極性障害におけるうつ症状の治療薬としてクエチアピンの単独使用が推奨されています。

躁状態に対する治療においては、適応外使用となりますが、過去の臨床研究により有効性が得られているため、リチウムなどの気分安定剤との組み合わせによる使用が推奨されています。

双極性障害の治療においては、躁状態、うつ状態の両症状が落ち着いた際、それらの症状を再発させないことが重要です。そのため、通常状態の維持療法としてその間もお薬を服用する必要があります。維持療法に使用されるお薬は複数ありますが、その中でクエチアピンも過去の臨床研究で有効性が認められているため、治療ガイドライン内で使用が推奨されているお薬の一つです。

 

クエチアピンの服用方法について

服用方法については以下の通りです。

双極性障害におけるうつ症状に対し、通常、成人は1回クエチアピンとして50mgを1日1回服用することから開始します。その後、2日以上の間隔をあけて1日1回150mgへ増量し、その後さらに2日以上の間隔をあけて1日1回300mgを服用します。いずれの場合も、1日1回就寝前に食後2時間以上開けて服用します。

 

クエチアピンの注意点について

開発期間中に認められた主な副作用は以下の通りです。

  • 傾眠(眠気):50.7%
  • 口渇:23.5%
  • 倦怠感:10.9%
  • 体重増加:10.9%
  • アカシジア(じっと座っていられない、ソワソワする):9.1%
  • 便秘:8.8%
  • 食欲亢進:5.6%
  • 頭痛:5.3%
  • 悪心(嘔吐前の胃のむかつき):4.4%
  • 浮動性めまい:4.1%

 

クエチアピン服用中に血糖値の著しい上昇や低下といった症状が発現する可能性があります。なお、血糖値異常は自覚しにくく、そのまま放置すると重い状態へ繋がる危険性があるため注意が必要です。脱力感や倦怠感、口喝、手足の振るえといった症状の発現の有無、定期的な血糖値の測定を行われることが推奨されています。

うつ症状が重い方に対しては、服用開始初期や用量変更時に不安感などの症状が強くなることがあります。そのため特に開始初期、用量変更時は患者さんの病状、状態の変化に注意するようにしてください。

 

服用できない/注意が必要な患者さん

以下の患者さんはクエチアピンを服用することができません。

  • バルビツール酸誘導体などの中枢抑制系のお薬を長期的に服用されている患者さん
  • 過去にクエチアピンの服用で過敏症を発現した患者さん
  • アドレナリンを使用している人(アドレナリンをアナフィラキシーの救急治療に使用する場合を除く)
  • 糖尿病、または過去に糖尿病になったことがある患者さん

また、クエチアピンの服用期間中は、眠気、注意力・集中力・反射運動能力などの低下が起こることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械を操作する際には注意する必要があります。もし、これらの症状を自覚した場合には、すみやかに作業を中断してください。