うつ病 1

 

 

はじめに

 

 

うつ病は世界で2億6400万人以上

 

世界保健機構、WHOによると、うつ病に悩んでいる人が世界で2億6400万人以上に上ると推定しています。うつ病は最悪の場合、自殺につながることがあるわけですが、世界でうつ病関連の自殺者が年間80万人発生していると推定されています。社会構造や日常生活の状況が変わってきており、ストレス社会となっています。日本ではそれに直面しており、特に大きなことは日本が世界の先頭を切って超高齢社会に入ってきています。うつ病の3つの大きなカテゴリーは、若い人たちの青年期、妊娠・出産期の女性たち、そして高齢者に分けていますが、WHOではうつ病はどんな年齢層でも起こり得ると強調しています。超高齢社会に差しかかった日本では、メンタルな要素をもう少し考えなければなりません。

 

うつ病で苦しむ人に気付き、治療の支援を行う必要があります。うつ病になれば、激しい気分の落ち込みが長期間続き、仕事など日常生活に支障がでるようになります。大人のおよそ5%がうつ病にかかるとされるなど、WHOは地域などに関係なく世界的に起こっている現象としています。さらに、女性のおよそ5人に1人が産後うつ病にかかり、アルコールや薬物中毒、経済状況、失業といった外部環境なども、うつ病を招く要因としています。うつ病患者は自分の病気を自覚しにくいため、必要な治療を受けている患者は半数にも満たないと報告しています。

 

 このように、うつ病は今、世界的に増加している疾患です。我が国における年間の医療費の中でうつ病の治療に必要な医療費は約2000億円(外来費用、入院費用、薬剤費用の総計)、社会的損失は約2兆円(罹病費用9200億円、死亡費用8800億円を含む)であり、心臓病(冠動脈疾患)の治療に必要な医療費に匹敵し、また、ガン(悪性新生物)の治療に必要な治療費の約二分の一に相当すると報告しています。そして、生涯有病者数はがんや心臓病の2倍以上という憂えるべき事態になっており、現在、うつ病は今世紀最大の克服すべき病気の一つになりつつあります。

 うつ病の増加傾向は日本においても同様で、日本の医療機関を受診するうつ病患者数は、ここ十数年で4倍以上に増えており、しかも年々増加しています。内閣府の『障害者白書』によると、精神障害で苦しむ人は人口の約4%にあたるおよそ419万人いるとしています。これは、福岡県の総人口(約511万人)に匹敵する数ですので、いかに多くの人が精神障害で苦しんでいるのかがわかります。その内、うつ病を含む気分障害の患者数は約30%の128万人に達しています。またうつ病に限っていえば、7人のうち1人が生涯のうちに1回はかかるという報告もあります。こうした背景もあって、わが国では自殺によって命を落とす方が2万人弱いますが、その約半数の方が自殺直前の段階でうつ状態にあるといわれており、過去10年間減少しつつあるものの、うつ病は未だに深刻な社会問題といえます。

 

 

背景にストレスの増大が

 

 うつ病の増加の背景には、やはり社会的・文化的な要因が強く影響しているものと考えられます。近年の特徴として、特に働き盛りの40~50代の年齢で発病が増えている傾向があります。成果主義や効率主義、また「勝ち組」や「負け組」といった言葉で象徴されるような競争社会のなかで、若者たちは過重労働をしいられ、心身のストレスが慢性的に溜まっています。職場の長期休職者の大半がうつ状態、もしくはうつ病によるものであると言われ、仕事ができなくなる原因疾患の第一位に挙げられています。さらには、インターネット社会が急速に進み、世界のあらゆる情報をいつでも容易に知ることができ、貧富の格差や自己不全、閉塞感などもうつ病を増加させている要因になっています。

 このように、うつ病が急増している背景にはストレスの増大があります。そのストレスも単純なものではなく、複合的なストレスです。高度情報化、核家族化、高齢化、少子化、都市化に伴う地域コミュニティーの崩壊、都市機能の一極集中化、女性の社会進出、さらにはバブル経済の破綻、不景気に伴うリストラ、社会環境の激変などさまざまな要因があります。確かに、現代の社会は高度化と多様化で、生活は便利になりましたが、その反面で人間関係の摩擦や葛藤がうまれ、生活スタイルが変化し、価値観が多様化するなかで、常にストレスにさらされ心のトラブルを抱えながら生活しています。このストレスの要因の他に、日本人特有の依存的体質である「甘えの構造」もあります。年齢を重ねても、大人になりきれないといういわば“境界人間”が増え、その結果、さまざまな心のトラブルに悩まされてうつ病の予備軍となり、軽症うつ病の患者が増加しています。

もちろん、うつ病患者が増加しているもう一つの背景には、うつ病に関する知識や情報が広まり、以前に比べて精神科を受診する人が増えていることが挙げられます。同時に、医療側の事情としても新しい診断基準(DSM分類やICD分類など)が普及し、診断が明確になったことも理由に挙げられます。しかしこのことは、うつ病と知らずに苦しんでいた患者が以前はかなりいたことを裏付けることにもなります。今後もうつ病患者数は増えることが予想されます。日本の医療機関でのうつ病患者数は、平成14年度の71万人から平成29年度の127万人と15年間で8割増加し、年々増加しています。それに伴って心療内科クリニックの数も急増しており、診療内容にも差があります。今や、病気による社会の負担は、ガンに次いでうつ病が社会負担の大きな疾患になっていることが統計上で明らかになっています。そのため、今やうつ病は日本の国民病としてその重大さが認識されようとしています。

 

 

「心のカゼ」と言われるうつ病

 

 そもそもうつ病とは何か、という問いに対して「うつ病は心のカゼ」という表現がよく使われます。カゼというイメージに置き換えると解りやすく、うつ病は誰でも発症する可能性があると同時に、うつ病は適切に対処しなければ長引いて、重症化する恐れがあるということです。また一度回復しても、再び悪化したり、数年たって再発したりするケースもよくあります。うつ病は、多くは治りやすい病気ですが、再燃・再発しやすい病気でもあるということです。「心が弱いから、性格に問題があるからうつ病になる」という思い込みは大きな誤解です。誤った思い込みが、うつ病の症状とは別に患者を苦しめ追い詰めてしまうことになりうるので、うつ病を正しく理解することが何よりも重要なことです。

 うつ病の難しさは、何と言っても患者の心の中で起こる症状のため、周囲も本人もなかなか気付きにくい点です。患者がうつ病で苦しんでいても、内科的な検査ではなかなか異常が認められないため『最近ではうつ病になるとBDNF(脳由来神経栄養因子)の血中濃度が低下することや、PEA(ホスフォエタノールアミン)の血中濃度が低下することが発見され、約9割のうつ病患者が血液検査で診断が確定できるようになりつつあります』「気のせい」「気の持ちよう」と言って片付けられてしまう傾向があります。また、苦しんでいても、本人は家族や職場など周りの人に心配をかけまいとして、症状を口にせず隠し続けるケースもあります。一般的にうつ病患者は、まじめで他人に気を遣うタイプの人が多いため、仕事に対しても誠実に向き合い、症状に苦しめられていてもギリギリのところまで頑張ってしまいます。そしてどうにもならない状態になって、はじめて周囲が気付くことも少なくありません。

特に企業にとっては、生産性向上のために社員のうつ病対策は重要な課題でした。メンタルヘルスケアにいかに取り組むかが、その会社の企業価値を高めることにつながっていると考えられていたのです。この考え方は、数年ほど前までは順調に成長しつつありましたが、昨今のデフレ経済で象徴される金融不安、景気の後退、業績の低下、さらにはリストラの断行、工場閉鎖、生産調整、企業の存続すら危ぶまれるなかで、メンタルヘルスへの意識の低下は否めません。そうした中で、メンタルヘルスに問題を抱える社員が増加し、会社側も休職者への配慮が難しくなり、先の見えない社会不安や雇用不安が続くことによって、ますます心の不調者は潜在的に増えているものと考えられます。

日本生産性本部メンタル・ヘルス研究所の全国調査(2012年)では、全国の上場企業の約220社を対象に「心の病」を抱える従業員の年代別調査をおこなったところ、40代が最も多く、2年前の調査から13.9ポイントも増えて36.2%となったと報告しています。次いで30代が34.9%、10~20代も4.9ポイント増えて18.8%となっています。それらの原因は「本人の資質」や「職場の人間関係」によるものと回答しており、要因としては成果主義型の人事制度の中で、管理職に就けずに権限がないまま責任だけを負わされる40代特有の状況があるとしています。うつ病であることを会社に告げれば職を失うかもしれないという不安に苛まれながら、会社を休むこともできずに無理して働くことで病状を悪化させてしまっている人も少なくありません。

 


 

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