ADHD

ADHD (Attention Deficit / Hyperactivity Disorder)

注意欠陥・多動性障害

はじめに

2003年に文部科学省が全国の小中学校生を対象に行った調査では、普通学級に通う子どもたちの約3%に、落ち着きがなかったり、集中できないという特性を持った子どもがいることが明らかになりました。 この調査結果をふまえて、文部科学省は「特別支援教育」の基本方針を発表しました。 全国津々浦々の小中学校だけでなく、保育園、幼稚園、そして家庭の中に、集中ができず、落ち着きがない、あるいは、すぐに衝動的な行動に出てしまう子どもたちがいます。 こうした子は、まわりの友人や大人たちにとって「手のかかる子ども」あるいは「問題児」とみなされてしまいがちです。 しかし、彼らは、自分の行動特性のために、まわりから非難されたり、叱られたり、あるいはいじめの対象になりやすいため、本人自身が多くの困難を感じています。 こうした行動特性のある子どもたちに、注意欠陥多動性障害(ADHD)という診断名が与えられています。 ADHDは決してしつけや本人の努力が足りないことの結果ではなく、脳機能障害のひとつであることも明らかになってきました。 さらに、近年では、ADHDの症状を軽快させる有効な治療法や、日常生活での困難を解消する対処法があることも広く知られるようになってきています。 かつては、ADHDという「診断」をつけることに対して、レッテル貼りだという見方もありましたが、現在では、ADHDの子どもに対して適切な対応をすることで、二次障害を防ぐことが重要であることが明らかになっています。  

よく聞く「ADHD」とは、どんな行動をとる子のことをいうの?

子どもの発達障害として、ADHDという言葉をよく耳にするようになりました。 どんな行動をとる子どものことをいうのでしょうか? ADHDというのは、発達障害のひとつです。 発達障害というのは、子どもの精神機能が発達する過程で起きることがある、さまざまな障害の総称です。 主な発達障害には、自閉症、LD(学習障害)、アスペルガー症候群、高機能自閉症などがあります。 ADHDは、日本では「注意欠陥多動性障害」といわれています。 集中できないために忘れ物が多い、物をなくしやすい、落ち着さがない、物事を順序立てて行うことが難しい、衝動的、順番を待つことが難しいといった行動の特徴を持っています。 こういった行動特性は、子どもがもともと持っているものですが、ADHDの子はその行動のために周囲の理解がなかなか得られず、日常生活を送るうえでさまざまな困難を抱えながら生活しています。  

ADHDの子の行動には、必ず「理由」がある

衝動的な行動をとりがちなADHDの子ですが、理由もなく騒いだりするようなことはありません。 この点が、ほかの発達障害との大きな違いなのです。 ADHDの子には、知的な障害は見られないことがほとんどです。 つまり、親や先生の言ったことは、しっかり理解できるのです。 しかし、理解はできても自分の衝動をうまく抑えることができないのが、ADHDの大きな特徴だといえます。 例えば、友だちと言い争いをしていて、急に手を出してしまうような衝動的な行動が見られます。 しかし、子どもの様子をよく観察していると、その行動には必ず理由があることがわかります。 はたから見ていると突然、友だちに手を出したように見えても、実はその背後には友だちとの気持ちの行き違いなどがあるものなのです。 ただし、こういった行動は、注意されても自分で意識して直すことはなかなかできません。 つまり、ADHDの子は対人的な社会性がないわけではありません。 「手を出した」ということで「問題児」だと決めつけてしまうのは大きな間違いです。  

ADHDの症状?

1.「忘れ物」が多くて困っている

ADHDの中で「不注意型」に当てはまる子は、忘れ物が多いのが特徴です。 持ち物を忘れたり、自分のしようとしていることを忘れることもあります。 ADHDの子どもには、3つのタイプがあります。 それは「不注意」が強くあらわれる子、「多動性・衝動性」が強くあらわれる子、どちらの症状も同じくらい前面に出ている「混合型」の子の3タイプです。 「忘れ物が多い」のは、「不注意」が強いタイプの子に見られる症状です。 医師が「心の病気(精神疾患)」の診断をする際に基準としている「DSM-Ⅳ」では、「不注意型」の特徴として「課題や活動に必要な物をしばしばなくす」「直接、話しかけられても、聞いているようには見えない」「さまざまな課題や遊びにおいて、注意力を持続することが困難である」などの特徴をあげています。 このタイプの子は宿題や鉛筆、教科書などの忘れ物が多く、授業中にぼんやり外を眺めていたりします。集中力に欠け、うまく指示に従えないのも特徴です。  

2.衝動的な行動で「友人関係」がうまくいかない

気持ちの行き違いが原因で、友だちとケンカをするなど、ADHDの子は友人関係がうまくいかなくなることがままあります。 ADHDの大きな特徴に「衝動性」があります。 そのため、友だちとの気持ちの行き違いが原因で、自分を抑えることができなくなったりします。 まわりからは、突然怒ったり暴れたりといった行動をとったように見られがちで、いわゆる「キレやすい」子と思われ、距離を置かれてしまうこともあります。 一見、本人がいじめっ子になっているようですが、そんな行動を友だちにからかわれたり嫌われたりして、逆にいじめの対象になることもあります。 さらに先生から「叱っても反発ばかりする」というレッテルを貼られてしまうと、本人にとって集団生活を送ることが大変苦しくなってしまいます。 「なぜ自分はこうなんだろう?」と悩み、疎外感を深める原因ともなります。 衝動的な行動から友だちとのトラブルが続くような場合は、ADHDの診断基準に当てはまるかどうか、子どもの行動を注意深く観察してみましょう。  

3.「集中力」がまったくない

じっと人の話を聞いたり、細かい作業をするために根をつめなければならないようなときに、どうしても集中することができません。 ADHDの子どもは、集中しなければならない状況でも集中し続けることができません。 通常、私たちは、たくさんある情報の中から自分に必要な情報だけをピックアップすることを自然に行っています。 ところがADHDの子どもは、必要なものだけに神経を集中させることがどうしてもできないのです。 学校では、先生の話を最後まで集中して聞けないため、授業の内容をしっかり把握することができなくなったりします。 そのため、学習に遅れが生じてしまいがちです。 また、団体行動をとらなければならない場面でも、途中で注意がそれてしまうためひとりだけみんなと違った行動をとってしまうことがあります。 家庭では、ひとりで宿題をしていてもテレビの音や机のまわりにあるほかの本に気をとられたりして、なかなか進みません。 また、親の話を注意して聞けないので「反抗的な子」と思ってしまいますが、本人には決して悪気はありません。  

4.「落ち着きがなく」動きまわってしまう

ADHDの子は、静かにしなければならない場所でも騒ぎ出してしまいます。 親にしてみれば「子どもらしい」と笑ってばかりいられないこともあります。 子どもは、電車の中や店の中などで騒ぎ出してしまうことがよくあります。 小さいうちは、いわゆる「場の空気」をうまく読むことができません。 そのため、子どもは静かにしていなければならない状況なのかどうかを理解することがなく、動きまわってしまいます。 一般にこういった行動は、大きくなるにつれて少なくなっていきます。 まわりの大人に注意されたり、経験を積み重ねたりする中で「今は騒いではいけないのだな」ということに本人も気づき始め、行動を慎むことができるようになります。 しかしADHDの子は、言い聞かせても騒いでしまう様子がさまざまな場面で見られます。 就学前は「あの子は活発だから」と見てもらえたことも、小学校に上がるとだんだんそうはいかなくなり、本人も困難を感じるようになります。  

ADHDについての疑問

ADHDは「赤ちゃんの頃から」あるものなの?

ADHDは生まれつきのものなので、厳密にいえば赤ちゃんのADHDもあります。 集団生活を始めた頃に症状ははっきり見えてきます。 「ADHDの赤ちゃん」がいるのは確かですが、赤ちゃんのうちはADHDによって日常生活に支障をきたすような場面はそう多くありません。 また、元気よく体を動かす様子だけを見て、その子がADHDかどうかを親が判断することはまず不可能といえるでしょう。 ただし、ADHDの子どもは、赤ちゃんの頃から外からの刺激に対してよく動きまわったり、周囲に注意を払わないといった傾向があるのは事実です。 小学校に上がってからADHDと診断された子の親の中には「そういえば、赤ちゃんのときに激しく動きまわってよく頭をぶつけていた」とか、「高いところから飛び降りて、ハラハラした覚えがある」といった話をする人もいます。 集団生活を始めると、ルールに従って自分を抑えなければならない場面が出てきます。 そのため入園・入学を境に、親がADHDに気づくことが多いのです。  

ADHDかどうかの「線引き」はどこでする?

小さな子どもは基本的に衝動的で集中力に欠け、落ち着きのないものです。 ADHDかどうかは、日常生活での困難がどれほどかによって判断します。 子どもはもともと衝動的で、集中力が持続せず落ち着きがありません。 その状態がADHDなのかどうかを判断するには、「ADHDの診断基準」を参考にします。 まずは診断基準に見られるような、多動性・衝動性・不注意による行動がどれくらいあるかをチェックしてみましよう。 さらにその行動のため、子どもが日常生活を送るうえで困難が生じているかどうかをよく観察します。 そのような困難が、家庭・学校・習い事など、2ヵ所以上の場で見られる場合は、ADHDの可能性が考えられます。 例えば、習字のお稽古のときにはそわそわ落ち着さがなくても、学校では授業に集中できているような場合はADHDではありません。 その子が単に、習字のお稽古が嫌いなだけだといえるのです。 また、たとえADHDに見られる症状があっても、日常生活を送るうえで大きな困難がなければ、必ずしも医療機関にかかる必要はありません。  

「親の育て方」が原因で、ADHDになってしまうの?

友人関係がうまくいかなかったり、学校でのルールが守れない、あるいは先生の指示に従えないのは親の育て方に問題があるわけではありません。 ADHDの子どもは、多動・衝動的な行動から保育園・幼稚園・学校などで、集団生活がうまくできないことが多いものです。 その行動特性からほかの子どもたちと衝突してしまうことが多く、いわゆる「問題児」扱いされてしまうこともあります。 保護者会などの場で、自分の子どもについてそのような指摘をされたら、親としては針のむしろに座らされているような気持ちになることでしょう。 しかし、ADHDの子どもは、生まれつき自分の衝動を抑える能力が不十分なために、多動・衝動的な行動をとるのであって、育て方やしつけとは直接には関係ないのです。 「お宅のしつけが悪いのでは?」と言われたときには、「育て方やしつけの問題ではなく、生まれつきの行動特性である」と、答えてください。 ADHDの子どもも、適切な指導をすることで、集団の場でのさまざまな困難を乗り越えていくことは可能です。  

ADHDは「遺伝」する?それとも「環境」が原因?

ADHDの原因は、医学的にはまだはっきりとはわかっていません。 しかし、「家族性」があることや、周囲の「環境」にも原因があると考えられています。 ADHDには、「家族性」があることがわかっています。 家族性というのは、家族に糖尿病や近視の人がいると、自分もそうなる確率が高くなるという意味です。 病気の遺伝子を受け継いだ子どもが、親と同じ病気を発症する「遺伝」とは少しニュアンスが違います。 アメリカで行われたある調査によると、父親か母親のどちらかにADHDがあると、その子どもにADHDがあらわれる確率は最大50%だといわれてます。 また、兄弟姉妹にADHDの子どもがいる場合、いない子に比べ5~7倍の率で発症するというデータもあります。 しかし多動・衝動的な行動に対しては、周囲の対処の仕方で症状の出方は大きく変わります。 ADHDの家族性がある一卵性双生児でも、両方の子が発症する確率が100%ではないのは、成育環境などの影響によるものと考えられます。  

「自閉症」とADHDはどう違うの?

他者とコミュニケーションがうまくとれない「自閉症」も発達障害のひとつです。 ADHDとは違い、特定のものに強く執着するなどの特徴があります。 「自閉症」と「ADHD」は、どちらも発達障害ですが、症状の背景はまったく違います。 自閉症の大きな特徴は、
  • 対人関係がうまく築けない、
  • 言葉の遅れがある、
  • 特定のものや行為に対して強く執着する、
という3点です。 「多動」は自閉症の子どもにも見られることがありますが、行動の原因はまったく異なります。 例えば「授業中に立って歩いた」場合、ADHDの子は、窓の外などに興味のひかれるものを見つけたことがきっかけだったことがわかります。 しかし自閉症の子は、何が誘引となったのか、周囲からは理由がはっきりわかりません。 またADHDの場合、多動・衝動的な行動によって、自分だけでなく周囲も困らせてしまったことを十分に理解しています。 一方、自閉症の子は、相手の気持ちを理解する能力が十分に備わっていないためにその場の雰囲気が読めず、ルールに従うことができません。

「アスペルガー症候群」とADHDはどう違うの?

「アスペルガー症候群」

知的障害はありませんが、コミュニケーション能力に欠けるのが特徴です。 「アスペルガー症候群」は、自閉症と同じく「対人関係がうまく築けない」「ひとつのことにひどく執着し、こだわりを持つ」といった特徴を持っています。 自閉症との違いは、言葉や知能の発達に遅れがないことです。知能に遅れのない自閉症(高機能自閉症)とよく似ています。 しかし、アスペルガー症候群の子は、「相手の気持ちを汲む」「言葉の裏を読む」といった能力が不十分なため、他者とのコミュニケーションがなかなかとれません。 また、自分がこだわっている対象に変化が生じると、とたんにパニック状態になるなどの症状も見られます。 行動の原因を周囲が理解することは難しく、人間関係がうまくいかなくなりがちです。 その意味では表面的にADHDと共通しますが、ADHDの子は相手の気持ちを思いやることはできます。 ただ、衝動的な行動が原因で、結果的に対人関係がうまくいかなくなるだけなのです。  

「アレルギー疾患」の子はADHDになりやすい?

アレルギー疾患を持つ子は、落ち着きのない子が多いといいます。 ADHDの多動と似ている部分もありますが、両者はまったく関係ありません。 近年、気管支喘息やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーといったアレルギー疾患を持つ子どもの数は年々増加しています。 そういった子どもに落ち着さがないのは、静かにしていなければならない場でも、咳やくしゃみが出たり、皮膚や目・鼻のかゆみによって、常に体を動かしてしまうからだと考えられています。 この落ち着きのなさは、ADHDの多動とはまったく違うものです。 アレルギー疾患は、一定の食物やハウスダストなどアレルギーの原因物質に触れることによって引き起こされます。 生まれつきの行動特性を持つADHDとは、根本的に違う疾患なのです。 したがって先にアレルギー疾患があり、それが原因であとからADHDを発症するということはありません。 アメリカではADHDの民間療法が多数存在します。 そのひとつに、アレルギー食を排除するというものがありますが、何ら医学的な根拠はありません。  

診察や検査などで、子どもが「こわい思い」をすることはない?

小さな子どもを大きな病院に連れていくのはなんとなくかわいそう……。 しかし、診察や検査で子どもがこわい思いをすることはありません。 病院で行われるADHDの診察は、基本的に普段の行動を医師が聞き取っていくことが中心になります。 子どもがこわい思いをするような検査はしません。 ADHDは、基本的に「DSM-Ⅳ」という基準によって診断されます。 病院では、まず、ADHDの症状がどの程度かを、アンケート形式のチェックリストに記入します。 診断には家庭での様子だけでなく、集団生活での様子も欠かせないため、チェックリストは担任の先生などにも記入してもらう必要があります。 さらに医師が診察を行い、必要であれば心理テストや知能検査を行います。 親が「かわいそうに」という不安定な気持ちでいると、その気持ちが子どもにも伝わり、不安感を増すことにつながりかねません。 診断を受けることによって、対処方法もはっきりします。 原因がはっきりしないまま親子で苦しみ続けるより、きちんと診断を受けることが、最終的には子どものためになると考えましよう。  

病院にかかることで、子どもの「劣等感」が強くなるのでは?

子どもが劣等感を持つのではないか、というのは大人の価値観です。 本来、ADHDは劣等感を持たなければならないものではありません。 まずADHDが「劣等感を持たなければならないようなものだ」という、大人の考え方を改めなければなりません。 そもそも、子ども自身は、自分の行動は無意識に行っていることなので、劣等感は持っていないはずです。 しかし、周囲からADHDによる行動を否定されたり責められ続けたりしているうちに、自分自身が悪いような気がしてきて劣等感が「植え付けられて」いくのです。 「風邪かもしれない」と思って病院にかかることに、劣等感を持つ人はいません。 それと同様に「ADHDかもしれない」と思って病院にかかることに、劣等感を持つ必要はありません。 周囲がどのように反応するかによって、子どもが劣等感を感じてしまうこともあれば、そうでないこともあるのです。 ADHDの子は、集団生活の場で誤解を受けやすいのは確かです。 せめて親だけはADHDを正しく知り、子どものよき理解者となりたいものです。  

ADHDは「病気」なの?

薬を使って治療を行うことが多いADHDですが、いわゆる「病気」とは少しニュアンスが違います。 ADHDの原因を考えてみましょう。 一般に「糖尿病」といわれれば、私たちは病気というイメージを抱きます。 一方、「近視」といわれると、病気というイメージはあまり持たないものです。 しかし近視は医学的にいうと「調節障害」という病気です。 それと同様に、ADHDも広い意味では病気という考え方もできますが、そうとは言い切れないニュアンスがあります。 病気というより「機能障害」というほうが適しているでしょう。 ADHDの原因が脳にあるということは、以前から研究者の間で指摘されていたことです。 脳の形や働きを見てみると、ADHDの子は前頭葉、大脳基底核が平均よりやや小さめだったり、記憶を司る前頭葉の働きが不活発であることが報告されています。 その原因のひとつとして、脳内の神経伝達物質ドーパミンの働き方に偏りがあることがあるいわれています。 脳は周囲から刺激を受けて働くので、環境によっても症状には違いがあらわれます。  

ADHDは「大人」になっても治らない?

ADHD特有の脳の働きは、基本的には大人になっても変わりません。 多動性・衝動性はおさまってきますが、注意欠陥を持ち続けることはあります。 ADHDは生まれつきのものですが、環境を変えたり、周囲が適切に働きかけることによって、支障なく社会生活を送ることが可能です。 しかし脳の基本的な働きは変わらないため、大人になっても症状をそのまま持ち続ける人もいます。 アメリカでは子どもの7~8%にADHDが見られるといわれています。 そして、大人の4.4%がADHDの行動特性を持ち、リタリンという薬を服用しているという報告もあります。 大人の症状では、一般には徐々に「多動」は見られなくなるため、「注意欠陥障害(ADD)」とよばれています。 例えば、物忘れの激しい人が、大事な商談の約束を忘れてしまったら会社に大損害を与えてしまいます。 しかし、これらの人々は、直感的なひらめきを必要とする仕事や、行動力を生かせる仕事が向いていたりします。 できるだけ本人のよい面が生かせるような生活をすることが重要です。  

ADHDの子は「知的障害児」なの?

ADHDの子は先生の話を最後まで集中して聞けないため、学校の成績が悪いことが多く、いわゆる「知的障害児」と誤解する人もいます。 ADHDの子は、集中力をすっと働かせることができないため、学校で先生の話を途中までしか聞くことができず、授業内容をしっかり理解できないことがよくあります。 家に帰ってから取り組まなければならない宿題などがある場合も、ほかのことに気をとられて、ひとりではなかなか集中できません。 そのままの状態が続くと学習が進まなくなり、成績も下がってしまいがちです。 しかし、学校の勉強ができないということと、知的障害(精神遅滞)があるということは違います。 診断基準でも、ADHDには「知的障害のないこと」が診断のポイントとしてはっきり示されています。 ただし「発達障害」は、複数の症状を合併しやすく、ADHDであるとともに、LD(学習障害)などを合併しているというケースもあります。 知的障害の可能性を感じたり、何らかの形で指摘されたようなときには、医療機関に相談してみるべきでしょう。  

ADHDの子は「LD(学習障害)」を合併することが多いの?

ADHDの子は、LD(学習障害)を合併しやすいという特徴があります。 また、授業内容の理解が困難で、学校生活に支障をきたすことがあります。 ADHDは、さまざまな精神疾患を合併することがあります。 その中でも特に多いのがLDとの合併です。 LDは日本では「学習障害」といわれています。 文部科学省では「読字障害(文章を読むことが困難)」「書字障害(文字を書くことが困難)」「算数障害(算数を理解できない)」の3つに加えて、推論すること、聞くこと、話すことに障害があるものを「学習障害」と定義しています。 文章を読んでその意味を読み取ったり、人のしゃべっている内容を理解することに困難を感じるのがLDの大きな特徴です。 また、算数だけがどうしても理解できないというLDもあります。 教科書を読んで先生の話を聞くという現在の学校教育の中で、LDの子が非常に苦しい思いをしていることは想像に難くありません。  

ADHDの子は「特別支援学級」に通うことになるの?

学校によっては、知的障害児などのために「特別支援学級」を設けているところもあります。 しかし、ADHDの子は普通学級への在籍が基本です。 「特別支援学級」は、かつては「特殊学級」とよばれ、もともと知的障害児や肢体不自由児、視覚障害児、聴覚障害児、病弱児などのために設置されたものです。 特殊学級が始まった頃は、ADHDやLDといった発達障害がそれほど一般に認知されていなかったため、発達障害の子が入るというケースは想定されていませんでした。 現在は、自閉症や高機能自閉症(知的障害のない自閉症)の子どもが、特別支援学級で学ぶケースが見られます。 特別支援学級は比較的人数が少なく、きめこまかい指導ができるという点で、ADHDの子に向いていると考える人もいるかもしれませんが、知的障害のないADHDの子は特別支援学級に通う必要はありません。 学校側の体制にもよりますが、普通学級に副担任を置いて、ADHDの子どもを注意深く見守るという取り組みをしているところもあります。  

ADHDの子は「精神病」になりやすい?

ADHDの子は、自分が周囲に理解されない経験を重ねるうちに精神的ストレスを抱え込み、それが原因で抑うつ状態になることがあります。 心の風邪ともよばれる「うつ病」は、ADHDの子に多いといわれています。 「ADHDがそのまま精神疾患に移行する」というより「ほかの精神疾患を合併する」といったほうがよいでしょう。 ADHD特有の行動が原因で起こるさまざまな状況の中で、子どもは周囲から責められたり叱られたり、あるいは、いじめられたりすることがあります。 小さい頃からそのような環境で育っていると、子どもは疎外感や孤独感に苦しみながら成長することになり、年齢が上がるごとに精神的ストレスを強めていきます。 そのストレスが自分の内面に向かうと、抑うつ状態を招き、うつ病を合併します。 逆に内側にため込んだエネルギーが社会へ向かうと、「行為障害」(非行)という形であらわれます。 周囲の大人は子どもの苦しみに目を向け、二次的な精神疾患が起こらないよう適切に対処したいものです。  

ADHDの子は、思春期に「非行に走りやすい」って本当?

自分の行動を理解してもらえずに苦しんでいるADHDの子は、思春期になると、その気持ちを他人や社会に向けてしまうことがあります。 アメリカではADHDの子どものうち、約30%が思春期以降、非行(行為障害)に走るといわれています。 しかし、日本とアメリカでは社会構造が異なり、非行の発生率にも格段の差があります。 非行の多いアメリカでのデータをそのまま日本に当てはめることはできませんが、ADHDと非行との関わりは日本でも問題点として指摘されています。 ADHDの子が非行に走るのは、衝動的な行動が原因で邪魔者扱いされたり、叱られたりすることによって、自分が認めてもらえなかった場合に、人に対する信頼感が持てなくなることが原因だと考えられています。 そのやり場のない怒りを他人にぶつけたりします。 子どもを叱責するばかりでは、かえって状況を悪化させてしまいます。 行動の背後にADHDがあるということをよく理解したうえで、子どもの自尊心の発達に常に目を向けることが大切です。  

症状の「軽度・重度」の基準、そのあらわれ方を知りたい

子どもによってADHDの症状が重い子とそうでない子がいます。 しかし、症状の軽度・重度の基準は本人にとってあまり意味のないものです。 ADHDの診断基準を見ながら、当てはまる項目にチェックをしていくと、症状の「軽度・重度」を見分けることは可能です。 医学的には、当てはまる項目の数が6個よりは9個のほうが症状は重いといえますし、症状の発生が1日1回か週1回かによっても軽度・重度を測ることができるでしょう。 しかし、チェック項目の多さで症状を測ることは、子どもにとって意味のあることではありません。 大切なのは、本人がどれだけ日常生活で困難を感じているかを知ることです。 症状が軽度であっても、周囲がADHDのことをよく知らないために、叱責されることが多いような場合は、その子のストレスは大きくなります。 反対に、症状が重度であったとしても、周囲がADHDに理解がある場合は、本人はさほどストレスを感じないで過ごすことができます。 「軽度だから大丈夫」と安心せず、本人がどれだけ困っているかをよく観察してあげてください。  

日本はADHD治療の「先進国」?「後進国」?

日本でもよく耳にするようになったADHD。 世界的に見て日本での治療水準は進んでいるほうだといえます。 ADHDへの取り組みは、世界ではアメリカがリードしています。 しかし日本の医学界でもADHDの認知は進んできており、治療に関しては両国に大きな差はありません。 ただし、ADHDを社会の中で受け入れる体制については、まだまだアメリカに追いついていないのが現状です。 日本では、アメリカに比べてADHDへの気づきが遅く、気づいても認めたくないという雰囲気かあるようです。 先生や保護者のADHDへの認知も、アメリカのほうが進んでいます。 アメリカでは、1980年にアメリカ精神医学会の精神疾患の診断基準「DSM-Ⅳ」にADD(注意欠陥障害)が登場しています。 1994年には「DSM‐Ⅳ」に、ADHDが明記されました。 一方、日本では文部科学省が、ADHD、LD(学習障害)の全国実態調査を初めて行ったのは2002年のことです。 その後、特別支援学級の設置が推進されるなど、体制が整えられつつあります。  

薬は「副作用」が心配・自然に治るまで待っていてはいけないの?

ADHDの症状を抑えるには「メチルフェニデート」という成分が使われます。 ただし、効果は一時的なもので、薬を服用している問だけ症状を抑えるというものです。 これまで、ADHDの治療には「リタリン」という薬が使われていました。 しかし、最近ではごく一部の大人と医師が関与したリタリン乱用事件によって、ADHDの治療では使えなくなってしまいました。 かわりに、リタリンと同成分で、メチルフェニデートの徐放剤である「コンサータ」という薬が、子どものADHDに対して使えるようになりました。 これらの薬は多動性・衝動性・不注意といった症状を抑えるのに高い効果があります。 ただし、効果は一時的なもので、服用している間だけ症状を抑えるというものです。 その主な副作用は食欲不振や不眠、まれに腹痛や頭痛が起こる場合もありますが、 安全性の高いことがきちんと証明されており、処方量を超えた服用をしないかぎりは、薬物依存や重度の副作用はありません。 しかし、薬をのんだからといってADHDの子どもの基本的な行動特性が変わるということはありません。 薬を服用している間は行動の抑制がきくようになり、周囲との気持ちの行き違いが格段に減ります。 また、集中力が増して授業にも身が入り、学習がスムーズに進むようになります。 さらに、まわりの状況を学ぶようにもなって、自分の行動がどんなものかがわかるようになってきます。 薬の効果については周囲の人々も実感しますが、もっとも実感するのは子ども自身です。 そして成長するにつれて、しだいに社会性が身につき、やがて薬をのまなくても過ごせるようになるケースもあります。  

家庭、保育園、幼稚園、学校、「それぞれの場所」でどう対応したらいい?

ADHDの子どもが感じるストレスは、環境によって異なります。 行動の背景を見て、対応することが大切です。 ADHDの子どもの場合、より注意深く様子を見守ることが大切です。 なぜなら、その行動には、必ず理由があるからです。 衝動的な行動だけに目をうばわれて叱ってばかりいると、子どもを追い詰めて事態を悪化させる要因となることもあります。 家庭や集団生活の場では、行動の背景を見てそれぞれに対応することが必要です。 厳しく規律を求められる場所では、ADHDの子のストレスは強くなり、行動もより目立ちやすくなります。 そういった状況で叱責されることが続くと、子どもの自尊心がうまく育たなくなり、その後の社会適応が困難になります。 小さい頃からの家庭や集団生活での対応は、子どもの将来を大きく左右します。 はじめからあまり高い八-ドルを設けず、たとえ小さなことでも、うまくできたことをほめてあげましよう。  

病院以外にも「相談窓口」はあるの?

ADHDについては、学校や自治体などにも相談窓口があります。 しかし最終的には病院で診断してもらうことが必要でしょう。 ADHDについては、自治体の教育委員会や保健センターなどで、保護者向けに相談窓口を設置しているところがあります。 また、各学校に派遣されているスクールカウンセラーに相談することもできます。 スクールカウンセラーは、臨床心理士の資格を持つ人が多く、心理面も含めて助言や指導をしてくれます。 ただし、相談窓□やスクールカウンセラーにADHDの専門家がいるとは限らないのも事実です。 また、生活上のアドバイスはできても、医療行為は行えないため、診断を下したり、リタリンの投薬をすることなどはできません。 ADHDの治療は薬の服用が中心になるので、その意味では、最終的に病院で診断を受けるのがもっとも確実な方法といえるでしょう。 日常生活にストレスが多く、本人も親も苦しいという状況が続く場合は、学校の先生や保育士と相談したうえで、かかりつけの小児科医師や専門病院を受診するとよいでしょう。  

子ども自身にも、年齢に応じて障害のことを「説明」してあげる

「子どもに話してもわからない」。 そのように決めつけず、本人にわかる言葉でADHDのことを説明してあげましょう。 ADHDの子どもは、「友だちとトラブルが多い」「人と違う行動をとってしまう」「人の話を理解することが難しい」といった自身の状態に、悩んでいることが多いのです。 トラブルについて年中責められたり、まわりから白い目で見られることに、子どもは傷ついているのです。 そして、そんな行動をとってしまうのは、「自分自身が悪いから」と思い込んでいることもめずらしくありません。 自分自身をコントロールできないのは自分が悪いからではない、ということがわかったら、子どもの気持ちはどれだけ救われることでしょう。 「病気」や「障害」という言葉は使わずに、年齢に応じてわかる言葉で説明しましょう。 「ほかの子より落ち着さがなくて、忘れ物が多い性格なんだ」「気をつけることで、ほかの子と同じように落ち着いて暮らすことができるんだ」ということをまずはしっかり伝えて、子どもを安心させてあげましょう。  

世界各国のADHDの「患者数」に違いはある?

ADHDへの関心が高まるにつれ、世界各国でもさまざまな調査が行われています。 国や地域によって、患者数に違いはあるのでしょうか。 1980年、アメリカ精神医学会が定めた精神疾患の診断基準であるDSM-Ⅲに「ADD(注意欠陥障害)」の診断基準が明記されると、世界各国でどの程度の患者数がいるのか、調査が行われました。 国によって調査対象や環境などに多少の差はありますが、概ね6~9歳の子どもたちが、DSM-Ⅲの診断基準に沿って診断を受け、患者数としてカウントされました。 その報告を分析すると、結果にややばらつきはあるものの、どこの国でも3~7%の子どもにADHDが見られることがわかりました。 一般に、ADHDは、女子よりも男子に多くあらわれることが知られています。 日本では、2002年に全国的な調査が行われ、ADHDは全体の2.5%、LDは4.5%、高機能自閉症は0.8%となっています。 行動面や学習面に困難を示す子どもは、全体の6.3%にのぼります。  

ADHDの子どもは「進学」や「就職」はできる?

その行動の特性から、学習に困難が生じやすいADHDの子。 しかし、多くの患者さんがそれを乗り越えて、進学や就職を果たしています。 ADHDの子どもには知的障害がないので、学習課題を理解する力そのものは十分に持っています。 しかし、学校の授業のような精神的緊張を覚える状況の中で、先生の話を最後まで集中して聞くことができないことがあります。 また、順序立てて物事を覚えていったり、推論することが苦手なため、本来持っている実力を十分発揮することができません。 結束としてテストでよい点をとることができず、勉強に遅れが生じることになってしまいます。 また、多動・衝動的な行動特性が原因で周囲と衝突することも多く、集団生活の場に置かれることが、心理的負担になってしまう場合もあります。 しかし、ADHDだからといって進学や就職をあきらめなくてはならない、というようなことは決してありません。 私の患者さんのほとんどは、進学や就職をしています。  

エジソンやアインシュタイもADHDだった?

世界的に名を馳せた天才とよばれる人々の中には、ADHDだった人がたくさんいます。 発明家として有名なエジソンは、子ども時代から人々が思いもよらないような数々の危険を伴う「実験」を行い、問題児扱いされ続けていたといいます。 物理学者アインシュタインは、得意な数学や物理以外では極端な落ちこぼれで、ギムナジウムとよばれるドイツの中等学校を中退しているのだそうです。 また、ハリウッドスターのトム・クルーズは、読み書きが苦手なLD(学習障害)であることを自ら公表しています。 日本では芸術家の岡本太郎や、『窓ぎわのドットちゃん』で有名な黒柳徹子が、ADHDを伴うLDだったといわれています。 日常生活においてはさまざまな苦労があり、本人の努力も並外れていたことと思いますが、いずれもその近くにはよき理解者がいたことが、将来の成功へつながったと考えられます。 親は子どもの可能性を信じて、温かく見守っていきたいものです。  

「外出先で騒ぎ出す」そのとき、どう対処する?

ADHDの衝動性は、周囲にはいわゆる「キレる」という見え方であらわれることがあります。 そんなときには、冷静に対処することが大切です。 ADHDの子は気持ちの変動に伴って、自分の衝動が抑えられなくなり、大声を出したり、突然走り出したりしてしまうことがあります。 外出先でこのような状態になると、周囲の目もあって、親としてはいたたまれなくなってしまうでしょう。 しかし、ADHDの子は何の理由もなく、衝動的な行動をとることはありません。 なぜ、そのような行動をとったのかをよく見てあげることが大切です。 子どもがこういった行動をとったときに、感情的になったり力ずくで従わせようとすると、よけいに反発してしまいます。 子どもと競うように大声を出すことはやめ、できるだけ落ち着いたトーンで話しかけ、興奮を鎮める方向に持っていきます。 レストランや店の中などで騒ぎ出したときにはひとまず場所を移動して、気分を変えさせましょう。 また行動療法の手法を用いて、できるだけ冷静に対処することが大切です。  

言うことを聞かないので、親もついつい「手をあげて」しまう

子どもの行動が原因で、親のほうもイライラしてしまうことがあるかもしれません。 しかし、イライラの原因は子ども本人ではなく、その子の「ADHD」なのです。 ADHDによる子どもの行動が、親のストレスの要因になるのは確かです。 しかし、子どもに手をあげても何の解決にもなりません。 ADHDの子は、衝動的な行動が原因で叱られたり嫌がられたりすることが多いため、自己否定感や疎外感を募らせ、傷つきやすくなります。 学校でつらい思いをして、家に帰ってから親に叩かれてしまっては、子どもの安心できる場所がなくなってしまいます。 また、叩かれることで子どもの自尊心はとても傷つきます。 長い目で見ると、自尊心が育たないことは子どもの将来に多大な影響をもたらします。 自尊心が育たないと対人関係がうまく築けなくなり、二次的に行為障害(非行)を引き起こす誘因ともなります。 カッとなって手をあげてしまうのは、親自身、自分を抑えられないことに原因があるのかもしれません。 冷静になって、自分の行動を振り返ってみることも必要です。  

持ち物や宿題など「忘れ物」が多い場合にはどうすればよい?

ADHDの子は「忘れ物」が多く、授業に影響が出て困ってしまうこともよくあります。 忘れ物を少なくするためには、周囲の手助けが必要です。 ADHDの子は一度にたくさんのことを言われても、すべてを覚えていることができません。 そのため、忘れ物が多くなりがちです。 面倒でも、学校への持ち物は親が確認しながら用意させるようにしましょう。 先生や友だちにも協力してもらい、明日持っていくものをノートにとらせたり、帰りに念を押すなどしてもらうとよいでしょう。 絵に描いて、チェックシートを作るのもひとつの方法です。 筆箱やハンカチなど、毎日必ず持っていくものは、あらかじめひとまとめにしておきましょう。 また、宿題はひとりでやっていると気が散ってしまうことが多いので、できるだけ親がそばにいて見守るようにします。 忘れたことを叱るより、忘れなかったときにほめるほうが子どもの達成感が高まり、忘れ物を少なくしていくうえで効果的です。  

極端な「勉強ぎらい」をフォローするにはどうすればよい?

ADHDの子はその行動特性から本来の力が出し切れず、学校の授業についていくことが困難です。 学校側とよく相談するなど、学習環境を整えましょう。 ADHDの子は、先生の話を最後まで集中して聞くことができないため、学習が進みにくいという特徴があります。 さらにLDを合併していると、ほかの子どもたちと同じペースで学習していくことは困難です。 そのような場合は、先生に相談して、学校での教え方を工夫してもらうことが大事です。 ADHDの子は集中していられる時間が短いため、単元を細かく分け、ポイントを絞って教えるのが効果的です。 ADHDの子に合った教材の選択や授業の進め方を学校側とよく相談し、必要であれば補習をしてもらいましよう。 また、塾や家庭教師を活用するのもひとつの方法です。 塾を選ぶ場合は、周囲に人がたくさんいるとどうしても気が散ってしまうので、一対一の個人指導をしてくれるところが望ましいといえます。 その意味では家庭教師に自宅に来てもらい、落ち着いた環境でじっくり教わるのもよい方法です。  

ほかの「兄弟」への配慮は、どのようにすればよい?

ADHDの子がいる兄弟は、少なからずその影響を受けます。 親としては大変な面もありますが、ほかの兄弟への配慮はとても重要です。 家庭内にADHDの子がいる場合、親はどうしてもそちらに手がかかり、ほかの兄弟はがまんすることが多くなってしまいます。 同時に「親は全然自分のことを見てくれない」と孤独感を募らせて、気持ちが不安定になることがあります。 ADHDのことを理解してもらうことも大切ですが、時にはほかの兄弟にも思いっきり甘えられる状況を作ってあげてはいかがでしょうか。 「あなたのことも十分に愛している」という気持ちが伝わっていれば、どうしてがまんしなければならないのかをちゃんとわかってくれます。 また、親やADHDの子の苦しみを目の当たりにして、ほかの兄弟が助けてあげようというやさしい気持ちが芽生えるケースもたくさんあります。 家庭内できちんと話し合い、ほかの兄弟にもできる範囲で手助けを頼むとよいでしょう。 親はすべての子に十分な愛情を示し、兄弟のいるメリットを生かす方向に持っていくべきです。  

「共働き」が原因?今すぐ仕事はやめたほうがよい?

ADHDの症状は、親が共働きをしていることが原因であらわれるわけではありません。 夫婦間で、治療方法などへの共通認識を持つことが大切です。 共働きの場合、働いている時間は夫婦ともに、ADHDの子どもを見てあげることができません。 しかし、そのことが原因でADHDの症状があらわれるわけではありません。 ADHDの症状というのは、あくまで生まれつきのものです。 ただし、親の対応によっては、子どもが感じるストレスは大きく異なります。 母親の理解は進んでいるのに、父親はADHDに関心や理解を持っていないというような場合、その対応には差が生じるため、子どもはとても混乱してしまいます。 つまり、共働きをしているかどうかよりも、夫婦間でADHDに対する協力態勢がきちんとできているかどうかが大切なことなのです。 共働きをしていても、帰宅後一緒に過ごす時間の中で、ADHDへの理解を深めることはできるはずです。 夫婦間で生活環境や子どもへの接し方、治療方法などをよく話し合い、お互いに助け合いながら対処していくことが大切です。  

「近所の人」や「親戚」には、どんなふうに説明すればよい?

ADHDのことをよく知らない人から見ると、その行動は非常識に感じられることもあるでしょう。 偏見を受けないよう、うまく説明することも大事です。 近所の人や親戚が大勢集まる場は、集会や葬式、結婚式など、いわゆる「静かにしていなければならない場面」であることが多いものです。 そういった場面で、騒ぎ出したりまわりの子にちょっかいを出したりすると、「親はいったいどんなしつけをしているんだ」と、眉をひそめられてしまうこともあります。 そんなとき、いきなり「この子はADHDという障害を持っているんです」と説明するのは、よい方法とはいえません。 知らない人にとっては「親の責任逃れ」ととられてしまいますし、見当違いな偏見を持たれてしまうこともあります。 ADHDの概念を詳しく説明するよりも、「子ども特有の性質が、極端にあらわれてしまうたちなのだ」といった説明にとどめておいたほうがよいでしょう。 ADHDについて多少の知識を持っている人がいたら、子どもの3~5%に見られるもので、決してめずらしい障害ではないことを強調しておくとよいでしょう。  

友だちに「ケガ」を負わせてしまったとき、どうすればよい?

ADHDの子は、その衝動的な行動から、時には友だちを傷つけてしまうこともあります。 そんなとき、親はどのように対処するのが適切なのでしょう。 自分の衝動を抑えることのできないADHDの子は、ケンカして友だちに手をあげたり、殴ってしまったりすることがあります。 ADHDの子は通常、理由もなくそのような行動に出ることはありませんが、手を出したことに対しては、厳しく叱るべきです。 そして、万が一相手にケガを負わせてしまったときには、まずは親子ともども誠意をもって謝罪することが大前提になります。 相手はケガを負わされて、大変ショックな状態にあるはずです。 こんなときには「ADHDだから理解してください」と言っても、なかなかわかってもらえないものです。 逆にADHDに対して、悪い印象を持たれる可能性のほうが高いかもしれません。 その場ではADHDには触れず、「ケガを負わせたこと」に対してきちんと謝りましよう。 そのうえで、障害については、折を見て説明したほうがよいといえます。  

「先生」や「クラスの保護者」には、どう話せば理解してもらえるの?

担任の先生には、ADHDであることをきちんと伝えましょう。 クラスの保護者には、資料などを示して説明するとわかりやすいはずです。 近年、学校教育の現場では、ADHDに対する理解が浸透しつつあります。 担任の先生にはきちんと診断名を伝え、授業の進め方や集中しやすい環境作りについて、子どもに合った対応をとってもらうようにしましよう。 基本的に、クラスの子どもたちやその保護者への症状の説明は、学校側が行うものです。 しかし、ADHDという言葉は知っていても、個別の対処法までは知らない先生が多いのが現実です。 このまま説明が不十分だと、ほかの保護者から「親のしつけが悪いのではないか」と非難されてしまうことも考えられます。 そんなときには、ADHDはアメリカでは一般的に知られている発達障害で、決してめずらしいものではないこと、本人や親も治療方針に沿って努力していること、周囲の人たちの協力と理解で症状は改善されることなどを中心に説明しましょう。 関連書を提示しながら説明すると、より理解が得られるはずです。  

ADHDの子どもが「学級崩壊」を引き起こすわけではない

先生がいるにもかかわらず、子どもたちが騒いで授業が成り立たない「学級崩壊」。 その原因は、ADHDの子どもだけにあるわけではありません。 「学級崩壊」のクラスでは、誰もが先生の言うことを聞かず、授業中でも勝手に歩きまわったり友だち同士で遊んだりしています。 今も昔も、ADHDの子どもの数はさほど変わりありません。 学級崩壊の原因は、ADHDの子だけでなく、それを取り巻く周囲の子どもたちにも問題が起きていると考えることもできるのです。 「個性を尊重する」ことと「がまんしなくていい」ことは違います。 しかし「自由な教育」と「自分の好き勝手に行動してもいい」ことを、はき違えている親や子どもが増えてきています。 昔は、教室内で見られるADHD特有の行動を、「いけないことだ」と見る雰囲気があったはずです。 しかし、今の子どもたちは「じゃあ、自分もがまんしなくていいんだ」というふうに考えてしまいがちなのでしょう。 ADHDの子ばかりでなく、周囲の行動にも、目を向けるべきでしょう。  

不注意でケガが多い・「事故」を避けるためには?

ADHDの子は注意力を持続できないため、ケガをしやすい面があります。 できるだけ事故にあいにくい環境を整えてあげましょう。 アメリカで行われた調査では、ADHDの子は事故にあいやすいということが報告されています。 さらに、歩いているときにケガをすることが多いことや、ケガをした場合にADHDではない子に比べて、その程度が重いということもわかっています。 実際、突然道路へ飛び出したり、遊具などから転落するケースもありますので十分な注意が必要です。 保護者が一緒のときは、なるべく目を離さないようにするのが事故を防ぐうえでとても重要です。 また、子どもの行動を制限するのは難しいので、大人がケガをしにくい環境を整えることも大切です。 飛び降りる危険性のある場所に柵を設けたり、家具の角にクッション材を取り付けるといった工夫で、ケガをする率は少なくなります。 バリアフリーの専門家に相談したり、市販の事故防止グッズなどを活用して対応するとよいでしょう。  

リタリン以外の治療法・「行動療法」とは?

ごほうびや罰を与えることで、行動を変えていくのが「行動療法」です。 ADHDの治療には、行動療法が取り入れられています。 ADHDの子どもの行動は、本人が意識して行っているものではありません。 そのため、説得などをして子どもの心に働きかけても、行動に大きな変化は見られないのです。 「行動療法」は、梅干しを見ると唾液が出るといった、「条件反射」の研究から生まれた治療方法です。 基本にあるのは「人間のとる行動は、刺激に対する条件反射が固定化したものである」という考え方です。 つまり、ADHD特有の行動も、条件反射によって形成されたものと考えるのです。 やってはいけない行動があらわれたときには、本人にとって嫌な条件を与え、反対に望ましい行動があらわれたときには、本人にとって好ましい条件を与えることで行動を変えていくのが「行動療法」です。 具体的にADHDでは「トークンエコノミー」という行動療法などが行われます。  

行動療法の具体例・「トークンエコノミー」とは?

ADHDの治療に使われる「トークンエコノミー」は、家庭や学校で簡単に行える行動療法です。 行動療法にはいくつかの方法がありますが、ADHDで使われるのは「トークンエコノミー」という方法です。 ADHDの場合、うまくできたときには言葉でほめるだけでなく、具体的な「ごほうび」を与えるとより効果的です。 やってはいけない行動を前もって提示しておき、その行動があらわれたときには「マイナス10点」などと、決めておきます。 またその際、「掃除をする」「テレビの禁止」「遊びの禁止」などの罰を与えます。 反対に望ましい行動があらわれたときには「プラス50点」などとして、「100点たまったら好きなお菓子をあげる」「好きなところへ遊びに連れていく」「ゲームをする時間を延長する」などのごほうびを与えます。 「ごほうび」と「罰」は、提示した行動があらわれたとき、すぐに行います。 課題は低めに設定し、子どもが達成感を得やすいようにしておくことも大切です。  

リタリン以外の治療法・「環境変容法」

集中していられる時間が短いため、気が散りやすいのもADHDの特徴です。 子どもが集中しやすい環境を作ってあげるのが「環境変容法」です。 ADHDの子どもは、何かをしているときに別の刺激が入ってくると、すぐそちらへ注意が向いてしまいます。 例えば、ADHDの子が漢字テストを受けているときの状況を考えてみましよう。 最初はテストに集中しているものの、ふと視線を移した先に鉛筆が転がっているのを発見すると、その子の注意はその鉛筆に向かってしまいます。 その時点で、もう漢字テストのことを忘れてしまい、その鉛筆をとりに行こうとして立ち歩いたり、自分の鉛筆を転がしてみたりといった行動が始まってしまいます。 「環境変容法」は、子どもの注意がほかに移らないよう、周囲の環境を整えることをいいます。 例えば、教室や家の中をすっきりさせることで、子どもの視覚に入る情報を減らし、注意がほかにそれないようにすることができます。 また、授業の進め方や教材の工夫によっても、集中しやすい環境が作れます。  

環境変容法の具体例・「集中できる環境作り」のポイント

ADHDの子どもが集中するには、目や耳に入る刺激を減らすことが大切です。 家庭や教室はできるだけシンプルな環境にしましょう。 教室の壁に、教材や絵、書写などを貼り出している光景は一般的ですが、ADHDの子にとっては望ましいものではありません。 子どもの作品を展示する先生の善意も、ADHDの子には黒板から目をそらす一因となってしまうので、教室の壁にはできるだけ展示物を貼らないようにするのが基本です。 また、授業は短い単元に区切って行う、教科ごとにフォルダーにまとめるなどの工夫が必要です。 席順は廊下側や窓側から遠い、真ん中の一番前が最適です。 先生がADHDの子の目を見て話しかけることで、注意がそれにくくなります。 家庭では、テレビは時間を区切って見るようにし、遊び終わったおもちや、読み終えた本や雑誌などはそのつど片付けます。 また、勉強机の上には遊び道具を置かないようにします。 収納箱や整理棚を活用して片付けをしやすくし、棚は雑然としないように、扉を閉じるか力-テンなどで覆っておきましょう。  

ADHDの子は、「元気」がよくて「行動力」にあふれている

ADHDの子は、日常生活を送るうえで困難を伴います。 しかし、そのプラスの特性を生かして社会で活躍している人はたくさんいます。 ADHDの子は、その親も含めて、神経をすり減らしてしまうことが多いものです。 しかし、ADHDのプラスの特性を生かして、社会で活躍している人も大勢います。 芸術家や研究者、起業家やスポーツ選手など、直感的なひらめきや行動力が求められる仕事をする人の中にはADHDの人が多いといわれています。 最近は、そういう人たちの経験談をまとめた本なども多数出版されています。 そういった情報に目を通し、生き方のヒントをもらうのもひとつの方法です。 規則の多い社会の中で、ADHDの子は生きにくさを感じることもあるでしょう。 しかし周囲のサポートと、本人の力で乗り切っていくことは可能です。 ADHDの子は、多動であるとともに、元気がよくて子どもらしいものです。 大きな声で挨拶ができ、物事に対する反応が早いのも大きな特徴です。 少し違った視点から子どもをとらえると、ADHDの子のさまざまなよさが見えてきます。  

薬物療法

メチルフェニデート塩酸塩の徐放剤で中枢神経刺激剤である「コンサータ」やアトモキセチンでノルアドレナリン再取り込み阻害剤である「ストラテラ」などが使用されます。