認知行動療法30

統合失調症/Schizophrenia

摂食障害

体型や体重に対して歪んだ価値観

 神経性過食症においても、認知行動療法は有効性を実証しており、世界的にも汎用されています。また、薬物療法と組み合わせたときは、最も効果があがるともいわれています。一般に摂食障害の患者さんは、低い自己評価によって、体型や体重に関して、過剰な関心や歪んだ信念、また価値観(認知の歪み)をもっています。この歪んだ考え方が、「肥満恐怖」や「やせ願望」となって、その結果、極端なダイエット、自己誘発性嘔吐、下剤や利尿剤の乱用につながっています。過食は、極端な食事制限の反動として生じていると考えられます。  したがって、体型や体重に関する過剰な関心や、また歪んだ信念や価値観の修正を行うことが、摂食行動異常を改善するうえで有効な方法といえます。この認知行動療法は、個人精神療法のかたちで、患者さんと治療者の対話形式で進められ、過去を問わず、これからの患者さんの認知の変化、および行動の変化に焦点があてられた治療が行われます。  摂食障害における認知行動療法は、治療構造が3段階からなっています。第1段階は「過食や嘔吐などの摂食行動異常の正常化を目標として、1週間に2~3回の面接を4週間行う」、第2段階は「体型や体重に関する歪んだ信念や価値観(認知の歪み)を改めることを目標とし、1週間に1回、8週間行われる」、第3段階は「これらの変化を持続し、強化することを目標として、2週間に1回、6週間にわたり施行する」となっています。  この治療を成功させるためには、患者さんと治療者が、摂食行動異常にうちかって正常な食生活を回復するという目標を、ともに共有することです。治療者は、患者さんが自分自身を変えていこうとする努力に対して、情報を伝え、提案し、指示を与えながら、くじけそうになる患者さんを常に励まし、勇気づける必要があります。そのためには、患者さんと治療者との間には、信頼を基盤とした治療関係が必須となります。3段階の治療手順については以下に述べますが、これはあくまでも原則であって、それぞれの患者さんの状態や治療者の方針に合わせて変える必要があります。

第1段階の治療

 第1段階の治療目標は、良好な治療関係の確立と、過食・自己誘発性嘔吐・下剤の乱用などの摂食行動異常の改善などが中心となります。面接は1週間に2~3回を4週間にわたって行うのが原則としてありますが、1週間に1回を1~3カ月間にわたって行うなど、患者さんの状態に応じて施行します。

【第1段階の治療目標】

1. 患者さんと治療者間の良好な関係の確立。
2. 過食・嘔吐・下剤の乱用の中止。
3. 過食・嘔吐・下剤の乱用に伴う身体合併症について学ぶ。
4. 体重調整における嘔吐や下剤乱用の無効性について学ぶ。
5. 規則正しい食生活の導入。
6. 1週1回の体重測定の実施。
7. 過食や嘔吐の意味について学ぶ。
8. 家族や友達の協力を得る。

1回目の面接

 治療者は、患者さんの病歴や今の症状や徴候を聞き、摂食行動異常や精神病理についても評価します。病気についての説明、および認知行動療法についても理解できるように説明します。また、治った状態とはどういう状態なのかについても話します。治療は対話形式で進められ、具体的な問題を双方が協力して解決していくというスタイルをとります。面接終了時に達成可能な課題をだし、それが達成できたら最大限評価します。たとえば、週に1回過食をしない日をつくろうという課題をだして、それが達成できたら、その努力を褒めて激励します。認知行動療法は、患者さんが治療に主体的に参加し、努力に応じて成果が得られるということを実感することが重要です。全力を傾注すれば、必ず症状は改善するという保証をしてあげるのも治療者の役割です。  食行動においては、自己観察記録としての「食生活日誌」(シート)を患者さんに渡し、記載の仕方を教えたうえで、これに毎日食事の直後に記録してもらいます。記入することで、患者さんは自分の食行動の実際を知ることができ、問題が明確になって、克服していくための手がかりとなります。また、体重測定は、週1回行うことを約束します。体重が気になって1日に何回も測定したり、逆に体重が増えていることへの恐怖を感じたりして、測定を拒否する患者さんもいます。体重測定に対する態度によって、体重に対する過剰な関心や肥満恐怖の程度を知ることができます。

2回目の面接

 患者さんが記録した食生活日誌を、患者さんと一緒に吟味します。昼食をしなかった理由や、過食をしたときの状況などについて、患者さんに詳しく話してもらい、現在の食行動について十分に知ってもらいます。またこの記録が、後日記入したものではなくて、食事の直後に正確に書かれたものであることを確認します。食後に正確に記載したものであれば、褒めてあげます。

3~5回目の面接

 摂食(過食)に対するコントロールを再獲得するための行動戦略を患者さんに伝えます。前回の面接終了時にだした課題が、どの程度実施できたかを、食生活日誌の記録を見ながら検討します。たとえば、3回の食事を規則正しくとり、過食を1日2回から1回に減らす、といった課題に対して評価します。そして、1週間に1日でも達成できていれば賞賛してあげます。この積み重ねが、患者さんの無能力感の改善や、自尊心を高めることにつながっていきます。  また、患者さん自身における課題達成度の評価も大事な点です。毎日の自分の課題達成度を10点満点で評価します。これは、「全か無か」の考え方の修正にもつながります。患者さんの多くは、1回過食したら2回も3回も同じだと考える傾向があります。1回過食を減らしたら、その分だけ身体に良い結果をもたらし、経費面でも節約できて過食節約貯金ができるなどのメリットを知ってもらいます。一つの課題が達成できたら、次の達成可能な課題を患者さんと治療者で決めます。目標を高くし過ぎると失敗するので、必ず達成可能な課題を設定します。そして、次の項目についても確認しておきます。

  • 1. 体重:目標体重は標準体重の85%以上にし、極端なダイエットをしないで維持できる範囲にします。ダイエットや飢餓や低体重が、過食の引き金になることを理解することです。過食がある程度コントロールできるまで、維持する体重範囲は決めないでおきます。
  • 2. 過食や排泄行動に拠る身体合併症:パンフレットなどを用いてよく説明し、理解してもらいます。
  • 3. 体重調整としての排出行動の無効性:嘔吐しても、食べたものは全て出せません。嘔吐と下痢、また利尿剤の使用は、体の水分を減らすだけで、脂肪を減らすことにはなりません。嘔吐で過食の分を帳消しするという考えが、過食しては嘔吐、嘔吐しては過食という悪循環を生むのです。
【日常の食生活の注意点】

① 1日3回の食事を、決まった時刻にきちんと食べる。
② 穀物やパン(菓子パンは不可)など、炭水化物を必ず食べる。
③ お腹が空いた状態で、買い物に行かない。
④ 過食しそうな食べ物を、日頃から家に置かない。また買わない。
⑤ 食事は1人で食べないようにする。また、1人で部屋に閉じこもって食べないようにする。
⑥ 1回の食事に必要な量だけ料理する。
⑦ 料理は小さな皿に盛って食べ、決して大盛りにして食べない。
⑧ 食事の10~30分前に、コップ1~2杯の水をゆっくり飲み、空腹感をまぎらわす。
⑨ 食べ物はよく噛みながらゆっくり食べ、20分以内に食事を終わらせないようにする。
⑩ 食事のあと、嘔吐をしない。また下剤を使わないようにする。
⑪ 体重を毎日測らないようにする。
⑫ 過食する時間をとらないために、週末と夜の計画を立てる。

【過食しそうな時の対策】

① 何か酸っぱいものを口の中に入れる。
② フルーツを、ゆっくり時間をかけて食べる。
③ 製氷皿にジュースを凍らせておき、それをゆっくりなめる。
④ 角氷をなめる。
⑤ 歯をゆっくり磨く。
⑥ チューインガムを噛む。
⑦ 散歩したり、運動したりする。
⑧ 新聞や雑誌を読む。
⑨ テレビやビデオを観たり、音楽を聞く。
⑩ 指の爪を磨く。
⑪ 友達と10分間だけ電話をする。
⑫ 風呂に入るか、温かいシャワーを浴びる。
⑬ 手紙や日記を書く。

6~8回目の面接

 食生活日誌を見ながら、患者さんの摂食行動や、日々の課題の達成具合を詳細に検討します。出来ていないことがあれば、そのことについて十分議論し、新しい戦略を考えます。日々の成功については、小さなことでも褒めてあげ、患者さん自身も褒められるように努力します。失敗から学んで、つぎの成功にむすびつけるようにします。また、患者さんとその家族が一緒になって、治療者と面接することも必要です。治療内容を家族の人にも知ってもらうことで、秘密や欺きへの罪の意識を減少させることにもなり、食生活改善に向かって努力している患者さんにとって、よい環境づくりにもなります。しかし、家族が過度に巻き込まれないように注意し、あくまでも患者さん自らが変わることが大切なことです。







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