認知行動療法19

統合失調症/Schizophrenia

段階的にクリアしていくエクスポージャー

 エクスポージャー(exposure)とは、曝露するという意味です。あえて恐れている状況に段階的に身を曝すことによって、その刺激に慣れさせていき、恐怖心や不安感を取り除いていく治療法のことで、「曝露療法」ともいわれます。エクスポージャーの有効性については、治療を受けたパニック障害の患者さんの89%において発作が消失したという報告もあり、薬物療法と同等の効果があることがわかっています。  エクスポージャー法には、「想像エクスポージャー」と「現実エクスポージャー」の2種類があります。想像エクスポージャーは、系統的脱感作法ともいい、不安を感じる場面を思い浮かべて、それを言葉で表現し、そのイメージに慣れる訓練です。録音して繰り返し聞くようにしますが、一種のイメージトレーニングともいえます。一方、現実エクスポージャーは実際にその場所に行く方法です。人前に出たり、電車に乗ったりして、不安な場面に物理的に身を曝し、その場に慣れることによって不安や恐怖を軽減していきます。また、アレンジした方法として、「内受容性エクスポージャー」があります。これは、深呼吸や足踏みジョギングなどの運動をして、意図的に動悸や息切れ、めまいを起こす「疑似パニック発作」を誘発させ、その感覚に慣れていく方法です。  エクスポージャー法では、不安場面にあえて直面したとき、不安や恐怖は一時的に強くなりますが、最終的には安全な状態に落ち着いてきます。不安な場面に慣れることによって、同じ場面に直面しても不安や恐怖感が軽減し、少しずつ自信がついてきます。エクスポージャーは、いきなり行うと苦痛が強すぎますので、治療計画にもとづいて慎重に進める必要があります。そのためには、まず「不安階層表」を作成してもらいます。患者さんに不安に感じる場所や状況をすべてリストアップしてもらい、不安の程度の強いものから弱いものへと順に並び替えてもらいます。その際、最も強い不安を感じる場面を100点とし、不安を感じない状態を0点として、書き出したすべての場面に対して評点(この点数を自覚的障害単位:SUDという)します。  実施においては、一般的に不安の少ない場面からトライしていきます。何日か行い、不安の弱い場面に慣れ不安がなくなってきたら、次のステップにチャレンジします。不安な状況であっても、回避行動をとらなくなったら少し段階を上げていき、少し上の強い不安に立ち向かいます。こうして、一つずつ段階を上げていき、最後はもっとも恐れている場面に向き合っても、たいていの不安や恐怖にも対処できるようになっていきます。  一例を挙げれば、電車に乗るのが不安で恐怖を感じる場合、初めは不安の弱い「プラットホームに立ってみる」、それが慣れてきたら「各駅電車に一駅乗ってみる」、不安を感じなくなったら次は「二駅、三駅と距離や時間をのばして乗ってみる」、各駅電車に乗っても不安がなくなったら次は「急行電車で一区間乗ってみる」…、こうして段階的に進めていきます。エクスポージャーでは、一度不安が高まったり発作が起きたりした後、その状態が一定のところまで軽減するまでに、最低1時間から最大2時間を要します。この全過程を体験する必要がありますので、練習のためには最低でも1時間は乗車しなければなりません。つまりエクスポージャーでは、発作が起こる体験をしなければ、本当の効果が出ることにはならないことを意味しています。  いずれにしても、決して焦らないことです。一つひとつ着実にクリアしていくことが重要で、いきなり高い目標に飛びつくと、逆効果となって危険です。SUDの高い場面に向き合うときは、家族や配偶者、パートナー、友人などの支えが力になることがあります。

【不安階層表の一例】
不安を感じる場所や状況 SUD
・飛行機に乗る。100
・高速道路での運転。 90
・1人で電車に乗って遠出する。 90
・1人で特急電車に乗る。 80
・1人で映画を観る。 70
・地下鉄電車に乗る。 60
・1人で各駅電車に乗る。 50
・ラッシュ時の満員電車に乗る。 50
・車の運転中、渋滞に巻き込まれる。 40
・高層ビルのエレベーターに乗る。 30
・理髪店(美容院)に行く。 20
・歯医者に行く。 20
・プラットホームに立つ。 10
・自宅で夕食後くつろいでいる。 0

 エクスポージャーは、患者さんにとっては恐怖を感じる状況に立ち向かわなければならないので、非常に強い苦痛を伴います。無理をして高い目標をかかげ、不安や恐怖に立ち向かうと、逆に不安を増大させることになり、ますます自信を失って症状が悪化してしまうことがあります。医師や治療者の指導のもとに、一歩ずつ確実にステップアップしていくことが大切です。体調の悪い日などは、認知行動療法を休むことも必要です。強行すると、発作が起きやすく、せっかく積み重ねてきた成功体験が水の泡になってしまいます。あせらず、発作が起こらないことを繰り返し確認しながら進めていきます。また、ひとつの目標をクリアすることができたときは、「不安を克服できた」という達成感と自信がわいてきます。この感覚が、エクスポージャーでは非常に大切です。本来エクスポージャーはストレスのかかる治療法ですので、目標をクリアするごとに自分に“ご褒美”をあげるのも良いでしょう。途中で止めてしまったら、元の木阿弥です。自分を励ましながら、喜びをかみしめながら進めることです。  この段階的に刺激に慣れていくエクスポージャーに対して、フラッディングという手法があります。これは、集中的に刺激にさらす方法で、かなり荒治療になります。耐えられない場合は、逆効果になりますので注意が必要です。

《注意点》

◇ 無理をしないで、一段ずつ確実にクリアしていく。 ◇ 体調の悪い日は、治療を休む。 ◇ 発作が起こらなかったことを、その都度確認しながら進める。

《副作用》

◇ 最初、一時的に不安が増大することがある。 ◇ 患者さんが治療者に依存してしまうことがある。 ◇ 刺激に耐えられず、ドロップアウトした場合は症状がさらに悪化する。







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