認知行動療法10

統合失調症/Schizophrenia

治療の手順と手法・4…ソクラテス問答で思い込みに気づく

 認知行動療法においては、対話は極めて重要な要素となります。その対話の際、治療者がよく用いる手法に「ソクラテスの問答」があります。この対話方法によって、患者さんは自分の意外な思い込みに気づくことがあります。哲学の祖と言われたソクラテスは、真理を追究するために、市民を相手に問答を繰り広げました。その手法は、相手の気づきを促すような質問を重ねることでした。聞かれた相手は「あっ、そういえば!」と気づくことで、真理を説いていったと言われます。ソクラテスの問答というのは、話し相手を自発的な気づきへと導く対話の手法なのです。この手法を、患者さんをして何らかの発見へと導くためのガイデッド・ディスカバリー(導かれた気づき)と呼んでいます。  たとえば、患者さんが当たり前だと感じていて、深く考えたことがないような状況で、「その時、何が悲しかったのですか?」と、改めて問いかけてみます。すると、聞かれた患者さんは、悲しかったことの原因を改めて考え直すことになります。つまり、悲しかったという感情を引き起こしている原因について、自分で考え、探るなかで、感情と原因の関係にハッと気づくことがあります。しかも、答えやすい質問をされると、患者さんも何か自分でも考えられそうな気になり、対話を重ねていく中で、自分の認知・感情・行動の特徴に、自ら気づくことができるようになります。ソクラテス問答とは、聞かれた側が自分で気づくことができる対話手法なのです。  ソクラテス問答の効果をまとめると、次のような点です。

①問題に気づく
質問されたのをきっかけに、自分の生活を具体的にふり返り、ガイデッド・ディスカバリーによって問題に気づくことができる。

②誤解が溶ける
当たり前だと思っていた悩みに、意外な思い込みがあったことに気づき、「あっ、そうか!」と感じて、気持ちがふっきれる。

③話せる自信がつく
治療者が、ソクラテスの問答を繰り返すことで、患者さんには「自分でも話せる」「自分でも答えられる」という自信がつく。

④具体的に考えられる
治療者は、患者さんが考えやすくなるようなきっかけをまじえながら、対話をかさねる。(完全なオープン・クエスチョンではない)

治療の手順と手法・5…認知と感情を分けてとらえる

 患者さんにとって、自分の心を正確に知ることが重要となります。そのためには、出来事・認知・感情・行動を分けてとらえなければなりません。これらを分けることが認知行動療法の大切な作業のひとつです。認知・感情・行動の中で、行動は表に出ていることが多く、比較的とらえやすいのですが、難しいのは認知と感情を分けてとらえることで、これがなかなか容易ではありません。出来事があって、問題が起きているとき、そのときの考えと気持ちががっちりくっついていて、認知と感情の区別がしにくいのです。  区別するには、まず患者さんの自己表現が必要です。自分で気になっている問題や症状を、言葉にします。話したいことを話し、質問されたら答えます。そのやりとりによって、感情表現をしていきます。この感情を表す言葉をたくさん用意する必要があり、特に感情の中の不快の部分について考えを掘り下げていきます。不快な感情でも、不安、心配、緊張、悲しい、さびしい、傷ついた、イライラ、混乱、恥ずかしい、罪悪感など、たくさんある感情の中で、自分の気持ちがどれに当てはまるのか考えていきます。不快な感情を抱くとき、頭にどのような考えが浮かぶか、丁寧に考えていきます。その作業を進めるうちに、感情と認知を区別することができるようになります。区別していくと、つらい感情と密接に関係している認知を引き出すことができます。それは、感情と一体化していた認知に気づくことになります。認知と感情を区別すると、感情と強く結びついている「ホットな認知」が見えてきます。たとえば、火元に対する「強い不安」という感情と、「火事を防がなくちゃ」というホットな認知が強く結びついて、ほかの考え方ができなくなってしまいます。この強い感情を伴うホットな認知が見えてくると、それが問題解決の糸口となり、治療のカギとなります。  一方、行動は表に出やすく区別しやすいため、行動からとらえるのも一つの方法です。問題が起きたときの行動で、たとえば「外出できない」「それは火元を何度も確認するから」という具合に、細部を掘り下げていきます。「火元が気になって、家に飛んで帰ってしまった」という場合に、治療者は「そんなとき、どんな感情になりましたか?」と、うまく質問を重ねていきます。

治療の手順と手法・6…フォーミュレーションして答えを推理する

 認知行動療法には、病気ごとに検証された理論的な式があり、これをフォーミュレーション(定式化)と呼んでいます。治療者が患者さんの認知・感情・行動に関する情報を多く集め、その内容を病気ごとの治療理論に照らし合わせ、問題をより正確に分析し、推理して答えを出していきます。これは、数学でいうところの公式のようなもので、公式がわかると問題がすらすら解けるように、認知行動療法でも自分の考え方の定式がわかれば、悩みの背景がわかり、問題が解消できるようになっています。そして、ひとつの悩みが解消できれば、ほかの悩みにもその定式が応用でき、治療がスムーズに行えます。   実際の進め方は、まず患者さんとの対話などを通じて、問題になっている事例についての情報をできるだけ多く集めます。集めた情報を整理して、病気ごとの式と照らし合わせ、「この事例は、この認知とこの行動が関連しているのではないか」などと推理します。そして、対話や対策によって、推理したものを検証します。式が正しければ、その式でほかの問題を解決することもできます。フォーミュレーションが完成すると、患者さんは自分の考えの式(型、モデル)を具体的に理解できるようになります。つまり、フォーミュレーションができたことで、問題の全体像を理解することができ、その答えとして具体的な対策を考えることができるようになります。  アメリカの心理学者であるアルバート・エリスが、認知をABCの流れで整理する「ABC理論」を提唱しました。この理論は、出来事の認知の仕方によって、結果が変わることを示しています。理論にそって考えると、認知を理論的に理解することができるのです。「ABC理論」のA(Activating Event)とは「きっかけになる出来事」、B(Belief)とは「信念、認知や考え方」、C(Consequence)とは「結果、感情や行動」のことです。






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