認知行動療法1

はじめに

 認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy)は、うつ病や不安障害の治療の第一選択となっているサイコセラピー(精神療法・心理療法)のことです。世界的に見ても、メンタルヘルスの分野において、もっとも有効な介入法として幅広く用いられています。それは、他の心理療法とは異なり、閉じた体系となっていない点です。したがって、従来型の支持的精神療法や精神分析のように、患者さんの話しを傾聴・受容・共感して、回復をサポートする療法に比べ、認知行動療法の有効性は著しく高く、薬物療法に勝るとも劣らない治療効果が、医学的にも証明されています。

 認知行動療法の特徴は、個々の症状や問題に対して、それぞれ対応できる多様な技法をもっている点です。状況に合わせてもっとも適切な技法が活用でき、それによって有効な介入が可能なのです。そして、他の方法に開かれた体系であるため、生物-心理-社会モデルに基づくメンタルヘルスの活動に適合しやすく、薬物療法などの生物学的介入を含めたさまざまな介入方法と組み合わせることができるため、統合的な活動を構成することも可能となっています。このような点から、認知行動療法はメンタルヘルスの領域に限らず、身体疾患の再発や予防などの領域においても広く導入が可能となっているのです。

 しかし、世界の趨勢と比較すると、わが国における認知行動療法の導入は遅れていました。近年に至って、ようやく日本においても、医療機関で活用されるようになり、実績を重ねつつあります。とはいえ、認知行動療法を習熟した専門家は非常に不足しているのが現状です。イギリスでは、2008年から国家的に巨額の予算をつけて、専門家の養成に取り組んでおり、希望する人は誰でも認知行動療法を受けられるようになっています。

 わが国においても、2010年から認知行動療法が一部保険点数化されましたが、まだまだ不十分です。国民が良質な認知行動療法を受けることができるようになるためにも、専門家の養成が急務となっています。  では、認知行動療法とは一言でどんな療法のことでしょうか? 認知とは「考え」のことをいいますが、この考えを修正する「認知療法」というのがもともとありました。一方、行動を修正する「行動療法」もあって、それぞれ別々に発展してきました。

 認知行動療法は、いわばこの二つの療法をひとまとめにしたようなもので、表裏一体化された療法のことです。したがって、患者さんを温かく受け止める精神療法としての傾聴・受容・共感の部分はそのままベースにあり、そのうえで病気の原因となっている認知や行動の悪循環となっているパターンを見つけ出し、それを良い循環に変えていくことによって、症状を改善していくことを目的とする療法のことです。  認知、つまり「考え方」は人によって異なります。例えば、

  • ①地球は丸い
  • ②お化けは実在する
  • ③空は青い
  • ④自分が乗る飛行機は墜落する
  • ⑤今の仕事に自信がある
  • ⑥自分は美人(美男子)ではない
  • ⑦明日は雨が降る
  • ⑧初めて会った人とすぐに仲良くなれる

…といった項目について、認知(考え)の確信度をパーセントで表わしたらどうなるでしょうか?
もちろんこれは、常識や知識を問うものではありません。自分の主観的な考えをはかるものです。

 この中で、①~④の項目については100%信じるか、まったく信じないかのどちらかになりやすい傾向があります。このように、常識的なことについては0か100かの両極端に考えてしまいがちで、それを変えることは難しいものの、しかし変えられないこともありません。

 一方、⑤~⑧の項目のように、仕事や自分のことや人間関係などについては、その時の気分や状況、経験、性格などによって確信度が10%であったり30%であったり、50%や70%などのように柔軟に変化します。つまり、認知(考え、気の持ち方)によって確信度のパーセントが変わります。もちろん0%もいれば100%の人もいます。中には⑤の「仕事に自信がある」については0%に近い確信で、「自分はダメ人間だ」と考え、気分が落ち込み、不安になり、行動面にも影響が出てきます。

 このような人に「考え方を変えましょう」と言っても、「地球は平だと思いなさい」と言うのと同じくらい難しいことなのです。  認知行動療法は、この認知を変えられずに苦しんでいる人のために開発された療法なのです。自分の思考パターンをつかみ、それを変えていくことが出来れば、感情も変わり、行動も変わり、生活も変えていくことができます。

 本格的な認知行動療法は、専門の医療機関で受けることが出来ます。一般的に、患者さんと治療者(精神科医や専門の臨床心理士)が一対一で話し合いながら進める個人認知行動療法の場合は、一回30~50分程度の治療を、合計12回程度のセッションで治療を進めていきます。一方、患者さんが3~10人という複数の場合は、治療者が2~3人ぐらいついて、グループで治療を進めていく集団認知行動療法という方法もあります。また、症状が軽く医療機関に行くほどでない場合は、自分でワークブックを使って、1人で認知行動療法を行うセルフヘルプという方法もあり、これによって症状を改善することも可能です。

1.認知行動療法とは 

従来の精神療法との違い

 認知行動療法が、従来の精神療法(心理療法、精神分析、心理セラピー、サイコセラピーなど)とどこが違うのかというと、患者さんの気持をあたたかく受け止め、共感的に話を聞く点ではこれまでの手法と変わりませんが、その後の対応において患者さんと一緒に具体的な解決策を考え、それを生活の中で応用していく点ではより実践的な手法といえます。   これまでの精神療法というのは、物理的・化学的な手段に拠らず、治療者である専門医やセラピストが対話・教示・訓練を通して、認知・行動・感情などに変容をもたらすもので、精神疾患や心身症の治療などに寄与してきました。その基本となるのが支持的精神療法(支持的心理療法、支持療法)です。これは力学的精神療法の一つで、精神分析を基本におき、患者さんの“無意識の心”と“意識的な心や行動”の相互関係を理解しながら治療を行うものです。治療者はまず患者の悩みや不安をよく聴き、それを理解して支持するのが基本です。したがって、治療者は患者さんの訴えに対して、良いとか悪いとか、間違っているといった価値判断はしません。また、安易に励ますようなこともしません。あくまでも患者さんを支持することによって、気持を楽にさせ、精神的に自立できるようにしていきます。  心の病気の治療においては、治療者は患者さんの気持をあたたかく受け止めることから始めます。その3つのポイントは傾聴・受容・共感です。傾聴では、まず話を聞くことに徹し、あれこれ指示することはしません。受容は、どんなに突拍子もないことを言っても、否定せず受け止めます。そして共感では、患者さんのつらい気持を自分のことのように理解することです。どこまでも治療者は、患者さんを支持(サポート)し続けることが重要となります。この手法は、そのまま認知行動療法においても受け継がれますが、認知行動療法ではその後の対応に特徴があります。それは理性的であり、実践的であるということです。感情を受け止めるだけではなく、理性(知性)の用い方も教えます。また傾聴や分析にとどまらず、その先の道筋についても一緒に考え、実践に移して問題解決にあたります。  このように、認知行動療法は患者さんのありのままの気持を受け止めて、なおかつ患者さんの状態を変えて治療していく、という二つの側面を同時に行う治療法です。受容と変化という要素を扱う手法だけに、治療者にとっては難しい治療法ですが、それだけ患者さんにとっては、あたたかくて、効果も高い治療法なのです。

認知療法と行動療法の統合

 認知行動療法は、「認知療法」と「行動療法」が、それぞれ発展するにつれてその領域が重なり合うようになり、やがて二つの療法が統合されて認知行動療法となりました。この二つの療法は、どちらも同じくらい重要な治療法で、表裏一体の相関関係にあります。

認知療法とは

 認知療法は、考え方に働きかける治療法のことです。1963年に、アメリカの心理学者であるアーロンTベックによって開発され、1970年代に体系化された心理療法です。出来ごとに対して、誤った考えや歪んだ認知を合理的な認知へと修正し、感情や行動の変容をはかって、精神的な悩みの問題解決に役立つ手法として確立しました。このベックの認知療法は、アメリカにおいてうつ病を治療することに成功し、その後デビッドDバーンズなどの弟子たちによって世界的に広められ、心理学や精神医療に革命をもたらしたのです。認知療法は、うつ病に対しての効果は著しく、抗うつ薬以上の効果があると証明された最初の精神療法とも言われています。以来、認知療法はうつ病、不安障害、パニック障害、嫉妬や罪悪感など、気持の問題解決に有効であることが証明され、さらに人間関係やストレス、自信の強化などにも効果をあげてきました。そして今日、医療の現場で開発された認知療法は、健康な人がより幸せな人生を送るための手法として注目されている一方、企業やスポーツの現場においても、認知療法の導入が盛んに行われるようになりました。  ストレスが重なったり、悲しい出来ごとがあったりすると、一日中憂うつ気分になり、不安や悲しみ、焦燥感、不眠、食欲不振などに襲われ、それが原因でうつ病の発症につながる人が少なくありません。仕事で失敗したりすると、「自分はダメ人間だ」と決めつけて、いっそう自分を追い詰めたりします。私たち人間の感情はどのようにして発生するのか、そのメカニズムは分かっています。それは、現実世界での「出来ごと」(良いこと、悪いこと、意味のないことなど)があると、それについて「考える」(認知する、思考する、受け止める、解釈する)ことをし、その結果で「感情」が作りだされます。  つまり、この感情は、現実世界それ自体ではなく、現実世界に対する考え方、認知の仕方によって頭の中で作り出され、意味づけされ、感情として表出するのです。問題は、この思考プロセスのパターン化や、認知の歪みにあるようです。抑うつ感や不安感、怒りや悲しみなど負の感情が強い人、極端に悲観的で否定的な人は、この思考のパターン化に陥り、認知に大きな歪みがあることが明らかになっています。認知療法は、まさにこの歪みに焦点をあて、合理的な考え方に修正する技法のことです。考え方に働きかける治療法こそが、認知療法の目的なのです。  ここで、認知の偏り、歪み、パターン化とはどんなものかをまとめてみますと、次のような点が挙げられます。

《両極端思考》
 物事を白か黒か、良いか悪いか、0か100か、全か無かのどちらかでしか考えられない極端な思考です。事実はその中間のどこかにあるのですが、思考に柔軟性がないために、考え方に偏りがでてしまいます。例えば、試験に失敗すれば、「俺はダメ人間だ、失敗者だ」と悲観して落ち込み、逆に合格すれば「俺は有能な人間だ、完璧な人間だ」などと過信します。

《一般化思考》
 たった一度や二度、良くない事が起きたり、思うようにいかなかったり失敗すると、「いつも俺はこうだ」「決まっていつもこうなる」「何をやってもうまくいかない」と、思考をパターン化します。例えば、人とのお付き合いで、たった一回断られただけでも「私はいつも人に嫌われる、断られる」と考える人です。

《飛躍思考》
 結論を飛躍して考えるタイプです。確かな根拠もないのに、飛躍的に結論をだして悲観する人です。近所の方や会社の方と、たまたま道路上で行き違った際に、自分から頭を下げて挨拶したが、相手の方はそのまま通り過ぎていってしまったとします。そんな時、「どんな人も私を無視している」「皆が私を嫌っている」と考えます。相手は、たまたま考え事していて気がつかなかったかもしれない、視力が悪くて見分けがつかなかったかもしれないのに、自分の方から一方的に結論を出して悩むタイプです。

《すべき思考》
 何かやろうとするとき、「~すべき」「~すべきではない」と考えることです。この「すべき思考」が多いと、一般社会の人はこの基準に会わない事が多く、他人の行動に対して怒ったり、がっかりしたりすることが多くなります。また、「すべき思考」が自分に向くと、必要以上に罪悪感やプレッシャーを感じることになります。

以上のような思考(認知)のパターンが、抑うつを初めとする精神疾患に大きく影響していることが、これまでの研究で分かっています。思い込みや現実とのギャップを認識して、ものの見方や考え方を変えていくのが認知療法です。

行動療法とは

 行動療法は、文字通り行動面に働きかける治療法のことです。アメリカの心理学者であり行動分析学の創始者であるスキナーや、同じく心理学者のアイゼンクらによって、1950年代に体系化された心理療法の一つです。行動療法は、一般に「行動(学習)理論にもとづいて、問題行動を適応的方向に変容させることを目標として行われる行動変容技法の総称」と定義されています。つまり、生活の中で不適応な行為や不合理な行動が身につき、それが習慣的になっている行動パターンを、一定の理論によってその行動を修正し変容させて、問題解決をはかる治療法です。一般によく知られているのでは、パブロフの犬の実験です。犬にベルの音を聞かせてから食べ物を与えると、やがて犬はベルの音を聞くだけで唾液をだすようになります。このように、専門家によって行動と条件についての研究や実験が数多く行われ、今日のような不安障害治療の手法として発展してきました。  行動療法は、学習理論と行動理論に立脚し、不適応に陥っている行動の治療改善を図るのが目的です。異常行動そのものが治療の対象になります。たとえば、パニック障害にみられる乗り物恐怖症のような場合、乗り物に乗れないという行動そのものを問題とし、実際に乗れるように指導していくという手続きをとります。「一人で電車に乗ると不安発作を起こしてしまう」という患者さんがいたとすると、この患者さんにとっては、外出することに一定の制限を抱えることになります。この場合、問題は「電車に乗ると不安発作を起こしてしまう」という行動パターンそのものにあります。  この行動パターンを修正し変容させるための手法として、まず「友人と二人で電車に乗ってみる」→「電車に乗らず改札まで一人で行ってみる」→「電車に乗らず一人でホームに立ってみる」→「人込みの少ない時間に一区間だけ電車に乗ってみる」→「人込みの少ない時間に30分程度の距離を一人で電車に乗ってみる」→「一人で電車に乗っても大丈夫な状態になり、これを繰り返していく」といったように、条件を段階的に変えていくことによって、行動を変化させ、問題を解決していきます。この段階的に目標をクリアしていく行動理論を消去理論といって、人間には恐怖刺激や不快刺激に対しての慣れが生じるというものです。この場合の技法としては、暴露療法(エクスポージャー法)の一つである系統的感作法が用いられます。  行動療法では、異常行動は素質ではなく、後天的に学習されたものであると考えます。したがって、学習の原理にしたがって、適切に学習し直すことが治療であると考えます。そのため、条件付けの考え方にたって、さまざまな治療法が工夫され、併用したり使い分けしたりして用いられます。系統的感作法のほかに、現実刺激によるフラッディング法、刺激統制法、オペラント条件付け療法、嫌悪療法、条件性制止療法などの技法があります。行動療法の特徴や取り組みのポイントについてまとめると、以下のようになります。

行動療法の考え方

 

  • ① 人間の行動は、大部分が学習によって獲得されたとみなす。他の心理療法と比較して、客観性と普遍性において優れている。
  • ② 神経症においてさえ、何らかの理由で不適応的に学習された習慣に過ぎないものであり、その習得に用いられた同じ原理を組み合わせれば、それは解除できると言う考え方に立っている。
  • ③ 一般に他の心理療法と比較して、治療に要する時間は短く、治療の経過を客観的に理解することができる。
行動療法の特徴
  • ① 行動理論を基礎原理とする。
  • ② 治療の目標を明確にし、客観的測定や制御が可能な行動のみを治療の対象とする。
  • ③ 症状を、不適応行動の学習あるいは適応行動の未学習としてとらえる。
  • ④ 治療の焦点を過去ではなく、今現在にあてる。
  • ⑤ 治療の最終目標を行動のセルフコントロールとする。

 以上、述べてきたように、認知療法と行動療法にはそれぞれの歴史があり技法も異なりますが、実際には表裏一体の関係にあります。認知と行動は密接に関係しているため、認知が変われば行動が変わり、行動が変われば認知も変わってきます。治療の効果も、認知面と行動面の両方に出ます。この二つの治療法を統合させたのが、認知行動療法です。  認知行動療法は、1990年代位に体系化され、イギリスのクラークやサルコフスキスらによって、認知療法と行動療法が統合されました。強いエビデンスをもち、不安障害やうつ病の治療法として国家的に実践されるようになりました。このようにイギリスでは、認知行動療法の普及が進み、現在も各種理論が発展しつつあります。例えば、東洋的な考え方などにヒントを得たマインドフルネスは、心のありのままの状態を受け入れる手法です。また、アクセプタンス&コミットメントセラピーといって、いま与えられているものを受け入れ、それに対応する手法など、新しい技法が開発され、今も発展し続けています。しかし、日本においては、スタンダードな認知行動療法の定着および普及がいま始まったところです。

うつ病や不安障害の治療の第一選択

 現在、イギリスやアメリカなどの国々では、認知行動療法がうつ病や不安障害治療の第一選択になっています。そのエビデンス(科学的根拠)として、治療効果を示すデータが提示されています。それによると、中等度から重度のうつ病患者に認知行動療法を行ったときの反応率(治療効果の割合)を調べたところ、薬物療法と同等の効果があるといわれています。また、不安障害への効果においても、有効性の数値が高いことがわかりました。不安障害の中でも、特に強迫性障害や急性ストレス障害などにおいて、治療効果の高いことがわかりました。標準的な認知行動療法を、熟練したセラピストと共に行えば、半数以上の人が完治するという報告もあります。  このように、認知行動療法には薬物療法と同じくらいの効果があると同時に、効果の持続時間だけで比較すれば、薬物療法よりも長いことが認められています。こうした裏付けによって、認知行動療法の重要性が高まり、海外では近年、従来の精神療法と薬物療法の治療法に加え、認知行動療法が盛んに用いられるようになってきています。  イギリスのNICE(国立医療技術評価機構)では、うつ病と不安障害の医療ガイドラインで、認知行動療法と薬物療法における治療効果を認め、効果の持続期間においては認知行動療法を優位においています。また、アメリカのNIMH(国立精神衛生研究所)でも、うつ病と不安障害の治療において、薬物療法あるいは認知行動療法のどちらかを第一選択としています。同じアメリカの精神医学会でも、パニック障害の治療については、薬物療法と認知行動療法は、その効果において優劣がつけがたいとしています。科学的根拠に基づく医療をEBM(エビデンス・ベースド・メディスン)といわれますが、認知行動療法はまさに多くの科学的根拠や臨床研究によって行われるEBMにあたるのです。この認知行動療法は、脳の前頭前野に働くと考えられており、脳科学によるエビデンスの提示が今後期待されるところです。

認知行動療法は脳の前頭前野に働く


薬物療法と認知行動療法の組み合わせのパターン

 

《パターン・1》…【認知行動療法】→【薬物療法】
 治療は、まず認知行動療法から始めます。これは、副作用で薬が飲めない場合や、薬を飲むことに強い抵抗感を感じる患者さんの場合に行われるパターンです。軽症のうつ病をはじめて発症したときに、このパターンが適しています。

《パターン・2》…【薬物療法】→【認知行動療法】
 薬物療法から治療を始めるパターンです。薬で激しい症状を抑えてから認知行動療法に入る場合と、薬では十分な効果が出ないため認知行動療法に移行して治療が行われる方法です。現在、日本で行われている治療で最も多いパターンです。

《パターン・3》…【薬物療法】+【認知行動療法】
 これは、二つの治療法が平行して行われます。薬物療法で症状を緩和し、認知行動療法で生活を変えるもので、相乗効果が期待できるパターンです。しかし、どちらの治療法がよかったのか判断しにくいのが欠点といえます。

 二つの治療法を併用したときの効果については、科学的にも実証されています。併用という点でも、認知行動療法にはエビデンスがあるのです。

併用による治療効果


6つの基本原則と5つの相互作用

6つの基本原則

 認知行動療法には、6つの基本原則があります。1つ目は「治療者と患者さんとの関係性」です。認知行動療法を行ううえで、重要なポイントになるのは、治療者と患者さんの信頼関係です。問題解決にあたっては、双方が協力して面接を進めていき、治療者と患者さんは常に対等の関係性のなかで、耳を傾け、質問や理解できない点をお互いに確認しあいながら、活発に対話をすすめていきます。2つ目は、「認知行動療法の基本モデルを理解すること」です。このモデル(「相互作用モデル」の図を参照)にそって、患者さんの問題を整理し、環境的な状況が患者さんにどのような影響を与えているのか、全体像を把握していきます。モデルは、「環境」と「個人」の相互作用を表したもので、ストレス源である環境(状況)が、個人の「認知」「感情」「行動」「身体」にどのような相互作用をもたらすのか、また、その反応が個人内部においてどのような相互作用を起こしているのかを把握するものです。  3つ目は、「問題解決的な志向で進めていくこと」です。つまり、問題の原因を追究する方法ではないということです。いまここにある問題に焦点をあてて、どのような要因がその問題を起こしているのか、分析し理解します。そのうえで、現実的な目標をたててそれを達成することで、問題の解決を目指していきます。4つ目は「心理教育と再発予防の視点」です。心理教育とは、患者さんに認知行動療法についての教育を行うことや、患者さん自身がかかえる問題や症状についての情報を提供し、患者さんがそれを知識として理解することで、問題解決の対処法を習得することを目的とします。さらに、患者さんの内面に働きかけることによって、自分自身で問題に対処できる力を引き出して、再発を予防することが目的です。  5つ目は「構造化の明確化」です。認知行動療法の開始から終結までの流れを説明することです。アセスメント→問題の同定→目標設定→実践→検証→維持・般化への流れを十分に説明して、面接を行います。一回ごとの面接では、話し合う内容をあらかじめ決めて行い、一回の面接が全体の流れとどのようにつながっているのか、明確にしていきます。治療者と患者さんが「いま何のために何について話し合っているのか」を理解したうえで、面接を進めていくことが重要です。6つ目は「外在化」ということです。面接のなかで話し合っていることを、図や文章を使って紙に書き出し、視覚化します。治療者と患者さんが共通理解をしながら面接することで、自分自身の問題を客観的にとらえることができます。

5つの相互作用

 私たちの心や生活は、大きく分けて「環境」と「個人」の相互作用で成り立っています。環境においては、状況や他者(家族、友人、同僚など)が影響し合いながら生活しています。また、個人においては認知(考え、イメージ)、感情(気分)、行動、身体が常に相互作用し合っています。認知行動療法では、この「環境」、「認知」、「行動」、「感情」、「身体」の5つの相互作用が基本モデルとなります。その中で、特に認知行動療法は「認知」と「行動」に焦点をあてながら治療していく心理療法です。だからといって、感情や身体を軽視しているわけではなく、「認知」と「行動」に着目したほうが、比較的問題を把握しやすく、また修正したり幅を広げたりしやすいからです。

相互作用モデル


 では、この5つの基本モデルにしたがって、Sさんのケースで考えてみることにします。

  • 【環境・状況】…Sさんは、職場でちょっとしたミスをした。
  • 【認知】…「なんて、自分はダメな人間だろう」と思う。
  • 【感情】…気分が落ち込んだ。
  • 【行動】…ミスを上司に報告し、謝罪した。
  • 【認知】…上司から「ダメなやつだ」と思われるに違いない。
  • 【身体】…心臓がドキドキし、足がガクガクしてきた。
  • 【環境・他者】…上司から「困るよ。この前と同じミスじゃないか」と言われた。      
  • 【認知】…これでまた、自分への評価が下がってしまった。もう、この仕事は任せてもらえないだろうと思う。
  • 【認知】…会議の席で、上司が「Sさんの仕事は、今後他の人にやってもらうことにする」と話している様子を想像する。
  • 【感情】…悲しくなり、ひどく落ち込む。
  • 【身体】…胃が痛くなってきた。
  • 【感情】…すっかりやる気を失ってしまう。
  • 【行動】…他にやらなければならない仕事にも、手がつけられなくなってしまった。

 

 Sさんのケースを、相互作用モデルにあてはめると、ざっと以上のようになり、その悪循環を繰り返すことになります。認知行動療法では、このようなさまざまなケースを相互作用モデルにあてはめて把握していきます。そして次に、いかにして悪循環から抜け出すかがポイントになりますが、状況、認知、行動、感情、身体の中で、容易に修正が可能なのが「認知」と「行動」です。仕事でミスをしたという「状況」は変えようがありません。また、心臓がドキドキしたり、足がガクガクしている「身体」的反応を変えたりするのも、無理なことです。同じように、落ち込んだり悲しんだり、やる気を失っている「感情」の部分を修正することも、また容易なことではありません。その点、状況に対してどのように認知(考え方、受け止め方、イメージ)するか、またどのように行動を起こすかの方が、修正しやすいのです。そのあたりを、Sさんのケースで見てみたいと思います。  Sさんは、「自分はなんてダメなんだろう」と一度は落ち込みますが、その後に「確かに自分はミスをしたけれど、だからと言って、自分は何をやってもダメな人間である、ということにはならない」「次に、同じミスをしないようにするにはどうしたらよいのだろう?」と考え直すことができれば、落ち込みは以前よりは深刻にはならないはずです。また、行動の部分でも、上司に報告する際に、ただ謝罪するだけではなくて「また、ミスをしてしまいまして申し訳ありません。今後このようなことがないように、事前にKさんにチェックしてもらおうかと考えていますが、いかがでしょうか?」と、改善案を提案することができれば、上司の反応も変わってくるかもしれません。また、「もう、仕事は任せてもらえないだろう」と考えて落ち込んでいたら、他の仕事もミスしかねないことになり、そうなればますます自分の評価は下がるので、とりあえず今は目の前の仕事に集中しようと、考え直すことができれば、気を取り直すこともでき、仕事への意欲もでてくるかもしれません。このように、認知を修正すれば、行動も修正されますし、行動を変えれば認知も変わってくるのです。  普通の人であれば、何かストレスを感じるようなことが起きても、必要以上に落ち込まないように、無意識に認知や行動を修正しているのです。ところが、うつや不安などで、心の元気が失われると、自分一人で修正することができなくなってしまいます。認知行動療法は、患者さんが落ち込んだ気持を、再び自分で立て直すことができるように、心理的手法を用いながら教育的援助をする治療法なのです。

自動思考とスキーマ

 うつや不安の根源である認知の正体は、「自動思考」とさらにその奥に潜む「スキーマ」にあると言われています。人間の認知を分析してみると、日頃から意識している考え方のほかに、何気なく思い浮かぶ心の声があることに気づきます。それを自動思考といいます。自動思考は、根拠なく自動的に思い浮かぶ考えで、自分では考えているつもりはないのに、瞬間的に頭に浮かんでくる考えです。「どうせやっても、失敗するだろう」「どうせ頑張っても、自分はダメだ」「どうせ、嫌われるだろう」「今度失敗したら、俺はもう終わりだ」「友達はきっと怒っているに違いない。全部自分のせいだ」「今日もまたつらい。生きている価値がない」などの考えです。  たとえば、会議で資料を作成して報告しなければならない時、「失敗したらどうしよう」「きっと失敗する」という思いが、瞬間的に思い浮かびます。この自動思考は、行動や感情にもすぐに影響を与えます。会議が始まると、緊張感が生じ、あわててしまってミスの連続となることがあります。それは、根拠のない自動思考がつぎつぎと思い浮かび、悪循環に陥ってしまうからです。  認知の内容を詳しくみていくと、認知というのは意外と自分ではコントロールできないものです。自分では意識しているつもりであっても、いざその場になると、自動思考が思い浮かび、それに支配されてしまいます。自分が考えている通りことが運ばず、生活や仕事がうまくいかない場合は、自動思考を疑ってみます。その場合、紙に書き出してみるとか、人に話したりして、自動思考を言葉にしてみることです。言語化することによって、考え方を見直すきっかけになります。頭でもやもや思い悩んでいて、気付かなかった感情や行動が、自動思考の言語化によって明らかになることがあります。認知行動療法では、自動思考から行動への流れ、また感情への流れがどのような影響をおよぼしているのか、そのメカニズムをくわしく見ていきます。  さて、自動思考をとらえることができると、さらにその先に認知の意外な姿が見えてきます。それが、スキーマ(考え方のクセ)と言われるものです。スキーマとは、考え方のクセをつくる設計図のようなもので、中核信念(コア・ビリーフ)とも言われ、自動思考よりもさらに奥深くあって、心の中核にある考え方のパターンのことです。自動思考はこのスキーマから生まれるのです。「自分はダメ人間」というような自己否定的な中核信念があると、それがその人の生き方すべてに影響し、毎日がつらいものになります。自己否定的なスキーマとしてよくあるのが、「自分は何の才能もないダメ人間だ」「いつも人から嫌われ、一人ぼっちだ」「誰かに助けてもらわないと、何もできない」「人はいつも自分を利用しようとしている。人を絶対信じない」「物事が完璧でないと、無意味だ」などです。  認知の中核にある信念、また考え方のクセが見えてくると、それが症状を引き起こしている大きな問題であることに気づきます。こうしてスキーマをとらえることができれば、認知の全体像を掴むことができます。中核信念は、いつも正しいわけではなく、むしろ誤っていることの方が多いのです。そこに気づけば、そこを変えるのが治療であるという認識につながります。凝り固まった考え方、考え方のクセや思考のゆがみを修正していくことで、考え方にはいろいろあることを発見し、柔軟な思考を獲得できるようになります。認知の修正が感情や行動にも相互作用して、よい影響を与えるのです。

2.認知行動療法のセラピー形式

 認知行動療法は、患者さんの症状の程度やまた希望に応じて、さまざまな形式で実施されています。治療者と患者さんが1対1で行う「個人認知行動療法」から、患者さんが1人で本を読んで行う「セルフ・ヘルプ式」まで、幅広い形式が用意されていますので、自分に当てはまる方法を選択できます。形式は、大きく5つに分かれ、患者さんの状態に合わせて、セラピーの強度が調整できます。弱いセラピーから強い順に並べると、①「セルフ・ヘルプ認知行動療法」、②「アシストつきセルフ・ヘルプ認知行動療法」、③「認知行動療法アプローチ」、④「集団認知行動療法」、⑤「個人認知行動療法」です。

セルフ・ヘルプ式

 セルフ・ヘルプ式(自分で自分を助ける)は最も簡易な形式で、患者さん本人が一人で行うセラピーです。うつや不安の症状が軽く、まだ本格的な治療を必要としない患者さん向けの方式で、記入式の本を用いたり、パソコンのホームページを利用したりして、認知行動療法の一部を自習形式で体験できます。あくまでも、入門的な取り組みになるため、より詳しく実践したい時は、医療機関に相談してみる必要があります。  本を用いる場合は、認知行動療法の解説書を読み、記入式のワークブックを使って、認知や行動を書き入れていく方法が取り組みやすいです。また、解説にしたがって、自分の気持や考え、また行動を紙に書いて整理するだけでも、新たな視点を発見できる場合があります。パソコンを使う場合は、認知行動療法のホームページを利用します。ただ日本の場合は、パソコンの活用はまだ始まったばかりで、現在は情報提供が中心です。ほかに、コンピュータプログラムを用いた治療も一部で行われています。イギリスでは、認知行動療法関連のプログラムが100種ほど開発されていて、その一部がすでに医療現場で実用化されています。医療保険が適用となったソフトもあります。

アシスト形式

 アシスト形式は、一人で行うセルフ・ヘルプ式と、本格的な治療の中間に位置します。うつや不安の症状が軽い場合は、セルフ・ヘルプ式に取り組みますが、その際、医師やセラピストなどから適宜に助言を受け、手伝ってもらうのがアシスト形式です。専門的な認知行動療法のダイジェスト版のような治療をうけられるメリットがあります。基本的には、患者さんが一人で本やパソコンなどを活用して取り組みますが、一人ではうまくいかないような時に、助言や説明を受けることができます。より的確に作業ができることと、一人ではあきらめそうな時に、助言者のサポートが支えとなります。また理解が深まって、治療意欲が高まるなどの効果もあります。このアシスト形式は、本格的な治療とは異なるため、認知行動療法本来の治療効果そのものを望むことはできませんが、その分、専門的なセラピストでなくても、患者さんをサポートすることはできます。患者さんにとっても、医療機関にとっても、取り組みやすい長所があるのです。

CBTアプローチ

 CBT(認知行動療法)アプローチは、本やパソコンだけでは治療の概要がつかめない場合に、医師やセラピストなど専門家からもっと詳しく話を聞く形式のことです。医師やセラピストが、一般向けにセミナーや講演会などを行って講義することがありますので、その機会を利用して話を聞くことができます。また、医療機関を受診し、病気や治療法について説明してもらうと、心理的になっとくできることがあります。このように、CBTアプローチは、本来の双方向性の共同作業である認知行動療法をダイジェストにして、それを一方向で伝える形式で、精神療法というより教育に近いものです。したがって、認知行動療法の治療効果そのものを完全に望めるものではありません。

集団認知行動療法

 本格的な認知行動療法には、集団向けと個人向けの2種類があります。1対1で取り組む個人認知行動療法に対して、集団認知行動療法は数人(3~10人程度)の患者さんが、医師やセラピスト(ほかスタッフ2~3名)のもとに集って、実践するものです。定期的に集まってセッションを行い、数カ月間かけて状態の改善をめざします。集団認知行動療法では、状態の近い患者さん同士が集うのが基本です。同じ境遇で頑張っている仲間が集うために、集団行動に強い抵抗がない人には、よい選択肢になります。集団認知行動療法というのは、グループで一緒に取りくむ治療ですので、いくつかの決め事があります。

① お互いに認め合う
患者さんたちは、お互いに発言したことに対して否定しないようにします。むしろ、相手の発言に対して、拍手をしたり賞賛の言葉をかけたりするようにします。

② 目標を立てる
グループでの目標を立てたり、個人としての目標も立てたりします。治療者と相談して、適度な目標を設定します。

③ 他の人の様子をみる
同じグループの患者さんの考え方や症状などをみて、共感したり、客観的な視点に気づいたりします。

④ 人前で発表する
一人ひとりが、治療に取り組んだ結果を、メンバーの前で報告します。全員が均等に発言するようにします。

⑤ ルールをつくる
グループへの途中参加はできません。患者さんの個人情報は保護するなどのルールを作り、治療の枠組みについては全員で守るようにします。

 この集団認知行動療法の場合、患者さんにとっても治療者にとっても、いくつかのメリットがあります。

  • ① 悩みや問題に対して、一緒に取り組む仲間がいるため、患者さんにとっては精神的な支えとなります。
  • ② グループへの一体感や帰属意識などがめばえ、治療意欲が高まります。仲間に刺激されて、ほかの患者さんが症状を克服する過程を見ているうちに、自分にもできると思えてくるようになります。客観的な視点が養われるなど、さまざまな効果が期待できます。
  • ③ 熟練した治療者一人が、数人の患者さんを担当できるため、費用の面で出費を抑えることができます。

個人認知行動療法

 個人認知行動療法は、認知行動療法本来の形式で、治療効果がもっとも高い治療法です。原則として、一人の治療者が一人の患者さんの治療を最後まで担当します。つまり患者さん個人が、熟練したセラピストによって、正式な認知行動療法が受けられるのです。治療者は、患者さんとの対話を通し、認知や感情、行動について丁寧に引き出し、悪循環をみつけて、患者さんと一緒に問題解決の糸口を探っていきます。セッションは、1週間に1回程度行われ、全部で12回ぐらい行い、患者さんによっても異なりますが、3カ月から半年ほどかけて取り組みます。治療者と患者さんは、対話を中心にリラックスした中で語り合いますが、場合によっては診察室の外で行うこともあります。  認知行動療法に関する多くの実証結果は、この個人認知行動療法によってだされたもので、その効果は高く評価されています。ほかの形式よりも、手間や時間、費用の面でも多少多くかかりますが、その分効果も高いのです。日本では、まだ専門家が少なく、普及してはいませんが、認知行動療法の医療保険の適用が実現したため、今後は各地に広がるものと見られます。個人認知行動療法のメリットとしては、次のような点があげられます。

  • ① 治療が、認知行動療法の本来の形にのって行われるため、効果が非常に高いことがわかっています。
  • ② 定められた治療内容があるため、計画的に進めることができます。したがって、治療経過が安定します。
  • ③ 治療には、専門家が携わります。知識が豊富なので、さまざまな質問に答えてくれます。

 

3.治療の流れと手法

 認知行動療法の進め方には、基本的な形式はあるものの、実際は治療者が患者さんに合わせて工夫しますので、細部においては患者さん一人ひとりが違った治療と考えてよいでしょう。認知行動療法の最終目標は、患者さん自身が、自分の考え方や感情、また行動をコントロールできるようになることです。そのために、患者さんはその目標をめざして治療に取り組み、治療者は患者さんを全面的にサポートする役目があります。どちらも主役であり、共同作業による治療法と言えます。   一般に認知行動療法の場合、1回30~50分程度の時間で、対話を中心にしたやり取りが行われます。1回の治療を1セッションとよびますが、週に1回ほどのペースで定期的に実施して、全部で12回くらいのセッションで終了するのが一般的です。進行は治療者にまかせ、患者さんは自分の気持を繰り返して話していきます。それを繰り返すことによって、認知・感情・行動をとらえて悪循環を発見し、対策を考えていきます。

認知行動療法の1回の流れ

 認知行動療法(個人認知行動療法)の1回の流れを簡単に紹介しておきます。全体を「導入部」「本題」「まとめ」の3つに分け、1回50分の場合の時間配分とその内容をみてみます。

◇導入部(約10分間)
 ここでは、前回(先週)のセッションで行ったことを振り返って確認し、続いて今回のテーマを決めます。また、宿題が出ていた場合は、その確認も行います。

◇本題(約30分間)
 本題では、患者さんが話したいテーマや、治療者が取り組みたいテーマが中心になります。これを治療のボディといいますが、ここで話し合うことで、患者さんの感じていることや考えが、言葉やイメージとなって出てきます。そして引き出されたことについて、患者さんと治療者で確認し、認知・感情・行動の区別を行います。認知・感情・行動に悪循環があるようだとわかれば、それについて話し合います。その悪循環から抜け出すためにできることは何かをよく話し合い、具体的な対策を一緒に考えます。

◇まとめ(約10分間)
 今回の治療を振り返って、意見や感想をざっくばらんに伝え合います。そして、より良い治療を探っていくように話をまとめます。最後に、次回までの宿題や日時を確信して終わります。

認知行動療法の3カ月の流れ

 認知行動療法(個人認知行動療法)の約3カ月間の流れを概略的にみておきます。週1回程度の治療を、約3カ月間かけて積み重ね、12回のセッションで終わらせるのが標準ですが、長くても16回程度で終わらせます。病気が軽症で、治療が順調に進めば、6回ぐらいで治療が終了することもあります。また病気ごとによって、治療の期間や内容はあらかじめ定められていますが、状況に応じて、途中で治療の進め方や内容、また期間の長さを調整することがあります。  病気ごとの例でいうと、「うつ病」治療の場合は12回程度のセッション回数で、前半で認知を変え、後半で行動活性化に取り組みます。「パニック障害」治療の場合は10回程度のセッション期間を設定します。前半2回くらいで認知をとらえ、3回目からエクスポージャーという対策に取り組みます。一方、「パーソナリティ障害」治療の場合は、20回くらいのセッションを行います。まず治療関係をつくり、認知や感情をとらえるのに時間がかかるため、セッション回数が増えることになります。なお、治療期間はあくまでも目安で、生活の中でテクニックをじっくりと実践するため、セッションの頻度は1週に1回という回数にこだわらず、2週に1回にするなど、流れを見直す場合もあります。  以下に示す内容は、3カ月間の治療の一例です。治療者と患者さんとの面接は、治療がスタートする前から行われていて、その中で、患者さんの困っていることがわかり、認知行動療法が必要だと判断されたとき、以下のような流れで治療がスタートします。

◇最初の1カ月目の治療〈認知・感情・行動の関係に目を向けさせる〉
 まず、治療の流れを簡単に説明します。治療者から、「何でもいいから、話してみてくださいね」と言われるので、緊張していた患者さんでも、気持がリラックスできて、いま困っていることを話してみようという気になります。患者さんの話に対して、治療者は「そのとき、どんな気持でしたか?」「そのとき、どんな考えが浮かびましたか?」と質問したりします。こうしたやりとりの中で、治療者は患者さんの認知や感情、行動をつかむようにします。さらに、治療者が「どう考えると、その反対の気持ちになるでしょう」などと言葉をかけたりすることによって、患者さんは認知・感情・行動の関係に目が向くようになります。

◇2カ月目の治療〈フォーミュレーションし、悪循環への対策および実践〉
 患者さんと治療者が話しを重ねるうちに、認知・感情・行動のパターンが次第に見えてきます。パターンが見えてきたことを、治療者が患者さんに伝えることで、治療経過が実感できます。患者さんの状態にもよりますが、フォーミュレーションまでに時間がかかることがあります。それは、患者さんに合わせた治療の進め方をするためです。さて、認知・感情・行動の悪循環が発見されれば、次に良い循環に戻す方法を患者さんと治療者が一緒に考えます。対策が決まれば、それが身に付くまで繰り返して実践します。そのうちに、症状が軽くなり、自信がついてきます。

◇3カ月目の治療〈患者さん一人で作業し、自信がつけばセッション終了〉
 患者さんと治療者の二人で行ってきた作業が、今度は患者さん一人でできるようになり、自信がつけばセッションは終結します。あとは、再発予防のために必ず継続するようにします。

治療の手順と手法・1…まず、何がつらいか話してみる

 うつや不安障害の患者さんにとって、何が一番つらいかと言えば、周りの人に病気を理解してもらえないというつらさです。患者さんには、まずそのつらさや、またどうしたいかという要望などを話してもらう事から始めます。つまり治療者は、最初は患者さんの話をよく「傾聴」することから始めます。特に、初めは徹底的に聞き役に徹します。次に「つらかったでしょう」「今まで、一人で大変でしたね」と、患者さんの気持ちに寄り添って「共感」してあげます。そして、最後に患者さんのつらい気持ちを「受容」することです。決して、治療者は一方的に指示するようなことはしません。人は受容されれば、変わる事ができます。受容され、自分のすべてが問題なのではないと感じれば、問題の部分を少し変えてみようという意欲がでてきます。  認知行動療法の治療は、この傾聴・共感・受容からスタートします。患者さんは、治療者に話を聞いてもらい、共感してもらい、受容してもらっているうちに、「もうダメだと思っていた自分にも、良いところがたくさんあるんだ」と思えるようになり、病気を治すことができそうな気になってきます。話を聞いているうちに、患者さんの緊張感はとけていき、より詳しく話せるようになってきます。患者さんは、受け止めてくれる相手がいるとわかれば、安心し治療しようという心の準備ができるのです。  一般に、人間関係の基本はお互いの信頼関係によって成り立ちます。認知行動療法においても、患者さんと治療者がお互いに信頼し、尊重し合うことが基本になります。治療者は、患者さんを受け止め、認めることを常に意識していますので、治療中に患者さんを一方的に指示したりするようなことはありません。どこまでも、双方の信頼と尊重のうえに治療は進められていきます。  こうして、最初の面接では、治療者は患者さんについての情報をできるだけ多く集め、整理して、病気の状態の見立てを行います。これをアセスメントといいます。最初の面接で行われたアセスメントをもとに、治療者はおおまかな治療プランを立てます。

治療の手順と手法・2…話したいテーマ(アジェンダ)を決める

 アジェンダ(agenda)とは、会議の議題を意味する英語ですが、認知行動療法では、治療で取り扱うテーマ(話題)のことをアジェンダといいます。患者さんにとって、話しやすい雰囲気がでてきたら、その日に話し合うテーマを決めます。テーマを設定するのは、治療の対象や目的をしぼりこむためです。テーマが決まれば、患者さんにとっても何を話したらよいのかという迷いがなくなります。取り組む問題がはっきりすれば、それを解決しようという意欲も出てきます。患者さんと治療者がいっしょになって、毎回テーマを決め、それについて話し合い、その都度、解決策を見出していくという共同作業が行われれば、治療はスムーズに進行していきます。本格的な治療はここからスタートになります。  テーマ(アジェンダ)の一例としては、次のようなものがあります。

  • ・人前にでると、緊張してつらくなる。
  • ・夜になると、いろいろ考えてしまい、なかなか眠れない。
  • ・家族と口論が多くなって、うまくいかない。
  • ・前回のセッションの宿題にうまく取り組めなかった…など。

 このほか、いろいろなテーマがありますが、患者さんが話したい事があれば、それをテーマにすることができます。希望があれば、遠慮なく伝えることが大切です。あくまでも、テーマの決定は相談しながら行いますので、治療者が一方的に進めることはありません。面接時において、治療者は患者さんに「思いついたこと、何でもいいから言ってごらん」と発言を促しますが、患者さん本人も「いま一番つらい症状。しかしどうにもできない。話したいことはたくさんあるが、それをどう話せばよいかわからない」という場合もあります。会話のやりとりをするうちに、患者さんの思いが少しずつ見えてきます。「そう、それが一番気になるんですね。では、その話を今日はお話ししましょうか」と提案し、その日のテーマとすることもあります。  また、テーマがたくさん出てきて、優先順位をつける場合もあります。一番気にしているテーマにしぼると、二番目以降の問題が気にならなくなることもあります。テーマが決まり、そのテーマがセッションの最後には、ある程度解決の糸口が見えてきます。

治療の手順と手法・3…患者さんと治療者の共同作業

 認知行動療法は、患者さんと治療者の共同作業によって成り立ちます。どちらも治療の主役です。患者さんのことは、患者さん自身が一番よく知っていますし、治療のことは治療者が一番よく知っています。その両者が力を合わせることで、目標が達成されるのです。目標は、病気の回復です。その回復という共通の目標に向かって、一緒に努力するチームメイトですから、共に協力し合う仲間です。二人三脚で病態を把握し、現状を分析し、問題の解決を図っていきます。認知行動療法は、一心同体で協力しながら成功体験を積んでいく治療法のことです。  したがって、いかに患者さんと治療者が協力態勢を築けるかが、治療成功へのカギとなります。そのためには、患者さんは積極的に治療に取り組み、治療者がそれをしっかりと支えることが重要で、どちらにも片寄らない関係づくりがポイントになります。「前回は、感情をとらえることができましたね。素晴らしい気づきだと思います」という治療者の声かけが、患者さんの治療意欲を高めることになります。また自己表現を上手に促していくことにより、患者さんは積極的に自分を表現して、治療者に理解してもらおうと努めます。  セッションを重ねていく過程で、患者さんは治療者の言葉を参考にしながら、自分の認知・感情・行動をとらえることができるようになっていきます。治療者は、患者さんの話や作業がよい方向に進むように、回復への道をガイドしていく立場にあります。そして、各セッションの最初と最後には、治療の目標や成果について、お互いに言葉を交わして確認するようにします。「今日のセッションに無理なところはありませんでしたか?」と声をかけるなどして、相手の意見や感想を丁寧に受け止め、お互いにフィードバックし合うことが大切です。こうして、各セッションのまとめでは、情報共有の機会をつくり、協力態勢を築きながら次回のセッションに活かしていくようにします。

治療の手順と手法・4…ソクラテス問答で思い込みに気づく

 認知行動療法においては、対話は極めて重要な要素となります。その対話の際、治療者がよく用いる手法に「ソクラテスの問答」があります。この対話方法によって、患者さんは自分の意外な思い込みに気づくことがあります。哲学の祖と言われたソクラテスは、真理を追究するために、市民を相手に問答を繰り広げました。その手法は、相手の気づきを促すような質問を重ねることでした。聞かれた相手は「あっ、そういえば!」と気づくことで、真理を説いていったと言われます。ソクラテスの問答というのは、話し相手を自発的な気づきへと導く対話の手法なのです。この手法を、患者さんをして何らかの発見へと導くためのガイデッド・ディスカバリー(導かれた気づき)と呼んでいます。  たとえば、患者さんが当たり前だと感じていて、深く考えたことがないような状況で、「その時、何が悲しかったのですか?」と、改めて問いかけてみます。すると、聞かれた患者さんは、悲しかったことの原因を改めて考え直すことになります。つまり、悲しかったという感情を引き起こしている原因について、自分で考え、探るなかで、感情と原因の関係にハッと気づくことがあります。しかも、答えやすい質問をされると、患者さんも何か自分でも考えられそうな気になり、対話を重ねていく中で、自分の認知・感情・行動の特徴に、自ら気づくことができるようになります。ソクラテス問答とは、聞かれた側が自分で気づくことができる対話手法なのです。  ソクラテス問答の効果をまとめると、次のような点です。

①問題に気づく
質問されたのをきっかけに、自分の生活を具体的にふり返り、ガイデッド・ディスカバリーによって問題に気づくことができる。

②誤解が溶ける
当たり前だと思っていた悩みに、意外な思い込みがあったことに気づき、「あっ、そうか!」と感じて、気持ちがふっきれる。

③話せる自信がつく
治療者が、ソクラテスの問答を繰り返すことで、患者さんには「自分でも話せる」「自分でも答えられる」という自信がつく。

④具体的に考えられる
治療者は、患者さんが考えやすくなるようなきっかけをまじえながら、対話をかさねる。(完全なオープン・クエスチョンではない)

治療の手順と手法・5…認知と感情を分けてとらえる

 患者さんにとって、自分の心を正確に知ることが重要となります。そのためには、出来事・認知・感情・行動を分けてとらえなければなりません。これらを分けることが認知行動療法の大切な作業のひとつです。認知・感情・行動の中で、行動は表に出ていることが多く、比較的とらえやすいのですが、難しいのは認知と感情を分けてとらえることで、これがなかなか容易ではありません。出来事があって、問題が起きているとき、そのときの考えと気持ちががっちりくっついていて、認知と感情の区別がしにくいのです。  区別するには、まず患者さんの自己表現が必要です。自分で気になっている問題や症状を、言葉にします。話したいことを話し、質問されたら答えます。そのやりとりによって、感情表現をしていきます。この感情を表す言葉をたくさん用意する必要があり、特に感情の中の不快の部分について考えを掘り下げていきます。不快な感情でも、不安、心配、緊張、悲しい、さびしい、傷ついた、イライラ、混乱、恥ずかしい、罪悪感など、たくさんある感情の中で、自分の気持ちがどれに当てはまるのか考えていきます。不快な感情を抱くとき、頭にどのような考えが浮かぶか、丁寧に考えていきます。その作業を進めるうちに、感情と認知を区別することができるようになります。区別していくと、つらい感情と密接に関係している認知を引き出すことができます。それは、感情と一体化していた認知に気づくことになります。認知と感情を区別すると、感情と強く結びついている「ホットな認知」が見えてきます。たとえば、火元に対する「強い不安」という感情と、「火事を防がなくちゃ」というホットな認知が強く結びついて、ほかの考え方ができなくなってしまいます。この強い感情を伴うホットな認知が見えてくると、それが問題解決の糸口となり、治療のカギとなります。  一方、行動は表に出やすく区別しやすいため、行動からとらえるのも一つの方法です。問題が起きたときの行動で、たとえば「外出できない」「それは火元を何度も確認するから」という具合に、細部を掘り下げていきます。「火元が気になって、家に飛んで帰ってしまった」という場合に、治療者は「そんなとき、どんな感情になりましたか?」と、うまく質問を重ねていきます。

治療の手順と手法・6…フォーミュレーションして答えを推理する

 認知行動療法には、病気ごとに検証された理論的な式があり、これをフォーミュレーション(定式化)と呼んでいます。治療者が患者さんの認知・感情・行動に関する情報を多く集め、その内容を病気ごとの治療理論に照らし合わせ、問題をより正確に分析し、推理して答えを出していきます。これは、数学でいうところの公式のようなもので、公式がわかると問題がすらすら解けるように、認知行動療法でも自分の考え方の定式がわかれば、悩みの背景がわかり、問題が解消できるようになっています。そして、ひとつの悩みが解消できれば、ほかの悩みにもその定式が応用でき、治療がスムーズに行えます。   実際の進め方は、まず患者さんとの対話などを通じて、問題になっている事例についての情報をできるだけ多く集めます。集めた情報を整理して、病気ごとの式と照らし合わせ、「この事例は、この認知とこの行動が関連しているのではないか」などと推理します。そして、対話や対策によって、推理したものを検証します。式が正しければ、その式でほかの問題を解決することもできます。フォーミュレーションが完成すると、患者さんは自分の考えの式(型、モデル)を具体的に理解できるようになります。つまり、フォーミュレーションができたことで、問題の全体像を理解することができ、その答えとして具体的な対策を考えることができるようになります。  アメリカの心理学者であるアルバート・エリスが、認知をABCの流れで整理する「ABC理論」を提唱しました。この理論は、出来事の認知の仕方によって、結果が変わることを示しています。理論にそって考えると、認知を理論的に理解することができるのです。「ABC理論」のA(Activating Event)とは「きっかけになる出来事」、B(Belief)とは「信念、認知や考え方」、C(Consequence)とは「結果、感情や行動」のことです。

治療の手順と手法・7…悪循環を発見してそのパターンを変える

 自分の認知・感情・行動をとらえることができれば、その三つが影響し合って悪循環のパターンが生じていることに気づきます。認知行動療法の治療は、この悪循環のパターンを変えることにあります。では、この悪循環のパターンを生み出している原因はどこにあるのでしょうか。フォーミュレーションした三つの要素のうち、認知の部分を掘り下げていくと、問題のもととなっている「中核信念」があることに気づきます。  たとえば、「人間が嫌いだ」「世間話ができない」「なるべく人を避けて生きよう」「話が下手だから嫌われる」「どうせ、誰にも好かれないんだ」「自分は口下手だ」という患者さんの認知の部分を詳しく見ていく段階で、治療者が「子どもの頃も、同じような場面では同じパターンでしたか?」と聞いたとします。すると、「あの、ぼくは子どもの頃、口下手だと言われ続けたことがあります」と話します。こうして、生育歴を確認したり、過去にさかのぼって情報を集めたりしていくと、そこに問題となっている悪循環のパターンが見えてくるのです。  この悪循環のパターンは、セッションを繰り返していくと、さまざまな問題に共通している中核信念であることがわかります。次のようなケースがそれに当てはまります。

◇出来事・A《偶然、人に出会った》
【認知】口下手だ(中核信念)→【感情】話すのがつらい
              →【行動】会話をしない

◇出来事・B《女性との共同作業》
【認知】口下手だ(中核信念)→【感情】嫌われそうで恐い
              →【行動】一人で作業する

◇出来事・C《昇進のチャンス》
【認知】口下手だ(中核信念)→【感情】失敗しそうで不安
              →【行動】昇進を辞退する 


 このケースでわかるように、「口下手だ」という中核信念こそが、悪循環のパターンをつくりだしている元凶なのです。ですから、このパターンに陥っている患者さんに、治療者は「口下手でも嫌われない、と考えるとどう変わりますか?」と聞きます。患者さんは「口下手でも嫌われるとは限らないのだ」と考えを修正します。この考えを練習していけば、徐々に雑談ができるようになることを理解するようになります。

「悪循環を発見する」

認知の歪みが、不適切な感情や行動を生み出し、歪みがさらに強化され、悪循環のパターンを作り出していることに気づきます。

「対策を考え、実践する」

パターンが把握できれば、対策も自ずと見えてきます。患者さんは治療者の援助を受け、対策を考え、実践の段階に進みます。対策は、思いつくままに行うのではなく、その後も対話や分析を続けて、根拠ある対策を打ち出します。そのためにも、患者さんは治療者と丁寧に話し合う必要があります。そして、対策を実践することにより、認知の歪みを修正し、行動も同時に変えていき、悪循環を好循環に変えていくのです。

治療の手順と手法・8…何かひとつ、治療技法を試す

 悪循環のパターンをとらえることが出来れば、治療の道も半ばです。認知行動療法は、実践的な治療法ですので、あとは問題のある認知や行動を、特別な治療技法を用いて、少しずつ変えていく段階です。治療者と患者さんは、悪循環から良い循環にもどす方法について何ができるか、よく話し合います。そして、治療者が患者さんの問題に合わせて、具体的な治療技法をいくつか提案しますので、その中からテクニックを選び、それをもとにして治療に取り組むようにします。認知や行動を変える治療テクニックには、たくさんあります。初めは一つか二つを試してみて、自分に合わなければ他のテクニックを試します。自分に合った方法でそれを継続して身につけ、いずれは自分一人で認知のゆがみに対処していけるようになることが目標です。

《治療技法》

 

◇アサーション・トレーニング
 自己表現訓練のことで、自信をもって自分の意見や主張、また感情を表現できるようにする訓練方法です。攻撃的でもない、非主張的でもない、適度な自己表現を練習します。

◇イメージ法
 日頃と違う行動のイメージを具体的に思い描くことによって、新たな視点に気づく方法です。

◇ロールプレイ
 今後とりたい行動を、その役になりきって練習します。治療者や家族にも意見を聞きます。

◇良い点・悪い点の比較
 認知や行動の良い点や悪い点を列挙して比較します。価値観の見直しになります。

◇不安階層表
 行動にともなう不安を0~100の数字で表現します。不安数値の低い行動から挑戦して、生活を立て直します。

◇日記を書く
 チャレンジしたテクニックがどのようにできたか、日記に書きます。自分を励ます記録になります。

◇認知の修正
 完璧主義や、白か黒かの二分思考など、片寄った考え方を変えます。それらに当てはまっていないか確認して、考え方の幅を広げます。

◇呼吸法
 ホットな認知に支配されそうなとき、息を吐いて、頭から体へと注意を切り替えます。

◇コラム法
シートのコラム(枠)内に、認知や感情、行動を書き留めます。枠をつくることで、区別しやすくなります。

治療の手順と手法・9…コラムに考えや気持ちを書いて認知を再構成

 治療の具体的なテクニックとして、一般的に知られているのが「コラム法」(認知再構成法ともいう)です。コラムとは、シートに書かれた枠のことで、2コラム法、3コラム法、5コラム法、7コラム法などさまざまな種類があって、自分が取り組めそうなものを、治療者と一緒に選んで実践します。方法は、自分が気になっている出来事について、そのときの認知や感情をできる範囲で簡単な言葉にして、コラムに書き出します。最初に書いた自分のいつもの考えと違う考えを、試しに書いてみます。最初は、2コラムか3コラムなどから始め、だんだん増やしていくようにします。  2つのコラムであれば、たとえば、その時は「飛行機は恐い」と考えますが、別の考えでは「飛行機での死亡事故率は自動車の死亡事故率よりもはるかに少ない」と考えてみるのです。また、上司に仕事上のミスについてひどく注意されたという出来事があった場合、感情では憂うつになります。その時「上司は自分を嫌っている」と考えますが、しかし別の考えとして「上司は自分を大事に思っていて、一生懸命指導してくれた」と考えます。このように、日頃の思考パターンをまず書き、次にほかの考え方を思いつくかぎり書きます。この2コラム法では、考えと感情を分けたり、日頃の考えと別の考えを探ったりするときなどに使いますが、記入するのが苦手な人には、取り組みやすい形式といえます。  次に、7つのコラム法を使い、上司に仕事上のミスで注意された出来事について自分の認知を詳しく見てみましょう。

 

コラム・1…【出来事】
 ○月○日、上司に仕事上のミスについて厳しく注意された。

コラム・2…【認知・考え】
 上司は自分を嫌っている。

コラム・3…【感情】
 不安(90点)

コラム・4…【考えの根拠】
 注意した声が荒々しく大声だった。

コラム・5…【考えの反証】
 注意のあとで、自分にわかるように詳しく説明してくれた。

コラム・6…【合理的思考】
 上司は自分を大事に思っていて、一生懸命指導してくれた。

コラム・7…【心の変化】
 不安な気持ちが減った。(90点から50点に)

 この7つのコラム法では、自分の認知を詳しくとらえ、その根拠をコラム・4で書き、反対の立場からコラム・5の反証を書き、コラム・6で合理的思考を考えることで、認知を再構成することができます。さらに、コラム・3やコラム・7では、点数化することによって、自分の心の変化をわかりやすくしているのが7コラム法です。このほかの認知再構成法としては、認知・感情・行動が図解されたシートに記入する形式のものや、不安や責任感などを円グラフで表す方法などもあります。思いついた事をどの枠に書けばよいのか、迷ったり悩んだりしたときは、治療者に相談して進めます。また、治療者が患者さんの状況を聞き取りながら、一緒にシートに記入して進めることもできます。

治療の手順と手法・10…宿題(ホームワーク)に取り組む

 セッションを通じて理解したことを、毎日の生活の中でいかすことは、治療のうえで非常に重要なことです。それを可能にするのが、宿題(ホームワーク)です。宿題に取り組むことで、治療の方向性があっているか、対策が本当に効果をあげているか、明らかになってきます。セッションとセッションの間は、家庭で宿題に取り組み、反復練習し、経験を積むことで自信につながり、また励みになります。出来る、出来ないにかかわらず、とにかく毎日チャレンジし、継続することが患者さんにとっては大切なことです。  宿題は、治療の最後に治療者と患者さんで話し合い、その日のテーマにそった内容で決めます。宿題といっても、決して難しい課題ではありません。セッションの中でわかってきた対策の実践です。治療者は、宿題の内容とその根拠や重要性、また期待される効果などを、患者さんに説明します。患者さんは宿題の意義を理解したうえで取り組みます。治療者は「どの課題であれば、取り組めそうですか?」「この作業をすると、不安に慣れることが実感できます」「難しかったら、次のセッションのとき教えてください。ほかの方法を考えましょう」などといった言葉を患者さんに伝えます。  患者さんは、出された宿題を家庭生活や社会生活のなかで取り組みます。患者さんの希望が反映された内容なので、基本的に難しい内容ではありません。考え方を変えてみる、日記を書いてみる、不安を点数化して毎日シートに記録してみるなどの作業です。場合によっては、セッションで使ったシートを治療者から渡されることもありますが、少し頑張ればできる内容です。こうして取り組んだ宿題は、次回のセッションの導入部で、患者さんから宿題の感想について話します。治療者はそれを聞き、宿題の有効性を判断します。  出された宿題が出来ない場合もあります。しかし、出来ないからといって悪いことではありません。治療者に悪い、などと落ち込む必要はありませんし、結果がどうあれ治療者はあたたかく迎えてくれます。出来なかった理由については、ハードルが高かった場合もありますので、治療者と患者さんがよく話し合って、見直す必要もあります。「宿題が出来なかったことが気になりますか?」「これから2人で考えてみましょう」「原因がわかれば、また一歩前進ですから…」と、治療者から声をかけて、それをその日のセッションのテーマにしてもよいのです。宿題ができたときは、治療者と患者さんで喜び合うようにします。

治療の手順と手法・11…セッション終了後も続けて、再発防止を

 認知行動療法のセッションを始めて、約3カ月間(数カ月間)の治療を終える頃には、患者さんの思考や行動パターンはかなり変化しています。そして、うつ病や不安障害の症状も緩和してきます。またその時だけの改善ではなく、先々の人生をも改善します。あとはセッション終結後に、同じ症状がぶり返してくる再発を防ぐことが大切です。しかし、認知行動療法を理解した患者さんならば、症状が再発しても自分で対処できます。セッションを通じて認知をとらえる基本スキルが身についていますから、再発を防ぐことができます。  症状が起きそうになったら、治療者に相談したり、関連資料を活用したり、またセッションの時に治療者の声を録音させてもらった場合は、その録音を聞き直すことによって、再発を防止します。さらに、日記や本を読んで確認したり、宿題の記入式シートなどを見たりして、治療で学んだスキルを応用しながら柔軟に対応していきます。新しい問題が起きても、自分でその状況をとらえ、改善策を考えられるようになります。

4.症状・障害別の介入方法

 認知行動療法の適応においては、それぞれの問題のメカニズムに合わせて介入法を工夫しています。それは、問題が発生し、維持されているメカニズムは、症状や障害の種類によってその構造が異なっているからです。認知行動療法では、このような問題のメカニズムに適合した介入を工夫することで、これまでの心理療法では対応できなかった重篤な不安障害や精神レベルの障害に対しても、有効に介入することができるようになりました。  認知行動療法が介入するターゲットは、主にうつ病や不安障害で、その他の精神疾患にも有効です。治療の基本的な流れは同じですが、病気ごとの認知にあわせて技法を変えることによって、効果が高くなるようにアプローチを変えています。介入技法で分けると、大きく3つに分けられます。1つは「うつ病」、2つ目は「不安障害」、3つ目は「その他」です。うつ病は、認知面は否定的になりがちなので、その修正が中心となります。行動面は、消極的な傾向があるため、「行動活性化」という手法を用います。不安障害は、認知面では身体感覚や自意識などへの誤解に焦点をしぼって対応します。行動面は、エクスポージャーという手法で、不安に慣れる練習をします。その他の精神疾患である「不眠症」「依存症」「統合失調症」などにおいては、個々の状況にあわせて技法を選びます。「パーソナリティ障害」は時間をかけて治療していきます。  認知のゆがみを修正する方法を「介入方法」といいますが、介入方法としての技法はさまざまな種類があります。病気ごとの最適な技法が、研究者によって開発されており、いまなおより効果を高めるための研究が進められています。実際の治療では、これまでに実証された標準的な型が使われ、「この病気にはこの技法」という具合に治療が行われています。治療者はこの型をもとに、患者さんに技法を提案し、患者さんは自分に出来そうなところからチャレンジしていきます。  技法の提案にあたっては、治療者は患者さんと対話を通じて、患者さんの心のすみずみまで把握し、そのうえで患者さんにぴったりの技法が選択されます。したがって、認知の修正に用いる技法の種類や内容の細部は、患者さん一人ひとりの病気や症状にあわせてアレンジされます。そのために、治療に入る前に病名は診断されますが、対応においては病名にとらわれず、抱えている問題全体をみるようにします。そのうえで介入方法を考えていきます。対応においても、合併した病気が複数ある場合は、技法も複数の組み合わせになる場合もあります。実践して効果のある組み合わせを検証していきます。さらにまた、定義されている病気以外に、患者さん固有の問題があれば、それに対応して細部においてアレンジしていきます。

『うつ病』の認知行動療法

うつ病独特の認知を知る

 うつ病の認知行動療法は、アメリカの心理学者アーロン・ベックの認知療法をもとに発展してきました。ベックの研究では、うつ病患者さんの認知の特徴として、三つの否定的な認知の徴候をあげています。一つは「自己に対する否定的観念」、二つ目に「人生や社会に対する否定的解釈」、三つ目に「将来に対する空虚で絶望的な考え」で、いずれも独特の不合理な信念で、何らかの喪失をめぐって生じてくる悲観的な考え方です。うつ病特有の抑うつ気分や落ち込みなどの情緒は、これら三つの否定的な認知の結果生じるものであるとベックは定義したのです。  抑うつ症状が生じる仕組みについて、ベックは図(『認知モデル』)のように考えました。過去の体験がスキーマとなり、やがてそれが自動思考を生み、抑うつの感情や行動となって現れるというものです。自動思考(automatic thought)とは、状況に対してほとんど意識せずに生じる反射的な思考のことです。「自分は心が弱いからこんな病気にかかるのだ」「これは怠け者がかかる病気だ」「こんな自分はいないほうがましだ」といったような自動思考は、場面によって、さまざまな形をとって現れます。言葉の場合もあれば、イメージや記憶の再生として現れる場面もあり、またネガティブな場面ばかりではなく、時にはポジティブな場面で生じるものもあります。  この反射的に生じる自動思考(イメージまたは記憶)は、患者さん自身の自己概念の影響によるところが大きいです。つまり「自分をどう見て、どう捉えるか」によって自己概念が形成され、多種多様なバリエーションを示します。特に記憶と密接な関係をもち、自己概念を形成するようなエピソードは何度も想起され、また自己を語るエピソードとして他者にも語られやすい。これはまた、将来に対する視点や世界に対する視点も、同様に自分をどう捉えるかによって異なりますが、その場合の自己概念も自然に発生したものではなく、患者さんが今までに経験してきた出来事から学び取って身についたものと考えられます。その自己概念が、患者さんにとって信念のレベルであればスキーマであり、状況に応じて想起されるレベルであれば自動思考ということになります。

認知モデル


ベックの考えたうつ病における認知のゆがみの傾向を分類すると、次のような内容の項目になります。

  • ①恣意的推論:証拠が少ないにもかかわらず、あることを信じ込み、独断的に思いつきで物事を推測し判断します。
  • ②二分割思考:常に白黒はっきりさせておかないと、気がすまない考えです。
  • ③選択的抽出:自分が関心のある事柄にのみ目を向けて、抽象的に結論付けます。
  • ④拡大視・縮小視:自分の関心のあることは大きくとらえ、反対に自分の考えや予測に合わない部分は、ことさらに小さく見ます。
  • ⑤過度な一般化:ごくわずかな事実を取り上げて、決めつけます。
  • ⑥情緒的理由づけ:その時点の自分の感情状態から現実を判断します。
  • ⑦自己関連づけ:悪い出来事は、すべて自分のせいにします。


 抑うつ気分は、そのほとんどが否定的・悲観的な認知から生じています。ベックの挙げた「自分への否定」「社会や人生への否定」「将来への否定」の三つの否定によって、何も信じられなくなり、気分がふさいで、行動することができなくなるのです。また、完璧主義のために必要以上に頑張って、そして少しでも失敗すると「自分はダメ人間だ」と悲観的になるのです。感情面では、失敗したことに喪失感を抱き、抑うつ気分に支配され、やる気が出なくなったり対人関係がこわくなったりします。また、行動面では活動範囲がせばまり、趣味もおろそかになり、完璧を求めるあまり何事も楽しめず、何もしなくなります。うつに特徴的な認知のゆがみをまとめると、別表のようになります。

 

表・【うつに特徴的な認知のゆがみ】

 

1.結論の飛躍 (恣意的推論)理由もなく、悲観的に未来を信じ込んだり、人が悪く思っていると思い込んだりして結論を出す。
2.全か無か思考 (完全主義)物事を、白か黒かのどちらかに極端に分ける考え方。完全に出来なければ満足できず、少しのミスで全否定する。
3.過度の一般化 一つでも良くないことが起きると「何をやっても同じだ」と結論づけたり、また今後も同じことが起きると思ってしまう。
4.心の色眼鏡 (選択的注目)良い面は視野に入らず、悪い面だけを見てしまう。
5.拡大解釈と過小評価 自分の欠点や失敗、関心のあることは拡大してとらえるが、自分の長所や成功などはことさら小さくとらえる。
6.感情的な決めつけ 自分の感情を根拠にして、物事を判断する。
7.自分自身への関連づけ (個人化)良くない出来事があったとき、その理由が様々であるにもかかわらず、全部自分のせいにする。
8.すべき思考 「~しなければならない」と、必要以上に自分にプレッシャーをかける。
9.レッテル貼り ミスしたりうまくできなかったとき、それについて冷静に理由を考えず、「自分はダメな人間だ」などとすぐにレッテルを貼る。
10.マイナス思考 何でもないことや、いい事であっても、悪くすり替えてすべてマイナスに考える。

 

否定的な自動思考に対処する

 うつ病における認知行動療法の目的は、抑うつ気分を軽減し、コントロールできるようになることです。その手法の第一は、うつ病の要因となっている否定的な認知に対して、反論や問答を行い、認知のゆがみに気づくことです。「本当にダメなのか?」と問い直すことで、他の考え方に目を向けさせます。心に根付いた信念は、疑いをもたないとなかなか変わりません。考え方の幅を「ダメ」から「ダメでもないかもしれない」へと広げることです。自動思考をつくりあげている三つの否定的な考え方に対して、「その根拠は何か」「本当に良くない結果になるのか」「他の考えはないのか」と反論することから始めます。考え方を広げることによって、認知のゆがみに気づくことになります。  この自動思考の反論と合わせて重要なのは、行動活性化です。行動活性化とは、心から楽しみたいことを少しずつ行動にして現すことです。例えば「毎朝犬と散歩する」という習慣や、また毎日日記をつけることによって、徐々に物事が楽しめるようになります。義務感をもたずに取り組むことが大切です。この行動活性化は、治療初期から試行的に導入できる技法で、スケジュール表を用いて行うこともできます。  うつ病患者さんの認知システムは、基本的には閉鎖システムになっているため、外部から新たな視点を与えないと、なかなか違った視点で物事を捉えることは困難です。外部からみてそれが不合理であっても、患者さん自身から見ればもっともらしく感じることが多いのです。この不合理な認知を合理的なものに変えていこうとするのが、認知行動療法という技法です。認知行動療法を受けると、思考や行動のパターンが少しずつ変わってきます。その変化に伴って、心と体が少しずつ元気を取り戻してきます。

対象期や適用できる病態

 うつ病に対する認知行動療法の対象期は幅広く、急性期、寛解期、維持療法中、入院中、外来患者さんなどのいずれの場合でも可能です。また、方法論においても、個人療法、集団療法と幅があり、最近ではコンピューターを使った方法も開発されています。認知行動療法の適用の幅の広さは、認知を中心に病態レベルを把握し、患者さんの認知レベルに合わせて対応が可能である点です。患者さんの状況を把握し、いま患者さんの認知がどのような状態にあるかによって、認知行動療法を適応するかは異なってきます。  認知行動療法が適用できる病態とは、治療者がうつ病患者さんに対して、認知の三徴候について疑問を投げかけたとき、その偏りを患者さんが認識し、もしくは病気のせいでそういう認知をしやすくなっているという認識がもてるような病態のときをいいます。患者さんによっては、認知行動療法を非常に侵襲的に捉えたり、逆に病態を悪化させたりすることがあるので、注意深い選択が必要になってきます。なお、認知行動療法の実施においては、薬物療法や呼吸法、リラクゼーション、自律訓練法などと組合わせて行う場合が多いです。 

うつ病の集団認知行動療法

集団認知行動療法の特徴
構造化され、時間制限的な枠組みをもつ集団療法です。

 ひとつのクール(一般的に12回くらいのセッションで構成されている)の開始から終了まで、また各セッションの開始から終了までが構造化されていて、それぞれ目標や内容、進め方、時間配分などを段階的に設定した時間制限的な枠組みをもつ集団療法です。

集団の作用を活用しながら、認知・行動に関する知識や方法を獲得し、それがまた集団に効果的に働くという相乗効果が期待出来ます。

 個人認知行動療法と同じように、患者さんは認知・行動に関する知識や方法を学びますが、集団の場合はその作用を活用しながら知識や方法を獲得していきます。さらに、集団に対して治療的に働くという相乗効果が期待できます。集団療法の治療的因子としては、①希望をもてること、②普遍性、③情報の伝達、④愛他主義、⑤社会適応技術の発達、⑥模倣行動、⑦カタルシス、⑧初期家族関係の修正的繰り返し、⑨実存因子、⑩グループの凝集性、⑪対人学習などが挙げられますが、なかでも大切な点は、患者さん同士が互いに共通する経験を分かち合い、安心感を得る体験ができることです。

目標は、患者さんそれぞれがセルフコントロール力を高め、自身の社会生活上の問題の改善や課題解決をはかることです。

 集団認知行動療法の最終的な目標は、患者さんそれぞれが、自分自身をコントロールできる力を高め、社会生活における問題や課題を改善し解決していくことにあります。

うつ病患者さんへの効果
集団認知行動療法は、個人を対象にした認知行動療法と同程度、もしくはそれ以上の効果があり、また単独でも、薬物療法との併用でも症状改善に有効です。

 うつ病患者さんへの集団認知行動療法の効果に関する研究は、これまで主に欧米を中心に行われてきました。個人療法の方が、集団療法よりもわずかに優れているという指摘もありましたが、最近の比較対照試験の結果から、集団認知行動療法の方は、個人療法と同程度か、それ以上の効果があると言われています。また、集団認知行動療法を単独でおこなっても、薬物療法と併用しても、症状改善には有効であることが指摘されています。さらに集団認知行動療法は、短期間で多くの患者さんを治療できる点から、経済面でも効率がよいと考えられます。日本は欧米と比べると、集団認知行動療法の実践や研究を行っている施設が少ないのが現状ですが、これまで効果に関する報告はいくつかあります。

他者の認知の評価が、自分自身の認知の評価や修正に役立ちます。また、認知の修正作業が、他の患者さんの認知を共有することで、より容易になります。

 うつ病患者さんへの集団認知行動療法の効果に関する研究は、これまで主に欧米を中心に行われてきました。個人療法の方が、集団療法よりもわずかに優れているという指摘もありましたが、最近の比較対照試験の結果から、集団認知行動療法の方は、個人療法と同程度か、それ以上の効果があると言われています。また、集団認知行動療法を単独でおこなっても、薬物療法と併用しても、症状改善には有効であることが指摘されています。さらに集団認知行動療法は、短期間で多くの患者さんを治療できる点から、経済面でも効率がよいと考えられます。日本は欧米と比べると、集団認知行動療法の実践や研究を行っている施設が少ないのが現状ですが、これまで効果に関する報告はいくつかあります。

参加者の共同関係を築く
参加者の主体性やペースを尊重しながら、それぞれの患者さん自身が抱えている問題の改善や課題解決にむけて、共に取り組む共同関係を築くことが大切です。

 集団認知行動療法では、集団の作用が参加者の認知や行動に関する知識や方法に大きく影響するため、いかにグループ全体が治療的な方向に向かえるかが鍵になります。したがって、患者さんと治療者(スタッフ)の1対1の関係性はもちろん、参加者同士、スタッフ同士の関係性が重要になってきます。関係性で大切なことは、患者さん一人ひとりの主体性やペースを尊重しながら、個々の患者さんが抱える問題の改善や課題の解決に向けて、実証的な視点から一緒に取り組む関係、すなわち共同関係を築くことが重要となります。  そこで、スタッフの役割としては、初めは参加者同士がお互いに知らないことが多いため、参加者の紹介や簡単なレクリエーションなどを通して、相互の不安や緊張感をほぐすことが大切です。また、参加者それぞれに、自分が抱えている問題や症状、現在の不安や緊張などの気分を語ってもらい、それを全体で共有するようにします。参加する患者さんの多くは、集団認知行動療法に参加するまでは、「自分の病気を、周囲に理解してもらえない」「誰にも相談できない」といった孤独感をもっています。最初のセッションで、自分と同じような問題を抱えている他の患者さんと出会うことで、安心感をもてるようになります。そこを表現できるように促すことも大切です。さらに、患者さん同士の会話の橋渡しをして活発に話し合える雰囲気づくりをし、その中で病気や治療などに関する情報交換をしやすくすることも大切です。このことは、特に集団認知行動療法の初期のころに必要なことで、その後のセッションに影響を与えます。  また、スタッフはセッションの進行に伴い、参加者の経験をできるだけ引き出して、それを参加者同士が、他者の経験を参考にするように伝えることも重要です。最初は、「自分の経験なんて、たいしたことはない」「こんなことを話しても役には立たない」と、参加者の多くは思っていますが、自分が話した経験を他者が参考にして行動に移すことで、経験を話した患者さんにとっては「自分の経験が役に立った」と感じ、大きな自信につながることがあります。また、参考にした患者さん側からすれば、同じ病気の人から聞いた経験は、専門家が同じ内容を話す場合よりも、説得力があって受け入れやすく、実際の変化にもつながります。このようなつながりが、共同関係を強めていくのです。  さらにまた、参加者が話すときは、話す時間が均等になるように心掛けることが大切です。ある人は、自分の経験ばかりを何十分も話す人もいれば、ある人は、一言二言しか話さない人もいます。こういう状態がいつも続くと、参加者の間に不公平感が生じ、関係性が崩れることがあります。話す時間や回数などは、できるだけ平等になるように気を配ることも必要です。特に、話が長過ぎたり、話す内容がセッションの目的からそれるような場合は、「ちょっとお話をまとめますね」と言って、途中で声をかけ、話の内容をまとめたり、セッション内容を整理し直すことも必要です。  またグループ内に溶け込めない患者さんがいる場合は、個別に面接して、どのような思いや気持ちで参加しているのか聴くことも大切です。もし、他の参加者との関係で、困っているようなことがある場合は、適切に対処することも必要です。構造化されたセッションであるため、基本的に話す内容はある程度決まっていますが、経験をなかなか話せない患者さんに対しては、積極的に働きかけたり、逆に活発に話し合えている場合は、適宜話をまとめて、聞き役になることも必要です。

《協同関係を築くためのポイント》


○ 集団療法参加への不安や緊張をほぐします。
○ 抱えている問題や課題、考えや気持ちを共有します。
○ 参加者同士の会話を活発にします。
○ 参加者がお互いに情報交換をしやすくします。
○ 参加者それぞれの経験を引き出します。
○ 他者の経験を参考にするよう伝えます。
○ 参加者それぞれが均等に話せるようにします。
○ 集団に溶け込んでいない参加者には、個別に対話をします。
○ 参加者の状況に応じて、スタッフの話す内容や量を調整します。

 

自問を促すコミュニケーション

 


□ セッションに入る時、各参加者との間で目標を共有し、終了後は達成状況を確認します。
□ ソクラテス式質問を活用し、各参加者の自問を促します。
□ 参加者間で、認知や行動に関する発言を活発にし、気づきを深められるようにします。
□ 参加者の良い点、できたことに対し肯定的なフィードバックをします。

 

 まず、セッションに入る前に、スタッフは各参加者の集団療法への参加の動機や期待を確認します。「どうして参加したいと思ったのか」「参加して、どうなりたいのか」などについて十分に話を聞き、目標を共有することが重要です。同時に、スタッフ側からも、集団認知行動療法の目的や実際の進め方などについて説明し、相互に理解し合っておくことです。そうすることが、参加の継続にもなり、認知や行動の変化にもつながります。そして、次の治療につなげるためにも、セッションごとに達成状況を確認し、終了後に面接を行うと良いでしょう。  認知行動療法では、面接や会話の手法として、ソクラテス式質問を活用します。一般的には、オープン・クエスチョン(開かれた質問)といって、自由に回答できる質問方式を行います。「今日の調子はいかがですか?」「昨日は何をしていましたか?」などの質問がこれに当たります。これに対し、ソクラテス式質問というのは、古代ギリシャの哲学者・ソクラテスが、人々と対話する際に用いた質問方法で、内容を特定したクエスチョンを行うことで、ある程度限定された回答が得られるというものです。  このソクラテス式質問を活用すると、参加者の自問を促し、自ら答えを導きだせる質問の仕方ですので、これを適宜用いることによって、参加者自身が新しい認知や行動の仕方を見つけ出せるようになります。ソクラテス式質問の一例としては次のようなものがあります。

  • ◇「最近、落ち込んでしまったとき、どんなことがあったのですか?」
  • ◇「そのとき、どんな気分だったのですか?」
  • ◇「○○という気分のとき、どんな考えが頭に浮かびましたか?」
  • ◇「もし、友人が同じようなことで悩んでいたら、どうアドバイスしますか?」
  • ◇「元気だったころ、同じ状況でどんな見方をしましたか?」
  • ◇「今まで、同じような問題のときどう対処してきましたか?」

 

認知の変化を促す方法

 


□ 認知を検討し、バランスのとれた考え方を導き出す方法(認知再構成法)
□ 心理教育
□ 新しい考え方、別の考え方の確信度を高める方法(行動実験表の活用)

 

 集団認知行動療法の中で用いる認知の変化を促す方法として、認知再構成法があります。これは、認知を検討してバランスのとれた考え方を導きだす方法で、個人療法でも集団療法でもよく用いられます。認知再構成法には、ステップ1から3までの手順があり、それに沿ってワークシートを活用しながら進めていきます。ここで大事な点は、考え方の幅を広げて気分を改善することです。考え方の幅を広げるには、参加者同士がいろいろな考えを出し合った方が効果的です。

【認知再構成法の手順】

ステップ1 : 状況とそのときの気分、自動思考の特定
ステップ2 : 自動思考の検討
ステップ3 : バランスのとれた考え方の案出と、気分の変化

 

【認知再構成法で用いるワークシート(自動思考記録表)】

 

① 状況 ② 気分(%) ③ 自動思考 ④ 根拠 ⑤ 反証 ⑥ 適応思考 ⑦ 気分(%)
             
             

 

 次に大切なことは、認知行動療法の考え方や方法について、またうつ病やその治療などについて、参加者がより理解を深めるための心理教育です。方法としては、構造化されたセッションの内容に沿って、テキスト(他にワークシート、市販の自助本、DVD、コンピュータプログラムなど)を使いながら、認知や行動に関する知識や方法を説明したり、また症状のチェックリストを使いながら自分の状態を把握したりする中で行います。  この時の注意点としては、参加者の状況や理解力に応じた説明に心掛けると同時に、参加者の経験をできるだけ引き出し、経験と認知行動療法の考え方とを結びつけながら説明します。また説明の際は、客観的なデータや根拠をきちんと提示すると、いっそう理解が深まります。さらにワークシートを活用して、自分で書いて確かめるという作業も効果的です。

【心理教育のポイント】


◇ 参加者の理解力や状況に応じた説明をします。
◇ 参加者の経験と結びつけながら説明します。
◇ データなど、根拠を提示しながら説明します。
◇ 実際に自分で書き込むなどの作業を行います。

 

 認知再構成法によって導きだした、新しい考え方や別の考え方の確信度を高めるために、行動実験表を使って実生活の中で確認するという方法があります。しかし、いざ実験しようとすると、それを妨げるような出来事が生じ、実験できなくなることがあります。従って、実験を始める前に、実験している様子をイメージし、予測される問題が生じる可能性がある場合は、事前に問題が起こったときの対処法を考えておくと、実験が成功しやすくなります。実験の結果、出来たこと、出来なかったことの両方を記入し、吟味するようにします。そして、今回の実験から学んだことを整理し、次の行動につなげます。

【行動実験表】


① 試してみる考え
② 実際に実験すること
③ 予測される問題
④ 問題が起こったときの対処
⑤ 実験結果
⑥ 結果から得られる考えの確信度
⑦ この実験から学んだこと

 

 集団認知行動療法のプログラムによっては、スキーマの修正までを目指したものもあります。その場合、下向き矢印法を用いることが多くみられます。自動思考の検討を繰り返していくと、その人の自動思考に共通したテーマが見えてきますので、下向き矢印法を用いてスキーマをみつけていきます。共通のテーマ、例えば「能力がない」というテーマがみえてきたら、その自動思考に対して「それは自分にとってどういうことか」「それは他人にとってどういうことか」などの質問を繰り返していく中で明らかにしていきます。

行動の変化を促す方法

 


□ 問題解決策リストを使って問題を整理し、解決策を導き出す。
□ アクションプランを作成して、実際に行動に移すプランを立てる。
□ 活動記録表を作成して、モニタリングする。
□ コミュニケーションチェック表を作成して、コミュニケーションの状態をチェックする。
□ ロールプレイングを活用して、アサーションを学ぶ。

 

 問題の解決においては、認知の変化と同時に行動の変化も重要です。集団認知行動療法の参加者の多くは、自分の問題をなんとか解決したいと思いながら、なかなか行動を起こすことができないでいます。行動を阻んでいる背景には、「こんな大変なこと、自分にはとても無理だ」という自動思考があります。そういときの自動思考を跳ね返す方法として、別の考え方を自分に向かって言ってみることで、行動を促すきっかけとなります。

【行動を阻む自動思考を跳ね返す考え】


◇ 気楽にやろう。
◇ まずは方法を知ろう。
◇ ゆっくり、ひとつずつ取り組もう。
◇ 結果にとらわれず、チャレンジの機会ととらえよう。
◇ すぐに解決しなくても焦らない。何が問題なのかはっきりするだけでもよい。

 

① 問題解決策リスト
問題を整理し、解決策を導きだす方法として、「問題解決策リスト」の作成があります。これは、今自分は何に困っているのか、問題が見えないときに用いると効果的です。このリストの作成においては、ブレインストーミング(枠を定めず、皆で自由に討論し合う中から、独創的なアイディアを導き出す集団思考開発法)が有効です。

【問題解決策リストの活用の仕方】


◇ 不安や抑うつ感に流されて、「今自分が何に困っているのか」という具体的な問題が見えてこない。
◇ 「何もしていない」という感覚が、焦燥感や抑うつ感を強めている。
    ↓
問題解決策リスト
問題の整理、解決策の案出

 

② アクションプラン  現実的で具体的な行動計画
行動したいことがあっても、最初の一歩が踏み出せないときとか、いろいろと考えているがうまく行動を起こせないときに、アクションプランの作成を行います。プランのポイントは、プランを立てた後、実際に行動している場面をイメージします。しかし、行動を起こせなくなる心配事が生じたら、それに対処する方策を事前に考えておくと、行動に移せる可能性が高くなります。

【問題解決策リストの活用の仕方】


◇ 「実行した、しなくては…」と思う課題は決まっているが、最初の一歩が踏み出せない。
◇ いろいろ試行錯誤してはいるが、うまく実行できない。
◇ いろいろ試行錯誤してはいるが、うまく実行できない。
    ↓
アクションプラン
 現実的で具体的な行動計画

 

③ 活動記録表
日々の生活リズムや活動状況を、活動記録表に記入することによって、達成感や快感など、気分と活動の関連を把握でき、行動活性につなげることができます。この活動記録表は、セッションの中で説明し、参加者はそれぞれホームワークとして行うことができます。初めに、モニターする項目を決めておき、1時間ごとに実際に行った活動と、その気分の程度を点数化(0~100)して書き込みます。この際、無理にすべての欄に書き込む必要はなく、出来そうな期間帯から書き込めば良いでしょう。また、活動内容もおおざっぱに、一つか二つ選んで書けば良いでしょう。

【活動記録表の作成例】

時間 ○月○日(月) ○月○日(火) ……… ○月○日(日)
午前6~7時 睡眠 起床(10) ……… 起床(10)
午前7~8時 起床(10) 洗面・朝食(20) ……… 朝食(20)
午後9~10時 入浴(50) 入浴(50) ……… テレビ・入浴
午後10~11時 就寝(20) 就寝(20) ……… 睡眠
※活動内容と、その時の気分(達成感)の程度を点数(0~100)で書き込む。

 

④ コミュニケーションチェック表
多くの参加者は、人とのコミュニケーションにおいて問題や課題を抱えていることがほとんどです。行動の一側面として、コミュニケーションが適切にとれるようになることが重要です。そのためには、コミュニケーションの状態をチェック表などを活用して調べ、その後にアサーションの方法を学べるようにすると効果的です。アサーションの方法を学ぶには、セッションの中でロールプレイングを行うとよいでしょう。

プログラムの実施方法

 集団認知行動療法の基本的な実施方法は、以下の通りです。ただし、グループの目的に合わせてプログラムは工夫できます。

①参加対象

 参加条件は、グループの目的に応じて定めます。

  • (1)目的(職場復帰を目指すうつ病休職者、家族との関係上でストレスをかかえている女性など)
  • (2)診断や症状
  • (3)年齢
  • (4)症状が安定して、基本的に全セッションへの参加が可能であること
  • (5)主治医がグループへの参加を許可していること
②時間・回数

 セッションの時間や回数は、グループの目的や治療形態によって異なりますが、一般には週1回、60分間のセッションを3カ月(約12回のセッション)ぐらい続けて実施しています。週1回、90分間のセッションを8~9回で構成しているグループもありますので、目的に合わせて回数や時間は設定するとよいでしょう。

③場所

 参加人数を考慮し、集団療法ができる広さの場所を用意します。机と椅子の他に、内容を記録するための白板(または黒板)も用意しておくと便利です。机の配置は、人数によっても変わりますが、ロの字やコの字型が適当かと思います。

④スタッフ

 グループの目的によって構成人数も変わりますが、一般に医師・心理士・看護師・精神保健福祉士などがスタフとして加わると良いでしょう。

⑤教材

 プログラムに合わせて、テキストやワークシートを作成し、使用します。

⑥費用

 実施形態(通院集団精神療法、デイケア、自費診療など)によって参加費用は異なります。

⑦各セッションの流れ

 各セッションの開始から終了までの基本的な流れは、導入(目標と内容確認が約7~10分)、講義(テキストを用いた学習が20~30分)、個人ワーク(15~20分)、グループワーク(15~25分)、まとめ(5分ぐらい)の内容で進めていきます。

⑧プログラムの構成

 グループの目的に合わせて、プログラムを組みます。

  • ◇ プレセッション:グループの目的、構造、内容などの説明。
  • ◇ 認知面へのアプローチ:うつの思考パターンの解説、状況・気分・自動思考の関連についての説明。自動思考記録表の説明および作成など。
  • ◇ 行動面へのアプローチ:問題解決策リスト、アクションプランの説明および作成など。
  • ◇ コミュニケーション面へのアプローチ:コミュニケーションのチェック。アサーショントレーニング、ロールプレイングなど。

『パニック障害』の認知行動療法

誤った学習の是正

 パニック障害の患者さんには、特有の認知的特徴が認められます。一般の人には普通に生じている出来事でも、パニック障害の患者さんにとってみると、それは自分を死に至らしめる「危険で最悪の事態である」と受け止めます。よくある例として、電車に乗っているときにパニック発作が起きると、「電車に乗ると必ずパニック発作が起きる」と学習し、本来は関係ない二つの事柄を関連づけてしまいます。その結果、電車に乗るとまた発作が起きるのではないかという予期不安が生じ、電車に乗るのを避けるという広場恐怖へと発展していきます。また、パニック発作を繰り返す中で、実際には問題はないのに危険だなと、誤って学習することもあります。  こうした誤った学習の結果、「また起きるかもしれない」と考えただけで、心臓がドキドキしたり、呼吸がいつもより速くなったりすると、「自分は、このまま死んでしまうかもしれない」と、悪い方にばかり考えてしまいます。さらに、薬を飲んでも効かないと「一生治らないのでは」と極端に考えたり、根拠もないのに物事を断定したり、ささいな出来事を深刻にとらえるようになります。この誤った学習が、ある身体的感覚を破局的に受け止め、さらに、パニック発作が起きるかもしれないという可能性に対する知覚が不安感を生じさせ、その不安そのものが危険であるという信念となって、回避行動を起こすというメカニズムが分かっています。その結果、エクスポージャー(暴露療法)によって不安を消去し、適切な接近行動がとれるようにすると同時に、患者さんの認知の修正をねらうことができる認知行動療法が、パニック障害の治療法として用いられるようになりました。

身体感覚への誤解をとく

 パニック障害の患者さんは、息切れ、動機、発汗、めまいなどのような、ちょっとした体の変化に対して、悪い方向に拡大解釈する傾向があります。誰でも不安になれば感じる正常な身体感覚でも、患者さんにしてみればそれが心臓発作や脳卒中のような一大事の病気と考えてパニックになります。「このまま死ぬのではないか」と強い不安に襲われます。したがって、身体症状をたえず気にし、小さな変化に過敏になります。発作が起きるのがこわくなり、外出や運動をひかえるなどの回避行動をとるようになります。また回避することが、身体症状を抑える方法だと考えたりします。身体の変化を何度も繰り返すパニック発作を起こすと、さらに不安が強まって悪循環し、ついには死の恐怖に襲われるのです。そして強い緊急性や危険性を感じるようになるのです。  パニック障害の背景には、身体感覚への誤解があると考えると、その誤解を特定して客観的に分析し、症状に危険性がないとわかれば不安は和らぐはずです。そこで認知行動療法では、その認知をとらえて、治療技法でもって介入することにより、誤解をといて危険がないことを実感できるようになります。治療を通して、息切れやめまいは誰にでもあることだと認識しなおすと、パニック発作に襲われることは減ってきます。パニック障害に対する認知行動療法の評価点としては、①治療期間が比較的短期である、②治癒率が高い、③再発率が他の治療法に比べて低い、④患者さんにとって問題の理解と治療法の理解が得られやすい、などが挙げられています。

【パニック発作の症状】


(1) 心悸亢進、心臓がドキドキする、または心拍数が増加する。
(2) 発汗。
(3) 身震い、手足の震え。
(4) 呼吸が速くなる、息苦しい。
(5) 息が詰まる。
(6) 胸の痛み、または不快感。
(7) 吐き気、腹部のいやな感じ。
(8) めまい、不安定感、頭が軽くなる、ふらつき。
(9) 非現実感、自分が自分でない感じ。
(10) 常軌を逸してしまう、狂ってしまうのではないかと感じる。
(11) 死ぬのではないかと恐れる。
(12) 知覚異常(しびれ感、うずき感)。
(13) 寒気、またはほてり。

 

具体的なプログラム内容の狙い

 パニック障害に対する認知行動療法のねらいは、患者さんを取り巻く生活状況と身体感覚が、パニック発作とどのように関連しているのかを学び、発作をコントロールすることができるように援助することです。そのための具体的なプログラム内容をまとめると、次のような点になります。

 

  • ① 患者さんが抱えている問題を、客観的に理解することができるように、問題点を整理し、自己理解をはかる。
  • ② 症状、とりわけ予期不安と回避行動がどのように獲得され、維持されているかを学ぶ。
  • ③ 適切な振る舞いをどのようにすると身につけることが出来るかを学ぶ。つまり、回避している場面や状況に身を曝す(エクスポージャー)ことによって不安を消去するとともに、そのような場面に安全に対処することを学ぶ。
  • ④ リラクゼーションや拮抗動作法など、不安に対処することができる具体的な対処方法を学ぶ。
  • ⑤ 患者さん特有の認知の修正をはかる。つまり、多くの普通の人に起きている出来事を「危険で最悪の事態である」という誤った考え方や、不安を生じさせる原因となっている「考え方のスタイル」を明らかにし、修正することができるように援助する。
  • ⑥ しばしばパニック発作の引き金となっている「過呼吸状態」を予防する練習をする。また、「死にそうだ」という危険信号となる考え方を、「ちょっと過呼吸になっているだけで、対処できる」という適切な考え方に置き換えることができるように練習をする。
  • ⑦ 将来起こりうる問題に対しても、適切な対処が自分で出来るように自身の向上をはかり、セルフコントロールをめざす。

 認知行動療法の実際にあたっては、まず心理教育が行われます。パニック発作や予期不安、広場恐怖が起こるしくみを理解することから始めます。また、認知行動療法の意義についても、正しい理解が得られるような説明が行われます。次に患者さんは、毎日の自分の状態を観察し、パニック発作の起こる頻度や症状などを記録していきます。これによって、どんな刺激があるときに発作が起こるのか、自分は何を回避しているのか、客観的に見ることができます。さらに、物事に過敏に反応しないように、呼吸法や自律訓練法などの訓練を受けたりします。その後、自分の身体感覚に対する認知に誤りがないか、治療者とよく検討して認知を再構築します。そして最後に、実際に恐れている状況に曝されることによって、誤った学習を修正していきます。

《認知行動療法の一般的な手順》

 

  • ① 心理教育を受ける。
  • ② パニック症状を観察して記録する。
  • ③ 呼吸法や自律訓練法など、リラクゼーション法の訓練を受ける。
  • ④ 身体的感覚の誤った解釈を是正し、認知を再構築する。
  • ⑤ 恐れいている状況に曝されることによって、恐怖感や不安感を取り除く。


【パニック障害に対する認知行動療法の構成要素】


●患者さんの自己理解と疾患そのものの客観的理解を促進し、治療への動機づけをはかるための心理教育。 【不安に関する認知行動的心理教育】
① パニック発作および不安を感じたときの一般的な変化(不安の継時的変化)を理解する。
② 不安を感じたとき、どのような変化が起きているかを理解する。(不安の3要素である「心理的反応」「身体的反応」「行動的反応」について)
③ 回避行動の獲得と維持(安全確保行動)の仕組みを理解する。
④ 予期不安の発生の仕組みを理解する。 【予期不安の低減と回避行動の消去に関する認知行動的心理教育】
① 不安階層表の作成を通して不安の構造を理解する。
② エクスポージャーの原理を理解する。
③ 認知を修正することの意義について理解する。
④ 逆制止法の原理を理解する。
⑤ 新しい対処行動を獲得する必要性について理解する。 ●不安を自己管理し、適応した対処行動の獲得をねらった治療コンポーネント。
【身体反応のコントロール法の練習】
① リラクゼーション法の導入。
② 拮抗動作法の導入。 【行動と認知の修正(不安管理訓練と対処行動の獲得)】
① 問題点の整理。
② 認知的再体制化法。
③ 破局的な考え方の修正。
④ 自己教示法。
⑤ 思考中断法。
⑥ 選択的注意の振り分け方の練習。
⑦ 自己効力感の増大。 ●予期不安の低減と広場恐怖(回避行動)の消去の核となる治療コンポーネント。
【エクスポージャー法の導入と回避行動の消去】
① 段階的エクスポージャー。
② フラッディング法。
③ ホームワーク・エクスポージャー。
④ 自己強化法。

 

段階的にクリアしていくエクスポージャー

 エクスポージャー(exposure)とは、曝露するという意味です。あえて恐れている状況に段階的に身を曝すことによって、その刺激に慣れさせていき、恐怖心や不安感を取り除いていく治療法のことで、「曝露療法」ともいわれます。エクスポージャーの有効性については、治療を受けたパニック障害の患者さんの89%において発作が消失したという報告もあり、薬物療法と同等の効果があることがわかっています。  エクスポージャー法には、「想像エクスポージャー」と「現実エクスポージャー」の2種類があります。想像エクスポージャーは、系統的脱感作法ともいい、不安を感じる場面を思い浮かべて、それを言葉で表現し、そのイメージに慣れる訓練です。録音して繰り返し聞くようにしますが、一種のイメージトレーニングともいえます。一方、現実エクスポージャーは実際にその場所に行く方法です。人前に出たり、電車に乗ったりして、不安な場面に物理的に身を曝し、その場に慣れることによって不安や恐怖を軽減していきます。また、アレンジした方法として、「内受容性エクスポージャー」があります。これは、深呼吸や足踏みジョギングなどの運動をして、意図的に動悸や息切れ、めまいを起こす「疑似パニック発作」を誘発させ、その感覚に慣れていく方法です。  エクスポージャー法では、不安場面にあえて直面したとき、不安や恐怖は一時的に強くなりますが、最終的には安全な状態に落ち着いてきます。不安な場面に慣れることによって、同じ場面に直面しても不安や恐怖感が軽減し、少しずつ自信がついてきます。エクスポージャーは、いきなり行うと苦痛が強すぎますので、治療計画にもとづいて慎重に進める必要があります。そのためには、まず「不安階層表」を作成してもらいます。患者さんに不安に感じる場所や状況をすべてリストアップしてもらい、不安の程度の強いものから弱いものへと順に並び替えてもらいます。その際、最も強い不安を感じる場面を100点とし、不安を感じない状態を0点として、書き出したすべての場面に対して評点(この点数を自覚的障害単位:SUDという)します。  実施においては、一般的に不安の少ない場面からトライしていきます。何日か行い、不安の弱い場面に慣れ不安がなくなってきたら、次のステップにチャレンジします。不安な状況であっても、回避行動をとらなくなったら少し段階を上げていき、少し上の強い不安に立ち向かいます。こうして、一つずつ段階を上げていき、最後はもっとも恐れている場面に向き合っても、たいていの不安や恐怖にも対処できるようになっていきます。  一例を挙げれば、電車に乗るのが不安で恐怖を感じる場合、初めは不安の弱い「プラットホームに立ってみる」、それが慣れてきたら「各駅電車に一駅乗ってみる」、不安を感じなくなったら次は「二駅、三駅と距離や時間をのばして乗ってみる」、各駅電車に乗っても不安がなくなったら次は「急行電車で一区間乗ってみる」…、こうして段階的に進めていきます。エクスポージャーでは、一度不安が高まったり発作が起きたりした後、その状態が一定のところまで軽減するまでに、最低1時間から最大2時間を要します。この全過程を体験する必要がありますので、練習のためには最低でも1時間は乗車しなければなりません。つまりエクスポージャーでは、発作が起こる体験をしなければ、本当の効果が出ることにはならないことを意味しています。  いずれにしても、決して焦らないことです。一つひとつ着実にクリアしていくことが重要で、いきなり高い目標に飛びつくと、逆効果となって危険です。SUDの高い場面に向き合うときは、家族や配偶者、パートナー、友人などの支えが力になることがあります。

【不安階層表の一例】

不安を感じる場所や状況 SUD
・飛行機に乗る。 100
・高速道路での運転。 90
・1人で電車に乗って遠出する。 90
・1人で特急電車に乗る。 80
・1人で映画を観る。 70
・地下鉄電車に乗る。 60
・1人で各駅電車に乗る。 50
・ラッシュ時の満員電車に乗る。 50
・車の運転中、渋滞に巻き込まれる。 40
・高層ビルのエレベーターに乗る。 30
・理髪店(美容院)に行く。 20
・歯医者に行く。 20
・プラットホームに立つ。 10
・自宅で夕食後くつろいでいる。 0

 

 エクスポージャーは、患者さんにとっては恐怖を感じる状況に立ち向かわなければならないので、非常に強い苦痛を伴います。無理をして高い目標をかかげ、不安や恐怖に立ち向かうと、逆に不安を増大させることになり、ますます自信を失って症状が悪化してしまうことがあります。医師や治療者の指導のもとに、一歩ずつ確実にステップアップしていくことが大切です。体調の悪い日などは、認知行動療法を休むことも必要です。強行すると、発作が起きやすく、せっかく積み重ねてきた成功体験が水の泡になってしまいます。あせらず、発作が起こらないことを繰り返し確認しながら進めていきます。また、ひとつの目標をクリアすることができたときは、「不安を克服できた」という達成感と自信がわいてきます。この感覚が、エクスポージャーでは非常に大切です。本来エクスポージャーはストレスのかかる治療法ですので、目標をクリアするごとに自分に“ご褒美”をあげるのも良いでしょう。途中で止めてしまったら、元の木阿弥です。自分を励ましながら、喜びをかみしめながら進めることです。  この段階的に刺激に慣れていくエクスポージャーに対して、フラッディングという手法があります。これは、集中的に刺激にさらす方法で、かなり荒治療になります。耐えられない場合は、逆効果になりますので注意が必要です。

《注意点》

◇ 無理をしないで、一段ずつ確実にクリアしていく。 ◇ 体調の悪い日は、治療を休む。 ◇ 発作が起こらなかったことを、その都度確認しながら進める。

《副作用》

◇ 最初、一時的に不安が増大することがある。 ◇ 患者さんが治療者に依存してしまうことがある。 ◇ 刺激に耐えられず、ドロップアウトした場合は症状がさらに悪化する。

補助的方法・1〈自律訓練法〉

 自律訓練法は、ドイツの精神科医シュルツが考案したリラックス法で、6つの公式と呼ばれる暗示をかけ、自分でリラックス状態を作り出すものです。この訓練法は、比較的短期間で習得可能なうえ、リラックス効果が高く、心身の安定に役立つことから、精神疾患の治療に用いられるほか、スポーツ選手がメンタルトレーニングに活用したり、会社が社員のメンタルヘルスの一環として取り入れたりするなど、さまざまな現場で広く利用されています。パニック障害では、薬物療法や認知行動療法と併用することで、予期不安や広場恐怖の解消に大きな効果をあげています。  自律訓練法を行うとアルファー(α)波が増え、皮膚温が上昇します。血圧が安定して血行がよくなり、心身の緊張がほぐれます。胃腸の働きも正常に保ちます。

《自律訓練法の効果》
  • ① 精神が安定します。
  • ② 血行が増進されます。
  • ③ 抗ストレス効果があります。
  • ④ 集中力がアップします。
  • ⑤ 疲労が回復します。
  • ⑥ イライラが解消します。
  • ⑦ 消化器・循環器・呼吸器のトラブルを緩和します。
  • ⑧ 自己管理能力がアップします。

 自律訓練法は、初めは集中するのが難しく、すぐに手足の重さや温かさを感じられないかもしれません。うまくいかないからといって諦めないで、少しずつ繰り返し練習していけば、コツがわかってきます。それまで少し時間がかかります。最初始めるときは、専門家の指導を受けるのが望ましいです。場所も初めは集中できるように、静かな場所で行うと良いでしょう。慣れてきたら、いつでもどこでも出来るように、いろいろな場所で訓練します。  では、実際の自律訓練法はどのような手順で行うのでしょうか。まず、始める前に衣類やベルトをゆるめ、時計やアクセサリーなど身につけているものははずして、仰向けに寝るか椅子に座って行います。仰向けに寝る場合は、全身の力を抜いて両足を軽く開き、手や腕は自然に伸ばします。座った場合は、深く腰を掛け、足は床につけて軽く開きます。手は太ももの上に軽く置きます。軽く目を閉じ、ゆっくり複式呼吸をしながら、「気持ちがとても落ち着いている」と暗示をかけます。  次に6つの公式を、第一公式から順に行っていきます。第一公式は重感公式といって「両手両足が重たい」という暗示ですので、利き腕が右手だったら「右手が重たい」「左手が重たい」「右足が重たい」「左足が重たい」という順番に暗示をかけていきます。第一がマスターできたら、次に第二公式の温感公式です。同様に、「右手が温かい」「左手が温かい」「右足が温かい」「左足が温かい」と、ゆっくり心の中で暗示をかけていきます。こうして、第三、第四、第五、第六公式まで行います。自律訓練法では六つの公式の中でも、特に大切なのは「重感公式」と「温感公式」の二つで、この二つだけでもマスターしておけば、十分に効果を上げることができます。1回の訓練は約5分程度で、1日2~3回を毎日行います。

《自律訓練法の6つの公式》
  • ① 第1公式:重感公式「両手両足が重たい」
  • ② 第2公式:温感公式「両手両足が温かい」
  • ③ 第3公式:心臓調整公式「心臓が規則正しく打っている」
  • ④ 第4公式:呼吸調整公式「楽に呼吸している」
  • ⑤ 第5公式:腹部温感公式「お腹が温かい」
  • ⑥ 第6公式:額部冷感公式「額が気持ちよく涼しい」

 注意点としては、自己暗示をかけたとき、意識的に感じようとしないことです。たとえば、「右手が重い」と暗示をかけたとき、意識して重たくしようとしないことです。あくまでも、自然に重たく感じられるようになるのを待ちます。また、食後すぐに行うことや空腹時は避けるようにします。訓練が終わった後は、リラックスしてボーッとなっている状態から心身を目覚めさせる必要がありますので、消去動作を必ずおこないます。消去動作をしないで、いきなり起き上がったりすると、ふらついたり転んだりすることがあって危険です。普段の活動レベルに戻すために、消去動作は必要です。

《消去動作の方法》
  • ① 両手を、5~6回握ったり開いたりする。
  • ② 両ひじを、2~3回上方に曲げたり伸ばしたりする。
  • ③ 大きく背伸びをして、ゆっくり目を開ける。

補助的方法・2〈リラクゼーション・トレーニング〉

 パニック障害のある人は、たいていの場合、緊張状態に置かれると発作を起こしやすい傾向にあります。普段から体が緊張していると、ちょっとした不安や恐怖でも、過呼吸から発作につながっていきます。したがって、緊張状態に陥らずに心身ともにリラックスすることができれば、パニック障害を改善することができることになり、この考え方に基づいた治療法が、リラクゼーション・トレーニングといわれるものです。すなわち、リラクゼーション・トレーニングとは、体をリラックスさせることで、不安やパニック発作の軽減を図ることができる行動療法の補助的方法です。繰り返し練習することで、よりリラックス出来るようになり、突発的な不安やパニック発作に備えます。リラクゼーション・トレーニング単独の治療反応率は56%との報告もあります。  では、自分の体は緊張していないだろうか? 緊張しているとすれば、体のどの部位あたりに緊張を感じるのか、知る必要があります。別表を使って、緊張している部位はどこか、どれくらい緊張しているかセルフチェックします。チェック期間は最低12日間行い、毎日同じ時間帯に記入しますが、出来れば夕食前に行うのがベストです。緊張の度合いは、0(なし)、1(低い)、2(中ぐらい)、3(高い)の数字で記入します。

【筋緊張の評価】

部位 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 7日目 8日目 9日目 10日目 11日目 12日目
目のまわり                        
あご                        
首の後ろ                        
首の脇                        
頭のてっぺん                        
                       
背中                        
                       
                       
                       
足の付け根                        
お尻                        
太もも                        
                       
ふくらはぎ                        
                       
上腕                        
前腕                        
                       

 

《漸進的筋リラクゼーションと等尺性リラクゼーション》

 リラクゼーションの方法には、「漸進的筋リラクゼーション」と「等尺性リラクゼーション」の二つがあります。この二つのリラクゼーションは、それぞれ使う場所や使う目的が違います。漸進的筋リラクゼーションは、恐怖の対象にさらされる前に使う方法であるのに対し、等尺性リラクゼーションは恐怖の対象に直面している最中に用いる方法です。また、漸進的筋リラクゼーションはリラックスしていない状態からリラックスを得るための方法で、等尺性リラクゼーションはリラックスしている状態を維持するための方法です。   漸進的筋リラクゼーション練習は、筋肉を順番にリラックスさせる方法です。額→目のまわり→あご→首→肩→背中→上腕→下腕→手→胸→腹→腰→太もも→尻→すね→足先、といった順番に、筋肉を緊張させたり緩めたり(弛緩)させることを繰り返すトレーニングです。   練習方法は、椅子に座って行います。できるだけ頭と肩をもたれさせてくれる座り心地のよい椅子を選びます。適当な椅子がない場合は、背中にクッションをあてて、そこにもたれたりします。仰向けになると眠ってしまうことがあり、眠ると効果がないので、仰向けになって練習はしないほうがよいです。練習の効果を長持ちさせるためには、毎日欠かさず練習する必要があります。  等尺性リラクゼーション練習は、自分が恐怖を感じた時に行うトレーニングです。等尺性という意味は、筋肉の長さが同じままということで、筋肉を緊張させるときも筋肉の長さは同じままなので、他人から見ると一見なにもしていないように見えます。等尺性リラクゼーションの練習で間違いやすいのは、緊張を入れるのが急ぎすぎたり、強すぎたりすることです。優しくゆったりした練習が等尺性リラクゼーションの特徴です。

練習の方法
足の筋肉をリラックスさせる練習 

 

  • ・小さく息を吸い込み、7秒間息を止めます。
  • ・息を止めている間は、くるぶしのところで足を交差させておき、下になっている足は、上になっている足を持ち上げるようにし、上の方の足は下の方の足を押さえつけるようにし、ゆっくりと両足の筋肉の緊張を高めます。あるいは、息を止めている間に、くるぶしで両足をからめさせておきます。そして2本の足を反対方向に横に引っ張り合うようにして、ゆっくりと両足の筋肉の緊張を高めます。                       
  • ・7秒たったら、ゆっくりと息を吐きながら「リラックスしよう」と自分に言い聞かせます。そして、ゆっくりと筋肉の緊張をゆるめていきます。
  • ・緊張をゆるめたら目を閉じ、そのあと1分間は、息を吐くたびに「リラックスしよう」とつぶやきながら、緊張をゆるめた状態をそのまま続けておきます。
腕の筋肉をリラックスさせる練習

 

  • ・小さく息を吸い込み、7秒間息を止めます。
  • ・息を止めている間は、両手を向かい合わせにして重ね、膝の上におきます。そして、下の方の手は上の方の手を持ち上げるようにし、上の方の手は下の方の手を抑えるようにし、ゆっくりと両手や両腕の筋肉の緊張を高めます。あるいは、息を止めながら、座ったまま椅子の下側に手を差し入れ、椅子を持ち上げるようにします。または、椅子の後ろ側で手を組んで、両手を引っ張り合いながら、椅子の背にその手を押し当てるようにします。あるいはまた、息を止めながら、座ったまま首の後ろで両手を組み合わせます。そして、頭を後ろに押し付けながら、両手を引っ張り合います。
  • ・7秒たったら、ゆっくりと息を吐きながら「リラックスしよう」と自分に言い聞かせます。そして、ゆっくりと筋肉の緊張をゆるめていきます。
  • ・緊張をゆるめたら目を閉じ、そのあと1分間は、息を吐くたびに「リラックスしよう」とつぶやきながら、緊張をゆるめた状態をそのまま続けておきます。
以下同じ手順で、部位を変えて行う練習

 

  • 1. 首をすくめて肩を上げながら筋肉の緊張を高め、肩を落としながら腕の筋肉の緊張をゆるめる。
  • 2. 両方のこぶしをぐっと握りしめながら筋肉の緊張を高め、こぶしをひらいて、手のひらを上に向けて両手を膝の上におき、筋肉の緊張をゆるめる。
  • 3. 足首を体側にぐっと曲げて筋肉の緊張を高め、足の甲を伸ばして筋肉の緊張をゆるめる。
  • 4. 背筋をぐっと反らせて筋肉の緊張を高め、背中を丸めて脱力させ筋肉の緊張をゆるめる。
  • 5. 両足の関節を、本来曲がる方とは逆に目いっぱい伸ばし筋肉の緊張を高め、足の関節をゆるめて筋肉の緊張をほぐす。
  • 6. 体の後ろで手を組み合わせ、組んだ手を両方に引っ張り合って筋肉の緊張を高め、手の緊張をゆるめる。

 筋肉を緊張させて、緩めるバリエーションはいろいろ考えられますので、工夫して辛抱強く練習することが大切です。

《リラクゼーションの上達を速めるためのポイント》

 

  • ① 何回も、何回も繰り返して練習する。
  • ② 緊張が高まっているなと感じたら、いつでもすぐにリラクゼーションの練習をする。
  • ③ 緊張に対しては、リラクゼーションで反応するという習慣をつける。
  • ④ 練習を重ねれば、人が見て分かるような運動をしなくても、手足の筋肉の緊張を高めたり緩めたりすることができる。また人前で気づかれないように練習することは、緊張をゆっくり高め、ゆっくり緩めるコツをつかむのに適している。
  • ⑤ 他人の前で、7秒間緊張を続けることが難しい場合は、少し短い時間でもよい。ただし、その場で何度か同じ練習を繰り返したほうが効果がある。
  • ⑥ 苦しくなったり疲れたりするほど緊張させてはいけない。また、7秒以上緊張を続けるのもよくありません。
  • ⑦ 職場での仕事中や、列をつくって並んでいるときなど、さまざまな場面で緊張が高まってきたときの練習方法をアレンジしておくことも必要。
  • ⑧ 何週間か練習を続ければ、緊張が減って、緊張しにくくなる。自分で自分をコントロールできる感じが得られ、自信につながる。

 

補助的方法・3〈呼吸訓練〉

 パニック障害の患者さんに共通する特徴のひとつとして、呼吸が浅く、不規則であるという点です。発作の際、ほとんどの場合で息が切れる、うまく呼吸ができない、という症状がみられることから、パニック発作と呼吸は深く関係していることは確かです。そこで、呼吸を強化し、改善する方法として考え出されたのが呼吸訓練で、行動療法の補助的方法として用いられています。呼吸が浅く、不規則な呼吸をしていると、体内の酸素と二酸化炭素のバランスが崩れやすくなり、パニック発作の身体症状がますます現れやすくなります。したがって、呼吸を改善することは、パニック発作の治療においては、非常に有効な方法となります。  まず、自分が呼吸を1分間に何回するか測ってみます。息を吸って吐き終わるまでを1回とし、時計を見ながら1分間に、何回呼吸をするかを数えます。意識的に呼吸を速くしたり、遅くしたりしてはいけません。治療プログラムの一環として、1分間の呼吸を1日に何回かおこなって記録していきます。

【呼吸記録表】

  午前8時 正午 午後6時 午後10時
日付 練習前 練習後 練習前 練習後 練習前 練習後 練習前 練習後
                 
                 
                 

 

《呼吸訓練の技法》

 これは、不安やパニックの最初の徴候が現れたら、まず最初に用いる技法です。過呼吸かなと思ったら、すぐに次の方法を実践してみてください。

  • ○ やりかけていることをやめて、腰をおろすか、何かにもたれかかります。
  • ○ 息を止めて、10数えます。(このとき深く息を吸わないこと)
  • ○ 10まで数えたら、息を吐きます。そして静かに、ゆっくりと、「リラックスしよう」「落ち着こう」と自分に言い聞かせます。鼻を通して息をすることを忘れないことです。
  • ○ 6秒に1回の速さで呼吸をします。つまり3秒間息を吐いて、3秒間息を吸います。これで、1分間に10回呼吸をすることになります。息を吐くたびに、「リラックスしよう」「落ち着いて」と自分に言い聞かせます。
  • ○ 10回呼吸するたびに(1分ごとに)、10秒間息を止めて、それからまた6秒に1回の呼吸を続けます。
  • ○ 過呼吸の症状がすべて消失するまで、この呼吸を続けます。

『社交不安障害』の認知行動療法

回避行動の改善が目的

 社交不安障害の人にみられる典型的な行動パターンは、「回避行動」です。回避行動の背景には、その人なりの考え方があります。社交不安障害で悩む人は、その考え方(認知)自体に、偏りがあったり、強い思い込みがあったりする場合が多いです。この思い込み、つまり認知の偏りこそが、回避行動を生み出すもとになっていることが、これまでの研究で明らかになっています。社交不安障害の人の場合、思い込み(認知)がどのようにして行動パターンを生み出していくか、一つの例として以下のようなものがあります。


① 「自分はうまくいかないに決まっている」(思い込み)
   ↓ 
② 「自分はうまくいくわけがないから、挑戦しない」(行動パターン)

 


① 「自分の恥ずかしい振る舞いを見て、他人は自分を見てバカだと思うだろう」(思い込み)
   ↓ 
② 「バカにされたくないから、人前に立つことは避けよう」(行動パターン)

 

不安に対処する方法を学ぶ

 社交不安障害の治療として注目されている認知行動療法は、問題行動を生むもとになっている思い込みを修正し、そのうえで新たな行動パターンを獲得することを目的に進められる治療法です。誰でも、不安に苦しむ自分を変えたいと思っています。しかし、誰かが変えてくれる訳ではありません。自分を変えられるのは、自分自身しかいないことをまず自覚することが大切です。どんな薬であっても、どんな医師であっても、どんなカウンセラーであっても、その人がどう行動し、どう感じるかまではコントロールできないのです。認知行動療法の技法は、自分を変えたいと思う人にとっては、強い見方になってくれますので、焦らず一つひとつステップを踏んで学んでいく必要があります。初めは、専門的な指導者のもとで治療法を学び、その考え方や進め方を習得すれば、あとは自分なりに生活の中で実践していくことは可能です。

《社交不安に立ち向かう4つの方法》

 

① 認知修正法(認知再構成法)
社交不安障害みられる回避の行動を生み出している「考え方のクセ」、行動の前提となる「認知の偏りや思い込み」などに気づき、その誤った認知を修正する方法です。(詳しくは後述)

② エクスポージャー(曝露療法)
あえて苦手な状況に身を曝すことによって、不安や恐怖に慣れていくための方法です。(詳しくは後述)

③ ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)
人間関係を円滑なものにするための社交術を学ぶことによって、対人不安の軽減をはかる方法です。(詳しくは後述)

④ リラクゼーション(筋弛緩法、呼吸法)
呼吸法や筋肉を弛緩させたりすることによって、心のリラックスをはかると共に、不安への対応力を高めるために、生活習慣全体を見直すことも行います。(詳しくは後述)

《認知行動療法を始める前の手順》

 

1. 心理教育
治療を始めるに当たって、まず治療者から、認知行動療法とはどのようなものか、またどのような効果が得られるのか、などについての説明があります。これを理解しておくことで、治療にスムーズに入りやすくなります。

2. 初期評価(アセスメント)
どのような状況の時に、どの程度の不安を感じるのか、不安の程度をはかる検査を初めに行います。

3. 治療計画
治療者と患者が話し合ったうえで、治療の目標を定め、症状に合った治療計画を立てます。

4. 治療の実施
治療の実施にあたっては、期間や回数、時間についてきめますが、医療機関によってさまざまです。

《大事なホームワークとセルフモニタリング》

 

ホームワーク(宿題)
 治療者のもとで学んだ技法を、宿題として出されることがあります。認知行動療法の考え方や行動を、自分一人で、実生活の中で生かすことによって自信がつき、治療効果を上げることができます。  

セルフモニタリング(自己観察)
 ホームワークを行ったときの自分の状態や結果、また苦手な場面にあって感じたことなどをシート(記録用紙)に記録していきます。セルフモニタリングは、治療による自分の変化を確認する作業であり、認知行動療法を進めていくうえで基本となるデータになります。

認知修正法

一度、立ち止まって考える

 社交不安障害に悩む人には、きまって「考え方のクセ」があります。思い込みともいえるそのクセが、不安な感情を呼び起こし、回避行動を生み出しているのです。ある場面に対して不安な感情が起こるのは、その場面や出来事に原因があるのではなくて、その人がその場面や出来事をどのように受け止めるか、つまりその人の認知の仕方に原因があると考えられます。  例えば、「人前で上がったら、人はみな私のことを変な人だと思うだろう」と考えたとします。そのように考える背景には、「私は、人前でうまくやらなくてはいけない」「人に好かれなければ、私には価値がない」という思い込みがあります。そう考えただけで、緊張し不安になります。「その不安な様子を相手に見せたら、私は嫌われてしまう」と思うと、さらに緊張と不安が高まります。そして、顔が赤面し、口元がこわばり、額から汗が出てくると、緊張と不安と動揺がいっそう高められて、ついには「私は、変な人だと思われている」と考え、「私はダメな人間だ」と決めつけてしまいます。  この思考パターンは、本当に正しいのでしょうか?一度立ち止まって考えてみる必要があります。「もしかしたら、みんなは私にそれほど関心をもっていないのではないか」「他の人でも緊張することがあるので、少しぐらい上がっても変な人だとは思わないかもしれない」と考えることができれば、クセになっていた誤りに気づくことができるかもしれません。つまり、他人からみた自分へのイメージと、自分が考えている自分へのイメージに、大きなズレがあるということです。このズレが、認知の誤りとなって、考え方のクセになったり、思い込みになったりしているのです。

社交不安障害の人に多い思考パターン

 自分のいつもの考え方を、一度検証してみる必要があります。そこには、独特な考え方のパターンがあることに気づきます。社交不安障害の人に多い思考のパターンをまとめると、以下のような項目にまとめられます。

① 全か無かの考え(オール・オア・ナッシング)
物事を両極端に考えて、全か無か、白か黒か、すべてOKかすべてダメかをつけたがるクセがあります。ちょっとでもミスしたり、良くないことがあると、「すべて失敗だ」と考え悲観的になります。

② 長所の過小評価
うまくいったことでも、「こんなことはたいしたことではない」と過小評価します。

③ 短所の過大評価
自分が思い通りにならなかったことや、他人のちょっとした反応を過大に評価し、思い詰めてしまう傾向です。

④ 「~すべき」思考
「自分はこうすべきだった」と自分の行動を自分で制限し、少しでもその基準から外れると「自分は価値のない人間だ」と自分を責めてしまいます。いつも完璧を求める思考です。

⑤ レッテル貼り
「自分はダメな人間だ」「私は嫌われ者だ」と、すぐに自分で自分に否定的なラベルを貼り、それを繰り返しイメージすることで、さらに悲しい気持ちになっていきます。

⑥ マイナス化思考
やってみないとわからない場合でも、「うまくいくわけがない」とマイナスに考えます。また、うまくいったことや自分の長所があるのに、失敗したことや自分の欠点、また苦手なことばかりを考え、否定的にとらえます。

⑦ 結論の飛躍
たとえば「私が話している時に、相手が笑ってくれなかったのは、私を嫌っているからだ」と、確かめずに、また根拠もないのに信じ込んで、結論をだす場合です。

⑧ 過剰な自意識
他人の目が常に自分に集中しているように感じたり、自分の行為が他人にいつも不快感を与えたりしていると思い込んでしまうことです。

⑨ 感情的な決めつけ
その時の自分の感情だけで、その場の状況を判断し、決めつけてしまうことです。

思考のクセに気づいたら、別の考え方をしてみる

 思い込みが強くなればなるほど、不安感や身体症状が増してきます。思い込み、つまり認知の偏りを修正することは、この悪循環を断ち切ることになります。頭にすぐに浮かんでくる思いにとらわれそうになった時は、ひと呼吸おいて「他の見方はできないものか」と自分で自分に問いかけてみることが大切です。どんな事柄でも、視点をかえれば別の局面が見えてきます。

 
  • ○ 自分の考えに、しっかりした根拠があるのか?
  • ○ 別の考え方、見方はできないものか?
  • ○ 恐れている事態が起きたからといって、何か大きな影響や変化があるのだろうか?このようにして自分に問いかけてから、別の考え方をしてみます。今までクセになっていた考え方(自動思考)以外の答えを探してみるのです。視点をひろくして、さまざまな角度から、できるだけプラス思考で、前向きに考えてみるのです。すると、次のような新たな視点が浮かんできます。
  • ○ 全か無かではなく、その中間もある。白や黒だけではなく、灰色もある。
  • ○ 今はうまくいかなかったにしても、次回は状況も変化して、うまくいくかもしれない。
  • ○ うまくいかなかったことばかりではなく、うまくいった時もあった。
  • ○ 否定的なことばかりが起こると決まったわけじゃない。
  • ○ どういう結果が出るか、やってみないとわからない。
  • ○ 「~すべきだ」なんて、誰が決めたの?
  • ○ 人は他人のことに、それほど関心をもっていない。
認知を修正する技法

 では、「ありのままの現実」と、心の中につくられた「思い込みの現実」とのズレをどのようにして現実的なものへ修正していくか、それにはいくつかの技法があります。ただし、修正方法については、医療機関や治療者によって異なり、さまざまな手法が用いられます。

1. 治療者との対話
治療者と患者さんが一対一で対話し、問答をしながら、考え方のクセや思い込み、またいつもしてしまう思考のパターンに気づき、それが現実に即しているかどうかを検証していきます。記入用のシートを使って行う場合もあります。

2. ビデオモニタリング
実際の会話の場面などをビデオに撮影し、それを客観的に見ながら、現実の自分と相手の反応を確認します。

3. 行動実験
たとえば、レストランなどで実際に食べ物を落として、本当に周りの人がみんな自分に注目するかどうか、確かめる方法です。

4. ロールプレイ
グループで役割を演じ、他の人の反応が、自分が思い込んでいる通りかどうかを検証します。

エクスポージャー(曝露療法)

不安な場面に自分を慣らす

 社交不安障害への認知行動療法で、必ずといっていいほど用いられるのがこのエクスポージャー技法です。一言でいうと、あえて苦手な状況に自分の身を曝して、不安や恐怖に対して慣らしていく方法で、曝露療法ともいいます。不安や恐怖をできるだけ避けたいと思うのは普通ですが、社交不安障害においては逃げてしまうと、ますます不安や恐怖は増大していきます。たとえ恐怖を感じても、命に危険が及ぶような状況でないかぎり、その場にとどまり続ければ、脳は「これは、それほど脅威ではない。大丈夫だ」と判断して、不安や恐怖感を徐々に和らげていくものです。どんなに強い不安でも、時間の経過とともに不安は自然におさまっていきます。しかし、回避行動をしていると、その場では不安はすぐに治まるものの、不安が完全になくなったわけではないので、また起こるのではないかという不安が常に持続していることになります。  ところが、逃げずに向き合っていれば、「苦手だ」「不安だ」「恐い」「うまくいくわけがない」と思っていた感情が、「不安はあるものの、耐えられないことはない」「意外と大丈夫だ」という感覚を、身をもって体感することができるのです。このエクスポージャーを繰り返し実行することによって、刺激に対する慣れが生じ、予期不安も軽減して、回避行動をとらなくてもすむようになるのです。安易に回避していると、かえって恐怖感が増して、自信をつける機会を逃すことになります。

エクスポージャーの進め方

 恐怖に慣れるといっても、いきなり一番自分が苦手としている状況に直面するというわけではありません。不安や恐怖の程度は、人によっても異なり、状況によっても違います。まず自分はどんな場面において恐怖を感じているのか、その不安度を軽い方から重い順にリストアップして並べてみます。この「エクスポージャー階層表」は、治療者と患者さんが話し合って作るとよいでしょう。

【エクスポージャー階層表】(一例)

項目 不安度
駅のプラットホームに立つ。 10
近くの個人病院に行く。 20
デパートのエレベーターに乗る。 25
賑やかな繁華街を1人で歩く。 35
ショッピングモールで、知らない人に道を尋ねる。 40
友達とファミリーレストランでランチをする。 50
数人の同僚と大きなレストランで食事をする。 65
親友と映画を見に行く。 70
人が大勢のっている電車に乗る。 85
高速道路を運転する。 100

 

 次に、自分はどんな点を克服したいのか、具体的に考えてみる必要があります。漠然とした目標では、どのように行動してよいのかわかりませんので、まずは具体的な目標を定めます。

《具体的な目標の一例》

  • ○ 友達の結婚披露宴に参加して、周りの人と会話しながら食事をしたい。
  • ○ レストランのテーブルで、食事をしたい。
  • ○ 10人以上の会議で、発言出来るようになりたい。
  • ○ 電車に乗って、座席に座ってみたい。
  • ○ 合コンに参加して、初対面の人と5分くらい会話をしてみたい。
  • ○ その他…。

 

 具体的な目標が設定されたら、その目標を数段階に分けて、比較的抵抗なく臨める状況からエクスポージャーを始め、徐々に難しい課題へと進めていって、最終的に目標が達成できるようにします。恐怖に慣れていくには、「苦手だけれど、頑張ればできるかもしれない」というレベルから始めることが大事で、いきなり恐怖の強い課題に取り組んで、治療に失敗することもあるので、治療者と相談しながら課題を一つずつ克服していきます。また、一つの課題を克服するために、数回かけて行うことも必要で、繰り返して実践することによって、恐怖や不安の強さや時間は、次第に小さくなってきます。実践に当たっては、状況に応じて課題の変更や立て直しも行います。エクスポージャーの効果を高めるためのポイントを挙げておきます。

 

 

  • 1. 課題となる状況の設定は、自分でよく吟味して行う。
  • 2. 不安をなくすことを目標にしない。
  • 3. 1回で慣れることを期待しない。
  • 4. 短い間隔で何回もくり返す。
  • 5. クリアできたら、自分で自分に褒めてあげる。

 

ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)

先入観を捨てる

 ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)は、「社会生活技能訓練」といって、一般に、心の病気をもった人が、社会復帰する際に受ける訓練のひとつで、精神科のデイケアなどで行われています。社交不安障害の人の中には、人とのコミュニケーションが苦手で、対人関係を避けがちな人が多いです。人づき合いを円滑にするソーシャル・スキル(社交術)を身につけることは、対人場面での不安や緊張を和らげるうえで有効な方法といえます。  一般に社交下手な人は、人と人とのかかわりに対して、もともといいイメージをもっていない場合が多いです。「みんなに会っても、どうせ自分だけが浮いてしまうだろう」「会っても、会話のきっかけがつかめないのではないか」「人と会うことが煩わしい」「自分は人に溶け込めない」などといった否定的な考えをもっています。他人と良い人間関係をつくるには、こうした先入観をまずすてることから始めます。そして、肯定的なイメージを重ねるトレーニングがなによりも重要となってきます。「人と会話をすると、楽しいだろうな」「自分の知らない話をたくさん聞けて、世界が広がりそうだ」「話し友達がいることは、いいものだ」など、人付き合いを楽しむ自分をイメージすることです。

コミュニケーションの取り方

 まず、コミュニケーション力をつけるには、「聞き上手になること」、「自分の考えを伝えられるようになること」が2つの重要なポイントです。話すことに自信がもてない人は、まず聞き上手になることから始めます。聞くということは、相手の話に集中することですので、自分への集中(不安や体の変化など)が和らぐことにもなります。「聞き上手になる」には、①相手の話をよく聞く、②ただうなずくだけでも、相手は話しやすくなる、③「そうですね」という相づちを入れると、さらに相手は話しやすくなる、ことを知ることです。  次に、人の話を聞くことができるようになったら、今度は自分の言いたいことを、相手にうまく伝えられるようになることです。「自分の考えを伝えられるようになる」には、①「こんなことを言ったら笑われる」といった思考パターンをやめる、②相手の反応について、あれこれ考え過ぎない、③話すときは、穏やかに話す、④伝えたいことは、できるだけ具体的に簡潔に話す、などに心を配ります。このほか、声の調子や大きさ、相手との距離の取り方、会話の間やタイミングをつかむ、表情をつくる、挨拶をする、などの訓練も必要になります。

社交術は笑顔と姿勢で決まる

 社交術は、第一印象で相手に友好的な印象を与えられるかどうかで、その後の展開が決まってしまいます。好印象を与えるポイントは「笑顔」と「姿勢」です。ところが、人とのコミュニケーションが下手な人には、共通した問題点があります。「相手を見ない」「こわばった表情をしている」「背中を丸めてうつむいている」「まばたきばかりしている」「体を相手に向けていない」「全身を傾けている」「腕を組み、足を組んでいる」などの姿勢や表情です。この体全体が発しているメッセージは相手を拒否しているメッセージで、「溶け込みたくない」「声をかけないでほしい」と言っているのと同じです。これでは、相手も近づきたいとは思わないでしょう。  人と良いコミュニケーションをとろうと考えるならば、まず自分自身から相手に対し、「あなたを受け入れます」というメッセージを、体全体で発することです。最も効果的なメッセージは、「笑顔の表情をする」ことと、「リラックスした姿勢」をとることです。対面したときの第一印象は、ほんの数秒感で決まります。相手の顔を見るなり、自分からニッコリ微笑むのです。自分の心を開いた友好的な態度が、相手もまた心を開いて応じてくれるのです。  友好的な表情や姿勢というのは、「相手の方に顔を向け、できれば顔を見るようにする」「顔はリラックスした表情をつくり、口角を少し上げて笑みをつくる」「背筋を伸ばして、体を相手のほうに向ける」ことが、相手を受け入れる姿勢になり、コミュニケーションはここから始まるのです。  特に笑顔をつくれるかがポイントです。そのためには、鏡の前で笑顔の練習をするのも方法です。豊かな表情は、顔の筋肉を柔軟に動かすことから生まれます。鏡の前で、目や眉、頬や口を大きく動かして、いろいろな表情を作ってみましょう。笑顔をつくる練習は、前歯で軽くストロー(割り箸でもよい)をくわえ、口角を引き上げるようにして、そのままの状態からストローを外せば、やさしい笑顔ができあがります。口角を引き上げるには、頬の筋肉まで動かすようすれば出来ます。また、リラックスした姿勢を作るには、ゆっくりした呼吸をして、肩の力を抜きます。腕組みをしたり足を組んだりしないことです。近づいてくる相手に対して、体と顔をまっすぐ向けて、微笑みます。これで「あなたを歓迎します」というメッセージを送ることができます。  次に、会話もコミュニケーションをはかる上で大事な要素になります。ただし、社交術の観点からすれば、会話の内容よりも、スムーズな言葉のやりとりの方が重要です。何か面白いことを言わなければならないとか、話題を何にするのかということは、さして重要なことではありません。会話は、相手があってこそ成立するものです。自分一人だけで喋り続けようとせず、まず相手の話に耳を傾け、うなずくだけで会話は成立します。また、会話の最中の視線は、ときどき目を合わせるくらいが丁度良いでしょう。まったく目を合わせないのも、じっと目を見続けるのも、相手に居心地の悪さを与えてしまうことになります。良い聞き手こそが、気持ちよい会話を続けるテクニックなのです。

リラクゼーション(呼吸法・筋弛緩法)

 心と体の緊張を和らげるテクニックとして、リラクゼーション法があります。代表的なリラクゼーション法には「呼吸法」と「筋弛緩法」があり、これを実践することによって、①「体をリラックス状態にさせ、心が感じている不安を緩和させることができる」、②「不安になっても、あわてないで対処できるようになる」、③「長期間続けることによって、不安を減らす効果が期待できる」などのメリットがあります。社交不安障害の人が、強い不安を感じると、体は本人の意思に反して過剰に反応し、筋肉が緊張して、呼吸が浅く、速くなります。こうした体の変化は、交感神経の働きが活発になるためで、この神経の興奮を抑制するのが、リラクゼーション法なのです。  ここに示すテクニックは、いずれも身体面に起こる反応を意識的にコントロールすることで、緊張感を和らげる方法です。不安を感じたときだけでなく、普段からゆったりした呼吸を心がけ、筋肉の緊張を解きほぐす訓練を重ねることは、過剰な反応の抑制に有効と思われます。

呼吸法

 緊張すると、知らず知らずのうちに、呼吸が浅く、速くなります。そして、過呼吸の状態におちいると、めまいや息苦しさ、筋肉の硬直などの症状が起こります。浅く速くなった呼吸を、深くゆっくりした呼吸に変えると、動悸などの身体症状が改善され、体の緊張がほぐれてきます。呼吸には、胸式呼吸と腹式呼吸の二つがありますが、深くゆっくりした呼吸をするには、腹式呼吸が最適です。

《腹式呼吸のやり方》
  • ① 自然に背筋を伸ばした姿勢で椅子に座り、肩の力を抜きます。
  • ② 下腹のヘソのあたりをへこませ、お腹の中の空気を全部だし切るようなつもりで、ゆっくりと息を吐きます。このとき、心の中で5~7ぐらい数を数えるようにします。
  • ③ 吸うときは、お腹をふくらませながら、吐くときと同じように、心の中で5~7ぐらい数を数えるようにします。
筋弛緩法

 不安なときは、全身のいろいろな筋肉に力が入っています。それに気づき、筋肉をゆるめてあげることで、心の緊張が和らいでいきます。筋弛緩法を繰り返して行うと、自分の体がリラックスした状態を、自分で感じることができるようになります。

《筋弛緩法の基本的なやり方》
  • ① 一度、筋肉に力を入れて、その後、瞬間的に力を抜き、筋肉がゆるんだ感覚を味わう。
  • ② 力を入れるときは息を吸い、抜くときは息を吐きます。息は止めないようにする。
  • ③ 気持ちがいいと感じる程度に、数回ずつ行う。
【肩の筋肉を解きほぐす】
 両肩を耳につけるようにして、ギュッと引き上げ、緊張させます。その後、一気に肩の力を抜き、ストンと肩を落とします。

【足先の筋肉を解きほぐす】
 仰向けになるか、床に座るかして膝を伸ばし、かかとを突き出して、足先は手前にギュッと曲げます。その後、パッと力を抜き、足先をだらりとさせて自然にまかせます。

【腕・指の筋肉を解きほぐす】
 握りこぶしをつくって、握りこぶしが上にくるように垂直に立てて肘を曲げ、腕で脇腹をギュッと締めるようにして力をいれます。その後、腕と指の力を一気に抜き、ダランと下方に落とします。

【指の筋肉を解きほぐす】
 息を吸いながら、両手の手のひらを上に向け、力いっぱい5本の指に力を入れながら手のひらを広げます。その後、息を吐きながらフワッと指の力を抜きます。手のひらから腕までの力が抜けます。

【あごの筋肉を解きほぐす】
 上あごはそのままの位置にして、下あごだけを下方におろし、軽く数回ほど上下運動させます。その後、下あごだけを軽く数回、左右にずらすように動かします。

『強迫性障害』の認知行動療法

治療効果が高い療法

薬物療法と併用で効果をあげる

 強迫性障害における認知行動療法は、薬物療法と並んで効果が高い治療法です。認知とは「考え方、思い、言葉、視覚的なイメージ」のことで、行動とは「体を動かす」ことです。これを強迫性障害にあてはめると、強迫観念が認知に生じる症状であり、強迫行為が行動に現れる症状です。たとえば汚染恐怖の人の場合でいうと、汚染されると思う強迫観念が認知の症状で、それによって過剰に手を洗ってしまう強迫行為が行動の症状になります。強迫性障害の治療は、この「認知」と「行動」の両面に働きかける技法です。認知への働きがうまくいくと行動面も改善され、行動面が改善されれば、強迫観念である認知や不安や恐怖の感情も改善されます。これらは相互に影響しあっているのです。  また、認知行動療法は単独で行う場合もありますが、多くの場合、薬物療法と併用されることが多いです。薬を使って不安を軽くしておくことによって、認知行動療法の課題にとりくみやすくなります。薬物療法と認知行動療法はまったく別のものではなく、薬を飲みながら生活の中でチャレンジしていきます。お金に触る、つり革にさわる、鍵の確認は1回だけ、トイレの後の手洗いは石けんを使わない、ドアノブにさわるなど、毎日の暮らしの中で、できなかったことを少しずつ出来るようにしていきます。

「学習理論」に基づく治療法

 「学習理論」というのは、その人の問題のある考え方や行動は、それまでの生活体験の中で誤った学習をしてきた結果だととらえる理論です。それを正しく学習し直して、考え方や行動を変えていこうというものです。認知行動療法は、この「学習理論」をふまえた治療法といえます。

玄関のドアにきちんと鍵がかかっているかが気になり、何度も確認する症状がある。

医師や治療者に正しい知識や情報を提供してもらって、一緒に行動実験をし、「心配する必要はないかもしれない」と考えるようになる。

確認行動をしないで、がまんする練習をくりかえして行う。

確認しないでいることへの不安に、だんだん馴化(徐々に慣れていくこと)していく。

 患者さんが、強迫行為にかりたてられるのは、「なにかしなければ不安が強まる」という実体験ですが、不安から逃れようと強迫行為をくりかえすと、ますます恐怖や不安が高まるだけです。逃れようとしないで、がまんしていれば次第に慣れてきて、不安が和らいできます。そうした体験をつんでいけば、「逃げなくても平気」という正しい学習をすることになります。

責任感の拡大が認知のゆがみ

 手の汚れや玄関の施錠、また不吉な思いつきなどに心をとらわれ、なにか行動せずにはいられなくなる状態を、強迫性障害といいます。ふと、不安になることは誰にもあり、多くの人はそれをあまり深く考えず、大抵はやりすごすことができます。しかし、強迫性障害の人はそれをやりすごすことができず、何かしなければいけないという強迫行為にかられてしまうのです。  強迫性障害の発症メカニズムを、もう一度確認しておきます。まず、「手が汚れていないかどうか」「家の鍵をしめたかどうか」などが気になること自体は、誰にでもあることで、これを「侵入思考」といいます。ところが強迫性障害の患者さんの場合は、この「侵入思考」に対して、非常に強い責任感を感じるようになり、その範囲が拡大して必要のないところまで責任を感じるようになります。手がきれいで、施錠も十分確認できているのに、さらに責任を感じ、不安という「侵入思考」に反応して、すぐに行動しなければ不安でたまらなくなるのです。そのまま反応しなかったら、後悔の念や罪悪感を抱くことになるため、手がきれいであっても、石けんをつけて何十回も手を洗ったり、何回も戻っては施錠を確認したりする儀式行動(反応)をとるようになるのです。「こんなに不安になるのだから、行動しなければ」と考え、「行動したら安心できた」という思いに変わり、反応したことを肯定します。この負の連鎖が、認知の歪みを増していくのです。  そこで、この認知のゆがみである「反応しなければならない」という誤解を、「反応しなくてもいいのだ」、または「心配する必要はないのだ」という正しい認知に変える必要があります。この場合の認知は、侵入思考とその侵入思考を拡大解釈しようとしている責任感ですが、修正しなければならない認知は責任感の方です。責任感を修正すれば、侵入思考は気にならなくなり、放置しても恐ろしい事態にはならないことが理解できます。この修正技法が「曝露反応妨害法」と言われるもので、不安と思うものに触ったり聞いたりして不安になっても、反応しないように練習します。つまり反応を抑える治療法です。

不安階層表の作成と治療の流れ

 考え方や行動を変えていくためには、自分の状態を知ることです。自分の症状を客観的に把握することによって、治したい症状を具体的に整理することができます。どんな時にどれくらい不安になるのか、自分で自分の症状をチェックしてみます。そして、何ができないのか、何を出来るようにしたいのか、具体的な治療の目標を考えてみる必要があります。セルフモニタリング(自己観察)といって、専用のシートを自宅に持ち帰り、症状のあった日時、症状の内容、苦痛の度合いなどを具体的に記入します。このように記録することで、目標と治す方法がみえてきますし、治療への意欲も高まってきます。  苦痛の度合いを表す尺度としては、「主観的不安尺度表=SUD」、または「不安階層表」などが用いられます。不安・苦痛などがまったくない状態を0点、最も不安や恐怖を感じる状態を100点として、どんな時にどのくらいの不安や恐怖を感じるか、数値にして示します。たとえば「電気を消して、一度確認しただけで部屋を出る…30点」「台所のガスを消して、元栓を一度確認しただけで外出する…50点」「家族が家にいないときに、一度鍵を確認しただけで一人で外出する…100点」などのように、項目をリストアップして数値化し、それを不安・恐怖が強いものから弱いものへ順に並べます。  ここで、認知行動療法を始めるまでの、標準的な流れを紹介しますと、最初に初期評価としての「アセスメント」があります。治療者と患者さんで、何回か面接を行い、治療者は患者さんからの訴えを十分に聞き、患者さんの抱えている状況を把握します。またそのとき、セルフモニタリング(自己観察)といって、患者さんに症状の様子を自宅で記録してもらい、それを評価に利用したりします。次に行うのが「心理教育」です。これは認知行動療法の治療を始めるにあたって、患者さん本人や家族に対して、病気と治療法についての説明が行われます。この心理教育が終わったら、次は「治療計画作成」です。治療者と患者さんで治療計画を作成しますが、どのような順番で治療を始めるかを検討します。出来そうなものから始めることもあれば、生活に支障をきたしているものから優先して行うこともあります。治療計画ができたら、いよいよ治療開始です。

曝露反応妨害法

七割以上の人に症状の改善が

 認知行動療法の技法にはいろいろありますが、中でも効果が高いのが「曝露反応妨害法」と呼ばれる方法です。曝露反応妨害法は、受けた人の七割以上に症状の改善がみられ、効果の高い治療法です。これは、「曝露法」と「反応妨害法」を一緒にして行われる方法のことです。曝露法とは、強迫症状によって不安や苦痛をもたらすものにあえて立ち向かい、立ち向かうことで不安や苦痛を自然に減らしていく技法です。これをエクスポージャーともいいます。また反応妨害法とは、強迫行動が起こっても、強迫行為をあえてしない方法を訓練します。これを儀式妨害法とも呼んでいます。たとえば、不潔恐怖の人が、汚いと思うものに実際に触ってみて、苦痛や恐怖を小さくしていくことを体感するのが曝露法で、その後、手を洗わないように訓練するのが反応妨害法です。  このように、曝露反応妨害法は、不安状態に自分を曝したまま(曝露)、不安を小さくする行為をしないようにがまんする(反応妨害)ことによって、強迫行為をおこなわなくても不安が軽減していくことを体感する治療法です。不安な状況にあえて向き合うことは、非常に勇気がいることです。そして、強迫行為をがまんすることは、非常に辛いことかもしれませんが、不安階層表を参考にしながら、不安の程度の低いものから始め、時間をかけて向き合っていけば、不安は徐々に軽くなっていくものです。

《曝露反応妨害法をうまく進めるためのポイント》
  • ① 出来ることから始める。
  • ② 家族の協力が不可欠。
  • ③ 治療のルールを決めておく。
  • ④ ある程度の苦痛があるが、徐々に弱まることを知っておく。
回数を重ねることで不安を解消

 曝露によって、苦痛や恐怖の感情に慣れてきて、その後自然と苦痛や恐怖が減っていく過程を「馴化」といいます。馴化には二つの面があって、一つは一回の曝露で起こる苦痛や恐怖の程度の推移です。もう一つは、曝露の数を重ねることで、苦痛や恐怖が弱まっていくということです。  一つ目の、一回の曝露で起こる苦痛や恐怖の程度の推移ですが、たとえば、不潔恐怖症でカバンを地面に置けない人が、実際にカバンを置きます(曝露)。その後、カバンを拭いたりせず、じっと我慢します(反応妨害)。最初は、かえって苦痛や恐怖の度合いが増しますが、時間とともに、苦痛や恐怖が自然に減っていくことが実感できます。曝露する前は、苦痛の度合いが100点だったのが、曝露を始めて20分後には60点にまで下がってきた、ということを確認できるのです。  二つ目は、曝露の回数を重ねた場合ですが、これは「人間の不安は習慣化する」という心理学の考え方に拠るもので、不安に曝され続けると、感覚のマヒから慣れが生じて、不安をあまり強く感じなくなるということです。最初は強い不安を覚えても、回数を重ねれば重ねるほど、不安の度合いが下がってきます。その結果、恐れていた状況に直面しても、不安は自然になくなるものだということが実感できるようになります。不安がなくなれば、強迫行為をする必要もなくなります。ただし、これを習慣化するためには、通院して治療を受けるだけでは回数が少なく、ホームワークとして自宅でも行うことが重要となります。曝露反応妨害法は、苦痛を取り除く治療ではなく、苦痛になれるための治療であることを認識することが、成功するための鍵となるのです。

その他疾患の認知行動療法

PTSD(心的外傷後ストレス障害)

トラウマに悩まされるPTSD

 事件や事故に強いショックを受けた人が、それ以来トラウマを抱いて、つらく恐ろしい記憶を繰り返す状態をPTSD(心的外傷後ストレス障害)といいます。この不安障害も、認知行動療法によって、トラウマを全体的にとらえなおすことによって、症状を軽減することができます。  トラウマとは、事件や事故、また災害などによって生じた精神的外傷のことで、後遺症として残るような心理的なショックや体験が特徴です。自分の心身の外にあるものから受けたダメージが、トラウマとなって症状を引き起こすもので、独特なメカニズムから生じる不安障害です。ふとしたことで、事件や事故のことを生々しく思い出し恐怖を感じますが、このトラウマを、実態よりももっとひどいものだとネガティブに考え、いまなお恐怖が続いていると感じます。  このPTSDには、事件や事故のことをありありと思い出す「再体験」、不安が消えずつねに緊張する「過覚醒」、恐い場面を過剰に避けたがる「回避」の三つの症状があります。こうした症状から、不安、恐怖、罪悪感、恥ずかしさなどを強く感じ、加害者よりも自分を責める気持ちが強くなります。何ごとにも警戒して、以前と同じように活動ができなくなり、日常生活にも支障をきたします。トラウマは、自分をこんなふうにしてしまった恐ろしいものだと感じ、もう立ち直れないと感じるようになります。

記憶を再構成する

 PTSDの治療では、記憶の再構成を行います。過去の記憶を思い出すのは辛いことですが、それは「あくまでも記憶にすぎないので、恐れることはない」と考えられるように認知を修正することから始めます。事件や事故の記憶をさけるのではなく、できるだけ詳細を思い起こします。バラバラになっていた記憶をつなぎ合わせ、記憶のアップデートを繰り返すことによって、出来事の詳細が見えてきて、ホットスポットが明確になってきます。  悪夢やフラッシュバックとして再体験し、トラウマ記憶の中でもっとも辛く苦しい部分である「ホットスポット」が、記憶全体のなかでどのような位置にあるかを把握すると、記憶が整理できて、気持ちも整理されます。事件や事故は不可抗力であって、自分の責任ではないと理解できるようになり、記憶を再構成することができるのです。

持続エクスポージャー(PE)

 認知の再構成と同時に、行動治療が重要になってきます。その最も有効な治療法とされているのが「持続エクスポージャー」で、これは以下のような理論モデルから成り立っています。つまり、PTSDのトラウマ記憶が、自然に治癒しないのは、その記憶に対する恐怖のあまり、事件や事故などの出来事や状況、記憶に対して回避しているからで、それを回避することによって、ますます恐怖の記憶が維持され、悪化していくというものです。したがって、それらの状況や出来事、記憶にわざと触れていくことが、最終的に処理可能な普通の記憶のように自然治癒していくのです。  持続エクスポージャーでは、事件や事故の記憶を、最初から最後まで順を追って話し続けます。感情を抑え過ぎないように、また流されないようにして、繰り返し語り続けます。そのうちに、記憶を怖がる必要はないということがわかってきて、自信がついてきます。記憶がよみがえるからといって、ニュースや新聞を見ないとか、事件や事故の現場に行かない、などといった回避行動はしないようにします。不安に立ち向かうことが重要なのです。持続エクスポージャーの第一回目のセッションでは、患者さんにおいては不安と恐怖と絶望感でいっぱいですが、数回のセッションを経れば、出来事は出来事として消化されてきます。もちろん嫌な出来事であるとの認識はありますが、激しい苦痛や感情の起伏はなくなってきます。  トラウマ記憶を思い出すのは非常につらく、目をそむけたくなります。しかし、目をそむけ続けると、結局、心の傷は治癒せず、いつまでも生活に支障をきたすことになります。つらい記憶を整理して正確にとらえ、過度の不安を解消するために認知行動療法が活用されるのです。最初のセッションは45分ぐらい、2回目のセッションは40分くらいかかります。セッションの内容はテープに録音して、ホームワークとして毎日家で聞くようにします。次回のセッションの初めに、何回聞いたか確認します。このようなセッションを通常9回ぐらい行います。患者さんの症状や状況にあわせて、セッションの回数や内容は異なることもあります。この治療法は、症状を消し去るのではなく、軽くするための方法なのです。

摂食障害

体型や体重に対して歪んだ価値観

 神経性過食症においても、認知行動療法は有効性を実証しており、世界的にも汎用されています。また、薬物療法と組み合わせたときは、最も効果があがるともいわれています。一般に摂食障害の患者さんは、低い自己評価によって、体型や体重に関して、過剰な関心や歪んだ信念、また価値観(認知の歪み)をもっています。この歪んだ考え方が、「肥満恐怖」や「やせ願望」となって、その結果、極端なダイエット、自己誘発性嘔吐、下剤や利尿剤の乱用につながっています。過食は、極端な食事制限の反動として生じていると考えられます。  したがって、体型や体重に関する過剰な関心や、また歪んだ信念や価値観の修正を行うことが、摂食行動異常を改善するうえで有効な方法といえます。この認知行動療法は、個人精神療法のかたちで、患者さんと治療者の対話形式で進められ、過去を問わず、これからの患者さんの認知の変化、および行動の変化に焦点があてられた治療が行われます。  摂食障害における認知行動療法は、治療構造が3段階からなっています。第1段階は「過食や嘔吐などの摂食行動異常の正常化を目標として、1週間に2~3回の面接を4週間行う」、第2段階は「体型や体重に関する歪んだ信念や価値観(認知の歪み)を改めることを目標とし、1週間に1回、8週間行われる」、第3段階は「これらの変化を持続し、強化することを目標として、2週間に1回、6週間にわたり施行する」となっています。  この治療を成功させるためには、患者さんと治療者が、摂食行動異常にうちかって正常な食生活を回復するという目標を、ともに共有することです。治療者は、患者さんが自分自身を変えていこうとする努力に対して、情報を伝え、提案し、指示を与えながら、くじけそうになる患者さんを常に励まし、勇気づける必要があります。そのためには、患者さんと治療者との間には、信頼を基盤とした治療関係が必須となります。3段階の治療手順については以下に述べますが、これはあくまでも原則であって、それぞれの患者さんの状態や治療者の方針に合わせて変える必要があります。

第1段階の治療

 第1段階の治療目標は、良好な治療関係の確立と、過食・自己誘発性嘔吐・下剤の乱用などの摂食行動異常の改善などが中心となります。面接は1週間に2~3回を4週間にわたって行うのが原則としてありますが、1週間に1回を1~3カ月間にわたって行うなど、患者さんの状態に応じて施行します。

【第1段階の治療目標】


1. 患者さんと治療者間の良好な関係の確立。
2. 過食・嘔吐・下剤の乱用の中止。
3. 過食・嘔吐・下剤の乱用に伴う身体合併症について学ぶ。
4. 体重調整における嘔吐や下剤乱用の無効性について学ぶ。
5. 規則正しい食生活の導入。
6. 1週1回の体重測定の実施。
7. 過食や嘔吐の意味について学ぶ。
8. 家族や友達の協力を得る。

 

1回目の面接

 治療者は、患者さんの病歴や今の症状や徴候を聞き、摂食行動異常や精神病理についても評価します。病気についての説明、および認知行動療法についても理解できるように説明します。また、治った状態とはどういう状態なのかについても話します。治療は対話形式で進められ、具体的な問題を双方が協力して解決していくというスタイルをとります。面接終了時に達成可能な課題をだし、それが達成できたら最大限評価します。たとえば、週に1回過食をしない日をつくろうという課題をだして、それが達成できたら、その努力を褒めて激励します。認知行動療法は、患者さんが治療に主体的に参加し、努力に応じて成果が得られるということを実感することが重要です。全力を傾注すれば、必ず症状は改善するという保証をしてあげるのも治療者の役割です。  食行動においては、自己観察記録としての「食生活日誌」(シート)を患者さんに渡し、記載の仕方を教えたうえで、これに毎日食事の直後に記録してもらいます。記入することで、患者さんは自分の食行動の実際を知ることができ、問題が明確になって、克服していくための手がかりとなります。また、体重測定は、週1回行うことを約束します。体重が気になって1日に何回も測定したり、逆に体重が増えていることへの恐怖を感じたりして、測定を拒否する患者さんもいます。体重測定に対する態度によって、体重に対する過剰な関心や肥満恐怖の程度を知ることができます。

2回目の面接

 患者さんが記録した食生活日誌を、患者さんと一緒に吟味します。昼食をしなかった理由や、過食をしたときの状況などについて、患者さんに詳しく話してもらい、現在の食行動について十分に知ってもらいます。またこの記録が、後日記入したものではなくて、食事の直後に正確に書かれたものであることを確認します。食後に正確に記載したものであれば、褒めてあげます。

3~5回目の面接

 摂食(過食)に対するコントロールを再獲得するための行動戦略を患者さんに伝えます。前回の面接終了時にだした課題が、どの程度実施できたかを、食生活日誌の記録を見ながら検討します。たとえば、3回の食事を規則正しくとり、過食を1日2回から1回に減らす、といった課題に対して評価します。そして、1週間に1日でも達成できていれば賞賛してあげます。この積み重ねが、患者さんの無能力感の改善や、自尊心を高めることにつながっていきます。  また、患者さん自身における課題達成度の評価も大事な点です。毎日の自分の課題達成度を10点満点で評価します。これは、「全か無か」の考え方の修正にもつながります。患者さんの多くは、1回過食したら2回も3回も同じだと考える傾向があります。1回過食を減らしたら、その分だけ身体に良い結果をもたらし、経費面でも節約できて過食節約貯金ができるなどのメリットを知ってもらいます。一つの課題が達成できたら、次の達成可能な課題を患者さんと治療者で決めます。目標を高くし過ぎると失敗するので、必ず達成可能な課題を設定します。そして、次の項目についても確認しておきます。

  • 1. 体重:目標体重は標準体重の85%以上にし、極端なダイエットをしないで維持できる範囲にします。ダイエットや飢餓や低体重が、過食の引き金になることを理解することです。過食がある程度コントロールできるまで、維持する体重範囲は決めないでおきます。
  • 2. 過食や排泄行動に拠る身体合併症:パンフレットなどを用いてよく説明し、理解してもらいます。
  • 3. 体重調整としての排出行動の無効性:嘔吐しても、食べたものは全て出せません。嘔吐と下痢、また利尿剤の使用は、体の水分を減らすだけで、脂肪を減らすことにはなりません。嘔吐で過食の分を帳消しするという考えが、過食しては嘔吐、嘔吐しては過食という悪循環を生むのです。

【日常の食生活の注意点】


① 1日3回の食事を、決まった時刻にきちんと食べる。
② 穀物やパン(菓子パンは不可)など、炭水化物を必ず食べる。
③ お腹が空いた状態で、買い物に行かない。
④ 過食しそうな食べ物を、日頃から家に置かない。また買わない。
⑤ 食事は1人で食べないようにする。また、1人で部屋に閉じこもって食べないようにする。
⑥ 1回の食事に必要な量だけ料理する。
⑦ 料理は小さな皿に盛って食べ、決して大盛りにして食べない。
⑧ 食事の10~30分前に、コップ1~2杯の水をゆっくり飲み、空腹感をまぎらわす。
⑨ 食べ物はよく噛みながらゆっくり食べ、20分以内に食事を終わらせないようにする。
⑩ 食事のあと、嘔吐をしない。また下剤を使わないようにする。
⑪ 体重を毎日測らないようにする。
⑫ 過食する時間をとらないために、週末と夜の計画を立てる。


【過食しそうな時の対策】


① 何か酸っぱいものを口の中に入れる。
② フルーツを、ゆっくり時間をかけて食べる。
③ 製氷皿にジュースを凍らせておき、それをゆっくりなめる。
④ 角氷をなめる。
⑤ 歯をゆっくり磨く。
⑥ チューインガムを噛む。
⑦ 散歩したり、運動したりする。
⑧ 新聞や雑誌を読む。
⑨ テレビやビデオを観たり、音楽を聞く。
⑩ 指の爪を磨く。
⑪ 友達と10分間だけ電話をする。
⑫ 風呂に入るか、温かいシャワーを浴びる。
⑬ 手紙や日記を書く。

 

6~8回目の面接

 食生活日誌を見ながら、患者さんの摂食行動や、日々の課題の達成具合を詳細に検討します。出来ていないことがあれば、そのことについて十分議論し、新しい戦略を考えます。日々の成功については、小さなことでも褒めてあげ、患者さん自身も褒められるように努力します。失敗から学んで、つぎの成功にむすびつけるようにします。また、患者さんとその家族が一緒になって、治療者と面接することも必要です。治療内容を家族の人にも知ってもらうことで、秘密や欺きへの罪の意識を減少させることにもなり、食生活改善に向かって努力している患者さんにとって、よい環境づくりにもなります。しかし、家族が過度に巻き込まれないように注意し、あくまでも患者さん自らが変わることが大切なことです。

第2段階の治療

 第2段階の治療目標は、認知の修正が中心になります。治療は、週1回で8週間にわたって実施するのが一般的な基本ですが、1~2週に1回、2~6カ月かけて実施するケースもあり、患者さんの状況や治療者の判断で、アレンジすることは可能です。

【第2段階の治療目標】


1. 規則正しい食生活の維持。
2. 摂食制限の減少。
3. 過食が起きそうな状況の把握と、そのような状況の減少と対処。
4. 摂食行動異常を維持させている思考・信念・価値観の同定と改変。
5. 身体像の歪み、身体像の蔑視の改善。
6. 治療終結への準備。

 

9回目の面接

 通院回数を減らすと、摂食行動が少し悪化する患者さんがいますが、この場合、第1段階の治療をさらに継続して行います。第1段階の治療目標が達成できてから、第2段階の治療に入るようにします。

10~14回目の面接

 ここでは、規則正しい食生活を維持し、摂食制限の回数を減らしていきます。ただし、摂食制限するとその反動として過食が生じ、さらに摂食制限するといった悪循環が起きることについても、十分に患者さんに説明します。摂食制限のやり方には、1日の食事の回数を減らす方法と、太ると思われる食物については食べない方法の二つがあります。また、中にはカロリーが不明な食物は食べない、組成が明らかでないと食べない、家でしか食べない、といった患者さんもいます。このような摂食行動は中止して、どんな状況下であっても、いろいろな食物を自由に食べられることが、治療上の目標でもあります。これを食べると太るという特定の食物もあるので、そういう場合は、食物に順位をつけて、下位の抵抗の少ない食品から食べる練習をして、徐々に抵抗が多いものを食べられるようにしていく方法もあります。

《問題解決訓練》  過食は、不愉快なことが起きたり、抑うつ気分になったりすることが引き金になっているようです。この過食になるような状況や契機を明らかにし、これに対処する技能を高めることが必要になります。これには「問題解決訓練」が有効です。方法は以下の要領で行います。

  • ① 問題を具体的な形で明確化します。問題が単独ではなく、いくつか複数ある場合は、それぞれ個々に分けます。
  • ② 問題に対して、解決法をできるだけ多く列挙します。
  • ③ それぞれの解決法について、その実行可能性、また現実性について検討します。
  • ④ いくつかの解決法の中から、最上の方法を選びます。
  • ⑤ それを実行する際の必要な手順を検討し、心のなかでそれを練習します。 
  • ⑥ 解決法を実行します。
  • ⑦ 実行した全経過を10点満点で評価します。

 日常生活の中で、問題解決法をできるだけ多く用い、繰り返し練習をすると技能が高められ、困難な問題に直面しても解決できるようになります。そして、以前過食に導いた出来事が起きても、過食しないで済むことができます。また、「全か無か」の両極思考も改まっていきます。

《認知再構成法》  認知再構成法は、体型や体重に対して歪んだ信念や価値観(肥満恐怖、やせ願望、やせていることは美しい、など)、および摂食障害を持続させている思考・信念・信条(完全主義的傾向・2分割思考、など)を明らかにして、これを変えていくことにあります。そこで、この歪んだ自動思考の同定とその吟味について、また歪んだ信念や価値観の把握とその吟味について、少し詳しくみてみることにします。

1. <歪んだ自動思考を同定する>
 まず、患者さんの歪んだ自動思考を引き出して同定します。日常生活で、「過食したい衝動に駆られたとき」「食事を抜こうと思ったとき」「体重を測定しようとしたとき」「容姿について何か言われたとき」に生じた考えを記録してもらいます。そして患者さんに、その時どのように感じたか、思ったかについても尋ねます。また、患者さんが避けている食べ物を与えられたり、体重測定を求められたりしたとき、どのような考えが頭に浮かぶかについても尋ねます。こうして患者さんの自動思考を引き出していきます。摂食障害の患者さんによくみられる自動思考には、「一度食べ出すと止まらない」「食べ物に対する自制心を失っている」「どうでもよいと諦める」「すぐに吐いてしまわないと太る」といった他に、「私は太っている」「体重を減らさなければならない」「ダイエットしなければ」「また同じことをしてしまった」「明日から過食をやめよう」など、多くの自動思考が認められます。 2. <歪んだ自動思考を吟味する>

  • (1)その自動思考の意味を明確化します。たとえば「私が太っている」というのは、体重が重いことなのか、自分の目からみて太っていることなのか、他人の目からみて太っていることなのか、意味を明らかにします。
  • (2)その自動思考の妥当性を支持している根拠は何か考えてみます。たとえば、体重が少し増加して肥満したと考えるとき、過去に体重が増加して肥満になったことがあったことなどです。
  • (3)その自動思考の妥当性を疑わせる根拠を考えてみます。体重が少し増えたのを太っていると思うとき、実際は少し増えただけで肥満ではない、ということがその反証となります。この中で、患者さんの2分割思考、選択的抽出、過度の一般化などの認知の歪みが明らかになります。
  • (4)自動思考に代わる現実的妥当な結論を得ます。実際の場面で、今までの経過により得られた結論が、有効に機能することを確認します。


3. <歪んだ信念や価値観を把握する>
 体型や体重に関する歪んだ信念や価値観が、患者の行動に影響を与えています。その例を以下にあげてみます。

  • ・「私はやせねばならない」という価値観には、「やせは美と成功、幸福」を意味しています。
  • ・「太るのは避けねばならない」という価値観は、「太ることは失敗、醜い、不幸」を意味しています。
  • ・「わがまま」という価値観は、「弱さ、悪い」ことを意味しています。
  • ・「セルフコントロール」という信念は、「強さ、鍛錬、良い」ことを意味しています。
  • ・「完全に成功しなければ」という考えは、「まったくの失敗である」ということを意味しています。


4. <歪んだ信念や価値観を吟味する>

  • ・歪んだ信念や価値観の意味を明確化します。
  • ・歪んだ信念や価値観の妥当性を支持している事実と論拠を整理します。
  • ・歪んだ信念や価値観の妥当性を疑わせる事実と論拠を同定します。
  • ・これらをもっているときの有益性を認識します。
  • ・これらをもっているときの不利益性を認識します。
  • ・歪んだ信念や価値観の生じている源を明確にします。
  • ・結論を引き出します。たとえば、体型や体重によって人は評価されてはいけないし、またセルフコントロールはある程度望ましいが、これを全てに要求することは問題であるなどです。
15~16回目の面接

 前回の面接を継続しながら、治療が終わりに近づいていることも知らせます。また、患者さんがこの治療について感じていることを話してもらいす。喜ぶ患者さんもいれば、不安に思う患者さんもいます。しかし治療者は、これは患者さんが独り立ちするためのプロセスであることを伝えます。

第3段階の治療

 第3段階の治療目標は、これまでの治療によって得られた改善の維持と、将来再発する可能性に対処するための準備をします。2週間に1回、6週間にわたって実施されます。

17~19回目の面接

 改善の維持のために、患者さんはこれまでの治療で学んだ技能を繰り返し使うようにします。規則正しい食生活習慣を継続しながら、過食や嘔吐をしない状態を持続します。また、問題解決法や認知再構成法を自ら実施するようにします。食生活日誌は、摂食行動に対して完全にコントロールできるまで続けます。空腹感や満腹感が戻って食行動がコントロールでき、決してダイエットをしない状態になれば、日誌は中止します。  次に将来、再発の問題に直面したときの準備です。ストレスの状態で、過食が再発しても、それに対処する技能を学習してきたので、それを使って、翌日から正常な食生活に戻れば、再発ではないことを確認します。再発とは、翌日から毎日連続して過食し嘔吐する生活のことです。過食がなぜ生じたのか、それをいかに防げたのかを考えることが、再発防止にもなります。再発の危険があるとき、また摂食行動が悪化しそうなときは、再発に関係している事柄を見つけ、それを解決するための具体的な計画を立てるようにします。

【再発予防法】


1. 直面している問題を冷静にみつめ、それに対処する計画を立てる。
2. 食生活日誌を再開する。
3. 規則正しい食生活を再確立する。
4. 1日の食事やおやつの詳しい計画をつくる。
5. 食べ物を貯えないようにする。また買うお金を持たないようにする。
6. 過食する時間を、他の行動で埋めるように計画する。
7. 食事以外は台所から離れ、また食物のある場所を避ける。
8. 体重測定は、1週間に1回とし、それ以上しない。体重を減らしたいなら、食事の量を減らし、食事を抜かない。
9. 不安や抑うつ気分が強く、体型に過敏なときは、物事がうまくいっていないときに感じることが多い。うまくいっていない問題をみつけ、それを解決するようにする。
10. できれば、その問題を誰かに打ち明けることで、苦痛が軽くなる。
11. 目標を定めてそれにチャレンジします。一つの失敗は連続した失敗にはならないので、少しでもうまくいけば日誌に記録していきます。

 

統合失調やパーソナリティ障害

 うつ病や不安障害ほど普及していませんが、統合失調症やパーソナリティ障害に対しても、認知行動療法が用いられています。

統合失調症

 統合失調症では、多くの場合、薬物療法を中心にした治療が行われていますが、その中で妄想や幻聴に対して、認知行動療法が用いられる場合があります。一般に、統合失調症は「仲間に悪口を言われている」という疑念が生じると、周囲に対して不安や怒りを抱くようになり、仲間を避けたり警戒したりして、孤立していきます。認知行動療法では、妄想や幻聴が悪くなるパターンを理解します。そのうえで、不安などの感情をとらえ、認知と行動を修正していきます。ただし、激しい妄想や幻聴がある場合は、治療者と相談して、まずは向精神薬の使用を考えます。

パーソナリティ障害

 パーソナリティ障害への認知行動療法は、ほかの病気より長期間の治療を要します。それは、幼少期の事件や離別体験、また虐待などが関連しているため、十数年の生育歴をさかのぼって、幼少期からの認知のゆがみを確認しなければならないからです。そのため治療に時間がかかるのです。  パーソナリティ障害は、考え方や行動の偏りによって、生活に支障をきたしている場合が多いです。面接中に泣き通しだったり、喋れなかったりして、治療者との関係を築くのにも時間がかかります。














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