統合失調症 疾患の詳細について-No.8

統合失調症と脳

脳の中で何が起こっているのか 

 統合失調症の症状が現れたとき、脳の中では何が起こっているのでしょうか。これまでの研究から分かっていることは、脳内の神経伝達物質であるドーパミンがたくさん生成されて、それを受け取るドーパミン受容体の働きが過度になると、中脳辺縁系に過剰な興奮が起こり、幻覚や妄想などの陽性症状が生じます。一方、大脳の前頭前皮質のドーパミンの放出が少なくなると、機能が低下して、意欲の低下などの陰性症状が起こると考えられています。さらに、最近ではこのドーパミンだけではなく、セロトニン、ノルアドレナリン、グルタミン酸などいろいろな神経伝達物質が関与していることが明らかになってきました。これらの多くの神経伝達物質は、記憶力が低下する認知障害や陰性症状に関しても、大いに関わっていると言われます。そこで、脳内の神経伝達物質のバランスをとるために、ドーパミンをはじめ、さまざまな神経伝達物質を抑えるための抗精神病薬が開発されたのです。  また、統合失調症の発病過程を説明するものとして、「ストレス脆弱性モデル」があります。これは、統合失調症の発病や再発が、患者さんの生物学的脆弱性と環境からのストレスに対する患者さんの対処能力によるという考えです。つまり、もともとストレスに弱い素質(ストレスによって発症しやすい脳の脆弱性)をもっている人に、大きなストレス(家庭、職場、学校、人間関係など)がかかることによって、前駆症状を呈した後、妄想や幻覚などの急性期の症状が現れるという考え方です。そこで、脳の脆弱性を解明しようと、遺伝学や脳の形態学など、さまざまな角度から研究が始められています。この考え方にしたがって、脳の脆弱性を薬物療法で軽減したり、心理社会的療法を併用したりすることによって、ストレスに対処できる能力を高めようと言う試みが行われています。

幻聴が起こる脳の仕組み 

 統合失調症の症状で、もっとも特徴的なのは幻聴ですが、なぜ実際にいない人の声が聞こえてくるのか、それがなぜ本当の人の声のように感じられるのか、この不思議な症状が起こる仕組みについて考えてみます。  普通、脳が活動すると、活動した部位で酸素やブドウ糖が消費しますが、その際、その部位の血流や代謝も増加します。その変化を知るには、fMRI、PRT、SPECTなどと呼ばれる方法を用いれば、捉えることが出来ます。これらの方法を用いた研究によって、心の病の症状と脳の働きとの関連が、次第に明らかになってきました。つまり、幻聴は、言語中枢の言葉をつかさどる脳部位の活動と関連していることが明らかになったのです。それは、「統合失調症の患者さんとそうでない人」を比較したとき、また「幻聴が聞こえている時と聞こえていない時」を比較したとき、「統合失調症の患者さん」および「幻聴が聞こえている時」において、言語の受容体と理解をつかさどる脳部位(感覚性言語中枢)の活動が活発になっていました。この感覚性言語中枢は、大脳の左半球の側頭葉というところにあり、実際に、健康の人が声を聞いている時は、この部位の活動が活発になっています。すなわち、統合失調症においては、声が聞こえていない時に、声が聞こえているかのように感覚性言語中枢が活動してしまうことであり、これが幻聴を生じさせている仕組みではないかと考えられます。  統合失調症の幻聴には、さまざまな特徴があります。その特徴というのは、人の声で言葉として聞こえる幻声、遥か彼方から聞こえてくる空間定位(頭頂葉)、ふと緊張がゆるんだときに聞こえてきて注意が逸れてしまう(帯状回・視床)、声のせいで不安になり恐ろしい気持になる情動(扁桃体・島)、昔のいやな思い出と結びつきやすい記憶(海馬)、自分ではコントロールできない場合(前頭葉)、声に左右されて衝動的に行動におよんでしまう(前頭葉)などです。ではこれらの特徴はどこからくるのかというと、言語中枢の機能を中心にしながら、それを取り巻くさまざまな脳部位の機能の変化が背景になっていることがわかります。症状と部位は一対一に対応しているのではなく、脳のネットワークが全体として症状とその特徴を形成しているのです。


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