統合失調症 疾患の詳細について-No.5

無理をさせたり励ましたりしない

 消耗期に入って、少し落ち着いてくると、周囲の人は無理をさせたり励ましたりしがちになります。「頑張ればできる」「気の持ちようだね」「前はあんなに元気だったのに…」と声をかけたくなりますが、しかし、しばしば励ましに応えられず、失敗して大きな自信喪失につながることがあります。毎日変化がなく、元気がないように見えても、本人の中では少しずつエネルギーが溜ってきています。周囲の人は、焦らずに見守り、回復を後押しすることです。  では、本人に無理を強いるとどうなるかというと、以下のような悪循環を繰り返して、自信喪失につながる経緯をたどることになります。

《周囲が本人に期待し励ましをする》
 少し落ち着いてきたため、周囲はさらに回復への希望と期待をこめて、家事や仕事、学校などへの行為を促してしまいます。「頑張ってやればできる」と声をかけ励ましてしまいます。

《本人はそれに応えようとして無理をする》
 特に本人が気を使う性格だと、励ましや期待に応えようとして、少ないエネルギーを振り絞って行動に移します。身支度や入浴、近所への買い物、今までごく普通にできていた日常的な家事は、周囲から見ればささいな事ですが、この時期の本人にすれば大仕事であり、大きな負担になります。

《気持が不安定になって自信を失う》
 僅かなエネルギーで行動を起こしてみたものの、無理がきかないことを本人が自覚して、自信を失い、生活することに大きなストレスを感じます。気持が不安定になり、時には神経過敏の症状が再発します。このように、エネルギーがまだ十分でない時期には、やらなければならないことでも、それを毎日こなすだけの力が維持できないのです。

《日常に戻る自信がない》
 何をやっても、出来ない自分をふがいないと感じ、いっそう自信を失うことになります。少ないエネルギーを使い果たしてしまい、結果として回復をおくらせることにもなります。また、周囲から見ていると、患者さんの出来るときと出来ないときの差に戸惑うこともあります。無理を強いることは禁物です。

消耗期から回復期へ

 消耗期が順調に進み、回復期が見えてくると、本人も家族も「次へ」の期待が高まります。期待するのは、本人を信じ評価するからこそですが、しかしこの時期に対応を誤ると、逆に本人にとって負担となります。つまり、社会復帰が順調に進んでいても、周囲が多くを求めすぎると、気持のずれが生じて本人にとってはつらいものです。また励ますにしても、前と違うことを求めたりすると重荷になったりします。  例えば、消耗期を家の中でずっと過ごしてきた患者さんに、「少し外出してみたら」と、次の行動を求めたりします。また、十分に体を休め調子がよくなってきた患者さんが、通院先のデイケアに通いだしたら、「次はアルバイトができるといいね」と求めたりします。そして、デイケアを続け、自信がついてきたので近くでアルバイトを始めた本人に、家族は「次は正社員をめざしなさいよ」と期待します。このように、患者さんの様子が少しでも良くなれば、それを見計らって、次から次へと患者さんに要求すると、本人にとって大きなプレッシャーになってしまいます。患者さん自身にしてみれば、「今できていることに目を向けて欲しい」「現状を認めて欲しい」と感じているのです。  回復には、それぞれのペースがあり、また自分がやりたいことと、家族が望むことは必ずしも一致しません。せかされると患者さんにとってはつらいものがあります。この時期の回復のペースは、とてもゆっくりです。周囲の人は、しばしば回復のペースを急ぎ、さらに先を期待しますが、ここで焦ることは避けなければなりません。いま出来ることを認め、患者さん自身が無理のないペースで進むのを見守ってあげることです。これは、本人においても同じで、決して焦らず、休息を十分にとっていけば、したいことや出来る事が少しずつ増えていきます。

③「回復期」の症状と対応
少しずつ、出来ることから始める

 消耗期に、十分に休むことができ、必要最低限のエネルギーが充電されると、患者さんの元気は少しずつ外に向かって出ていくようになります。つまり、何かを進んでやるための「エネルギーの余剰」が生まれてきます。この時期を「回復期」といいます。気持にゆとりが感じられるようになれば、かなり回復しているサインです。少しずつですが、患者さんの行動範囲が広がっていき、最初は自分の好きなことや負担が少ないことから初めていきます。取り組みやすいところから回復のきざしが現れます。ただし、一度にすべてのことが出来るようになるわけではありません。周囲の人は、焦らず変化を見守って、気長に待つ心構えが大切です。

テレビやラジオをつける
テレビをつけて観たり、ラジオを聞いたりしようという気持になります。最初はニュース番組など、単純な番組を多く観るようになります。

電話に出る
今まで、電話が鳴っても出られなかったのが、電話に応じられるようになり、親しい友人からの電話なら会話が出来るようになります。

ドラマや映画を観るようになる
ドラマや映画のように時間が長く、ストーリーが複雑であっても理解出来るようになり、楽しむことが出来るようになります。

家の外に出る
これまで家の中にこもりきりだったのが、庭に出たり、家の周りを歩いたり出来るようになります。

散歩や外出を楽しむ
外出して近くを散歩したり、近所のお店で買い物をしたりして、気晴らしができるゆとりが出てきます。

自分から電話をかける
これまで電話を受けるだけだったのが、自分から友人などにかけて、会話を楽しむようになります。

本や新聞を読むようになる
毎日の新聞に目を通したり、読書をしたりして、さまざまな情報に接することが出来るようになります。

会話の相手が増えていく
これまで家族と話をしなかったのが、近所の人と挨拶をかわしたり、お店の人と会話も出来るようになります。

やるべき事をやるようになる
回復が進むと、家事や手伝いなど、日常生活でやらなければならないことが出来るようになります。

社会復帰に向けては慎重に

 体力も戻り、神経の疲れも十分に休まると、いよいよ社会復帰に向けた意欲も出てきます。しかし、この時期は最も慎重にならなくてはなりません。なぜならば、消耗期を順調に経過して、回復の兆しが見えてきた矢先に、社会復帰を焦って一気に行動を起こしたら、かえってストレスを抱え込んでしまいます。ストレスを溜れば、神経が再び疲れてエネルギーが消失してしまいます。体の調子がよくなってくると、患者さんも家族も周囲の人も、早くもとの生活に戻りたい、会社に行って普通に仕事をしたい、友達と楽しく過ごしたいという気持がはやるのは自然な流れかもしれません。しかし、ここは我慢のしどころです。無意識に「頑張らなければ」という気持が、無理をしてしまう原因になりますので、「試し運転をしてみよう」「肩慣らしをしてみよう」というくらいの喜楽な気持で、徐々にもとのペースをつかんでいけば良いのです。そのポイントを次に3つほど挙げてみました。

①ポイント:1 〈休むペースを決める〉
 この時期に大切なことは、普段の生活をしながら「休むこと」を心掛けることです。休むコツをつかめば、焦ることも気負うこともなくなります。社会復帰への方法は、最初は「活動・休み・休み・休み」で徐々に慣らしていき、それが安定してきたら「活動・活動・休み・休み」にしていき、最後に「活動・活動・活動・休み」で調整していって、以前と同じ状態にもどしていくのが理想的と言えます。

②ポイント:2 〈ペースをゆっくり徐々に戻していく〉
 いきなりすぐに元の状態にもどすことは、避けねばなりません。ゆっくり、徐々に戻していくことが、回復への早道です。社会活動しながら、疲れが溜っていなか、気持が焦っていないか、チェックしながら「活動」と「休み」をうまく組み合わせて、時間をかけてペースをつくっていきます。  

③ポイント:3 〈簡単な作業から復帰する〉
 会社に復帰した時に、出来れば職場の了解を得て、少し負担の少ない仕事に変えてもらうと良いでしょう。仕事に戻ったばかりは、気持が張っているため、疲れに気付きにくいものです。体調はどうか、無理していなかセルフチェックしながら徐々に体を慣らしていきます。家族もまた、本人が会社から帰ってきた際は、「大丈夫?」「疲れていない?」など、あまり様子を探るような言葉は投げかけず、「今日は楽しかった?」「お疲れさま」といった声かけをした方が、本人も気が楽になります。


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