摂食障害 精神療法

支持的精神療法

 摂食障害に対して行われている支持的精神療法は、治療初期においては、患者さんの食生活や体重に対する考え方、大食のきっかけや大食時の気分、日常生活や親との関係などを話題にしながら、病気について教育していくのが中心となります。摂食障害は自然に治癒するということはないので、治そうとしない限り、心身の症状や合併症は一生涯続くことになることを、患者さんに説明しておく必要があります。患者さんが、この病気についての正しい知識と理解を得て、治そうという動機が強化されれば、その段階で体重(体力)と心の問題を切り離していきます。体力については、日常生活に支障をきたさない程度の体力を得ることに目標をおいて、食事指導をしていきます。この経過中に、患者さんの心の中では「治そうという健康な自分」と「このままでいいという不健康な自分」とが葛藤するようになります。ここで治療者は、患者さんの健康な部分を支持し、不健康な部分には共感しながら、健康な部分が優位になるように支援していきます。


 良好な治療関係が生まれると、これまで患者さんの心の中にうっ積していた感情や欲求が吐露されるようになります。その言葉にひとつひとつ耳を傾け、患者さんの苦しみに対して、思いやりと共感を示します。しかし心の問題の解決には時間がかかるため、まず先に体重を増やして体力をつけて、次に心の問題に取り組んでいこうと、繰り返して説明します。そして、体重が増加して食行動が正常化してきたら、この病気の発症の契機となった心の問題に入っていきます。日常生活での悩みや苦しみや葛藤、人間関係などからくるストレス、将来に対する不安などについて話してもらい、人に語ることによって、問題を明確化していきます。そして、その心の問題を回避しようとして向けられたのが、摂食行動異常という不適切な解決策であることを理解してもらいます。つまり、心の問題を体重の問題にすり替えないようにすることを納得してもらうのです。


 患者さんの多くは、小さい頃から親の願望や希望を受け止めて、それを叶えようという形で生きてきています。「良い子」「手のかからない子ども」として育ってきており、表向きはしっかりしているように見えても、自立性に欠け、いつも自己不全に苛まれ、少しのことで無能感に陥り、自尊心が傷つきやすくなっています。従って、思春期や青年期の発達過程で、自我同一性を確立して自立しようとしたとき、不安や恐怖に直面して挫折してしまうことになります。そこから立ち上がろうとしても容易に立ち上がれないため、治療者は、患者さん自身が仮の目標を設定して、試行錯誤を繰り返しながら、今まで見失ってきた自分を取り戻そうとしている行為に対し、励まし、助言し、共感し、患者さんの心の成長を見守っていくことが治療の肝要となります。


対人関係療法

 この治療法は、もともとうつ病の外来患者さんの短期精神療法として開発された療法で、最近ではうつ病以外の障害や、摂食障害患者さんにおいても有効性が実証され、認知行動療法と並んで用いられています。この精神療法は、自分と親、配偶者、恋人など大切な他者との対人関係に焦点をあて、このあり方を変えていこうとするものです。治療は3期に分けて行われ、第1期は1週1回を2週間継続し、摂食障害を発症してからの対人関係の分析にあてられます。第2期は、2週1回を4週間継続し、現在問題となっている対人関係の歪みに直面し、これを快適な対人関係に変えていきます。第3期は、2週に1回を12~16週間で良好な対人関係を持続させて、将来起こりうる対人関係上の問題への対処法となっています。


 この精神療法の特徴は、認知行動療法で扱う摂食行動異常や、体重や体型に関する歪んだ認知については、一切ふれません。治療終了6年後まで追った研究報告によると、治療終了時点では、大食症状がなくなった患者さんはそれほど多くはありませんでしたが、そのあとの日常生活の中で効果が顕著に現れました。


家族精神療法

 摂食障害を、患者さんだけではなくて家族全体の問題として考え、各人がどのように影響を与えているかを明らかにしながら、患者さんをサポートしていく治療法です。そのために、家族の個人の面談を行ったり、家族全員の面談も行います。治療者は中立の立場で、それぞれの言い分を聞き、問題点を整理しながら、これから先どうすればよいのか、というビジョンを示しながら、積極的に家族に介入します。家族精神療法にはいろいろなやり方がありますが、まず家族が摂食障害とはどんな病気なのかを理解し、それに対する具体的なサポートの仕方を学びます。また、家族のあり方を振り返る貴重な機会となり、患者さんに対する対処の仕方が変わってくることで、患者さんの状態は非常に安定します。また、親も一人で悩んでいるのではなくて、家族全体で治療に参加できるために安心感が得られます。


 この療法は、もともと心身症における家族の交流パターンが最初にあって、その交流パターンが神経性無食欲症の患者さんの家族にもみられることから、家族全体に対して治療的介入を行い、家族の交流システムを健全化することが神経性無食欲症の治療につながるものと考え、導入されたものです。では、機能不全的な家族の交流パターンとはどういうものか、少し説明を加えます。


◆絡み合い

家族同士の交流が極端に緊密で、過剰なまでの一体感、何でも分かち合うという感覚は、家族間のプライバシーの欠如を意味します。家族員が互いに考えや感情に容易に立ち入ってしまうため、個人としての立場が弱くなり、自立性がなくなります。親子間の一体感は、親が子どもの領域に干渉し、子どもが親のことに口出しするといった状態になります。したがって親は、親と子どもの境界線を明確にして、お互いの自主性を尊重して行動するように促します。


◆過保護

 家族が、養育と保護に強い関心を示しているため、過保護の親は子どもの自立性や能力の芽を摘み取り、家庭外の興味や活動の発展を妨げる結果となります。失敗や挫折から、自らの力で立ち上がることが、自立性を育てるうえで重要であることを繰り返して説明します。親は、子どもが試行錯誤しながら成長していく姿を、温かく見守っていく姿勢が必要です。


◆硬直性

 硬直性とは、現状維持に固執して変化に対応できない状況をいいます。子どもが思春期になって自己主張をしようとしたとき、今までのパターンに固執して、自立性を抑圧するものです。子どもは親から離れて生活したいと希望しても、親はそれを黙殺して、その話題に触れることさえ許さないのです。この場合、親は子どもの希望や意見を聞いてあげて、なぜそうしたいのか、なぜそれを許さないのか、について十分に話し合い、新しい生活や生き方に対して前向きに取り組むことが重要となります。


◆葛藤回避

 自立性がなくなると、やがて家族の葛藤もなくなり、意見の対立も避け、家族に問題が生じることを否定するようになります。調和と合意を大切にするあまり、お互いに違う意見を出し合って、十分に話し合うことが非常に少なくなり、問題は解決しないまま残ってしまうことになります。例えば、夫婦間が上手くいっていないのに、そのことを話し合わず、上手くいっているように親は振る舞うのです。そして夫婦間の葛藤が、病気の子どもをめぐる親同士の争いの問題にかたちを変えたりすることがあります。これは、夫婦間の問題と、子どもの問題を混同しないように、お互いに話し合うことが大切です。


◆両親による子どもの巻き込み

 夫婦間の問題に、子どもが一方の親の味方をさせられたり、父親と母親の仲裁の役割をしたり、また家族の内部を安定させたりするために、この状態が長く続くと子供の正常発達に支障を来します。このような構造をもっていると、夫婦はお互いの問題を隠してしまって、家族の問題は子どもにあるとすり替えている場合が多いです。これは親同士の問題と、子どもの問題を切り離して、はっきりと区別して、問題のすり替えを起こさないようにすることが必要です。


集団精神療法

 摂食障害の患者さんや家族に対して、集団精神療法が試みられ、その有効性が認められています。この治療法は、支持的精神療法、行動療法や認知行動療法を補助するものです。方法は、同じ悩みをもつ患者さん同士(10人以内)が集まって、一人ひとりが皆の前で自分の体験や話したいことを語り、その後自由に討論するといった形式で行われます。もちろん、話したくなければパスしてもよく、スタッフはあまり介入しないようにします。ただしルールとして、他の患者さんが話している時はよく傾聴すること、他の患者さんの話を批判したりしない、他の患者さんの秘密を守ること、を厳守します。


 この治療法は、その家族や患者さんが、自分だけがこのような病気で苦しんでいると思っている孤独感、絶望感、無力感、自己嫌悪感を軽減することができます。他の患者さんの考え、思い、行動を見聞きすることで、自己洞察を深めると同時に、自分の行動を変える契機となるのです。この集団精神療法は、共感できる仲間の獲得であり、対人関係面の改善にも効果をもたらします。集団精神療法の目的をまとめると、次の4点になります。


  • 1. 同じ摂食障害の悩みを持つ患者さん同士で、精神的サポートやアドバイスを与え合い、相互に受容することで、抑うつ感、孤独感、無力感、絶望感、自己嫌悪感などを軽減する。
  • 2. 患者さんが、家族(主には母親)に向けている両価的感情(愛憎=同一人物に対して、全く正反対の気持ちを同時に抱くこと)を軽減して、両親からの精神的自立を図る。
  • 3. 摂食障害の発症要因となる性格傾向や、痩せ願望、成熟の拒否、身体像の歪み、認知の歪みなどの心理的メカニズムを患者さん自身が洞察する。
  • 4. このような自己洞察のもとで、食行動、対人関係やライフスタイルの偏りを正していく。 

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