摂食障害 認知行動療法

認知行動療法

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 摂食障害の患者さんは、自己を低く評価するために、体型や体重については過剰な関心や歪んだ信念や価値観(認知の歪み)をもっています。これが痩せ願望や肥満恐怖になり、その結果極端なダイエットや自己誘発性嘔吐、下剤や利尿剤の乱用にいたっているという仮説に基づいています。そして、大食は極端な食事制限の反動として生じていると考えています。したがって、摂食行動異常を改善するには、体型や体重に関する過剰な関心や歪んだ信念や価値観を修正することによって可能であると考えます。この治療法は、患者さんとの対話形式で進め、過去を問わずに、現在およびこれからの患者さんの認知の変化や行動の変化に焦点があてられることになります。


 治療の目標は、当然、摂食行動の正常化と体型や体重に関する歪んだ信念や価値観(認知の歪み)を改めることにあります。この目標を達成させるために、通常、次の3段階で治療が行われます。第1段階は、大食や嘔吐などの摂食行動異常を正常化させることを目標に、1週間に1回の頻度で、4週間にわたって行われます。第2段階は、体型や体重に関する歪んだ信念や価値観(認知の歪み)を改めることを目標にして、2週間に1回の頻度で、8週間行われます。第3段階は、これらを持続し強化することを目標に、3週間に1回を6週間にわたって行います。この治療を成功させるためには、患者さんと治療者が共通の目的に向かって心を一つにする必要があります。医師は、患者さんが自分を変えようとしている努力の過程を見守りながら、常に情報を提供し提案し支持し、患者さんがくじけそうになったら激励して、勇気づけていくことが大切です。そのためには、患者さんと医師の間の良好な信頼関係が必須となります。


◆手順その1(第1段階)

 第1段階の治療目標は、良好な治療関係をつくり、大食や自己誘発性嘔吐、下剤の乱用などの摂食行動異常を改善するのが中心で、1週間に1回の頻度で4週間に渡って行うことになっています。ただし、これは原則であって、各患者さんの状態や実施者の状況に合わせて柔軟に対応する必要があります。第1段階の治療目標を具体的に挙げると、次のような項目になります。 

  • 1. 患者さんと治療者の間に良好な関係をつくる。
  • 2. 大食・嘔吐・下剤乱用を中止する。
  • 3. 規則正しい食生活を実施する。
  • 4. 大食や嘔吐、下剤乱用による身体合併症について教える。
  • 5. 体重調節のための嘔吐や下剤乱用は根本的な解決ではないことを教える。
  • 6. 1週間に1回の体重測定を励行する。
  • 7. 大食や嘔吐の意味を吟味する。
  • 8. 家族や友達の協力を得る。 

 さて、1回目の面接では、病歴を聞き、症状や徴候を明らかにし、EAT、EDI、SRSEDなどを使って評価し、さらに病気についても説明して、認知行動療法についても患者さんが理解できるように説明します。治療の結果、大食が長い期間なくなり、ストレスがある状況下で大食が生じる可能性があっても、翌日から正常な食生活ができれば、「治った状態」であることを理解してもらいます。治療形式は、患者さんと対話をしながら、具体的な問題をとりあげ、達成可能な課題を面接終了時に提案します。例えば、週に1回大食をしない日をつくろうと決めて、患者さんがその課題を達成したら、褒めてあげて激励します。認知行動療法は、患者さんが主体的に治療に参加し、努力した分は必ず成果が得られ、それによって病気も必ずよくなることを保証してあげることが重要です。


 また、食生活日誌を渡して、これに毎日自分の食行動を記録してもらいます。記録することで、大食に陥りやすい状況が把握でき、これが克服への第一歩となります。体重測定も週1回行うことを約束します。気になって1日に何回も測ったり、逆に測定を拒否したりする患者さんがいます。体重測定時の態度で体重に対する過剰な関心や肥満恐怖の程度が推定できます。そして、2回目の面接では、食生活日誌を見ながら一緒に検討し、なぜ昼食を摂らなかったのか、大食が生じた時の状況などについて詳しく話してもらいます。この食生活日誌は、食事の直後に書かれたものであるか確認し、直後のものであれば褒めてあげます。


 次に、3~5回目の面接では、摂食をコントロールできるための行動戦略を提案します。まず、前回の面接時に出された課題がどこまで達成できたかを、日誌を見ながら検討します。それが1週間に1回でも達成できれば賞賛してあげます。この積み重ねが、患者さんの自信と自尊心を高めることになります。そして、次の達成可能な課題を検討して挑戦してもらいます。面接終了時には次の情報を伝えておきます。


  • 1. 目標体重は、標準体重の85%以上とし、極端なダイエットをしなくても維持できる範囲にします。しかし、実際には、規則正しい食生活と大食がある程度コントロールできるまで、維持する体重範囲は決めないでおくのが良いでしょう。ダイエット、飢餓や低体重が大食の引き金になることを伝えておきます。
  • 2. 大食や排出行動による身体合併症についてはよく説明し、理解してもらうようにします。
  • 3. 排出行動をしても、体重調整にはならないことを伝えます。嘔吐、下剤または利尿剤の使用は、体水分を一時的に失うだけで脂肪を減らすことはできず、食べた物がすべて排出するわけではないことを説明します。

《日常の食生活での注意》

  • 1. 1日3回の食事をきちんと摂る。(穀物やパンなど、炭水化物を必ず少量含めること)
  • 2. お腹がすいた状態で買い物に行かない。
  • 3. 大食しそうな食物を、日頃から家に置かない、また買わない。
  • 4. 食事は1人で食べないようにする。(1人で部屋に閉じこもって食べないようにする)
  • 5. 1回の食事に必要な量だけ料理する。
  • 6. 料理を小さな皿に盛り、決して大盛りにしない。
  • 7. 食事の前(10分前)に野菜ジュース1~2杯をゆっくり飲み、すぐに満腹感が得られるようにする。
  • 8. 食事のとき、ゆっくりとよく噛み(20回以上)、30分以上ゆっくり時間をかけて食事を摂る。
  • 9. 食事の後、嘔吐をしないようにする。下剤を使わないようにする。
  • 10. 体重を毎日量らないようにする。
  • 11. 大食を防ぐため、週末と夜の計画をたてる。

《大食しそうになったときの対策》

  • 1. 何か酸っぱい物を口に入れる。
  • 2. フルーツを、ゆっくり時間をかけて食べる。
  • 3. 製氷皿にオレンジジュースなどを凍らせておき、それをゆっくりなめる。
  • 4. 歯をゆっくり磨く。
  • 5. 角氷をなめる。
  • 6. 10分間タイマーをセットし、それが切れたとき、まだ大食したいかどうか自分に聞いてみる。
  • 7. シュガーレスのチューイングガムを噛む。
  • 8. 20分以上の運動や散歩(有酸素運動)をする。
  • 9. 指の爪を磨く。
  • 10. 新聞や雑誌を読む。
  • 11. 好きなテレビやビデオを見る。
  • 12. 友達に10分間だけ電話をする。
  • 13. 音楽を聞く。
  • 14. 温かいシャワーを浴びるか、風呂に入る。
  • 15. 手紙や日記を書く。

 このほか食生活で注意することは、水分摂取を減らしたり(嘔吐するために大量の水を飲む)、食後すぐにトイレや洗面所に行かないようにします。また手元にある下剤や利尿剤を捨てさせることも大事です。


 次の6~8回目の面接でも食生活日誌をチェックし、患者さんの毎日の摂食行動における課題や達成具合を検討します。出来ていないことがあれば、新しい戦略をたて、できるだけ時間単位で改めるようにします。達成したら褒めてあげ、自分で自分を褒めるようにすると、自信につながります。大食の回数が減ってきたら、大食のプラス面とマイナス面を明らかにしてあげます。大食がうまく防げたときは、日誌に記録するようにします。また、患者さんとその家族が同時に面接を受けることも必要です。これは、患者さんの秘密を明らかにすることで、罪の意識の減少にもなり、治療内容をオープンにするうえでも大事なことです。家族の協力の意味は、患者さんが改善に向かって努力するための環境づくりにあります。あまり家族を巻き込まないようにし、あくまでも患者自身が変わる事が大切です。


◆手順その2(第2段階)

第2段階の治療は、2週間に1回で16週間にわたって実施されますが、これも原則であって、各患者さんの状態や実施者の状況に合わせて変更する必要があります。治療目標は認知の修正が中心になり、次の6項目になります。

  • 1. 規則正しい食生活の維持。
  • 2. 摂食制限の減少。
  • 3. 大食を生じさせるような状況の把握と、そのような状況の減少と対処。
  • 4. 摂食行動異常を維持させている思考、信念、価値観の同定と改善。
  • 5. 身体像の歪み、身体像の蔑視の改善。
  • 6. 治療終結への準備。

 9回目の面接では、第2段階の治療に入るかどうかを見極めます。通院回数を減らすと、摂食行動が少し悪化する患者さんもいます。この場合は第1段階の治療を継続し、治療目標が達成できてから第2段階に入ります。そして10~14回目の面接では、規則正しい食生活が維持できているか、摂食制限の回数が減っているかを検討します。摂食制限をするとその反動で大食が生じ、さらに摂食制限をするといった悪循環になることを、繰り返し説明します。摂食制限の方法には、1日の食事の回数を減らすやり方と、太ると考えられる食物を選択的に食べない方法のほか、カロリーが不明の場合や組成が明らかでないと食べない、家でしか食べない、といった摂食行動を中止して、さまざまな状況下でいろいろな食事を自由に食べることが治療上の大きな目標になります。


 次に問題解決訓練を行います。これは、大食したくなるような状況や契機を明らかにし、これに対処する技能を高めるためのものです。訓練内容は次のような項目です。


  • 1. 大食に導いた出来事を、具体的にあげなさい。(例えば、母親と口論になった、など)
  • 2. 問題の解決法をできるだけ多くあげなさい。(例えば、なぜ口論になったのか? 母親が悪いのか? 自分の考えを主張できたのか? 話題を変えられなかったのか、など)
  • 3. それぞれの問題について、その実行可能性、現実性という点で検討しなさい。
  • 4. いくつかの解決法のなかから最上の方法を選びなさい。
  • 5. これを実行する際に必要な手順を検討し、心の中で訓練しなさい。
  • 6. それを実行しなさい。
  • 7. 実行した全経過を10点で評価しなさい。

 これを繰り返し練習する事で技能が高められ、困難な問題に直面したときに問題が解決できるようになります。もうひとつ大事なことは、認知を再構成することです。体型や体重に関する歪んだ信念や価値観(肥満恐怖、痩せ願望、痩せている事は美しいことなど)、また摂食障害を持続させている思考・信念・信条(完全主義的傾向、2分割思考など)を明らかにして、歪んだ自動思考を吟味し、これを変えていきます。例えば、太っているというのは、体重が重いことなのか、自分から見て太っているのか、他人が見て太っていることなのか、明らかにしていきます。また、自分の身体の一部や全体に対して過大評価する身体像の障害も変えるようにしますが、直接変えるのは難しいので、信頼している人の評価をたえず信じさせるようにして変えていきます。


 15~16回目の面接では、前回の時の面接内容の継続ですが、治療が終わりに近づいていることも伝えます。これについて患者さんが感じていることを話し合い、喜ぶ患者さん、不安に思う患者さんもいますが、これは独り立ちするためのプロセスであることを説きます。


◆手順その3(第3段階)

 第3段階の治療は、2週間に1回、6週間にわたって実施され、治療目標は今までの治療によって得られた改善の維持と、将来再発する可能性に対処するための準備をします。17~19回目の面接では、改善の維持が中心です。これまで学んだ技能を患者さんに繰り返し実施してもらいます。規則正しい食習慣を続け、大食や嘔吐をしない状態を維持させ、問題解決法や認知再構成法を自ら実行してもらいます。空腹感や満腹感を回復し、食行動をコントロールして、決してダイエットをしない状態になれば終わりになります。


 将来、ストレス下で大食が再発しても、今まで学んできた技能を十分に使って、翌日から正常な食生活に戻れば、再発ではないと説明します。再発とは、連続して大食して嘔吐する生活の事です。なぜ大食が生じ、いかに防げたかを考えさせることが、将来の再発防止につながります。


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