摂食障害 主な一般的症状(行動異常)

行動異常

 行動面に現れる典型的な異常は、摂食行動異常、排出行動異常、活動性異常、問題行動異常などがあります。神経性無食欲症と神経性大食症を比較してみると、多くのところで共通していますが、違うところもあります。まとめると次のようになります。


《神経性無食欲症》
  • ・摂食行動異常…食思不振、拒食、摂食制限、隠れ食い、盗み食い、過食など。
  • ・排泄行動異常…嘔吐、下剤の乱用、利尿剤の乱用など。
  • ・活動性異常…過活動。
  • ・問題行動異常…自傷行為、自殺企図、万引き、薬物乱用など。

《神経性大食症》
  • ・摂食行動異常…過食、だらだら食い、絶食、摂食制限、隠れ食い、盗み食いなど。
  • ・排泄行動異常…嘔吐、下剤の乱用、利尿剤の乱用など。
  • ・活動性異常…活動低下。
  • ・問題行動異常…自傷行為、自殺企図、万引き、薬物乱用など。

摂食行動異常

《不食や摂食制限》
 神経性無食欲症の患者さんは、食思不振、拒食、摂食制限、隠れ食い、盗み食い、過食や嘔吐など、食べることに関して異常な行動を示します。食思不振は、主に家庭や学校や職場などにおける対人関係の悩みやストレスなどによって生じます。大部分の患者さんで食欲が低下しますが、中にはストレスを経験すると、より食欲が旺盛になる場合もあります。  拒食は、母親に対する反抗やまた家族の関心や注目を集めたり、優しさや愛情を一身に受けるために行う異常行動です。摂取制限(ダイエット)は、美容上や健康上、または運動選手が競技能力の向上を目指して行われ、摂食の制限の対象は、カロリーが高いと思い込んでいるご飯や脂肪分が多い肉類を避けて、野菜やコンニャクなどカロリーが低い食物を好んで食べます。摂取制限を始めると、食事の時にぐずぐずしてすぐに食卓に着こうとしなかったり、反抗的になったり、緊張したりします。また、食事の量が多いと文句を言ったり、食べるときに食物を小さく刻みだしたり、Aの食品を食べなくてよいのならBの食品を食べる、といった駆け引きをするような行動が見られます。  患者さんの多くは、摂取制限、食思不振、拒食などによって食べる量が持続的に少なくなってくると、空腹感を感じなくなり、完全に食欲がなくなります。そして少しでも食べると、腹部に不快感や膨満感、腹痛、悪心、吐き気などを訴えるようになり、さらに摂食量が減ります。こうなると、食欲が起こらないので摂取制限は楽にできるようになると同時に、体重も急速に低下して痩せていきます。しかし、食欲がなくても一度食べだすと今度はそのリバウンドによって、制御できないほどの大食状態になり、不快感や肥満を防ぐために嘔吐するようになります。

《大食》
 神経性大食症の主な症状は大食(binge eating)です。Bingeとは、「飲み騒ぎ」「酒盛り」という意味で、大騒ぎして大量の食物をむちゃ食いすることをいいます。日本では、一般に「過食」「多食」「むちゃ食い」「気晴らし食い」などと訳されています。大食そのものは、一般の青年期女性の間ではよく見られますが、摂食障害の基準を満たすのはそのうちの一部です。DSM-Ⅳの診断基準では、①一定の時間内(例えば2時間以内)に他の大部分の人が食べる量より明らかに大量の食物を摂取する、②食べている間、摂食を自制できない感じを伴う場合(例えば、食べるのを途中で止められない感じや、何をどれだけ食べるかをコントロールできない感じ)と定義されています。  大食する時間帯で一番多いのは、下校または退社して、帰宅後の夕食時から床につくまでの間に行われます。この他、朝食後または昼食後に行われることもあり、また休日や欠勤日に1日中断続的にだらだらと大食する患者さんもいます。まれに、夜中に覚醒してから大食する人もいます。では、大食の持続時間と頻度についてはどうかというと、自記式の調査では、持続時間は平均1.2時間(15分~8時間)、頻度は1週間で平均12回と報告されています。大食する場所は、家族に見つからないように自分で食物を大量に買い込んできて、自室に閉じこもって食べる場合がほとんどです。誰もいない台所で、冷蔵庫の食物をかたっぱしから食べたり、中には家族の前で平気に食べたり、またわざと当てつけに大食するケースもあります。食べ方も、むさぼり食いをしたり、食べ物を口の中に流し込むような食べ方をします。  一方、大食時の摂取成分の内容と量については、神経性無食欲症の患者さんが炭水化物や脂肪の多い食物を減らして総カロリーを少なくしているのに対し、神経性大食症の患者さんは、摂取量が多いだけではなく、炭水化物を50%、脂肪を40%、蛋白質を10%と、健常者と変わらない摂取内容となっています。ただ、総摂取カロリーが多い患者さんの場合は、大食時には炭水化物や脂肪含量の多い甘みのあるデザートやスナック菓子を多量に食べているのに対し、総摂取カロリーが少ない人においては、相対的に脂肪よりも炭水化物を含む食品を多く食べていることが分かっています。神経性大食症の患者さんが食べる1回の総摂取カロリーは、平均して1,400~4,800kcalと報告されています。  この他、神経性大食症の患者さんに見られる行為として、大食と嘔吐の代理行動(噛んで吐き出す:チューイング)があります。これは食物を噛んではそのエキスだけを吸い、嚥下しないで残渣を吐き出す行動で、噛んだ残りかすはナイロン袋などに吐き出して捨てる行為です。食物の量はそれほど多くない場合もあれば、冷蔵庫を空っぽにするほどの場合もあります。また、幼児や子どもの場合には反芻(はんすう)行動がまれに見られます。  食行動の異常について、厚生労働省の診断基準では「食べないばかりでなく、経過中には大食になることが多い。大食には、しばしば自己誘発性嘔吐や下剤・利尿剤乱用を伴う。その他、食物の貯蔵、盗食などがみられる。また、過度に活動する傾向を伴うことが多い」としています。

排出行動異常

 神経性大食症の人や大食を伴う神経性無食欲症の人は、大食による体重増加を防ぐために、「自己誘発性嘔吐」や「下剤乱用」によって食べたものを体外に排出する行動がみられます。また稀に「利尿剤乱用」で水分を排出して体重増加を防ぐ行動もみられます。これらを浄化行動といいます。


 まず、自己誘発性嘔吐です。これは大食したあと気分が悪くなって嘔吐したのがきっかけで習慣化したり、初めから大食による体重増加を防ぐために行うこともあります。多くの人は、大食を始めた時期かその後に嘔吐するようになりますが、中には大食をする前から体重調節の手段として嘔吐する人もいます。自己誘発性嘔吐は、最初は人差し指や中指、歯ブラシやスプーンの柄、割り箸などを喉の奥に入れ、嚥下反射を誘発させて嘔吐します。慣れてくると、指や歯ブラシなどを使わなくても、嘔吐できる人もいます。また長期間にわたり指を使って嘔吐していると、指の背部のつけ根部に“吐きダコ”ができます。吐きやすくするために、大量の水やお茶、清涼飲料水を飲んだり、吐きやすい食物を多く食べたりします。中には嘔吐することが目的となって、嘔吐するために大食する患者さんが認められ、嘔吐である種の解放感を感じます。


 次に下剤乱用です。神経性無食欲症の場合、頑固な便秘のために下剤を使っている人もいますが、食べたものを早く体内から出さないと体重が増えると考えて下剤を使用し、次第に量が増えて乱用している患者さんもいます。神経性大食症の人の場合は、大食したあと体重が増加しないように、早く食べた物を体内から取り除くために下剤を使用しています。下剤の使用量は、1日数錠から最高200錠以上も服用するケースや、漢方薬の下剤でも常用量をはるかに超えた使用量になる場合があります。また、毎日浣腸液を使用する人もいます。


 下剤を使用すると、数時間後に急激な水溶性の下痢が起こり、水分を多く排出しますが、このとき体重減少や痩せた感じを経験し、余分なカロリーを取り除いたと思って安心します。しかし、実際には体内の水分が減少するだけで、脂肪の量が減るわけではありません。下剤を止めると、顔や下肢にむくみが起きたりします。便秘のために下剤を止められなくなり、耐性ができてさらに下剤の量が増え悪循環に陥ります。


 次に利尿剤乱用です。現在、利尿剤を薬局で入手するのは不可能であるために、使っている人は少ないのですが、中には医師から処方された利尿剤を密かに乱用している人や、インターネットを通じて個人輸入により利尿剤を入手して乱用している人もいます。大食後に服用し、排尿することで下剤乱用と同じ効果を実感します。これも使用を止めると、むくんだり体重が増加したりして耐性ができ、さらに利尿剤の使用量が増えていくという悪循環を招くことになります。


活動性異常

 神経性無食欲症の患者さんの場合は、活動性が高まり、30kg以下の低体重にも関わらず、じっとしていられず絶えず何かをしており、また過度の運動をして体重増加を防いでいる患者さんもいます。一方、神経性大食症の患者さんは逆に活動性が低下していて、むしろ無気力で、抑うつ状態にあります。


問題行動異常

 摂食障害における問題行動には、次のようなものがあります。「自傷行為」「自殺企図」「万引き」「退行」「不登校」「アルコール・薬物依存症」「虚言」「性的逸脱行為」「家庭内暴力」などです。

①自傷行為
自傷行為で最も多いのが、手首を鋭利な刃物で切りつけるリストカット(または上腕を切るアームカット)症候群です。本人はその前後のことはよく覚えていない場合があります。中には前腕や大腿部に無数の切り傷をつける人もいます。鋭利なもので切りつけた時に、イライラや緊張感が一時的に消失した感じに酔い、繰り返す人もいます。
②自殺企図
 薬物によるものが最も多く、抗うつ剤を投与されている場合は注意を要します。抑うつ状態の患者さんの場合、最近悩みはじめた事柄であっても、自分はずっと以前から悩み続けており、その悩みは生涯続くと錯覚し、絶望的な気分になります。患者さんは迷路から抜け出せない状態です。うつ状態は特に大食と密接にかかわっているため、抑うつ状態になっている患者さんは、なるべく快適に過ごせるように措置を講じる必要があります。
③万引き
 万引きは、患者さんの約3分の1に見られます。万引きして捕まり、親の右往左往する姿を見るのが快感だと思っています。摂食障害は、ある意味で親に対する反抗の現われと考えられますので、万引きという問題行動は容易に納得できます。従って、スーパーなどで万引きする時はわざと見つかるように行い、捕まったら悪びれることなく罪を認めます。食べ物を買ってもどうせ吐くのだからもったいないと考えたり、大食で親に経済的負担をかけたくない、などという理由で万引きする患者さんもいます。また、万引きした食品を自分の部屋に山のように溜め込み、それを見た家族が困惑する場合もあります。
④退行
 つまり“幼児がえり”のことで、子どもっぽくなることです。話し方や洋服などが幼くなり、母親にべったり甘えたり、幼児のようにだだをこねたりします。これは、幼児に戻ることによって両親や周りの人たちの愛を得ようとする反応です。ストレスが大きくなって我慢できなくなったので、保護して欲しいという気持ちの現れです。家族の人たちは、最初は驚いて心配しますが、そのうちにじれったくなって頭ごなしに叱ったりします。すると、患者さんはさらに退行して、もっと注目を得ようとするようになり、悪循環に陥ります。患者さんに退行が見られたら、周りの人たちは出来るだけ受容的に接して、安心させることが大事です。
⑤不登校
 不登校の第一の原因は“いい子”でいることに疲れたということです。周りからの期待を一身に背負って学校に行くことに耐えられなくなったという気持ちが、不登校という行動に現れたのです。自分が何をやっているか分からなくなった時、学校での人間関係が重荷になってしまうのです。サラリーマンの出社拒否もこの不登校と同じです。そして第二の原因は栄養障害で、あまり痩せると学校や会社に行けなくなるのです。
⑥アルコール・薬物依存症
 アルコールや薬物に依存するようになる人が、アルコールや薬物の代わりに身近で手に入りやすい食べ物に依存し、大食を繰り返しているのが神経性大食症の状態であると言えます。また、患者さん自身ではなく、その家族にアルコール依存症が多く見られることも指摘されています。
⑦虚言
 ウソをつくようになります。これは周りに迷惑をかけないようにしようとする時に見られます。ひとつのウソをつくと、そのつじつまを合わせるために次から次へとウソをつかなければならなくなります。このような時、患者さんはかなり追い詰められて悩んでいます。ウソをつかなくてもいいような人間関係をつくることが大事です。たとえウソをついていることが分かっても、あまり責めないようにすることが肝要です。
⑧性的逸脱行為
 摂食障害の女性には、女性であることを拒否するという傾向がある一方で、男性とみだらな関係(例えば複数の男性との肉体関係や援助交際など)に走ったりすることがあります。この行為は、自分の体を代償にして男性(誰でもいい)の注目を得ようという心の現れです。
⑨家庭内暴力
 衝動が自分に向けられたときは自殺企図となりますが、家族など外に向けられときは家庭内暴力となります。男性はストレスに対する処理を家庭内暴力で、女性は摂食障害で行うとされてきましたが、女性の患者さんでは摂食障害と供に家庭内暴力が同時に現れている例は少なくありません。

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